全国の放送局を対象に意見交換会開催
放送倫理検証委員会と全国の放送局との意見交換会が、2020年12月3日千代田放送会館2階大ホールで開催された。また事前に申し込みのあった放送局に対して、オンライン配信を同時に実施した。放送局の参加者は、会場に40人、配信にて視聴したのは97社で、そのアカウント数は298件であった。さらに社内の会議室等で複数名による共同視聴をしたところも多数あった。委員会からは神田安積委員長、岸本葉子委員長代行、升味佐江子委員長代行、西土彰一郎委員の4人が出席した。コロナ禍のため、2020年度に放送倫理検証委員会が意見交換会を開くのは今回限りで、オンライン配信を利用して全国を対象に実施したのは初めてのことである。
開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「この意見交換会はBPOとしても大変重視しており、BPOの活動と放送局の皆さまとをつなぐ非常に重要な役割となっている。これからメインテーマである番組と広告の問題について議論してもらうが、民放連の広告の取り扱いのルールなどにもあるように、放送の番組内容と、広告放送との識別、区別というのは大変重要で、視聴者にとって、放送の効用というものがしっかり伝わっていくための重要な原理だと思う。同時に、広告放送は民間放送が放送を自由で自律的に行っていくための大事な柱でもあるので、この番組と広告の問題というのは、放送局全体として幅広く議論していくテーマである」と挨拶した。
意見交換会の最初は、10月30日に公表した「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題した委員長談話について、以下のとおり、神田委員長が解説をした。
放送基準は全部で152条あるが、3分の1以上は広告に関する放送基準である。理事長から、番組と広告の問題は民放において重要な原理であるとのお話があったが、放送基準における広告にかかる条文の多さはそのことを物語っている。
約3年前に、ある地方局の番組の中で、いわゆるステマの問題が取り上げられたことがあり、2017年5月25日付で民放連が「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した。
「留意事項」は、まず、「民放は視聴者の利益に資することを目的に、さまざまな情報を番組で取り扱っており、そうした取り組みのひとつとして、特定の商品・サービスなどを取り上げ、紹介することが日常的に行われている」「番組で特定の商品・サービスを取り扱うことは、視聴者に対して具体的で有益な情報提供となる」ということを明らかにしている。
同時に、「留意事項」は、「取り上げ方や演出方法などによっては、広告の意図や目的がなくても、視聴者に『広告放送』であるとの誤解を招く場合がある」ことも指摘している。また、万が一にも「誤解や疑念を持たれることは、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる」と書かれている。
皆さんには、常にその2つの視点を意識しながら、番組の制作をしていただきたい。委員会も、番組が広告と誤解されることが問題になることがあれば、この2つの視点から考えることになる。つまり、特定の商品・サービスを取り上げ、紹介する番組について、最初から規制ありきではなく、視聴者に対して具体的で有益な情報提供であるという点を前提としたうえで、検討や評価をしているということをご理解いただきたい。
本年、秋田放送、山口放送の番組に関して、広告と誤解されるのではないかとの視聴者意見が寄せられ、委員会は討議を約半年間かけて行ってきた。その経過の中で、本年3月6日に、民放連の放送基準審議会が、「放送基準の遵守・徹底のお願い」という文書を発出した。本文書は、番組と広告の識別に関して、「その取り上げ方は放送責任の範囲内でおのずと決まってまいります。そのうえで、演出や構成などには大いに工夫の余地があるのではないでしょうか。番組の企画から放送前の考査まで、社内横断的なしっかりとした体制を構築し、放送の価値向上と収益の確保に尽力していただきたいと思います」としている。この点について、委員会は、民放連が各局に向けて、自主的・自律的な検討を促す趣旨のメッセージであると受け止めている。また、本文書は、番組と広告の問題とは別に、BPOにおいて過去にあった事例と同様の事例が繰り返し審議入りされていることについて、各局に対して警鐘を鳴らしている。
委員会は、このような動きを踏まえながら、半年間をかけて両放送局の番組の討議を行い、また、番組と広告の問題について、民放各局の自主的・自律的な対応を促すために望ましい結論に向けた議論をし、その結果、本年10月30日付の委員長談話を出すに至った。
