2023年度 第79号

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」に
関する委員会決定

2023年7月18日 放送局:あいテレビ(愛媛県)

見解:要望あり(補足意見・少数意見付記)
申立ての対象は、あいテレビが2022年3月まで6年間放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組に出演していた女性フリーアナウンサーが、番組内での他の出演者からの度重なる下ネタや性的な言動によって羞恥心を抱かせられ、そのような番組を放送されたことでイメージが損なわれたとして、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと申し立てた。あいテレビは、番組の内容は社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はないと反論していた。委員会は審理の結果、人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまでは言えないと判断した。そのうえで、制作現場における構造上の問題(フリーアナウンサーとテレビ局という立場の違い、ジェンダーバランスの問題)に触れ、あいテレビに対して職場環境や仕組みを見直し改善していくための取り組みを続けるよう要望し、また、放送業界全体に対しても注意を促した。

【決定の概要】

申立人はフリーアナウンサーであり、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで6年間にわたって週1回放送した深夜バラエティー番組『鶴ツル』(「本件番組」)に出演していた。申立人は、番組内での他の出演者からの下ネタや性的な言動により羞恥心を抱かせられ、放送により申立人のイメージが損なわれたとして人権侵害と放送倫理上の問題を理由に本件を申し立てた。申立人は、放送開始当初その悩みをあいテレビに伝えたと主張するのに対し、あいテレビは、番組の趣旨を十分理解して申立人は出演していたと主張し、申立人が悩んでいたこと自体を否定する。
決定の概要は以下のとおりである。
本件番組における性的な言動によって長年悩んできたという申立人の主張は真摯なものである。ただし、そのことに関連して放送局に責任が認められるためには、本件番組が申立人の意に反していたことに放送局が気づいていたか、あるいは気づかなかったことに過失が認められる必要がある。この点、2021年11月に申立人が自己の番組降板を伝えつつ本件番組に関する悩みを本件番組のプロデューサーに伝えた際の録音反訳があり、プロデューサーがその時点で申立人の悩みを初めて知って驚いたことがわかる。このことから、あいテレビは同年11月に初めて申立人の意向を知ったと考えられる。それ以前にあいテレビに過失があったかを検討するに、申立人自身が、仕事として引き受けた以上アナウンサーの矜持として悩みが人にはわからないようにしたと述べていることや、申立人の番組関係者へのメールやブログからは、本件番組に対する積極性や好意的評価が少なくとも外見上窺われることから、あいテレビに過失があったとは言えない。
2021年11月以降について検討すると、あいテレビは、申立人から悩みを伝えられて直ちに下ネタをやめるよう他の出演者に伝え、収録時に申立人が不快と伝えた部分は放送しない措置をとるなどしており、あいテレビの対応に問題があったとは言えない。
さらに、本件番組で仮に深夜バラエティー番組として社会通念上許容される範囲を超えた性的な言動があり、あるいは申立人の人格の尊厳を否定するような言動があれば、申立人の意向に関するあいテレビの認識にかかわらず人権侵害が成立しうる。この点、本件では、下ネタや性的な言動が申立人に向けられていた場合がある点を特に問題とする複数の意見があったが、表現内容に着目して放送局の責任を問うことは表現の自由に対する制約につながりうるので、人権侵害ありとの判断には謙抑的であるのが妥当である。本件番組では眉をひそめたくなるような言動もあるが、人権侵害に当たる言動があったとは認められない。
以上から、本件番組において申立人に対する人権侵害があったとは認められない。
放送倫理上の問題の有無としては、まず、民放連の放送基準に照らして表現に着目した検討を行う。本件番組は、一般に子どもや青少年が視聴しない深夜の時間帯の放送であり、トークショーとしてその場の演出として出演者間でやりとりをしている事情に照らし、表現に着目して放送倫理上問題があると判断するのは控えるのが妥当である。
本件番組では、回を重ねるごとに出演者間で相手に対し「ここまで言っても許されるだろう」と考える範囲が広がっていき、申立人に対する下ネタや性的な言動も、冗談として言う分には許されると他の出演者が考える範囲が次第に広がったと認められる。そうすると、この問題は、個別具体的な言動について放送倫理上の問題として取り上げるより、制作現場における構造上の問題として捉えるのが妥当である。
また、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは社会通念上当然であり、配慮が欠けていれば放送倫理の問題になりえる。この点、あいテレビは、申立人から悩みを打ち明けられて前述の措置をとるなどしている。したがって、放送倫理上の観点から問題があったというほど、あいテレビについて出演者への配慮に欠けていたとは言えない。
以上より、本件において放送倫理上の問題があるとまでは言えない。
最後に、制作現場における構造上の問題について要望を述べる。フリーアナウンサーとテレビ局という立場の違い、男性中心の職場におかれた女性の立場というジェンダーの視点に照らし、本件において申立人は圧倒的に弱い立場にあった。しかし、あいテレビは、申立人が構造的に弱い立場にあるという視点を欠いていた。あいテレビに対しては、降板するほどの覚悟がなくても出演者が自分の悩みを気軽に相談できる環境や職場でのジェンダーバランスなどの体制を整備したうえで、日ごろから出演者の身体的・精神的な健康状態に気を配り、問題を申告した人に不利益を課さない仕組みを構築するなど、よりよい制度を作るための取り組みを絶えず続けるよう要望する。
ここでの指摘事項は放送業界全体に共通する面があり、放送業界全体が、本事案を自社の環境や仕組みを見直し改善していくための契機とすることを期待する。

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2023年7月18日 第79号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第79号

申立人
女性フリーアナウンサー
被申立人
株式会社あいテレビ
苦情の対象となった番組
『鶴ツル』(毎週火曜日 午後11時56分~午前0時11分)
(2016年4月5日放送開始、2022年3月29日放送終了 全304回)
放送日
2021年2月9日
2021年3月23日
2021年4月20日
2021年5月4日
20211年6月1日
2021年8月3日
2021年8月31日
2021年12月21日

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.本件の特徴
  • 2.人権侵害の有無
  • 3.放送倫理上の問題の有無

III.結論と要望

  • 1.結論
  • 2.問題点の指摘と要望

IV.補足意見及び少数意見

  • 1.曽我部真裕委員長の補足意見
  • 2.水野剛也委員の補足意見
  • 3.國森康弘委員の少数意見

V.放送概要

VI.申立人の主張と被申立人の答弁

VII.申立ての経緯および審理経過

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2023年7月18日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2023年7月18日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2022年度 第78号

「ペットサロン経営者からの申立て」に関する委員会決定

2023年2月14日 放送局:日本テレビ

見解:要望あり(少数意見付記)
対象となったのは、日本テレビが2021年1月28日に放送した『スッキリ』。ペットサロンで預かっていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題について放送した。この放送に対し経営者は、虐待死させたかのように印象付け名誉を侵害したとして申立てを行った。局側は名誉を侵害していないと反論していた。委員会は審理の結果、人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまで言えないと判断した。そのうえで、日本テレビに対して、経営者への直接取材実現にむけてもう一歩の努力がなされるべき事案であり、直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作にあたるよう要望した。

【決定の概要】

本件は、日本テレビが2021年1月28日に放送した情報番組『スッキリ』が、同月12日にペットサロンでシェパード犬がシャンプーを受けた後に死亡した件を取り上げたことに対し、申立人が、自らが犬を虐待死させたと印象付けるもので、事実に反する放送により名誉を侵害されたとして、申立てを行った事案である。
本件放送では、同日、申立人が経営するペットサロンにおいて、犬の首輪を手すり(シンクの金具)に付けた状態で約2時間にわたり押さえつけてシャンプーした後、犬が動物病院に運ばれたが死亡したこと、従業員に対し、逆らえば「辞めてもいい」などと述べる日頃の申立人の発言等が関係者のインタビューを交えて紹介される。飼い主は、申立人から犬は事故で死亡したと説明されたが、シャンプーに同席した学生は虐待があったと教えてくれたと語る。この間、「愛犬急死 経営者“虐待”シャンプー?」など画面に表示されている。これに続くスタジオトークでは、コメンテーター等からほぼ一方的に申立人を非難する発言が相次いだ。
本件について、委員会は、名誉権侵害の問題に加えて、申立人への直接取材が実現しないまま放送されたことの放送倫理上の問題について、概要、以下のとおり判断した。
まず、本件放送では申立人の氏名等が匿名化されていたが、SNS上で拡散されていた情報が取材の端緒であったとの背景もあり、申立人及びペットサロンの特定は容易であったと判断する。
本件放送を見て、一般的な視聴者はシャンプー行為の中で「虐待」があり、犬の死亡原因になったと認識すると考えられ、本件放送は申立人の社会的評価を低下させる。
そこで次に、本件放送について、日本テレビに真実性の抗弁または相当性の抗弁が認められるかが問題となる。
ここで「虐待」の中核となるのは、犬の首輪を手すりに付けた状態でシンク内に伏せをさせて、約2時間にわたり犬を押さえつけながらシャンプーし、犬の頭にシャワーを繰り返しかけたこと及びこれにより犬が死亡したこと(因果関係)と捉えられる。
この点につき、申立人は、シャンプー行為の一部を途中から手伝ったに過ぎなかったなどと述べている。これに対し、日本テレビは、上記のような放送内容について、ペットサロン関係者ら及び飼い主等から放送内容全般につき矛盾のない取材結果が得られていたとして詳細に説明した。その内容に格別の不審はなく、放送で示された各事実があると日本テレビが信じたことについて、少なくとも、相当の理由があったと判断される。
以上より、本件放送は申立人に対する人権侵害に当たらない。
次に、委員会は、本件放送に当たって、日本テレビが、申立人の言い分を直接取材し得ないまま放送に踏み切ったことにつき、放送倫理上の問題を検討した。
委員会はこれまで、取材・報道に当たっては、原則として、報道対象者に報道の意図を明らかにしてその弁明を聞くことが必要であると指摘してきた。
他方、速報性も重要な要素の一つであり、対象者が直接取材に応じるまでの間は一切放送・報道できないとの結論は妥当でなく、例えば、真摯な申入れをしたが接触できない、応じてもらえない場合、適切な代替措置が講じられた場合(当事者が当該対象事実について公表したプレスリリース等の掲載や、その他の方法による本人主張・反論の十分な紹介)、緊急性がある場合、本人に対する取材が実現せずとも確度の高い取材ができている場合などは、これら内容を含めた諸事情を総合考慮して、本人取材を不要とする余地があると解される。
本件で、日本テレビは、申立人に取材を申し入れたほか、申立人の携帯電話にも2度電話をかけた(取材経緯・時系列の詳細は「Ⅱ.委員会の判断」参照)。また、民事紛争の一方当事者の主張に依拠した放送には慎重である必要があるが、申立人と共にシャンプー行為に当たった従業員らを含むペットサロン関係者5名から迫真的な告白を含む取材をしていた。また、ホームページに掲載された申立人の謝罪・反論コメントのほぼ全文を本件放送で紹介しており、直接取材の全面的な代替とはならずとも、一定の意義を認め得る。
本件放送は、「シャンプー行為に起因して、犬が死亡した」との事実に加えて、ペットのしつけに関する申立人の信念に対する批判も含む、申立人の社会的評価を低下させる内容であったので、本来、直接取材が要請される事案としてもう一歩の努力がなされることが望ましかったが、その上で、委員会は、以上に列挙した要素を含む諸事情を総合的に評価したとき、申立人に対する直接取材が実現しなかったことをもって、放送倫理上の問題があるとまでは言えないと判断する。
結論として、委員会は、本件放送には人権侵害は認められず、また、放送倫理上の問題があるとまでは言えないと判断する。
ただし、本事案が、直接取材を実現すべくもう一歩の努力がなされることが望ましい事案であったことを踏まえて、委員会は、日本テレビに対し、対象者に対する直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作に当たることを要望する。

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2023年2月14日 第78号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第78号

申立人
福岡県在住のペットサロン経営者
被申立人
日本テレビ放送網
苦情の対象となった番組
『スッキリ』
放送日
2021年1月28日
放送時間
8時~10時25分のうち8時33分から8時55分までの22分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.匿名化・モザイク処理について
  • 2.本件放送による社会的評価の低下について
  • 3.本件放送による名誉毀損の成否について
  • 4.放送倫理上の問題点の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2023年2月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2023年2月14日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2021年度 第77号

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2022年1月18日 放送局:NHK

見解:問題なし(少数意見付記)
NHK宮崎放送局は2020年11月20日の『イブニング宮崎』で、男性2人が死亡した宮崎市内の住宅火災の続報として、放火殺人の可能性があり、2人の間に「何らかの金銭的なトラブル」があったかのように伝えた。これに対し、被害者の弟が、兄にも原因の一端があったとの印象を抱かせるものであり、兄の尊厳を傷つけたとしてNHKに対し謝罪を求める申立てを行った。NHKは取材を基に客観的な事実を伝えていると反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 委員会は、以下のとおり、本件放送には人権侵害も、放送倫理上の問題もない、と判断する。
 まず、申立人は本件放送について、事件の被害者である兄にも非があるかのような「何らかの金銭的なトラブル」という表現を使ったことなどで兄の名誉を毀損し、ひいては申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)をも侵害した、と主張している。
 しかし、「何らかの金銭的なトラブル」は、それ自体を単体でとらえれば申立人のような受けとめもできようが、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、それ以外の部分を含め一般的な視聴者の普通の見方をすれば、本件放送が全体として社会的評価を明らかに低下させるわけではない。
 「何らかの金銭的なトラブル」に言及したこと自体も、当事者である兄と容疑者がすでに死亡しており背景がつかみにくい状況で、複数の捜査関係者への取材で一定の裏づけをとったうえで警察の見方として伝えており、また兄と容疑者の関係性や放火の動機につながる情報を警察がどう認識しているかは報道の一要素であるため、不適切とはいえない。
 そして、2人が死亡した火災が事故ではなく、放火殺人事件である可能性が強まったことを報じる本件放送には、高い公共性があり、その目的にも十分な公益性がある。
 以上の事情を総合すると、きわめて不可解、残酷な形で突然、肉親を失った申立人の大きなショックを考慮しても、本件放送は許容限度(受忍限度)を超えて申立人の敬愛追慕の情を侵害してはいない。
 申立人はまた、「何らかの金銭的なトラブル」という表現をめぐる放送倫理上の問題として、①兄にも非があると示唆すること、②遺族である申立人はまったく聞いたことがないのに、警察への取材に依拠し、申立人に確認をせず放送で使用したこと、を主張している。
 しかし、①については、すでに指摘したように本件放送を全体として見れば、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、②についても、兄と容疑者がともにすでに死亡していること、複数の捜査関係者への取材で確かめたうえで、両者間に「何らかの金銭的なトラブル」があったという警察の認識として伝えていることなどから、放送倫理上の問題があるとはいえない。
 ただし、一般論として、「トラブル」のように、立場や文脈や視聴の仕方により多様に受け取られる可能性のある言葉は、事件報道の常とう句、決まり文句のようなものとして安易に用いることのないよう、留意する必要があろう。

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2022年1月18日 第77号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第77号

申立人
宮崎県在住の男性(事件被害者の弟)
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『イブニング宮崎』(宮崎放送局ローカルニュース)
放送日
2020年11月20日
放送時間
午後6時10分~7時のうち番組冒頭約2分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)の侵害
  • 2.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2022年1月18日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2022年1月18日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2020年度 第76号

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」
に関する委員会決定

2021年3月30日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり(補足意見、少数意見付記)
当事案は、フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと訴え、委員会に申し立てたもの。
これに対してフジテレビは、番組で「女性を暴力的に描いていない」などと主張するとともに、社内調査の結果を基に、「人権侵害は認められない」と反論した。
委員会は、審理の結果、人権侵害は認められないとしたが、出演者の身体的・精神的な健康状態に関する配慮が欠けていた点について、放送倫理上の問題があったと判断した。その上で、フジテレビに、本決定を真摯に受け止め、改善のための対策を講じることを要望した。 なお、本決定には補足意見と2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2020年5月19日に放送されたフジテレビの『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(本件番組)。出演していたプロレスラーの木村花氏が放送後に亡くなったことについて、同氏の母親が、娘の死は番組の“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。本件番組は、募集によって選ばれた初対面の男女6人が「テラスハウス」で共同生活する様子を映し、スタジオのタレントらがそれにコメントするスタイルのいわゆるリアリティ番組であり、Netflix等で配信され、数週間後に地上波で放送されていた。
 本件放送の中盤、木村花氏が共用の洗濯乾燥機に置き忘れていた重要な試合用のコスチュームを、男性出演者が誤って洗濯、乾燥してしまったため縮んで着用できなくなったことに対し、木村氏が怒りをあらわにする様子が描かれる。木村氏は、テラスハウス住人全員が顔を合わせたところで、男性に怒りの言葉をぶつけ、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と言い、男性がかぶっていた帽子をとって投げ捨てる。この場面が「コスチューム事件」と名付けられ、SNS上で木村氏に対する多数の誹謗中傷を招いた。
 「コスチューム事件」が最初に人々の目に触れたのは3月31日のNetflix配信においてであるが、その直後、木村氏は自傷行為に至る。その後、5月14日には、未公開動画として、女性出演者から落ち度を指摘されたことに対し、木村氏が自身の正当性を主張するかのような動画がYouTube上で公開され、再度誹謗中傷を招いた。5月19日には地上波にて本件放送が行われ、5月23日、木村氏は自死した。
 以上の事案につき、人権侵害については3点の判断を行った。第1に、申立人は、視聴者からの誹謗中傷がインターネット上で殺到することは十分に認識可能であることから、放送局に「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」 の責任があると主張した。これについては、表現の自由との関係で問題があり、一般論としてはこうした主張は受け入れられない。ただ、本件では、先行するNetflix配信が誹謗中傷を招き、自傷行為という重大な結果を招いたという特殊性がある。このような場合においては、少なくとも、先行する放送ないし配信によって本件の自傷行為のような重大な被害が生じている場合、それを認識しながら特段の対応をすることなく漫然と実質的に同一の内容を放送・配信することは、具体的な被害が予見可能であるのにあえてそうした被害をもたらす行為をしたものとして、人権侵害の責任が生じうるものと考えられる。
 しかし、本件では、自傷行為後にフジテレビ側は一定のケア対応をしており、また、本件放送を行う前にも一定の慎重さをもって判断がなされたため、漫然と本件放送を決定したものとはいえず、人権侵害があったとまでは断定できない。
 第2に、申立人は、木村氏の言動は、著しく一方的な「同意書兼誓約書」の威嚇の下、煽りや指示によってなされたものだから、自己決定権及び人格権の侵害があると主張する。この点について、若者であるとはいえ成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフからなされた指示が違法性を帯びることは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような例外的な場合である。本件では、制作スタッフからの強い影響力が及んでいたことは想像に難くないが、上記のような例外的な場合にあったとはいえず、自己決定権等の侵害は認められない。
 第3に、コスチューム事件における木村氏の言動が、通常他人に見られたくないと考えられるものでプライバシー侵害に当たるとする主張については、撮影されることを認識し認容していたことなどからして、違法なプライバシー侵害であるとは言えない。
 他方、放送倫理上の問題に関して、3点につき判断した。第1に、それまでの経緯からして、木村氏に精神的な負担が生じることが明らかである本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、放送倫理上の問題があったと判断した。すなわち、リアリティ番組には、出演者のありのままの言動や感情を提示し、共感や反発を呼ぶことによって視聴者の関心を引きつける側面がある。しかし、ドラマなどのフィクションとは違い、真意に基づく言動とは異なる姿に対するものも含め、視聴者の共感や反発は、生身の出演者自身に向かうことになることから、リアリティ番組には、出演者に対する毀誉褒貶を、出演者自身が直接引き受けなければならない構造がある。そして、出演者の番組中の言動や容姿、性格等についてあれこれコメントをSNSなどで共有することがリアリティ番組の楽しみ方となっており、自身の言動や容姿、性格等に関する誹謗中傷によって出演者自身が精神的負担を負うリスクは、フィクションの場合よりも格段に高い。このことなどを踏まえると、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは、もともと放送倫理の当然の内容をなすものと考えられるが、リアリティ番組においては特にそれがあてはまる。しかし、上述のとおり、本件においてはこうした配慮が欠けており、放送倫理上の問題がある。
 第2に、申立人が、ことさらに視聴者の感情を刺激するような過剰な編集、演出を行ったことによる問題があると主張した点については、事実関係が確定できないこと、および、木村氏の怒りの場面は、少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 第3に、フジテレビの検証が内部調査にとどまった点の評価については、番組による人権侵害等を判断する委員会の基本的任務とは距離があり、本決定では判断を行わない。
 最後に、リアリティ番組の制作・放送を行うに当たっての体制の問題を、課題として指摘せざるを得ない。本決定を真摯に受け止めた上で、フジテレビが木村氏の死去後に自ら定める対策を着実に実施し、その効果の不断の検証を踏まえて改善を続けるなどして再発防止に努めるとともに、本決定の主旨を放送するよう要望する。
 同時に、放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する。

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2021年3月30日 第76号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第76号

申立人
番組出演者の母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』第38話
放送日
2020年5月19日(火)
放送時間
午前0時25分~0時55分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.委員会の判断の対象
    • (1) 本件番組及びその関連動画の相互関係
    • (2) 委員会の判断の対象
  • 2.事案の概要
    • (1) 本件番組について
    • (2) 木村花氏の本件番組への出演契約の際の状況
    • (3) 本件放送について
    • (4) 第38話のNetflix 配信後の状況
    • (5) 5月14日の未公開動画の配信
    • (6) 本件放送前後の状況
    • (7) SNS対策とSNS上の誹謗中傷の状況
      • ① 本件番組におけるSNS対策について
      • ② 第38話のNetflix配信及び本件放送を受けたSNS上の誹謗中傷の状況
    • (8) 木村氏死去後のフジテレビの対応
  • 3. 「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 人権侵害の判断基準について
      • ①「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」に関する一般論
      • ② リアリティ番組における、視聴者の行為を介した人権侵害に関する放送局の責任
      • ③ 本件放送の特殊性
    • (3) Netflix 配信の前後から本件放送の前後までのフジテレビの対応について
      • ① Netflix配信前の状況
      • ② 自傷行為後の木村氏へのケアについて
      • ③ 5月14日の本件未公開動画の公開について
      • ④ 本件放送を行うとする判断について
    • (4) 人権侵害についての検討
  • 4. 自己決定権及び人格権の侵害について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 検討
    • (3) 小括
  • 5. プライバシー侵害について
  • 6. 放送倫理上の問題について
    • (1) 本件放送を行うとする決定に際しての出演者への配慮について
      • ① 出演者の身体的・精神的な健康状態への配慮と放送倫理
      • ② 本件について
    • (2)「過剰な編集、演出を行ったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (3)「検証を十分に行わなかったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (4) 申立人に対する対応について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2021年3月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は2021年3月30日午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

2021年7月20日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

委員会決定第76号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月25日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2020年度 第75号

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年11月16日 放送局:札幌テレビ放送

見解:問題なし
札幌テレビは2019年4月26日の『どさんこワイド179』で、札幌市内に住む男性が「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づき、一時金を申請する模様を伝えた。
男性は札幌テレビの記者の働きかけで不本意ながら申請をし、これが報道されたことで名誉が毀損された等として、札幌テレビに謝罪と訂正を求めて申立書を提出した。
札幌テレビは、申立人に申請を働きかけたことはなく、取材と報道は公正なものだと反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 札幌テレビは、2019年4月26日(金)夕方のニュース『どさんこワイド179』において、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という)に基づく北海道初の一時金支給申請者として、申立人による申請の模様を伝えた(以下「本件放送」という)。
 申立人は、本件放送について、一時金申請を希望していなかった申立人に対し、札幌テレビのA記者が申請するよう働きかけた結果、不本意な申請をすることになり、これを広く報道されたことで名誉が毀損されたなどと人権侵害および放送倫理上の問題があったと主張して、本件申立てを行った。一方、札幌テレビは、信頼関係があったからこそ可能となった放送であり、取材と報道は公正なものと反論した。委員会は、審理のうえ、名誉毀損等の人権侵害はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
 申立人は、旧優生保護法に基づいてかつて強制不妊手術を受けた被害者として、国家賠償を求める旧優生保護法被害者訴訟を提起している原告の一人である。
 まず、名誉毀損について、一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件放送が報じたのは、新たに成立した一時金支給法に基づいて申立人が申請したという合法的な行為の紹介であり、これによって申立人の社会的評価は低下しない。また、本件放送は、申立人の複雑な心境や悩みまで浮き彫りにし、国に対する批判的なナレーションもまじえるなど申立人のような被害者の立場に寄り添った視点で構成されたものであって、申立人が一時金支給法の内容について批判的見解を有していたことを知る視聴者の観点を前提として検討した場合であっても、やはり社会的評価を低下させるものではない。よって、本件放送による名誉毀損は成立しない。
 次に、放送倫理上の問題について検討した。仮に、報道機関として報道したいと考える内容にあわせるよう事実を歪めたり、本来であれば存在しなかった事実を作出したりすることがあれば、問題がある。本件に即せば、当初の取材意図に固執するあまり、申立人に自己の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけた事情がもしもあれば、正当な取材活動を逸脱したものとして放送倫理上問題が生じる。また、その際、国家賠償請求訴訟との関連で一時金申請に伴う利害得失について訴訟弁護団の助言を受ける機会を申立人から奪うような言動がA記者にあったとすれば、放送倫理上の問題にかかわるだろう。しかし、文書とヒアリングにおける双方の主張を踏まえると、申立人による一時金申請は、申請が時期的に可能になったことをA記者から伝えられたことを契機としているものの、A記者との電話の後に申立人自ら北海道庁に電話し担当者から一時金支給法と裁判は関係ないとの説明を受けたことを理由として、一時金申請をする意思を抱いたと考えられる。この間A記者が、申立人が弁護団に相談するのを妨げる言動なども認められない。電話翌日の同行取材が決まったのも申立人の方からA記者に電話をかけたことを契機としている。また、申立人は、本件放送によって報じられた一時金申請の後、同年5月に申請を一旦取り下げたものの、2020年2月には、弁護団の助けを借りて再び申請をしている。したがって、これらの事実経過に照らすならば、申立人の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけて翻意させたとか、訴訟弁護団から助言を受ける機会を奪ったとか、それ以外にも事実を歪めたりありもしない事実を作出したりしたと評価すべき行き過ぎた取材があったとまでは言えないと委員会は判断する。
 よって、放送倫理上の問題も認められない。

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2020年11月16日 第75号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第75号

申立人
札幌市在住の男性
被申立人
札幌テレビ放送株式会社
苦情の対象となった番組
『どさんこワイド179』
放送日時
2019年4月26日(金)
午後3時48分~午後7時00分のうち午後6時54分から約2分間(ローカル)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.背景となる事情
  • 2.人権侵害の有無
  • 3.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年11月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年11月16日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第74号

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年10月14日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された問題を放送した。インタビューに答えた周辺住民女性が、突然マイクを向けられ誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。フジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論した。
委員会決定は、本件放送に、人権侵害、また放送倫理上の問題があったとは判断できない、とした。

【決定の概要】

 2019年8月30日に放送されたフジテレビの『とくダネ!』は、都内の公園で近隣の受験塾の生徒が大縄跳びをしながら歴史上の人物名などを暗唱していることに周辺住民から苦情があり、行政が大縄跳びを禁止する看板を立てたことなどを紹介した。申立人はインタビューを受けた周辺住民の一人で、「本を読んでたりとか、集中して何かをやんなきゃいけない日だったりすると、ちょっとうるさいなと思って」などと答える場面が17秒にわたり放送された。
 申立人は、日没後に犬を連れて公園を散歩中、突然、若い女性に背後から声をかけられ、放送局名・番組名や取材の趣旨を告げられず、撮影許可を明示的に求められぬままインタビューを受け、また大縄跳びは「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに「誘導尋問」され、あたかも迷惑しているかのような発言を「捏造」された、と主張している。「懇意にしている学習塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて、BPO放送と人権等権利に関する委員会に申立書を提出した。
 一方、フジテレビは、取材したディレクターが2度にわたり「フジテレビ、とくダネ!です」と伝え、「(大縄跳びを禁止するという)看板について取材しているのですが」などと断ってからインタビューと撮影を開始したのであり、申立人は撮影・放送(いわゆる「顔出し」を含む)を承諾していた、また「誘導尋問」はしておらず、インタビュー内容も加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」と反論している。
 申立書などの書面とヒアリングを総合して検討した結果、委員会は、撮影・放送それ自体に対する申立人の承諾がなかったとまではいえず、また質問者が本意でない答えを強いるという意味での「誘導尋問」や「捏造」があったと断定することもできないため、本件放送が申立人の肖像権など人格権を不当に侵害したと判断することはできない。同じ理由で、取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法についても、放送倫理上の問題があったと判断することはできない。
 ただし、本件放送のような、通行人が予期せず声をかけられる種の街頭インタビューの場合、被取材者の大多数は申立人のようにマス・メディアの取材・報道に不慣れであることから、取材者は放送局名・番組名をはじめ、質問の対象・趣旨などを取材に際して可能な範囲で説明し、かつ撮影した映像等の実際の使用についても本人の意向を明確に確認しておくことが望ましい。

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2020年10月14日 第74号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第74号

申立人
東京都内在住 女性
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『とくダネ!』
放送日時
2019年8月30日(金)
午前8時~9時50分のうち午前8時13分から8時35分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人とフジテレビの対立点
    • (1) 取材経緯(承諾の有無)
    • (2) 発言内容(「誘導尋問」と発言の「捏造」)
  • 2.人権侵害
    • (1) 肖像権の侵害
    • (2) 「誘導尋問」と発言の「捏造」による人格権の侵害
  • 3.放送倫理上の問題
    • (1) 取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法
    • (2) 申立人に対する本件放送後の一連の対応

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年10月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年10月14日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第73号

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年6月30日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは、2018年7月6日に放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』で、オウム真理教の元幹部7人の死刑執行について報じた。
申立人の松本麗華氏はオウム真理教の代表だった松本智津夫元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の名前と顔写真を一覧にしたフリップに「執行」のシールを貼るなどした点で死刑執行をショーのように扱っているとし、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者の発言によって名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、いずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2018年7月6日にフジテレビが放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』(以下、「本件番組」という)である。本件番組は、地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で死刑が確定したオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚ら、教団の元幹部7人の死刑執行に関する情報を、中継やスタジオ解説などを交えて報じた。
 申立人は松本元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の顔写真を一覧にしたフリップに「執行」の表示を印字やシール貼付で行ったことなどの点で、人の命を奪う死刑執行をショーのように扱い、また、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者(被害対策弁護団の伊藤芳朗弁護士)の「松本死刑囚が生きながらえればそれだけ、まあ生きているだけで悪影響というものはある」という発言が放送されたことによって、名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、フジテレビに謝罪を求め、BPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対しフジテレビは、速報情報を生放送で扱う時間的、技術的制約の下、複数の死刑執行の情報等を迅速に分かりやすく伝えたものであり、人権や表現上の配慮を十分行っている、などと説明している。
 まず、本件番組の意義について検討すると、本件番組は、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者や、事件において重要な役割を果たした者の死刑が執行され、または執行されようとしているという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものである。
 人権侵害に関しては、申立人の故人に対する敬愛追慕の情の侵害の有無が問題となる。敬愛追慕の情の違法な侵害があったと言えるかは、諸事情を総合考慮して社会的に妥当な許容限度(受忍限度)を超えたかどうかによって判断する。
 フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害の有無については、申立人の立場からすれば、悲しみに追い打ちをかけられたと感じることも当然だとは思われるものの、生放送で速報情報を扱う時間的、技術的制約の下で、複数の死刑囚の執行情報を視聴者に分かりやすく伝えるという目的の正当性があり、「執行」の文字の大きさや色などについて配慮がなされていることなどからすれば、必要性・相当性も認められる。
 「執行」シールを貼付する場面についても、それは1回だけであり、時間もごく短いもので、貼付行為そのものに注意を促すような出演者の言動もなかったことから、一般視聴者に対してシールの貼付自体が殊更に強い印象を与えたとも言えない。シール貼付には、迅速かつ正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められる。
 以上より、フリップ及び「執行」シール貼付の手法の利用は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を許容限度を超えて侵害するものではない。
 伊藤弁護士の発言による人権侵害については、その発言の趣旨は、現在も教団の後継諸団体に対して松本元死刑囚が影響力を有しており、無差別大量殺人に及ぶ危険性があるという状況の下で、被害対策弁護団の一員として「松本死刑囚の死刑執行までに時間がかかれば、それだけ悪影響はある」というものであり、それに加えて、死刑執行がなされない限り、被害者・遺族に不安を与え続けていたという趣旨も含まれていると、一般視聴者には理解される。同元死刑囚の教団の後継諸団体への影響力の点は、公安審査委員会や公安調査庁の認識を踏まえれば虚偽ではなく、また、本件発言は、同元死刑囚を首謀者として遂行された戦後犯罪史上屈指の重大事件の被害者や遺族の被害感情を代弁する発言の一部として述べられたものであることからすれば、表現として不相当であるとも言えず、本件発言は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を、許容限度を超えて侵害するものではない。
 本件番組には、元死刑囚らの移送された先の拘置所名や、元死刑囚らのかつての教団内での地位などについて誤りがあるが、一般に、生放送中にミスが生じることはありうることであって、また、そのほとんどは最終的には実質的に修正されているため、誤りがあることをもって死刑をショー化する等の意図があったとは言えない。
 放送倫理上の問題について、申立人は、本件番組が死刑をショー化しており、人命を軽視し、視聴者に不快感を与えるなどとして日本民間放送連盟放送基準や放送倫理基本綱領に違反すると主張する。しかし、前述のとおり、本件番組は、極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであるし、「執行」シールを貼るという手法も、死刑の執行をことさらショーのように扱ったものではなく、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 以上のとおり、委員会は、本件番組に人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断する。

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2020年6月30日 第73号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第73号

申立人
松本 麗華
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』
放送日
2018年7月6日(金)
放送時間
午前9時50分~11時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.今回の死刑執行報道の特殊性と本件番組の意義
    • (1) 今回の死刑執行報道の特殊性
    • (2) 本件番組の意義
  • 2.敬愛追慕の情の侵害による人権侵害について
    • (1) 判断方法
    • (2) フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害について
    • (3) 伊藤芳朗弁護士の発言による人権侵害について
    • (4) 事実関係の誤りによる人権侵害について
    • (5) 小括
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月30日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第72号

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定

2020年6月12日 放送局:テレビ埼玉

見解:問題なし
テレビ埼玉は2019年4月11日の『NEWS545』で、埼玉県内の元市議が提起した損害賠償訴訟のニュースを放送した。その中で、元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であるとして、BPO放送人権員会に申し立てを行った。
委員会は、審理の結果、そのいずれについても、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

テレビ埼玉は、2019年4月11日(木)の夕方のニュース番組『NEWS545』(以下、「本件番組」という)のトップ項目で、さいたま地裁Z支部(Zは放送では実名)で、埼玉県内のX元Y市議会議員(氏名X、市名Yともに放送では実名。以下同様)が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論のニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
元Y市議は、本件放送について以下の3つの点を問題として本件申立てを行ったが、委員会は、審理のうえ、そのいずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
(1) 申立人は、本件放送のタイトルが「元Y市議セクハラ訴訟」となっていること自体が問題であるとし、申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え、申立人の名誉を損なうと主張している。
しかし、本件放送において、一般視聴者が新聞の見出しのように「元Y市議セクハラ訴訟」の部分だけを拾い出して見る事情はないから、本件放送が何を伝えたかは、本件放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する。本件放送は、冒頭で「元Y市議が被害を訴えた女性職員を相手取った裁判」と明確に伝え、裁判では、申立人が女性職員から請求された慰謝料を支払う義務がないことの確認と女性職員に対する損害賠償を求めていること、申立人が女性職員の言うセクハラ被害は事実ではないと意見陳述したことなどを報じている。本件放送から一般視聴者が、この裁判について申立人がセクハラを訴えられたような印象を受けるとは認められず、名誉毀損は問題とならない。
また、「元Y市議セクハラ訴訟」との表示には、正確性と公正性の観点を配慮して工夫の余地があったとは言えるが、同表示は本件放送の一部であり、本件放送では、裁判における申立人の主張である請求の内容や意見陳述の内容が伝えられており、同表示に放送倫理上問題があるとはいえないと判断する。 
(2) 申立人は、実際には第三者委員会のハラスメント認定前に議員辞職しているのに、経緯の説明において「認定され、辞職しました」というナレーションがなされたことで、一般視聴者は、第三者委員会にハラスメントを認定されたのを受けて議員を辞職したと受け止め、議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等を与え名誉が損なわれたと主張している。
このナレーションによって、一般視聴者が、申立人はハラスメントを認定され、辞職したと、ナレーションの順番どおりの時系列で受け止める可能性はある。しかし、そのことを前提としても、本件放送は、申立人がハラスメントの事実を否定し、辞職理由について騒ぎに市議会を巻き込みたくなかったためであり断じてハラスメントの行為を認めたわけではないと意見陳述したことを報じており、本件放送によって一般視聴者が、申立人が議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等をするとは認められず、名誉毀損は問題とならない。同様の理由で、放送倫理上の問題もない。
この時系列の点について、申立人は代理人弁護士を介して本件放送直後に訂正の申入れをしたが、お詫びと訂正の放送は選挙投開票翌日となった。時間的制約などから当日の本件番組内で訂正しなかったことは一定程度理解できる。翌日、告示前に同じ時間帯の番組内でお詫びと訂正の放送をする選択があってしかるべきだったとは言えるが、本件放送当日夜のニュースでハラスメント認定と辞職の時系列がはっきりとわかるように修正して放送していること、本件放送は申立人の社会的評価を低下させるものとは認められないことから、それをしなかったことをもって放送倫理上問題があるとまではいえないと判断する。
(3) 申立人は、本件放送で次の市議会議員選挙への出馬に言及したことは、いくつものハラスメントを認定されて議員を辞職したばかりの元市議が性懲りもなく立候補するという印象を視聴者に与える選挙妨害であると主張している。
しかし、市議選への出馬は申立人自身が述べ、すでに周知されていたことであるし、本件放送では、申立人の提起した裁判の内容や意見陳述の内容を報じたうえで伝えており、申立人の市議選出馬に言及しても、申立人の社会的評価が低下することはないし、性懲りもなく立候補するという印象を一般視聴者に与えてもいない。市議選への出馬に言及したことは名誉毀損として問題にならないし、選挙を妨害するとは認められない。

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2020年6月12日 第72号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第72号

申立人
埼玉県在住 元市議会議員
被申立人
株式会社 テレビ埼玉
苦情の対象となった番組
『NEWS545』
放送日
2019年4月11日(木)
放送時間
午後5時45分~6時15分のうち午後5時45分~5時47分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
      • ア 「本件放送は何を伝えたか」をどう判断するか
      • イ 本件放送は何を伝えたか、申立人の社会的評価を低下させたか
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 市議選出馬への言及に問題はなかったか
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 本件番組中の訂正要求への対応とその後の措置について問題はなかったか
      • ア 事実経過
      • イ 委員会の判断

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月12日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2019年度 第71号

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」に関する
委員会決定

2020年2月14日 放送局:テレビ東京

見解:要望あり
テレビ東京は、2018年5月16日、『ゆうがたサテライト』内で、オウム真理教の後継団体であるアレフの動向に関するニュースを放送した。その中に、アレフの信者である申立人が登場する部分があったが、申立人の顔にはボカシがかけられていたものの、音声の一部が加工されていなかった。
申立人は、再三撮影をしないよう訴えたにもかかわらず無断で全国放送され、肖像権とプライバシーが侵害された、さらに、取材や編集の方法において放送倫理上の問題もあるとして、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、プライバシー、肖像権の侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。
ただし、委員会は、放送内容に高い公共性・公益性があるとしても、個人のプライバシー保護を徹底させることは、放送の目的と何ら矛盾することではなく、両立しうることであると考える。それは本件ニュースにもあてはまるとして、テレビ東京に対して、ボカシの濃さや音声加工についての技術的な処理の問題、事前のチェック体制など段取りの問題、プライバシー保護に対する関係者の意識の問題など、種々の観点から再発防止に向けた取り組みを強めることを要望した。

【決定の概要】

テレビ東京は、2018年5月16日(水)のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、午後4時59分から午後5時6分頃までの間、オウム真理教の後継団体であるアレフの動向に関するニュースを放送し、その中にアレフの信者である申立人が登場する部分があった。
ニュースは、死刑判決が確定していたオウム真理教の元幹部7人が2018年3月半ばに各地に移送され、教祖・麻原彰晃らの死刑執行の準備が進んでいるとの見方があることを紹介したうえで、そのような状況下でのアレフの動向を報じたものである。
アレフが「集中セミナー」と呼ぶ信者を集めた行事を行うという情報に基づいて、テレビ東京の取材班が、道路を隔てた向かい側にある駐車場に停めたワゴン車の中から教団施設の方向を撮影しようとしていたところ、これを発見した申立人ともう1人の信者がテレビ東京の記者に声をかけた。ワゴン車から出てきたテレビ東京のカメラマンが、申立人が撮影されることを拒否しているにもかかわらず申立人を撮影し続け、申立人の側もビデオカメラを構えてテレビ東京の記者たちを撮影しているという状況が放送される。テレビ東京のカメラマンがカメラを回し続けたこともあり、申立人は徐々に強い口調になりながら撮影への抗議を続ける場面が1分間弱続いてその場面は終わる。
その場面では、申立人の顔の部分にボカシがかかっている。申立人の声は基本的に加工されているものの、途中の10秒余り、加工されないままの肉声が流れ、これに続いて申立人の音声が加工されたかたちで同じ場面が繰り返し放送される部分がある。これは、一連の画像から一部のみを切り取って声を加工したうえで、もとの部分に上書きする方法で編集するべきであったところ、誤って、声を加工していない映像の後ろに、声を加工した同じ場面を挿入してしまったために生じたミスであるとテレビ東京は説明している。
申立人は、このニュースについて、放送で登場する人物が申立人と特定できるために申立人がアレフの信者であることなどが明らかにされてプライバシーが侵害された、また、申立人が拒絶したにもかかわらず撮影を続けられて肖像権が侵害された、さらに、取材や編集の方法において放送倫理上の問題もあるとして委員会に申し立てた。
委員会は、審理のうえ、プライバシー、肖像権の侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。しかし、後述のとおり再発防止策の強化を要望することとした。決定の概要は以下のとおりである。
申立人の顔にかけられたボカシは薄く、一部で申立人の肉声が流れたことから、申立人がこの施設にいることや申立人がアレフの信者であることを知る者などには、放送の対象が申立人であると特定が可能である。しかし、アレフの動向を報じる本件ニュースの放送内容には、全体としては高い公共性・公益性が認められ、放送の対象を申立人と特定しうる視聴者は、基本的には申立人がアレフの信者であることを知っている者に限られることなどから、プライバシーの侵害があったと断ずることはできないと判断した。
また、取材の目的にも公共性・公益性が認められ、申立人やアレフの側とのトラブルを回避する必要性もある中で撮影を続けたことに違法性はなく、肖像権の侵害にもあたらない。
編集上のミスによって申立人の肉声が流れたことなどによって一部の視聴者には放送の対象が申立人であると特定できることとなったことについては、一部で肉声が流れたことは故意によるものではなく、ボカシを入れるなどの編集は行われて申立人と特定できる者の範囲は限定されていたこと、放送後速やかに編集上のミスの再発防止のための取り組みを行っていることから、放送倫理上の問題があるとはいえず、取材方法等にも放送倫理上の問題はない。
ただし、本件ニュースに全体としては高い公共性・公益性があることは委員会も認めるものであるが、申立人は、出家信者であるとはいえ、教団で特段の役職を持っている者ではなく、放送の対象が申立人であることを特定することに特段の意味はない。いかに放送内容に高い公共性・公益性があるとしても、個人としてのプライバシーを守る必要のある場面で、プライバシー保護を徹底させることは、放送の目的と何ら矛盾することではなく、両立しうることであり、本件ニュースでもこのことはあてはまる。
委員会は、テレビ東京に対して、ボカシの濃さや音声加工についての技術的な処理の問題、放送時間直前になってようやく編集作業が終わり、全体としてのチェックができなかったという段取りの問題、プライバシー保護に対する関係者の意識の問題など、種々の観点から再発防止に向けた取り組みを強めることを要望する。

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2020年2月14日 第71号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第71号

申立人
宗教団体会員の男性
被申立人
株式会社 テレビ東京
苦情の対象となった番組
『ゆうがたサテライト』
放送日
2018年5月16日(水)
放送時間
午後4時54分~5時20分のうち4時59分~5時6分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.プライバシー侵害の有無について
    • (1) 放送の対象が申立人であることを特定できるか
    • (2) プライバシー侵害の有無
  • 3.撮影・放送による肖像権侵害の有無
    • (1) 肖像権侵害についての考え方
    • (2) 撮影時の肖像権侵害の有無
    • (3) 放送による肖像権侵害の有無
  • 4.放送倫理に関する検討
    • (1) 取材方法について
    • (2) 編集方法について
    • (3) 申立人が特定されるおそれのある放送について
    • (4) 放送後の対応・申立人への配慮について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年2月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年2月14日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2019年度 第70号

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」に関する
委員会決定

2019年10月30日 放送局:日本放送協会(NHK)

見解:問題なし
NHKは、2019年1月21日に「ニュースこまち845」(秋田県ローカル放送)で、情報公開請求などで明らかになった、過去5年間の県内国公立大学での教員のハラスメントによる処分に関するニュースを放送した。この中で県内の大学(放送では実名)で起きた3年前の事案について、匿名で「男性教員は、複数の学生に侮辱的な発言をしたことなどがアカデミックハラスメントと認定され、訓告の処分を受けた」と報じた。
この放送について、男性教員は「不正確な情報をあたかも実際に起きたかのように報道された。正常に勤務ができなくなった」として、NHKに対して謝罪を求め、委員会に申立書を提出した。
申立人は本件放送について「事実と異なる内容」と主張しているが、申立人が大学当局からハラスメントを理由に訓告措置を受けたこと自体は、申立人も認めている。
もし本件放送で「男性教員」が特定できるとすれば、その者の社会的評価を低下させる。しかし、本件放送には、大学名と男性教員であるということ以外、申立人に関する個人情報は含まれていないことなどから、申立人に対する名誉毀損は成立しない。また社会的評価をさらに低下させる新しい情報があったとすれば、名誉毀損が成立する可能性があるが、本件放送にある言動の具体例もとりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。したがって、この点でも申立人に対する名誉毀損は成立しない。
本件放送は、情報公開請求を通じて得た情報をもとにニュースとして伝えたものである。NHKの担当記者は大学当局に数回にわたって追加取材を行っている。放送倫理に求められる事実の正確性と真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題もない。

【決定の概要】

NHK秋田放送局は2019年1月21日午後8時45分から秋田ローカルのニュース『ニュースこまち845』で、秋田県内の国公立大学で過去5年間に行われた教員によるセクシャルハラスメントやアカデミックハラスメントなどによる処分に関して、情報公開請求を通じて得た情報をもとにしたニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
申立人は、2016年9月、学生へのアカデミックハラスメントを認定され、大学当局から訓告を受けている。本件放送は、同じ大学でのセクハラの事例の後、「さらに別の男性教員(申立人を指す)は、複数の学生に侮辱的な発言をしたことなどがアカデミックハラスメントと認定され、平成28年9月に訓告の処分を受けています」と報じた。このナレーションと重なるかたちで、大学構内を歩く学生の映像や「A大学(本件放送では実名)の男性教員 アカデミックハラスメントと認定」というテロップと、NHKが得た文書中の「学生への侮辱的な発言、威圧的な行動」、「小中学生でもできる」という文言を接写して拡大したものが画面に表示された。
申立人は本件放送について「事実と異なる内容」と主張し、ハラスメントを認定した大学当局の措置の不当性を強く主張しているが、事実認定の当否は別にして、申立人が大学当局からハラスメントを理由に訓告措置を受けたこと自体は、申立人も認めている争いのない事実である。
申立人に対する訓告措置は教授会で報告されたほか、匿名で大学内のイントラネットで教職員・学生に告知された。申立人の研究室の所属学生の1年間募集停止の措置を伴っていたこともあって、対象者が申立人であることは大学教職員だけでなく当時当該学部に在籍していた学生の多くに知られることになったと考えられる。しかし、それは訓告措置が公表された結果であって、本件放送に起因するものではない。
本件放送の内容は、不祥事ゆえに所属大学から不利益措置を受けたことを意味するから、放送された「男性教員」が特定できるとすれば、その者の社会的評価を低下させる。しかし、本件放送には、大学名と男性教員であるということ以外、申立人に関する個人情報は含まれていない。当時、申立人が訓告措置を受けたことを知っていた大学関係者・学生を超えて、本件放送を見た不特定多数の一般視聴者が「男性教員」を申立人と特定する可能性は考えられない。したがって、申立人に対する名誉毀損は成立しない。
ただし、本件放送中に申立人の社会的評価をさらに低下させる新しい情報があったとすれば、名誉毀損が成立する可能性がある。本件放送では、「小中学生でもできる」という訓告措置を学内に伝えた文書中にはなかった表現がある。しかし、「小中学生でもできる」という表現は、威圧的な言動の具体例としてとりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。したがって、この点でも申立人に対する名誉毀損は成立しない。
本件放送は、前述のように情報公開請求を通じて得た情報をもとにニュースとして伝えたものである。国民の知る権利に応える観点から、報道機関はこうした制度を積極的に活用すべきだろう。もっとも情報公開請求によって得た情報とはいえ、その内容をそのまま報道するだけであれば、発表報道とさして変わらない場合もある。報道することの公共的な価値の判断に加えて、疑問点を質すなど事実の吟味も必要である。
本件放送について言えば、NHKの担当記者は訓告措置に変更がないかどうかなどの追加取材を、メールや電話で大学当局に数回にわたって行っている。放送倫理に求められる事実の正確性と真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題はないと、委員会は判断する。

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2019年10月30日 第70号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第70号

