福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催
放送倫理検証委員会と福岡・佐賀地区テレビ・ラジオ各局との意見交換会が、2019年10月24日、福岡市で開催された。NHKと民放をあわせ放送局から80人が参加し、委員会からは神田安積委員長、高田昌幸委員、藤田真文委員の3人が出席した。
前半は、最近の委員会決定のうち、日本テレビ「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」および長野放送「働き方改革から始まる未来に関する意見」についての説明と質疑応答、後半は今年7月に福岡県内で起きた殺人事件の報道を主な議題として意見交換を行った。
まず「謎解き冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!2つの祭り企画に関する意見」について、神田委員長は「視聴者との間で互いに了解している約束に反したことが放送倫理違反であると判断した」と述べ、「この『約束』は現地のコーディネーターが主導したものであって、放送局はその点についての確認が不十分だった。このため『程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるを得ない』との表現になった」と背景を説明した。藤田委員は「『民放連放送基準』には、ニュースについて『事実に基づいて報道する』という基準がある。これはニュースだけでなく、情報を伝える番組の責務だ。わかりやすく伝える必要はあるが、最低限の事実は曲げてはいけないということであり、その点が放送基準に違反していると判断した」と指摘した。神田委員長は「放送倫理違反が生じた原因を追究し、確認することが再発防止につながる。自局のこととして受け止め、自主・自律的な対応ができるよう意見書を生かしてもらいたい」と述べた。
次に「働き方改革から始まる未来に関する意見」について、神田委員長より、委員会がこの番組を「広告と誤解される番組」と認定した理由についての説明があった。委員長は「持ち込み番組における考査が不十分であり、民放連の『番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項』が検討されなかったことなどの問題点が調査で浮かび上がった」と指摘した。その上で「放送基準の解釈や運用はBPOが決めるのではなく、また、意見書が出たからといって萎縮する必要はなく、むしろ『留意事項』を十分に検討し、自主的自律的に、広告と誤解されることがないよう番組を作っていただきたい」と強調した。
高田委員は「番組と広告の境目がどこにあるかということは、それぞれの番組をみて判断するしかない。公共性や視聴者にとって有益な情報となっているかという公益性に基づき、留意事項を参照して作られるべきだ」と述べた。
これに対し参加者からは「テレビの中でも営業に携わる人たちが、常々、放送法や放送基準、関連する規則などを強く意識しているかは疑問だ。考査担当者としては、それらに定められていることを守っていかないと最終的には政府に介入されることになるといっても、どこまで浸透するかは疑問だ。ただ現実は現実として、規則との折り合いをつけてぎりぎりの選択をせざるを得ない」との苦悩が表明された。これに対し神田委員長は「放送基準は抽象的であり、その解釈には幅があるが、放送事業者が自主・自律的に判断しているのであれば、私たちはできる限り尊重したい。今回の番組では、自主・自律的な判断に基づく考査がなされていなかった。番組が広告放送と誤解されることがあれば、自社だけではなく、民放全体の信頼にかかわると考えて向き合っていただきたい」と述べた。また高田委員は「制作と営業それぞれの担当者間で、本当にこれでよいのかという議論がきわめて重要だ。視聴者の信頼に応える番組を作るための社内議論ができにくいと感じるなら、議論を誘発するような仕組みを作ることが必要だ」と述べ、担当者だけでなく組織としての対応を促した。一方参加者からは「留意事項の3点以外にも注意すべき点はあるか」との質問があったが、神田委員長は「民放連が特に例示している3点はあくまで例示にとどまり、その他の点も含め、総合的に判断されるものである。他にどのような点に注意すべきかという点については、留意事項に特に例示されていない以上、当委員会が明示することは控えるべきであり、当該放送局にて自主・自律的に検討されることが望ましい」と述べた。