委員長談話において触れているとおり、委員会は、これまで3局の事案について2つの意見書を出してきた。その中で、番組と広告の問題について、今後も民放各局で自主的・自律的に判断してほしい、その判断に当たっては「留意事項」を総合的に判断していただきたいということを繰り返し伝えてきた。その趣旨は、意見書で問題になった番組が放送倫理違反であると評価したとしても、そのことが、ある特定の部分を放送しなければ問題なかったということを意味するものではなく、むしろ、たとえば、その番組の中で、仮に問題がある部分があったとしても、他の部分で別の内容の放送になっていれば、いわば広告の印象が減殺され、全体として放送倫理に違反しないとされる余地があるのではないか、言い換えれば、ある特定の部分だけの問題ではなく、番組全体について「総合的に」考えてほしいということである。
通知公表時の質疑応答や意見交換会において、「番組の内容をどのようにすれば広告放送であると誤解を招かれなかったのか教えてほしい」といった質問や、さらには「番組と広告の境目をはっきりさせる明確な基準を示してほしい」という質問・要望も寄せられた。しかし、委員会の守備範囲は放送局の判断基準を作る役割ではない。仮に私たちが判断基準を作ることになれば、民放連が自主的・自律的に策定した「留意事項」を越えて、放送局の手足を縛る基準を作ってしまうことになりかねない。また、「総合的に判断する」ことは、放送局の自主的・自律的な判断を必要以上に阻害しないようにするためであり、決して放送局の判断を迷わせるためではない、ということは委員長談話でも重ねて触れているところである。
もっとも、「留意事項」が策定されてから既に3年が経過しているとしても、委員会で具体的なケースが取り上げられたのは去年以降であり、番組と広告の問題が急にクローズアップされて放送倫理違反という判断が出され、多くの局がどのような対策を講じたらよいか悩んでいることが意見交換等でもうかがわれたところである。そこで、委員長談話において、そのような事情を踏まえ、本問題について放送事業者や民放連が自ら問題点を整理した上で、処方箋を出すことが望ましく、自主的・自律的な取り組みが期待できるのであれば、その成果を待つべきであろうと考えるに至った。なお、自主的・自律的な取り組みが期待できるという1つの事情として、先ほど言及した民放連の放送基準審議会の文書に触れ、「本問題に関する放送局の現場の声を集約しながら、改めてこの問題に向き合う必要があるという民放連の自覚と決意がうかがわれる」と評価させていただいた。
以上のような点を踏まえて、委員会は、「民放連加盟各社または民放連の自主的・自律的な取り組みを当面注視することとする」旨の結論に至った。放送基準92条や「留意事項」の原点に立ち返っていただき、「留意事項」を実質的にまた総合的に会社の中で議論し参照して、よりよい番組作りをしてほしいと思う。委員会が「見守る」というのは、本問題を今後も皆さんと一緒に考えていくという趣旨であり、このような意見交換の機会があれば引き続き一緒に考えていきたいと思っている。
なお、本年9月に民放連の放送基準審議会に私が出席し、本問題について意見交換の機会をいただいた。議事要録が作成され各局に配付されていると聞いているので、どの程度ご参考になるか心もとないが、ご参考にしていただきたいと思う。
ご清聴いただき感謝申し上げたい。
次に、西土委員が「番組と広告の境目について」というテーマで講演をした。
本委員会は番組と広告の識別をめぐる問題を扱い、2つの決定を出している。これらの決定では、対象となった番組について、民放連放送基準第92条及び「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断した結果、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと結論づけた。
決定を公表した後、「何を基準として総合的に判断するのか」という声をよく聞く。この基準については、何よりも皆さんがお作りになった民放連放送基準第92条及び留意事項に依拠して判断する。その際、迷った時には原点に立ち返ってもらいたい。なぜ放送基準第92条及び留意事項が定められたのか、そこが原点になろうかと思う。当然だが、放送局の独立とそれに対する視聴者の信頼を保持することに、第92条の趣旨、目的を見出すことができる。
以上の趣旨に照らして、最終的には視聴者の読後感というか、視聴後感において、番組全体が広告放送であるとの印象を残すかどうかがポイントになるかと考える。つまり、番組の中に広告の要素、特定の商品をPRする要素があったとしても、番組を見終わった後に、例えば全体としてこれは情報番組であるという印象を視聴者に残すかどうかが、重要になる。
この判断のために、留意事項の2において例示として挙げられている「番組で取り扱う理由・目的」「視聴者への有益な情報」「視聴者に対してフェアな内容」など事案に即した多様な要素を番組のテーマや制作に至った背景も含め検討する。こうした検討は、繰り返しになるが、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を確保するためという視点に立ってのことである。
もちろん、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を行使するのは皆さんであり、したがって番組と広告の境目の問題は、皆さんがまず自主・自律的に考えていただくことになる。この点について、決定第36号は、決定第30号を引用して、「番組と広告の違い、その境目を認識し、緊張感を持って一線を画す日々の作業は部署を問わず、すべての民放関係者が肝に銘じるべき根本ではないか」と指摘して、自主・自律による対応策を求めている。
濱田理事長が冒頭で述べられた通り、広告は民放各局の自主・自律にとって、また財源という点でも極めて重要である。皆さんが番組と広告の境目の問題に突き当たって苦慮されていることは、私共も重々承知している。綺麗ごとではないことを承知してはいるけれども、国民の知る権利に奉仕する放送のプロの皆さんであれば、視聴者の立場に立って、説得力のある根拠を示しながら、グレーゾーンにある番組と広告の線引きも行うことができるものと確信している。そして、以上の不断の積み重ねにより養われるはずの皆さんの実践的な知を、民放連等を通じて、ぜひとも放送界全体の共有知にしてくだされば、大変嬉しい。それができるのであれば、この問題を扱った本委員会として、せめてもの救いになると考えている。最後に希望を付け加えて、私からの簡単な話に代えたいと思う。
どうもありがとうございました。
このあとの意見交換での主な質疑応答は以下のとおりである。
Q: | 番組と広告の問題は民放全体の重要な課題でありながら、例えば他局の営業系番組に関する深い情報を聞くことなどはなく個別の問題は表に出て来ないのだが、共有知とするために、委員会がヒアリングなどを通じて経験したことから共有化に向けての方策や方法論として気付いた点があれば披歴してほしいのだが。 |
A: | 委員会決定の対象になった当該局が、その経験値を民放連に伝えるとか、系列局で悩みや苦労を共有して民放連に出してもらい、民放連が何らかの形で文書化するのが筋道立った方法ではないかと考える。(西土委員) |
各事案の意見書、特に委員会の「調査」または「検証」というところには、ヒアリングで制作過程について詳細にお聞きし、委員の受け止めたことが非常に具体的に書かれている。ヒントや共有知としてお役立ていただければうれしく思う。(岸本委員長代行) | |
事例研究会であれば、参加している局どうしの意見交換、質疑応答の場があるので知見を共有できると思う。また、各局からの依頼(講師派遣制度)で機会を設けていただければ、率直な意見交換ができると思う。(神田委員長) | |
Q: | 今後番組が番組として成立しつつ、ビジネスツールとしても考えていかねばならない時代に、現場にはBPOを恐れるような感覚があるが、新しい取り組みについて委員はどういうふうに考えるのかを伺いたい |
A: | 大変難しい質問であるが、問題になった時に備えて、きちんと説明できる社内における社内横断的かつ総合的な検討と、それを記録しておくことが必要である。新しい取り組みの内容については私たちにも知見として教えていただきたいし、勉強会などで意見交換していくことも大切な役割であると思う。(神田委員長) |
個人の意見だが、家のテレビで自分の家族が見た時にどう思うか、というのが1つの判断基準になるのではないか。恐れるべきはBPOの審議入りより、視聴者にそっぽを向かれることのはずだ。皆さんと共にトライ&エラーしながら経験値を重ねて、視聴者の信頼を失わない放送を、維持していきたい。(岸本委員長代行) | |
番組は放送局が自らの責任で作る。局自身の判断で作られていると視聴者は信じているから、広告放送の中でなく番組の中である特定の商品やサービスが取り上げられると、その商品やサービスに対する好意的印象は高まる。だからこそ、広告主も広告放送ではなく番組の中で、自分の商品やサービスが取り上げられることを期待する。そこに気を付けないと、局の作る番組の中に広告が紛れ込み、視聴者は混乱し、商品やサービスに対する判断を誤ることにもなる。それは、本来局が制作する番組に対する信頼を低下させる恐れもあり、その点が心配である。そうならないためには、局が独自の視点で番組を展開していることが明確になるようにしなければならないのではないか。番組が全部同じ方向での特定の商品やサービスの情報提供になると視聴者の選択肢がなくなるので、番組の制作主体である局の姿が見えにくくなりがちである。番組制作の際に構成や内容に何かしらの手間をかけ、制作する主体が局である点に誤解が生じないようにすることが、放送の領域を自分たちで守ることにつながると思う。(升味委員長代行) | |