申立人
秋田県在住 男性大学教員
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『ニュースこまち845』(秋田放送局ローカルニュース)
放送日
2019年1月21日(月)
放送時間
午後8時45分~9時00分のうち午後8時46分~8時51分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.検討の対象
  • 2.名誉毀損についての判断
    • (1) 本件放送は何を伝えたか
    • (2) 申立人を特定できたか
    • (3)「新しい情報」の評価
    • (4) 名誉毀損についての結論
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2019年10月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年10月30日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2018年度 第69号

「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定

2019年3月11日 放送局:TBSテレビ

見解:放送倫理上問題あり
TBSテレビは、2017年12月29日に「新・情報7daysニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版」で、タレント細川茂樹氏に関し、「パワハラを理由に契約を解除された」などと放送した。
この放送について、細川茂樹氏は「放送は、事務所からパワハラを理由に契約解除されたことを強調して取り上げているが、仮処分決定で事務所側の主張には理由がないことが明白になっており、申立人の名誉・信用を侵害する悪質な狙いがあった」として委員会に申立書を提出した。
委員会は、審理の結果、「放送は、疑惑が相当濃厚であるという事実を摘示するものといえ、申立人の社会的評価を低下させる」としながらも、「名誉毀損の成否について判断するよりも、放送倫理上の問題を取り上げることの方が有益」と判断し、当事者の主張が食い違う紛争・トラブルを扱いながら仮処分決定に触れなかったこと、使用したVTR素材が申立人の名誉や名誉感情に対する配慮に欠いていたことの2点について、放送倫理上の問題があると結論づけた。そしてTBSテレビに対して、本決定の趣旨を真摯に受け止め、掘り下げた検証を行い、今後の番組制作に活かすよう求めた。

【決定の概要】

本件申立ての対象となったのは、TBSテレビで2017年12月29日に放送された『新・情報7days ニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』(以下、「本件番組」という)の一部である。本件番組は2017年の芸能ニュースをランキング形式で取り上げるものであり、その14位の項目の冒頭に申立人に関して放送された部分が問題となった(この部分を以下、「本件放送」という)。
本件放送では、まず、「14位、俳優・細川茂樹、事務所と契約トラブル」というナレーションのあと、過去に放送された申立人のVTRが放送され、その中で「誰に何を言われようと、やんちゃに生きていきますね」という申立人の発言が流される(以下、「やんちゃ発言VTR」という)。その後再びナレーションで、「昨年末、所属事務所からパワハラを理由に契約解除を告げられた細川茂樹さん。今年5月、契約終了という形で、表舞台から姿を消した」などと述べられる。本件放送の放送時間は31秒である。
本件放送による摘示事実について、「昨年末~」というナレーション自体は多義的であるが、それに先立つやんちゃ発言VTRや、本件放送のテロップも含めると、申立人がパワハラを行ったことを断定しているとまでは言えないが、そうした疑惑が相当程度濃厚であるという事実を摘示するものと言え、申立人の社会的評価を低下させる。
ところで、委員会には事案を人権侵害の問題として扱うか、放送倫理上の問題として扱うかについて、判断の余地が存在する。次の(1)から(3)までを総合的に考慮すると、名誉毀損の成否についての判断をするよりも、放送倫理上の問題を取り上げることの方が、報道被害の解決を図りつつ、正確な放送と放送倫理の高揚への寄与のために有益だと考える。
(1)本件放送がごく短いもので、ナレーション及びテロップそのものは概ね真実であること(もっとも、重大な言及漏れがあることは後述 a)の通りである)、そして、本件放送はごく短いものであり、特に揶揄するような表現を用いているわけでも、パワハラの存在を断定するものでもなく、本件放送そのものが申立人の社会的評価に及ぼした影響は小さいこと、(2)申立人の被害感情が大きいことには理解できる側面があるが、TBSに悪意があったわけではないこと、(3)TBSは早い段階から本件放送に一定の問題があったことを認めて協議に応じてきたのであり、早期に被害回復措置がとられる可能性もあったこと。
そして、次の2点について放送倫理上の問題がある。a)申立人の主張を認める東京地裁の本件仮処分決定に言及しなかったことによって、当事者の主張が食い違う紛争・トラブルの事案を扱う際に特に求められる公平・公正性及び正確性を欠くことになったこと、b)やんちゃ発言VTRを使用したことが申立人の名誉や名誉感情に対する配慮に欠けたこと。他方、本件番組が年末特番であって、申立人の契約トラブルが話題になった時点から時間が経っていることとの関係で、事後確認を十分にしていなかった点に放送倫理上の問題があるとまで言えるかについては、委員の間で一致をみなかった。
本件放送は芸能情報番組の一部であるが、芸能情報については、制作者側に、視聴者が必ずしも真剣に受け止めるわけではないし、芸能人である以上は多少不正確な情報でも甘受すべきだという考えがあるのかもしれない。一般的にはそのように言える場合もあり得るが、本件は申立人の芸能人生命に関わる事案として法的措置にまで訴えていることからすれば、より慎重な考慮が必要であった。
TBSも、本件放送に関しては「言葉足らず」であったとして反省を示しているが、その背景には何があるか、検証が求められる。TBSには、本決定の趣旨を真摯に受け止め、本決定で指摘した諸問題について、「言葉足らず」という総括にとどまらない掘り下げた検証を自ら行い、今後の番組制作に活かしてもらいたい。

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2019年3月11日 第69号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第69号

申立人
細川茂樹
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『新・情報7daysニュースキャスター 超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』
放送日時
2017年12月29日(金)午後9時00分~午後11時04分
(午後9時57分10秒~57分41秒)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の背景事情
  • 3.本件放送の内容
  • 4.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) 摘示事実について
    • (2) 名誉毀損について判断することの適否
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) 本件仮処分決定への言及がないことについて
    • (2) やんちゃ発言VTRについて
    • (3) 本件仮処分決定後の事情について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2019年3月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年3月11日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2019年6月18日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

委員会決定第69号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月11日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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2018年度 第68号

「命のビザ出生地特集に対する申立て」に関する委員会決定

2018年11月7日 放送局:CBCテレビ

見解:要望あり
CBCテレビは、2016年7月12日から翌2017年6月16日にかけて報道番組『イッポウ』で10回にわたって、外交官・杉原千畝の出生地をめぐる特集等を放送した。岐阜県八百津町が千畝の手記等をユネスコ世界記憶遺産に登録申請したが、「八百津町で出生」という通説が揺らいでいるとして、千畝の戸籍謄本についての検証や、千畝の出生地が記された手記は、千畝の自筆ではない可能性が高いとする筆跡鑑定の結果等を放送した。
この放送について、手記を管理しているNPO法人「杉原千畝命のビザ」とその理事長らが、「手記は偽造文書であるとの印象を一般視聴者に与え、さらに申立人らがそれの偽造者であるとの事実を摘示するもので、社会的評価を低下させる」と名誉毀損を訴えた。
委員会は、審理の結果、本件の各放送は名誉毀損にあたらず、放送倫理上の問題もないと判断した。ただし、手記が杉原千畝の自筆によるものであるかどうかについて、筆跡鑑定事務所の意見などの具体的な疑問が存在し、鑑定事務所の意見と申立人とのコメントを対比的に放送するのであれば、申立人に対して、端的にこれらの疑問点を伝えて、申立人の反論や説明を聞くことが望ましく、委員会はCBCテレビに対し、今後の取材・報道にあたって、この点を参考にすることを要望した。

【決定の概要】

本件は、CBCテレビが、2016年7月12日から翌2017年6月16日にかけて報道番組『イッポウ』で放送した計10本の放送を申立ての対象とする事案である。第1回及び第2回の放送では、岐阜県八百津町やおつちょうが、杉原千畝ちうね
の出生地が同町であるということを前提に千畝の手記などをユネスコの世界記憶遺産に登録申請していること、一方で、戸籍謄本の記載などからすると、千畝の出生地は八百津町ではなく岐阜県武儀郡むぎぐん
上有知町こうずちちょう
(現在の美濃市)ではないかという疑問があることなどを示し、この疑問を残したままに八百津町が世界記憶遺産の申請をしていることに疑問を投げかけている。
また、杉原千畝の出生地に関する疑問が生じる理由の一つとして、世界記憶遺産の申請対象である千畝の手記の、原稿段階のメモ書きの中の出生地の記載が「武儀郡上有知町」から「加茂郡八百津町」に手書きで訂正されており、その訂正部分は千畝の筆跡とは異なると思われ、清書された手記ともう一つの手記についても、千畝の自筆ではない可能性が高いことを筆跡鑑定事務所の見解として伝えている。
申立人は、世界記憶遺産の申請対象である杉原千畝の二つの手記の原本を保管しているNPO法人とその理事長1名、副理事長2名で、10本の放送全体を通じて、副理事長2名が千畝の手記を偽造したこと、NPO法人や副理事長2名がこれら偽造文書をユネスコに提出したこと、NPO法人と理事長がこれら偽造文書を保管し、真正なものであると主張していることなどの内容が放送され、名誉を毀損されたとして、委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件の各放送は名誉毀損にあたらず、放送倫理上の問題もないと判断した。ただし、後述の通り要望をすることにした。決定の概要は以下の通りである。
委員会は、各放送が間隔を置いて不定期に放送されたものであることから、個々の放送ごとに名誉毀損の有無等を判断する。
第1回の放送では、NPO法人が「手記の原本」の管理者として紹介され、記者がホームページにある事務所の住所を訪ねたが事務所はなく、その後NPO法人は、いま事務所は移転中だと答えた、という内容が放送される。
放送は、原稿段階のメモ書きの、出生地を訂正した部分が杉原千畝の自筆ではないのではないかという疑いを示すものの、NPO法人が「手記の原本」を「管理している」ということ以上に、NPO法人やその理事が「手記」の作成に関与したとか、世界記憶遺産の申請対象として「手記」を提出したという事実は示していないから、放送は申立人の社会的評価を低下させず、名誉を毀損しない。
第2回の放送では、記者が、副理事長2名に、原稿段階のメモ書きと世界記憶遺産に申請した二つの手記の関係などを確認したのち、杉原千畝の出生地を八百津町であると考える根拠についてインタビューする場面が放送され、場面が変わって、筆跡鑑定事務所で、二つの手記が千畝の自筆でない可能性が高いとする鑑定人の意見が放送される。その後、副理事長らのインタビュー場面に戻り、「49枚の祖父が一生懸命晩年に書いたものですから」と語る、千畝の孫でもある副理事長のコメントなどが放送される。
放送の中には、NPO法人が世界記憶遺産の申請に協力していること、二つの手記をNPO法人が保管していることの他には、申立人とこれらの手記との関係を放送している部分はない。放送全体の流れからしても、放送は、杉原千畝の出生地に関する疑問とこれをめぐる八百津町の対応を問うものと視聴者には受けとめられ、手記の作成や使用に関する申立人の関与のあり方に対して、視聴者の関心が向くような流れにはなっていない。
したがって、第2回の放送は申立人の社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損とはならない。
第3回以降の放送は、各手記と申立人との関係について触れるものはなく、いずれも申立人に対する名誉毀損はない。
また、本件放送に放送倫理上の問題があるとは言えない。
ただし、二つの手記が杉原千畝の自筆によるものであるかどうかについて、筆跡鑑定事務所の意見などの具体的な疑問が存在し、鑑定事務所の意見と申立人のコメントを対比的に放送するのであれば、申立人に対して、端的にこれらの疑問点を伝えて、申立人の反論や説明を聞くことが望ましく、委員会は、今後の取材・報道にあたって、この点を参考にすることを要望する。

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2018年11月7日 第68号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第68号

申立人
特定非営利活動法人「杉原千畝命のビザ」(理事長 杉原 千弘)
杉原 千弘、杉原 まどか、平岡 洋
被申立人
株式会社CBCテレビ
苦情の対象となった番組
『イッポウ』(月~金曜 午後4時50分~7時)内 特集等
放送日時
  • (1) 2016年7月12日 第1回特集(14分1秒)
    • 「"日本のシンドラー"のルーツ~杉原千畝の出生地は?」
  • (2) 2016年8月8日 第2回特集(18分23秒)
    • 千畝はどこで生まれたの?千畝の手記の筆跡が違う?」
  • (3) 2016年9月29日 第3回特集(13分59秒)
    • 「八百津町議会に入れないCBCのカメラ」
  • (4) 2016年11月4日 第4回特集(12分8秒)
    • 「岐阜県の内部資料を独占入手。書かれていた驚きの内容とは」
  • (5) 2017年1月23日 第5回特集(13分44秒)
    • 「ユネスコ本部にCBCのカメラが入った」
  • (6) 2017年2月7日 第6回特集(13分39秒)
    • 「八百津町議会がCBC記者に意見を求める」
  • (7) 2017年2月21日 独自中継(2分7秒)
    • 「八百津町が手記2点の申請を取り下げ」
  • (8) 2017年2月22日 ショート企画(3分3秒)
    • 「八百津町がユネスコ申請書から『出生地、出身地』表記を削除」
  • (9) 2017年3月31日 第7回特集(9分14秒)
    • 「八百津町のよりどころ、千畝紹介本に複数の誤り」
  • (10) 2017年6月16日 ショート企画(6分6秒)
    • 「ついに議員からも『おかしい!』」

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.委員会の判断の枠組み
  • 2.名誉毀損について
    • (1) 第1回の放送
    • (2) 第2回の放送
    • (3) 第3回以降の放送
  • 3. 放送倫理上の問題について
    • (1) 申立人法人事務所の取り上げ方
    • (2) 申立人に対する取材のあり方

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2018年11月7日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2018年11月7日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2017年度 第67号

「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」に関する
委員会決定

2018年3月8日 放送局:東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)

勧告:人権侵害
東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は2017年1月2日放送の情報バラエティ―番組『ニュース女子』で沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対運動を特集した。軍事ジャーナリストが沖縄を訪れリポートしたVTRを放送し、その後スタジオで、出演者によるトークを展開した。また、翌週9日放送の『ニュース女子』の冒頭では、この特集に対するネット上の反響を紹介した。
この放送について、申立人の辛淑玉氏は、「本番組はヘリパッド建設に反対する住民を誹謗中傷するものであり、その前提となる事実が、虚偽のものであることが明らか」とした上で、申立人についてあたかも「テロリストの黒幕」等として基地反対運動に資金を供与しているかのような情報を摘示し、また、申立人が、外国人であることがことさらに強調されるなど人種差別を扇動するものであり、申立人の名誉を毀損する内容であると訴えた。
委員会は審理の結果、2018年3月8日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として、本件放送には申立人に対する名誉毀損の人権侵害があったと判断した。その理由として、本件放送で「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』である」、「申立人が過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動参加者に5万円の日当を出している」との事実を摘示しているものと認められ、TOKYO MXによって、それら事実の真実性は立証されていないとの判断を示した。

【決定の概要】

TOKYO MXは2017年1月2日、『ニュース女子』で沖縄の基地問題を取り上げ、1月9日の同番組では1月2日の放送に対する視聴者からの反響について冒頭で取り上げる放送をした。『ニュース女子』は「持込番組」であり、TOKYO MXは企画、制作に関わっていないが、「持込番組」であっても放送局が放送責任を負うことは当然であり、TOKYO MXもこれを争っていない。
この放送について申立人は、「高江でヘリパッドの建設に反対する住民を『テロリスト』『犯罪者』とし、申立人がテロ行為、犯罪行為の『黒幕』であるとの誤った情報を視聴者に故意に摘示した。『テロリスト』『犯罪者』といわれた人間は、当然のごとく社会から排除されるべき標的とされる。本放送によって〈排除する敵〉とされた申立人は平穏な社会生活を奪われたのである」などとしたうえ、そのように描かれた基地反対運動の「黒幕」であり「日当5万円」を支給しているものとされた「申立人の名誉の侵害について主に」問題とするなどと訴え、委員会に申立書を提出した。
これに対しTOKYO MXは、1月2日の放送は、申立人が「のりこえねっと」を主宰する者で、現在は沖縄の基地問題にも取り組んでいるという事実を摘示するものに過ぎず、これらの事実摘示が、直ちに申立人の社会的評価を低下させるものではなく、また、申立人が基地反対運動の「黒幕である」とか、基地反対運動参加者に「日当」を出しているとの内容ではないし、仮にそのような内容であり、それが社会的評価を低下させるとしても、公共性のあるテーマについて公益目的で行われた放送で、その内容は真実であるから名誉毀損にはあたらない、などと反論した。
委員会は、申立てを受けて審理し決定に至った。委員会決定の概要は、以下のとおりである。
1月2日の放送は、前半のVTR部分と後半のスタジオトーク部分からなるが、トークはVTRの内容をもとに展開されており、両者を一体不可分のものとして審理した。VTR部分では基地反対運動が過激で犯罪行為を繰り返すものと描かれており、これを受けてのトーク部分では申立人が関わる「のりこえねっと」のチラシに申立人の名前が記載されていることに言及しつつ、申立人が日当を基地反対運動参加者に支給していると受け取る余地がある出演者の発言やテロップ、ナレーションが重ねて流される。これらの放送内容を総合して見ると、本件放送は「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動を職業的にやってきた人物でその『黒幕』である」、「申立人は過激で犯罪行為を繰り返す基地反対運動の参加者に5万円の日当を出している」との事実を摘示しているものと認められ、それらは申立人の社会的評価を低下させるものと言える。この放送に公共性、公益性は認められるが、TOKYO MXによって、上記各事実の真実性は立証されておらず、申立人に対する名誉毀損の人権侵害が成立する。
これに加えて、1月2日および1月9日放送の『ニュース女子』には以下の2点について放送倫理上の問題がある。第一に、「放送倫理基本綱領」は「意見の分かれている問題については、できる限り多くの角度から論点を明らかにし、公正を保持しなければならない」などとしているところ、1月2日の放送を見れば申立人への取材がなされていないことが明らかであるにもかかわらず、TOKYO MXは考査においてこれを問題としなかった。第二に、「日本民間放送連盟 放送基準」は「人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」などとしているところ、そのような配慮を欠いた1月2日および1月9日のいずれの放送についても、TOKYO MXは考査において問題としなかった。
委員会は、TOKYO MXに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の主旨を放送するとともに、人権に関する「放送倫理基本綱領」や「日本民間放送連盟 放送基準」の規定を順守し、考査を含めた放送のあり方について局内で十分に検討し、再発防止に一層の努力を重ねるよう勧告する。

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2018年3月8日 第67号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第67号

申立人
辛 淑玉
被申立人
東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(TOKYO MX)
苦情の対象となった番組
『ニュース女子』
放送日時
2017年1月2日(月)22時から23時のうち 冒頭16分
2017年1月9日(月)22時から23時のうち 冒頭 7分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.本件放送は申立人の名誉を毀損したか
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2018年3月8日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2018年3月8日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から都市センターホテル6階会議室で公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2018年6月19日 委員会決定に対する東京メトロポリタンテレビジョンの対応と取り組み

委員会決定第67号に対して、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)から対応と取り組みをまとめた報告書が6月8日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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2017年度 第66号

「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する
委員会決定

2017年8月8日 放送局:テレビ静岡

見解:要望あり
テレビ静岡は2016年7月14日のニュース番組『FNNスピーク』等において、「静岡県浜松市の浜名湖で切断された遺体が見つかった事件で、捜査本部は関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べています」等と放送した。
この放送に対し申立人は、「殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」等と訴えた。
委員会は、審理の結果、本件放送に申立人の人権侵害(名誉毀損、プライバシー侵害)はないと結論した。放送倫理の観点からも問題があるとまでは判断しなかった。しかし、今回、自局のニュースが委員会の審理対象になったことを契機に、人権にいっそう配慮した報道活動を行うための議論を社内的に深めることをテレビ静岡に要望した。

【決定の概要】

2016年7月8日、静岡県浜松市の浜名湖で切断された遺体が見つかった。本件放送は、同月14日、テレビ静岡がこの浜名湖事件の捜査の進展状況を午前11時台から午後6時台に4回、ニュースとして伝えたものである。
本件放送は、「関係先とみられる県西部の住宅などを捜索し、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」、「関係者から事情を聴いている」というテレビ静岡が独自に入手した捜査本部の動向を含む内容だった。これらは申立人宅の一部や敷地内で押収された車が運ばれる場面などの映像とともに放送された。
申立人は、後に浜名湖事件の容疑者として逮捕される人物と交遊があり、この人物から軽自動車を譲り受けていた。この車がこの日、申立人宅の敷地内で押収された。申立人は、捜査員は浜名湖事件の容疑者による別の窃盗事件の証拠品として車を押収しただけだったにもかかわらず、本件放送は浜名湖事件に関係のない申立人を事件に係ったかのように伝えたとして、人権侵害(名誉毀損、プライバシー侵害)を委員会に申し立てた。
テレビ静岡の取材経緯や多数の捜査員を動員した警察当局の行動から分かるように、当日、申立人宅で行われた捜査活動が浜名湖事件捜査の一環だったことは明らかである。
委員会は、本件放送の映像を検討し、申立人宅の一部が映った映像によってただちに申立人宅と特定されるとはいえないと判断した。しかし、当日朝の警察の活動は申立人宅周辺の人々の耳目を集めるものだったと思われ、そうした人々が後に本件放送を見て、申立人宅を特定した可能性は否定できない。
本件放送には「関係先の捜索」、「関係者の聴取」といったスーパーが伴っていた。その結果、本件放送によって、申立人宅が浜名湖事件の「関係先」として、申立人が「関係者」として、申立人宅周辺の人々に認知され、申立人の社会的評価は一定程度低下しただろう。
しかし、殺人事件の捜査状況を伝える本件放送には公共性・公益性が認められる。そのうえで、委員会は、「関係先」、「関係者」、「捜索」という表現を含めて、本件放送が伝えた事実の重要部分の真実性ないしは相当性を検討し、真実性ないしは相当性が認められると判断した。したがって、本件放送は申立人への名誉毀損に当たらない。
申立人は、本件放送で流れる布団や枕が映った申立人宅の映像などが申立人のプライバシーを侵害していると主張する。しかし、これらの映像で映された対象自体は他者に知られることを欲しない個人に関する情報や私生活上の事柄とまではいえないから、プライバシー侵害は認められない。
放送倫理の観点からも委員会は本件放送に問題があるとまでは判断しなかった。しかし、取材過程で、捜査活動の目的は申立人宅の家宅捜索ではなく、敷地内に駐車していた軽自動車の押収だったことが推定できたのではないか。そのような捜査活動の全体状況に考慮して、プライバシー侵害に当たらないとはいえ、繰り返し流れた「関係先の捜索」というスーパーを表示した申立人宅の一部の映像はより抑制的に使うべきだったのではないか。本事案は、たとえ実名や本人を特定する内容を直接含むものでなくとも、テレビニュース、とりわけ犯罪に係るニュースが当事者に大きな打撃を与える場合があることを教えてくれたものといえる。委員会は、今回、自局のニュースが委員会の審理対象になったことを契機に、人権にいっそう配慮した報道活動を行うための議論を社内的に深めることをテレビ静岡に要望する。

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2017年8月8日 第66号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第66号

申立人
静岡県在住A
被申立人
株式会社テレビ静岡
苦情の対象となった番組と放送日時
2016年7月14日(木)
『FNNスピーク』
  午前11時37分頃(全国ネット)
  午前11時48分頃(ローカル)
『てっぺん静岡』 午後 4時25分頃(ローカル)
『みんなのニュースしずおか』 午後 6時14分頃(ローカル)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに――何を問題にすべきか
  • 2.名誉毀損について
    • (1) 判断の前提
    • (2)「関係先」、「関係者」という表現
    • (3)「捜索」について
    • (4) 名誉毀損についての結論
  • 3. プライバシー侵害について
  • 4. 放送倫理の観点から

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年8月8日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年8月8日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。



2017年度 第65号

「都知事関連報道に対する申立て」に関する委員会決定

2017年7月4日 放送局:フジテレビ

見解:要望あり(少数意見付記)
フジテレビは2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑を取り上げ、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を伝えた。放送2日前の早朝に取材クルーを舛添氏の自宅・事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
この放送について、雅美氏と未成年の長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。2人の子どもは家を出て登校する際に1メートルくらいの至近距離からの執拗に撮影されたと肖像権侵害を訴え、雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。
委員会は、審理の結果、子どもに対する肖像権侵害は認められないと判断した。また、雅美氏による抗議の放送場面は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当であるとし、その検討結果として、映像の順序を入れ替えたり途中の一部をカットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまではいえないと判断した。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられるとした。
また、取材方法については、公共性・公益性の高い問題である以上まずは取材依頼をするべきであったし、取材の際に被取材者の言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかったとした。
委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を真摯に受け止め、指摘された点に留意し、今後の番組制作に活かすよう要望した。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見が付記された。

