放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2015年度 第58号

「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」に関する委員会決定

2016年2月15日 放送局:フジテレビ

勧告:人権侵害(補足意見付記)
フジテレビは2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』で地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げた。番組では、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとされ名誉を毀損されたと申し立てた事案。放送人権委員会は審理の結果、2月15日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には人権侵害があったとの判断を示した。

【決定の概要】

本件は、フジテレビがバラエティー番組『ニュースな晩餐会』(2015年3月8日の放送)で、「ストーカー事件」の被害の問題について、その一例を伝える目的で放送し、職場の同僚の間で行われたつきまとい行為やこれに関連する社内いじめを取り上げたものである。この中で、役者による事件の再現映像と、申立人の職場の人物のインタビュー映像や隠し撮り映像、申立人自身の会話の隠し録音などが随所に織り込まれた映像が放送された。
申立人は、この放送について、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、つきまとい行為を指示したとする事実無根の放送を行ったものであるとし、この放送によって名誉を著しく毀損されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、関係者の映像等にボカシを入れ音声を加工したこと、役者による再現には「イメージ」とのテロップを付し、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」とのテロップも付したことから、フジテレビは、本件放送が特定の人物や事件について報道するものではないとしている。しかし、現実にあった事件の関係者本人の映像や音声を随所に織り込み、再現の部分も含めて一連の事件として放送している以上、視聴者は、現実に起きた特定の事件を放送しているものと受け止める。
本件放送には一定のボカシがかけられるなどしているものの、職場の駐車場の映像や、申立人の職場関係者に関する情報が含まれていること、取材協力者でもあった事件関係者らが、本件放送が行われることを予め職場などで話して回ることも十分予想できる状況下であったことなどから、本件放送内容は、職場の同僚にとって、登場人物が申立人であると同定できるものであった。
以上を前提とすると、本件放送は、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、実行者に「ストーカー行為をさせ」ていたなどと指摘するものであることになるが、これらの点が真実であるとはおよそ認められず、真実と信じたことに相当性もない。したがって、本件放送は、申立人の名誉を毀損するものであった。
フジテレビは、本件放送が基本的には現実の事件を再現するものとして視聴者に受け止められるにもかかわらず、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」等のテロップを付したことなどから、本件放送が現実の事件の真実から離れても問題はないと安易に思い込み、取材においても一方当事者への取材のみに依拠して職場内での事件の背景や実態を正確に把握する努力を怠り、真実とは認めがたい申立人に関する事実を放送して申立人の名誉を毀損してしまうこととなった。
したがって、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために、人権と放送倫理にいっそう配慮するよう勧告する。

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2016年2月15日 第58号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第58号

申立人
食品工場契約社員 A氏
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースな晩餐会』(日曜日 午後7時58分~8時54分)
放送日時
2015年3月8日(日)午後7時58分から約27分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送と現実の事件の関係
  • 2.本件放送の登場人物と申立人の同定可能性
    • (1)本件放送内容と申立人の同定可能性
    • (2)フジテレビの反論について
  • 3.本件放送の内容と申立人の名誉の毀損
  • 4.本件放送の公共性・公益性
  • 5.申立人に関する放送内容の真実性
  • 6.申立人に関する事実を真実と信じたことの相当性
  • 7.小括
  • 8.放送倫理上の問題

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年2月15日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、午後1時からBPO会議室で行われ、坂井委員長と起草を担当した市川委員長代行、紙谷委員が出席し、申立人本人と、被申立人のフジテレビからは編成統括責任者ら4人が出席した。午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

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2016年5月17日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビジョンから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの