「自転車事故企画に対する申立て」に関する委員会決定
2016年5月16日 放送局:フジテレビ
見解:放送倫理上問題あり (補足意見付記)
フジテレビは2015年2月17日放送のバラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』の企画コーナーで自転車事故を取り上げ、自転車事故で母親を亡くした男性のインタビューに続けて、自転車事故を起こした息子とその家族の顛末を描いたドラマを放送した。ドラマでは、この家族が高額の賠償金を払ったが、この事故でけがを負った小学生が実は当たり屋だったという結末だった。
この放送について、インタビュー取材に応じた男性が、取材の際にドラマで当たり屋を扱うことの説明がなかったことは取材方法として著しく不適切であり、自分も当たり屋であるかのような誤解を視聴者に与えかねず名誉を侵害されたなどとして委員会に申し立てていた。
委員会は、「見解」として、名誉毀損等の人権侵害は認められないが、フジテレビは申立人の立場と心情に配慮せず、本件放送の大部分を占めるドラマが当たり屋の事件を扱ったものであるという申立人にとって肝心な点を説明しておらず、本件放送には放送倫理上の問題があると判断した。
【決定の概要】
フジテレビは、バラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』(2015年2月17日放送)の「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナーで自転車事故の問題を取り上げ、自転車事故被害者の遺族である男性のインタビューに続けて、自転車事故を起こした息子とその家族の顛末を描いたドラマを放送した。ドラマは、この家族が高額の賠償金を支払ったが、この事故でけがを負った小学生が実は当たり屋だったという結末であった。
この放送について、インタビュー取材に応じた男性が、ドラマで当たり屋を扱うことの説明が取材の際になかったことは取材方法として著しく不適切であり、自分も当たり屋であるかのような誤解を視聴者に与えかねず名誉を侵害されたなどとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には、申立人に対する名誉毀損等の人権侵害は認められないが、放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、番組の構成上、申立人のインタビュー場面を含む情報部分とドラマ部分とに区別され、本件ドラマの当たり屋の事件と申立人が母親を亡くした事故は関係がないことから、一般視聴者に対して、申立人が当たり屋であるかのような誤解を与えるものとはいえない。したがって、申立人の社会的評価の低下を招くことはないから、本件放送による申立人の名誉毀損は認められない。また、本件放送で申立人に対する否定的な評価やコメントがなされているものではなく、申立人が出演した情報部分とドラマ部分とは区別されており、その関連性は間接的なものにとどまるから、本件放送による申立人の名誉感情侵害が認められるとまではいえない。
次に、放送倫理上の問題について検討すると、本件ドラマは、当たり屋の事件をとりあげた事例であって、被害者を装っている者を描くにすぎないことになるから、自転車事故が被害者に深刻な結果をもたらすという側面をなんら描いていない。フジテレビは、申立人が被害者遺族の立場から自転車事故の悲惨さを訴えたいことを認識していながら、申立人の立場と心情に配慮せず、本件放送の大部分を占める本件ドラマが当たり屋の事件を扱ったものであるという申立人にとって肝心な点を説明しなかった。この点において、フジテレビは、申立人に対して番組の趣旨や取材意図を十分に説明したとは言えず、本件放送には放送倫理上の問題がある。
以上から、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、社内及び番組の制作会社にその情報を周知し、再発防止のために放送倫理の順守にいっそう配慮するよう要望する。
2016年5月16日 第60号委員会決定
放送と人権等権利に関する委員会決定 第60号
- 申立人
- A
- 被申立人
- 株式会社フジテレビジョン
- 苦情の対象となった番組
- 『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』
企画コーナー「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」 - 放送日時
- 2015年2月17日(火) 午後7時~8時54分
【本決定の構成】
I.事案の内容と経緯
- 1.放送の概要と申立ての経緯
- 2.論点
II.委員会の判断
- 1.申立人の主張と本決定における取り扱い
- 2.人権侵害に関する判断
- 3.放送倫理上の問題
III.結論
IV.放送内容の概要
V.申立人の主張と被申立人の答弁
VI.申立ての経緯および審理経過
2016年5月16日 決定の通知と公表の記者会見
通知は、2016年5月16日午後1時からBPO会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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- 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
- 補足意見:
- 多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
- 意見 :
- 多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
- 少数意見:
- 多数意見とは結論が異なるもの
放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。