放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2019年11月21日

富山地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と富山県のテレビ・ラジオ局5社との意見交換会が、2019年11月21日、富山市内で開かれた。放送局出席者は5社24人、委員会からは鈴木嘉一委員長代行、岸本葉子委員、中野剛委員の3人が出席した。放送倫理検証委員会が富山で意見交換会を開くのは初めて。

意見交換会は2部構成で行われ、1部では放送倫理検証委員会が今年度に公表した2つの意見書を取り上げた。まず7月に公表した委員会決定第29号「日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの祭り企画に関する意見」について、中野委員が、「バラエティーなのだから笑いをつかむ場面を仕込むことはあるだろうが、仕込むからにはその過程を把握しておいてほしい」と、海外ロケであっても現地コーディネーターがどのような準備をしているか、制作者が理解して演出を施すことが必要だと話した。岸本委員は、意見書に書いた制作者と視聴者との了解について、「長寿番組であればあるほど、『マニュアルは日々腐る』と考えて、視聴者との了解の範囲を常に探ってほしい。今回は、仕込んだ祭りであるのに『年に一度の祭り』と紹介するなど、番組作りがルーティン化する中で制作者が怠慢になっていたのではないか」と指摘した。参加者からは「バラエティー番組の演出はどこまで許されるのか」という質問があり、鈴木委員長代行は「その基準を作るのはBPOではなく、制作者であるみなさんです」と答えた。

続いて10月に公表した委員会決定第30号「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」にテーマを移した。まず鈴木委員長代行が、視聴者からBPOに寄せられた1通のメールがきっかけで審議を始め意見書につながったもので、放送倫理検証委員会が広告と番組のあり方について取り上げたのは初めて、また持ち込み番組の考査については2件目だと、意見書の特徴を説明した。その上で「広告収入で成り立つ民放では、番組と広告が分かれているから視聴者の信頼につながっているのであり、この区別がはっきりしないと信頼を揺るがしかねない」と意見書に込めた思いを述べた。参加者からは、経営に直結する問題で、どうすればよかったのかといった質問が相次ぎ、鈴木委員長代行は2017年に日本民間放送連盟が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に触れながら、「この留意事項に書かれている『特定の企業・団体などから番組制作上、特別な協力を受けた場合には、その旨を番組内で明らかにしているか』という点を忘れないでほしい」と答えた。

続く2部は、参加各社が日頃直面している課題などについて意見を交わした。この中では事件や事故の報道で、関係者の氏名を実名で放送するか匿名にするかで迷った例や、教員の不祥事の際、学校名を出さないでほしいと言われた例などが紹介された。委員会側は、実名報道を原則にしながら、個々の事例に適した放送を各社が判断して放送することが大切だと指摘した。また情報番組の中で過疎地域を「人よりイノシシの方が多い村」と表現することの是非について問われたのに対して、中野委員は、視聴者意見も大切にしながら、第三者的視点で表現が適切か否かチェックすることが必要だと答えた。岸本委員は、1つのシーンを切り取って判断することは適当ではなく、番組全体としての視点が差別的でないか、また画面に表示される文字がビジュアル的におどろおどろしくないかなど、総合的に考えるべきだと述べた。

さらに参加各局から、働き方改革の中で若手の育成に工夫している例などが紹介された。意見交換会を通して中野委員は「きょうはこちらの意見を伝えられ、またみなさんの実情も聞けて良かった。テレビ・ラジオでしかできない放送があるので、ぜひ若手を育てて、心揺さぶられる番組を作ってほしい」と、また岸本委員は「放送倫理上どこまでが許されてどこからがダメなのかという『線』をみなさんが求めているのであれば、それは違う。きょうはこちらからの投げかけが多かったが、委員会が出す意見書を良く読んで、みなさんでぜひ工夫してほしい」と呼びかけた。鈴木委員長代行は「各社がこれまで放送した番組のライブラリーは『宝の山』なので、そうした優れた番組を若手に見せて育成してほしい」と締めくくった。

最後に、参加局を代表して北日本放送の水野清常務取締役が「重いテーマだったが、放送への信頼は視聴者との約束があって初めて成り立つと再認識できた。若手社員から『マニュアル』はありますかと聞かれることが多いが、やり方を自分で工夫することが大切で、それが放送の自由を守ることにつながると教えていきたい」と述べ、3時間を超える会議を終えた。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 今回の意見交換会で印象に残ったのは「了解」という言葉だった。視聴者と「了解」したと思っている件が、放送局側の勝手な「了解」になっていないか、チェック体制を整えておかなければならないと思った。

  • 放送と広告の関係という民放の課題を、各社も悩んでいると感じた。正直に視聴者と向き合い、「了解」事項を確認しながら制作していくことの大切さを実感した。

  • 各社が抱える課題についての議論では、どこまでが良くて、どこからが違反なのかについて、明確な基準や線引き、マニュアルは無く、それぞれの事案によって判断されるということが分かった。局側からすると判断基準が欲しくなるが、そんな単純なものではないと理解できた。

  • 放送局みずからが番組向上のために自主的な取り組みを行うことが重要で、BPOはその意見を聞く第三者機関だということが改めて理解できた。やはり基本は、局の自主・自律で、常にメディアとして感性と理性を研ぎ澄ませていく必要があると感じた。

以上