2015年2月9日

テレビ朝日『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、2月9日午後1時15分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、鈴木嘉一委員、藤田真文委員の3人が出席し、当該局のテレビ朝日からは常務取締役ら3人が出席した。
まず川端委員長が「『報道ステーション』のこのニュースの問題意識はジャーナリズムとして正当なものだったが、残念なことに2点について、放送倫理違反があると判断した」と指摘したうえで、問題発覚後の訂正・お詫び放送については、高く評価していることを伝えた。鈴木委員は、今回のテレビ朝日の再発防止策が具体的かつ実践的で、評価していると述べるとともに、委員会決定の末尾に書かれている「視聴者の信頼を回復する道は、前に進むことによって開かれる」を、委員会からのメッセージとして受け止めてほしいと要望した。また、藤田委員は「残念だったのは、ミスに関する情報共有のコミュニケーションが、当日の報道局内でうまくいかなかったことだ。ミスがあったら、その情報を共有して、適切・迅速に対処するという環境作りに配慮してほしい」と述べた。
これに対してテレビ朝日側は「意見書の指摘を真摯に受け止め、今後の再発防止に役立てたい」と述べたうえで、今後は、報道局内のすべての番組で、正確で、公平・公正な報道を徹底するように努めていきたいと述べた。
このあと、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には29社61人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介したうえで、「この放送自体は、国民の最大の関心事のひとつである、原発の安全基準が適切なものかどうかを追究しようという、報道機関としての役割をきちんと果たしたニュースだったと評価している。それだけに、このような会見内容の取り違えや、不用意な編集のような過ちはしてほしくなかったというのが、正直な思いだ」と述べた。
続いて鈴木委員は「テレビ朝日は『報道ステーション』での再発防止策を、報道局内の他の番組に一律に適用するのではなく、番組ごとに検証して対応を検討している。真摯な取り組みとして評価している。」と述べた。
また、藤田委員は「映像の取り違えについて、放送中に気付いたにもかかわらず、情報が共有されずに対応が遅れたことは残念だ。迅速かつ適切な対応をとることが報道番組の信頼性を担保するうえで必要だということを教訓にしてほしい」と述べた。またメディア間の相互批判や、社会からの批判は、メディアの社会的責任を果たすうえで重要だが、批判の言葉が非常に軽く取り扱われている感じがする。今回の事案でも、ネット上で「捏造」という言葉で語られたりしたが、「捏造」と「誤報」「単純ミス」が混同されて、批判の文脈にのせられることがある。この事案は、誤報や単純ミスはあったが、なかったことをあったかのように報道する「捏造」にはあたらないと認識している。メディア相互で検証する場合には、誤りの程度や根拠を明確にしながら、批判すべきだと感じたなどと述べた。
記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:「空白の3時間」によって、放送まで残り3時間の時点で着手したとなっているが、作業時間として3時間は短かすぎて、原因のひとつになったと考えているのか?
    A:その後、多くの人が作業を分担し、ビデオも前半と後半に分けて編集しないと間に合わなかったことなどから考えると、意図した放送をするためには、相当切羽詰まった状況だったと言えるだろう。ただし、この状況でミスしたことが、どうしてもやむを得なかったとは言えないので、放送倫理違反と判断せざるを得なかった。(川端委員長)

  • Q:放送での間違いについて、田中委員長が火山の基準についても似たような発言をしているので、一般論として成り立つのではないかというやり取りがあったと記載されているが、似たような発言は本当にあったのか、また一般論として成り立つという点について、委員会はどう考えたのか?
    A:会見の中で、それに近い発言もなくはないので、活字の場合なら要約したということで成り立つかもしれないが、田中委員長の音生かしで使用した発言は、明らかに違うところなので、どうみても間違いである。一般論として成り立つのではないかということも「苦しい言い訳」だと、委員会は判断した。(鈴木委員)
    A:田中委員長はその後の質疑で、火山の審査基準の見直しの可能性についても回答している。先ほど、ありもしないことを報じた「捏造」ではないと述べたのはその点で、全体的な認識としては誤りではないといえる。しかしVTRで切り取って使用した部分は、火山の基準に関する部分ではなく、間違いなので、放送倫理違反と考えた。(藤田委員)

  • Q:意見書では複合的な要因のように書かれているが、これをやっておけば、今回の問題は避けられたのではないかというような、分岐点やポイントがあったのか?
    A:B記者は放送を見た瞬間に問題に気付いているので、彼にもっときちんとビデオ部分も見てもらっていれば、間違いは避けられたのではないかと思う。(川端委員長)
    A:プロデューサーやニュースデスクが、記者会見ではあまり新しい話は出ないだろうと思って、注意を払っていなかったことが問題だったと思う。B記者や、文字起こしをしたディレクターたちに確認するなどして、会見の内容に注意を払っていれば、火山の問題に質疑が集中したことは把握できただろう。もっと早くチームを立ち上げられれば、VTR編集がこのような追い込みになることはなかったので、分岐点はそこだったかもしれないと思う。(鈴木委員)
    A:文字起こしや編集を別々の人間がおこなうなど、役割分担が複雑なので、意見書では図で説明している。報道番組の現場では、時間に間に合わせるために、必然的に起こることなのかもしれないが、このような過度な分業体制は、チームワークの良さでもあるのだろうが、かえってあだになってしまったといえる。ミスはいつでもおこりうると考えると、いくつかのチェック体制をとりながら、例えば文字起こしを担当し、編集に立ち会うディレクターが一貫して同じパートを受け持つことが必要だったのではないか。そのような現場判断の部分が、ミスのひとつの要因ではなかったかと思う。(藤田委員)

以上

第21号

テレビ朝日『報道ステーション』「川内原発報道」 に関する意見

2015年2月9日 放送局:テレビ朝日

テレビ朝日の『報道ステーション』(2014年9月10日放送)で、原子力規制委員会が九州電力川内原発の新規制基準適合を正式決定したニュースを放送した際、規制委員会・田中委員長の記者会見の報道内容に事実誤認と不適切な編集があった事案。
委員会は、問題の放送にいたった経緯や原因などを検証した結果、担当ディレクターらの「故意」や「恣意的・作為的な編集」は確認されず、過失であったとしながらも、事実誤認と不適切な編集のいずれも、客観性や正確性を欠き、放送倫理に違反すると判断した。
その上で、「この事案で萎縮することなく、失敗から学んだ教訓を血肉化して、今後の報道に当たってほしい。視聴者の信頼を回復する道は、前へ進むことによって開かれる」と結んでいる。

2015年2月9日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2月9日午後1時15分から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。
また、午後2時から記者会見を開き、決定内容を公表した。会見には29社61人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
詳細はこちら。

2015年5月8日【委員会決定を受けてのテレビ朝日の対応】

標記事案の委員会決定(2015年2月9日)を受けて、当該のテレビ朝日は、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
5月8日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

テレビ朝日の対応

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目 次

  • 1.委員会決定の放送対応
  • 2.委員会決定内容の周知徹底
  • 3.放送番組審議会への報告
  • 4.委員会決定前の取り組み
  • 5.委員会決定後の取り組み
  • 6.終わりに

2014年11月28日

系列を持たない「独立局」と意見交換会

BPO放送倫理検証委員会と「独立局」との意見交換会が、2014年11月28日に東京・千代田放送会館で行われた。検証委員会はこれまで、地域や系列ごとの意見交換会を開催してきたが、今回は初めての試みとして、系列を持たない独立局を対象に実施した。独立局の会合と同じ日に設定することにより、関東・東海・近畿の13のテレビ局から27人が参加した。
概要は以下のとおり。

冒頭、BPOの飽戸弘理事長が、検証委員会だけではなく、人権委員会や青少年委員会も含めたBPOの三委員会について、その目的や活動内容などを説明した。飽戸理事長は「各委員会からの問題提起はすべての放送局に共通するものなので、『わが社でなくて良かった』ではなく、他山の石として今後の改革・改善につなげてほしい。放送事業者と視聴者を結ぶBPOの役割を、ぜひ理解してほしい」と述べた。
続いて、升味佐江子委員が「BPOというと怖いイメージを放送局は持っているようだが、放送に対する信頼を高め、視聴者と放送局の間の『愛情のある関係』を維持する手助けができることを委員会は望んでいる」と述べたあと、「2013年度の検証委員会決定から」と題して、3つの意見書の論点を詳細に説明した。
委員会決定第16号の「関西テレビ『スーパーニュースアンカー』インタビュー映像偽装」事案について、升味委員は「『モザイクを取ったら別人』という事態は深刻ではないかと委員会では考えた。視聴者からの信頼を維持するためにも、テレビだからという特権意識ではなく、市民の『知る権利』に奉仕する気持ちを忘れないでほしい」と述べた。
決定第17号の「2013年参院選にかかわる2番組」事案については、「番組意図がいかなるものであっても、特定候補者の人となりや肯定的評価を紹介した結果、選挙の公平・公正を損なうと判断した。今回の衆院選のように急に選挙になることがあるので、各局は報道セクションだけでなく全局体制で、十二分に事前の準備をすることが大切だ」と指摘した。
さらに決定第19号の「日本テレビ『スッキリ!!』ニセ被害者」事案をめぐっては、「いわゆるネット詐欺の問題で弁護士がニセ被害者を紹介すること自体が想定外で、局が信じて放送したことに相応の理由や根拠はあったと思う。専門家に過度に依存しないことを念頭に置きながら、こうした新しい形の社会的な問題に、果敢にアプローチやチャレンジをしてほしい」と強調した。
これに対して独立局側からは、「系列局を持っていないので、困った時に相談する相手がいない。日々いろいろ悩みながら判断しているのが現状だ」という切実な意見や、「独立局は購入番組が多いので、購入元との情報共有が重要だと改めて感じた」などの意見が出された。
最後にBPOの三好晴海専務理事が「BPOは放送後に問題があったかどうかを判断するところで、事前の相談は受けづらい。しかし、講師派遣やこうした意見交換会の場で、事例を共有することはできる。今後もこうした機会を設けたいし、また放送局側も活用してほしい」と述べて、独立局との初めての意見交換会を締めくくった。

終了後、参加者からは、「選挙前と言うこともあり、特に選挙にまつわる事例は今後の放送に参考になった。直接様々な意見を伺いながら事例を知ると、理解の深まりが違うと改めて感じた」「初めての意見交換会ということもあってか、お互いが接点を探り合うような印象を受けた。これをきっかけに、更にBPOとの良い接点が深まればと思う」という感想が寄せられた。

以上

第89回 放送倫理検証委員会

第89回–2015年1月

佐村河内守氏が"別人に作曲依頼"を審理

川内原発報道で事実誤認と不適切な編集
テレビ朝日の『報道ステーション』を審議…など

第89回放送倫理検証委員会は1月9日に開催された。
“全聾の作曲家”と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、担当委員から委員会決定の原案が提出された。内容や方向性をめぐってさまざまな意見が出され、次回に修正案を提出して、意見の集約をめざすことになった。
テレビ朝日の『報道ステーション』が放送した九州電力川内原子力発電所に関するニュースに、事実誤認と不適切な編集があった事案については、委員会決定の修正案が、担当委員から提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、表現の一部手直しをして2月上旬にも当該局に通知・公表をすることとなった。

議事の詳細

日時
2015年1月9日(金)午後5時~8時20分
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、委員会決定(見解)の原案が、担当委員から提出された。
原案は、
△各局が佐村河内氏の虚偽を信じて放送したことに問題はなかったか
△問題発覚後の各局の対応は十分であったか
の2つを論点に、約1年間にわたる委員会の調査活動をもとに、委員会としての判断を示すものとなっている。
意見交換では、問題発覚後の各局の自己検証作業が、実効性のある再発防止につながる土台となっているのか、ほとんどの局がその内容を公表していないのは視聴者に対する十分な説明と言えるのかなど、さまざまな議論が展開された。
その結果、委員会での議論を踏まえて担当委員が修正案を作成し、次回委員会で意見の集約をめざすことになった。

2.川内原発をめぐる原子力規制委員会の報道に事実誤認と不適切な編集があったテレビ朝日の『報道ステーション』を審議

テレビ朝日の『報道ステーション』で、原子力規制委員会が九州電力川内原発について新規制基準に適合していると正式に認めたニュースを伝えた際に、事実誤認や不適切な編集があった事案について、前回までの議論などを踏まえた委員会決定(意見)の修正案が、担当委員から提出された。
意見交換では、事実誤認や不適切な編集がなされた経緯や原因、背後に潜む問題点などについて、修正案の構成や細部の表現を含めた議論が交わされた。その結果、大筋で了解が得られたため、一部手直しをしたうえで、2月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見が行われることになった。

以上

第88回 放送倫理検証委員会

第88回–2014年12月

佐村河内守氏が"別人に作曲依頼"を審理

川内原発報道で事実誤認と不適切な編集
テレビ朝日の『報道ステーション』を審議…など

第88回放送倫理検証委員会は12月12日に開催された。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、委員会決定の内容や方向性をめぐって意見交換が行われた。次回は、担当委員から委員会決定の原案が示される予定である。
テレビ朝日の『報道ステーション』が放送した九州電力川内原子力発電所に関するニュースに、事実誤認と不適切な編集があった事案については、担当委員から委員会決定の原案が提出された。意見交換の結果をふまえて、次回までに修正案を作成し、意見の集約をめざすこととなった。

議事の詳細

日時
2014年12月12日(金)午後5時~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、これまでの調査をもとに、委員会決定に盛り込む内容や方向性をめぐって意見交換が行われた。
とりわけ、審理の対象となった番組のすべてが佐村河内氏を「全聾の作曲家」であると信じ、制作されたことについてどう考えるのか、ドキュメンタリーの制作手法として何が問題だったのか、番組が視聴者に与えた誤解の大きさと障害者や被災者を虚偽の放送に巻き込んだことも踏まえると、問題発覚後の各局の対応は十分であったのか、などの論点については、長時間にわたる議論が交わされた。
その結果、これらの議論を踏まえて、次回委員会までに担当委員が委員会決定(見解)の原案を作成し、さらに議論を深めることになった。

2.川内原発をめぐる原子力規制委員会の報道に事実誤認と不適切な編集があったテレビ朝日の『報道ステーション』を審議

テレビ朝日の『報道ステーション』で、原子力規制委員会が九州電力川内原発について新規制基準に適合していると正式に認めたニュースを伝えた際に、事実誤認や不適切な編集があった事案について、担当委員から、前回までの議論を踏まえた委員会決定(意見)の原案が提出された。
原案では、問題となった事実誤認や不適切な編集がなされた経緯や原因などに加えて、背後に潜む問題点などが指摘されたが、不適切な編集が行われた原因をどうとらえるべきなのかなどを含め、質疑や意見交換が行われた。
その結果、これらの意見をもとに担当委員が修正案を作成し、次回委員会で意見の集約をめざすことになった。

以上

2014年11月19日

放送倫理検証委員会 大阪で「意見交換会」を開催

放送倫理検証委員会は、近畿地区の放送局との意見交換会を11月19日に大阪市内で4年ぶりに開催した。今回の意見交換会には、大阪のテレビ各局を中心に、9局から84人が参加した。また委員会側からは小町谷育子委員長代行、渋谷秀樹委員、鈴木嘉一委員が出席した。予定を超える3時間20分にわたって、活発な意見交換が行われた。
概要は以下のとおりである。

意見交換会の前半は、委員会の事例をふまえた2つのテーマで進められた。
1つ目のテーマは衆議院の解散直前という時期にぴたりとはまった「政治や選挙での公平・公正性について」である。まず渋谷委員が、昨年度委員会が公表した決定第17号「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」に触れながら、問題提起を行った。渋谷委員は、まず「政治的な公平性」について、憲法学者としては、放送法で規定するのは表現の自由の観点から問題だとしながらも、放送の影響力の大きさを考えれば、放送局による自主的な規制が必要だろうと述べた。選挙に関しては、特に公平性が重要であり、特定の政党や政治家に偏って、視聴者の判断に歪みを生じさせるような取り上げ方は問題だと指摘した。そして衆議院の総選挙が間近だが、なるべく多様で豊富な情報を伝えるとともに、公平・公正性も心がけた報道に努めてほしいと要望した。
これに対して、参加者からは、「番組出演者の立候補が噂になり、制作スタッフが確認して否定された場合でも、出演を控えてもらうべきか、判断に悩むケースも多い」「事実上一騎打ちの首長選挙で、その2人の候補者だけで討論番組をやることに、問題はないか」など、具体的な意見や質問が相次いだ。委員側からは「各局が、いろいろな情報を集めたうえで、自律的に判断してほしい」(渋谷委員)、「問題になっても、自信を持って局側の考えを説明できるようにして対応すれば、あまり恐れる必要はないのではないか」(小町谷代行)などの意見が出された。また「仮に橋下大阪市長が立候補して記者会見があった場合に、情報番組で長時間生中継するようなことは、公平性からどう考えるべきか」との質問に対して、渋谷委員は「ニュース性があるにしても、だらだらと一人の会見だけを中継することは、個人的な意見としては問題だと思う。編集である程度コンパクトにまとめ、政治家の過剰な宣伝にならないように目配りをして、放送局の品格を示してほしい」との意見を述べた。
2つ目のテーマは、今年6月に放送人権委員会の委員長談話が公表されて話題を呼んだ「顔なしインタビューの是非について」である。小町谷代行は、まず「検証委員会では、総括的にではなく個別の事案ごとに判断している」と説明したうえで、委員会決定第16号の「インタビュー映像偽装」と第19号の「弁護士の"ニセ被害者"紹介」の2つの意見書で、この問題について委員会がどのような指摘をしたのかを具体的に解説した。
続いて、子どもたちの学校生活を題材にしながらボカシやモザイクを全く使わない75分のドキュメンタリー番組『みんなの学校』で、昨年度の芸術祭大賞などを受賞した関西テレビの真鍋俊永ディレクターから、問題提起を含めた報告があり、番組の一部が会場で視聴された。この番組で、なぜボカシなどをかけずに放送できたかについて、真鍋ディレクターは、個人的にもそういう表現をしたいという思いが強かったことと、ドキュメンタリー番組のため交渉する時間もあったことをあげ、映りたくない子どもは外す工夫をしたことなども説明した。その一方で、放送時間が迫っているニュースなどでは、顔なしの放送がやむを得ないという判断もありうるし、取材・放送にあたる一人ひとりが、きちんと考えながらやっていくしかないのではないかと述べた。
参加者からは、「モザイクなどをかける時には、誰にわからないようにするためなのかを考えて、かけ方にも工夫が必要だが、最近はあまり考えられていないと思う。もう少し時間をかけて、ニュースの場合でもどうすべきかなどを議論すべきではないだろうか」「最近の事件で、同じ取材対象者なのに、局によって顔なしと顔出しの場合があった。取材記者の対象者への接し方に違いがあるのか、あるいは、記者の力量や信頼感などにかかわる問題もあるのかと心配している」「モザイクをかけないで放送した際、配慮不足だというような批判を受けたケースもある。そのような社会的風潮があることも知ってほしい」など、様々な観点から多くの意見や疑問が出された。
これに対して委員側からは、「テレビは映像の力で事実を伝えていると思うが、モザイクをかけるとその力を弱めてしまう。どうしても必要なケースに限定していかないと、放送への信頼感を失っていくのではないか」(渋谷委員)、「ドキュメンタリーとニュース・情報番組では、対象者との信頼関係などで当然違いがあると思う。ドキュメンタリーでは、顔出しの映像にこそインパクトがあり、モザイクをかけると訴える力は弱くなる。放送が目指すべきなのは、やはり顔出しの方向だろう」(鈴木委員)、「ボカシが多いのは、日本のテレビの特徴で、外国のニュースではほとんどないと思う。個人的な意見だが、ボカシを入れるか否かの判断としては、報道内容の重大性と、モザイクをかけないと起きうる取材対象者の被害の可能性を、個別に考えていくしかないのではないか。事件の話を近所の人に聞く場合でも、最近は顔なしインタビューが多いが、そこまでする必要があるのだろうか」(小町谷代行)などの意見が述べられた。

意見交換会の後半は、「BPO放送倫理検証委員会が無(の)うなる日は来(く)んの?」と大阪弁のタイトルのもとで、検証委員会と放送局の関係などについて幅広い意見が交わされた。
最初に、当日急きょ欠席となった川端委員長からのメッセージが小町谷代行によって代読された。この中で川端委員長は、7年半の委員会の活動を振り返りながら、テレビ局が意識すべき課題を2つあげた。一つは「事実に謙虚に向き合う姿勢の大切さ」で、客観的事実を重視し、裏取りをしっかりとすることが、正しい報道には欠かせないとした。もう一つは、「テレビの制作体制には、もっと自分の頭で考える時間的ゆとりと、人員を適切に配置する経済的なゆとりが必要だ」として、制作現場で働く人たちが、仕事にもっと夢と情熱を持てるような処遇をするという方向で改善しなければ、同じ過ちが繰り返されるのではないかと危惧していると指摘した。そして「委員会は、これからも事案に即した意見を第三者として述べることにより、権力の介入を防いで表現の自由を守り抜きたいと思う」との決意を述べた。
続いて、鈴木委員が、長年にわたり取材者として外部から見てきた体験をもとに、BPOと放送局の関係について、「逆説的な問いかけ」として3つの視点から問題提起を行った。
まず、BPOは総務省の代行機関ではなく放送局に自主・自律を促す団体であるはずなのに、まるで江戸時代の「お白洲」のごとく、放送局が過剰に反応しているところはないかとして、「BPOはお白洲なのか?」と問いかけた。2点目は「BPOの決定は、水戸黄門の印籠なのか?」として、BPOの3つの委員会が出す様々な判断や決定を、放送局は「お達し」のように上意下達的に受け止めていないか、個人レベルでも異論や反論があまり見られないのではないかと述べた。そして3点目として、検証委員会では、同様な過ちが何度も繰り返されることへのもどかしさがあることに触れ、「『モグラ叩き』をどうやって断ち切るか?」と投げかけた。
参加者からは「放送局にとっては、やはり『お白洲』であり、『水戸黄門の印籠』というのが実感だ」「審議入りしなくても、BPOで取り上げられるだけでかなりのプレッシャーを感じるのは事実だ。『お白洲』かどうかは別にして、局にとってBPOは良い意味での抑止力になっている一方で、プレッシャーを感じる存在だ」「スタッフの採用や異動がある中で、放送倫理の水準を維持していくためには、社内での定期的、自主的なメンテナンスが必要であり、大変なエネルギーと努力が必要なことを実感している」などの意見や感想が相次いだ。また、「委員会決定が出ると、現実的にはシステム整備をして、規制を掛けていくことになる。本来は制作者のセンスを磨くことが重要だとわかってはいるが、なかなか難しい。なにが近道なのだろうか」との質問に対して、鈴木委員は「結論から言えば、近道はないと思う。先輩や同僚たちが、日常的な仕事の中などで失敗例などを伝えていくことによって、血肉化するのではないだろうか」と答えた。
このほか、「検証委員会ができて総務省の行政処分が極端に減り、権力からの防波堤として機能していることは評価すべきと感じてはいるが、一方で委員会の審議入りや委員会決定が公表されることによって、一種の行政処分に等しい罰を受ける感じもある」「委員会決定で、放送基準の適用の仕方には問題があると思う。法律とは違って、放送基準は目指すべきものであり、曖昧でもある。曖昧な放送基準をそのまま適用することは、委員の方たちが目指すところと反して、表現の自由に萎縮的な効果が働くのではないか」などの意見も出された。
これに対し、渋谷委員は「放送基準が曖昧だとの指摘があったが、放送基準はBPOが作ったものではない。委員会決定は、放送局自らが作った放送基準にも照らして書いているが、委員会での議論では、放送基準に拘束されることなく、放送がどうあるべきかを考えながら展開されている。萎縮効果があるというが、委員会は7年半で20余りの番組しか審議・審理していない。委員会は抑制的で、明らかに放送倫理に抵触する事案だけを取り上げているつもりだ。」と反論した。小町谷代行も「お白洲というと、あまり言い分を聞いてもらえないというイメージがあると思うが、私たちは対象番組については、制作現場の実際の担当者に、どういう思いやねらいで作ったのかなどを長時間、徹底的にヒアリングしている。それは、現場とかけ離れた意見を書けば、自主・自律のために設立された機関としての信頼性を欠いてしまうとの思いが、活動の指針にあるからだ。明らかに放送倫理上問題がある事案しか取り上げていないし、意見を述べていないはずだ。実は、委員会に報告される事案は、もっとたくさんあるが、それらはほとんど公表していない。そういう意味でも萎縮する必要性はないのではないか」と指摘した。その上で「検証委員会が無くなる日は来るのかというテーマについて言えば、2つのシナリオがあると思う。一つは、総務省が独自の機関を作って、委員会が解散せざるを得なくなる場合で、もう一つは検証委員会で扱うべき事案がなくなって、閑古鳥が鳴く状態になる場合だと思う。後者であってほしいし、そういう日が必ず来ると信じている」と述べた。
会場からは、「検証委員会は、世間や役所などと放送局との間で、ジャッジしてくれるところであり、今後も必要だと思う」「放送法上では問題になる番組であっても、それが国民のためになっている時には、検証委員会が一緒に権力に立ち向かってくれると信じている」などの意見も出され、予定時間を超過して活発に意見が交わされた。
最後に出席した各委員から感想が述べられ、小町谷代行は「とても率直な意見交換ができて、少し熱くなってしまったが、率直な意見を言ってもらわないとこちらも率直な思いを返せない面もある。きょうのような意見交換会が、今後も続くことを願っている」と締めくくった。

