放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2016年度 第61号

「世田谷一家殺害事件特番への申立て」に関する委員会決定

2016年9月12日 放送局:テレビ朝日

勧告:放送倫理上重大な問題あり
テレビ朝日は2014年12月28日に『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』を3時間に及ぶ年末特番として放送した。今なお未解決の世田谷一家殺害事件を、FBIの元捜査官が犯人像をプロファイリングするという内容で、その見立ては、被害者の1人の実姉である申立人が否定していた一家に強い怨恨を持つ顔見知りによる犯行というものだった。
申立人が元捜査官と面談した内容が十数分間に編集されて放送されたが、申立人は、規制音・ナレーション・テロップなどを駆使したテレビ的技法による過剰な演出と恣意的な編集によって、申立人があたかも元捜査官の見立てに賛同したかのようにみられる内容で、申立人の名誉、自己決定権等の人権侵害があったと委員会に申し立てた。
委員会は、「勧告」として、本件放送は人権侵害があったとまでは言えないが、番組内容の告知としてきわめて不適切である新聞テレビ欄の表記とともに、テレビ朝日は、取材対象者である申立人に対する公正さと適切な配慮を著しく欠いていたと言わざるを得ず、放送倫理上重大な問題があったと判断した。

【決定の概要】

テレビ朝日は2014年12月28日(日)に『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』を3時間に及ぶ年末特番として放送した(以下、「本件放送」という)。2000年12月30日深夜に発生し今なお未解決の世田谷一家殺害事件を取り上げ、FBIの元捜査官が犯人像をプロファイリングするという内容だった。その見立ては、被害者の1人の実姉である申立人が否定していた一家に強い怨恨を持つ顔見知りによる犯行というものだった。
本件放送では、申立人が元捜査官と面談した内容が十数分間に編集されて放送された(以下、「本件面談場面」という)。申立人は、本件面談場面は、規制音・ナレーション・テロップなどを駆使したテレビ的技法による過剰な演出と恣意的な編集によって、申立人があたかも元捜査官の見立てに賛同したかのようにみられる内容で、申立人の名誉、自己決定権等の人権侵害があったと委員会に申し立てた。これに対し、テレビ朝日は、過剰な演出と恣意的な編集を否定し、本件面談場面は申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる内容ではないと反論した。
委員会は本件面談場面の流れを検討し、申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる可能性が強い内容だったと判断した。新聞テレビ欄の番組告知の表記についても思わせぶりな伏字や本件放送内で語られていない文言を使ったもので、番組内容の告知としてきわめて不適切なものだったと判断した。
しかし、本件面談場面は、申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる可能性が強い内容だったとはいえ、申立人が自身の考えを変えたとまで視聴者に明確に認識されるものではなかったこと、さらにたとえ元捜査官の見立てに賛同したと受け取られたとしても、そのことが申立人の社会的評価の低下にただちにつながるとは言えないことなどから、本件放送は申立人の人権侵害には当たらないと委員会は判断した。
申立人は、本件放送後、本件面談場面を見て元捜査官の見立てに申立人があっさり賛同したものと受け取った申立人にごく近い人々から厳しい批判や反発を受け、精神的苦痛を味わったと主張する。だが、これらの批判や反発は申立人にごく近い人々からの反応や意見であって、申立人が元捜査官の見立てに賛同するという事実がただちに社会的評価の低下をもたらすとは言えないことを考えると、申立人の人権侵害があったとまでは言えないと委員会は判断した。
次に放送倫理上の問題について判断した。テレビ朝日は申立人に取材を依頼した時点で、申立人が事件をめぐる怨恨を否定し、悲しみからの再生をテーマにさまざまな活動を行っていることをよく知っていたという。また、番組に出演する際には、衝撃的な事件の被害者遺族ということへの配慮が必要なことも十分認識していたという。にもかかわらず、申立人の考えや生き方について誤解を招きかねないかたちで本件放送を制作したことになる。番組内容の告知としてきわめて不適切である新聞テレビ欄の表記とともに、「過度の演出や視聴者・聴取者に誤解を与える表現手法(中略)の濫用は避ける」、「取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る」とした「日本民間放送連盟 報道指針」に照らして、本件放送は申立人に対する公正さと適切な配慮を著しく欠き、放送倫理上重大な問題があったと委員会は判断する。
委員会は、テレビ朝日に対して本決定を真摯に受け止め、その趣旨を放送するとともに、今後番組制作のうえで放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2016年9月12日 第61号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第61号

申立人
入江 杏 氏
被申立人
株式会社テレビ朝日
苦情の対象となった番組
『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』
放送日時
2014年12月28日(日)午後6時~8時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • はじめに――本事案の核心
  • 1.本件面談場面の流れ
  • 2.テレビ的技法について
    • (1) なぜ、問題にするか
    • (2) 二つの伏せられた発言
    • (3) ナレーション
    • (4) テロップ
  • 3.視聴者はどう受け取ったか
  • 4.新聞テレビ欄の表記
  • 5.人権侵害に関する判断
    • (1) 申立人の主張
    • (2) 人権侵害に関する結論
  • 6.放送倫理に関する判断
    • (1)「最後のピース」の意味
    • (2) 被害者遺族への配慮
    • (3) 放送倫理に関する結論

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年9月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2016年9月12日午後1時からBPO会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2016年12月20日 委員会決定に対するテレビ朝日の対応と取り組み

テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が12月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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