放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2018年度 第69号

「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定

2019年3月11日 放送局:TBSテレビ

見解:放送倫理上問題あり
TBSテレビは、2017年12月29日に「新・情報7daysニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版」で、タレント細川茂樹氏に関し、「パワハラを理由に契約を解除された」などと放送した。
この放送について、細川茂樹氏は「放送は、事務所からパワハラを理由に契約解除されたことを強調して取り上げているが、仮処分決定で事務所側の主張には理由がないことが明白になっており、申立人の名誉・信用を侵害する悪質な狙いがあった」として委員会に申立書を提出した。
委員会は、審理の結果、「放送は、疑惑が相当濃厚であるという事実を摘示するものといえ、申立人の社会的評価を低下させる」としながらも、「名誉毀損の成否について判断するよりも、放送倫理上の問題を取り上げることの方が有益」と判断し、当事者の主張が食い違う紛争・トラブルを扱いながら仮処分決定に触れなかったこと、使用したVTR素材が申立人の名誉や名誉感情に対する配慮に欠いていたことの2点について、放送倫理上の問題があると結論づけた。そしてTBSテレビに対して、本決定の趣旨を真摯に受け止め、掘り下げた検証を行い、今後の番組制作に活かすよう求めた。

【決定の概要】

本件申立ての対象となったのは、TBSテレビで2017年12月29日に放送された『新・情報7days ニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』(以下、「本件番組」という)の一部である。本件番組は2017年の芸能ニュースをランキング形式で取り上げるものであり、その14位の項目の冒頭に申立人に関して放送された部分が問題となった(この部分を以下、「本件放送」という)。
本件放送では、まず、「14位、俳優・細川茂樹、事務所と契約トラブル」というナレーションのあと、過去に放送された申立人のVTRが放送され、その中で「誰に何を言われようと、やんちゃに生きていきますね」という申立人の発言が流される(以下、「やんちゃ発言VTR」という)。その後再びナレーションで、「昨年末、所属事務所からパワハラを理由に契約解除を告げられた細川茂樹さん。今年5月、契約終了という形で、表舞台から姿を消した」などと述べられる。本件放送の放送時間は31秒である。
本件放送による摘示事実について、「昨年末~」というナレーション自体は多義的であるが、それに先立つやんちゃ発言VTRや、本件放送のテロップも含めると、申立人がパワハラを行ったことを断定しているとまでは言えないが、そうした疑惑が相当程度濃厚であるという事実を摘示するものと言え、申立人の社会的評価を低下させる。
ところで、委員会には事案を人権侵害の問題として扱うか、放送倫理上の問題として扱うかについて、判断の余地が存在する。次の(1)から(3)までを総合的に考慮すると、名誉毀損の成否についての判断をするよりも、放送倫理上の問題を取り上げることの方が、報道被害の解決を図りつつ、正確な放送と放送倫理の高揚への寄与のために有益だと考える。
(1)本件放送がごく短いもので、ナレーション及びテロップそのものは概ね真実であること(もっとも、重大な言及漏れがあることは後述 a)の通りである)、そして、本件放送はごく短いものであり、特に揶揄するような表現を用いているわけでも、パワハラの存在を断定するものでもなく、本件放送そのものが申立人の社会的評価に及ぼした影響は小さいこと、(2)申立人の被害感情が大きいことには理解できる側面があるが、TBSに悪意があったわけではないこと、(3)TBSは早い段階から本件放送に一定の問題があったことを認めて協議に応じてきたのであり、早期に被害回復措置がとられる可能性もあったこと。
そして、次の2点について放送倫理上の問題がある。a)申立人の主張を認める東京地裁の本件仮処分決定に言及しなかったことによって、当事者の主張が食い違う紛争・トラブルの事案を扱う際に特に求められる公平・公正性及び正確性を欠くことになったこと、b)やんちゃ発言VTRを使用したことが申立人の名誉や名誉感情に対する配慮に欠けたこと。他方、本件番組が年末特番であって、申立人の契約トラブルが話題になった時点から時間が経っていることとの関係で、事後確認を十分にしていなかった点に放送倫理上の問題があるとまで言えるかについては、委員の間で一致をみなかった。
本件放送は芸能情報番組の一部であるが、芸能情報については、制作者側に、視聴者が必ずしも真剣に受け止めるわけではないし、芸能人である以上は多少不正確な情報でも甘受すべきだという考えがあるのかもしれない。一般的にはそのように言える場合もあり得るが、本件は申立人の芸能人生命に関わる事案として法的措置にまで訴えていることからすれば、より慎重な考慮が必要であった。
TBSも、本件放送に関しては「言葉足らず」であったとして反省を示しているが、その背景には何があるか、検証が求められる。TBSには、本決定の趣旨を真摯に受け止め、本決定で指摘した諸問題について、「言葉足らず」という総括にとどまらない掘り下げた検証を自ら行い、今後の番組制作に活かしてもらいたい。

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2019年3月11日 第69号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第69号

申立人
細川茂樹
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『新・情報7daysニュースキャスター 超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』
放送日時
2017年12月29日(金)午後9時00分~午後11時04分
(午後9時57分10秒~57分41秒)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の背景事情
  • 3.本件放送の内容
  • 4.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) 摘示事実について
    • (2) 名誉毀損について判断することの適否
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) 本件仮処分決定への言及がないことについて
    • (2) やんちゃ発言VTRについて
    • (3) 本件仮処分決定後の事情について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2019年3月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年3月11日午後1時からBPO第1会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2019年6月18日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

委員会決定第69号に対して、TBSテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月11日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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