参加者から終了後寄せられた意見や感想の一部を、以下に紹介する。

  • 制作現場にいると、実態がよくわからないまま(知ろうとしないまま)、BPOというその絶対的な存在に、正直畏怖しか感じていませんでした。委員の皆さんが率直に話されるのを聞いてようやく、リアルな感情をもった、生身の人間の委員が運営されているのだと知ることができました。現場で四苦八苦している私たちと同様、委員の方々が局側の質問に、ときには悩みながら答えてくださっている様子を拝見し、番組制作においてはそもそも100%の答えというものがないのだ、ということをあらためて痛感しました。

  • 日々コンプライアンスの壁を意識して闘っている番組制作者の私にとって、BPOはその壁の先に待ち受ける"お白洲"以外の何物でもなかったため、今回は「お白洲の中を見学させてもらおう」という好奇心で臨みました。感想を一言で申しますと、私が持っていた"BPOはあちら側の人たち"(=言わば敵)という印象は偏見でした。BPOの生い立ちに興味を持ったこともなかったため、そもそも権力の介入を防ぎ、放送業界の自主自律を守るための団体であるという認識が、恥ずかしながら私には欠けていたのです(知識としては何となく知っていましたが)。しかし、委員の方々と顔の見えるディスカッションを経験して、"こちら側"の立場に立ち、我々の味方になって頂ける人たちであるという基本スタンスを確認することができました。委員長代行がおっしゃったように、確かに過去の審理・審議の一覧を見ると「誰が見てもこれは問題がある」というものばかりですし、「BPOができてから総務省の行政指導が激減した」という事実も全く知りませんでしたので、委員の方々がこちらの声を十分理解した上で、我々と共に闘って頂けているのであれば、こんなに心強いことはないと認識を新たにした次第です。

  • 放送局が望んでいる「放送局とBPOとの間の距離」と、委員が望んでいるそれとが、ちょっとかけ離れているのではないかと感じました。渋谷委員から「(何かの案件で、局の人から)僕らは正しいと思っていると言ってくれればいいのに、と感じたこともあった」との発言があったかと思います。委員は「もっと近づきたい」と思い、対して局の人間は「距離を置いておきたい。できれば接触したくない」みたいな…、本来あるべき距離感に相当の乖離があるという印象を持ちました。その意味で「お白洲」ということばの響きは象徴的でした。

  • BPOの方々と話をする機会というのは、正直やや億劫でもあり、ある意味貴重な場でもありました。私にとってBPOは、ふだんからあそこだけの世話にはなりたくない…そういう存在でしたので、委員や調査役はどんな顔をしているのか、どんな見解を持っているのか、そんな好奇心を胸に、できるだけ具体的な話になればいいなと思って参加しました。
    その意味でもっと突っ込んだ話をしたかったのは、仮に橋下市長が衆院選の立候補会見をした場合、「生中継」で伝えることをどう考えるかという議論です。もう少し時間を割くべきではなかったか、と思いました。自分たちは日々、制作現場で薄氷を踏む思いで、葛藤しながら放送しています。その一人としては全体にやや質疑応答=意見交換が踏み込み不足だったのではと感じられました。質問の中には、切実感があまりないようなものがあったことも付け加えておきます。

  • 特に質疑応答で、意見書の行間がみえ、よかったです。委員の皆さんの「意見交換会だから」と腹を割って話された内容には血の通ったものを感じました。やや気色ばまれた場面もありましたが、そうさせた局側の質問がよかったのかもしれません。私自身は、以前、社で講習会をやっていただきましたし、できるだけ意見書は読むようにしていますので、BPOの考え方は理解できてきているような気がします。しかし、局側にはBPOを司法機関、もっといえば敵対相手のように思っている人が意外と多い、と感じました。渋谷委員の「放送基準はあなたたちの作られたものですよ」という発言に、はっとした人も多いはずです。とはいえ、参加者の一人がいっていた「取り上げられた制作者はかなりダメージを受ける」という発言には、当事者ならではの生々しさがありました。取り上げられた局が敵対相手と思ってしまう気持ちは、想像はつきます。残念ですが、簡単に理解しあえる関係性ではないのかも、と思いました。しかし仮にそうであっても、愛のある厳しい指摘は、まだ放送業界には必要に違いありません。一大事には一緒に総務省に立ち向かってくれる存在、であってくれることを願います。

以上

第87回 放送倫理検証委員会

第87回–2014年11月

佐村河内守氏が"別人に作曲依頼"を審理

川内原発報道で事実誤認と不適切な編集
テレビ朝日の『報道ステーション』を審議…など

第87回放送倫理検証委員会は11月14日に開催された。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、各局の報告書をもとに、問題発覚後の対応のあり方などをめぐって意見交換した。
テレビ朝日の『報道ステーション』が放送した九州電力川内原子力発電所に関するニュースに、事実誤認と不適切な編集があったとして審議入りした事案は、担当委員から当該局へのヒアリングの概要の報告が行われた。

議事の詳細

日時
2014年11月14日(金)午後5時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、問題発覚後の対応のあり方などをめぐって、各局から提出された報告書をもとに意見を交換した。審理の対象になった7番組を放送した5局に対しては、

  • (1) 問題発覚直後の視聴者に向けた対応について
  • (2) その後の視聴者に向けた対応について
  • (3) 視聴者の反応について
  • (4) 番組協力者への対応について
  • (5) 番組審議会への報告について
  • (6) 番組に対する自己検証について
  • (7) 再発防止のための取り組みについて
  • (8) 上記の取り組みに対する自己評価について

の8項目について、それぞれの番組内容に応じた具体的な質問を設定し、報告を求めた。その結果、すべての局から詳細な報告書が提出され、問題発覚後の各放送局の対応については事実関係がほぼ明らかになった。これまでの調査で各番組の制作過程についても事実関係は明らかになっているが、そのすべてで誤った情報が流され、多くの視聴者に誤解を与えた事案であることを考えると、なぜそのような事態に至ったのか、視聴者への説明責任を果たし誤解を解消するために必要なことは何なのかについて、更なる検証が必要との意見も多く、委員会は、次回も審理を継続する。

2.川内原発をめぐる原子力規制委員会の報道に事実誤認と不適切な編集があったテレビ朝日の『報道ステーション』を審議

テレビ朝日の『報道ステーション』で、原子力規制委員会が九州電力川内原発について新規制基準に適合していると正式に認めたニュースを伝えた際に、事実誤認や不適切な編集があったことが明らかになり、委員会は前回、国民の関心が高いニュースで2つの間違いをしたのは小さな問題とは言えないとして、審議入りを決めた。
当該番組の担当ディレクターやプロデューサーをはじめ、取材担当記者、報道局幹部などあわせて11人を対象にしたヒアリングが10月末に実施され、担当委員からその概要が報告された。「なぜ、印象操作と疑われるような編集がされてしまったのか」「急きょ予定にない項目の放送を決めたため、放送時間が迫る中、分業で作業したことが誤った放送につながっているが、どうすれば良かったのか」「放送前のプロデューサーや記者のチェックは、どうなっていたのか」などの論点について、意見が交わされたほか、当該局で既に実施されている再発防止策の報告も行われた。
今回の審議をふまえて、次回委員会には、担当委員が意見書の原案を提出し、さらに議論を深めることになった。

以上

第86回 放送倫理検証委員会

第86回–2014年10月

"川内原発報道めぐり事実誤認と不適切な編集"
テレビ朝日『報道ステーション』審議入り…など

第86回放送倫理検証委員会は10月10日に開催された。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案については、審理の対象となった5局7番組のヒアリングが終了し、担当委員から報告が行われた。次回委員会までに、問題発覚後の対応についての報告書を改めて各局に求め、さらに審理を継続する。
テレビ朝日の『報道ステーション』が、九州電力川内原子力発電所の新規制基準適合に関するニュースを9月10日に放送した際、事実誤認と不適切な編集があったと原子力規制委員会から抗議を受け、2日後に同番組内でお詫び放送を行った。当該局からの報告書をもとに討議した結果、国民の関心が高いニュースでこのような間違いをしたのは小さな問題ではないとして、審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2014年10月10日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した事案について、新たに2局2番組に対するヒアリングが行われた。その結果、審理の対象になった以下の5局7番組すべてに対するヒアリングが終了した。

  • TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その"闇"と"旋律"」(2008年9月15日)
  • テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
    <フジテレビを含む多くの系列局が日時を変更して放送>
  • テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)
  • NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)
  • NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)
  • TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』
    「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)
  • 日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

担当委員から、新たに実施された2局2番組に対するヒアリングの内容が報告されたあと、今後の審理の進め方について意見交換が行われた。その結果、問題発覚後の各局の対応は、すでに提出された報告書にも一部記載されているが、半年余りの時間が経過していることから、事後の検証の内容、視聴者への説明が十分になされたか、再発防止策がどのように実施されているかなどについて、改めて各局から文書で報告を求めることになった。

2.川内原発をめぐる原子力規制委員会の報道に事実誤認と不適切な編集があったテレビ朝日の報道番組を討議 審議入り決定

テレビ朝日の『報道ステーション』は、原子力規制委員会が九州電力川内原発について新規制基準に適合していると正式に認めたニュースを、9月10日に約8分間放送し、規制委員会の田中委員長の記者会見で、火山の審査基準に関する質疑が集中したことなどを伝えた。放送後、規制委員会からの抗議を受けて社内調査をした結果、竜巻の審査ガイドに関する記者とのやりとりを火山に関するものと取り違えて放送したことと、火山の審査基準をめぐる質疑で田中委員長の回答部分に不適切な編集があったことが判明した。当該局は規制委員会に謝罪するとともに、2日後の同番組内で約5分間訂正とお詫びを行った。
委員会は、当該局から提出された報告書をもとに討議した結果、事後の対応が迅速で的確であったにしても、国民の関心が高いニュースで、2つの間違いをしたのは小さな問題とは言えないとして、審議の対象とすることを決めた。

[委員の主な意見]

  • 時間に追われていたにしろ、なぜあのように不適切な編集がされ、きちんとチェックもされずに、放送されてしまったのだろうか。

  • 時間に追われているニュースの制作現場では、さまざまなミスや間違いが起こりうる。その際には、事後の対応がどこまで適切に行われたかが重要ではないだろうか。

  • 2日後の訂正・お詫び放送はかなり詳細なもので、評価できるのではないか。

  • 国民が非常に関心をもっている事柄について、このように誤った内容で放送をしてしまったことは、やはり小さな問題とは言えないだろう。委員会は審議の対象とするかどうかについての基準を公表しており、それに照らせば、審議して意見を述べるべき事案と言うことになる。

  • 報告書を読むと、ニュースの制作現場で、分業体制が複雑化していることに驚いた。なぜこうしたことが起きたのかをきちんと検証して、他の放送局に警鐘を鳴らすことも委員会の役割だろう。

以上

2014年10月10日

「テレビ朝日『報道ステーション』の川内原発報道」審議入り決定

放送倫理検証委員会は10月10日の第86回委員会で、テレビ朝日の『報道ステーション』が9月10日、九州電力川内原発の安全審査をめぐり事実と異なる報道をした問題について、審議入りを決めた。
審議入りの理由について、川端和治委員長は「2日後のお詫び放送など、事後の対応は迅速で的確だったが、国民の関心事でもあり小さな事案とは言えない」と述べた。またテレビ朝日がニュース制作の分業態勢がうまくいかなかったと説明しているのを踏まえ、「分業態勢は各局共通であり、問題点を指摘することに意味がある。放送局が同じ過ちを繰り返さないようにアドバイスできないかと考えている」と述べた。

第85回 放送倫理検証委員会

第85回–2014年9月

"全聾の作曲家"佐村河内守氏を取り上げた番組について審理

福岡市の「待機児童」問題でお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議、審議入りせず…など

第85回放送倫理検証委員会は9月12日に開催された。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案については、前回の審理入りを受けて新たに2局3番組に対するヒアリングが実施された。担当委員から詳細な報告が行われ、さらに審理を継続することにした。
福岡市の待機児童問題をめぐる特集企画で、取材不足などを認めてお詫び放送をしたテレビ西日本の報道番組について、当該局から再提出された報告書をもとに討議した結果、審議の対象としないことを決めた。

議事の詳細

日時
2014年9月12日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した事案について、前回の委員会で、以下の5局7番組を対象に審理することが決まった。

  • TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その"闇"と"旋律"」(2008年9月15日)
  • テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
    <フジテレビを含む多くの系列局が日時を変更して放送>
  • テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)
  • NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)
  • NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)
  • TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』
    「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)
  • 日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

前回の委員会の後、新たに2局の3番組に対するヒアリングが実施された。その内容について、担当委員から詳細な報告が行われ、さまざまな視点から質疑や意見交換がなされた。番組で取り上げる際に、全聾や音楽性などについてどのような裏付け取材がされたのか、あるいはされなかったのかという状況の把握が進み、問題の根深さがあらためて浮き彫りになった。また、一定の社会的評価を受けている人物についてドキュメンタリーを制作する際の裏付け取材などのあり方についても、意見交換がなされた。
審理に入る前に、任意の協力を得て実施したヒアリングをあわせると、これまでに5番組のヒアリングが終了した。委員会は、次回までに残る2番組のヒアリングを終えて、番組の企画から取材・放送に至る経緯を把握する作業に区切りをつけるが、問題発覚後の各局の対応などについてさらに審理を継続する。

2.福岡市の「待機児童」問題の特集で、取材が不十分だったとお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議

テレビ西日本の報道番組『土曜NEWSファイルCUBE』(2014年4月12日放送)は、福岡市の「待機児童ゼロ宣言」をめぐる問題を特集企画として伝え、保育所までの所要時間を女性キャスターがバスを乗り継いで検証して「ゼロ宣言」に疑問を投げかけた。しかし、福岡市から抗議を受け、6月の同番組内で事前取材が不十分で、公平性の観点から問題があり、結果として一方的な内容となったなどとする「お詫び放送」を行った。
前回の委員会では、「行政機関に問題提起する姿勢は評価できるが、脇の甘い取材になったのは残念」など、さまざまな意見や疑問が出されたため、委員会は質問書を作成して、当該局に詳細な報告を求めていた。
提出された再報告書をもとに意見交換が行われた結果、事前取材が十分でないことなどには問題があるものの、福岡市の抗議の対象となった所要時間の検証ドキュメント自体には虚偽や作為がないこと、局内での検証作業を踏まえて取材不足を認め、公平性に問題があったとお詫び放送をして福岡市側の了承も得られていること、待機児童の問題が依然として解消されていないのではないかという番組企画の問題意識自体は正当であること、番組スタッフの体制強化・取材連絡の強化などの改善策がすでに取られていることなどから、審議の対象としないことを決め、議論を終えた。

[委員の主な意見]

  • 事前取材の甘さは問題として残るが、前回の委員会で議論したさまざまな疑問点については、再報告書でほぼ解消されたようだ。紹介された2か所の保育所の一方だけでも通園に30分以上要すれば待機児童になる、と考えたのは問題だが、所要時間の検証自体には虚偽や作為がないので、委員会がさらに審議の対象とする必要まではないのではないか。

  • 取材する前に放送日を先に決めていたことも、事前取材の甘さを許した背景としてあるように思われる。行政機関の施策に問題提起をする今回のようなケースでは、丁寧な取材が不可欠であることを徹底してほしい。

  • お詫び放送は決して十分なものとは言えないが、福岡市側も了承しており、また、番組制作の体制についても改善策が実施されている。今回の教訓を今後に活かしてほしい。

以上

第84回 放送倫理検証委員会

第84回–2014年7月

“全聾の作曲家”佐村河内守氏の7番組審理入り…など

第84回放送倫理検証委員会は7月11日に開催された。
委員会が4月に通知・公表した、フジテレビの『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
“全聾の作曲家”と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、委員会は、企画から取材・放送に至る経緯を調査しながら討議を継続してきたが、虚偽の疑いのある番組が放送されたことにより視聴者に著しい誤解を与えたのは明らかであることから、5局の7番組を審理の対象とすることを決めた。
テレビ西日本の報道番組で、福岡市の「待機児童ゼロ宣言」をめぐる特集企画を4月に放送し、保育所までの通園時間を検証して「ゼロ宣言」に疑問を投げかけたが、6月になって、取材が不十分だったとしてお詫び放送をおこなった。この事案について討議した結果、当該局からの報告には、不明確であいまいな点が多いとして、次回の委員会までに詳細な報告を求めて討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2014年7月11日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見への対応報告書を了承

4月1日に委員会が通知・公表した、フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見(委員会決定第20号)への対応報告書が、6月下旬、当該局から委員会に提出された。
報告書によれば、問題発覚後、社内横断的に設置された「不適切演出の検証・再発防止委員会」が、あらゆるジャンルの番組について、適切・不適切の境界線上にあるような演出事例を収集し、検証する作業を行ったという。その結果、番組ジャンル別のガイドラインを作ることは難しいと結論付けたが、今後も「演出の境界線」を議論していく常設の機関を設置することになった。また、「時制の変更(操作)」「視聴者の感情の逆なで」「出演者との合意形成不全」など、留意すべき8つのポイントをあげて注意を喚起するとともに、外部プロダクションによる制作番組の対応策も具体的に明記されている。
委員会は、この報告書を了承し、公表することとした。

2.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題で、5局7番組を対象に審理入り

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、委員会は、討議を継続しつつ事実関係の把握のための調査を行ってきた。5局の7番組について、企画から取材・放送に至る経緯についての報告書が提出されたが、さらにヒアリングへの任意の協力を要請し、承諾が得られた2局2番組については既に実施した。しかし、残る3局からは、協力を得られなかったり、議論の行方を見守るため保留したいとの意向が示されたりしたため、委員会では、今後の対応策を議論・検討し、以下のとおり決定した。
もともとこの事案は、虚偽の内容の番組が放送されたことにより視聴者に著しい誤解を与えたのであるから運営規則第5条第1項にいう審理対象事案であることは明らかであったが、虚偽を見抜けなかったことについて相応の理由があるのではないかと考えられたことから、委員会は、まず任意の協力による調査を先行させて、その結果を踏まえて最終方針を決定しようと考えていた。各局がそろって誤った番組を制作して社会に大きな影響を与え、特に、番組に善意で協力した人々の心を傷つける結果になった事実を踏まえれば、委員会として何らかの形での意見表明が必要であることは疑いがない。「全聾の作曲家」と信じて番組を制作したこと自体について放送倫理違反を問うことはできなくても、視聴者に著しい誤解を与えた事実がある以上、与えた誤解を解消するために、番組のどこがどう誤っていたのか、そのような誤りをもたらした原因はなにかについて真摯な反省に基づく調査を自主的に行ない、その結果について視聴者に対して説明する責任があるだろう。その責任は果たされているのか、今後このような過ちを繰り返さないための対策はできているのかといった点も含めて、運営規則に基づく調査が必要である。従って5局7番組を審理の対象とする。
委員会は、同規則第6条第3項に基づいて、番組の企画から取材・放送に至る経緯はもちろん、放送後の対応についても詳細に把握する作業を続ける。

審理の対象となった7番組は、以下のとおりである。(放送順)

  • TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その”闇”と”旋律”」(2008年9月15日)
  • テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
    <フジテレビを含む多くの系列局が日時を変更して放送>
  • テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)
  • NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)
  • NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)
  • TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)
  • 日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

[委員の主な意見]

  • 任意でのヒアリングへの協力要請であったので、応じないと言われれば、各局の報告書の内容以外にも確認したい点がある以上、今後は運営規則に則った方法で進めるしかないのではないか。

  • 佐村河内氏が「全聾の作曲家」であることについて事実と信じるに足る相応の理由や根拠が存在した可能性もあるので、審議・審理入り等の決定をする前にヒアリングへの任意協力を求めたことが、理解してもらえなかったとすれば残念だ。

  • 各局と取り交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」の第7条に、「甲(加盟各局)は、前6条に定めるほか、委員会の審議、審理等の活動に必要な最大限の協力をする」とある。この趣旨からしても協力が得られると考えたのだが。

  • この事案が本来、運営規則第5条第1項の審理の対象にぴったり当てはまることは明白である。審理入りを決定し、運営規則第6条第3項に則ってヒアリングを要請して調査活動を続けるべきである。

  • 現在に至っても、佐村河内氏が作曲していなかったと言う点について訂正とお詫びがなされただけで、各番組のどこが本当でどこが虚偽だったのか、明らかにされていない。虚偽放送をしたことは避けられなかったとしても、視聴者に著しい誤解を与えている以上、その誤解を解消するに足りるだけの説明をする責任がある。検証結果を放送した局もあるが、視聴者に対する説明責任という観点からは十分とは言えないと感じた。こうした点からしても審理は必要だろう。

3.福岡市の「待機児童」問題の特集で、取材が不十分だったとお詫び放送したテレビ西日本の報道番組について討議

テレビ西日本の報道番組『土曜NEWSファイルCUBE』(2014年4月12日放送)で、「待機児童ゼロ宣言」をしている福岡市に1000人を超える「未入所児童」がいる問題を特集企画として伝えた。
その中で、わが子が未入所児童に分類された家族を取材し、市から紹介された保育所までの所要時間を、女性キャスターが実際にバスを乗り継いで検証した。未入所児童というのは、「自宅から30分以内に入所可能な保育所があるのに、私的な理由で待機している場合」との基準があるが、市から紹介された保育所まで約1時間かかったことを指摘して、「待機児童ゼロ宣言」に疑問を投げかけた。
福岡市から抗議を受けて、当該局は社内調査を実施した結果、6月21日の同番組内で「事前取材が不十分で、結果として一方的な内容となった」、バスの検証取材についても「複数回実施するなど、より慎重な取材が求められるべきだった」などとする「お詫び放送」を行った。
委員会では、「行政機関に問題提起する姿勢は評価できるだけに、脇の甘い取材になったのはとても残念」「取材不足だけでなく、行政への対応やお詫び放送にも問題があるのではないか」など、さまざまな意見が出されたが、当該局からの報告書には不明確であいまいな点も多いとして、委員会からの質問書を作成し詳細な報告を求めたうえで、討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 特集企画の問題意識や実際に検証する姿勢は積極的に評価するが、あまりにも脇の甘い取材だったといわざるを得ない。調査報道とまではいえないにしろ、行政に疑問を投げかける内容を放送する以上、もっと脇を締めて取材に当たるべきだったのではないか。

  • 行政機関の施策に問題提起をするのはメディアの重要な役割だ。それだけに、メディア側が取材に抑制的にならないよう、支援する姿勢も必要ではないだろうか。

  • 市側への取材不足だけでなく、取材対象者への事前取材もあまりに不十分ではなかったか。行政機関に突っ込まれないよう、事実関係をきちんと押さえた、深みのある取材ができなかったのだろうか。

  • 市側から抗議がきて、お詫び放送に至るまでなぜ2か月もかかってしまったのだろうか。局側の対応に疑問が残る。

  • お詫び放送では、どのような点の取材が不十分であったかなどの説明がない。視聴者不在のまま、市側にだけお詫びしているようにも感じられる。

  • 取材不足をお詫びするだけでなく、再度の検証や別の視点からの検証も行うなどして、当初の問題意識をより深めていくようなお詫び放送も考えられたのではないだろうか。

以上

2014年7月11日

「"全聾の作曲家" 佐村河内守氏を取り上げた7番組」審理入り決定

放送倫理検証委員会は7月11日の第84回委員会で、"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、5局の7番組を対象に審理入りを決めた。
審理入りの理由について、川端和治委員長は「虚偽の疑いのある番組が放送されたことにより、視聴者に著しい誤解を与えたのは明らか。問題の発覚後、放送局は誤解を解くという十分な対応をしていないのではないか。各局がそろって間違えたのは重大で、障がい者や被災者が虚偽の放送に巻き込まれ傷ついたことは放置できない」と述べた。

審理の対象となった7番組と放送日は、以下のとおり(放送順)である。

  • (1)TBSテレビ『NEWS23』「音をなくした作曲家 その"闇"と"旋律"」(2008年9月15日)

  • (2)テレビ新広島『いま、ヒロシマが聴こえる・・・』(2009年8月6日)
      <フジテレビを含む系列局の多くが時間を変更して放送>

  • (3)テレビ朝日『ワイド!スクランブル』「被爆二世・全聾の天才作曲家」(2010年8月11日)

  • (4)NHK総合『情報LIVE ただイマ!』「奇跡の作曲家」(2012年11月9日)

  • (5)NHK総合『NHKスペシャル』「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)

  • (6)TBSテレビ『中居正広の金曜日のスマたちへ』「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)

  • (7)日本テレビ『news every.』「被災地への鎮魂 作曲家・佐村河内守」(2013年6月13日)

第83回 放送倫理検証委員会

第83回–2014年6月

出演者の家族と偽って別人を出演させていたバラエティー番組について討議。審議入りせず。…など

第83回放送倫理検証委員会は6月13日に開催された。
委員会が3月に通知・公表した、日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、討議を継続した。委員会が討議の対象とした5局の7番組について、企画から取材・放送に至る経緯を詳細に把握するため、各局にヒアリングへの任意協力を要請したところ、2局2番組について承諾が得られ、ヒアリングが実施された。委員会はヒアリングの結果を踏まえて、次回も討議を継続する。
一般社会にうまく溶け込めない人たちが更生していく様子を紹介する関西テレビのバラエティー番組『千原ジュニアの更生労働省 元ヤン芸能人がダメ人間に喝!』(関西ローカルで2014年3月16日放送)で、出演者の家族と偽って別人を出演させていたことが判明した。討議の結果、委員会は、問題の程度が大きいとは言えず、自主的・自律的な是正措置も適切に行われているとして、審議の対象とはしないことを決めた。

