放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第231回

第231回 – 2016年3月

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案の審理、出家詐欺報道事案の対応報告…など

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案を審理、また出家詐欺報道事案でNHKから提出された対応報告を了承した。

議事の詳細

日時
2016年3月15日(火)午後4時~8時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
ヒアリングを行った前回の委員会後に第1回起草委員会が開かれ、委員会決定文を起草した。今月の委員会では、担当委員から決定文案の説明を受けた後、委員会の判断の結論を取りまとめ、次回委員会でさらに決定文案の審理を続けることになった。

2.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
前回委員会後、申立人から「反論書」が、被申立人から「再答弁書」が提出された。今回の委員会では、事務局がこれまでの双方の主張を取りまとめた資料を基に説明、論点を整理するため起草委員が集まって協議することとなった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では論点・質問項目案に沿って各委員が意見を述べた。次回委員会ではさらに審理を進める予定。

4.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の対応報告

2015年12月11日に通知・公表された本件「委員会決定」に対し、NHKから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年3月10日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。
また、3月3日、NHKにおいて本決定に関して坂井委員長と担当の奥委員長代行、二関委員が出席して研修会が開かれたことを事務局が報告した。当日は約150人が出席し、2時間にわたって質疑応答や意見交換が行われた。

5.その他

  • 2016年度「放送人権委員会」活動計画(案)が事務局から提示され、了承された。
  • 林香里委員が3月末で退任することになった。林委員は4年間委員を務めたが、4月から大学のサバティカル研修のため渡米することになり、任期途中の退任となった。
  • 後任として4月から委員に就任する白波瀬佐和子氏(東京大学大学院人文社会系研究科教授)が専務理事から紹介され、経歴等の説明があった。
  • 次回委員会は4月19日に開かれる。

以上