放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2017年度 第66号

「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する
委員会決定

2017年8月8日 放送局:テレビ静岡

見解:要望あり
テレビ静岡は2016年7月14日のニュース番組『FNNスピーク』等において、「静岡県浜松市の浜名湖で切断された遺体が見つかった事件で、捜査本部は関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べています」等と放送した。
この放送に対し申立人は、「殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」等と訴えた。
委員会は、審理の結果、本件放送に申立人の人権侵害(名誉毀損、プライバシー侵害)はないと結論した。放送倫理の観点からも問題があるとまでは判断しなかった。しかし、今回、自局のニュースが委員会の審理対象になったことを契機に、人権にいっそう配慮した報道活動を行うための議論を社内的に深めることをテレビ静岡に要望した。

【決定の概要】

2016年7月8日、静岡県浜松市の浜名湖で切断された遺体が見つかった。本件放送は、同月14日、テレビ静岡がこの浜名湖事件の捜査の進展状況を午前11時台から午後6時台に4回、ニュースとして伝えたものである。
本件放送は、「関係先とみられる県西部の住宅などを捜索し、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」、「関係者から事情を聴いている」というテレビ静岡が独自に入手した捜査本部の動向を含む内容だった。これらは申立人宅の一部や敷地内で押収された車が運ばれる場面などの映像とともに放送された。
申立人は、後に浜名湖事件の容疑者として逮捕される人物と交遊があり、この人物から軽自動車を譲り受けていた。この車がこの日、申立人宅の敷地内で押収された。申立人は、捜査員は浜名湖事件の容疑者による別の窃盗事件の証拠品として車を押収しただけだったにもかかわらず、本件放送は浜名湖事件に関係のない申立人を事件に係ったかのように伝えたとして、人権侵害(名誉毀損、プライバシー侵害)を委員会に申し立てた。
テレビ静岡の取材経緯や多数の捜査員を動員した警察当局の行動から分かるように、当日、申立人宅で行われた捜査活動が浜名湖事件捜査の一環だったことは明らかである。
委員会は、本件放送の映像を検討し、申立人宅の一部が映った映像によってただちに申立人宅と特定されるとはいえないと判断した。しかし、当日朝の警察の活動は申立人宅周辺の人々の耳目を集めるものだったと思われ、そうした人々が後に本件放送を見て、申立人宅を特定した可能性は否定できない。
本件放送には「関係先の捜索」、「関係者の聴取」といったスーパーが伴っていた。その結果、本件放送によって、申立人宅が浜名湖事件の「関係先」として、申立人が「関係者」として、申立人宅周辺の人々に認知され、申立人の社会的評価は一定程度低下しただろう。
しかし、殺人事件の捜査状況を伝える本件放送には公共性・公益性が認められる。そのうえで、委員会は、「関係先」、「関係者」、「捜索」という表現を含めて、本件放送が伝えた事実の重要部分の真実性ないしは相当性を検討し、真実性ないしは相当性が認められると判断した。したがって、本件放送は申立人への名誉毀損に当たらない。
申立人は、本件放送で流れる布団や枕が映った申立人宅の映像などが申立人のプライバシーを侵害していると主張する。しかし、これらの映像で映された対象自体は他者に知られることを欲しない個人に関する情報や私生活上の事柄とまではいえないから、プライバシー侵害は認められない。
放送倫理の観点からも委員会は本件放送に問題があるとまでは判断しなかった。しかし、取材過程で、捜査活動の目的は申立人宅の家宅捜索ではなく、敷地内に駐車していた軽自動車の押収だったことが推定できたのではないか。そのような捜査活動の全体状況に考慮して、プライバシー侵害に当たらないとはいえ、繰り返し流れた「関係先の捜索」というスーパーを表示した申立人宅の一部の映像はより抑制的に使うべきだったのではないか。本事案は、たとえ実名や本人を特定する内容を直接含むものでなくとも、テレビニュース、とりわけ犯罪に係るニュースが当事者に大きな打撃を与える場合があることを教えてくれたものといえる。委員会は、今回、自局のニュースが委員会の審理対象になったことを契機に、人権にいっそう配慮した報道活動を行うための議論を社内的に深めることをテレビ静岡に要望する。

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2017年8月8日 第66号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第66号

申立人
静岡県在住A
被申立人
株式会社テレビ静岡
苦情の対象となった番組と放送日時
2016年7月14日(木)
『FNNスピーク』
  午前11時37分頃(全国ネット)
  午前11時48分頃(ローカル)
『てっぺん静岡』 午後 4時25分頃(ローカル)
『みんなのニュースしずおか』 午後 6時14分頃(ローカル)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに――何を問題にすべきか
  • 2.名誉毀損について
    • (1) 判断の前提
    • (2)「関係先」、「関係者」という表現
    • (3)「捜索」について
    • (4) 名誉毀損についての結論
  • 3. プライバシー侵害について
  • 4. 放送倫理の観点から

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年8月8日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年8月8日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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