議事の詳細

日時
2014年6月13日(金)午後5時~8時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員(新任)、藤田委員、升味委員、森委員

1.日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見への対応報告書を了承

3月5日に委員会が通知・公表した、日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見(委員会決定第19号)への対応報告書が、5月下旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、問題発覚後に策定された「取材ルールの改定」「チェックシートや出演承諾書の活用」「コンプライアンス研修の充実」などの再発防止策に加え、委員会決定後も「担当ディレクターら当事者が講師になっての研修の実施」や「専門性の高い分野の取材での放送ガイドラインの一部改訂」などに取り組んできたことが具体的に報告されている。
委員会は、この対応報告書を了承し、公表することとした。

2.「全聾の作曲家」と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について討議

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、討議を継続した。
まず、各番組の企画から取材・放送に至る経緯を詳細に把握するため、討議の対象として報告書の提出を受けた5局の7番組に対して、ヒアリングへの任意の協力を求めたところ、承諾が得られた2局2番組については既に実施したことが、担当委員から報告された。審議や審理入りをしていない事案について、委員会がヒアリングを実施した前例はなく、委員会の運営規則にも定められていないが、この事案について委員会の意見をまとめるためには不可欠であると判断し、各局にあくまでも任意の協力を要請したものである。残る3局の5番組に対しても順次協力を求める予定である。
また、佐村河内氏の自伝の内容が、7番組のなかでどのように表現されているかについて比較・検討を行った別の委員から、その結果が報告された。
意見交換の中では、取材の過程で佐村河内氏の「実像」に迫ろうという努力がどの程度なされていたのか、一部の取材者が断片的に感じたという「小さな違和感」はなぜ取材に活かされなかったのか、各局は問題発覚後に「騙されてしまった」とお詫びや訂正をしているが、各局がそろって誤った番組を制作して社会に大きな影響を与えたこと、特に、それに善意で協力した人々の心を傷つける結果になったことについて、真摯な反省を踏まえた原因や背景の検証をどこまで真剣に行っているのか、それは今後このような過ちを防ぐだけの内容になっているのかなどについて、さまざまな意見が出された。
そのうえで、「各局から報告書の提出を受け、各局にヒアリングをお願いした委員会こそ、横断的な視点でものが言える状況にある」「佐村河内氏を信じて放送に協力した人々、特に多くの子供たちのためにも、こうした失敗を繰り返さないためにはどうすればいいかを提言すべきだ」などの指摘も相次いだ。
委員会は、次回も討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 佐村河内氏の過去を知る人物にアプローチしようと努力した局も、佐村河内氏本人から強く拒否されて踏み込めないまま終わってしまっている。これまでのヒアリング結果を聞く限り、全体的に、佐村河内氏の主導で取材が進行した印象は否めない。

  • 取材者の中には、小さな違和感や疑問を断片的に感じたことはあったようだが、「障がい者だから」「病気がつらそうだから」「天才だから」などの理由によって、自分で自分を納得させてしまっている。取材スタッフの間でそれが共有され、お互いに議論していたら、どこかで踏みとどまることができたかもしれない。

  • 番組の多くは自伝の記述や、あらかじめ佐村河内氏本人が提示したストーリーに映像を当てはめているだけだ。そこに新しい発見や驚きがないものは、ドキュメンタリーと言えないのではないか。

  • ドキュメンタリーの体裁を採りながら、ドラマが入り込んだり、撮れないものを無理に映像化したりしている。これはドキュメンタリーを撮る者としての倫理観の欠如ではないのだろうか。

  • 取材中に佐村河内氏の嘘に気づくのは無理だったかもしれないが、真相が判明した今なら自分たちがどこでどのように騙されたのか踏み込んだ検証ができるはずだ。各局は、きちんとそれをしたと言えるのか。委員会の議論とは別に、各局が真っ先にやるべきなのは、その検証であり解明だろう。それをやらないままでは、同じ過ちを繰り返してしまうのではないか。

3.出演者の家族と偽って別人を出演させていた関西テレビのバラエティー番組について討議

関西テレビのバラエティー番組『千原ジュニアの更生労働省 元ヤン芸能人がダメ人間に喝!』(関西ローカルで2014年3月16日放送)で、出演者の家族と偽って別人を出演させていたことが判明した。
この番組は、一般社会にうまく溶け込めない人たちが、更生した芸能人のアドバイスを受けながら、番組内の企画に参加する中で更生していく様子を紹介するものである。ダメ人間だった5人の若者がカーリングの練習に取り組むなかで、お互いを認め合いチームワークを育んで、小学生の"実力チーム"にあと一歩まで迫った奮闘ぶりを、ひとつのコーナーとして約40分間放送した。出演者の家族や恋人などが更生前と後の様子を語る場面で、ひとりの若者の家族として登場した人物が実は別人であることが放送後に発覚した。
この番組は、関西テレビから制作委託を受けた制作会社が、さらにフリーのディレクターらに業務委託して制作されていたが、関西テレビの報告によると、番組収録の直前になって、出演者の家族の予定があわなくなり、フリーのディレクターの判断で、知人に代役を依頼して出演させたという。放送後、口止めされていた制作会社のスタッフからの連絡で事態が発覚し、このディレクターは関西テレビの社内調査に対して、やってはいけないことの区別がマヒしていたなどと答えたという。
関西テレビは、5月4日に視聴者へのお詫び放送を行い、さらに5月18日の自社検証番組『カンテレ通信』でも、問題点を整理して詳しく伝えた。
委員会は、別人を家族と紹介するのは真実性を損なううえ、制作段階でチェック機能が働かなかった点などは問題であるが、芸能人も出演するバラエティー番組であり、真実の過程の忠実な記録であることを強調する性格のものではないうえ、わずかの比重しか持たない一家族の出演場面での問題であり、視聴者の信頼を揺るがすほど問題の程度が大きいとは言えないと判断した。そのうえで、事後の自主的・自律的な是正措置も適切に行われていることから、討議の経過を委員会の議事概要には掲載するが、審議の対象とはしないことを決めた。

[委員の主な意見]

  • これまでも繰り返し指摘してきたことだが、局と制作会社やスタッフの間で日常的に円滑な情報交換やコミュニケーションが行われていたとは思えない。問題の本質はそこにあるのではないか。

  • 別人を家族として出演させたのは明らかに「虚偽」の事実であり、放送倫理に違反しているが、第三者に指摘される前にきちんとした事後対応はなされていた。

  • 同じバラエティーの『ほこ×たて』の場合は、番組の中核となる対決について「ない対決をある」ことにねつ造したものだったが、今回はそこまでの悪質性は感じられない。視聴者の信頼を裏切ったとまでは言うほどのものでもないだろう。

  • 関西テレビは、去年、報道番組で審議入りが2件続いたが、今回はバラエティー番組で問題が起きた。その都度、再発防止に努めるとしてきたが、その背景にはいったい何があるのかないのか、局としてきちんと総括してもらいたい。

  • 今回の再発防止策のなかで、今後一般市民に出演を求める場合、すべての出演者の本人確認を行い、出演承諾書を取るなどの是正措置を決めている。ここまでやる必要があるかどうかは別にして、局側の決意と姿勢は感じられるのではないか。

以上

第82回 放送倫理検証委員会

第82回–2014年5月

"全聾の作曲家"と紹介されていた佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題について討議…など

第82回放送倫理検証委員会は5月9日に開催された。
委員会が2月に通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、各局から新たに提出された6本の番組の報告書を中心に討議を継続した。その結果、委員会として何らかの形で考えを示すためには、更なる検討や調査が必要であるとして、討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2014年5月9日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見への対応報告書を了承

2月10日に委員会が通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見(委員会決定第18号)に対する対応報告書が、5月初旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、再発防止に向けて「ディレクターとカメラマンがそれぞれの上司に異なる様式の"取材後報告書"を提出し、双方の上司が報告書を相互確認していること」「社員や社外スタッフへの教育・研修を継続的に実施する"放送人育成プロジェクト"がスタートし、多様な内容の研修会などを毎月開催していること」「再発防止策の中核を担う"番組推進室"を、3月1日付の組織改編で設置したこと」などの具体的な取り組みが盛り込まれている。
委員会は、この対応報告書を了承し、公表することにした。

2.「全聾の作曲家」と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について討議

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、取材・制作過程で真相を見抜けないまま放送したことや、発覚後の対応などに問題が無かったか、どうすれば再び同じ過ちを犯さないようにできるのかなどについて、討議を継続した。各局からは、新たに6本の番組についての詳細な報告書が提出され、あわせて7本の番組を対象にして、前回までの議論を踏まえた意見交換が行われた。
その結果、自伝に安易に依存した一連の放送が佐村河内氏の創り上げた「物語」を相互に補強し増幅させてしまったこと、佐村河内氏が「全聾の天才作曲家」であるという虚像がますます動かしがたい「真実」として通用するようになり、それを信じて放送に協力した人々、特に身体障害を持った子供や被災して母を失った子供の心に傷を残す結果になったことについて、委員会として何らかの形で考えを示すべきである、という基本方針を改めて確認した。
委員会は、そのためには更なる検討や調査が必要であるとして、各委員が佐村河内氏の自伝に目をとおし、取材の進め方や番組構成とのかかわりについても検討を加えたうえで、次の委員会で討議を続けることになった。

[委員の主な意見]

  • ほとんどの放送局の報告が「だまされてしまい申し訳なかった」で終わっているのが、とても気になる。放送のプロとしてそれでいいのか。不審な点を感じて、検証してみるような機会はなかったのだろうか。視聴者への説明も、ほとんどの局ではきちんと行われていないように感じられる。

  • それぞれの番組の演出や編集内容に類似部分が多かったのは、各局とも佐村河内氏の自伝に依存して制作していたからではないのか。独自取材は、どの程度行われていたのだろうか。

  • なぜこうした事態になってしまったのかと考えたとき、各局の報告書をきちんと分析して、各局を横断する問題点を指摘し、放送局が再び「共犯者」にならないような前向きな提言をすることが、この委員会の役割なのではないだろうか。

以上

2013年11月20日

松江で島根・鳥取県内の各局との意見交換会を開催

島根・鳥取県内の各局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、11月20日に松江市内のホテルで開かれた。5回目の開催となる今回は、山陰中央テレビ、山陰放送、日本海テレビ、NHK松江放送局の4局を中心に、ラジオ1局を含む7局から57人が参加した。また委員会側からは川端委員長、渋谷委員、升味委員の3名が出席した。

意見交換会の前半は、まず直近の事案である関西テレビの「『スーパーニュースアンカー』インタビュー偽装」について、意見書のポイントを担当委員の升味委員が説明、「モザイクの向こうでは本人が話している、という視聴者の信頼を裏切ることになった。映像の偽装が分かった段階で、視聴者に伝え訂正すべきだった。報道の自由、取材の自由を支えているのは、カメラやマイクの後ろにいる市民(視聴者)であることを忘れないでほしい」と問題点を指摘した。また、川端委員長からも「この事案は、不適切な映像にとどまらない、視聴者を欺く許されない映像だと判断した」との補足があった。
これに対し、参加者からは「一本筋の通ったものを放送したいと考えていれば、後味の悪い取材のときは違和感が残る。その違和感を感じなかったことが問題だと思う」「ネットにすぐ上がってしまうということもあり、取材源の秘匿が必要なケースもある」「放送局側が自己防衛のため過剰にモザイクを多用している面もあるのでは」といった意見が出された。
モザイクや顔なし映像の多用に対し、川端委員長からは「顔なしの場合は、すでに実例も出ているように偽物が紛れ込んでもわからない。メディアとして、そのような風潮に抵抗してほしい」との発言があり、升味委員は「普通の人が取材されるときも、ボカシや顔が映らないことを条件にする傾向が一般化していることを危惧している」と指摘した。渋谷委員も「放送が匿名化しているネットに引きつけられているのではないか。匿名はできるだけやめたほうが報道の価値が高まる」と述べた。
続いて、今年も2番組が審議入りした参院選関連の事案として、2010年の「参議院議員選挙にかかわる4番組」が取り上げられ、渋谷委員から事案の概要の説明と「参院選の比例代表選挙の仕組みが理解されていなかったため、選挙の公平・公正が害されることになった」との問題点の指摘があった。また、参加者からの「参院選で同じような事例が続くことをどう考えるか」との質問に、川端委員長は「新聞などと違い放送は電波という公共財を使っている以上、一定の公共性が要求される。参院選の前の今年4月にも、民放のバラエティー番組について委員長コメントを出し注意を喚起したが、選挙制度をきちんと理解しない限り、同じような問題を起こすことになるのではないか」と指摘した。
さらに、各局からリクエストの多かったローカル局の問題事例が、事務局から紹介された。ニュース情報番組で、コメンテーターがある金融機関が破たんしかねないと誤報のコメントをして騒ぎになった事例、午前の情報番組で、フリーマガジンの読者として編集部の関係者を登場させた仕込みの事例などで、「ローカル局のミスは、生番組のコメントと、インタビュー取材の2点に集約される」(事務局)との説明があった。
参加者から「このような事例を聞くと、放送業界の人材育成に何か問題があるのではとも思えるが」との質問に対し、川端委員長は「制作現場を支えている制作会社社員に対する十分な研修などがなされていないこと、また、以前は制作会社にも社員を育てていく余裕があり、社員もキャリア・アップの希望が持てたが、現在はそのようなモチベーションが持ちにくいというのが非常に大きな問題と思う。また、放送局側の社員間でもベテランと新人の間に壁があり、本来は毎日現場でできるはずの教育も、実は上手くいっていないケースもあるようだ」と指摘した。
BPOや放送倫理検証委員会に対する質問のコーナーでは、「BPOが怖いという思いから、バラエティーの表現の幅が狭まっている風潮があるのでは」という質問に対し、川端委員長から「『最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見』にもバラエティーは何でもありと書いたが、これで面白い番組が作れると確信するなら自信をもってやってほしい。世間の人がいろいろ言っても、こんな面白い番組を放送するなというほうがおかしい、という意見書を書いてもいいと思っている」というエールが送られた。
最後に、川端委員長から「サリンジャーに『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』という小説があるが、だだっぴろいライ麦畑で夢中になって遊んでいる子供たちが、よく前を見ないで走って崖から落ちそうになるのを捕まえて、けがをしないように適切なアドバイスをするのが我々の役割と考えている。皆さんの側でも自主的・自律的に放送内容を改善して、視聴者にテレビって素晴らしいねと思われるような放送を是非、実現していただきたい」とのメッセージがあり、意見交換会は終了した。

今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 交換会では、審議入りした内容について、現場のヒアリングなど、その経緯の報告に細やかな配慮も感じました。問題は問題だが、その背景を探り、問題点を明らかにしていく姿勢の中に、現場を委縮させたくないという思いも垣間見え、非常に暖かくヒューマンなものを感じた次第です。弊社の現場の若い社員たちにもっと参加してほしかったと残念な思いもありますが、まずは、コツコツとBPOの報告書などを現場の皆さんに共有してもらい、「気づき」のレベルを上げていく努力をしていかなければ…と気持ちを新たにさせていただきました。

  • 問題の発生を恐れてモザイク、ボイスチェンジを安易に使う傾向があることについて「危惧している。匿名、顔を隠さなければインタビューを放送できないのであれば、放送しないくらいの気持ちでやってほしい。現場で了解を取る最大限の努力をしてほしい」との委員の発言は、改めて取材の姿勢について考えさせられるもので印象的だった。

  • 実際に何か起きてしまったときのことをよく振り返ってみると、どこかに、「そういえば何か変だな~とちょっと思ってた」等、誰かに何らかの気づきがあったかも、いやあったと思います。これを、遠慮せず口に出すことが、不体裁や事故を防ぎ、倫理や人権に配慮した番組につながると思いました。

  • 質問タイムでは、放送局側の質問に対しBPO側が答えて終わるという、一方通行なやり取りが多かったことが気になりました。松江市での開催は今回が初めてというとても貴重な意見交換の場でしたので、ひとつの質問から議論が広まるような雰囲気づくりができていればと感じました。

  • 委員の皆さんが、想像以上に我々報道側の立場もきちんと理解しようと努力され、その中で視聴者側との折り合いをつけていこうという真摯な気持ちを持たれているという印象を受けました。今回の意見交換会では、いつも厳しい目を向けられがちな我々マスコミに対し意見や考えも聞いて下さり、うれしさと驚きを感じました。

  • 個人的には「何と言われようとBPOが守ってやる、と思えるような面白い番組を作ってほしい」という川端委員長の言葉に意を強くしたところです。

以上

2013年12月4日

福島県内の各局との意見交換会を開催

福島県内の各局と放送倫理検証委員会との意見交換会「福島を伝え続けるために――放送倫理を軸に」が、2013年12月4日、福島市内で開催された。参加者は、放送局側からは、福島テレビ、福島中央テレビ、福島放送、テレビユー福島、ラジオ福島、エフエム福島、NHK福島放送局の全7局から21人、委員会からは、水島久光委員長代行、小出五郎委員、森まゆみ委員の3人である。第1部で、水島委員長代行が放送倫理検証委員会の基本的な考え方について説明し、第2部では、福島の放送局が抱えている具体的な問題について、意見を交換した。

◆第1部 委員会の議論から福島の報道を考える◆

第1部では、まず水島委員長代行が、意見交換で基調となる放送倫理検証委員会の基本的な考え方について、これまでの4つの委員会決定に基づいて説明した。この中で水島委員長代行は、これらの意見書から読み解くべきポイントとして次の2点を挙げた。
1つは、放送の使命を実現していくために、それを脅かすように作用する政治的な力や経済的利害、ルーティンにはまってしまっている自分たち自身などに対して、我々は常にケアしなくてはいけないという点である。もう1点は、具体的なリスクがどこに潜んでいて、どういうところでそれを踏み越えてしまうのかという点を、ポイントとして読み解くべきであると述べた。
そして、これまでの検証委員会での議論を振り返って改めて感じたこととして、「信頼」は放送倫理基本綱領の中でも特に注目したい言葉で、それは日々の活動の中で作られるものであり、目標・目的であると同時に、次なる番組作りの前提となるものだと述べた。
水島委員長代行の話はこちらpdf

 この後の質疑応答では、「光市のようなケース(委員会決定第4号)であっても、どこかに冷静で客観的な視点があれば、バランスは保てるのではないか」「ブラックノート(委員会決定第8号)のように社会的使命と取材手法とがせめぎ合うような場合、局としては社会的使命に照らしてこれ以外に方法はないと思ってやったとしても、必ずしもそれは支持されるとは限らないので躊躇してしまう」などの意見や感想が出され、水島委員長代行は、すべての事案はケース・バイ・ケースで、個別具体的、かつ自律的に判断するべきであるという委員会の考え方を、あらためて示した。

◆第2部 「分断」「温度差」「風化」を乗り越えるために◆

第2部では、事前の聞き取りやアンケートの結果から設定したテーマに基づいて、各局が簡単な報告をしたあと、委員と意見を交換した。

1.放射線の健康被害に関する考え方の違いによる「分断」

  • まず、現在、福島県民の間で生じているさまざまな「分断」のうち、放射線の健康被害に対する考え方の違いから生まれる「分断」について、放射線情報をどう伝えるか、その「分断」をどう乗り越えるかについて、各局から以下のような報告があった。

  • 問題提起のきっかけとして2013年2月に県内の5,000世帯に対して郵送で行ったアンケート結果を紹介すると、放射線について不安を感じている人は8割、人間関係や発言の内容に気を使うようになった人は7割、憂鬱な気分が続くようになった家族がいる人は5割、7割近くの人は家族の誰も避難しなかったけれども、そのうちの4割近くは避難したくてもできなかった、などである。放射線の問題については、被害の拡大を防止したいし、何か出来ることはあるはずだと日々思っているが、中立であったり両論併記の報道をしていると、非常にもどかしく感じることがたびたびある。納得いく判断が出来るような情報を視聴者にきちんと伝えていくことを最低限のスタンスにしたいと思い、毎日、悩みながら報道に当たっている。(テレビユー福島)

  • 原発事故から1000日目を迎えても、放射線の健康への影響については、我々もグレーとしか答えようがない。いろいろな情報を示して視聴者の方に判断してもらうしかないと思っているが、日々こうした情報に向き合っている我々でもこんなに難しいことを、一般の人に判断できるのか、という思いがある。健康被害に関する情報については、いつも判断のたびに揺れていて、やはりデータを蓄積するしかないと思っているが、一方で健康調査を受けたくない人もいて当然とも思うので、全員受けるように呼び掛けるべきかどうか考える。食品に含まれる放射性物質の情報にしても、国の基準は下回っているが10とか20ベクレル程度の場合など、どのように伝えるか、日々、葛藤の中で伝えている。(福島中央テレビ)

  • 福島県に暮らす私たちには、たとえば先ほどのアンケートの話にもあったが、避難したか/しなかったかの、ゼロか1かで割り切れないような思いがある。そうした人の内面を少しずつていねいに拾い、放送することで、立場が違う人たちが少しでもお互いに理解できるようなことにつながり、「分断」の溝を少しでも埋められれば、というのが今一番思っているところだ。放射線に関する情報については、これから廃炉になるまで数十年、専門的な知識を、この実地の取材の中で積み重ねていくということが私達に求められていることなのだと思う。そして、ある程度道しるべを示せるようになることが信頼につながってくるのかなと思っている。(福島テレビ)

各局からの報告を受けて、小出委員が以下のように意見を述べた。

小出委員:放射線の影響について、白黒はっきりした情報を伝えたいけれどもなかなかそう断言できないところがあって非常に迷いがあるというお話だったが、私も全く同感だ。このような場合、どのように話せば分かってもらえるかということだが、ポイントの1つは「分からないところはどこか」ということだ。「このことについては分かっているが、このことは分かっていない。この問題はそういう状況にある」ということをまず分かってもらわないと、そこから話が進まない。その上で、分かっていない理由は何か、さらに、いつになるとそれは分かってくるのか、ということも必要だ。2つ目は、不確実な問題というものには、科学的な側面と社会的な側面の両方あるので、そういう問題の構造に乗ってものを伝えると、分かってもらえるのではないかという気がしている。そしてもう1つ大事なことは、代替案だ。代替案を複数提示して話をすることが必要だろう。
こうした「何とも言い切れない話」ではいろいろな情報が発信されるが、キーポイントとなるのは、それが公正で透明なプロセスから出てきた情報かどうかということだ。放送局は情報のプロセスをチェックし、公正で透明性のあるプロセスから出てきた情報は、きちんと伝えていくべきではないかと思う。もう1つのチェックポイントとしては、迅速に出てきた情報か、ということがある。いろいろ考慮された結果出てきた情報というのは、あまり信用出来ない。
そしてもう1つ大変重要なことは、その時、最終的にものを決めるのは誰かということだ。不確実な問題というのは、科学的な問題もあるけれども同時に社会的な問題も非常にあるわけで、そうなると、地域社会が決めることが最優先なのではないかと思う。政府や企業が決める話ではない。これが、こういった問題の一番基本的なスタンスだと思う。
リスクコミュニケーションでALARAの原則というのがある。ALARAとは、as low as reasonably achievableの頭文字を取ったものだが、科学技術の問題とそれから社会経済、政治的な問題というものをいろいろ勘案して、被害を一番合理的に最小限になるように調整していくという原則だ。ここで一番大事なのは、社会的合理性と科学技術的合理性とのバランスであって、Aさんの説とBさんの説ということではない。
情報の伝え方について、今、皆さんがおっしゃったようなことは、私も常々感じている。けっこう悩みながら、「どう言ったらいいかな」なんて顔を見ながら考えるようなところがあるわけだが、長いこと話して、顔もお互い分かって、言葉の意味するニュアンスが分かってくるぐらいまでいかないと、なかなか有効に話は伝わらない。対面で伝えるのが一番だろうが、放送でも、ある程度できるのではないかと、期待を込めて思っている。

科学ジャーナリストである小出委員の発言の後、質疑応答に入った。多様な立場の放射線の専門家からじっくりと話を聞く一般公開番組を制作し、自社のYouTube公式チャンネルに公開しているテレビ局(テレビユー福島)から、放射線の影響に関する情報の伝え方について、かなり専門的なレベルでの質問が続いた。小出委員は、「あるデータを取り上げる時には、このデータはここまでは言えるけれどもここから先はちょっとあやふやなんだとかの条件を付けるなど、データの見方について、ある程度時間をかけて伝えていかなければならないのではないかと思う。情報の出し方は重要で、情報公開のプロセスに不信感があったら、何を言っても通じない」などと述べた。

2.さまざまな「分断」を考える

放射線の考え方の違いによる「分断」以外にも福島で生じているさまざまな「分断」について、意見交換を行った。まず、局の方から以下のような報告があった。

  • 2013年3月、震災原発事故2年のタイミングに合わせ、ニュース番組の中のシリーズ企画で、原発事故の避難者が多く暮らす自治体で生じた避難者と地元の人たちの軋轢についてレポートした。「こんな軋轢もあるけれども解決に向けた模索も始まっている」という内容で放送したのだが、かなりの反響が寄せられた。伝える前からこうした問題は難しいだろうとは思っていたが、問題提起をするという狙いで放送した。放送したことに加え、多くの意見をいただいたことについても意義があったと思っているが、同時に、様々な立場の人たちの思いをしっかりと汲み取って報道することの大切さやバランス感覚が大事だということを再認識させられた。(NHK福島放送局)