Q: | 秋田放送と山口放送のローカル単発番組について、委員会は審議の対象としないという結論になったが、その理由について詳細に聞きたい。また、審議入りするか否かの判断基準について「①対象となる問題が小さく、かつ、②放送局の自主的・自律的な是正措置が適切に行われている場合には、原則として審議の対象としない」との考え方は、今後も判断基準の1つと考えても良いのか。 |
A: | 後者の質問については、2009年7月に出した委員長談話の中で、審議に入るか否かの基準についてご指摘の2点の基準を明示しており、現在もその基準に沿って運用している。最初の質問については、議事概要に書いてあるとおりである。討議で終了している案件は、当該局に対してもそれ以上の説明をしていないので、その旨ご理解いただきたい。(神田委員長) |
Q: | 現在、民放連の考査事例研究部会で放送基準の改定作業が始まっているのだが、放送基準の書きぶりやよく分からない点などが委員会で議論になったことがあるか。 |
A: | 「留意事項」において「対価を得て」という点が要件になるのかが議論になった。この点について、民放連に問い合わせたところ、対価の支払いの有無に関係なく「留意事項」は適用がされるとの回答であった。このことは意見書や委員長談話において触れているが、民放連でも改めて各局に十分周知されたほうがよいのではないかと思う。(神田委員長) |
Q: | 番組制作に伴う収益化が放送局にとっては命綱なので営業担当としては守っていきたいのだが、考査上のストライクゾーンが以前と比べて狭まった訳ではないのか。今までストライクだと思っていたのをボールと言われたのが今回の例だった、と解釈しているのだが。 |
A: | ストライクゾーンつまりホームベースの大きさは変わっていない。ただし、ホームベースを通っていなくてもストライクだと思い込んでいた可能性はあるかもしれない。投げる前にきちんと考査をしてほしい。ストライクゾーン自体に変わりはないとしても、永久に変えなくて良いのかという問題はあると思う。時代の変化やメディアの役割の在り方などを踏まえ、民放連や各局において自主的・自律的に検討の余地はあるのかもしれない。(神田委員長) |
Q: | 対価性があっても視聴後感が悪くなく、番組内容が視聴者にとって有益であれば、番組として成立するのかどうかについて聞きたい。 |
A: | 「留意事項」に照らして総合的に判断した結果、特に内容に問題がなければ、対価の支払いの有無にかかわらず、番組として問題ないという判断になると思う。(神田委員長) |
Q: | 質問ではなく要望ですが、2009年にバラエティー番組に対して出された意見書(委員会決定第7号)の中に、バラエティーが「嫌われる」5つの瞬間というのがあってすごく分かりやすかったので、「番組が広告と認識されない5つの瞬間」のような形でまとめてもらえると理解しやすくなると思うのだが。 |
A: | 今回の番組と広告の問題は、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる問題であり、少し硬い文章にせざるを得なかった。ご指摘の趣旨を踏まえて、今後も分かりやすく説明する機会や工夫をするように努めていきたい。(神田委員長) |
意見交換会のまとめとして、神田委員長が、「当面は放送局の自主的・自律的な対応を見守りたいと考えているが、チェックリスト化、マニュアル化という対応ではなく、自主的・自律的に総合的な検討を深めていただきたい」と述べ、「是非お声掛けいただければ、できる限り意見交換の機会を設けていきたい」と結んだ。
最後にBPO事務局の竹内淳専務理事が、「番組と広告をめぐる現状の厳しさはひしひしと伝わってくるが、皆さまの自主・自律に期待することをご理解いただき、コロナ禍でもこういう意見交換の場は今後オンラインも加味して設けていきたい」と挨拶して閉会した。
終了後に実施したアンケートの回答から一部を紹介する。
- 気になっていた「委員長談話」の詳細な解説を聞くことができて良かった。
- 番組と広告の境界線については、今後も引き続き取り上げてほしい。
- 多数かつ関連部署の人が同時に遠隔参加できることがオンラインの最大の利点。
- 出張しなくて済むので助かる。時間も交通費も節約でき、大変ありがたい。
- 参加しやすく効果的なので、今後もオンライン形式での意見交換の場を設けてほしい。
- 必要な資料の事前共有をさせてほしかった。
- キー局の場合は社員数が多いので、「1社5枠」という配信の制限は厳しい。
以上