【決定の概要】

フジテレビは、2016年5月22日放送の『Mr.サンデー』において、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金の私的流用疑惑を取り上げ、この中で舛添氏の政治団体が、夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃を支払っていた問題を伝えた。放送2日前の早朝にカメラクルーが舛添氏の自宅・事務所前で雅美氏を取材し、番組では雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様などを放送した。
この放送について、雅美氏と長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。二人の子どもは取材の際に1メートルくらいの至近距離から執拗な撮影をされ衝撃を受けたとして肖像権侵害を訴え、また、雅美氏はこうした子どもの撮影に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、事務所家賃に関する質問を拒否したかのように都合よく編集して放送されたために名誉を毀損されたと主張している。また、取材依頼なしでの取材、子どもの登校時にあわせた早朝の取材、子どもの撮影をやめるよう求めたのにフジテレビが答えなかったこと等につき放送倫理上の問題があったと主張している。
委員会はこの申立てを審理し、大要、次のとおり判断した。
二人の子どもの撮影は、フジテレビによる雅美氏の取材の際に、いわゆる映り込みとして生じたと考えられる。政治資金流用疑惑のある家賃支払先の会社代表者である雅美氏を取材することには高い公共性・公益性が認められ、子どもの撮影は、そのような取材に伴う付随的撮影として相当な範囲を超えるものではないから、二人の子どもに対する肖像権侵害は認められない。
雅美氏による抗議を放送した部分は、政治資金流用疑惑のある家賃関係の質問に対して雅美氏がキレて怒った印象を視聴者に与え、雅美氏にマイナスイメージを与える。しかしながら、社会的評価の低下をもたらす具体的事実は摘示していないし、実際の映像を放送したにすぎないといった事情から、この点は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当である。
そのうえで、この部分につき放送倫理上の問題を検討すると、同放送部分は、雅美氏が実際には子どもの撮影に対して抗議をしたのに、家賃問題に関する質問に対してキレたという誤解を視聴者に与えるものである。ただし、映像の順序を入れ替えたり映像の途中を一部カットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまでは言えない。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられ、フジテレビは、本決定の指摘を真摯に受け止めて今後の番組制作に活かすよう要望する。
取材方法に関しては、早朝に取材を行ったことに特に問題はないが、取材依頼を試みることは通常の取材手続きとして重要かつ基本的なことであるうえ、本件は政治資金流用疑惑という公共性のある事項についての取材であったから、仮に事前に取材を申し込んでも十分な対応は期待できないと判断したとしても、事前に取材依頼を試みるべきだったと考えられる。また、取材の際に被取材者からの言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかった。これらはいずれも放送倫理上の問題まで生じさせるものではないが、フジテレビがこれらの点に改善の余地がなかったか検討し今後の番組制作に活かすよう要望する。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見がある。

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2017年7月4日 第65号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第65号

申立人
舛添雅美および同人の長男、長女
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『 Mr.サンデー 』
放送日時
2016年5月22日(日)午後11時~午前0時15分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.人権侵害に関する判断
  • 2.放送倫理上の問題に関する判断

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年7月4日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年7月4日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後2時25分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2016年度 第64号

「事件報道に対する地方公務員からの申立て」
(熊本県民テレビ)に関する委員会決定

2017年3月10日 放送局:熊本県民テレビ(KKT)

見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
熊本県民テレビは2015年11月19日、『ストレイトニュース』や情報番組『テレビタミン』内のニュース等で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕されたニュースを放送した。
この放送について申立人は事実と異なる内容で、容疑内容にないことまで容疑を認めているような印象を与え、人権侵害を受けたと訴えるとともに、フェイスブックの写真を無断で使用されるなど権利の侵害を受けたと主張し、委員会に申立書を提出した。
これに対し熊本県民テレビは、「社会的に重大な事案」と位置付けたうえで「正当な方法によって得た取材結果に基づき放送した」として人権侵害はなかったと反論した。
委員会は2017年3月10日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として放送倫理上問題ありと判断した。
なお、本決定には結論を異にする3つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

本件は、熊本県民テレビが、2015年11月19日午前11時40分以降、ニュース番組の中で、地方公務員である申立人が、酒に酔って抗拒不能の状態にあった女性の裸の写真を撮影したという容疑で逮捕されたことを報じた3つのニュースと、翌日以降、逮捕後の勤務先の対応や、不起訴処分となったことなどを報じたニュースに関する事案である。本決定では、最も詳しく報道された、逮捕当日の午後6時15分からのニュースを中心に検討した。
申立人は、この放送について、意識がもうろうとしている知人の女性を自宅に連れ込んだとか、同意なく女性の服を脱がせたなど、申立人が認めたこともない容疑まで申立人が事実を認めているなどとしたり、「卑劣な犯行」などとコメントして、申立人が悪質な犯行を行ったと印象づける放送を行って申立人の名誉を毀損し、また、申立人の職場の映像を放送したり、申立人がフェイスブックに掲載した写真も無断で放送して申立人のプライバシー等も侵害したとして、委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、申立人について、(1)わいせつ目的をもって意識がもうろうとしていた女性を同意のないまま自宅に連れ込み、(2)意識を失い横になっていた女性の服を同意なく脱がせ、(3)意識を失い抗拒不能の状態にある女性の裸の写真を撮った、(4)((1)ないし(3)の)事実を認めている。さらに、(5)警察は、薬物などによって女性が意識を失った可能性も含めて今後調べる方針である、ということを伝えるものである。熊本県民テレビは、本件放送は警察当局の説明に沿ったものであり、申立人に対する名誉毀損は成立しない、また、地方公務員であった申立人についてフェイスブックの写真や職場の映像を放送することは社会の関心に応えるものであって問題はないと主張する。
放送が示した事実のうち、逮捕の直接の容疑となった(3)の事実と、(5)の事実以外に、(1)、(2)、(4)については真実であることの証明はできていないが、警察当局の説明に基づいてこれらの点を真実と信じて放送したことについて、相当性が認められ、名誉毀損が成立するとはいえない。
しかし、容疑に対する申立人の認否などに関する警察当局の説明は概括的で明確とは言いがたい部分があり、逮捕直後で、関係者への追加取材もできていない段階であったにもかかわらず、本件放送は、警察の明確とは言いがたい説明に依拠して、直接の逮捕容疑となっていない事実についてまで真実であるとの印象を与えるものであった。この点で、本件放送は申立人の名誉への配慮が十分ではなく、正確性に疑いのある放送を行う結果となったものであることから、放送倫理上問題がある。
放送のコメントについては論評として不適切なものとはいえず、フェイスブックの写真の使用や職場の映像の放送については、本件放送の公共性・公益性に鑑みて問題はないと考える。
委員会は、熊本県民テレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために人権と放送倫理にいっそう配慮するよう要望する。

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2017年3月10日 第64号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第64号

申立人
熊本市在住 地方公務員
被申立人
株式会社熊本県民テレビ(KKT)
苦情の対象となった番組
『ストレイトニュース』『テレビタミン』
放送日時
  • 2015年11月19日(木)
    • 午前11時40分~11時49分『ストレイトニュース』
    • 午後4時45分~ 7時00分『テレビタミン』
    • 午後4時50分~「先出しニュース」
    • 午後6時15分~「テレビタニュース」
  • 2015年11月20日(金)午後4時45分~『テレビタミン』
  • 2015年12月 9日(水)午後4時45分~『テレビタミン』

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 第1. はじめに
  • 第2. 名誉毀損の主張について
  • 第3. 肖像権、プライバシー侵害の有無について
  • 第4. 放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年3月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年3月10日午後2時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後3時15分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2017年6月20日 委員会決定に対する熊本県民テレビの対応と取り組み

委員会決定第64号に対して、熊本県民テレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2016年度 第63号

「事件報道に対する地方公務員からの申立て」
(テレビ熊本)に関する委員会決定

2017年3月10日 放送局:テレビ熊本(TKU)

見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
テレビ熊本は2015年11月19日、『みんなのニュース』等で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕されたニュースを放送した。
この放送について申立人は事実と異なる内容で、容疑内容にないことまで容疑を認めているような印象を与え人権侵害を受けたと訴えるとともに、フェイスブックの写真を無断で使用されるなど権利の侵害があったと主張して、委員会に申立書を提出した。
これに対しテレビ熊本は、「社会的に重大な事案」と位置付けたうえで、「取材を重ね事実のみを報道した」として人権侵害はなかったと反論した。
委員会は2017年3月10日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として放送倫理上問題ありと判断した。
なお、本決定には結論を異にする3つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

本件は、テレビ熊本が、2015年11月19日午後4時50分以降、ニュース番組の中で、地方公務員である申立人が、酒に酔って抗拒不能の状態にあった女性の裸の写真を撮影したという容疑で同日午前に逮捕されたことを報じた4つのニュースと、翌日以降、逮捕後の勤務先の対応や不起訴処分となったことなどを報じたニュースに関する事案である。本決定では、最も詳しく報道された逮捕当日午後6時15分からのニュースを中心に検討した。
申立人は、この放送について、意識がもうろうとしている知人の女性を自宅に連れ込んだとか、同意なく女性の服を脱がせたなど、申立人が認めたこともない容疑まで申立人が事実を認めているなどとして、申立人が悪質な犯行を行ったと印象づける放送を行って申立人の名誉を毀損し、また、申立人の自宅建物の映像をむやみに放送し、フェイスブックに掲載した写真も無断で放送して申立人のプライバシー等も侵害したとして、委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、申立人について、(1)わいせつ目的をもって意識がもうろうとしていた女性を同意のないまま自宅に連れ込み、(2)意識を失い横になっていた女性の服を同意なく脱がせ、(3)意識を失い抗拒不能の状態にある女性の裸の写真を撮った、(4)((1)ないし(3)の)事実を認めている。さらに、(5)薬物などによって女性が意識を失った疑いがあり、警察はこの点も申立人を追及する方針である、ということを伝えるものである。テレビ熊本は、本件放送は警察の広報担当の副署長の説明に沿ったものであり、申立人に対する名誉毀損は成立しない、また、地方公務員であった申立人についてフェイスブックの写真や自宅建物を放送することは社会の関心に応えるものであって問題はないと主張する。
放送が示した事実のうち、逮捕の直接の容疑となった(3)の事実以外の(1)、(2)、(4)、(5)について真実であることの証明はできていないが、副署長の説明に基づいてこれらの点を真実と信じて放送したことについて、相当性が認められ、名誉毀損が成立するとはいえない。
しかし、容疑に対する申立人の認否などに関する副署長の説明は概括的で明確とは言いがたい部分があり、逮捕直後で、関係者への追加取材もできていない段階であったにもかかわらず、本件放送は、警察の明確とは言いがたい説明に依拠して、直接の逮捕容疑となっていない事実についてまで真実であるとの印象を与えるものであった。また、副署長の説明を超えて、単なる一般的可能性にとどまらず、申立人が薬物等を混入させた疑いがあるという印象を与えた。これらの点で、本件放送は申立人の名誉への配慮が十分ではなく、正確性に疑いのある放送を行う結果となったものであることから、放送倫理上問題がある。
フェイスブックの写真の使用やボカシの入った自宅建物の放送については、本件放送の公共性・公益性に鑑みて問題はないと考える。
委員会は、テレビ熊本に対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために人権と放送倫理にいっそう配慮するよう要望する。

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2017年3月10日 第63号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第63号

申立人
熊本市在住 地方公務員
被申立人
株式会社テレビ熊本(TKU)
苦情の対象となった番組
『みんなのニュース』『TKUニュース』
放送日時
  • 2015年11月19日(木)
    • 午後4時50分~5時00分 『みんなのニュース』
    • 午後5時54分~6時15分 『みんなのニュース』(全国)
    • 午後6時15分~6時58分 『みんなのニュース』
    • 午後8時54分~8時57分 『TKUニュース』
  • 11月20日(金) 午後6時15分~『みんなのニュース』
  • 11月27日(金)午後6時15分~『みんなのニュース』
  • 12月 9日(水)午後4時50分~『みんなのニュース』
  • 12月16日(水)午後6時15分~『みんなのニュース』
    (年末企画「くまもとこの一年」)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 第1.はじめに
  • 第2.名誉毀損の主張について
  • 第3.肖像権、プライバシー侵害の有無について
  • 第4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年3月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年3月10日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後3時15分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2017年6月20日 委員会決定に対するテレビ熊本の対応と取り組み

委員会決定第63号に対して、テレビ熊本から対応と取り組みをまとめた報告書が6月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2016年度 第62号

「STAP細胞報道に対する申立て」に関する委員会決定

2017年2月10日 放送局:日本放送協会(NHK)

勧告:人権侵害(補足意見、少数意見付記)
NHKは2014年7月27日、大型企画番組『NHKスペシャル』で、英科学誌ネイチャーに掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」を放送した。
この放送について小保方氏は、「ES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などと訴え、委員会に申立書を提出した。
これに対しNHKは、「『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと反論した。
委員会は2017年2月10日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として名誉毀損の人権侵害が認められると判断した。
なお、本決定には補足意見と、2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

NHK(日本放送協会)は2014年7月27日、大型企画番組『NHKスペシャル』で、英科学誌ネイチャーに掲載された小保方晴子氏、若山照彦氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」を放送した。
この放送に対し小保方氏は、「ES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などと訴え、委員会に申立書を提出した。
これに対しNHKは、「『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと反論した。
委員会は、申立てを受けて審理し決定に至った。委員会決定の概要は以下の通りである。
STAP研究に関する事実関係をめぐっては見解の対立があるが、これについて委員会が立ち入った判断を行うことはできない。委員会の判断対象は本件放送による人権侵害及びこれらに係る放送倫理上の問題の有無であり、検討対象となる事実関係もこれらの判断に必要な範囲のものに限定される。
本件放送は、STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高いこと、また、そのES細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたものであって、これを申立人が何らかの不正行為により入手し混入してSTAP細胞を作製した疑惑があるとする事実等を摘示するものとなっている。これについては真実性・相当性が認められず、名誉毀損の人権侵害が認められる。
こうした判断に至った主な原因は、本件放送には場面転換のわかりやすさや場面ごとの趣旨の明確化などへの配慮を欠いたという編集上の問題があったことである。そのような編集の結果、一般視聴者に対して、単なるES細胞混入疑惑の指摘を超えて、元留学生作製の細胞を申立人が何らかの不正行為により入手し、これを混入してSTAP細胞を作製した疑惑があると指摘したと受け取られる内容となってしまっている。
申立人と笹井芳樹氏との間の電子メールでのやりとりの放送によるプライバシー侵害の主張については、科学報道番組としての品位を欠く表現方法であったとは言えるが、メールの内容があいさつや論文作成上の一般的な助言に関するものにすぎず、秘匿性は高くないことなどから、プライバシーの侵害に当たるとか、放送倫理上問題があったとまでは言えない。
本件放送が放送される直前に行われたホテルのロビーでの取材については、取材を拒否する申立人を追跡し、エスカレーターの乗り口と降り口とから挟み撃ちにするようにしたなどの行為には放送倫理上の問題があった。
その他、若山氏と申立人との間での取扱いの違いが公平性を欠くのではないか、ナレーションや演出が申立人に不正があることを殊更に強調するものとなっているのではないか、未公表の実験ノートの公表は許されないのではないか等の点については、いずれも、人権侵害または放送倫理上の問題があったとまでは言えない。
本件放送の問題点の背景には、STAP研究の公表以来、若き女性研究者として注目されたのが申立人であり、不正疑惑の浮上後も、申立人が世間の注目を集めていたという点に引きずられ、科学的な真実の追求にとどまらず、申立人を不正の犯人として追及するというような姿勢があったのではないか。委員会は、NHKに対し、本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の主旨を放送するとともに、過熱した報道がなされている事例における取材・報道のあり方について局内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

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2017年2月10日 第62号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第62号

申立人
小保方 晴子 氏
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『NHKスペシャル 調査報告 STAP細胞 不正の深層』
放送日時
2014年7月27日(日)午後9時~9時49分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.委員会の判断の視点について
  • 2.ES細胞混入疑惑に関する名誉毀損の成否について
  • 3.申立人と笹井芳樹氏との間の電子メールでのやりとりの放送について
  • 4.取材方法について
  • 5.その他の放送倫理上の問題について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年2月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、被申立人に対しては2月10日午後1時からBPO会議室で行われ申立人へはBPO専務理事ら2人が東京都内の申立人指定の場所に出向いて、申立人本人と代理人弁護士に対して、被申立人への通知と同時刻に通知した。午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、委員会決定を公表した。28社51人が取材、テレビカメラはNHKと在京民放5局の代表カメラの2台が入った。
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2017年5月9日 NHK 「STAP細胞報道に関する勧告を受けて」

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2017年7月3日 報告に対する放送人権委員会の「意見」

放送人権委員会は、上記のNHKの報告に対して「意見」を述べた。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2016年度 第61号

「世田谷一家殺害事件特番への申立て」に関する委員会決定

2016年9月12日 放送局:テレビ朝日

勧告:放送倫理上重大な問題あり
テレビ朝日は2014年12月28日に『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』を3時間に及ぶ年末特番として放送した。今なお未解決の世田谷一家殺害事件を、FBIの元捜査官が犯人像をプロファイリングするという内容で、その見立ては、被害者の1人の実姉である申立人が否定していた一家に強い怨恨を持つ顔見知りによる犯行というものだった。
申立人が元捜査官と面談した内容が十数分間に編集されて放送されたが、申立人は、規制音・ナレーション・テロップなどを駆使したテレビ的技法による過剰な演出と恣意的な編集によって、申立人があたかも元捜査官の見立てに賛同したかのようにみられる内容で、申立人の名誉、自己決定権等の人権侵害があったと委員会に申し立てた。
委員会は、「勧告」として、本件放送は人権侵害があったとまでは言えないが、番組内容の告知としてきわめて不適切である新聞テレビ欄の表記とともに、テレビ朝日は、取材対象者である申立人に対する公正さと適切な配慮を著しく欠いていたと言わざるを得ず、放送倫理上重大な問題があったと判断した。

【決定の概要】

テレビ朝日は2014年12月28日(日)に『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』を3時間に及ぶ年末特番として放送した(以下、「本件放送」という)。2000年12月30日深夜に発生し今なお未解決の世田谷一家殺害事件を取り上げ、FBIの元捜査官が犯人像をプロファイリングするという内容だった。その見立ては、被害者の1人の実姉である申立人が否定していた一家に強い怨恨を持つ顔見知りによる犯行というものだった。
本件放送では、申立人が元捜査官と面談した内容が十数分間に編集されて放送された(以下、「本件面談場面」という)。申立人は、本件面談場面は、規制音・ナレーション・テロップなどを駆使したテレビ的技法による過剰な演出と恣意的な編集によって、申立人があたかも元捜査官の見立てに賛同したかのようにみられる内容で、申立人の名誉、自己決定権等の人権侵害があったと委員会に申し立てた。これに対し、テレビ朝日は、過剰な演出と恣意的な編集を否定し、本件面談場面は申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる内容ではないと反論した。
委員会は本件面談場面の流れを検討し、申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる可能性が強い内容だったと判断した。新聞テレビ欄の番組告知の表記についても思わせぶりな伏字や本件放送内で語られていない文言を使ったもので、番組内容の告知としてきわめて不適切なものだったと判断した。
しかし、本件面談場面は、申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる可能性が強い内容だったとはいえ、申立人が自身の考えを変えたとまで視聴者に明確に認識されるものではなかったこと、さらにたとえ元捜査官の見立てに賛同したと受け取られたとしても、そのことが申立人の社会的評価の低下にただちにつながるとは言えないことなどから、本件放送は申立人の人権侵害には当たらないと委員会は判断した。
申立人は、本件放送後、本件面談場面を見て元捜査官の見立てに申立人があっさり賛同したものと受け取った申立人にごく近い人々から厳しい批判や反発を受け、精神的苦痛を味わったと主張する。だが、これらの批判や反発は申立人にごく近い人々からの反応や意見であって、申立人が元捜査官の見立てに賛同するという事実がただちに社会的評価の低下をもたらすとは言えないことを考えると、申立人の人権侵害があったとまでは言えないと委員会は判断した。
次に放送倫理上の問題について判断した。テレビ朝日は申立人に取材を依頼した時点で、申立人が事件をめぐる怨恨を否定し、悲しみからの再生をテーマにさまざまな活動を行っていることをよく知っていたという。また、番組に出演する際には、衝撃的な事件の被害者遺族ということへの配慮が必要なことも十分認識していたという。にもかかわらず、申立人の考えや生き方について誤解を招きかねないかたちで本件放送を制作したことになる。番組内容の告知としてきわめて不適切である新聞テレビ欄の表記とともに、「過度の演出や視聴者・聴取者に誤解を与える表現手法(中略)の濫用は避ける」、「取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る」とした「日本民間放送連盟 報道指針」に照らして、本件放送は申立人に対する公正さと適切な配慮を著しく欠き、放送倫理上重大な問題があったと委員会は判断する。
委員会は、テレビ朝日に対して本決定を真摯に受け止め、その趣旨を放送するとともに、今後番組制作のうえで放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2016年9月12日 第61号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第61号

申立人
入江 杏 氏
被申立人
株式会社テレビ朝日
苦情の対象となった番組
『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』
放送日時
2014年12月28日(日)午後6時~8時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • はじめに――本事案の核心
  • 1.本件面談場面の流れ
  • 2.テレビ的技法について
    • (1) なぜ、問題にするか
    • (2) 二つの伏せられた発言
    • (3) ナレーション
    • (4) テロップ
  • 3.視聴者はどう受け取ったか
  • 4.新聞テレビ欄の表記
  • 5.人権侵害に関する判断
    • (1) 申立人の主張
    • (2) 人権侵害に関する結論
  • 6.放送倫理に関する判断
    • (1)「最後のピース」の意味
    • (2) 被害者遺族への配慮
    • (3) 放送倫理に関する結論

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年9月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2016年9月12日午後1時からBPO会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2016年12月20日 委員会決定に対するテレビ朝日の対応と取り組み

テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が12月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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2016年度 第60号

「自転車事故企画に対する申立て」に関する委員会決定

2016年5月16日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり (補足意見付記)
フジテレビは2015年2月17日放送のバラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』の企画コーナーで自転車事故を取り上げ、自転車事故で母親を亡くした男性のインタビューに続けて、自転車事故を起こした息子とその家族の顛末を描いたドラマを放送した。ドラマでは、この家族が高額の賠償金を払ったが、この事故でけがを負った小学生が実は当たり屋だったという結末だった。
この放送について、インタビュー取材に応じた男性が、取材の際にドラマで当たり屋を扱うことの説明がなかったことは取材方法として著しく不適切であり、自分も当たり屋であるかのような誤解を視聴者に与えかねず名誉を侵害されたなどとして委員会に申し立てていた。
委員会は、「見解」として、名誉毀損等の人権侵害は認められないが、フジテレビは申立人の立場と心情に配慮せず、本件放送の大部分を占めるドラマが当たり屋の事件を扱ったものであるという申立人にとって肝心な点を説明しておらず、本件放送には放送倫理上の問題があると判断した。

【決定の概要】

フジテレビは、バラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』(2015年2月17日放送)の「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナーで自転車事故の問題を取り上げ、自転車事故被害者の遺族である男性のインタビューに続けて、自転車事故を起こした息子とその家族の顛末を描いたドラマを放送した。ドラマは、この家族が高額の賠償金を支払ったが、この事故でけがを負った小学生が実は当たり屋だったという結末であった。
この放送について、インタビュー取材に応じた男性が、ドラマで当たり屋を扱うことの説明が取材の際になかったことは取材方法として著しく不適切であり、自分も当たり屋であるかのような誤解を視聴者に与えかねず名誉を侵害されたなどとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には、申立人に対する名誉毀損等の人権侵害は認められないが、放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、番組の構成上、申立人のインタビュー場面を含む情報部分とドラマ部分とに区別され、本件ドラマの当たり屋の事件と申立人が母親を亡くした事故は関係がないことから、一般視聴者に対して、申立人が当たり屋であるかのような誤解を与えるものとはいえない。したがって、申立人の社会的評価の低下を招くことはないから、本件放送による申立人の名誉毀損は認められない。また、本件放送で申立人に対する否定的な評価やコメントがなされているものではなく、申立人が出演した情報部分とドラマ部分とは区別されており、その関連性は間接的なものにとどまるから、本件放送による申立人の名誉感情侵害が認められるとまではいえない。
次に、放送倫理上の問題について検討すると、本件ドラマは、当たり屋の事件をとりあげた事例であって、被害者を装っている者を描くにすぎないことになるから、自転車事故が被害者に深刻な結果をもたらすという側面をなんら描いていない。フジテレビは、申立人が被害者遺族の立場から自転車事故の悲惨さを訴えたいことを認識していながら、申立人の立場と心情に配慮せず、本件放送の大部分を占める本件ドラマが当たり屋の事件を扱ったものであるという申立人にとって肝心な点を説明しなかった。この点において、フジテレビは、申立人に対して番組の趣旨や取材意図を十分に説明したとは言えず、本件放送には放送倫理上の問題がある。
以上から、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、社内及び番組の制作会社にその情報を周知し、再発防止のために放送倫理の順守にいっそう配慮するよう要望する。

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2016年5月16日 第60号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第60号

申立人
A
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』
企画コーナー「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」
放送日時
2015年2月17日(火) 午後7時~8時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人の主張と本決定における取り扱い
  • 2.人権侵害に関する判断
  • 3.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年5月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2016年5月16日午後1時からBPO会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2016年8月16日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が8月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第58号

「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」に関する委員会決定

2016年2月15日 放送局:フジテレビ

勧告:人権侵害(補足意見付記)
フジテレビは2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』で地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げた。番組では、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとされ名誉を毀損されたと申し立てた事案。放送人権委員会は審理の結果、2月15日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には人権侵害があったとの判断を示した。