  • 事故から2年9ヶ月が経ち、避難されている方の中でも意見や考え方がかなり分かれてきていると感じている。たとえば、自主避難を含めて避難した方と残られた方の考え方の差、食品の安全性に対する考え方の違い。こうしたものはなかなか埋められない。また、補償がもらえる、もらえないのお金の部分での分断も起きている。
    多少間違いがあっても、はっきりものを言う方に一般の人が引っ張られていってしまう傾向が強いような気がしているが、そうした物言いが多いネットの世界と比べ、我々放送局は、視聴者側から見れば、問題提起をするだけで判断をせず、非常に中途半端というかあいまい、と受け取られているような気がする。それがテレビに対する信頼性を損なわせていく一因となっているような気がしている。(福島放送)

これを受けて森委員が以下のようにコメントした。

森委員:私たちは、自分たちの地域でお互いのことを考えていこうと、『谷根千』という雑誌を30年前に始めた。30年の活動の中で、みんなで集まってみんなで考えていくネットワーク、そこでは自分が本当に考えていることを話しても非難されないという場所、を地域の中に作ってきた。震災以降はそこを中心に動き、被災地応援や脱原発デモなどの映像を全世界発信し、自分たちでエネルギー問題など勉強する会もやった。こういう、冷静に物を見られる人たちの核を地域の中に作って放送局の応援団にしていくことは大事だと思う。そうしないと、相手が見えずに、ちょっとした声に怯えて自主規制してしまうことになるのではないか。既にNPOやNGOのある地域ならそういう人たちとつながって、その地域でどんな声が上がっているのかを絶えず探ることは必要だと思う。
放射線については、子どもたちの住環境や健康調査の記録を取り続けることで将来に備えるということが、すごく大事だと思う。水俣病と同じく被害者が立証責任を負わされることになるのではないかと思うので、その時のために、住民の健康についてのデータを積み重ねていくということも、メディアがしなくてはいけないことだろうと思う。
忘れられてしまいそうな事象も記録しておくということが大事なのではないか。昔、『解体ユーゴスラビア』という、ユーゴスラビアに住んでいる日本人女性の目を通して近所に暮らす人たちのかそけき生の声を拾った本を読み、とても感動した。日常の変化や言葉の中に、いろいろな問題の萌芽が詰まっている。だから私も、3月11日から、そうしたことをブログに書き続け、それをまとめて『震災日録』(岩波新書)で出した。
私は畑を持っていた宮城県南部の丸森町にお手伝いに行くが、宮城県全体が北部のリアス式海岸の津波復興のほうに目が向いてしまっていて、放射線値の高い南部の方にはあまり関心が向けられていない。逆に福島県では、やや放射能のほうに関心が強まっているために、海辺の津波被災地がどう記録されているのかということも心配になる。

森委員の話を受けて、ラジオ局のアナウンサーから、生放送のインタビュー番組で、放射線量のリスク評価が自分とは異なる人に対するリアクションに困ったという発言があった。森委員は、「同様なことは私も経験した。立場によっていろいろな考えがあって仕方ないが、率直に語り合える場をできるだけ作りたいと思っている」と答えた。

3.さまざまな問題を乗り越えるための各局の取り組み

続いて、ラジオというメディア特性を生かしたラジオ局の取り組みや、「温度差」や「風化」の問題を乗り越えるためのテレビ局の取り組みが紹介された。

【ラジオ局の取り組み】

  • 震災が起きてから1ヶ月間、24時間、情報を発信してきたが、リスナーの方の「子どもがなかなか寝つけないので子ども向けの音楽を流して欲しい」との声を耳にして、子どもに聞きやすい歌を流したりした。通常の放送に戻ってからは、FMとしてやれることは何かと議論を進め、放射線に対する質問に答える番組を約1年ほどラジオ福島さんと並行してやったり、『風評被害をぶっ飛ばせ』という番組を約1年ほど放送したりした。米の生産者の力になろうということで、田植えも収穫も行い、放射線を測定して安全であると訴える番組も作った。田植えの時は復興大臣と郡山市長にも参加していただいた。
    現在の取り組みとしては、やはりラジオは音声が主なので、音楽の力を信じて積極的にできるだけ明るい音楽を流している。「元気をもらった。ありがとう」という返事をもらったりする。するとアナウンサーが、「また元気をもらいました」と。そのような双方向的なラジオの特性を活かして、現在も番組では明るめの音楽を中心に、音楽を生かした放送を積極的に行なっている。(エフエム福島)

  • 震災以降、私たちが取り組んできたこととして、1つは、被災者の生の声をできるだけ出そうと、毎日、番組コーナーで電話インタビューをしたり、中継車を出して、いろんな取り組みをされている方を紹介したりしている。もう1つは、できるだけ制作者の意図を介さずストレートなお話をしてもらおうと、震災の年からずっと月曜日の19時から21時まで2時間の生番組を組んでいる。
    放射線関連の問題に関しては、ラジオは数字を伝えるのが非常に苦手な媒体だが、できる限りデータをそのまま伝え、科学的な根拠に基づく情報を出して行きたいと考えている。震災以来2年数ヶ月の間の大きな出来事として、東京発の情報ワイド番組をシーズン途中で止めたという事があった。ゲストコメンテーターの方が、根拠のない、あるいは科学的根拠に乏しいような、あるいは福島県民を翻弄させるような発言を繰返しており、制作局に問題を指摘したが満足な訂正がされず、私どもでは番組を打ち切った。いろんな悩み方をしながら、毎日、番組編成だったり制作をしている。
    放射線関連の問題に関しては、臨時災害FM局の南相馬ひばりFMさんと番組交換をして、南相馬ひばりFM制作で、東大医科研の先生が南相馬中央病院でボディカウンターの実測値を元に内部被曝の影響を説明されている番組を、私どもで放送している。臨時災害FM局との連携は富岡町のおたがいさまFMともやっており、互いに連携して、心のつながり、被災者の心のつながりを作っていこうというとしている。
    「分断」というテーマがあったが、福島県と私どもラジオ福島の企画「ふくしまきずな物語プラス」に寄せられた作文を見る限り、心の分断を叫んでいるものは意外に少なかった。ラジオはフォーラム的な話し合いの場を非常に作りやすいメディアなので、今後、我々が県民のために役立つことができる方法がおそらくまだまだあるだろうと、さきほどの森委員のお話を聞いて思った。
    小出委員から話があった社会的な合理性と科学的な合理性についても、冷静に考えれば落とし所というのがあるんだろうなとも考えられるが、被災県の福島としては、心証的に受け入れ難い。そういう部分を埋め合わせるメディアとして今後も努力していきたいと考えている。(ラジオ福島)

【「温度差」「風化」を乗り越えるためのテレビ局の試み】

  • 2012年の5月に福島市の小学校で2年ぶりに屋外で運動会が開かれた。それを全国放送するからということでキー局に送ると、キー局のデスクから「なんでマスクをしているところを映さないのか。マスクをしていないと、何の珍しい絵にもならないじゃないか。なんで全国ニュースで流すと思っているのか」と言われた。その時点でマスクをしている子は、小学校ではほとんどいなかった。その時は、かなり頭に来た。
    それ以来ずっと、キー局とは飽きるほど何度もケンカをした。キー局との中でも、このぐらいの温度差というのはある。(テレビユー福島)

  • 日々のニュースやドキュメンタリーは、ずっと発信し続けて行こうという話を社内でもしている。また、深夜帯だが、報道記者が独自の視点で作り、震災をみつめ直すようなコーナーを数年前から始め、ようやく軌道に乗ってきたところだ。ただ、全国的には、3年近く経つと、枠の確保といった点でもなかなか厳しい。西日本では、話題がもう東南海地震とその被害想定の話に全てすり替わっているような部分も感じる。番組制作では、弊社が制作しているバラエティー番組や旅番組等を全国の系列局さんに買っていただくという形で、福島県の現状を積極的にアピールしている。(福島放送)

  • NHKでは東京の全国ニュースの担当者の間でも震災や原発事故関連のニュースを積極的に集めて伝えていこうというマインドは定着しており、温度差は局内的にはそれほど大きくはない。工夫している取り組みとしては、県外に避難している人たちも見ることができるように、放送が終わったニュースをNHK福島放送局のホームページにアップしている。風化の防止に対しては、ネットワークを活かし、様々なチャンネルを通じて、地道に情報を発信し続けていくということに尽きると思う。(NHK福島放送局)

  • ネットに関する取り組みを報告する。ローカルのほうは、2011年の6月から月~金のお昼のローカルニュースをYouTubeの公式チャンネルにアップしている。夕方の企画ニュースも、項目を別に立てて200本くらいアップしており、現状では延べ260万回の再生回数があった。系列のほうは、2013年4月からFNNニュースローカルタイムというYouTubeの公式チャンネルに、被災3県の夕方のニュースのほぼ全項目をアップしている。これは、ありのままに近い福島の現状を知ってもらうツールとして有効だと思う。普通のニュースにこそ、普通に暮らす福島の人たちの姿が映っており、それが実は福島の空気感を一番正確に伝えていると思う。こうした普通のニュースは全国放送にはならないが、ネットでは発信でき、日本全国あるいは世界の方に見てもらえる。(福島テレビ)

  • ホームページでのニュースの動画配信は震災前から始めていたが、震災以降は、県外の避難者のために、夕方の情報番組のニュース部門で権利上の問題がないものを20分以内でアップしている。避難者が多い新潟と山形の系列局には、避難者にも直接関わるようなニュースを、原稿も送った上で配信している。全国の方には、ドキュメントで伝えていくのが一番分かってもらえると思って、ドキュメントの制作も心掛けている。国際放送の番組も作りながら福島をアピールしているが、終わりのなき戦いの中でスタッフも疲弊してきており、だんだん厳しくなってきているというのが現状だ。風化を防ぐために、全国ニュースで伝えたいと思うと、平穏ないつも通りの福島の姿が伝わらずに大変なイメージばかりを膨らませてしまうというジレンマがあって、その両方の福島をどう伝えるかが私たちの課題だと思っている。(福島中央テレビ)

最後に各委員が、各局の報告者に感謝の意を伝えるとともに以下のような感想を述べ、意見交換会は終了した。

森委員:大変ななかでジャーナリストとして鍛えられている方たちの話を聞き、勉強になった。私の通っている丸森や石巻でも、どうにか立ち上がる人たちが出てきている。福島でも、そういう立ち上がる人々のことを、私たちは是非知りたい。応援がしたい。行政が全国の市町村から支援を得ているように、放送局も、たとえば大学などの支援を得て、ドキュメンタリー番組などを作って欲しい。

小出委員:いろいろなことをうかがって、私も大変勉強になった。やはり基本的には信頼の問題だと思うが、信頼を作っていくには、人の問題、組織の問題、システムの問題と、3つぐらい要素があると思う。特にシステムについては、エフエム福島やラジオ福島の方たちの試みのように、視聴者のいる所に片足を置いたシステム作りを、試行錯誤しながらやっていくことが必要なのではないかと思う。
そういう試行錯誤自体が、日々の業務のリアリズムの中ではものすごく難しいと思うが、やっぱりそこは放送という仕事で生きている者の志の問題でもあるのかなと思う。私も、とっくに定年を過ぎてはいるが、長いあいだ放送に携わってきて自分の一部のようになっている所もあり、放送が大好きで愛している。主役である現役の皆さんには、是非、志を持ってやっていただきたいと思う。私たちはそのために応援をしたい、できることを何でもやりたいと、本当にそう思っている。

水島委員長代行:最後に3つほど申しあげたい。1つは、最初に検証委員会が議論してきた放送倫理の話をしたが、特に真実性の問題と公平・公正性の問題は大きなポイントだ。真実性や公平・公正性を自分自身に向かって問い続けるだけでなく、他者に対しても同じように考えることが必要なのではないかと思う。
2つ目は、さまざまな取り組みを自分たちの現場だけで抱え込むと大変になる時に、どうやって連携を作るかということだ。力を借りたり貸したりしながら問題に取り組んでいくことが、次の課題となると思う。福島以外の人たちとの連携も、大きな課題になってくるのではないか。
3番目に、私の大学では、学生たちが発災から1000日を契機に、震災や原発事故について改めて考える勉強会を始めているが、何度でも出会い直し、考え直すためにどのように情報を発信していくかが、これからの大きな課題になると思う。思い出したくないこともたくさんあると思うが、やはり出会い直すことで見えてくることや、分かることもあると思うので、これからはそういうチャンスを作ることができればいいと思う。みなさんには、これからの放送と地域のために、是非がんばっていただきたいし、私どもも、応援をしていきたいと思っている。

 

小出五郎委員は2014年1月18日に逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします。

以上

2014年1月23日

NNN(日本テレビ系)中部ブロック各局との意見交換会を開催

日本テレビ系の中部ブロック(北陸・甲信越・東海エリア)8局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月23日に名古屋市の中京テレビ会議室で開催された。系列局を対象とした意見交換会は、前年度に続いて2回目である。
放送局側からは8局の報道部長など18人、委員会側からは小町谷育子委員長代行と斎藤貴男委員が出席した。

意見交換会では、まず斎藤委員と小町谷代行が委員会での議論などを通じて、日頃感じていることを述べた。
斎藤委員は「委員会で議論をすればするほど、放送は奥が深いと感じている。おかしな番組は、もっとチェックすべきだと思う一方、管理強化になって、記者や制作者たちの裁量をせばめる結果になってしまっていいのかという迷いもある。昔のように、ある意味何をやってもいいというのではなく、報道の自由を本気で守るためには、BPOも含めて自浄作用を発揮していくことが必要だと考えている」などと語った。
また小町谷代行は、検証委員会の発足当初から約7年間の活動を振り返って、「1期目の3年間は大きい事案が多くて『光市母子殺害事件の差戻控訴審』や『バラエティー番組』への意見書などがまとまった。2期目の3年間は、打って変わって比較的軽めの事案になったが、いろいろな問題点が表に出てきた。昨年からの3期目で特徴的なのは、以前の審議事案にそっくりな事案が出てきたことだ。繰り返し起きている問題を委員会としてどうとらえるかについて、議論を重ねている」と語った。
質疑応答では、「バラエティー番組は、モザイクをかけすぎているように思うが、ニュース現場でも、首から下のインタビュー映像が当たり前になりつつあることに悩んでいる」との質問に対し、小町谷代行は「最近、そういう映像が増えていることは気になっている。原則的には顔出しをまず交渉してほしい。そのうえで、個々の取材によって考えていくしかないのではないか」と述べた。また斎藤委員は「モザイクをかけた映像や、首から下だけの映像を使う必要がない場合も実は多いのではないか。本当に使う必然性のある映像なら、いろいろな工夫をして放送することは素晴らしいと思う」などと語った。
また「意見書では、組織上の問題やコミュニケーション不足の問題が、背景にある要因としてよく指摘されるが、実際のヒアリングで実感されているのか」との質問に対して、委員側からは「ヒアリングの中で具体的な状況を確認しながら、確信を得て書くようにしている」「委員会としては、原因や背景を掘り下げることによって、当該局だけでなく、他の放送局にも参考になる意見書にしたいと考えている」などの説明があった。
このほか、ネット上の画像などのニュースでの取り扱い方や、公表されたばかりの参院選関連2番組への意見書(委員会決定第17号)に関する質問などが、報道現場での日々の悩みとともに語られた。これに対して両委員からは、過去の具体的な事案の紹介だけでなく、法律家やジャーナリストとしての個人的な見解を交えた意見やアドバイスも披露された。
3時間にわたる意見交換を終えた参加者の間からは、「同じ系列局ということで、気兼ねなく本音に近い意見交換ができたと思う」という声が数多く聞かれた。

今回の参加者の感想の一部を以下に紹介したい。

  • 意見交換会では、BPOの意義や考え方、また番組へのご意見を聞かせていただけて、大変貴重な機会となりました。放送する側の私達がしっかりした考えや判断を持ち、それを制作の現場まで浸透させなければいけないという原点をあらためて確認いたしました。放送倫理を守りながら、かつ取材、報道、表現の自由を守るという重たい課題に、日々頭を悩ませていこうと思います。

  • 視聴者からの意見が、以前に増して直接届くようになり、批判を受けやすくなったテレビ報道の現場は、深く考えることなく安全な道を選びがちです。私たち自身が、視聴者のテレビを見る目をしっかり受け止めた上で、地に足をつけた対応が求められているのでしょう。テレビニュースの画面がモザイクだらけにならないよう、議論を深めていくことが大事だなと深く感じた意見交換会でした。

  • 委員2人のスピーチを興味深く聞かせていただきました。
    就任されて日が浅い斎藤委員は、番組づくりの現場に触れた率直な感想を述べられていました。「言論の自由を守ることは口で言うほど簡単ではない」という言葉が印象に残りました。
    発足当初から委員を務められている小町谷代行は、3期目は「デジャヴ」のような事件が相次いだと話されていました。これはBPOがまとめた意見を業界全体として教訓にできていないという意味で、重い指摘だと思います。

  • BPO委員のおふたりが我々テレビ局側の質問に対し、とても率直に、忌憚無くお答えいただいたのが印象的でした。我々からの質問には「こうした事案ではBPOの判断の基準はどうなのか」といった、BPOがルールを決めているかのような類のものも、いくつかありましたが、「それは放送局の責任で決めるしかない」と、ある意味当たり前の答えをいただいたのは、とても「目からうろこ」でした。この意見交換会を通じて、率直にテレビ局への愛ある叱咤激励、エールをいただき、非常に委員を身近に感じられ、BPOを頼もしくさえ思えました。

以上

5周年を迎えて 川端和治委員長インタビュー(2012年4月12日収録)

5周年を迎えて
川端和治委員長インタビュー(2012年4月12日収録)

放送倫理検証委員会は2007年5月に発足し、以来放送事業者に対する数々の委員会決定を公表してきました。5年間の区切りとして、発足当時から委員会をまとめてきた川端委員長に、重松清委員(2010年から委員、2013年退任)がインタビューを行いました。

シンポジウム報告 2008年5月

シンポジウム報告

放送倫理検証委員会発足1年を機に、東京大学大学院情報学環との共催により、2008年5月、シンポジウムが開催されました。

2008年5月

「事件報道と開かれた司法~裁判員制度実施を控えて~」

光市事件の裁判報道や香川県坂出市の祖母・孫殺害事件をめぐる報道、さらに、これらの報道のあり方と裁判員制度を議論する中で企画された。

PDFはこちらpdf

以上

第81回 放送倫理検証委員会

第81回–2014年4月

「全聾で被爆2世の作曲家」と称していた佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題を討議。次回も討議を継続。

第81回放送倫理検証委員会は4月11日に開催された。
冒頭、BPO規約25条に従い、川端委員長が、任期を終えて退任した水島委員長代行の後任に是枝委員を指名した。
4月1日に通知・公表を行ったフジテレビの『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
委員会が1月に通知・公表した「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」に対して、当該2局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾で被爆2世の作曲家"と称していた佐村河内守氏の作品が、別人のものだったことが発覚した問題について、NHKおよび在京民放キー局から新たに提出された6本の番組を視聴したうえで討議を継続した。その結果、この6本の番組の取材・制作過程についても当該局に詳しい報告を求め、次回委員会でさらに討議することになった。

議事の詳細

日時
2014年4月11日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、斎藤委員、渋谷委員、
藤田委員(新任)、升味委員、森委員

1.フジテレビの『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見を通知・公表

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(2013年10月20日放送)に出演していたラジコンカーの操作者が、「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発したことから問題が発覚し、当該局はその事実を認めて、番組を打ち切った事案。同じように不適切な演出上の問題があったと当該局が認めた2011年10月16日と2012年10月21日放送の『ほこ×たて スペシャル』とともに審議が続けられていた。
4月1日、委員会は当該局に対して、委員会決定第20号の意見を通知し、続いて公表の記者会見を行った。当日夜のテレビニュースなどを視聴したあと、委員長や担当委員から記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。

2.「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」への対応報告書を了承

1月8日に委員会が通知・公表した「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」(委員会決定第17号)に対する対応報告書が、関西テレビとテレビ熊本から4月初旬までに委員会に提出された。
関西テレビの報告書では、再発防止に向けて「選挙報道の原則の周知徹底」や「チェック体制の見直し」などの取り組みを継続すること、意見書の趣旨を周知するために放送倫理セミナーなどを開催したことなどが報告された。
またテレビ熊本の報告書では、「全社的な意識改革」や「チェック体制の強化」のための具体的な対策をさらに推進していくこと、BPO研修会を開催して意見書の趣旨の周知徹底に努めていること、今年4月から放送部の分離移管という組織改正を実施したことなどが報告された。
委員会は、両局の対応報告書を了承し、公表することにした。

3.「全聾で被爆2世の作曲家」と称していた佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題の放送責任などについて討議

全聾で被爆2世の作曲家と称していた佐村河内守氏の作品が、別人のものだったことが発覚したことから、同氏をドキュメンタリーなどで紹介した番組の放送責任などについて、討議を継続した。
NHKおよび在京民放キー局からは、これまでに、佐村河内氏を扱った7本の番組の映像が提供され、このうちの1本については放送に至る経緯をまとめた報告書も提出されている。
各委員は事前に、これらの番組と、NHKが3月16日に自局の情報番組内で放送したこの問題に関する調査報告(約7分半)を視聴したうえで討議に臨み、委員会として、どんなことを、どんな形で言うことができるのか、あるいはできないのかについて意見を交換した。
その結果、長期間全聾の作曲家を演じ続け、虚偽の自伝まで出版していた事案なので、裏付け取材を適正に行えば嘘を見抜けたとして放送倫理違反を指摘するのは適切でないかもしれないが、一連の放送が佐村河内氏の創り上げた「物語」を相互に補強し増幅させてしまったため、それを信じて放送に協力した人々の心に傷を残す結果になったことについて、委員会として何らかの形で考えを示すべきである、という点で意見が一致した。
そこで、残る6本の番組についても、取材から放送に至る過程を中心に、各局に詳しい報告書の提出を求め、次回の委員会でさらに討議を続けることになった。

[委員の主な意見]

  • 放送局が異なっているにもかかわらず、演出や編集内容は非常に似通っているものが多かった。なぜ、ここまで似たような内容のものになったのだろうか。各局の独自取材は、どこまで行われたのだろうか。

  • 結果として番組が、巨大な音楽・出版ビジネスの構造に組み込まれ、加担した感は否めない。言い換えれば、放送が佐村河内氏の創り上げた「物語」を増幅させてしまったと言えるのではないか。

  • 美談に利用された子どもたちのことについて、これまでに提出された各局の報告の中にはほとんど言及がないが、どのように考えているのだろうか。きちんとした反省が必要ではないだろうか。

  • 委員会に付与された権限の範囲内での調査では、詳細な真実を明らかにするには限界があるのではないか。別の視点で何が言えるのかを議論するためにも、残る6本の番組の取材から放送に至る過程の報告書を求めたい。

以上

2014年4月1日

フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、4月1日午後2時30分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、水島久光委員長代行、香山リカ委員、森まゆみ委員の4人が出席し、当該局のフジテレビからは常務取締役編成制作局長ら4人が出席した。
まず川端委員長が「高く評価されていた番組だけに残念だった。編集で張り合わせて『ない対決を、ある』ことにしなければ、すぐれた番組として生き残れたのではないか」と述べたあと、「問題の直接のきっかけはひとりのディレクターの誤った判断だったかもしれないが、それを許した体制があったことを深く心にとどめてほしい」と指摘した。
これに対してフジテレビからは「意見書に書かれたことを深く受け止める。この番組の視聴者との約束は『真剣勝負』であったので、それを破ったのだから番組の打ち切りを決断した。今後は、社長直轄の再発防止委員会の場で、あらゆるジャンルの番組について視聴者との約束をチェックしていく」と述べた。
このあと、午後3時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社50人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介した。重大な放送倫理違反とした委員会の判断について、川端委員長は「ない対決を、ある」としたことや制作体制の組織的な問題などを指摘したうえで、「制作スタッフの間や、制作スタッフと出演者の間に、番組の基本コンセプトの合意がなかったと思われるのが問題だ」と述べた。
水島委員長代行は「出演者や視聴者との微妙なバランスが崩れて、番組への信頼が一気に失われてしまったことを、制作スタッフの皆さんは理解してほしい」と述べた。香山委員は「視聴者が事実を知った時のショックを原点として、この事案を考えた。裏切られた、楽しみにしていたのに、という視聴者の思いを、この意見書につなげた」と述べた。また、森委員は「家族が好きで見ていた番組だった。編集技術によっていまや何でもできてしまうようだが、制作者は誘惑に負けず、愚直に番組を作り続けてほしい」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:なかった対決を編集で作ったこの放送は、「審議」ではなく「審理」事案とするのがふさわしいのではないか?
    A:「審理」は、虚偽の疑いのある放送によって視聴者に著しく誤解を与えたことが前提となるが、バラエティー番組は虚構を承知のうえで楽しむものであり、報道番組のように事実と違うから直ちに虚偽放送と言うことは適当ではない。ラジコン側とスナイパー側の対決であるという全体の構造は崩れていない。(川端委員長)
    Q:審議の対象となった「スナイパー」「鷹」「猿」以外にも、フジテレビは問題のある演出があったと、明らかにしていたはずだが?
    A:フジテレビが報告してきた他の放送回もチェックしたが、委員会として見逃すことができないような大きな問題があるとは思われなかった。(川端委員長)
    Q:そもそもこのディレクターの動機は何だったと、委員会は考えているのか?
    A:出演者を大事にする気持ちから、全員を出演させたいとディレクターが考えていたことと、すでにボート部分の収録を終えて、すべてを撮り直す日程的な余裕がなかったことではないかと思う。(水島委員長代行)
    ボートが3連勝しラジコン側が勝利した、という当初の結末を変えてはならないとディレクターが判断していたこともあると思う。(香山委員)