後半では、7月に福岡県内で起きた女性殺害事件に関する意見交換が行われた。まず放送局側から、事件の進展や被害者遺族の意向などによって、実名を匿名に切り替えたり、容疑内容の詳細な描写を控えたりするなど、時期や社によって異なった報道が行われたことが報告された。これに対し高田委員は「被害者にも加害者にも人権がある。実名・匿名は個々のケースで判断するしかないが、実名で報道することのみが原則なのではなく、実名を警察に出させて把握し、実名で取材することが原則だ。実名の報道にのみ価値があるわけではない。実名で何を伝えるのか、事件を通じて何を伝えるかが最も重要だ」と述べた。神田委員長は「実名も顔写真も、誤報でない限り、事実を報道するという点で放送倫理には抵触しないが、その場合であっても視聴者や社会に対し、報道をするに至ったプロセスや配慮などについて説明する責任が求められる時代になっている。責任を果たすために重要なのはそれぞれの社の自主・自律的な判断の過程だ。その過程なくして実名や顔写真の報道がなされなくなれば、報道機関に対する批判はなくなるかもしれないが社会の信頼も失われる」と述べた。参加者からは「実名・匿名では毎日悩んでいる。人権に配慮している間にネットには実名が出る。答えはなく個々に判断するしかない」という戸惑いや、「昔と違い、原則実名ということに社会の厳しい視線が注がれ、メディアスクラムも問題になる。世の中の変化にメディアが合わせることが必要かもしれない。若い記者たちに実名・匿名の意味を伝える一方、長年続いてきたメディアの考え方を変えていく柔軟性も必要だ」など、社会の受け止め方の変化やノウハウの継承についての悩みの声が聞かれた。
最後に、福岡放送の五島建次取締役報道局長が「同じ仕事に携わっていても日頃なかなか議論の機会がない各局や委員の意見を聞くことができ、心強く思った。現場は常に悩みながら放送に取り組んでいるが、今日の議論を踏まえ、明日からもさらにがんばっていきたい」と述べ、意見交換会を終了した。
終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。
(議題について)
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全国的にも注目される事例を知ることができて有意義だった。委員から問題点への意見や提言、放送局へのエールなども聞くことができ、BPOが身近になった。
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放送と企業広告の線引き、具体的方法論について学べたことは大きな収穫だった。
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委員会決定までの背景や理由などが詳しく聞けたことにより、BPOの問題意識がわかり今後の参考になった。取り上げた番組の内容が事前にわかっていれば、より理解が深まったと思う。
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事件報道は各社が共通に悩みを抱えているテーマだったのでよかった。一方で、BPOの視点からリスクに陥りがちなテーマ(SNSなど)も幅広く議論してもよかったのではないか。
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放送倫理について、自分自身が考える超えてはいけないラインとBPOが持つラインに大きな違いがないことを再認識できた。今後番組を作る上で及び腰ではなく、もっと攻めた面白い企画を作りたいという思いを抱けるようになった。
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(BPOは)放送局の自主自立を尊重する姿勢であると感じた。委員から直に話を聞けたので、委員会決定の行間を埋めることができたように思う。ただ実際の業務に関しては、委員会決定だけでは、営業への対応が難しい部分は残ると思った。
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福岡では各局が一堂に会して意見交換する機会があまりないため、貴重な機会となった。現在の日本のメディアは横の連携が弱く、これまで政府などからの圧力があった際に連帯して対応してこなかった。今後BPOが放送局どうしをつなぐ役割をできるならば、今後の日本のメディア環境にとって非常に意味があると思う。
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BPOは、私たちからすると、できればかかわることのないほうが健全だとのイメージが強いが、実際話してみると思ったより緊張関係はなく、こちらの事情も理解していることがわかり、こうした機会を今後も設けてほしいと思った。
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(BPOが)第三者機関としての役割ということであれば、変化していく視聴者の「テレビをどう見ているのか」という感覚値を、もっと各局と共有してほしい。
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テレビ・ラジオの多くのメディア関係者が参加していたので、各社が発言する時間を確保し、もっとさまざまな意見を聞きたかった。
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放送現場と日常的に意見交換する場をもっと増やしてもらいたい。
以上