【決定の概要】

本件は、フジテレビがバラエティー番組『ニュースな晩餐会』(2015年3月8日の放送)で、「ストーカー事件」の被害の問題について、その一例を伝える目的で放送し、職場の同僚の間で行われたつきまとい行為やこれに関連する社内いじめを取り上げたものである。この中で、役者による事件の再現映像と、申立人の職場の人物のインタビュー映像や隠し撮り映像、申立人自身の会話の隠し録音などが随所に織り込まれた映像が放送された。
申立人は、この放送について、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、つきまとい行為を指示したとする事実無根の放送を行ったものであるとし、この放送によって名誉を著しく毀損されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、関係者の映像等にボカシを入れ音声を加工したこと、役者による再現には「イメージ」とのテロップを付し、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」とのテロップも付したことから、フジテレビは、本件放送が特定の人物や事件について報道するものではないとしている。しかし、現実にあった事件の関係者本人の映像や音声を随所に織り込み、再現の部分も含めて一連の事件として放送している以上、視聴者は、現実に起きた特定の事件を放送しているものと受け止める。
本件放送には一定のボカシがかけられるなどしているものの、職場の駐車場の映像や、申立人の職場関係者に関する情報が含まれていること、取材協力者でもあった事件関係者らが、本件放送が行われることを予め職場などで話して回ることも十分予想できる状況下であったことなどから、本件放送内容は、職場の同僚にとって、登場人物が申立人であると同定できるものであった。
以上を前提とすると、本件放送は、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、実行者に「ストーカー行為をさせ」ていたなどと指摘するものであることになるが、これらの点が真実であるとはおよそ認められず、真実と信じたことに相当性もない。したがって、本件放送は、申立人の名誉を毀損するものであった。
フジテレビは、本件放送が基本的には現実の事件を再現するものとして視聴者に受け止められるにもかかわらず、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」等のテロップを付したことなどから、本件放送が現実の事件の真実から離れても問題はないと安易に思い込み、取材においても一方当事者への取材のみに依拠して職場内での事件の背景や実態を正確に把握する努力を怠り、真実とは認めがたい申立人に関する事実を放送して申立人の名誉を毀損してしまうこととなった。
したがって、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために、人権と放送倫理にいっそう配慮するよう勧告する。

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2016年2月15日 第58号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第58号

申立人
食品工場契約社員 A氏
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースな晩餐会』(日曜日 午後7時58分~8時54分)
放送日時
2015年3月8日(日)午後7時58分から約27分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送と現実の事件の関係
  • 2.本件放送の登場人物と申立人の同定可能性
    • (1)本件放送内容と申立人の同定可能性
    • (2)フジテレビの反論について
  • 3.本件放送の内容と申立人の名誉の毀損
  • 4.本件放送の公共性・公益性
  • 5.申立人に関する放送内容の真実性
  • 6.申立人に関する事実を真実と信じたことの相当性
  • 7.小括
  • 8.放送倫理上の問題

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年2月15日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、午後1時からBPO会議室で行われ、坂井委員長と起草を担当した市川委員長代行、紙谷委員が出席し、申立人本人と、被申立人のフジテレビからは編成統括責任者ら4人が出席した。午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

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2016年5月17日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビジョンから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第59号

「ストーカー事件映像に対する申立て」に関する委員会決定

2016年2月15日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり
フジテレビは、2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』で地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げた。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、映像のボカシが薄く、会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなので自分と特定されてしまう、として人権侵害を申し立てた事案。委員会は人権侵害があったとは認められないが、放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

本件は、フジテレビがバラエティー番組『ニュースな晩餐会』(2015年3月8日の放送)で、「ストーカー事件」の被害の問題について、その一例を伝える目的で放送し、職場の同僚の間で行われたつきまとい行為やこれに関連する社内いじめを取り上げたものである。この中で、役者による事件の再現映像と、申立人の職場の人物のインタビュー映像や申立人が隠し撮りされた映像、同僚同士の会話の隠し録音などが随所に織り込まれた映像が放送された。
申立人は、この放送で「ストーカー行為を行った人物」として取り扱われ、そのことが職場に広く知れ渡ってしまい、また、放送内容も事実と大きく異なっていたために、本件放送によって名誉を毀損されるなどの人権侵害を受けたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には、申立人の名誉を毀損する等の人権侵害があるとはいえないが、放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は、以下のとおりである。
フジテレビは、関係者の映像等にボカシを入れ音声を加工したこと、役者による再現には「イメージ」とのテロップや、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」とのテロップを付したことから、本件放送が特定の人物や事件について報道するものではないとしているが、現実にあった事件の関係者の映像や音声を随所に織り込み、再現の部分も含めて一連の事件として放送している以上、視聴者は、現実に起きた特定の事件を放送しているものと受け止める。
本件放送では、一定のボカシがかかっているとはいえ、職場の駐車場の映像や、申立人の職場関係者に関する情報が含まれていること、放送当日、取材協力者でもあった「ストーカー事件」の被害者らが、本件放送が行われることを予め職場などで話して回ることも十分予想できる状況下であったことなどから、職場の同僚には本件放送の登場人物が申立人であると同定できる。
とはいえ、本件放送は、公共の利害に関する事実を、公益をはかる目的で放送したものであり、申立人が行っていたことに関する基本的事実関係については真実であると認められるので、申立人に対する名誉毀損等の人権侵害があるとはいえない。
しかし、フジテレビは、本件放送が基本的には現実の事件を再現するものとして視聴者に受け止められるにもかかわらず、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」などのテロップを付したことなどによって本件放送が現実の事件の真実から離れても問題はないと安易に思い込み、真実に迫るための最善の努力を怠り、取材においても一方当事者からの取材のみに依拠して、職場内での処遇の不満や紛争という事件の背景や実態を正確に把握する努力を怠った。また、このような取材、放送の在り方は、申立人の名誉やプライバシーへの配慮を欠くものであった。さらに、フジテレビは、本件放送に対する申立人らの苦情に真摯に向き合わなかった。これらの点で、本件放送と放送後のフジテレビの対応には放送倫理上の問題がある。
したがって、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために、人権と放送倫理にいっそう配慮するよう要望する。

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2016年2月15日 第59号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第59号

申立人
食品工場社員 B氏
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースな晩餐会』(日曜日 午後7時58分~8時54分)
放送日時
2015年3月8日(日)午後7時58分から約27分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送と現実の事件の関係
  • 2.本件放送の登場人物と申立人の同定可能性
    • (1)本件放送内容と申立人の同定可能性
    • (2)フジテレビの反論について
  • 3.本件放送の内容と申立人の名誉の毀損
  • 4.本件放送の公共性・公益性
  • 5.申立人に関する放送内容の真実性など
  • 6.放送倫理上の問題
    • (1)事実を事実として伝える必要性
    • (2)関係者の名誉やプライバシーに配慮する必要性
    • (3)小括~本件放送内容にかかわる放送倫理上の問題
    • (4)放送後の対応の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年2月15日 決定の通知と公表の記者会見

前事案に引き続き午後2時から、本件の通知を行い、申立人と、フジテレビ側からは編成担当者ら4人が出席した。 午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

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2016年5月17日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビジョンから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年度 第57号

「出家詐欺報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年12月11日 放送局:NHK

勧告:放送倫理上重大な問題あり
NHKは2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」「申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」などとして、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対しNHKは、「映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からない」などと反論、人権侵害も名誉棄損も成立する余地はないと主張した。
委員会は2015年12月11日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

NHKは、2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた(以下、「本件放送」という)。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対し、NHKは、映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からないと反論した。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送には申立人が4か所登場する(以下、「本件映像」という)。本件映像では申立人の顔はまったく見えない。申立人はNHKの記者が持参したセーターに着替え、腕時計や指輪もはずして、撮影に臨んだ。申立人は体型としぐさの特徴などによって本人を特定できると主張するが、本件映像を詳細に検討しても、申立人と特定できるものではない。申立人と特定できない以上、本件映像は人権侵害には当たらない。
しかし、番組が放送された場合、視聴者が申立人と特定できなくても、申立人自身は自らが放送されていることを当然認識できる。それが実際の申立人とは異なる虚構だったとすれば、そこには放送倫理上求められる「事実の正確性」に係る問題が生まれる。
NHKの記者は、かねてからの取材協力者であり、本件映像に多重債務者として登場するB氏の話から申立人が「出家詐欺のブローカー」であると信じていたと思われる。しかし、「出家詐欺」をテーマとする番組に、それを斡旋する「ブローカー」として申立人を登場させる以上、最低限、本人への裏付け取材を行うべきだったし、たとえ、本人への直接取材ができなくとも裏付け取材の方法はいくつも考えられる。本件映像はそうした必要な裏付け取材を欠いていた。
また、本件映像には申立人の「ブローカー活動」の実際に関して、記者によるナレーションなどが伴っている。それらは「たどりついたのはオフィスビルの一室。看板の出ていない部屋が活動拠点でした」など、明確な虚偽を含むもので、全体として実際の申立人と異なる虚構を伝えるものだった。
NHKは必要な裏付け取材を欠いたまま、本件映像で申立人を「出家詐欺のブローカー」として断定的に放送した。また、明確な虚偽を含むナレーションを通じて、全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた。匿名化のうえで「出家詐欺のブローカー」として映像化されることに申立人の一定の了解があったとはいえ、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」(「放送倫理基本綱領」日本民間放送連盟・日本放送協会制定)との規定に照らして、本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2015年12月11日 第57号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第57号

申立人
大阪府在住A
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』
放送日時
2014年5月14日(水)午後7時30分~7時56分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.人権侵害に関する判断
  • 3.放送倫理上の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年12月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には12月11日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に大阪市内の申立人の代理人弁護士事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は24社59人が出席した。
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2016年3月15日 委員会決定に対するNHKの対応と取り組み

2015年12月11日に通知・公表された「委員会決定第57号」に対し、NHKから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年3月10日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年度 第55号

「謝罪会見報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:TBSテレビ

勧告:人権侵害(少数意見付記)
TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げた。この放送について、佐村河内氏は「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与え、申立人の名誉を著しく侵害した」等として委員会に申し立てた。
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が自分の名義で発表してきた楽曲について新垣隆氏が作曲に関与していたことを謝罪する記者会見を取り上げた。この中で、佐村河内氏の聴覚障害について、会見のVTRや出演者のやり取りなどで、「検証」と「論評」を行ったとしている。
この放送について、佐村河内氏は「健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装って会見に臨んだ」との印象を与えるもので、名誉を著しく侵害されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
まず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。(1)謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。(2)アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。(3)本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、(2)の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、(1)と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。(4)「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、(4)を中心としつつ、(1)から(3)をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記(4)に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見がある。

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2015年11月17日 第55号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第55号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『アッコにおまかせ!』
放送日時
2014年3月9日(日)午前11時45分~午後0時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送で摘示された事実と名誉毀損の成否
  • 2.本件放送の公共性・公益目的
  • 3.本件放送の真実性・相当性
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月17日午後1時から、BPO会議室で行ない、その後、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定を公表した。
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2016年2月16日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

2015年11月17日に通知・公表された「委員会決定第55号」に対し、株式会社TBSテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年2月15日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。
なお、本件の委員会勧告に基づいて局が行った放送対応に関し、当該番組でエンドロールの後一旦CMが放送されてからアナウンサーによるコメントの読み上げがなされた点について、多数の委員から、放送対応のタイミングについてより工夫がなされることが好ましかったとの意見が述べられた。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第56号

「大喜利・バラエティー番組への申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2014年5月24日放送の大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内守氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たる」等として委員会に申し立てた。
これに対し、フジテレビは「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、申立人の名誉感情を侵害するものでない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

【決定の概要】

フジテレビは2014年5月24日に大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』を放送した。この中で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出して、お笑い芸人らが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするものであるから、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」等として委員会に申し立てた。
名誉感情とは、人が自己の価値について有している意識や感情のことであり、法的保護の対象となりうるが、主観的なものであるだけに、名誉感情の侵害は、社会通念上の許容限度を超えた場合に初めて法的な保護を受ける。
大喜利は、しばしば世相に対する批判も含む表現形式として、社会的に定着した娯楽であり、たとえ個人に対する揶揄となったとしても、その者が正当な社会的関心の対象である場合には、個々の表現が許容限度を超えない限り許される。そして、大喜利には大げさな表現やナンセンスな表現、言葉遊び等も当然含まれうるし、即興性が特徴である。名誉感情侵害の判断においてもこうした大喜利の特徴を斟酌すべきである。
その上でまず、本件放送で申立人を取り上げたことの当否については、全聾の作曲家として高い評価を得ていた申立人が他人に作曲を依頼していたことが発覚し、また、その聴覚障害についても疑惑が持ち上がったことに社会的関心が向けられることは当然である。それは、申立人が謝罪のための記者会見を行ってから2か月半ほど経過した本件放送時点でも同様であり、本件放送において申立人を取り上げたことには正当性が認められる。
次に、個々の回答による名誉感情侵害の有無について、各回答を概観すると、a)聴覚障害に関するもの、b)音楽的才能に関するもの、c)風貌に関するもの、d)その他、の4類型に分類可能であるが、大喜利の特徴も踏まえれば、いずれも、許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えない。
また、申立人は放送倫理上の問題として、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長するおそれを主張するが、本件放送は、自らの言動によってファンや関係者の信頼を裏切ったことにより正当な社会的関心の対象となっている申立人個人に対する許容限度の範囲内での風刺等であり、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長する内容とは受け止めにくい。したがって、放送倫理上の問題は認められない。
以上より、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、また、放送倫理上の問題も認められないとの結論に至った。

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2015年11月17日 第56号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第56号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『IPPONグランプリ』
放送日時
2014年5月24日(土)午後9時~11時10分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.判断の方法について
  • 2.本件放送で申立人を取り上げたことの当否
  • 3.個々の回答による名誉感情侵害の有無
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知と公表は、同じ佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表とあわせて11月17日に行われた。
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2015年度 第54号

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)に関する委員会決定

2015年4月14日 放送局:TBSラジオ&コミュニケーションズ

見解:問題なし
TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』のオープニングトークで、お笑いタレント「おぎやはぎ」が、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語った。これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、4月14日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、取り上げるべき放送倫理上の問題もないとの判断を示した。

【決定の概要】

本件申立ては、TBSラジオ&コミュニケーションズ(以下「TBSラジオ」という)が2014年8月22日(金)に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』で、お笑いタレント「おぎやはぎ」が展開したオープニングトークでの発言を対象としたものである。このトークでは、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員(以下「申立人」という)が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯や、それに関連してテレビの情報番組でコメンテーターが「こいつキモイもん」と発言したことに対し申立人が放送人権委員会に人権侵害であると申し立てた一連の事態について語られた。
本事案は、おぎやはぎの小木氏らが「思いついたことはキモイだね。完全に」などと発言したことに対して申立人が「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」等として放送人権委員会に申し立てたもの。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送における「キモイ」等の発言は、申立人の社会的評価を低下させ、申立人の名誉感情に不快の念を覚えさせる論評である。しかし、その種の論評であっても、公共の利害に関わる事項について公益を図る目的でなされたものであるときは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、論評の基礎となった事実の主要な点に誤りがなく、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱したものでない限り、その論評は権利侵害として評価されるべきではない。
本件放送が論評の対象とした事象は、府議会議員である申立人自身が議員活動の一環として行っていたと説明している、中学生とのLINEでのやりとりと、テレビの情報番組内でのコメントに対する放送人権委員会への申立てである。これらの事象について、その議員に対する評価を含めて論評することは、市民の正当な関心事にこたえるものであり、本件放送には、公共性・公益性がある。これに対して、本件放送の論評によって新たに申立人の社会的評価の低下があったとしても、それはわずかなものと考えられる。
また、本件放送は申立人の名誉感情に不快の念を持たせるものではあるが、「キモイ」という言葉は、申立人と中学生のLINEでのやりとりの中で中学生が使った言葉として、本件放送の題材におけるキーワードの一つでもあり、本件放送は申立人の人格をことさら誹謗中傷するものとまではいえない。
以上に鑑みれば、本件放送は、地方議会議員の行動に関わる事実に対する論評として公共性・公益性が認められ、他方で本件放送による社会的評価の低下や名誉感情の不快の念の程度を考慮すると、本件放送の論評については、申立人は地方議会議員として、これを受忍すべきものと考える。
また、申立人は、2014年8月に申立人の中学生グループとのやりとりが報道されるようになったのは、同年9月に実施された交野市長選挙にかかわる政治的背景があったと主張するが、その主張と本件放送による人権侵害の有無の問題は関係を持たない。また、本件放送のタイミングにも特段の不自然さはないため、放送倫理上の問題もない。
なお、「キモイ」という言葉は、それが使われる相手や場面によっては、相手の人格を傷つけ、深いダメージを与えうるものであるが、委員会は、これを無限定に使うことを是とするものではないことを付言する

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2015年4月14日 第54号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第54号

申立人
山本 景
被申立人
株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ
苦情の対象となった番組
『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』
放送日時
2014年8月22日(金)午前1時00分~3時00分
(本件放送は冒頭の約7分)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の内容と申立人の名誉・名誉感情の侵害の有無について
    • (1) 問題の所在
    • (2) 本件放送の論評の対象と地方議会議員の名誉権、名誉感情
    • (3) 本件放送と権利侵害の有無
    • (4) 小括
  • 2.本件放送と市長選との関係について

III.結論

補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年4月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、4月14日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人本人と放送局側(被申立人)に対して委員会決定を通知した。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2014年度 第53号

「散骨場計画報道への申立て」に関する委員会決定

2015年1月16日 放送局:静岡放送株式会社

見解:放送倫理上問題あり
静岡放送は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者が進める「散骨場」建設計画について民間業者の社長が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、社長の映像を使用して放送した。この放送に対し社長が、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、「謝罪と誠意ある対応」を求めて申し立てた事案。
放送人権委員会は審理の結果、1月16日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

静岡放送(SBS)は2014年6月11日放送のローカルニュース番組『イブアイしずおか・ニュース』において、静岡県熱海市で民間業者(以下、「本件会社」という)が進める「散骨場」建設計画について本件会社の社長(申立人)が市役所に計画の修正案を提出したうえで記者会見する模様を取材し、申立人の顔の分かる映像を使用して放送した。この放送に対し申立人は、熱海記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件で記者会見に応じたのに、顔出し映像が放送されたとして人権侵害・肖像権侵害を訴え、委員会に申し立てた。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」は申立人と熱海記者会との間でなされた。SBSは、熱海記者会所属の同社記者が会見に参加するにあたり、記者会の合意事項を受け入れることとしたのであるから、この合意事項に拘束される。
SBSが合意事項に反して申立人の顔の映像を放送した点は、明らかにSBSに非がある。しかし、肖像権侵害の判断との関係においては、「合意事項に反して放送がなされた」ことは、結局、承諾なく肖像が放送された場合の一態様と評価されるため、肖像権侵害の有無は、報道の公共性との比較考量によって判断される。
本件放送当時、本件会社が建設・運営を計画していた散骨場施設は、亡くなった方を慰霊する施設であることから、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)の適用の有無が問題とされており、墓地類似という施設の性格から近隣住民による反対運動が起きていた。記者会見前、報道各社は「熱海の山林に『散骨場』計画 周辺に保養所、マンション 地元住民が反発」などと報道し、また、熱海市は散骨場に対して墓埋法が適用されるかを厚労省と協議していることについて会見を開いていた。そして、本件会社も修正案提出後のホームページ上で「心の"お墓"熱海『大地の里』—海洋散骨園—」と記していた。これらの事実から、本件当時、散骨場建設計画について報道することには相当高い公共性が認められる。
SBSの取材・報道の内容も、散骨場建設を計画している本件会社の社長である申立人が、市役所に計画の修正案を提出する場面と、熱海記者会との会見の状況を取材し、適切な範囲で報道したものであるから、特に問題があったということはできない。
以上から、本件放送は、公共性のある事項に関し、公益目的をもって、申立人の映像を相当性の認められる態様において放送したものであるから、肖像権侵害があったとは認められない。
しかし、取材対象者との信頼を確保し、その信頼を裏切らないことは、放送倫理上報道機関にとって当然のことである。日本民間放送連盟の報道指針の趣旨からすると、SBSが、合意事項に反した放送をしたことは放送倫理上の問題がある。
既にSBSが申立人に対し謝罪の意向を示し、また、今後同様の事態が生じないための措置をとっていることを委員会は評価するが、今回の事態が生じた原因は日々の放送業務の性格上当然に予見されるべき基本的な問題であった。委員会はSBSに対し本決定の主旨を放送するとともに、再発防止のため更なる社内体制の充実を要望する。
なお、本件事案の特殊性に鑑み、以下付言する。
公共性のある事項について、公益目的のもとで、適確な報道を行うことは、報道機関に課せられた重要な使命である。そのような役割を果たすために取材・報道の自由が認められている。その観点から、取材・報道規制につながる申し入れに応じるようなことがあってはならず、また、同様の結果を生じさせるような過度の自主規制的対応があってはならないことを指摘しておきたい。

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2015年1月16日 第53号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第53号

申立人
株式会社 A社社長
被申立人
静岡放送株式会社(SBS)
苦情の対象となった番組
『イブアイしずおか・ニュース』(月~金 午後6時15分~7時)
放送日時
2014年6月11日(水)の上記番組内の4分30秒のニュース

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1. 「個人名と顔の映像は露出しないとの合意」に関する事実関係
  • 2. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し申立人の顔の映像を放送したことは肖像権侵害にあたるか
  • 3. SBSが申立人と熱海記者会との合意事項に反し顔の映像を放送したことに放送倫理上の問題があったといえるか
  • 4. 熱海記者会による申立人との合意と報道の自由の問題(付言)

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年1月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には1月16日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に熱海市内の申立人の会社事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は22社46人が出席した。
詳細はこちら。

2015年4月22日 委員会決定に対する静岡放送の対応と取り組み

「散骨場計画報道への申立て」事案で、2015年1月16日に通知・公表された委員会決定第53号に対し、静岡放送から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月10日付で提出された。
4月21日に開催された第219回委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

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目 次

  • 委員会決定の放送
  • 再発防止についての取り組み
  • 委員会決定に伴う取り組みについて
  • 現場の変化
  • 終わりに

2013年度 第52号

「宗教団体会員からの申立て」に関する委員会決定

2014年1月21日 放送局:株式会社テレビ東京

見解:放送倫理上問題あり
テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、公道で隠し撮影された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーを侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、1月21日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

 テレビ東京は、2012年12月30日午前1時25分から午前2時25分まで、『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』と題する番組で、オウム真理教の後継団体であるアレフの活動状況と、新たにアレフの信者となった若者らの様子をローカル放送した。番組は、申立人をアレフの信者であると紹介しつつ、申立人の顔に一定のボカシをかけながら、申立人が特定の地方都市の国立大学を放送の年に卒業したこと、年齢や出身地方を説明し、その大学を想起させる大学の構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場で友人たちと写る写真などを放送した。また、申立人が実家で、アレフ脱会のカウンセラーからカウンセリングを受け、思春期の悩み等から信仰に至ったことを話す状況をカウンセラーのみの了承のもとで隠し録音し、音声を変えたうえで放送し、さらに、申立人が両親に送った私信の映像を流しながら、信仰に対する考え方を書いた部分のナレーションによる朗読を挿入するなどした。
委員会は、申立人から本件放送によってプライバシー権などを侵害されたとの申立てを受けて審理し、「見解」に至った。決定の概要は以下の通りである。
委員会は、アレフの危険性についての疑惑などに関係する調査報道を行う本件放送の公共性・公益性を高く評価し、今、なぜ若者がアレフに入信するのかを明らかにすることを目的とした本件放送の申立人に関する部分についても同様に公共性・公益性を認めるものである。
しかし、本件放送においては、申立人の顔に一定のボカシをかけ、申立人の声を機械的処理により変換したものの、年齢、出身地方や出身国立大学のある都市の情報、出身大学を想起させる構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場での友人と写った写真などの情報を放送の中で順次示した。このため、申立人を知る一定の者には、本件放送の対象が申立人であると特定できることとなっている。
このように本件放送の対象が申立人であると特定できる状況下で、申立人が脱会カウンセラーとの間で脱会に関するカウンセリングを受けている場を、カウンセラーのみの了承のもとで隠し録音して放送し、申立人が両親に宛てた手紙を両親から提供を受けて放映しながらその内容をナレーションで朗読して放送し、申立人の思春期の心情や信仰に至る経緯を語る部分を明らかにしたことは、申立人の承諾なく私生活の領域に深く立ち入るものであり、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えない。この放送部分の内容がプライバシー権の侵害に至るものであるか否かについては委員の意見は一致しなかったが、この放送部分に放送倫理上の問題があることで委員の意見は一致した。
いかに本件放送部分に高い公共性・公益性が認められるといっても、申立人と特定しうる状況下において、カウンセリングを受ける場や、両親に宛てた私信などの申立人の私生活の領域に、申立人の承諾なく踏み込んだ放送を行うことは、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えず、放送倫理上問題があると判断する。
委員会は、本件放送の公共性・公益性を高く評価するものであるが、本件放送部分は、その放送目的を追求するあまり、申立人のプライバシーに対する十分な配慮があるとは言えない結果となったものであり、テレビ東京に本決定の主旨を放送するとともに、今後、プライバシーに配慮した放送を要望するものである。