第20号

フジテレビ『ほこ×たて』「ラジコンカー対決」 に関する意見

2014年4月1日 放送局:フジテレビ

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(2013年10月20日放送)で、出演者のラジコンカー操縦者が放送後、「対決内容が編集で偽造された」と指摘し、社内調査の結果、視聴者の期待と信頼を裏切ったとして、番組が打ち切られた事案。
委員会は、「ない対決を、ある」としたことや制作体制の組織的な問題などを指摘して、「番組の制作過程が適正であったとは言い難く、重大な放送倫理違反があった」とする意見を公表した。
また、出演者が演出上の問題点を指摘し、委員会があわせて審議の対象とした2011年と2012年の2回の放送については、当事者間で議論をつくし、できればその結果を公表してもらいたいと要望した。

2014年4月1日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、4月1日午後2時30分から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。
また、午後3時30分から同ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。会見には25社50人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
詳細はこちら。

2014年7月11日【委員会決定を受けてのフジテレビの対応】

標記事案の委員会決定(2014年4月1日)を受けて、当該のフジテレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
7月11日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

フジテレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定直後の放送対応に関して
  • 2.番組審議会への報告に関して
  • 3.再発防止に向けた取り組みについて
  • 4.「鷹対決」「猿対決」に関する議論について
  • 5.まとめ



第80回 放送倫理検証委員会

第80回–2014年3月

対決内容が編集で偽造されたフジテレビの『ほこ×たて2時間スペシャル』について審議、4月1日に委員会決定の通知・公表へ

「全聾で被爆2世の作曲家」とされている佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題ついて討議。放送実績のある在京局5局に、新たな映像提供を求め、次回も討議を継続

第80回放送倫理検証委員会は3月14日に開催された。
3月5日に通知・公表を行った日本テレビの『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
「対決内容が編集で偽造された」と出演者が告発し、番組が打ち切られた、フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて』(2013年10月20日放送ほか2本)について、前回委員会での議論を反映させた意見書修正案が担当委員から提出された。意見交換の結果、委員会としての意見の集約がほぼ図られたとして、4月1日の通知と公表を目指すことになった。
"全聾で被爆2世の作曲家"とされている佐村河内守氏の作品が、別人のものだったことが発覚した問題について、NHKおよび在京民放キー局から提出された佐村河内氏を扱った番組のデータと、2013年3月に放送されたNHKスペシャルを視聴した意見をもとに討議を継続した。その結果、さらに6本の番組について当該局に映像の提供を求め、それを視聴したうえで次回に討議することになった。

議事の詳細

日時
2014年3月14日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題

出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員

1.日本テレビの『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見を通知・公表

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演したネット詐欺専門の弁護士から紹介された当時の所属法律事務所の職員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったのではないかと審議した事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
3月5日、当該局に対して、委員会決定第19号の意見を通知し、続いて公表の記者会見を行った。当日夜のテレビニュースや翌日の当該番組の報道などを視聴したあと、委員長や担当委員から記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。

2.対決内容が編集で偽造されたフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』についての審議

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(10月20日放送)に出演していたラジコンカーの操作者が、「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発したことから問題が発覚し、当該局はその事実を認めて、番組を打ち切った事案。
同じように不適切な演出問題があったと当該局が認めた2011年10月16日と2012年10月21日放送の『ほこ×たて スペシャル』についても審議の対象とすることになり、前回の委員会では、関係者に対するヒアリングなどをもとにした意見書の原案が議論された。
今回の審議では、前回の議論を踏まえた意見書の修正案が担当委員から示され、委員会の判断として、何をどのように指摘するのかなどをめぐって踏み込んだ議論が交わされた。その結果、意見の集約がほぼ図られたとして、4月1日に当該局への通知と公表の記者会見を行うことになった。

3.「全聾で被爆2世の作曲家」とされている佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題の放送責任などについて討議

全聾で被爆2世の作曲家とされている佐村河内守氏の作品が、別人のものだったことが発覚したことから、同氏をドキュメンタリーなどで紹介した番組の放送責任などについて、討議を継続した。
NHKおよび在京民放キー局からは、佐村河内氏を扱った23本の番組のデータが提出され、NHKからは、NHKスペシャル『魂の旋律~音を失った作曲家』(2013年3月31日放送)の映像と、放送に至る経緯をまとめた報告書が、あわせて提出された。
NHKスペシャルについての議論の過程で、さらにいくつかの番組についても内容を見たうえで議論を進めるべきだということで意見が一致したので、放送実績のないテレビ東京を除く在京各局に対して、佐村河内氏を扱った6本の番組の映像提供を新たに求めることになった。
その内訳は、TBSテレビが2本、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビが1本ずつで、委員会は次回も討議を続ける。

以上

2014年3月5日

日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に
関する意見の通知・公表

委員会決定第19号の通知は、3月5日午後1時から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、小町谷育子委員長代行の2人が出席し、日本テレビからは取締役専務執行役員ら3人が出席した。
まず川端委員長が「『放送倫理違反があるとまでは言えない』という結論になったが、問題がなかったと言っているわけではないことに注目してほしい」と指摘したうえで、「実質的にまったく裏取りをしないで放送してしまったという点では、放送倫理違反を認めるのが適当ではないかという意見もあった。インターネット詐欺を専門とする弁護士が紹介・同席しての取材であり、取材者に客観的な証拠の確認まで厳密に求めるのは無理があるのでは、ということでこのような結論になったが、もう少しきちんと調べてほしかったという思いはある」と述べた。
小町谷委員長代行は「今回の決定を刑事裁判に例えるなら、結果だけ見ると無罪判決のようだが、無罪にもいろいろあり今回の事案は相当グレーの色が濃いものだと思う。1回だけでなく2回も真実でない放送がされたことにも、ぜひ留意していただきたい」と述べた。
これに対して日本テレビ側は「意見書のご指摘を真摯に受け止める。この意見書を持ち帰り、今後の番組作りに最大限の努力をしていきたい」と述べた。

この後、午後1時45分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定文を公表した。会見には17社37人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
初めに川端委員長が、『スッキリ!!』の2回の放送について「放送倫理違反とまでは言えない」と結論付けた意見の概要を紹介した。今回の事案は、インターネット詐欺被害を専門に扱っている弁護士が「被害者」を紹介し、しかも取材に立ち会っていたことをどう見るかについて審議を重ねてきたと説明したうえで、「被害者と、彼らが語る被害内容の真実性について、弁護士の保証があると見ることができ、それを信じたのも相応の合理的な理由があると考えた。また、インターネット詐欺という新しい問題に取り組んだ意欲を評価し、それを委縮させてはいけないことも考慮した」と述べた。
続いて小町谷代行が「裏付け取材が問題になった事案は今回が6件目なのだが、そのうち4件が日本テレビのものだった。日本テレビがこうした類似事案を再発させないよう取り組んでいくのを、今後も見守りたい」と述べた。
記者との質疑応答のうち、主なものは以下のとおりである。

Q:放送倫理違反とまでは言えないという判断が下されたのは、今回が初めてか?
A:これまでも第1号事案と第9号事案では、部分的に「放送倫理違反は認められない」としているが、審議の対象とした番組全体について放送倫理違反を認めなかったのは、今回が初めてのケースとなる。(小町谷代行)
Q:「放送倫理違反とまでは言えない」という意見にしては、結論の部分の記述が厳しいように感じるのだが?
A:現実に委員会の中では、放送倫理違反を指摘する意見と放送倫理違反とまでは言えないという2つの意見があり、客観的な裏付け取材をほとんど実質的にしていなかったことも指摘することになった。結論は「放送倫理違反とまでは言えない」だが、バンキシャなどの苦い経験がありながら、日本テレビではその教訓が生かされていると言えないので、厳しめの意見も入っている。(川端委員長)
Q:この弁護士が、ニセの被害者を紹介した理由をどう考えるのか?
A:われわれのヒアリングの対象は放送関係者が原則で、この事案で弁護士本人の聴き取りをしなければならない特別の理由もないので、動機について聞いていない。インターネット詐欺の被害回復はきわめて新しい分野で、たくさんの被害者が相談に来るのが前提条件になる。この弁護士はおそらく、テレビで専門家として紹介されることに大きな魅力を感じ、協力しようということになったのではないか。(川端委員長)

第19号

日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に
関する意見

2014年3月5日 放送局:日本テレビ

日本テレビは、朝の情報番組『スッキリ!!』で2012年2月29日と6月1日の2回、インターネット詐欺の特集を放送したが、ネット詐欺専門の弁護士から被害者として紹介され出演した男女2人が、実は被害者ではなく弁護士の当時の所属事務所の職員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして審議入りした事案。
委員会は、日本テレビが十分な裏付け取材を行わず「ニセ被害者」の証言を放送し視聴者の信頼を損なったと指摘したが、一方、放送時点において「ニセ被害者」が実際の被害者であると信じるに足る相応の理由や根拠は存在したとして、「放送倫理違反とまでは言えない」と判断した。そのうえで、今回の事例を踏まえ放送界全体で共有してほしい事柄として、「専門家」に対する過度の依存を考えなおしてほしい、など3点の問題提起を行った。

2014年3月5日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、3月5日午後1時から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。
また、午後1時45分から同ホールで記者会見を開き、決定文を公表した。会見には17社37人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
詳細はこちら。

2014年6月13日【委員会決定を受けての日本テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2014年3月5日)を受けて、当該の日本テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
6月13日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

日本テレビの対応

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目 次

  • 1.委員会決定の報道
  • 2.委員会決定の周知
  • 3.番組審議会への報告
  • 4.委員会決定前の取り組み
  • 5.委員会決定後の取り組み
  • 6.終わりに

第79回 放送倫理検証委員会

第79回–2014年2月

鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」に関する意見の
通知・公表

弁護士から詐欺事件の被害者として紹介された人物が実は被害者ではなかった、日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

「対決内容が編集で偽造された」ことが判明したフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』についての審議

第79回放送倫理検証委員会は2月14日に開催された。
2月10日に意見を通知・公表した鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」事案について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、意見交換を行った。
ネット詐欺の被害者として放送された人物が、実はネット詐欺専門の弁護士から紹介された、当時の所属事務所の事務員だったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』について、担当委員から最終的な「意見書案」が提出された。意見交換の結果、全員の一致が得られたため、3月上旬に当該局への通知と公表の記者会見を行うことになった。
「対決内容が編集で偽造された」と出演者が告発し、番組が打ち切られたフジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(2013年10月20日放送など3本)について、関係者へのヒアリングを踏まえた意見書の原案が、担当委員から提出された。
毎日放送の情報番組『せやねん!』で紹介したダイヤモンド詐欺が、2日前に讀賣テレビの報道番組で放送された特集の内容の一部を、無断で引用したものと判明した。他社の取材成果を無断で使うのは問題だが、映像や音声をそのまま使用したわけではないこと、当該局がすみやかに謝罪・お詫び放送を行い、相手局側も謝罪を受け入れていることなどから、審議の対象としないことになった。
“全聾で被爆2世の作曲家”とされている佐村河内守氏の作品が、別人の作品だったことが発覚した問題について意見を交換した。その結果、まず各局でどんな番組が放送されていたかを把握するため、NHKおよび在京民放キー局に佐村河内氏を扱った番組のデータを求めるとともに、NHKに対しては、去年3月に放送されたNHKスペシャルの映像提供と放送に至る経緯の報告を要請することになった。

1.鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」に関する意見を通知・公表

鹿児島テレビは、夕方の情報番組『ゆうテレ』(2013年6月19日、8月7日放送)と週末の番組『チャンネル8』(同6月29日放送)で、高校総体に出場した鹿児島市内の高校の男子新体操部の活躍ぶりを、選手を激励する監督の声を交えて放送したが、監督の声は他局の取材音声を無断で受信・録音したものだったという事案。
2月10日、当該局に対して、委員会決定第18号の意見を通知し、続いて公表の記者会見を行った。当日夜のテレビニュースの報道などを視聴したあと、委員長や担当委員から記者会見での質疑などが報告され、意見交換が行われた。

2.弁護士から詐欺事件の被害者として紹介された人物が、実は被害者ではなかった日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演したネット詐欺専門の弁護士から紹介された当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして審議入りした事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
担当委員から、最終的な「意見書案」が提出され、さらなる意見交換を行った。その結果、放送倫理違反とまでは言えないという判断を意見として公表することで、全員の一致が得られ、表現の細部の修正は委員長に一任された。当該局への通知と公表の記者会見は、3月5日に行われる予定。

3.「対決内容が編集で偽造された」ことが明らかになったフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』についての審議

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(10月20日放送)に出演していたラジコンカーの操作者が、「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発したことから問題が発覚、当該局は社内調査の結果ほぼ指摘どおりであるとして、番組を打ち切った事案。
上記番組のほか、同じような問題があったと当該局が認めた2011年10月16日と2012年10月21日放送の『ほこ×たて スペシャル』についても審議の対象とすることになり、1月中旬には関係者に対するヒアリングが行われた。
委員会では、ヒアリングを踏まえて、担当委員から意見書の原案が示され、取材・制作の過程で何が起きたのか、その背景にはどんな課題や問題点が潜んでいたのかなどについて、説明も行われた。意見交換の結果、ほぼ論点は整理できたとして、担当委員が委員会の審議をふまえて意見書の修正案を作成し、次回委員会での意見の集約を目指すことになった。

4.他局番組の内容の一部を無断で引用していた毎日放送の『せやねん!』についての討議

毎日放送の情報番組『せやねん!』(2013年12月7日放送)は、「今週の気になるお金」のコーナーで最近被害が急増している特殊な詐欺について特集した。その中で取り上げたダイヤモンド詐欺は、2日前に讀賣テレビの報道番組『かんさい情報ねっとten.』で放送された特集「モクゲキ~ダイヤモンド劇場型詐欺」の詐欺手口や被害金額などの情報を、無断で引用していたことが判明した。
担当した構成作家やチーフ・ディレクターは、讀賣テレビの特集がすでに多くのメディアで報道された「周知のもの」と思い込み、またチェック役のチーフ・プロデューサーらも、その情報源を確認していなかった。
鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」事案との比較検討を含めて、意見が交わされたが、他局が取材した映像や音声をそのまま放送したわけではないこと、当該局は速やかに相手局とその取材協力者に謝罪してお詫び放送を行い、その了解を得ていること、さらにチェック体制の見直しや研修会の開催などの再発防止策を講じていることなどから、委員会は、この事案は審議の対象としないと決めた。

[委員の主な意見]

  • 相当に具体的で詳細な情報であるのに、これが広く知られている周知の事実だと思い込んで、問題意識もなくそのまま使ったという弁明は、成り立たないのではないか。

  • 他局の取材成果を無断で使ったという点では、鹿児島テレビの事案に似ているが、映像や音声そのものを使用したわけではないことや、電波法違反という公法違反ではないので、無断で使われた局が謝罪を受け入れて問題にしないとしていることの法的な意味が違うことは、考慮するべきである。

  • 最近の情報番組では、スタジオ内のボードなどに、どこまで裏付け取材ができているか分からない情報やアイデアが、安易に使われたり引用されたりしているように感じる。この問題の根底や背景には、そのような現実があるのではないか。

  • 審議入りの必要はないと思うが、他局の取材成果を無断で使うケースが相次いで起きたことはホームページやBPO報告に記載して、放送局に警鐘を鳴らすべきだろう。

5.「全聾で被爆2世の作曲家」とされている佐村河内守氏の作品が別人の作品と判明した問題の放送責任などについて討議

全聾で被爆2世の作曲家とされている佐村河内守氏の作品が、別人の作品だったことが発覚した問題について、関連する報道なども参考にしながら佐村河内氏を取り上げた番組の放送責任について議論した。その結果、番組を見ないまま議論をしても具体性に欠けるため、まずNHKおよび在京民放キー局に、佐村河内氏を扱った番組のデータの提出を求めることを決めた。
そのうえで、NHKに対しては、NHKスペシャル『魂の旋律~音を失った作曲家』(2013年3月31日放送)の映像の提供と、放送に至る経緯の報告を要請することになった。

以上

2014年2月10日

鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見の
通知・公表

委員会決定第18号の通知は、2月10日午後1時から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、斎藤貴男委員、升味佐江子委員の3人が出席し、鹿児島テレビからは取締役ら2人が出席した。
まず川端委員長が、この問題についてはすでに総務省から、電波法59条違反で行政処分が出されているが、それが即放送倫理違反になると判断したのではないと指摘し、それを含めて取材・制作の過程が適正でなかったことが、放送倫理違反と判断した理由であると次のように説明した。「国民の知る権利にとって非常に重大な事案で他に方法がないときに、電波を傍受してスクープとして使うことはありうると思う。今回の事案はそうではなく、他局の取材成果を自局の放送に使ってはいけないという常識的なことをディレクターが認識しておらず、離れた場所の映像なのになぜクリアな音声がとれたのかという疑問が社内チェックで問題にされることもなかった」。
これに対して鹿児島テレビ側は「なぜこんなことになったのか、なぜ事前に気づかなかったのか、背後にどんな問題点があったのかを、社をあげて考え続けてきた。視聴者に向き合う仕事をしているという誇りを全員が共有して、再生をはかりたい」と述べた。

この後、午後1時45分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には26社50人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介した。このなかで川端委員長は、放送倫理に違反すると判断した理由について「電波法59条に違反していると同時に、適正な取材・放送ではなかった」と説明した。そして、総務省の判断を優先して視聴者への説明が遅れたことについても、問題がなかったわけではないと述べた。
続いて斎藤委員が「同じ高校で新体操をしていた女性リポーターがいるのだから、どうして独自の切り口で番組をつくろうとしなかったのか、もったいないと感じた。放送局は、発表などに頼らない独自取材をもっと大切にしてほしい」と述べた。
また升味委員は「番組は、制作者が面白がってつくり、放送を見て周囲とあれこれ言い合うものであってほしい。1年契約を10年も20年も更新してきた派遣スタッフに制作の現場が委ねられ、そのような体制がモチベーションを低下させ番組への関心の希薄化につながったようにもみえた。このような状況が改善されるよう、鹿児島テレビには"放送人養成プロジェクト"を成功させてほしい」と述べた。
記者との質疑応答では「取材クルーが正社員ではなく派遣スタッフだから、放送倫理に対する認識が不足しているとか、モチベーションがあがらないというような書きぶりになっていると感じられる」との質問に対して、川端委員長が「ダイレクトな因果関係として書いたつもりはない。委員会はこれまでの意見書でも、社員だけしか対象にしていない社内研修を改善することなどを要望してきたが、この事案を契機に鹿児島テレビは、処遇の区別をしない新しい取り組みを始めている。クリエーターとしての誇りを持って、いい番組をつくってほしいと期待している」と答えた。
また、聴き取りをした派遣スタッフらから、待遇への不満や仕事への意欲がわかないという声が聞かれたのかと質問されると、斎藤委員が「ディテールを申し上げるのは差し控えるが、私は、派遣のしくみが十分に機能しておらず、仕事に対する執着が薄らいでいるように感じた」と答えた。升味委員は「取材の際に一歩踏み込んだ取材をしてみよう、いい番組にするためにあれこれ議論しようという気持ちになれないということは、聴き取りから伝わってきた」と答えた。

第18号

鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見

2014年2月10日 放送局:鹿児島テレビ

鹿児島テレビは、夕方のローカル情報番組『ゆうテレ』と週末の昼前の番組『チャンネル8』で、全国高校総体に出場した高校の男子新体操部を2013年6月と8月にあわせて3回紹介した。その際、選手を激励する監督の声を10か所で約2分間放送したが、これはワイヤレスピンマイクを使って、他局の取材音声を無断で受信・録音したものだった。電波法59条は、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受して窃用することを禁じている。
委員会は、取材クルーが認識していなかったとは言え、電波法違反があったことは明白なうえに、「取材・制作の過程を適正に保つようつとめる」と定めた放送倫理基本綱領の規定にも反しているなどとして、放送倫理に違反していると判断した。そのうえで、編集過程で音声の無断使用をチェックすることができなかった制作体制にも問題があったなどと指摘した。

2014年2月10日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2月10日午後1時から千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。
また、午後1時45分から同2階ホールで決定内容を公表した。記者会見には26社50人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
詳細はこちら。

2014年5月9日【委員会決定を受けての鹿児島テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2014年2月10日)を受けて、当該の鹿児島テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
5月9日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

鹿児島テレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定に関する報道
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.番組審議会への報告
  • 4.再発防止に向けた取り組みについて
  • 5.BPO研修会
  • 6.終わりに

第78回 放送倫理検証委員会

第78回–2014年1月

弁護士から詐欺事件の被害者として紹介された人物が実は被害者ではなかった、日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

他局の取材音声を無断で受信して番組に使用していた、鹿児島テレビのローカル番組についての審議 次回委員会までに「意見」を通知・公表へ

「対決内容が編集で偽造された」ことが判明したフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』についての審議

第78回放送倫理検証委員会は1月10日に開催された。
1月8日に委員会の意見を通知・公表した昨年の参議院選挙にかかわる2番組事案について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
ネット詐欺の被害者として放送された人物が、実はネット詐欺専門の弁護士から紹介された、当時の所属事務所の事務員だったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』について、担当委員から提出された意見書再修正案をもとにさらなる意見交換が行われ、次回委員会で意見の集約をめざすことになった。
他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し放送に使用していた鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、一部手直しをした案を作成し、特に異論がなければそれを委員会の意見とすることが了解されたので、次回委員会までに意見を当該局に通知し、公表の記者会見を行うこととなった。
「対決内容が編集で偽造された」と出演者が告発し、番組が打ち切られたフジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(2013年10月20日放送など3本)の審議が始まり、ヒアリングに向けての論点の整理や、3本の対象番組をどう扱うかなどについて、意見交換が行われた。

1.2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見の通知・公表

対象となった2番組は、インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党の比例代表選挙立候補予定者だった太田房江元大阪府知事の選挙準備活動を紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、自民党の比例代表の渡邉美樹候補が著名経済人としてVTR出演していることに気づかず、投票日当日の午前中に放送したテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)。
1月8日、当該の2局に対して、委員会決定第17号の意見書を通知し、続いて公表の記者会見を行った。当該局の当日のテレビニュースの報道を視聴したあと、委員長や担当委員から記者会見での質疑などが報告され、若干の意見交換が行われた。

2.弁護士から詐欺事件の被害者として紹介されたが、実は被害者ではなかったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演したネット詐欺専門の弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったのではないかと審議の対象とした事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
担当委員から、前回までの委員会の議論を取りまとめた「意見書再修正案」が提出され、さらなる意見交換を行った。その結果、事案の取材から放送に至る過程での問題点や、問題発覚後の対応などについて、ほぼ論点が整理されたが、意見書としてまとめるにはなお説明を付加する必要もあるとして、さらに意見書案を修正したうえで、次回委員会で審議することになった。

3.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用していた、鹿児島テレビの2つのローカル番組についての審議

鹿児島テレビは、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』(6月29日放送)で、高校総体に出場した鹿児島市内の高校の男子新体操部の活躍ぶりを、選手を激励する監督の声を交えて放送したが、監督の声は他局の取材音声を無断で受信・録音したものだったという事案。
担当委員から、前回までの委員会の議論を踏まえた「意見書修正案」が提出された。その結果、問題の背景には、音声の窃用が電波法59条に違反することを知らなかった取材ディレクター個人の過失だけでなく、地方の放送局が抱える構造的な課題もあるということで意見がほぼまとまったが、構成等について手直しの要望もあったので、それを踏まえた修正案を作成し、その案に対して特に異論がなければそれを委員会の意見とするということで意見の一致を見た。次回委員会までに、当該局への意見の通知と、公表の記者会見が行われる見通しである。

4.「対決内容が編集で偽造された」ことが明らかになったフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』についての審議

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(10月20日放送)に出演していたラジコンカーの操作者が、「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発したことから問題が発覚、当該局は社内調査の結果ほぼ指摘どおりであるとして、番組を打ち切った事案。
前回の委員会で、上記番組のほか、同じような問題があったと当該局が認めた、2011年10月16日と2012年10月21日放送の『ほこ×たて スペシャル』についても審議の対象とすることになり、当該局から、これら2本の番組についても詳細な報告書が提出された。
委員会では、1月中旬から始まるヒアリングに向けて、担当委員のメモをもとに論点を整理したほか、新たに提出された報告書を踏まえて3本の番組をどのように取り扱うかについても意見交換を行った。

以上

2014年1月8日

2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見の通知・公表
(関西テレビ『スーパーニュースアンカー』およびテレビ熊本『百識王』)

上記委員会決定の通知は、1月8日午後1時から千代田放送会館7階BPO第一会議室で行われた。委員会から川端和冶委員長、水島久光委員長代行、渋谷秀樹委員の3人が出席し、関西テレビからは常務取締役ら3人、テレビ熊本からは報道編成制作局長ら2人が出席した。
まず川端委員長が「委員会として非常に残念だったのは、3年前の決定第9号の事案とほとんど同じ問題点についての事案であったことだ」と述べたうえで、選挙の公平・公正性をゆがめたと認められることから、委員会は2つの番組にそれぞれ放送倫理違反があったと判断したことを通知した。そのうえで「なぜ同じような問題が起こってしまったのかを、皆さんによく考えてもらわないと、選挙のたびにまた繰り返されるのではないかという危機感を委員会はもっている」と指摘し、「選挙の重要性から考えて、テレビ放送がこれをゆがめてはならないという原点を、皆さんにしっかり意識していただいて、今後の制作を進めてほしい」と要望した。
これに対して関西テレビは「今回の事案を深く反省して、意見書も参考にしながら今後の体制を構築していきたい。考え続けることがもっとも重要だという指摘もあるので、委員会の眼差しに応えられるように頑張っていきたい」と述べた。またテレビ熊本は「今回の事案を大変重く受け止めており、この決定を今後の報道・制作に活かしていきたい。この大失態を次に活かすべく全社的に取り組んでいく」と述べた。

