放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2018年11月1日

独立テレビ局13社と意見交換会

放送倫理検証委員会と独立テレビ局13社との意見交換会が、2018年11月1日、東京・千代田放送会館で開催された。放送局出席者は13社31人、委員会からは神田安積委員長、中野剛委員、藤田真文委員の3人が出席した。独立テレビ局との意見交換会は、4年ぶりの開催。

はじめに、独立テレビ局の特徴や各局間の連携等について、代表して千葉テレビ放送から説明があり、続いて13社がそれぞれの会社の規模や看板番組等を紹介した。

次に放送倫理検証委員会の2つの委員会決定について、担当委員がポイントを解説した。昨年12月に公表した「東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見」(放送倫理検証委員会決定第27号)について、今回、委員会が独自調査を行った理由と目的を藤田委員から解説。「委員会が意見書をまとめる際、通常は放送局に制作過程をヒアリングするが、当該番組はTOKYO MXが制作に関わっていない持ち込み番組のため、制作プロセスについて制作担当者に直接聞くことができなかった。そのような理由から、番組の中で表現された"事実"について委員会独自に調査することになった特異な例」と説明した。また、「『ニュース女子』は時事的な問題を扱っており、特に当該番組の沖縄基地問題というテーマはさまざまな見解があるため、情報の正確性や差別的な表現はないかという点を中心に検証した」と述べた。
中野委員は、意見書で指摘した考査の問題点について、ていねいに説明。「当該番組は基地反対の立場で抗議活動をしている方々を揶揄するトーンで貫かれているが、抗議活動を行っている側に取材した形跡がない。考査の段階で番組内容について"これは本当なのか"と疑問を持ち、より慎重に裏付けの有無を確認してほしかった」と話した。
参加した放送局から「"基地の外の"というスーパーを放置した点が問題点のひとつとして挙げられているが、ネットスラングまで意識して考査することは難しい」という意見があった。これに対し委員は、「もちろんそれは理解できる。ただ、当該番組では、不自然に"基地の外の"という表現が多用されており、その点に引っ掛かりを覚えていれば、言外の意図を読み解くことができたはずだ」と述べ、多角的な視点で考査にあたってほしいと呼びかけた。
続いて、今年2月に公表した「フジテレビ『とくダネ!』2つの刑事事件の特集に関する意見」(放送倫理検証委員会決定第28号)について、神田委員長がポイントを解説。2つの特集は、いずれも刑事事件というセンシティブな情報について十分な裏付けのないまま誤った放送をしてしまったという事例。神田委員長は「制作担当者にヒアリングしてみると、スタッフは皆、裏付け確認の重要性についてきちんと理解していたことがわかった」と述べ、「それなのに誤った内容を放送してしまったのは、確認を人任せにするなどスタッフ間の連携の力が足りなかったため」と説明した。
この決定について放送局から、「『とくダネ!』の誤りは、放送局としてあってはならないことだが、それを"倫理違反"とされることに違和感がある」との意見が出された。これに対し出席委員から、「人間はさまざまな倫理規範の中で生きているが、放送倫理検証委員会の言う"倫理違反"とは、あくまで放送人としての職業倫理に反しているという指摘だと考えてほしい」「放送倫理のよるべきところは放送局自らが定めた放送基準であり、放送倫理違反の指摘については、放送基準に立ち戻った上で、何が問題だったかを考えてもらいたい」との発言があった。

最後のパートでは独立テレビ各局から、考査や事実の裏付け確認作業について、日頃の悩みや取り組み例などが報告された。
比較的規模の小さな局が多く、いずれも少人数で番組チェックや考査にあたっているため、「法令に精通している担当者の育成が課題だ」「急増する新ビジネス、サービス・商品の知識を得るのに苦労している」などの声が聞かれた。また、めまぐるしく変化する社会にあって、数年前とは判断が変わることもあると説明した上で、「世の中の動きに対し、敏感であることが大切だ」との意見が出された。
ことばの使い方、表現についても、「古典落語や昔の時代劇に出てくることばが、現在では差別表現に当たる恐れがあり苦慮している。番組の最後に"おことわり"を加えるなど、そのつど対応している」という実例が紹介された。これに対し藤田委員から、「明らかに侮蔑的で許容できないものは削除すべきだと思うが、古い映像作品や歴史ある文化・芸能を放送する場合、過度なカットや改変は視聴者のためにならないのではないか」という発言があった。
事実の裏付けのあり方やチェック体制についても、複数の社から具体的な方法や事例の紹介があり、「過去の誤りやミスを参考にして、同様の事案が起きないよう注意している」などの報告があった。
最後に神田委員長が「独立テレビ局各社に共通する問題意識やそれぞれの悩みなどをうかがい共有することができ、貴重な機会となった。今後の参考にしたい。放送界の自由な雰囲気を維持し、国民の知る権利を守るためにも、これからも当委員会の職責を果たしていきたい」とあいさつし、意見交換会を締めくくった。

後日、参加者から寄せられた主な感想は次のとおり。

  • 意見書作成に至る解説を聞き、2つの決定についての理解を深めることができた。
  • 審議事案に対する委員会の具体的な取り組みが分かり、とても参考になった。忙しい委員の方々が、事実を一つひとつ確認するという地道な作業を行っていると知り、まさに放送局の考査と同じだと思い親近感を覚えた。BPOが少し身近な存在に感じられた。
  • 互いの理解を深める上で大変良い機会となった。今後もぜひ、このような場を設けてもらいたい。
  • 他局の考査や番組担当の方と会う機会は意外と少ないので、直接話を聞くことができて、その点でも意義深い会合となった。
  • 今回は主に管理職クラスが出席していたが、現場ディレクターに聞いてもらいたい内容だった。今後は、そのような機会もあるとよいと思う。

以上