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2014年1月21日 第52号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第52号

申立人
宗教団体会員の男性
被申立人
株式会社テレビ東京
苦情の対象となった番組
『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』
放送日時
2012年12月30日(日)午前1時25分~2時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送は、申立人のプライバシー権、肖像権を侵害するものであるか
    • (1)申立人をアレフ信者であるとして、脱会カウンセリングの模様の隠し録音の内容と、私信の映像・内容などを放送したことと、申立人のプライバシー権
    • (2)商店街を歩く申立人、帰省時の申立人の撮影・放送と肖像権
    • (3)本件放送は申立人本人を特定しうるものであったか
    • (4)公共性・公益性とプライバシー権侵害の判断について
  • 2.本件放送の放送倫理上の問題について
    • (1)申立人の特定可能性への配慮
    • (2)カウンセリングの隠し録音と両親への私信の撮影・朗読の問題点
    • (3)本件放送の公共性・公益性により本件放送部分が許容されるか
    • (4)アレフの団体としての取材拒否、申立人の両親の承諾との関係

III.結論

IV.番組の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2014年1月21日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は1月21日午後1時からBPO会議室で、上記事案の「委員会決定」を通知し、その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き公表した。報道関係者は22社50人が出席した。
詳細はこちら。

2014年5月20日 委員会決定に対するテレビ東京の対応と取り組み

2014年1月21日に通知・公表された「委員会決定第52号」に対し、テレビ東京から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月18日付で提出され、5月20日の第209回委員会で検討された。
委員会では、「題材に高い公共性・公益性があるとしても、放送内容によっては放送倫理上問題ありとされることを認識してほしい」との意見なども述べられた。

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目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.決定についての検討内容等
  • 4.むすび

2013年度 第51号

「大阪市長選関連報道への申立て」に関する委員会決定

2013年10月1日 放送局:朝日放送株式会社

勧告:放送倫理上重大な問題あり
本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』で放送した「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードで始まるニュースについて、労働組合側が事実と異なる放送によって名誉や信用を毀損されたと訴えたもの。
放送人権委員会は審理の結果、10月1日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

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2013年10月1日 第51号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第51号

申立人
大阪交通労働組合
A
被申立人
朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『ABCニュース』(月~金 午前11時35分~42分)
放送日時
2012年2月6日(月)の上記番組内の1分37秒のニュース

【決定の概要】

1.朝日放送は、2012年2月6日の『ABCニュース』で、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードのニュースを「スクープ」として放送した。ニュースでは、「朝日放送が独自に入手した紹介カードの回収リスト」を映像で示し、内部告発者が、「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」と匿名映像で語っている。
2.本件の申立人は、大阪交通労働組合という団体である。このため、委員会は、個人による申立てを原則とする本委員会運営規則に照らし、審理入りの是非について検討した。その結果、労働組合が個々の労働者の権利・利益の確保を主眼とする、各労働者の集合としての性格が強い団体であること、また、本件放送は、組合及び組合員個人らの信用や名誉・名誉感情等の権利利益に対して深刻な影響を及ぼすおそれがある内容を含むものであることから、当委員会の過去の判断をふまえ、本件申立てについては救済を検討する必要性が高く、委員会において権利侵害や放送倫理上の問題の有無について審理することが相当であると判断した。
3.本件放送による権利侵害の有無について、委員会は次のように判断した。
本件放送の内容について、朝日放送は、申立人が選挙への協力を強要したとの「疑惑」あるいはこの疑惑を追及する市議会議員の活動を報じるものであると主張する。
しかし、協力を強要する文章が書かれた「回収リスト」について断定的に報じ、放送冒頭で「朝日放送のスクープです」と強調するなど、一般的な視聴者からすれば、本件報道は、申立人が非協力的な組合員を威圧し、選挙への協力を強要し、内部告発者が発した「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」とのコメントを伝えるものと受け止めよう。
本件放送は、申立人の社会的信用・評価を低下させるものである。本件放送には、公共性、公益性は認められるが、主要な部分において真実ではなく、また、放送の時点で真実であると考えたことについて相当の理由も認められない。すなわち、本件放送で報じられた「非協力的な組合員がいた場合は、今後、不利益になることを本人に伝える」との指示が書かれた回収リストは、ねつ造されたものであった。また、報道にあたって申立人に対する取材を行っておらず、取材を行わなかったことの理由も薄弱である。
その一方、回収リストの真偽については、朝日放送もその後の報道においてねつ造であることを報じている。本件放送によってもたらされた申立人の社会的評価の低下は、一定程度、回復されているとみることもできる。
4.しかしながら、本件放送には、放送倫理上の重大な問題がある。本件放送は、「スクープ」として疑惑を真実であるかのように断定的に報じ、さらに「やくざ」という強い表現で論評を行ったものである。そして、すでに述べたように、それは申立人への取材もないままに行われた。本件放送は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とうたう放送倫理基本綱領(NHK・民放連)に違背し、正確・公正な報道を求める「日本民間放送連盟 報道指針」の「2 報道姿勢」に反するものである。
委員会は、朝日放送に対し、本決定の主旨を放送するとともに、スクープ報道における取材や表現のあり方、主要な事実が真実に反すると判明した場合の対応について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件申立てについて
  • 2.本件放送は何を報じたか
  • 3.本件放送により、申立人の社会的信用ないし評価が低下したか
  • 4.本件放送に公共性、公益性、真実性・真実相当性が認められるか
  • 5.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2013年10月1日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は10月1日に、上記事案についての「委員会決定」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上重大な問題がある」として、朝日放送に再発防止を「勧告」した。
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2013年12月24日 朝日放送「放送人権委員会決定後の取り組みについて」

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2014年2月21日 報告に対する放送人権委員会の「意見」

放送人権委員会は、今回、上記の朝日放送の報告に対して「意見」を述べました。

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2013年度 第50号

「大津いじめ事件報道に対する申立て」に関する委員会決定

2013年8月9日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:放送倫理上問題あり
フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺したとして中学生の両親が起した民事訴訟の原告側準備書面の内容を報道した際、加害者として訴訟を起こされている少年の実名部分がモザイク処理されずに放送され、少年と母親がプライバシーの侵害を訴え、申し立てたもの。

2013年8月9日 第50号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第50号

申立人
少年とその母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『スーパーニュース』(月―金 午後4時50分~5時54分)
放送日時
2012年7月5日(木)午後4時53分00秒頃~5時03分24秒頃
2012年7月6日(金)午後5時27分28秒頃~5時37分29秒頃

【決定の概要】

フジテレビは2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』内で各1回、大津市の中学生いじめ事件の報道に際して、加害者として民事訴訟を起こされている少年の氏名を含む映像を放送した(以下、本件放送という)。委員会は少年と少年の母親(以下、申立人という)から本件放送によってプライバシーを侵害されたなどの申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
本件放送のうち少年の氏名を含む映像は、5日分が1秒未満、6日分が2秒弱と短く、画像内の氏名部分も微小で、通常のテレビ視聴形態では、氏名は判読できない。したがって、このテレビ映像に限れば、プライバシー侵害は生じていない。しかし、テレビ映像を録画した静止画像では少年の氏名を判読できる。これがインターネット上に流出した。この静止画像が申立人のプライバシーを侵害していることは明らかである。
テレビ映像を録画してインターネット上にアップロードする行為は著作権法に違反する。したがって、フジテレビに静止画像によるプライバシー侵害の責任は問えない。だが、録画機能の高度化やインターネット上に静止画像がアップロードされるといった新しいメディア状況を考慮したとき、静止画像にすれば氏名が判読できる映像を放送した点で、本件放送は人権への適切な配慮を欠き、放送倫理上問題がある。
この放送倫理上の問題はモザイク処理のない映像素材を使ったミスの結果である。委員会は、個人情報を含む等取り扱いに十分な配慮が必要な素材に関する十全な管理体制を整備するとともに人権意識の涵養に努め、こうしたミスがふたたび起きないようにすることをフジテレビに要望する。この点で、本件放送は少年の個人情報にかかわるものであり、少年法の趣旨に即して特段の配慮が必要だったことも付記する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理上の問題
  • 3.再発防止のための要望
  • 4.その他の判断
    • (1)誹謗中傷の加速・過熱化
    • (2)映像素材としての適否

III.結論

IV.申立てに至る経緯及び審理経過

V.申立人の主張と被申立人の答弁

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2013年8月9日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には8月9日午後1時からBPO第1会議室で行われ、申立人側へは、申立人の都合がつかなかったため、放送局への通知と同時刻に京都市内にある申立人の代理人法律事務所で行われた。
また、その後、千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。午後1時40分から事務局による事案の説明、午後2時から三宅委員長、奥委員長代行が記者会見した。報道関係者は23社53人が出席。
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2013年11月19日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

『大津いじめ事件報道に対する申立て』事案で、2013年8月9日に委員会決定を受けたフジテレビは、局としての対応と取り組みをまとめた報告書を11月5日放送人権委員会に提出した。11月19日に開催された委員会で報告書の内容が検討され了承された。

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目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.再発防止に向けた取り組みについて

2012年度 第49号

「国家試験の元試験委員からの申立て」に関する委員会決定

2013年3月29日 放送局:株式会社TBSテレビ

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
TBSテレビが2012年2月に放送した報道特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど、国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。

2013年3月29日 第49号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第49号

申立人
A
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『報道特集』(毎週土曜日午後5時30分~6時50分)
放送日時
2012年2月25日(土)
特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」午後5時48分頃から23分30秒間

本決定の概要

本件放送は、2012年2月の「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」と題する報道番組である。そのなかで被申立人は、国家資格である社会福祉士の試験委員であり、試験委員会副委員長であった大学教授を取り上げ、試験の過去問題解説集を出版して、これを大学の講義で用いたことなどが、試験委員としてふさわしくない行為で、国家試験の公正・公平性に疑念を招いたと伝えた。
これに対し申立人は、本件放送が、国家試験の試験問題の漏えいや出題のヒントを与えていたかのような印象を与えるものであり、これにより名誉と信用を毀損されたとして救済を求め、また放送倫理上の問題を指摘した。

委員会は、本件放送が、平均的な一般視聴者にとって、申立人による「漏えい」等の事実を指摘する内容であったと認定することはできず、違法な名誉毀損・信用毀損には当たらないと判断した。社会福祉士国家試験の試験委員による出版等の行為について国家試験の公正・公平性に疑義を生じさせるおそれがあると指摘した本件放送の問題提起には、社会的意義が認められる。申立人に異論があるとしても、国家試験委員であり委員会副委員長という立場にある以上、国家試験にかかわる事項に関する限り、申立人は「公人」として放送によるそのような批判は受けざるを得ないものと考える。
また、本件放送が、申立人についてマイナスの印象を強調して伝えたことは否めないが、公人の職務に関する報道であったことを勘案すれば、これに対する批判的言論として許容される限度を逸脱したものとは認められず、結論として、放送倫理上問題があったとはいえないものと、委員会は判断した。
ただし委員会は、局においても本件放送における表現内容、表現手法等に反省点がないか、再度検討されるべきものと考えるので、本決定が指摘する各意見を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かすよう要望する。
なお、本件放送は申立人による「漏えい」や所属学生を具体的に有利に扱った事実を印象づけるものであって、放送倫理上問題があるとの、多数意見と結論を異にする少数意見が示された。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁
  • 5.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の企画意図
  • 2.申立人の立場
  • 3.問題とされた申立人の行為
    • (1)著作の出版行為
    • (2)著作を用いた大学での講義
  • 4.申立人による「漏えい」の事実を摘示しているか
    • (1)番組が挙げた2つの実例について
    • (2)厚生労働省のプレスリリースの扱いについて
    • (3)「漏えい」の事実摘示には当たらないこと
  • 5.放送のその他の問題点
    • (1)申立人の映像の扱い方について
    • (2)大学学長選挙と報道の時期について

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2012年度 第48号

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」に関する委員会決定

2013年3月28日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性が「放送はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠け、放送倫理に抵触している。こうした放送や、申立人の主義主張とは反する発言の使われ方、取材休憩中の撮影とその映像の放送などによって名誉とプライバシーを侵害された」として、謝罪と放送内容の訂正を求め申し立てたもの。

2013年3月28日 第48号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第48号

申立人
X
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースJAPAN』
(月―木曜日 午後11時30分~11時55分、 金曜日 午後11時58分~午前0時23分)
放送日時
第1回 2011年10月5日(水)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【前編】ガン新薬の副作用は薬害か?」(7分12秒)
第2回 2011年10月6日(木)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【後編】承認から8年目の真実」(7分)

本決定の概要

本件放送は、抗がん剤イレッサをテーマにした報道番組である。申立人は、イレッサの副作用で亡くなった患者の父親であり、その後、訴訟や社会的活動でイレッサの副作用にかかわる問題を追及しているが、本件放送中での扱いによって、これまで自身が続けてきている活動を否定されかねない人権侵害があるとして、委員会に苦情の申立てを行った。
本件放送は、「イレッサの真実」というタイトルのもと、2011年10月に二夜連続で放送された。ちょうど同時期、イレッサの副作用を巡る製薬会社や国の責任を問う訴訟が係争中であり、番組放送後間もない時期に控訴審判決が出された。被申立人には、いわゆる薬害について熱心に追跡・報道してきた実績がある。
委員会は、本件放送に、法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったとともに、放送倫理上問題があるとまではいえないと結論する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。
なお、本決定には、多数意見と結論を異にし、「放送倫理上問題がある」とする少数意見がある。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • はじめに~本件放送の構成と申立人の人権
  • 1.申立人の訴訟提起と東京地裁判決の伝え方
    • (1)東京地裁判決の引用の正確性
    • (2)T医師の東京地裁判決に対するコメント
    • (3)新薬の承認をめぐる研究者のコメント
    • (4)申立人とAさんの二人を対比的におくこと
  • 2.申立人のコメントの使用と人権侵害
    • (1)申立人のコメント使用の正確性
    • (2)申立人のコメント等の使用による人格権侵害の有無
  • 3.番組内容・構成における公平・公正

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2012年度 第47号

「無許可スナック摘発報道への申立て」に関する委員会決定

2012年11月27日 放送局:株式会社テレビ神奈川

勧告:放送倫理上重大な問題あり(補足意見・意見付記)
テレビ神奈川が2012年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の逮捕を現場で取材し、4月11日夜の『tvkNEWS930』でニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等として申立てた事案。

2012年11月27日 第47号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第47号

申立人
スナック経営者とその家族
被申立人
株式会社テレビ神奈川
苦情の対象となった番組
『tvkNEWS930』(月-金 午後9時30分~10時)
放送日時
2012年4月11日(水)
午後9時35分頃から1分9秒

本決定の概要

テレビ神奈川は2012年4月11日夜の『tvkNEWS930』内で、神奈川県警によるスナック女性経営者の風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反の無許可営業の現行犯逮捕を実名、年齢、住所とともに放送した(以下、「本件放送」という)。冒頭にアナウンサーの「カメラは強制捜査から逮捕の瞬間までをとらえていました」とのコメントがあり、摘発現場を撮影した映像の存在を強調した構成だった。全体が1分9秒で、そのうち本人とはっきりと分かるかたちで、この女性経営者を写し出した映像が計4回37秒あった。顔のアップ映像や警察の車に連行される場面も含まれていた。
また、テレビ神奈川は本件放送を同社が運営するニュースサイトに動画とともに掲載した。ニュースサイトの項目は1週間で自動的に削除されたが、同社のサイトおよび、facebookページ、twitterアカウント等を通じて当該動画と静止画を閲覧できる状態が1か月以上続き、この女性経営者から抗議があるまで放置されていた。
本委員会は、女性経営者とその家族から本件放送によってプライバシー、肖像権を侵害され、名誉を毀損された等の申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
現行犯逮捕の事実を放送した本件放送の内容に誤りはないが、事案は風営法違反の中でも悪質性の比較的軽微な「無許可営業」(最終的に罰金50万円の略式命令)である。本件放送は、映像の存在を強調し、繰り返し女性経営者の映像を流した。その結果、この女性に対する過剰な制裁的・懲罰的効果が生じ、本人とその家族に精神的苦痛を与えた。この点で、本件放送は、プライバシー等に関する明確な権利侵害は認められないものの、「報道の自由」という観点を考慮しても、放送界がこれまで積み重ねてきた事件報道のあり方をめぐる議論を十分に踏まえた形跡はなく、人権への適切な配慮を著しく欠いており、放送倫理上重大な問題がある。
また、同社のサイトにテレビニュ―スがそのまま掲載され、かつ長期間閲覧可能な状態で放置されていた点、サイトの管理に問題があった。今後、適切な管理を行うことを要望する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1. 申立てに至る経緯
  • 2. 放送内容の概要
  • 3. 申立人の主張
  • 4. 被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • 1. はじめに
  • 2.「報道の自由」の観点
  • 3. プライバシー侵害と名誉毀損について
  • 4. 肖像権をめぐって
  • 5. 放送倫理上の問題
  • 6. 抗議に対する対応

III.結論

  • 補足意見
  • 意見

IV.審理経過

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2013年2月26日 委員会決定に対するテレビ神奈川の対応と取組み

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目 次

  • 1.広報及び放送対応
  • 2.社内での報告・周知等
  • 3.申立人に対して
  • 4.番組審議委員会への対応
  • 5.意見交換会の実施
  • 6.報道部内での対策
  • 7.動画配信について
  • 8.放送倫理向上に向けた取り組みについて

2000年度 第13号~第15号

援助交際ビデオ関連報道

第13号~第15号 – 2001年1月30日

1999年8月、名古屋の小学校教諭が県青少年保護育成条例違反容疑で逮捕されたが、同じ日にこの教諭が常連客だったビデオ店経営者がわいせつ図画販売容疑で逮捕された。ビデオ店経営者は、名古屋テレビ、テレビ愛知、中京テレビのニュースについて、「自分は教諭の事件と関係ないのに、関わっていたかのような印象の報道をされ名誉を毀損された」として申し立てた。

第15号 – 放送局:中京テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第14号 – 放送局:テレビ愛知 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第13号 – 放送局:名古屋テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)

第15号 – 放送局:中京テレビ

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
中京テレビ
対象番組
「NNNニュースプラス1」
「ニューススポット」
「きょうの出来事」
「おめざめワイド」
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第15号審理経過

第14号 – 放送局:テレビ愛知

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
テレビ愛知
対象番組
「ニュースワイド・夕方いちばん(現TXNニュースアイ)」
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第13号 – 放送局:名古屋テレビ

申立人
愛知県名古屋市の元ビデオ店経営者
被申立人
名古屋テレビ
対象番組
ローカルニュース2回、ネットニュース1回
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第13号~第14号 審理経過

1998年度 第6号~第10号

大学ラグビー部員 暴行容疑事件報道

第6号~第10号 – 1999年3月17日

1998年、大学ラグビー部員らあわせて8人が婦女暴行容疑で逮捕されたが、示談の成立で全員処分保留で釈放になり、その後起訴猶予処分となった。申立人は部員2人とその家族で、「暴行に加わっていないのに犯人として放送され、本人と家族の名誉が著しく損なわれた」などとして、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京を相手に名誉毀損や肖像権侵害を訴えた。

第10号 – 放送局:テレビ東京 見解:問題なし
第9号 – 放送局:テレビ朝日 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第8号 – 放送局:フジテレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)
第7号 – 放送局:TBS 見解:問題なし
第6号 – 放送局:日本テレビ 見解:放送倫理上問題あり(少数意見付記)

第10号 – 放送局:テレビ東京

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
テレビ東京
対象番組
「ニュースウォッチ」 1月20日
「ニュースワイド・夕方いちばん」 1月20日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第9号 – 放送局:テレビ朝日

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
テレビ朝日
対象番組
「やじうまワイド」 1月20日、1月21日、1月22日
「スーパーモーニング 」 1月21日
「スーパーJチャンネルニュース」 1月20日、21日
「ワイド!スクランブル」 1月21日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第8号 – 放送局:フジテレビ

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
フジテレビ
対象番組
「めざましテレビ」 1月20日
「おはようナイスデイ」 1月20日、1月21日、1月22日
「ビッグトゥデイ 」 1月21日、1月22日
「ザ・ ヒューマン」 1月21日
「スーパーナイト」 1月25日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第7号 – 放送局:TBS

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
TBS
対象番組
「ニュースの森」 1月20日
「サンデーモーニング」 1月25日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第6号 – 放送局:日本テレビ

申立人
2年生部員2名と家族
被申立人
日本テレビ
対象番組
「ズームイン朝」 1月20日、1月21日、1月22日
「おもいっきりテレビ」 1月20日
「プラスワン」 1月20日、1月22日
「ルックルックこんにちは」 1月21日
「ザ・ワイド」 1月21日、1月22日
目次
申立てに至る経緯
申立人の申立て要旨
被申立人の答弁の要旨
委員会の判断

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第6号~第10号 審理経過

1998年度 第5号

幼稚園報道

委員会決定 第5号 – 1998年10月26日 放送局:NHK

見解:放送倫理上問題あり
1997年12月、NHKの『クローズアップ現代』は「赤ちゃん預かります~保育に乗り出した幼稚園の戦略」と題した放送をした。この番組で取り上げられた幼稚園と理事長らが「取材趣旨の説明と異なり、経営状況の厳しさだけが意図的に強調された」などとして、幼稚園の信用が毀損され、関係者の名誉が侵害されたと申し立てた事案。

1998年10月26日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第5号

申立人
A幼稚園
B理事長 外53名
被申立人
NHK
対象番組
NHK 「クローズアップ現代」
放送日時
1997年12月9日

申立てに至る経緯

1997年12月9日、NHKの番組「クローズアップ現代」(29分番組)で、「赤ちゃん預かります~保育に乗り出した幼稚園の戦略」と題する放送が行われた。この番組は、少子化と女性の社会進出によって保育園への需要が高まる中で、厳しい経営状況に追い込まれた幼稚園の現状と対策、行政の対応等を伝えるものであった。
この番組の中で、園児の減少で経営が苦しくなった幼稚園の例として京都市山科区にあるA幼稚園が2分間取り上げられた。この放送に対し、A幼稚園側(理事長が園長代行)は「取材趣旨の説明と異なり、園の特色である教育方針が全く紹介されず、経営状況の厳しさだけが意図的に強調された」としてNHKに抗議した。しかし、話し合いに決着がつかず、今年6月、この放送により幼稚園の信用が毀損され、保護者、園児、教職員らの名誉が侵害されたとして、A幼稚園側が本委員会に対して、「権利侵害」の救済を求める申立を行った。

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立て要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁の要旨
  • IV. 委員会の判断

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【委員会決定を受けてのNHKの対応】

当該局の対応pdfPDFはこちら

2005年度 第25号 放送局対応

第25号 産婦人科医院・行政指導報道

【委員会決定を受けてのNHK名古屋放送局の対応】

2005年7月28日に委員会決定を受けたNHK名古屋放送局は、放送と人権等権利に関する委員会〔BRC〕宛に10月18日に「改善策と取組状況」をまとめた文書を提出した。

これは、NHKと日本民間放送

連盟が、BPOの発足にあたり基本合意書において「3委員会から指摘された放送倫理上の問題点については、当該放送局が改善策を含めた取り組み状況を報告し、放送倫理の向上を図る」と申し合わせたことに基づくもので、1

0月の委員会では、7ページにわたるこの報告文書について意見を交わした。

この中で、同局内で行なわれた職場研修に招かれた渡邊委員からは「60名程の報道部員が集まり、予定の時間を超えても質問するなど非

常に熱心でした」との報告があった。また、委員からは「委員会決定を受けた当該局としては今までで一番丁寧な対応といえる」「申立人に直ちに会うなど取り組み方はきめ細かい」などNHK名古屋放送局が、具体的改善策を講

じ、誠意ある対応をしたことを高く評価する意見が相次いだ。

NHK名古屋放送局の報告は以下の通り

平成17年10月18日
NHK名古屋放送局
NHK名古屋放送局で放送した「産婦人科医院・行政指導報道」のローカルニュースについて、BRCより受けた「勧告」に対するNHK名古屋放送局の対応や取り組みに

ついて報告します。

(1)勧告後のNHKの対応について

平成17年7月28日のBRCからNHK名古屋放送局への勧告を受けて、NHKは同日午後、東京・渋谷区の放送センターにある「ラジオ・テレビ記者会(全国紙など14社加盟)」と「東京放送記者会(地方紙など13社加盟

)」に対して、「勧告で指摘された問題を真摯に受け止め、今後さらに放送倫理の向上に努め、公共放送に対する視聴者の皆様の期待に応えていきたい」というコメントを発表しました。
名古屋放送局では、この決定を受け

て、同日午後6時10分からの愛知・岐阜・三重の東海3県向けのローカル放送「ほっとイブニング」で、BRCの勧告内容をNHKのコメントを加えて放送しました。さらに東京から全国向けに午後9時からの「ニュース9」で同様