この後、午後1時45分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社49人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介した。そのなかで川端委員長は2つの番組をともに放送倫理違反とした委員会の判断について説明したうえで「3年前の委員会決定第9号や昨年4月の委員長コメントを公表しているにもかかわらず、またこのような問題が起きたことがもっとも重要だと委員会は考えた。そこで、今回の意見書では、どうすればいいかという点を2つの提言で示すことにした。他の放送局もこの意見書をよく読んで、参考にしてほしい」と述べた。
続いて渋谷委員が「放送における選挙の公平・公正性は抽象的でわかりにくいので、『こころの秤』という提言を書いた。仮に特定の候補者だけを放送したら、有権者である視聴者の心の中にどのようにゆがみを起こすかを、具体的に想定して考えたらどうだろうかという趣旨だ」と述べた。
また水島委員長代行は「報道局だけでなく、全ての放送にかかわる人たちに、これを機会にもう一度、選挙と放送の関係をしっかり考えてほしいと願って、秤やサッカーの比喩も取り入れて意見書を書いた」と述べ、今回のことがあったからといって、選挙に関する番組制作を避けようとするのではなく、むしろ視聴者に選挙に関する多様で豊富な情報を、いかに提供できるかを考えていってほしいとコメントした。
記者との質疑応答では「BPOとして、再発防止のために、次の国政選挙の前にあらためて注意喚起するような考えはあるか」との質問に対して、川端委員長は「放送倫理検証委員会は、放送された番組のなかの具体的な問題に対して、意見を申し上げるところであり、次回の選挙の前に注意を促す通知を出すような立場にはない。ただ、具体的な事例があればそれを契機に、談話やコメントを出すことはありうるだろう」と答えた。さらに、選挙に関する番組を制作する際には、選挙の公平・公正性を害しないかどうかをよく議論してほしいし、その材料として意見書を是非活用してほしいと述べた。また、関西テレビの同じ番組が、連続して審議の対象になったことについても質問があり、水島委員長代行は「たしかに同じ番組ではあるが、問題の原因は全く別のところにあった。関西テレビに構造的な問題があるとは感じていない」と答えた。

第17号

2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見

2014年1月8日 放送局:関西テレビ、テレビ熊本

審議の対象となっていたのは、インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党の比例代表選挙立候補予定者だった太田房江元大阪府知事の選挙準備活動だけを紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補が著名経済人としてVTR出演している企画を、参議院選挙投票当日の午前中に放送したテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2つの番組です。
放送と選挙の関係について、委員会は3年前の意見(委員会決定第9号)や、昨年4月の「委員長コメント」でも注意喚起を呼びかけてきました。それにもかかわらず、選挙にかかわる同様な問題が再び生じたことを、委員会は重く受け止めて、審議を行ってきました。
今回の意見で、委員会は、この2つの番組について、選挙の公平・公正性を損なう放送倫理違反があったと判断しました。その上で、選挙に関する放送倫理違反の問題の再発を防ぐために、放送業界全体において共有してほしい事柄として、「こころの秤(はかり)をイメージしよう」「組織や陣形を整えよう」などの提言を盛り込んでいます。

2014年1月8日 決定の通知と公表の記者会見

通知は午後1時から千代田放送会館7階BPO第一会議室で行われた。
また、午後1時45分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社49人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
詳細はこちら。

2014年4月11日
【委員会決定を受けての関西テレビとテレビ熊本の対応】

標記事案の委員会決定(2014年1月8日)を受けて、当該の関西テレビとテレビ熊本は、それぞれの対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
4月11日に開催された委員会において、両局の報告書の内容が検討され、了承された。

関西テレビの対応

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目 次

  • 1.委員会決定の報道
  • 2.委員会決定内容の周知徹底
  • 3.オンブズ・カンテレ委員会と番組審議会への報告
  • 4.再発防止に向けた取り組み
  • 5.おわりに

テレビ熊本の対応

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目 次

  • ◇委員会決定後の対応
  • ◇選挙の公平・公正性に関するBPO研修会の開催
  • ◇具体的対策の実践強化
  • ◇今後の会社全体の取り組みについて
  • ◇弊社の意識改革として

第77回 放送倫理検証委員会

第77回–2013年12月

「対決内容が編集で偽造された」と出演者が告発
フジテレビ「ほこ×たて 2時間スペシャル」(2013年10月20日放送)の審議入りを決定

参院選関連の2番組、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本『百識王』
2014年1月上旬にも「委員会決定」を通知・公表へ

第77回放送倫理検証委員会は12月13日に開催された。
今夏の参議院議員選挙をめぐって、選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議対象となっている、関西テレビのニュース番組とテレビ熊本の情報バラエティー番組について、担当委員から前回の委員会での議論を踏まえた意見書修正案が提出された。意見交換が行われた結果、表現の細部の修正などを委員長に一任して、2014年1月上旬にも当該局に委員会決定を通知し、公表することになった。
ネット詐欺の被害者として放送した人物が、実はネット詐欺専門の弁護士から紹介された、当時の所属事務所の事務員だったことが問題になった日本テレビの情報番組『スッキリ!!』についても、担当委員から意見書修正案が提出された。委員会では、取材から放送に至る過程をどう判断すべきかなどについて、さらに意見交換が行われ、担当委員が次回委員会に再修正案を提出することになった。
他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し放送に使用していた鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』について、担当委員から意見書の原案が提出された。意見交換の結果、議論の成果を加味した修正案を次回委員会に提出して、意見の集約をめざすことになった。
「対決内容が編集で偽造された」と出演者が告発し、番組が打ち切られたフジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(2013年10月20日放送)について、前回に続いて討議を行った。委員会が求めた詳細な報告書が当該局から提出され、意見交換の結果、真剣勝負を標榜した番組を信じた視聴者の信頼を裏切ったとして審議入りが決定した。審議対象には、同様な問題があったと当該局が認めている他の2回の放送分も含まれる。

1.参院選関連の2つの番組、関西テレビの『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本の『百識王』についての審議

一括して審議の対象となっているのは、インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党の比例代表選挙立候補予定者だった太田房江元大阪府知事の選挙準備活動を紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補が著名経済人としてVTR出演している企画を、参議院選挙投票当日の午前中に放送したテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2つの番組。
前回までの委員会の議論などを踏まえた「意見書修正案」が担当委員から提出され、同様な問題が今後さらに繰り返されないための委員会の提言部分などについて意見交換が行われた。
その結果、表現の細部の修正は委員長に一任して、委員会の意見とすることが了承され、2014年1月上旬にも、当該局への通知と公表の記者会見が行われることとなった。

2.弁護士から詐欺事件の被害者として紹介されたが、実は被害者ではなかったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演したネット詐欺専門の弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして審議入りした事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
担当委員から、当該局の関係者に実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を整理した「意見書修正案」が提出された。
委員会では、これまで裏付け取材が不十分だとされた事案との比較で、専門家である弁護士の紹介を信じたことなど、事案の取材から放送に至る過程に過失があると断定することの是非や問題発覚後の対応などをどう判断するかなどについて、さらに質疑や意見交換が行われた。
その結果、今回の議論を踏まえた再修正案を担当委員が作成し、次回委員会に提出することになった。

3.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用したことが問題になった鹿児島テレビの2つのローカル番組についての審議

鹿児島テレビは、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』で、高校総体に出場した鹿児島市内の高校の男子新体操部の活躍ぶりを紹介した。その際、選手を激励する監督の声をあわせて10か所で約2分間放送したが、これは他局の取材音声を無断で受信・録音したものだったことが判明した事案。
担当委員から、取材ディレクターやカメラマン、音声マンなどに実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を踏まえた「意見書原案」が提出された。
委員会では、音声の窃用が電波法59条に違反することを取材ディレクターが知らなかった事情や、問題が起きた背景に地方の放送局ならではの課題があるのではないかという点などをめぐって、意見が交わされた。
その結果、議論の成果を加味した修正案を担当委員が次回委員会に提出して、意見の集約をめざすことになった。

4.対決内容が編集で偽造された」ことが明らかになったフジテレビの『ほこ×たて 2時間スペシャル』について討議し、審議入りを決定

フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて 2時間スペシャル』(10月20日放送)に出演していたラジコンカーの操作者が、「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発したことから問題が発覚、当該局は社内調査の結果ほぼ指摘どおりであるとして、番組を打ち切った事案。
前回の委員会では当該局が提出した報告書をもとに議論が行われたが、さまざまな意見が出され、継続討議になっていた。委員会が出した質問書に対し、当該局は改めて詳細な報告書を提出、これをもとに意見交換が続けられた。
その結果、真剣勝負を標榜した番組である以上、それを信じて番組を見ていた視聴者の信頼を裏切ったと言わざるを得ないとして、審議入りすることを決めた。
委員会は上記番組のほか、同じような問題があったことを当該局が認めている、2011年10月16日と2012年10月21日放送の『ほこ×たて 2時間スペシャル』についても審議の対象とする。

【委員の主な意見】

  • ていねいな番組作りをしないとバラエティーとしての妙味や面白さは出ないはずなのに、最後は編集でなんとかしようという安易な考えになっているのは問題ではないか。
  • 斬新で面白い番組として評価されていたものを、ひとつのコーナーがぶち壊したとすれば残念だ。
  • 無茶な番組を作らざるを得なくなった時の判断ミスが、結果として番組の信頼を失い、番組打ち切りという最悪の結果になってしまった。
  • バラエティーは演出があって当然良いが、今回は「不当表示」だと思う。
  • 真剣勝負が売り物で、視聴者のほとんどはそれを前提に見ているのに、そうではなかったというのはやはり演出の枠を越えており、信頼を裏切ったと言わざるを得ないだろう。

以上

2013年12月13日

「"真剣勝負" 対決内容を編集で偽造」審議入り決定

フジテレビ『ほこ×たて 2時間スペシャル』

放送倫理検証委員会は12月13日の第77回委員会で、フジテレビ『ほこ×たて 2時間スペシャル』〈2013年10月20日放送〉の審議入りを決めた。

「どんな物でも捕えるスナイパーVS絶対捕えられないラジコン」のコーナーについて、出演者から、収録の順番や、対戦の運営に不適切な演出があったとの指摘があり、局の社内調査でも「(指摘は)大筋において事実であり、不適切な演出があった」ことが確認された。局は「真剣勝負を標榜している番組の継続は不可能と判断」、「ほこ×たて」のレギュラー放送の打ち切りを決定した。
審議入りの理由について、川端委員長は「視聴者も真剣勝負を前提に番組を見ていたはずで、その信頼を崩すようなことをしていたのは問題である。」と語っている。審議の対象には、上記番組のほか、2011年10月16日放送と、2012年10月21日放送の『ほこ×たて 2時間スペシャル』も含まれている。
委員会は、今後、番組関係者などからヒアリングを行い、審議する。

第76回 放送倫理検証委員会

第76回–2013年11月

「対決内容を編集で偽造」フジテレビ『ほこ×たて2時間スペシャル』について討議

参院選関連の2番組、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本『百識王』、「意見書原案」を基に審議

「弁護士紹介の被害者は"関係者"」日本テレビ『スッキリ!!』、「意見書原案」を基に審議

「他局の取材音声を、無断受信して使用」鹿児島テレビ2つのローカル番組、局のヒアリングを基に審議

第76回放送倫理検証委員会は11月8日に開催された。
委員会が今年8月に出した関西テレビ『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
今夏の参議院選挙をめぐって、選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議対象となっている、関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(ネット選挙解禁に関する特集企画で、特定の比例代表立候補者だけを紹介)とテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(投票日当日の放送に、比例代表候補者がVTR出演)の2つの番組について、担当委員から意見書の原案が提出された。意見交換の結果、次回委員会までに担当委員が修正案を作成して、意見の集約をめざすこととなった。
ネット詐欺の被害者として放送したが、実は被害者ではなく弁護士から紹介されたその事務所の事務員であったことが問題となった日本テレビの情報番組『スッキリ!!』についても、意見書の原案が提出された。当該局へのヒアリングとこれまでの委員会での議論を踏まえて問題点を整理したもので、弁護士から、担当した事件の被害者と紹介されたことは、本人確認や被害事実の存在についての裏付けとなるのかという点などについて長時間にわたる意見交換が行われた。次回委員会までに、担当委員が修正案を作成する。
他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し放送に使用していた鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』について、担当委員からヒアリングの概要が報告され、意見交換がなされた。
フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて2時間スペシャル』の出演者が、「対決内容が編集によって偽造された」と告発し、当該局側もこの指摘をほぼ認めて番組の打ち切りを決めた事案について、討議を行った。その結果、ロケや編集の過程についてさらに確認したい点や疑問点が出てきたこと、当該局の報告によるとこのスペシャル番組以外にも類似のケースが見つかっていることなどから、委員会は、次回委員会までにより詳しい報告書の提出を求めることにして、討議の継続を決めた。

1.関西テレビ『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見の対応報告書についての審議(了承)

関西テレビは、『スーパーニュースアンカー』の「インタビュー映像偽装」に関する意見(委員会決定第16号)を受けて、社としての再発防止策を報告書にまとめ、10月28日、委員会に提出した。
それによると関西テレビは、▽報道に携わる記者やカメラマンなど個々人のノウハウや経験を高めるため、勉強会や事例研究会を随時開催するほか、報道局の指針や見解をまとめた「報道通信」を作成すること▽世代間のコミュニケーションを活性化させるため、記者やデスクの相談窓口になる報道局専任部長を新たに配置して、取材から放送に至る諸問題の解決にあたることなど、多様な改善策にすでに着手している。
委員会は、当該局が「不適切な映像」と考えていたものが、委員会に「許されない映像」の放送であったと指摘されたことについて十分に反省したうえで、信頼回復のための取り組みが幅広く進められているとして、この報告書を了承することにした。

2.参院選関連の2番組、関西テレビの『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本の『百識王』についての審議

一括して審議の対象となっているのは、インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党の比例代表選挙立候補予定者だった太田房江元大阪府知事の選挙準備活動を紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補が著名経済人としてVTR出演している番組を、参議院選挙投票当日の午前中に放送したテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2番組である。
担当委員から、2つの放送局の関係者に実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を踏まえた「意見書原案」が提出された。
委員会が、3年前から選挙をめぐる放送の公平・公正性について、意見書や委員長コメントを出して警鐘を鳴らしてきたにもかかわらず、同様な問題が再び起きたことを重視して、原案では、2つの番組の問題点などを指摘するとともに、今後こうしたことがさらに繰り返されないための提言などが盛り込まれた。委員による質疑や活発な意見交換の結果、担当委員が意見書の修正案を作成し、次回委員会でさらに議論を重ねて、意見の集約をめざすことになった。

3.弁護士から詐欺事件の被害者として紹介されたが、実は被害者ではなかったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして審議入りした事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
当該番組の取材ディレクターやプロデューサー、情報カルチャー局の幹部などあわせて11人を対象に実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を踏まえて、担当委員から「意見書原案」が提出された。
委員会では、原案をもとに、「専門家の取材はどうあるべきか」「弁護士の紹介であることは、その内容を信じる理由となりうるか」などを主な論点にして、踏み込んだ意見交換が行われた。
その結果、委員会で示されたさまざまな意見を盛り込んだ修正案を担当委員が作成し、次回委員会で議論を続けることになった。

4.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用したことが問題になった鹿児島テレビの2つのローカル番組についての審議

鹿児島テレビは、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』(6月29日放送)で、高校総体に出場した鹿児島市内の高校の男子新体操部を紹介した。その際、選手を激励する監督の声をあわせて10か所で約2分間放送したが、これは、他局の取材音声を無断で受信・録音したものだったことが判明した。前回の委員会から審議を継続した事案。
関連会社から派遣されたディレクターは、他局が監督に着けてもらったワイヤレスピンマイクの音声を、カメラマンと音声マンに傍受するよう指示し、その音声を自局取材の音声のように使用して放送していた。電波法59条は、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受して窃用することを禁じている。
11月初旬、当該番組の取材ディレクターやカメラマン、音声マンのほか、鹿児島テレビのコンプライアンス責任者など、あわせて6人を対象にヒアリングが実施され、その概要が、担当委員から報告された。
「ディレクターはなぜ他局の音声を窃用したのか」「取材した3人に違法だという認識はあったのか」「放送前のチェック機能が働かなかったのはなぜか」「放送局や関連会社ではどのような社員教育や研修が実施されていたのか」などについて詳しい説明があり、委員の間で意見交換が行われた。
その結果、事実関係はほぼ明らかになり論点も整理できたとして、次回委員会に担当委員が意見書の原案を提出することになった。

5.「対決内容が編集で偽造された」ことが明らかになったフジテレビの『ほこ×たて2時間スペシャル』についての討議

「矛盾する両者の真剣勝負」を売り物にするフジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて』は、2012年の民放連賞でテレビエンターテインメント番組の最優秀賞を受賞していた。
10月20日に放送された2時間スペシャル番組の中の「スナイパー軍団対ラジコン軍団」について、ラジコンカーを操作した出演者が、放送3日後に所属する会社のウェブサイトに「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発し、問題が発覚した。
この出演者は「ラジコンカーの対決で、実際の対戦相手が異なっていた」「実際には、最初に対決したラジコンボートが3連勝して勝負は決していた」「過去の放送でも対決相手のタカやサルについて、番組スタッフから演出に協力させられた」などと指摘した。
これを受けて当該局は、ロケ担当ディレクターや番組のチーフプロデューサー、それに制作会社の幹部などを対象に内部調査を実施した結果、出演者の指摘をほぼ認め、「視聴者の皆様の期待と信頼を裏切る行為が確認された以上、真剣勝負を標榜している番組の継続は不可能」として、番組の打ち切りを決めた。
委員会は、当該局から提出された報告書をもとに討議を行い、「バラエティー番組なので一定の演出はあるにせよ、それが限界を超えているかどうか」「視聴者は真剣勝負をどの程度前提にして、この番組を視ていたのか」など、さまざまな意見が出された。また、当該局がこのスペシャル番組以外にも類似のケースがあったことを認めているため、詳細を確認するべきだとの指摘もあった。
委員会では、当該局宛ての質問書を作成し、ロケや編集過程での疑問点を中心に再度報告を求めて、討議を継続することになった。

【委員の主な意見】

  • 素材となる映像を自分たちが作ったストーリーに沿って編集でまとめたもので、これを演出といえるのだろうか。まるでドラマを作っているように感じられる。
  • ここまで編集で対決の内容を変更してしまうことは、この番組のコンセプトからしても、企画として成立しないと思う。
  • バラエティー番組では、勝負といってもかなり演出がほどこされていることは昔からあると思うが、少なくとも出演者に納得してもらうことが前提だろう。今回の事案は相当にひどいのではないか。
  • 実際にはなかった対決を編集で作ってしまうことは、やはり問題だ。
  • バラエティー番組に演出はつきものなのだから、いまさら委員会があれこれ言うのは難しいという気もする。
  • 視聴者はこの番組の対決をどこまで真剣勝負として見ていたのだろうか。それによって、視聴者の信頼を裏切ったかどうかの見方が変わるだろう。
  • 報告書が短時間に作成されたこともあってか、もっと確認したい点や疑問点もある。さらに詳細な報告書の提出を求めて議論したほうがいい。

以上

第75回 放送倫理検証委員会

第75回–2013年10月

「他局の取材音声を、無断受信して使用」鹿児島テレビ2つのローカル番組審議入り決定

参院選関連の2番組、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本『百識王』、局のヒアリングを基に審議

「弁護士紹介の被害者は"関係者"」日本テレビ『スッキリ!!』、局のヒアリングを基に審議

第75回放送倫理検証委員会は10月11日に開催された。
今夏の参議院選挙をめぐって、選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議入りした、関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(ネット選挙解禁に関する特集企画で、特定の比例代表立候補予定者だけを紹介)とテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(投票日当日の放送に、比例代表候補者がVTR出演)の2つの番組について、担当委員からヒアリングの概要が報告された。
弁護士から紹介されたネット詐欺の被害者が別人だったのは裏付け取材が不備だったためとして、前回の委員会で審議入りした日本テレビの情報番組『スッキリ!!』についても、当該局に対するヒアリングの概要が報告された。
高校の男子新体操部を紹介した鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』で、他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し使用していたことが判明した。無線通信を傍受して使用することを禁じた電波法に違反する疑いもあり、なぜこうした不正な取材が行われたのか、審議入りして関係者へのヒアリングを行うことになった。

議事の詳細

日時
2013年10月11日(金)午後5時~8時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

1.選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議入りした参院選関連の2番組、関西テレビの『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本の『百識王』

インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党から比例代表選挙の立候補予定者になっていた太田房江元大阪府知事だけを紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、参議院選挙投票当日の午前中に放送した番組の「大企業のトップが持つ手帳」というコーナーで、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補がVTR出演していた、テレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2つの番組を、前回の委員会で一括して審議の対象とすることとした。
10月初旬、2つの放送局の関係者あわせて10人を対象にヒアリングが行われ、その概要が、担当委員から報告された。
関西テレビの『スーパーニュースアンカー』については、「選挙に関連する特集企画の中で特定の立候補予定者だけを取り上げることについて、担当していた記者やデスクたちは、その放送が選挙の公平・公正性に影響を与える可能性について、どう認識していたのか」「民放連の放送基準をどう理解していたのか」などについて、ヒアリングの結果を踏まえて議論が交わされた。またテレビ熊本の『百識王』については、「なぜ、放送前のチェックの際に、候補者の出演に気づかなかったのか」について、社内でのチェック体制や立候補者情報の共有状況なども含めて審議された。
今回の議論をふまえて、次回委員会では、担当委員が意見書の原案を提出し、さらに議論を深めることになった。

2.弁護士が紹介した詐欺事件の被害者が別人だったのは、裏付け取材が不備のためとして審議入りした日本テレビの『スッキリ!!』

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして、前回の委員会で審議入りした事案。
10月初旬、当該番組の取材ディレクターやプロデューサー、それに情報カルチャー局の幹部やコンプライアンスの担当者など、あわせて11人を対象にヒアリングが実施され、その概要が、担当委員から報告された。
「なぜ被害者の人物を特定する質問を十分に行わず、免許証などによる本人確認をしなかったのか?」「なぜ被害事実の存在についての裏付け取材をしなかったのか?」「被害者を本物と信じたのはなぜか?」「弁護士を信用した背後にどんな事情があったのか?」「弁護士の紹介であることは、その内容が信じられる合理的な理由となるのか?」などを中心に、詳細で具体的な報告に基づく活発な議論が行われた。また、担当部局が異なるとはいえ、当該局で続発した類似事案の反省と教訓から講じられた再発防止策などについての説明もあった。
その結果、事実関係はほぼ明らかになり論点も整理できたとして、次回委員会に担当委員が意見書の原案を提出することになった。

3.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用した鹿児島テレビの2つのローカル番組

鹿児島テレビは、高校総体をめざして練習に励み、見事に出場を果たした鹿児島市内の高校の男子新体操部を、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』(6月29日放送)で紹介した。その際、練習する選手を激励する監督の声もたびたび放送されたが、あわせて10か所で約2分間紹介された監督の声は、他局の取材音声を無断で受信・録音したものだった。
取材したのは関連会社から派遣されたディレクターで、他局が監督に着けてもらったワイヤレスピンマイクの音声を、共同取材のような感覚で、カメラマンと音声マンに傍受するよう指示していた。監督との人間関係が築けていなかったため、自局のワイヤレスピンマイクも着けてもらうよう依頼できなかったという。電波法59条は、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受して窃用することを禁じている。放送局が取材で使うワイヤレスピンマイクの周波数は一定の範囲内に限定されており、チャンネルを切り替えると容易に傍受できる構造になっている。
委員会は、不正な方法で取材したうえ、それを放送で使用したことは悪質で、放送倫理上も許されない行為であるとして審議の対象とすることとし、まず、ディレクターら関係者へのヒアリングを行うことになった。

【委員の主な意見】

  • 監督との人間関係が築けていなかったということだが、監督からは正式に許可を得て取材しているのだから、どうしてその時にピンマイクを着けてほしいと頼まなかったのか、理解に苦しむ。
  • このディレクターの手法は、明確な違法行為と言わざるを得ない。取材者としての職業倫理にも関わる問題だけに、どのような社内教育が行われているのかを確認する必要があるのではないか。
  • カメラマンや音声マンは、ディレクターの指示に疑問を感じながらも結局は反論することなく指示に従っている。現場の力関係の中では、それは間違いだということは難しいのだろうか。
  • その気になれば誰でも簡単にできそうなことだけに、なぜ不正な行為が行われたのかをきちんと検証するべきだ。そのためには、関係者へのヒアリングも実施する必要がある。
  • 当該局は総務省へ報告し総務省の調査も行われているようだが、委員会は、それとは関係なく、あくまでも放送倫理の問題として議論を進めていくべきだろう。