の内容を放送しました。ラジオでは、午後7時45分から東海3県向けに、また、午後11時から全国向けに放送しました。

申立人に対しては、同日夜に、愛知県豊明市の自宅に名古屋放送局報道部長と副部長の2人が

直接出向いて、勧告内容を「ほっとイブニング」で放送したことや「ニュース9」でも放送することなどを報告しました。

「勧告」を受けた7月28日の翌日、29日に、名古屋放送局報道部内に報道部長をチームリ

ーダーとして、ニュース取材、テレビ制作、映像制作(編集)、映像取材(カメラマン)、報道番組の各責任者5人のあわせて6人による「改善チーム」を直ちに立ち上げるとともに、報道部会を開いて勧告内容を説明し、勧告を

重く受け止め、放送倫理の向上に一層努めるよう指示しました。
東京の報道局でも、この問題を幹部が出席する編集会議で取り上げた上で、注意を喚起する旨の文書を29日付けで全国の報道の現場に送り、放送倫理の向上

に一層努めるよう指示しました。
さらに勧告後、9月16日に名古屋放送局で開かれた、中部地方在住の11人の学識経験者らからなる第506回中部地方放送番組審議会で、勧告内容、改善計画について報告しました。

(2)「勧告」に対する報道部員の意見集約と問題点の整理

名古屋放送局報道部では、BRCの「勧告」について、報道部員全員から「勧告」をどう受け止めたか、問題点はどこにあったか、などについての意見を求めるためにリポートを提出させました。その際に、「勧告書」のほか、BRC

が行った記者発表の内容や出席した新聞社などの記者の質疑応答をまとめた文書を熟読するように指示しました。
これらのリポートを集約して、「改善チーム」で問題点を整理しました。ひとつは、「報道される側への配慮

が足りなかった」という、ニュースを報道する側の意識の問題があげられました。報道のイロハである「いつ」が欠落した点に重大な問題があると「勧告」で指摘されており、原稿上の事実関係は正しくても、報道される側への配

慮を欠いたニュースであったことを深く認識するべきで、記者、デスク、ほか報道に携わるもの全員が、改めて人権に対する意識を改革する必要があるという結論に達しました。
もうひとつは、当該の原稿が出された際の「

チェック体制」の問題です。この点については、原稿の内容が専門的で、担当デスクに全面的に任せるかたちになっていたこと。また、放送間際の出稿で、編責やTVデスクによる十分なチェックができなかったことなどが上げら

れました。「改善チーム」では、これまでのチェック体制を見直し、より重層なチェック体制を構築する必要があるとの結論に達しました。
以上を踏まえて、名古屋放送局報道部では、再発防止に向けて、ニュース・放送に

携わる者のさらなる意識改革を行うこと、ニュースデスク体制や編集責任者(編責)体制を中心にニュースのチェック機能を一層強化することの2点を重点に、以下のような措置を講じました。

(3)名古屋放送局報道部での具体的改善策

1.「報道される側に配慮した放送」へのさらなる意識改革

  • グループ討議を開き、再発防止と人権への意識を高める
    報道部の記者、カメラマン、映像制作、報道番組の各グループが9月2日から21日にかけてそれぞれグループ討論を行いました。各グループからは、「ニュースの

    出し手としての責任の重さを痛感した」、「人権への配慮が問われるとき、情報を共有化して確認する作業がいっそう必要だ」、「相手への影響をまず考えることが大切だ」などという意見が出されました。

  • 職場研修の実施
    10月6日、名古屋放送局900会議室にBRC委員で千葉弁護士会の渡邊眞次弁護士を招いて、2時間あまりにわたって職場研修を実施しました。研修には報道部を中心に全局から60人が出席し、講演を

    通じて改めて「報道される側に配慮した放送」への意識を高めました。
    報道部では、この研修のほか、随時、人権に関する研修を開いて意識改革に努めることにしています。

2.「ニュースのチェック体制の強化」

  • ニュースデスク体制の見直し
    ニュース原稿を二重、三重にチェックするため、新たに総括デスクを設け、ニュースデスクの役割を明確にし、機能の強化を図りました。
    これまで、名古屋放送局から出稿される原稿

    については、1番デスク、2番デスクに分かれて地域別の責任体制をとっていました。今後は、1番デスクを出稿全体の責任者に位置づけ、2番デスクが1番デスクの補佐役として、原稿の2次チェックをすることとしました。ま

    た新たに創った総括デスクは、3次チェックを行い、その日出された原稿のニュースバリューや、翌日のニュースの予定の選択、TVデスクとの綿密な打ち合わせなどを業務として位置づけました。1番・2番・総括デスクの役割

    分担を明確にした上で、互いの業務に目を配ることで、名古屋放送局から放送されるニュースについてより重層的にチェックできると考えています。

  • 報道部のレイアウト変更
    複数の報道部員から「ニュースデスクとTVデスクとの間が離れすぎていて綿密なコミュニケーションがとれていない」という指摘があり、これを改善するため、報道部フロアのレイアウトを変

    更し、ニュースデスクとTVデスクの距離を近づけました。これによって、出稿を担当するニュースデスクとTV制作を担当するTVデスクとが、より緊密に連絡をとれるようにしました。

以上が、BRCより受けた「勧告」に対して、NHK名古屋放送局が取り組んできた内容です。

以上

2005年度 第26号 放送局対応

第26号 喫茶店廃業報道

【委員会決定を受けての毎日放送の対応】

2005年10月に当該事案について委員会決定を受けた毎日放送は、3か月後の2006年1月16日にBRC宛に、「委員会決定後の当社の取り組みについて」という文書を提出した。
これは、NHKと日本民間放送連

盟が、BPOの発足にあたり基本合意書において「3委員会から指摘された放送倫理上の問題点については、当該放送局が改善策を含めた取組状況を報告し、放送倫理の向上を図る」と申し合わせたことに基づくもので、06年1

月17日の第108回BRCでこの毎日放送からの報告文書について意見を交わした。
委員からは、「このところ当該局の対応の仕方はよくなっている」「毎日放送も、かなり前向きに対応している」との意見が出ていた。

毎日放送の報告文書は以下の通り

2006年1月16日
放送と人権等権利に関する委員会
委員長 飽戸弘 殿
毎日放送

「喫茶店廃業報道」事案
委員会決定後の当社の取り組みについて

毎日放送では、2005年5月9日にニュース番組・VOICEの特集において、「憤懣本舗/嫌がらせの屋台、無神経な役所」を放送しました。この放送についてBRCでは「喫茶店廃業報道」事案として審理され、10月18日に委員会決定を

だされました。決定を受けた後の当社の対応や取り組みについて、ご報告いたします。

(1)委員会決定後の当社の対応について

◆申立て人に対しての謝罪

  • 10月20日、申立人に謝罪文を郵送

◆委員会決定の主旨の放送

  • 10月18日(火)「イブニング・ニュース」 <17:50~18:16放送 TBS発 全国ネット>内で44秒間、決定の主旨を放送
  • 10月18日(火)「VOICE」<18:16~18:55放送 MBSローカル>内で1分13秒間、決定の主旨を放送
  • 11月5日(土)「MBSマンスリーリポート」<05:30~05:45放送 MBSローカル>内で4分28秒間、決定の主旨を放送

◆委員会決定を受けて、当社のコメントを公表

  • 委員会決定の内容を公表する記者会見の席で、出席した記者に当社のコメントを配布

◆視聴者など社外への告知

  • 当社ホームページ「ちゃやまち広報室」に委員会決定の内容や社としての対応を掲載

◆番組審議会への報告

  • 10月25日開催の第503回番組審議会において、広報室長、報道局長から委員会決定について報告

◆社内への告知

  • 10月19日開催の全社局長会<当社の全常勤取締役、全常勤監査役、全ライン局長出席>において、広報室長から委員会決定へ至る経過と決定内容について報告
  • 当社社報12月号<12月1日発行>に決定内容と対応を掲載

◆社長の訓示

  • 1月4日の当社年賀式および当社社報1月号<1月1日発行>において、VOICEにおける報道がBRCに放送倫理違反と判断がなされたことに関し、社長から全社員に向け訓示

(2)再発防止のための取り組みについて

◆決定内容を報道局員に周知徹底

10月20日に緊急の報道局会を開催し、局員に対し委員会決定の内容を説明しました。指摘を受けた点を重く受け止め、報道の正確性を期するために、取材対象者に報道の意図を明示して、その弁明を聞くという報道の基本原則を

再確認すること、ならびに、いわゆる隠し撮りという取材手法が許されるのは、その目的が公共性・公益性を有するとともに、そうした取材が不可欠の場合に限定されるということをあらためて報道局員全員に周知徹底しました。

また、今後の報道活動において民放連の放送基準、報道指針を遵守することなど、放送倫理のいっそうの向上に努めるよう指示しました。

◆デスクによるチェック体制の強化

報道局内の部長、デスクが協議を重ね、10月31日のデスク会で、再発防止のために次の2点を確認し、チェック体制を強化することにしました。

  • 今回の決定をふまえ、特集に限らずニュース番組の制作にあたっては、十分な取材がなされているか、また取材手法が妥当かなどを、毎夜、開催している取材予定会議の場でデスクが協議し、厳しくチェックすること
  • なかでも今回の決定で指摘を受けた、いわゆる“隠し撮り”取材については、事前にその目的や内容の妥当性を複数のデスクが判断すること、また、取材後の編集や放送にあたっても同様に複数のデスクがチェックし、厳格に

    判断すること

◆研修会の開催

12月16日、毎日放送本社に上智大学・田島泰彦教授を講師に招いて報道研修会を開催しました。

研修会には報道局員ら50余名が出席し、放送に求められる倫理とは何か、特に、いわゆる隠し撮り取材(無断録音・無

断撮影)という取材手法が報道倫理上、どのように位置づけられているかについて、英国BBCの倫理ガイドラインやわが国での過去の事例などをもとに講演をしていただき、報道局員らの認識を高めました。
今後も報道倫理に

関わるさまざまなテーマで適宜、報道研修会を開催し、取材、放送に関わるスタッフの人権や放送倫理に対する意識の向上を図っていきます。

2005年度 第27号 放送局対応

第27号 新ビジネス“うなずき屋”報道

【委員会決定を受けてのテレビ東京の対応】

2006年1月17日に委員会決定を受けたテレビ東京は、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)宛に、3月20日「改善策と取り組み」などをまとめた文書を提出した。
これは、NHKと日本民間放送連盟が、BPOの発足にあたり基本合意書において「BPOの三委員会から指摘された放送倫理上の問題については、当該放送局が改善策を含めた取組状況を委員会に報告し、放送倫理の向上を図る」と申し合わせたことに基づくもので、4月の委員会でこの報告について意見を交わした。
この中で、テレビ東京が委員会決定で指摘された内容を、関係部局に周知徹底して伝えたこと、報道現場をはじめ、外部プロダクションを含む各セクションで研修会、勉強会を行って放送倫理の確立を改めて認識しあったことなどに対し、委員各位からその取り組みを評価し、この教訓を今後に是非生かして欲しいとの要望が出された。

テレビ東京の報告は以下の通り。

2006年3月20日
放送と人権等権利に関する委員会(BRC)
委員長 飽戸 弘 殿

「新ビジネス“うなずき屋”報道」BRC決定後の改善策の取り組み等について

2006年3月20日
株式会社 テレビ東京
「新ビジネス“うなずき屋”報道」事案について、2006年1月17日に貴委員会から審理結果の通知を受け、テレビ東京は、「決定で指摘された点を真摯に受け止め、今後より一層放送倫理を遵守した報道に努めて参ります。」とのコメントを発表し、ホームページ上にも掲載しました。

その後当社では下記の通り、放送での対応・改善策の取り組み等を実施致しましたのでご報告申し上げます。

I.BRC決定通知後の決定主旨等の放送

  • 1月17日(火)17時~『速ホゥ!』で放送
  • 1月17日(火)22時~『ガイアの夜明け』で放送
  • 1月17日(火)23時~『ワールドビジネスサテライト』で放送
  • 1月22日(日)6時20分~『みんなとてれと』で放送
  • 2月19日(日)6時20分~『みんなとてれと』で、2月開催の放送番組審議会報告において、社内委員会「人権・放送倫理委員会」での模様等を紹介した。

II.決定文配布等社内周知

  • 1月17日(火)決定文社内配布
  • 1月24日(火)役員局長会報告
    社長以下全役員、全局長が出席する会議において、決定内容を報告した。
  • 1月26日(木)考査事例研修会報告
    社内の制作・報道セクションを中心に、「考査事例」を教材にして放送倫理問題を研修する会において決定内容を周知した。
  • 2月9日(木)人権・放送倫理委員会報告
    放送倫理問題を中心に議論し、幅広く社内周知を図るために設置されている委員会。
    制作・報道・スポーツをはじめ管理部門の委員も参加し、決定文を基にした意見交換 を行った。
  • 社内報(2006年2月21日発行の2月号)に決定内容を掲載した。

III.2月13日(月)開催の第305回放送番組審議会で報告

IV.報道局における改善策の取り組み(局員・制作担当者への周知・徹底等)

  • 『ガイアの夜明け』制作スタッフ(テレビ東京社員)に周知・徹底
    1月19日に制作スタッフを招集し、報道局長より委員会決定の内容を説明するとともに、今後の取材および制作活動において、放送倫理の一層の向上に努めるように指示した。
  • 報道局員に周知・徹底
    2月10日に報道局員を招集し、委員会決定の内容を説明するとともに「テレビ東京報道倫理ガイドライン」の遵守を徹底した。また今後の取材および制作活動において、放送倫理の一層の向上に努めるように指示した。約70名の報道局員が出席し、「取材対象との関わり方」等について議論を深めた。
  • 『ガイアの夜明け』外部制作プロダクションに周知・徹底
    2月14日に、番組制作に携わる外部プロダクション20社33名のプロデューサー、ディレクターを招集し、委員会決定の内容を説明するとともに、今後の取材および制作活動において、放送倫理の一層の向上に努めるように指示した。また制作過程において、局のプロデューサーとプロダクションのプロデューサー・ディレクターとのコミュニケーションを緊密にし、再発防止に努めることを確認した。「番組構成上の問題」や「取材対象者の人権への配慮」などが 議論された。
  • 勉強会の開催
    BRCの右崎正博委員(独協大学法科大学院教授)を招き、委員会決定の内容と「放送と人権」についての報道勉強会を3月8日に開催した。当日は、報道局員にとどまらず編成・制作・制作会社など約70名が参加、質疑応答・意見交換が活発に行われた。

以上

2005年度 第28号 放送局対応

第28号 バラエティー番組における人格権侵害の訴え

【委員会決定を受けての関西テレビの対応】

2006年3月28日に委員会決定を受けた関西テレビは、BRC宛に06年6月13日に「決定後の対応と取り組み状況」をまとめた文書を提出した。

これは、NHKと日本民間放送連盟が、BPOの発足にあたり

基本合意書において「3委員会から指摘された放送倫理上の問題点については、当該放送局が改善策を含めた取り組み状況を報告し、放送倫理の向上を図る」と申し合わせたことに基づくもので、06年6月20日の第113回委

員会では、この関西テレビからの報告文書について意見を交わした。

各委員からは、BRCの委員会決定を受けた放送局に対する最近の総務省の動きを懸念する意見が相次いだ。

関西テレビの報告は以下の通り

2006年6月13日
放送と人権等権利に関する委員会
委員長  竹田 稔 様
関西テレビ放送株式会社

委員会決定後の対応と取組みについて

平成18年3月28日のBRC(放送と人権等権利に関する委員会)の勧告を受け、当社は下記の通りの対応と再発防止の取組みを行いましたので、ご報告します。

(A)勧告後の当社の対応について

1.申立人への謝罪

  • 4月4日、申立人に制作局長と番組プロデューサー連名の謝罪文を郵送

2.視聴者等への告知

  • 3月28日、委員会決定直後に当社ホームページにて、これまでの経緯と委員会決定の内容、今後は一層送倫理遵守に努める方針を掲載
  • 3月28日、委員会決定後から視聴者情報部が窓口となり、視聴者からの電話やメールに対応(3月28日~4月6日:この件に関する電話7件、メール28件で内訳は苦情69%、激励その他31%)
  • 3月28日、委員会決定後に夕方の全国ニュース(40秒)、ローカルニュース(1分20秒)で決定内容を放送
  • 4月1日の当該番組「たかじん胸いっぱい」の中で番組の最後にテロップ画面でアナウンスコメントのお詫びを30秒間放送
  • 4月30日、月1回放送の検証番組「月刊カンテレ批評」の冒頭で5分間の特集を放送。その中で制作局長が出演し、経緯及び今後の方針を説明

3.他のマスコミ各社への対応

  • 3月28日、委員会決定直後のBRC委員長らの記者会見の席で、出席したマスコミ各社に当社のコメントを配布
  • 3月28日、委員会決定後から総務部が窓口となり、マスコミ各社の問合せに対応

4.社内への告知

  • 3月28日、委員会決定直後に緊急管理部長会を開き、総務局長から委員会決定について報告。全社員への周知徹底を図る
  • 4月4日、5日に全社の部長会、局長会でも今回の経緯並びに決定内容が報告される

5.総務省近畿総合通信局への報告

  • 3月28日、当社技術業務部長から委員会決定について報告。4月12日、技術業務部長と総務部長がこれまでの経緯を事情説明

6.番組審議会への報告

  • 4月13日開催の第475回番組審議会において、制作局長、考査部長から委員会決定について報告

(B)再発防止に対する取組み

1.緊急制作局会、プロデューサー会議の開催

  • 3月28日に緊急制作局会、プロデューサー会議を開き委員会決定の内容を説明し、今後は企画・編集段階から見直しを図り、再発防止に努めるよう指示
  • 4月7日、制作局長が当該番組の制作プロダクション幹部に委員会決定の内容とともに再発防止への協力を要請

2.企画・編集のチェック体制の強化

  • 3月29日より、制作部長と副部長が分担して企画書や収録番組の編集テープを取寄せ、番組のチェックをすることを決定

3.各種研修会の開催

  • 4月12日、新入社員の研修会にて考査部長がこれまでの経緯とBRC決定のポイントを解説
  • 5月18日、若手カメラマンと外部プロダクションの編集スタッフを対象に研修会を開催。今回の問題点を取り上げて、人権に配慮した番組作りを心掛けることを確認
  • 6月2日、関西テレビの本社で上智大学の田島泰彦教授を講師に招いて、「放送と人権」をテーマに研修会を開催。外部プロダクションのスタッフや社員80人が参加。田島教授はBRCの設立時の背景や放送倫理と人権について

    講演。講演後、バラエティ番組と人権に関するテーマで活発な議論が交わされた

4.制作マニュアルの作成

  • 番組制作に携わる者が放送倫理を守り、他人の名誉やプライバシーに配慮した番組作りに努める心得を書いた小冊子を作成

以上

2006年度 第29号 放送局対応

若手政治家志望者からの訴え

委員会決定 第29号 – 2006年7月26日 放送局:日本テレビ

若手政治家志望者3人が、日本テレビが2005年11月に放送した報道番組について「我々が作った政党と個人の活動について誤解を与える表現と作為的な編集、演出が行われ、名誉が傷つけられた」と申し立てた事案。

2006年7月26日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第29号

申立人   小笠原 賢二  中野 壽人  近藤 勇次郎 3氏
被申立人  日本テレビ
「先端研」は、日本テレビの説明によると、ニュース離れが進む若年層をターゲットに、気になる「先端的なテーマ」を取り上げた報道局制作の深夜番組であり、05年4月から12月まで週に1回関東ローカル枠で放送された。

「政治家を志す若者たち」というテーマで放送された本件番組は、主に以下の4つのパートから成り立っている。

•元フリーターから当選した(東京の)中野区議
•自分たちで政党をつくった「日本公進党」の党首ら
•早稲田大学雄弁会の学生たち
•松下政経塾の塾生たち
今回申立てを行ったのは、04年10月に「日本公進党」を立ち上げたいずれも20歳代の党首・小笠原賢二、幹事長・中野壽人、幹事・近藤勇次郎の3氏で、「当該放送は、当方の活動について誤解を与える表現を使い、また作為的な編集や演出が行われた結果、我々の名誉が傷つけられた」としている。
申立人らは、当初05年12月に日本テレビ報道局長宛に公開質問状を送るなどして局側の説明を求めていたが、06年2月に担当プロデューサーと電話で話しあった後、書面による回答を求めていた。
被申立人の日本テレビは、06年4月に報道局担当プロデューサー名で「当該番組は取材で浮かび上がった事実をありのままに伝えたもので、事実を歪曲して編集していない。したがって、取材方法や編集作業において謝罪や訂正すべき点があるとは考えていない」と回答した。
申立人らは、この回答を不満として同年4月9日付けで「申立書」を本委員会に提出した。

全文pdfPDFはこちら

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立ての要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁の要旨
  • IV. 委員会の判断

2006年10月13日 【委員会決定を受けての日本テレビの対応】

当該局の対応pdfPDFはこちら

2008年度 第36号 放送局対応

第36号 高裁判決報道の公平・公正問題

【委員会決定を受けてのNHKの対応】

標記事案の委員会決定(6月10日)を受けて、NHKは9月3日放送人権委員会宛に「委員会決定に対するNHKの対応について」という文書を提出した。

NHKの報告は以下の通り

平成20年9月3日
BPO・放送と人権等権利に関する委員会御中

日本放送協会

「公平・公正に係る申し立てについての委員会決定」に対するNHKの対応について

平成20年6月10日、貴委員会は、平成19年1月29日の「ニュースウオッチ9」でのETV番組をめぐる控訴審判決報道について、「公平・公正を欠き、放送倫理違反があった」との判断を示しました。この決定に対するNHKの対応などに

ついて報告します。

NHKは、審理の中で「公平か公平でないかの判断は微妙な問題であり、より慎重に行われるべきだ」と繰り返し主張してきました。その理由は、決定で、公平・公正な裁判報道はこうあるべきだとの

一般的な枠組みが万一示された場合、今後の報道への影響が大きいとの危惧からです。
その点、今回の放送倫理違反という結論は、報道一般に適用されるものではなく、報道機関自身が当事者となっている民事事件に関する

裁判報道という非常に特殊なケースに限定したものとなっています。NHKとしては、この決定を真摯に受け止めています。

(1)勧告後のNHKの対応
NHKでは、決定を受け、「今回の決定を真摯に受け止めて、さら

に放送倫理の向上に努め、公共放送に対する期待に応えていきます」とのコメントを発表しました。
また当日午後7時からの「ニュース7」と9時からの「ニュースウオッチ9」で決定内容を放送し、その中で、申立人の記者会

見についても紹介しました。またラジオ第一放送でも、午後7時からの「NHKきょうのニュース」と午後10時からの「NHKジャーナル」で決定を伝えました。

 なお、2日後の6月12日に出された最高裁判決の報道にあた

っては、公平・公正に十分に配慮しました。また一般の裁判報道の際にも、決定の趣旨をいかしていくよう対応しています。

(2)社内周知のための対応
放送現場への周知については、翌日の6月11日に、全国の

報道現場に、決定内容を記した報道局長名の文書を配布し、決定趣旨を周知するとともに、日々の取材・報道に際して、改めて公平・公正の原則を再確認するよう指示しました。
さらに放送関係の部局長で作る放送倫理委員

会(6月23日)、及び現場の担当者で作る放送倫理連絡会(6月27日)で、今回の決定について説明し、報道以外の関係者にも周知を図りました。
今後、職員の研修などの場でも今回の決定の趣旨を徹底していきたいと考えて

います。

以上報告します。

以上

2008年度 第37号 放送局対応

第37号 群馬・行政書士会幹部不起訴報道

【委員会決定を受けてのエフエム群馬の対応】

エフエム群馬の報告は以下の通り

平成20年9月25日
放送と人権等権利に関する委員会
委員長 竹田 稔 殿

株式会社エフエム群馬
代表取締役社長 小林洋右

「委員会決定」の取組状況について(ご報告)

拝啓 貴委員会のご清栄を衷心よりお慶び申し上げます。
弊社の「群馬・行政書士会幹部不起訴報道」の審理に際して、貴委員会には多大なご面倒をおかけし、改めてお詫び申し上げます。

弊社は、貴委員会

決定「放送倫理違反」見解を真摯に受け止め、全社をあげて改善策を推進しております。今回のご報告は、既にご報告した委員会決定直後の措置を含め、弊社のこれまでの改善策全体についてまとめたものです。

弊社

の改善策は、(1)「放送倫理違反」見解を受けたことの公開、(2)申立人との関係改善、(3)社内統制と社員教育の改善、の三点について行いました。
このうち、(3)社員教育改善のため、弊社の「報道・編集ハンドブック」を

策定しましたので、添付させていただきました。
このハンドブックについて、9月中に全社員と番組出演者等を対象にした研修会を開き、日常業務の改善に役立てる所存です。なお、本報告書は、委員会決定があった平成20年

7月1日を起点に時系列でまとめさせていただきました。

ご査収いただき、行き届かない事柄についてご指導をいただければ幸甚です。

敬具

■7/1(火)

放送と人権等委員会が委員会決定 「放送倫理違反」見解を公表

17:00~30 地元記者会見で発表 於:県政記者クラブ
小林社長・大崎報道渉外担当部長が説明

18:03~04 夕方番組、ニュースコー

ナーで報道
委員会決定の概略

19:55~20:00 通常番組を休止し、特別枠で報道
委員会決定の詳細
弊社が真摯に受け止める旨のコメント
申立人のコメント

20:55~21:00 通常番組を

休止し、特別枠で報道
内容は上記と同じ

■7/2(水)

9:10~50 社内説明会実施

社長より在局社員に「放送倫理違反」の説明
不在者に説明骨子をメールで配信

午前~午後 関係各所へ報告

広告代理店へ説明文書を発送
JFN、エフエ

ム東京へ電話とメールで報告
ホームページ「お知らせ欄」に掲載、以後1週間
委員会決定の全文書(個人名をカット)
当社が真摯に受け止める旨のコメント
申立人のコメント
申立人に挨拶訪問

社長と報道渉外担当部長が挨拶に訪問、懇談
申立人は友好的に応対してくれた

■7/7(月)

午後 申立人と県行政書士会幹部4人が弊社に挨拶訪問
会長、常務理事、事務局長、申立人

■7/8(火)

放送番組審議会に報告
顧問弁護士に委員会決定内容を説明.