以上

2013年10月11日

「他局のワイヤレスマイクの取材音声を、無断受信して使用」審議入り決定

鹿児島テレビ『ゆうテレ』『チャンネル8』

放送倫理検証委員会は10月11日(金)の第75回委員会で、鹿児島テレビ『ゆうテレ』『チャンネル8』の審議入りを決めた。

対象となった番組は、鹿児島テレビが2013年6月19日と8月7日に放送した夕方の情報系番組『ゆうテレ』と、それを再編集して6月29日に放送した、ミニ番組『チャンネル8』。番組では、高校の『男子新体操部』を紹介した際、生徒を指導する監督の声を放送したが、これは、他局が監督につけたワイヤレスマイクの音声を無断で受信し、使用したものだった。
委員会では、無線通信を傍受して使用することを禁じた電波法59条に違反する取材が行われたことを重視、当該局へのヒアリングを行うことになった。

第74回 放送倫理検証委員会

第74回–2013年9月

参院選関連2番組を一括して審議入り
(1)関西テレビ『スーパーニュースアンカー』
(2)テレビ熊本『百識王』

「弁護士紹介の被害者は"関係者"」審議入り 
日本テレビ『スッキリ!!』

8月2日に意見書を通知・公表した関西テレビの「インタビュー映像偽装」事案について、当日の報道等の反応を確認し、若干の意見交換を行った。
7月に実施された参議院選挙に関連する2つの番組について、放送の公平・公正性の観点から議論が交わされた。関西テレビのニュース番組は、ネット選挙解禁に関する特集企画で特定の比例代表立候補予定者だけを紹介し、しかも参院選の公示予定日の1か月前を切った時点で放送した。テレビ熊本が投票日当日に放送したバラエティー番組には、比例代表候補者がVTR出演していた。委員会では、選挙の公平・公正性を守るよう要請した3年前の意見書や今年4月の委員長コメントの趣旨が活かされなかったことが指摘され、一括して審議の対象とすることになった。
日本テレビの情報番組で詐欺事件の被害者として放送された人物が、被害者ではなく、番組に出演した弁護士が所属していた法律事務所の事務員だった。委員会は、番組のスタッフが弁護士の紹介というだけで必要な裏付け取材を怠ったことについて、審議することとした。

議事の詳細

日時
2013年9月13日(金)午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

1.関西テレビの『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見を、通知・公表

関西テレビのローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』の特集企画で、大阪市職員の兼業について証言した情報提供者の映像を取材スタッフを使って偽装し、新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していなかったとして、審議入りした事案。
8月2日、当該局に対して意見(委員会決定第16号)を通知し、続いて公表の記者会見を行った。事務局からの報告のあと、当該局の対応、当日のテレビニュースや新聞記事等の反応を確認しながら意見交換を行った。また、担当委員を講師として当該局で開かれた研修会について、委員からの報告があった。

2.関西テレビのニュース番組のネット選挙特集企画で、特定の比例代表立候補予定者だけを紹介

関西テレビが6月10日の夕方に放送したローカルニュース番組『スーパーニュースアンカー』で、7月の参議院選挙から解禁されるインターネットでの選挙運動を特集企画として取り上げた。この中で、候補者サイドの取り組みの例として、自民党から比例代表選挙の立候補予定者になっていた太田房江元大阪府知事を、インタビューを交えて約2分間紹介した。
民放連の放送基準第12項は、「選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」と規定し、その解説文のなかで、公示(告示)の1か月前を目安とするよう指摘している。参議院選挙の公示予定日の7月4日まで、すでに1か月足らずとなっていた。放送後、当該局の報道局内部から疑問の声があがり、1週間後の同番組内でお詫び放送を行った。
委員会では、民主主義の根幹である選挙について、放送の公平・公正性の確保に努めるよう、3年前に出した「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)や、今年4月に公表した委員長コメントなどで繰り返し指摘してきた。しかし、それが放送現場に十分浸透していないことが明らかになったことから、審議の対象とすることを決めた。

【委員の主な意見】

  • ネット選挙の解禁をわかりやすく、面白く伝えようとするあまり、選挙に関する報道は公平公正にやるべきだという基本中の基本が、いつの間にか忘れられていたのではないか。

  • 3年前の意見書では、当該局だけでなく、各局でも参考にして役立ててほしいとの思いから、選挙の意義まで丁寧に記載している。それにもかかわらず同様なミスが繰り返されるということは、第三者機関として当委員会が活動してきたことが、役立っていないということになるのではないか。

  • 選挙の取材をするなら、まずは選挙の仕組みをきちんと勉強してほしい。記者のレベルが低下しているということなのだろうか。

  • 企画の提案から取材・編集の過程で、放送の公平・公正性に問題があることを誰ひとり指摘せず、放送されてしまったことは何を示しているのか。報道の現場で何の議論もなかったとしたら、問題は深刻だ。

  • 問題は、放送が公示日の1か月前を越えるかどうかではなく、放送基準でいう「選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」に抵触するかどうかという原則が、きちんと理解されていないことにある。マニュアル的に、公示日まで1か月程度ならいいだろうという思考方法では困る。

  • 同じような過ちが繰り返されることを心配して、参議院選挙を前にした今年4月に「委員長コメント」を出して注意喚起をおこなったのに、全く活かされていないことが残念でならない。

  • テレビは影響力が強いのだから、選挙の公平性を保つためには、もっと細心の注意を払わなければいけないという感覚をもってほしい。

3.テレビ熊本が参院選投票日に放送したバラエティー番組に、比例代表選挙の特定候補者がVTR出演

テレビ熊本は、参議院選挙投票日(7月21日)の午前9時30分から10時まで放送したバラエティー番組『百識王』で、各界の著名人たちのユニークな手帳活用法を紹介したが、この中に、自民党の比例代表選挙候補者の渡邉美樹氏が約2分間VTR出演していた。
この番組はフジテレビが制作したもので、関東エリアでは、渡邉氏が立候補表明をする前の4月16日に放送された。この番組を購入したテレビ熊本は、放送前に担当者がチェックしたが、渡邉氏が候補者であることに気がつかなかった。候補者の情報は報道セクションでは把握されていたが、全社的な情報共有はされていなかったという。
委員会は、この事案についても、放送の公平・公正性が確保されていなかったとして、関西テレビの事案と一括して審議の対象とすることを決めた。

【委員の主な意見】

  • 民主主義の根幹をなす選挙、とりわけ国政選挙について、放送局の人間である以上は、報道セクションに直接関係していなくても、どの政党からどんな候補者が立候補しているかの情報は知っておく必要があるのではないだろうか。

  • 話題になった候補者のひとりだから、きちんとテレビや新聞に目を通していれば、報道以外の人であってもチェックできたと思うのだが。

  • この番組は、何年間も東京より3か月遅れで放送しているとのことだが、今の時代に3か月も時期がずれると、番組のテーマや、出演者の服装・季節感などに違和感はないのだろうか。

  • キー局の放送から3か月後の放送となったのは当該局の事情であり、番組を制作して販売したキー局には責任はないと考えるべきだろう。

4.日本テレビの情報番組が特集した詐欺事件の被害者は、同じ番組に出演した弁護士の法律事務所の事務員

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』が、昨年(2012年)2回にわたりインターネット詐欺を特集した際、その被害者として出演し、詐欺の手口や被害の実態などを語った男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だった。
昨年の2月29日放送の「悪質出会い系サイトの実態」には女性の被害者が、6月1日放送の「サクラサイト商法に注意」には男性の被害者が、顔を出さずに声も変えて登場した。この2つの特集は、別のディレクターが担当したが、いずれもこの番組に出演した同じ弁護士からの紹介だったため信用して、裏づけ取材や、人物の身元確認をきちんとしないまま出演させていた。
被害者として取材を受けた2人の話す内容が、具体的で詳細だったため、番組のほかのスタッフも被害者ではないことに気付かないまま放送してしまったという。
今年の7月になって、出版社からの取材があり、日本テレビ側が弁護士に面談して確認したところ、弁護士は虚偽の紹介をした事実を認めて謝罪した。日本テレビは7月19日、放送の誤りを認め、詳細なお詫び放送を行った。
委員会は、真の被害者ではない別人を、ただ弁護士の紹介だけで信用し、必要な裏づけ取材を怠り、しかも2回にわたって放送したことは放送倫理上問題があるとして、審議の対象とすることにした。

【委員の主な意見】

  • 取材が容易ではないテーマの専門家を探すとき、安易にネットでの検索や知人からの紹介に頼っており、取材者としての基本を知らなすぎる。

  • 専門家を探すように指示した現場の上司は、具体的にどのような指導をしたのか。指導の役割をきちんと果たせる人はいるのだろうか。

  • 専門的な分野について、専門知識に基づいて、一般の人にうまく説明できる適切な人物を探す能力、そのために人脈を形成しておく能力が欠けていると言えそうだが、現場の人にそれを求めるのは難しいのだろうか。

  • ある弁護士が信頼できるかどうかは、弁護士事務所のホームページがどのようなつくりになっているかが参考になる。過去の実績を誇示するなどして顧客を誘っている場合には、無条件に信用しないほうがいいかもしれない。まっとうな弁護士なら売り込みばかりのホームページは作らない。

  • 情報番組が扱える範囲というものを、もう少し考えてもいいのではないか。専門性が高い問題を扱うのは、制作現場の厳しい現実を考えると、ハードルが高すぎるのでは。

  • 弁護士は業務上、クライアントの本人確認をやらざるを得ないから、取材者は、被害者の身元について弁護士から十分確認できたはずである。しかし、そのチェックを怠っていたため、こうしたことになってしまった。

  • 過去にも類似した例があった。こうした問題が繰り返されるのは、特定の局に固有の問題なのか、それとも放送局全体に共通する問題なのか。

以上

2013年9月13日

参院選関連2事案と「弁護士紹介の被害者は"関係者"」事案、
計3事案が審議入り

放送倫理検証委員会は9月13日の第74回委員会で、下記3事案の審議入りを決めた。

(1) 関西テレビ『スーパーニュースアンカー』

関西テレビが2013年6月10日午後6時台に放送した夕方のローカルニュースで、7月の参院選から解禁されるインターネットでの選挙運動について取り上げた企画を約11分にわたって放送。この中で、候補者サイドの取り組みの例として、自民党から比例代表選挙に立候補を予定していた太田房江元大阪府知事を約2分間、インタビューを交えて紹介した事案。参院選の公示予定日まですでに1ヶ月足らずとなっていた。放送後、同社報道局内でも疑問の声があがり、1週間後の同番組内でお詫び放送を行った。

(2) テレビ熊本『百識王』

テレビ熊本が2013年7月21日、参院選投票日当日の午前9時30分から10時まで放送したバラエティー番組に、自民党から参院選比例代表選挙に立候補していた渡邉美樹氏が約2分間VTR出演していた事案。これはフジテレビが関東エリアで2013年4月16日に放送したものを番組購入し放送したもので、関東エリアの放送時点では渡邉氏は立候補表明をしていなかった。テレビ熊本は放送前のチェックで気付かず、他局からの指摘により発覚した。

(3) 日本テレビ『スッキリ!!』

日本テレビの朝の情報番組の中で、2012年2月と6月に放送されたインターネット詐欺の企画で、被害者として詐欺の手口や被害の実態を語った2名の人物が、同じ番組に出演した弁護士の事務所職員であったことが明らかになった事案。2回の企画はそれぞれ別のディレクターが担当していたが、弁護士の紹介だったため信用して十分な裏づけ取材などをしていなかった。インタビューは弁護士の担当した実例をもとにした詳細な内容だったため、番組のほかのスタッフも気付かなかったという。今年7月に発覚後、弁護士は虚偽の事実を認め謝罪、日本テレビも7月19日の同番組で詳細なお詫び放送を行った。

2013年8月2日

関西テレビ『スーパーニュースアンカー』
「インタビュー映像偽装」に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、8月2日午後2時30分から千代田放送会館7階BPO第一会議室で行われた。委員会から川端和冶委員長、小町谷育子委員長代行、水島久光委員長代行、升味佐江子委員の4人が出席し、関西テレビからは常務取締役ら3人が出席した。
まず川端委員長が、問題のインタビュー映像を放送したことと問題発覚後視聴者に伝えない決定をしたことの2点について放送倫理に違反する、と委員会として判断したことを通知した。インタビュー映像の放送については「取材から放送までの期間が相当あったのだから、コミュニケーションがとれた職場であれば、どこかで気づけたのではないか」と述べ、視聴者に伝えない決定については「報道局の幹部が現場の意見を抑える形で逆の判断をしたことは重大な問題ではないか」と指摘した。
これに対して関西テレビ側は「意見書で指摘されたことを真摯に受けとめ、再発防止に全力をあげたい。テレビ報道に対する信頼を損なったことについて視聴者に深くお詫びしたい。視聴者の信頼回復に全力をあげていきたい」と述べた。

この後、午後3時15分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には25社54人が出席し、テレビカメラ6台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介した。そのなかで川端委員長は「誤りを犯しても、それが気楽に言えるような職場環境があれば、このような映像は放送されなかった。なんでも相談できる環境や制度を、意識して用意することがもっとなされないと、再発防止は難しいのではないか」と指摘した。さらに関西テレビで自主的自律的な是正がなされなかったことが重大な問題だったとして、「現場は許されない映像であるという認識を持っていたが、その声を活かす組織的な対応ができていなかったのではないか。関西テレビは6年前の"あるある問題"の深い反省から、いろいろな改革に取り組んだが、あのときの経験が風化してしまったのではないか」と述べた。
続いて升味委員が「今回は関西テレビの問題だが、他の放送局の番組についてもモザイク映像の向こう側には本人がいるのか、という疑問を生じかねない。テレビは視聴者の信頼によって成り立っていることを十分理解して仕事をしてほしい」と述べた。
また小町谷委員長代行は「訂正・お詫び放送をしなかったことを委員会が放送倫理違反と指摘したのは、今回が初めてのこと。その判断ミスをしたのが幹部なので、どのような再発防止策となるのか見守りたい」と述べた。
さらに水島委員長代行は「放送は組織が力を合わせて作るものだと再認識させられた。怠ってはならないことを誰もが理解することが、組織で制作するテレビの場合重要である」と述べた。
記者との質疑応答では「今までBPOの悩みはメッセージが現場の若い人に届いていないことだとおっしゃっていたが、今回は放送局の幹部にも届いていなかったということなのか」との質問に対して、川端委員長は「今回はお詫びするかどうかの判断をトップが間違ったので、それを放送倫理違反と指摘した。現場では正しい意見が数多く出たのに、それが採用されなかったことに正直驚いた」と答えた。また関西弁で記された「はじめに」の狙いについて質問があり、升味委員が「大学で使われるシラバスのようなもので、意見書全体を通して何を問題にしているかが分かるように表現したかった。多くの人に読んでほしいと考えて工夫した」と答えた。

第16号

関西テレビ『スーパーニュースアンカー』
「インタビュー映像偽装」に関する意見

2013年8月2日 放送局:関西テレビ

関西テレビの夕方のローカル番組『スーパーニュースアンカー』が2012年11月30日に放送した「大阪市職員 兼業の実態」という特集企画で、兼業について証言した情報提供者のモザイク映像が、取材スタッフを使って偽装した映像であったうえ、新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していなかった事案。
委員会は、社内でのチェックが機能せず問題のインタビュー映像を放送してしまったこと、問題発覚後これを視聴者に伝えない決定をしたことの2点について、放送倫理に違反すると判断した。そのうえで、今回の問題の本質は、関西テレビがいう「不適切な映像表現」ではなく、テレビを信じてモザイク映像の放送を容認している視聴者の信頼を裏切るような「許されない映像」が放送されたことにあると指摘した。

2013年8月2日 決定の通知と公表の記者会見

通知は午後2時30分から、千代田放送会館7階BPO第一会議室で行われた。
また、午後3時15分から、同2階ホールで公表の記者会見を開き、25社54人が出席した。
詳細はこちら。

2013年11月8日 【委員会決定を受けての関西テレビの対応】

『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見(2013年8月2日)を受けて、当該局の関西テレビは、局としての対応と取り組み状況をまとめた報告書を、10月28日に当委員会に提出した。
2013年11月8日に開催された委員会で、報告書の内容が検討され了承された。

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目 次

  • I. 委員会決定の報道
  • II. 委員会決定内容の周知徹底
  • III. 番組審議会への報告
  • IV. 再発防止に向けた取り組み
  • V. 終わりに

第73回 放送倫理検証委員会

第73回 – 2013年7月

映像の偽装が発覚した関西テレビの報道番組『スーパーニュースアンカー』、意見書を通知・公表へ

第73回放送倫理検証委員会は7月12日に開催された。
関西テレビの報道番組で情報提供者の映像の偽装が明らかになり、審議入りした事案について、担当委員から前回委員会の議論を踏まえた意見書修正案が提出された。活発な意見交換が行われた結果、表現の細部の修正は委員長に一任して委員会の意見とすることが承認された。8月早々にも、当該局への通知と公表の記者会見が行われる。

議事の詳細

日時
2013年7月12日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

■ 映像の偽装が発覚した関西テレビの報道番組『スーパーニュースアンカー』、意見書を通知・公表へ

関西テレビのローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』の特集企画で、大阪市職員の兼業について証言した情報提供者の映像が取材スタッフを使って偽装された映像であったうえ、新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していなかったとして、審議入りした事案。
前回委員会での議論を踏まえて担当委員が作成した「意見書修正案」をもとに、委員の間で活発な意見交換が行われた。
「なぜ問題の映像が撮影されたのか」「なぜ社内のチェックが機能せず放送されてしまったのか」「なぜ視聴者に対する速やかな説明がなされなかったのか」の3つのステージごとに、字句の修正や論点の最終確認などが行われた結果、表現の細部の修正は委員長に一任して委員会の意見とすることに委員全員の了承が得られた。
この「意見」は、委員会決定第16号として、8月早々にも当該局への通知と公表の記者会見が行われる。

以上

第72回 放送倫理検証委員会

第72回 – 2013年6月

映像の偽装が発覚した関西テレビの
『スーパーニュースアンカー』、意見書原案を審議

第72回放送倫理検証委員会は6月14日に開催された。
関西テレビの報道番組で情報提供者の映像の偽装が明らかになり、審議入りした事案は、担当委員から意見書の原案が提出された。当該局への聴き取りとこれまでの委員会での議論を踏まえて問題点を整理したもので、長時間にわたる意見交換が行われた。次回委員会までに担当委員が修正案を作成、意見の集約をめざす。

議事の詳細

日時
2013年6月14日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

映像の偽装が発覚した関西テレビの『スーパーニュースアンカー』、意見書原案を審議

関西テレビのローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』の特集企画で、大阪市職員の兼業について証言した情報提供者の映像を取材スタッフを使って偽装し、新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していなかったとして、審議入りした事案。
当該局の担当記者・カメラマン・撮影助手や、対応策を協議した報道局幹部などあわせて14人を対象に実施した聴き取りと、前回までの委員会の議論を踏まえて、担当委員から「意見書原案」が提出された。
原案では、「なぜ問題の映像が撮影されたのか?」「なぜ社内のチェックが機能せず放送されてしまったのか?」「なぜ視聴者に対する速やかな説明がされなかったのか?」の3つのステージごとに課題や問題点が整理され、委員による質疑や意見交換は2時間近くに及んだ。
その結果、次回委員会までに担当委員が委員会での議論を踏まえた修正案を作成し、次回委員会の場でさらに議論を深めて、意見の集約をめざすことになった。

以上

第71回 放送倫理検証委員会

第71回 – 2013年5月

映像の偽装が発覚して審議入りした関西テレビの
『スーパーニュースアンカー』、ヒアリング結果を報告

選挙期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビの
バラエティー番組、「委員長コメント」を公表

第71回放送倫理検証委員会は5月10日に開催された。
関西テレビの報道番組で、情報提供者の映像の偽装が明らかになり、前回委員会で審議入りした事案。担当委員からヒアリングの結果が報告され、意見交換が行われた。その結果、事実関係はほぼ判明し論点も整理できたとして、次回委員会までに担当委員が意見書原案を作成、委員会の場でさらに議論を深めることになった。
フジテレビのバラエティー番組で、選挙期間中の現職知事の映像が約10秒間放送された事案に関連して、全放送局に選挙の公平・公正性に万全を期すよう要請する「委員長コメント」が、4月26日、BPOのホームページに公表されたことが報告された。

議事の詳細

日時
2013年5月10日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

1.映像の偽装が発覚して審議入りした関西テレビの『スーパーニュースアンカー』、ヒアリング結果を報告

関西テレビのローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』の特集企画で、大阪市職員の兼業について証言する情報提供者の映像として放送されたものが、実際には取材スタッフを使った偽装映像であったうえに、新聞報道で発覚するまで3か月余りもその事実を視聴者に説明していなかったとして、前回の委員会で審議入りした事案。
当該局の担当記者・カメラマン・撮影助手・編集マンなど取材から放送に至る担当者のほか、事情が判明したあと対応策を協議した報道局幹部、さらに広報やコンプライアンスの担当者など、あわせて14人を対象に16時間にのぼるヒアリングを実施したことが、担当委員から報告された。
「なぜ問題の映像が撮影されたのか?」「なぜ社内のチェックが機能せず放送されてしまったのか?」「なぜ視聴者に対する速やかな説明がされなかったのか?」などを中心に、詳細で具体的な説明が行われた。また、当該局で6年前に起きた「あるある問題」の反省や教訓が、生かされているかどうかについての報告もあり、委員の間で活発な質疑や意見交換が展開された。
その結果、事実関係はほぼ明らかになり論点も整理できたとして、次回委員会までに担当委員が意見書原案を作成、委員会の場でさらに議論を深めることになった。

2.選挙期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビのバラエティー番組『VS嵐』、「委員長コメント」を公表

千葉県知事選挙(2月28日告示・3月17日投票)さなかの3月7日、フジテレビのバラエティー番組『VS嵐』で、森田知事の映像が約10秒間放送された事案。前回の委員会で、審議入りはしないものの各局に対する注意喚起を兼ねて「委員長コメント」を公表することを決めたが、4月26日、BPO放送倫理検証委員会のホームページにアップされた。
この委員長コメントは、『VS嵐』の事案で浮き彫りになった問題点をあらためて指摘した上で、全放送局に対して「選挙の公平・公正性を守るという意識を高めること」と「選挙の公平・公正性を守るために必要なチェックの仕組みがきちんと構築されているかどうかを再点検すること」を要請するもの。委員会では、事務局から公表の事実と新聞報道など委員長コメントへの反響が報告された。

以上

第70回 放送倫理検証委員会

第70回 – 2013年4月

"内部告発者"のモザイク映像が別人だった
関西テレビの『スーパーニュースアンカー』を審議入り

知事選挙期間中に候補者映像を放送のバラエティー番組
審議入りせずも、各局に注意喚起の「委員長コメント」公表

第70回放送倫理検証委員会は4月12日に開催された。
5人の新委員を迎えて、新しい任期が始まる委員会となったため、冒頭、委員の互選による委員長の選任が行われ、川端委員長の留任が決まった。また、川端委員長の指名により、委員長代行に小町谷委員(留任)と水島委員(新任)が就任することになった。
関西テレビの報道番組で、内部告発者のモザイク映像として放送されたものが別人を使って撮影したものであったことが、新聞報道で明らかになった。告発者本人から一切の撮影を拒否され、取材スタッフの後姿を撮影していたという。取材担当者は放送前にこうした事情を上司に報告していなかった。また、事情が判明した後も、当該局は3か月以上、視聴者への説明やお詫びなどを行っていなかった。委員会は、取材・制作の手法にも、放送後の対応にも、放送倫理上の問題があることは明らかだとして、審議入りすることを決めた。
フジテレビのバラエティー番組で、選挙期間中の現職知事の映像が約10秒間放送された。過去の映像を総集編的にまとめて紹介する中に、昨年11月、知事がこの番組に出演した時のものが含まれていた。制作担当者には選挙期間中であることの認識がなく、局内のチェックも機能しなかった。委員会は、選挙の公平性・公正性に万全を期すよう求めた3年前の意見書の趣旨が徹底されていないとして、審議入りはしないものの、「委員長コメント」をBPOのホームページなどに公表し、各局にも注意を喚起することとした。

議事の詳細

日時
2013年4月12日(金)午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員

1.内部告発者の映像が別人だった関西テレビの『スーパーニュースアンカー』

関西テレビの夕方のローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』は2012年11月30日、「大阪市職員 兼業の実態」と題した特集企画で、兼業の実態を証言する"内部告発者"のインタビューを放送した。その際、音声は告発者本人の声にボイスチェンジを施したものだったが、映像は取材スタッフの後姿にモザイクをかけて偽装したものだった。告発者本人が、自分の体が少しでも映ることを拒んだためだという。
この撮影は、担当記者の判断によって行われたが、放送まで10日以上もあったにもかかわらず、デスクや編集責任者など上司への相談や報告はなく、内部チェックは機能しなかった。
放送終了後に取材スタッフからの通報で問題が表面化したあと、報道局だけでなく、社内のコンプライアンス担当者の会議などでも、問題点を探り再発を防ぐための議論は行われたが、視聴者への説明やお詫びは何ひとつなされなかった。当該局によると、告発者を守るために不適切な手法を取ったが、告発者本人の声を伝えた報道の内容や趣旨に偽りはなかったためだという。視聴者への説明やお詫びが行われたのは、2013年3月13日に新聞報道がされたあとで、放送から3か月以上が経過していた。
委員会は、取材・制作の手法にも、放送後の対応にも、放送倫理上の問題があることは明らかだとして、審議入りを決めた。

【委員の主な意見】

  • 問題点は大きく言うと2つ。なぜそういう映像が作られ、チェックが働かずに放送されてしまったのか?なぜ誤りを犯した後の自主的・自律的な是正の措置が取られなかったのか?