■7/15(火)

社長が上京、BPO事務局を訪問、経過を報告

■7/28(月)

「報道・編集ハンドブック」作成を開始
社長指導で報道部が作業

■7/29(火)

関係者3名の社内処分「文書による厳重注意」

■9/5(金)

人事異動内示 9月22日発令予定

■9/8(月)

「報道・編集ハンドブック」完成
常務会で決定、社内LANで掲示

■9/11(木)

代理店会議開催
「放送倫理違反」の概略説明
本報告書を作成

■9/16(火)

総務部長がBPO事務局を訪問
本報告書を提出

■9/19(金)

9月定例取締役会開催
「放送倫理違反」の概略説明

■9/24(水)

「報道・編集ハンドブック」の全社研修会を実施
社員・番組出演者・業務委託者、計36名参加

以上

2008年度 第39号 放送局対応

第39号 徳島・土地改良区横領事件報道

【委員会決定を受けてのテレビ朝日の対応】

テレビ朝日の報告は以下の通り

2009年6月29日
放送倫理・番組向上機構 御中

株式会社 テレビ朝日

委員会決定後の対応と取り組みについて

当社番組「報道ステーション」の「徳島・土地改良区横領事件報道」事案について、2009年3月30日の放送倫理・番組向上機構 放送と人権等権利に関する委員会による委員会決定を受けて、当社は以下の対応と取り組みを行って

おりますので、ご報告いたします。

  • 委員会決定後の対応について
    3月30日の委員会決定を受けて、当社広報部は当日「委員会の勧告を真摯に受けとめ、放送倫理や人権に十分配慮をしてまいります」というコメントを発表しました。委員会決定の内容につい

    ては、当社のコメントも交えて、当日夕方の「スーパーJチャンネル」と、委員会決定の当該番組である「報道ステーション」および翌日朝の「やじうまプラス」内「ANNニュース」で全国向けに放送したほか、4月5日の番組「はい

    !テレビ朝日です」の中で放送しました。社内においては、委員会決定の当日以降、局長会をはじめ社内常設の番組審査や放送倫理にかかわる会議などで委員会決定の内容を報告しました。また、報道局においては局内の会議で詳

    細な報告を行いました。4月14日には、顧問弁護士も交えて委員会決定について詳細に分析・検討する会議を開き、対応策の策定などの方針を確認しました。申立人には、4月16日に報道担当取締役が面会し、委員会決定の趣旨に沿

    って、今後番組を編集・放送していく方針を説明したところ、申立人はそれを了承されました。社員の処分は4月21日付で行い、「裏づけ取材など不十分なまま放送にいたり、結果、放送倫理違反があったとしてBPOから勧告を受け

    たことに対して」として、報道ステーション担当部長ら番組の担当者5名を減給1カ月、また「その管理監督責任を問う」として、報道局長と報道局ニュース情報センター長を譴責としました。当社放送番組審議会においては、4月17

    日の第499回審議会で社長が委員会決定について報告しました。5月15日の第500回審議会では「報道情報系番組の『取材』のあり方、『情報』の取り扱いと放送倫理、人権の問題について」というテーマで審議が行われました。この

    中では、委員から「ぜひ取材に関してはしっかりとやってもらいたい」「情報という危険なものの扱い方の伝承がなされているか。デスククラスが心をひきしめていかないといけない事態だ」などの意見が出されました。

    らに、6月4日の第76回テレビ朝日系列24社放送番組審議会委員代表者会議(大阪市で開催)においても前述のテーマで議論が行われました。出席委員からは「番組制作の現場で、経験の少ないスタッフによる放送倫理観が欠落して

    いたことや、それを監督する立場の責任者のチェック機能が十分でなかったのが取材不足の原因ではないか」「ジャーナリストとして勉強する機会がどこまで保証されているのだろうか。余裕がない現場が危ない状況を生んでいると

    思う」「テレビの映像と音声は一瞬にして消えるが、影響力が大きいだけに間違いを起こさないように謙虚であるべき」「取材を慎重に行い、事実の確認をきちんと行うことが重要だ。さらに事実を報道したとしても、視聴者がど

    のような印象を持ったかが重要となる」などの意見が出されました。

  • 再発防止に向けた取り組みについて
    「報道ステーション」では、番組の責任者が全スタッフを集めて、委員会決定の内容と、取材の経緯や表現方法などを説明しました。委員会決定で指摘された問題点を重く受け止めて

    、検証報道に必要な十分な裏付け取材を今後も怠ることなく徹底的に実施するよう注意喚起を促すとともに、様々な意見交換を実施しました。また、幹部デスクとも委員会決定後に協議を重ね、放送人権委員会で審理されることに

    なった問題点を再度整理し、今後は放送項目についてチームリーダーを決め、素材の確認をはじめナレーション原稿や表現方法など全体的な点検作業を徹底的に実施していく方針を確認しました。
    報道局に、放送倫理の一層

    の徹底および危機管理情報の共有を図り、問題発生の事前防止に向けた施策を機動的に立案し、実施するための会議「報道局・危機管理プロジェクト」を設置しました。この会議では、まず「徳島・土地改良区横領事件報道」につ

    いて、このような放送に至った原因の究明や、再発防止に向けた業務の改善方法などについて検討を行いました。
    5月14日には当社に、放送人権委員会委員長代行で今回の委員会決定のとりまとめを担当した三宅弘弁護士を

    招いて、委員会決定の内容や問題点等について2時間以上にわたって説明を受ける研修会を実施しました。社員・社外スタッフなど約80人が参加し、番組スタッフなどから出された質問や疑問について三宅委員長代行から回答をいた

    だき、委員会決定についての理解を深めるとともに、問題意識を持つことの重要性を再認識しました。

  • 番組における具体的な改善策
    1)検証報道を実施する際の裏付け取材の徹底。
    検証報道に限らず、ニュース報道の根幹は十分な裏付け取材が必要なことは言うまでもありません。確認作業は一人では行わず、必ず複

    数人で一つ一つ疑問点を解消していきながら、十分な裏付け取材ができているか、最終的な確認作業をデスクと必ず行うことを徹底します。
    2)安易で短絡的・拙速な報道の防止。
    十分な裏付け取材ができなかった場

    合や、コンセプトが明確になっていない場合などは、拙速な報道を避けて当日の放送を見送るという決断をするよう努めます。
    3)チームリーダーを決め確認作業を実施。
    現在のニュース編成は、一つの項目に対して複

    数のディレクターが取材や原稿、編集などを分担して作業を実施するため、全体を統括する責任者はいるものの、細部まで完璧に把握できていないこともありました。これを改めて、チームリーダーを項目ごとに配置して責任体制

    を明確にし、取材や編集などすべての過程において確認作業に当たらせることにします。
    4)チェック体制の強化と節目ごとに確認作業を実施。
    チームリーダーは1次的な確認作業を行いますが、進捗状況も含めて担当

    のデスクやプロデューサーがチームリーダーとともに節目節目で取材や編集など進捗状況をチェックして確認作業を行います。また、ナレーションでの表現方法なども含めて、適切かどうか確認を進めることとします。
    5)定

    期的な勉強会と研修を実施し、再発防止を推進。
    他番組や他局で起きたことも含めて、当該報道に関連した講師や人物を招いて勉強会や研修会を開催し、スタッフの意識を常に高めるように努めます。

以上、放送と人権等権利に関する委員会による委員会決定についての当社の対応と取り組みをご報告申し上げました。

以上

2009年度 第40号 放送局対応

第40号 保育園イモ畑の行政代執行をめぐる訴え

【委員会決定を受けてのTBSテレビの対応】

TBSテレビの報告は以下の通り

平成21年11月6日
BPO・放送と人権等権利に関する委員会 御中

(株)TBSテレビ

「保育園イモ畑の行政代執行を巡る訴えに関する委員会決定」に対する対応と取り組み

この度、当社番組「サンデージャポン」の「保育園イモ畑の行政代執行を巡る訴え」事案について、「放送倫理・番組向上機構(BPO)放送と人権等権利に関する委員会」による2009年8月7日の委員会決定を受けて、当社は以下の対応と取り組みを行っておりますので、ご報告いたします。

  • 委員会決定後の対応

    弊社では貴委員会の決定を受けて、「委員会の勧告の内容を真摯に受け止め、今後の番組作りに生かしてまいります」というコメントを公表しました。
    また、決定内容については通知当日の『総力報道!THE NEWS』の中で全国向けに放送をしたほか、8月9日に当該番組である『サンデージャポン』の中でも放送しました。

  • 社内での報告と周知
    貴委員会による「決定」通知以降、社内では局長会をはじめ、放送倫理委員会(9月4日開催)などで内容を報告し、全社的に周知徹底を図るように確認しました。さらに第521回番組審議会(9月14日開催)、当社の放送及び当社が放送責任を負う番組の制作や取材過程等における人権侵害等について審議する第52回放送と人権特別委員会(9月25日開催)においても内容を報告し、委員の皆様からご意見を頂きました。
  • 再発防止に向けた取り組みについて

    (1) 『サンデージャポン』が所属する情報制作局では、現在の情報番組が直面する様々なテーマを盛り込んだ、情報番組に携わるスタッフ専用版の「情報番組ガイドライン」を作成しました。ガイドラインの中に今回の『サンデージャポン』の事例を掲載し、「情報バラエティ番組は、手法はバラエティでも伝える内容は事実であり、且つ正確に伝える番組でなければならない」旨を再確認しました。
    このガイドラインをもとに8月末から9月初めにかけて勉強会を計4回にわたって実施し、情報制作局の社員・社外スタッフ約460人が参加しました。今回の事例を改めて振り返ると共に名誉毀損や人権問題に関する昨今の事例研究、取材や放送における社内でのチェック体制についての確認、加えて貴委員会からご指摘をいただいた「訂正放送」についても検証しました。

    (2) 『サンデージャポン』のスタッフ向けには個別勉強会を3ヶ月に1回実施します(既に1回実施)。社内外の問題事例を詳しく検証するほか、取材やVTR編集時などにおける問題点を研修したり、講師を招いて勉強会を開催することで、スタッフの意識を常に高めるように努めてまいります。

    (3) 情報番組においては政治・経済・事件などを扱うことが多いことから、報道局との連携を一層強める体制を作りました。『サンデージャポン』では報道局で記者経験のあるプロデューサーが、取り上げる項目の選定から取材、編集に至る過程で入念なチェックを行うことに加え、報道局各部のデスクによる原稿チェックや弁護士によるVTR内容のリーガルチェックなどを実施しております。
    そうすることでVTRにおける事実誤認をなくし、VTRを見た出演者が誤解を生じないように、また誤解に伴う発言をしないように配慮しております。

    (4) 出演者に対しては内容面の説明を手厚くするなど事前打ち合わせの時間を長めに取っておりますが、万が一出演者に不適切な発言が出た場合に備えて、サブで制作プロデューサー、番組プロデューサーと番組デスクが共同でチェックを行う体制を整えました。必要と判断すれば、番組内で速やかに訂正や補足説明を行うようにしております。

今回の「決定」を受けて、当社は放送局として今後も視聴者の皆様の信頼を損なわないように取材や制作を適正に行うため、情報制作局のみならず報道局などの制作現場と編成やコンプライアンス室などが連携していく所存です。

以上、貴委員会による委員会決定についての当社の対応と取り組みについて報告させていただきました。

以上

2009年度 第41号 放送局対応

割り箸事故・医療裁判判決報道

委員会決定 第43号 – 2009年10月30日 放送局:TBS

2008年2月、TBS『みのもんたの朝ズバ!』は、1999年に男児が割り箸を喉に刺して死亡したいわゆる「割り箸事故」の民事裁判判決を取り上げた。その内容について、男児の治療を担当した勤務医とその家族が、事実誤認と捏造ともいえる放送により医師の名誉が毀損され家族も精神的苦痛を受けたと申し立てた事案。

2009年10月30日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第41号

申 立 人    根本英樹、根本良美、根本美知子、根本晋一、根本美香穂
被申立人   株式会社 TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『みのもんたの朝ズバッ!』における「8時またぎ」のコーナー
放送日時
2008年2月13日(水)午前7時30分過ぎ~
VTR部分 8分20秒
スタジオトーク部分 6分50秒

本決定の概要

本件申立ては、2008年2月13日放送の『みのもんたの朝ズバッ!』(以下「本
件放送」という)において、男児が綿菓子の割り箸を口にくわえたまま転倒し、のど
を貫いた割り箸の先端部分が脳にまで達した結果死亡した、いわゆる「割り箸事故」
で、その治療に関与した医師の責任の有無をめぐる民事裁判の判決内容の報道ならび
に論評が行われたが、その内容が当該医師の名誉と信用を毀損し、その家族に精神的
被害をもたらしたとしてTBSに対して謝罪放送等を求めたものである。
当委員会は、審理の結果、本件放送は、当該医師の名誉を毀損するものではなく、
また申立人ら家族の精神的圧迫感もその侵害が社会通念上許された限度を超えるとは
認められないが、放送内容及びその前提となる放送態勢において、民間放送連盟とN
HKが制定した『放送倫理基本綱領』における「報道は、事実を客観的かつ正確、公
平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」との定めに反する
など重大な放送倫理違反があると判断し、TBSに対してしかるべき措置をとること
を勧告する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

Ⅰ.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容と問題点
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人(放送局)の答弁

Ⅱ.委員会の判断

  • 1.事実の認定と判断
  • 2.放送倫理上の問題および権利侵害の有無

Ⅲ 結論と措置

Ⅳ.審理経過

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2010年1月12日 委員会決定を受けてのTBSの取組み

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1998年度 第5号 放送局対応

第5号 其枝幼稚園報道

【委員会決定を受けてのNHKの対応】

被申立人のNHKは、「今回の決定では、『放送は取材した事実に基づいたもので、訂正放送の必要性までは認められない』としており、NHKの立場が基本的には受け入れられたものと認識している。しかし、取材の相手方に対して、より細やかな配慮を求められたことについては、その趣旨を真摯に受け止め、今後も放送倫理の徹底に努めていく考えです」とのコメントを出し、以下の番組で委員会決定の主旨を放送した。

10月26日 「ニュース7」で放送(全国)
ラジオニュース(全国)
11月 1日 「あなたの声に答えます」で放送(全国)

以上

2010年度 第46号

「大学病院教授からの訴え」事案

委員会決定 第46号 – 2011年2月8日 放送局:テレビ朝日・朝日放送

見解:放送倫理上問題あり
テレビ朝日・朝日放送の報道番組『サンデープロジェクト』で2010年2月に放送した「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」の特集に対して、大学病院教授が、自分が直接当事者ではなかった過去の出来事に関連して、事前の同意を得ることなく取材を強行されたことや番組で実名や取材映像を使用されたのは人格権の侵害だと訴えた事案。

2011年2月8日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第46号

申立人
A
被申立人
株式会社テレビ朝日・朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『サンデープロジェクト』
(毎週日曜日 午前10時~11時45分、2010年3月終了)
放送日時
2010年2月28日(日)(番組の後半の特集 約34分)
「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」

本決定の概要

本件は、報道番組『サンデープロジェクト』の中の「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」と題する特集コーナーの後半部分で、1998年に金沢大学附属病院で起きた「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判と大学病院側の対応等を取り上げたこと、および事前の同意を得ることなく「直撃取材」を行ったことに対して、この取材を受け、また番組で実名および取材映像を使用された金沢大学附属病院産婦人科学講座の教授である申立人が、人格権侵害等の違法と放送倫理違反を申し立てたものである。
放送と人権等権利に関する委員会(以下「委員会」という)は、結論として、本件取材には人格権侵害の違法性は認められないが、放送内容には、企画意図は理解できるものの、放送倫理上の問題および表現上の問題があると判断した。とりわけ問題となるのは、番組のインタビュー部分における申立人の扱いと、「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判の紹介の仕方である。本件放送における申立人インタビュー部分の取り上げ方は、真実性の追求や反論の機会の確保とはほど遠いものであり、また、「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判結果の紹介は、上訴審以降の経過を捨象し、その結果を誤り伝えたため、裁判所も患者が実験目的を主とした臨床試験の対象にされたと認定したかのような不正確なものになっているとの批判を免れない。これらについて委員会は、放送倫理上の問題があると判断した。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人(放送局)の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1.審理の対象
  • 2.実名・映像の使用による人格権侵害
  • 3.取材上の問題点
  • 4.放送内容の問題点

III.結論と措置

IV.審理経過

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2011年6月20日【委員会決定を受けてのテレビ朝日・朝日放送の取組み】

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2011年7月4日【「委員会決定を受けての取り組み」に対する意見】

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2010年度 第45号

「機能訓練士からの訴え」 事案

委員会決定 第45号 – 2010年9月16日 放送局:TBSテレビ

見解:問題なし
TBSの報道番組『報道特集NEXT』が2009年4月と11月に放送した車イスの少女の普通中学校入学をめぐる問題を扱った特集について、映像に登場した少女の機能訓練士が無断で訓練の映像を使用されたとして肖像権や名誉、財産権等の侵害を訴えた事案。

2010年9月16日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第45号

申立人
(有)A
B
C
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『報道特集NEXT』
(毎週土曜日午後5時30分~6時50分)
放送日時
2010年2月28日(日)(番組の後半の特集 約34分)
(1) 2009年4月11日
特集「車イスの少女が入学できない訳」19分20秒
(2) 2009年11月7日
特集「Dさん入学・・・豊かな教育」24分10秒

本決定の概要

TBSテレビ(以下「被申立人」という)は、報道番組『報道特集NEXT』において、2009年4月11日に特集「車イスの少女が入学できない訳」を、2009年11月7日に特集「Dさん入学・・・豊かな教育」を放送した。これらの番組は、普通小学校に通うことができた少女がなぜ普通中学校に通うことができないのかという企画意図に基づくものであったが、番組中、(有)A(以下「A」という)の代表者であるB氏、同社員であるC氏(以下三者をあわせて「申立人ら」という)が少女に機能訓練を行う映像が放送された。この映像は少女の両親が撮影したものであった。
申立人らは、4月11日の放送については、事前にB氏C氏両名の肖像を使用することについて被申立人が了解を得ておらず肖像権侵害にあたるとしたほか、申立人らの名誉、財産権(特許技術)、著作権、営業権を侵害したものと主張した。11月7日の放送については、放送前に被申立人から連絡があり一応の許諾を与えたものの、その後許諾を与えた前提に反する対応があったことから、結局、B氏C氏両名の肖像権、申立人らの名誉、財産権(特許技術)、著作権、営業権を侵害したものであり、いずれの放送も申立人らの活動を曲解させ、または、不法な説明があり、申立人らの活動を阻害するもので、申立人らの被申立人に対する善意を踏みにじるものであるとして、申立てに及んだ。
放送と人権等権利に関する委員会(以下「委員会」という)は審理の結果、以下の理由により、本件放送内容については名誉、肖像権等の権利侵害はなく、また、放送倫理違反にあたる点も認められないと判断した。
まず、B氏C氏両名の肖像の使用については、4月11日の放送については事後の承諾が与えられており、11月7日の放送については事前の承諾が与えられているので、いずれも肖像権の侵害があったとはいえない。また、放送において視聴者に申立人らの活動を曲解させるような内容や不法な説明があり、そのことによって申立人らの活動を阻害した事実は認められず、そのほか、申立人らとの対応のうえで、被申立人において申立人らの善意を踏みにじる行為があったとする点もこれを認めることができなかった。
ただし、被申立人においては肖像にかかわる権利処理について軽率なところがあり、その点において報道される側に対する配慮に欠けた部分があったと考えるので、この点については、今後の放送の糧として欲しい。
なお、財産権(特許技術)、営業権に関わる部分については、委員会の審理の対象とはならないので判断しない。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人(放送局)の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1.申立ての要旨(1)について
  • 2.申立ての要旨(2)について
  • 3.申立ての要旨(3)について
  • 4.申立ての要旨(4)について

III.結論

IV.審理経過

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2010年度 第44号

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」

委員会決定 第44号 – 2010年8月5日 放送局:テレビ朝日

見解:放送倫理上問題あり(意見付記)
テレビ朝日は、2008年12月の『報道ステーション』において、長野県上田市で夫婦が殺害され隣家の男が逮捕された事件を特集で取り上げた。この放送について、遺族が、夫婦が長年にわたって加害者やその親族に嫌がらせをしてきたことが、殺害の動機を形成したかのような事実に反する内容だったとして、名誉毀損などを訴えた事案。

2010年8月5日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第44号

申立人
A
被申立人
株式会社 テレビ朝日
苦情の対象となった番組
『報道ステーション』
(月~金 午後9時54分~11時10分)
特集「身近に潜む境界トラブルの悲劇 住宅地の惨劇はなぜ起きた」
放送日時
2008年12月23日(火)午後10時48分過ぎから約15分間

本決定の概要

テレビ朝日は、2008年12月23日放送の『報道ステーション』において、同年11月に長野県上田市で夫婦が殺害され、隣家の男が逮捕された事件を取り上げ、特集「身近に潜む境界トラブルの悲劇 住宅地の惨劇はなぜ起きた」(以下「本件放送」という)を放送した。
これに対して、申立人は、(1)本件放送において、申立人の両親である被害者夫妻が長年にわたって加害者やその親族に対して嫌がらせをしてきたことが加害者の殺害の動機を形成したかの真実に反する内容が放送されたことによって、被害者夫妻およびその子供である申立人自身の名誉が毀損され、あるいは申立人の被害者夫妻に対する敬愛追慕の情が侵害された、また、(2)本件放送が近隣住民から聴取した内容の真実性等に十分配慮することなくそのまま放送したことは、事実を正確に、かつ公平に報道すべきであるという放送倫理に違反すると主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて本件申立てを行った。
審理の結果、被害者夫妻が、自分の土地に加害者の車が入ることを嫌がって、加害者自宅から公道へ出るために通過する路地の屈曲箇所付近に障害物を置いて通行を妨害しようとした事実、また、事件当日、障害物を置いた上で、被害者(妻)が加害者の様子をうかがい、加害者を写真撮影しようとしていた事実が認められた。また、こうした被害者夫妻の行為が加害者による本件犯行の動機形成に影響したことは、加害者に対する刑事事件判決においても指摘されているところである。こうした認定に基づき、委員会は、これらの点に関する本件放送の報道内容は、主要な部分において真実であり、または真実と信じるにつき相当の理由があったといえ、申立人に対する名誉毀損に当たらず、その他の違法もないと判断する。したがって、訂正放送、謝罪放送はいずれも必要がない。
他方、委員会は、とりわけ本件放送が一般的な隣人トラブルにとどまらず殺人事件という深刻な犯罪を取り扱うものであったことを考慮すれば、(1)取材段階においては、少なくとも申立人ら遺族など被害者関係者と接触を試み、その言い分も聴取するなどの被害者保護の観点からの積極的姿勢が求められる場合であったにもかかわらず、そうした努力をしていなかった点において被害者に対する配慮に欠けるところがあり、また、(2)編集・放送段階においては、被害者夫妻が非常識であったといったイメージを与えかねない放送をする一方で、加害者の側の問題点には一切触れなかったため、被害者側への配慮に乏しく、公平性を欠く内容になっていることが否定できないものと認めた。
このように、本件放送は、取材や編集・放送の各段階において被害者夫妻および申立人ら遺族に対する配慮に欠ける点があったものと認められ、「放送倫理基本綱領」が「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とし、民放連の報道指針が「事件の被害者に対し、節度をもった姿勢で接する」としていることに照らして、放送倫理上問題があると判断する。 したがって、委員会は、被申立人に対し、本決定の趣旨を放送するとともに、今後は、報道においてより正確性、公平性を確保するよう留意して真実を追求し、かつ被害者等の名誉と生活の平穏のいずれをも害することのないよう公平な取材・報道をするよう十分配慮することを要望する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1 苦情申立てが期限内に行われなかったことについて
  • 2 申立人が名誉毀損等にあたると主張する事実
  • 3 これらの事実についての検討
  • 4 名誉毀損等の成否
  • 5 放送倫理上の問題
  • 6 小括

III.結論と措置

IV.審理経過

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2010年11月4日【委員会決定を受けてのテレビ朝日の取組み】

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