  • 兼業している人がいました、だけではなく、兼業者が存在する理由や背景に何が潜んでいるのかを伝えるのが、報道本来の使命やありかたなのではないか。そこから先にある、重要な問題に触れられていない。

  • この内部告発者は、なぜ告発を決意したのだろう。そこにはどんな気持ちや状況があったのかも知りたいが、それにも触れられていない。

  • 声は内部告発者本人なのだから、映像は別人でもいいということが、報道の世界で通用するはずがない。たとえモザイク掛けであれ、本人が話していることが、報道の『信頼性』につながる。この手法は誠実ではない。

  • 果たして取材対象を守るために替え玉を用意するような場面だったのか?無理にそれらしい映像を作らなくても、代わりの映像や手法はいくらでもあるはずだ。

  • やはり、映像と音声がそろってこその『報道』だろう。この事案が審議入りしたほうがよいと思う理由は、放送後の対応があまりに悪すぎるということもある。実は音声も作ったのではないか?という疑いすら持たれかねず、報道そのものに対する信頼性を失わせかねない。

  • 6年前、この局で起きた「あるある問題」の重い教訓は、現在も本当に根付いているのか。疑問を持たざるを得ない放送後の対応だ。

2.知事選挙期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビのバラエティー番組『VS嵐』

千葉県知事選挙(2月28日告示・3月17日投票)は、現職の森田健作知事が再選を果たしたが、選挙期間中の3月7日、フジテレビのバラエティー番組『VS嵐』で約10秒間、森田知事の映像が放送された。総集編形式で1年間の嵐メンバーの好プレー珍プレーを紹介した中に、昨年11月に出演した森田知事の映像が含まれていたもの。視聴者から指摘があるまで、制作担当者は放送日が千葉県知事選の期間中であることや、森田知事が立候補していることを認識しておらず、局内のチェックも機能していなかった。
委員会では、放送エリア内の千葉県知事選挙について、フジテレビの社内で情報の共有や注意喚起が行われていなかったことを危惧する意見が相次いだ。また、3年前に委員会が出した「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)で、選挙は民主主義社会の根幹であり、公平性・公正性に万全を期すよう求めた趣旨が、放送現場に徹底されていないことを懸念する指摘もあった。最終的には、再放送の映像であり、短い時間の放送なので、審議入りしないことになったが、今年が参議院議員選挙の年であり、各局に対する注意喚起を兼ねて、何らかのメッセージを発するべきだとの意見で一致した。BPOのホームページなどに「委員長コメント」として公表する。

【委員の主な意見】

  • 千葉県に住んでいる番組制作スタッフは、ひとりもいなかったのか?それとも県知事選挙に関心が全くなかったのか?

  • 放送時間はわずかだが、「知事ボール」という声が聞こえるのは気になった。

  • 番組の制作スタッフは、嵐のメンバーの面白いシーンを集めることしか考えていなかったということだろう。

  • 千葉県知事選の立候補者について、社内で注意喚起していないのは、キー局としてはお粗末だ。放送エリア内の知事選ぐらいは、ちゃんとチェックしてほしい。

  • 3年前の委員会決定でも、芸能人の候補者に関する、今回とよく似た事案があって警鐘を鳴らしたが、その教訓が生かされていない。

  • あのときの事案では、投票日当日に12分以上も候補者を放送していたので、それよりは罪が軽いといえるだろう。

  • 審議入りすべき事案とは考えないが、今年は参議院議員選挙の年でもあり、 各局に対してのメッセージは発したほうがいい。

■委員長コメント

フジテレビは千葉県知事選挙の選挙期間中であった本年3月7日に放送したバラエティー番組『VS嵐』で、知事選に立候補中の森田知事の映像を使用した。これは昨年11月に放送された回に「チーム千葉」の一員として出演していた森田知事の映像が総集編で使用されたものであるが、「知事ボール」と名付けたボールを使ってゲームを行い、それを「チーム千葉」の法被を着た森田知事が応援するという映像なので、森田氏と千葉県知事を強く結びつけるものであった。このようなことになったのは、番組制作者も編成担当者も、千葉県知事選挙の選挙期間中であり森田氏が立候補していることを全く失念し、視聴者から指摘されるまで気づかなかったためである。
この番組は、民放連放送基準第2章(12)の解説で「立候補者及び立候補予定者の出演は公示(告示)後はもちろん、少なくとも公示(告示)の1ケ月前までには取りやめることが望ましい」とされていることに明白に違反しており、実質的にも選挙の公平性を害するおそれがあったことは明らかであろう。
委員会は、「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)で、候補者がリポーターとして出演する旅番組を投票日当日にBSジャパンが放送したことを審議の対象とした。一方、今回の番組では候補者の露出時間が約10秒であり、投票日当日に約12分にわたってリポーターとして出演し続けたBSジャパンの事例とは放送倫理違反の程度が著しく異なること、当該局が、地方を含むすべての選挙について編成部と報道局が連携して選挙予定と立候補が想定される人物について制作現場へ情報提供する体制を構築し、制作現場でもキャスティングに際して立候補の予定を可能な限り確認することとされたこと、ガイドライン「選挙立候補者などの番組出演に関する注意事項書」が作成され、バラエティー制作センターの全プロデューサーと全編成部員を対象とする講習会が開催されたことなど、再発防止策が徹底されたことから、審議の対象とはしないこととした。
しかしながら、在京キー局で千葉県知事選挙の選挙期間中であることを全く意識しないで番組が制作され、誰もチェックしないまま放送されたということは、放送の現場で、民主主義の根幹を成す選挙の公平・公正性を守ることの重要性についての意識が低下しているのではないかと疑わせるに十分な事態である。今年は参議院議員選挙の年であり、しかもこの選挙はこの国の方向性を決定的に左右する重要な選挙になると思われる。前述した委員会の意見書で述べたように「代議制民主主義制度において選挙が公平・公正に行われることはその統治の正統性を担保する唯一無二の手段であり、民主主義の根幹を成すきわめて重要なものである」ので「選挙にかかわる番組制作・放送における公平・公正性を徹底」することが絶対に必要である。委員会は、この機会にあらためて全放送局に対し、選挙の公平・公正性を守るという意識を高めることと、選挙の公平・公正性を守るために必要なチェックの仕組みがきちんと構築されているかどうかを再点検することを要請しておきたい。

以上

2013年4月12日

「"内部告発者"モザイク映像は別人」審議入り決定

関西テレビ「スーパーニュースアンカー」

放送倫理検証委員会は4月12日の第70回委員会で、関西テレビ「スーパーニュースアンカー」の審議入りを決めた。

対象となった番組は、関西テレビが2012年11月30日午後6時台に放送した夕方のローカルニュースで、「大阪市職員 兼業の実態」を特集し、兼業を禁じた地方公務員法に違反して、夜間に新幹線工事現場で働く市職員がいることを、内部告発をもとに伝えた。その際、内部告発者のインタビューを、モザイク映像の後姿とボイスチェンジした音声で放送したが、映像は告発者本人ではなく撮影スタッフを映したものだった。告発者本人が、一切の撮影を拒んだためだという。
放送終了後、撮影スタッフからの報告により、社内では問題が表面化したが、「この不適切な手法は内部告発者を保護するためであり、告発者本人の音声を伝えたニュースの内容に虚偽はなかった」などとして、13年3月13日に新聞報道されるまで、視聴者への説明やお詫びは行われずじまいだった。
委員会は、不適切な撮影から放送まで10日以上もあったのに、チェック機能が働かず放送に至ってしまった原因や背景はどこにあるのか。また、放送後に問題が表面化した後、社内では議論が重ねられながら、なぜ速やかに視聴者への説明等をしなかったのかなどについて、次回以降で審議する。

第69回 放送倫理検証委員会

第69回 – 2013年3月

「BPOへ、放送界へ。」 退任委員からのメッセージ

第69回放送倫理検証委員会は3月8日に開催された。
事務局からの報告事項について意見交換を行ったほか、2月の視聴者意見の概要や、3月4日に開催されたBPOの年次報告会等について説明が行われた。
また、委員会の最後に、今回をもって退任する5人の委員からのメッセージが述べられた。

議事の詳細

日時
2013(平成25)年3月8日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者意見2月分について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

■退任委員からのメッセージ

  • 吉岡 忍委員長代行 (2007年5月 委員会発足時から)
    いろいろ不祥事はあったが放送業界がダメだという印象は持っていない。問題を起こした各局からの報告は的確なものだったし、第三者機関である委員会と放送局とのオープンな検証のしくみは、世界的に見ても例がない貴重なものだと思う。心残りは、世論全体から厳しい指弾を浴びた番組を検証委員会だけは擁護する意見書を書きたいという夢が実現しなかったことだ。

  • 石井彦壽委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    委員会での毎回の激しい議論は、異業種格闘技のような緊張感があった。いろいろな思い出があるが、例えば「光市母子殺害事件の差戻控訴審」の事案では、
    メディアは、司法制度や弁護人の役割に関する理解が乏しいのではないかと思われた。一般論として、捜査機関がリークした情報に基づいて番組が作られ、推定無罪の原則が守られていない。放送関係者の皆さんには、司法制度のしくみをもっと勉強してほしいと思う。長かったが充実の6年間だった。

  • 重松 清委員 (2010年4月から)
    良きにつけ悪しきにつけ「組織」であるテレビの世界の難しさ、さらにその難しさに向き合うべき個人のスキルや常識が揺らいで来ていることを痛感した3年間だった。だが、これからもテレビの可能性を信じていたい。決して萎縮することのないつくり手たちのボトムアップによる「組織」がつくるテレビの表現を、これからは視聴者として期待したいと思う。

  • 立花 隆委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    初めの頃は議論も面白かったが、テレビの世界がだんだん質的に低下して、委員会で取り上げる事案もどんどん小粒になってきたように思う。テレビだけでなくメディア全体が、これまでそれなりに果たしてきた社会を支えるという機能を失っており、健全なメディアのない社会がどうなるかという大きな実験がこれからますます進行するのではないか。

  • 服部孝章委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    「あるある問題」を経てこの委員会ができた時、放送業界も少しは変わるのではないか、活気づいてくれるのではないかと期待したが、現在はそれ以前に戻っているという感じがする。相当ひどいことになっているというのが実感で、これからは、ニュース以外、テレビをほとんど見なくなるのではないかとさえ思う。

 次回の第70回放送倫理検証委員会は、小出五郎(科学ジャーナリスト)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、渋谷秀樹(立教大学大学院教授)、升味佐江子(弁護士)、森まゆみ(作家)の5人の新委員を迎えて、4月12日に開催される予定である。

以上

第68回 放送倫理検証委員会

第68回 – 2013年2月

アルジェリア人質事件実名報道について

議事の詳細

日時
2013(平成25)年2月8日(金)午後5時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者意見1月分について
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、服部委員、水島委員

第68回放送倫理検証委員会は2月8日に開催されたが、討議対象となる事案がなかったため、BPOには数多くの視聴者・読者意見が寄せられたアルジェリア人質事件(1月16日発生)でのテロ犠牲者の実名報道について意見交換を行った。
視聴者意見の多くは「政府や日揮が氏名の公表を差し控えている段階から、メディアが独自の判断で報道したこと」に対する批判であった。
ここでは、
(1) 事故、災害における犠牲者実名報道は一般的にどうあるべきなのか。
(2) 今回の事件では、日揮が犠牲者の氏名を公表しないという強い姿勢を見せ、それに政府が一定の時期まで同調したが、そういう場合に実名報道はどうあるべきなのか。
(3) 遺族に取材が殺到してメディアスクラムが発生するという問題にどう対処すべきなのか。
という3つのレベルの異なる問題点が提起されていると考えられる。
視聴者意見を参考にしながら委員が様々な観点から報道の役割について自由に考えを述べ合った。ジャーナリズムが、その本来の役割をきちんと果たしているかどうかという観点から具体的な状況に応じた実名報道の是非を考えるべきではないか、という趣旨の意見で一致をみた。

【委員の主な意見】

  • ジャーナリズムの役割を果たすうえで、実名報道が認められる場面は当然ある。日揮の社員があそこでどんな仕事をしていて、どういう理由でテロの対象になって、どんな経緯で不幸な結果になったのかということを追究する中で、「この人は」という記事が実名で報じられることは必要なことだ。しかし、亡くなった方の尊厳といいながら、それを星を見るのが好きでしたというような私生活のお涙頂戴のレベルで報じるのでは、遺族感情を尊重すべきだという意見に対抗できないだろう。
  • 遺族取材も大事だが、真相究明には不可欠なはずの生存者への取材やインタビューがほとんど出ていない。今回のように日揮や政府が実名を公表せず取材が困難な場合、今後どう対応していくのか。
  • 実名報道したことによって、社会の関心度は上がったのは事実で、それがなければ数字で済まされてしまう可能性はあった。しかし上がった関心が、企業戦士をたたえる方向に陳腐化されて終わってしまい、アラブの春からフランスのマリ軍事介入に至る複雑な事件の背景を考える契機にはならなかった。
  • 一方ネットには、ジャーナリズムが「お涙頂戴の物語を売るために名前をさらしているだけでないか」という強い不信感がある。さらに進んで、「政府が実名を出さないと言っているのに勝手に明かしてけしからん」という意見が大勢を占めている。メディアスクラムが起こって遺族が迷惑したことも、遺族感情を尊重して実名報道を控えるべきだという意見に重みを与えている。各社が横並びで取材するためにメディアスクラムが起こり、報じられている内容がパターン化されたお涙頂戴物語であることで、結局商品を売るために遺族を利用しているだけじゃないかという見方をメディアがされ、政府の方針に従うべきだという批判になっているのであり、この危機的状況をメディアが自己認識しているのかどうかが問題ではないか。
  • メディアの報道内容には細かいクレームをつけるのにネットの情報を無防備に肯定する人々がいるのは、彼らがメディアを、市民の意識や情報をコントロールするひとつの権力だとみなしているからではないか。メディアは事実に肉薄して、伝えるべき情報を責任と矜持を持って伝えてほしい。
  • 遺族感情を大切にする側からは、メディアは信用できず、政府は信用できるということになってしまっている。政府が何のために情報操作をするのかが分かるように見せるのがジャーナリズムの役割なのに、その役割を果たしていないから、ジャーナリズムが信頼されなくなっている。
  • 実名報道と、メディアスクラムとか過熱取材の弊害の問題は、別個の問題として考えるべきである。重大事件での実名報道は事件の全貌をリアリティをもって伝える上で必要だか、被害者・遺族が公表を希望しないときは、プライバシーと公共性の比較衡量の問題になろう。
  • いつ報道するのが適切かという時間の問題もある。
  • ジャーナリズムは権力でもなければ視聴者そのものでもないところにポジションがある。どちらの側からも批判されうるものだという認識が視聴者・読者に希薄になっていることが視聴者意見からうかがえる。

以上

第67回 放送倫理検証委員会

第67回 – 2013年1月

委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」への対応報告書について

第67回放送倫理検証委員会は1月11日に開催された。
委員会が昨年10月に出した委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」に対して当該局から提出された対応報告書を検討した結果、これを了承し、公表することにした。

議事の詳細

日時
2013年1月11日(金) 午後5時~6時
場所
「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」への対応報告書について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、水島委員

■日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』の対応報告書を了承

日本テレビは『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関しての委員会決定第15号を受けて、社としての対応、再発防止策、更には全社的な制作体制の見直しを報告書にまとめ、2012年12月27日、委員会に提出した。
この報告書では事案の発生以降の日本テレビの対応、委員会決定通知後の現場レベルでの話し合い、新しい体制の導入、再発防止のためのベテランによるサポートなど、様々な取り組みがまとめられ、更にすべての番組制作者に向けて、報道、情報、娯楽、スポーツすべてのジャンルでの「めざすべき姿」に向けた放送ガイドラインの全面的な改定に着手したことが示された。
委員会はこの報告書をもとに議論を行い、報告書が今までにないところまで踏み込んで意欲的な対応を示していることを評価し、委員会として了承した。(報告書の全文はこちら[PDFファイル]pdfに掲載)

【委員のおもな意見】

  • この報告には2つの新しい取り組みがある。1つは「演出監修」というベテランディレクターが若手、社外スタッフと同じレベルで相談に乗っていくこと。もう1つは「べからず集」ではなくめざす姿を書こうという放送ガイドラインの全面改定である。これらは今までの対応策と質的に違う。評価してよいと思う。
  • 全面改定される放送ガイドラインが、どういう番組を作るべきかという基本哲学、例外的に許されること、放送倫理上許されないことに分類したうえで、それぞれに事例を多く入れて理解できるようなものに、ほんとうになれば、すごい教科書が出来ると思う。
  • 他局に役員が謝罪に行ったというところがあるが、ここまでやるのかと。それくらい重く受け止めたのだということはよくわかった。
  • 制作会社の社外スタッフを含めて、コンプライアンス研修をするというのは、こうあるべきだと思っていたことなので、これが前例になってくれればよいと思っている。
  • 今までこうあるべきだと思っていたことに踏み込み始めたこともあるので、このあと、どう機能したのか何らかの情報もほしいなとも思う。

以上

第66回 放送倫理検証委員会

第66回 – 2012年12月

iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について、2回目の討議

第66回放送倫理検証委員会は12月14日に開催された。
研究者の虚偽発表であることが明らかになったiPS細胞心筋移植手術実施のニュース報道について、2回目の討議を行った。
移植手術が実施されたことを前提に、朝から夜のニュースまで大きく扱った日本テレビに対して真実と判断した根拠は何だったのかに重点を置いた報告書を求めて議論した結果、審議の対象とはしないことになった。

議事の詳細

日時
2012年12月14日(金) 午後5時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、服部委員、水島委員

■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について、2回目の討議

一部新聞が10月11日、一面トップで報じたiPS細胞心筋移植手術実施の記事は、ふたつの民放局がニュースとして伝え、民放各局のほとんどの情報番組でも、この新聞記事を紹介する形で放送した。その後、このニュースは誤報とわかった。
これらの放送について、前回の委員会では、民放各局の情報番組は基本的には新聞記事を紹介するという枠を出ていないこと、また、短いストレートニュースで伝えたテレビ朝日は研究者が移植を行なったと国際会議で公表したという事実のみの紹介であったことから、いずれも誤報とは言えないとして、前回で議論を終えた。
一方、日本テレビは移植手術が実施されたことを前提として、iPS細胞の作成方法や手術実施の経緯、患者のその後の状態などを、朝から夜のニュースまで詳しく伝えた。そのため日本テレビに対しては、真実と判断した根拠を中心にした報告書を求め、提出された詳細な報告書をもとに2回目の討議を行なった。
報告書には新聞記事をきっかけにした取材の開始から、ニューヨーク支局の動き、本社報道局のデスク、記者、ディレクターらの裏付け取材の内容・経緯が時間を追って具体的に示されていた。
討議の結果、本人以外からの裏付けが取れない状況で、真実であるかのようなニュースを放送してしまったことは問題ではあるが、全国紙の一面トップ記事を時間的制約がある中で後追いするために、担当者たちは精一杯の取材をしていること。疑問を持つべき情報も断片的にはつかんでいたが、放送を踏みとどまるのは難しかっただろうと思われること。誤報に至った経緯の詳細な検証を踏まえて、責任体制の明確化、科学・医療等の専門分野についての専門家見解取材の確認、この誤報についての研修、外部専門家ネットワークの構築、専門記者の育成努力などの対応を自主的にとっていることなどから、審議の対象とはしないことを決めた。

【委員のおもな意見】

  • ニューヨーク取材では、全国紙一面トップの報道、国際会議での展示、本人取材など道具立てが十分揃っている。iPS細胞の専門家でない記者が「これは嘘だろう」と判断するのは、この段階では無理ではないか。また放送前にこれだけのお膳立てが出来ていると、東京でも現場がブレーキをかけるのは難しいのではないか。
  • いくら本人から詳しく情報をとっても、それは裏取りにはならないということを忘れて、伝聞という形を取らずに、真実として放送してしまったところはやはり問題がある。
  • 普通の事象と違って、このニュースは科学的分野なので、記者が簡単に裏取りができるのかどうか疑問だと思う。こうした特殊性の上に舞台がニューヨークだったということもミスの要因だと思う。
  • 全国紙の一面トップということに大きく影響されている。捜査機関が思い込んで、それに反する情報はみんな軽視してしまい、評価を誤るというのは冤罪事件で共通している。思い込みがいかに恐ろしいかということである。
  • このニュース以前から、この研究者のいろいろな記事が新聞に掲載されていた。ところがその時点では誰も問題視していない。そのことも変だと思う。
  • 記者の科学情報に対するリテラシーの問題がある。この発表が演壇上の口頭発表でなくポスター展示という、通常内容審査のない簡易な形式の発表だったことの意味が解っていなかった。山中教授の方法とは全く違う方法でiPS細胞を作って心筋に注入したという発表だが、その方法でiPS細胞を作ったこと自体が、もし真実なら本当に画期的なのだから、それが展示発表のレベルでしか行われていないことに疑いを持つべきだろう。また、全く新しい方法で作ったiPS細胞を、動物実験も経ずにいきなり臨床で使うということに疑問を持たなかったのかということもある。
  • このニュースは専門家の中にも可能性としてあり得ると思った人もいたようだ。そういう意味ではこうしたニュースは特に慎重な報道が必要なのだと思う。
  • 心臓の再生医療の専門家などが懐疑的であることを知りながら、放送に十分反映されなかったことが問題。
  • 誤報原因の詳細な検証をしていることは評価できる。それを踏まえて、一応の再発防止策もとられている。

以上

第65回 放送倫理検証委員会

第65回 – 2012年11月

iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について
尼崎事件の顔写真取り違え問題について

第65回放送倫理検証委員会は11月9日に開催された。
委員会が今年7月に出した日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を検討した結果、これを了承し、公表することにした。
新聞の一面トップの誤報記事が、テレビでも報道されたiPS移植のニュースについて討議した。裏づけ取材の方法から、このニュースを事実と判断した根拠まで、当該2局から自主的に提出された報告書も参考にして、広範な議論が行なわれた。その結果、ニュースとして大きく扱った局に対して、これを事実と判断した根拠の説明を改めて求め、次の委員会で討議を継続することにした。
NHKとすべての民放キー局がミスをした尼崎事件の顔写真取り違え問題についても、写真の入手経路や確認方法について、提出された報告書をもとに討議した。各局とも複数の関係者から確認をとった上で放送していること、間違われた被害者から各局の訂正放送と謝罪を受け入れてこれ以上触れないでほしいという意向が表明されていることから、審議の対象として意見を公表するまでの必要はないという結論になった。しかし、容疑者写真の取り違えは、それ自体が重大な過ちであるので、19年前の古い集合写真から抜き出した顔写真を容疑者の写真として放送することには、たとえ複数の関係者が同一性を認めていても、なお記憶の薄れなどから間違いが起きる危険があることを認識して放送の可否を判断する必要があるので、それを踏まえた再発防止の取り組みを社内で確立しなければならないという委員会の討議結果を、BPO報告などで公表することにした。

議事の詳細

日時
2012年11月9日(金) 午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道の対応報告書を了承
■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について
■尼崎事件の顔写真取り違え問題について
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、立花委員、服部委員、水島委員

■日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道の対応報告書を了承

日本テレビは、 『news every.』 の「食と放射能」報道に関する意見(委員会決定第14号)を受けて、社としての再発防止策を報告書にまとめ、10月30日、委員会に提出した。
それによると日本テレビは、1年余り前、同じ報道番組の「ペットビジネス」事案に続いて類似の過ちを繰り返したことを踏まえて、▽番組制作上の問題点を根本から見つめ直す「番組制作向上委員会」(委員長は大久保社長)を始動させたこと▽従来の取材ハンドブックを発展的に改訂し、各種ガイドラインや社内研修用テキストなどを加えた新しい取材ハンドブックを作成・配布したことなど、多様な改善策を実施している。委員会は、意見書で指摘した過去の教訓を現場で「血肉化」するための取り組みが幅広く進められている点を評価して、この報告書を了承することにした。(報告書の全文はこちらに掲載)

■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について

10月11日、一部新聞が一面トップで報じたiPS細胞心筋移植手術実施のニュースは、その後国際会議でポスター展示発表を行った研究者の虚偽発表であることが明らかになったが、放送局では2局が報道番組で当該研究者のインタビューを含むニュースとして伝え、また、ほとんどの局の情報番組がこの新聞記事を紹介する形で報じた。
ニュースとして伝えた2局のうち、日本テレビは11日朝から夜のニュースまで移植手術が実施されたことが事実であることを前提として大きく扱った。テレビ朝日は当日の夕方ニュースの最後で、国際会議で発表があった事実だけを短く伝えた。
虚偽の疑いがあると判明したあと、2局は13日から15日にかけて、お詫びや報道に至った経緯を説明する放送を行い、その後、当委員会に対して、経緯報告書を自主的に提出した。(新聞記事の掲載前から取材していたNHKは心筋細胞移植手術実施のニュースとしては全く放送せず、12日夜のニュースの中で何故放送しなかったかを説明した。)
委員会では、新聞の特ダネ記事を追いかけて報道する際に、どのような裏づけ取材が行われたのか、事実と判断した根拠はどこにあったのかを中心に、意見交換が行われた。
討議の結果、移植手術実施が真実であることを前提として、iPS細胞の作成方法や手術実施の経緯、患者のその後の状態までニュースで詳しく伝えた日本テレビに対しては、真実と判断した根拠は何だったのかに重点を置いた報告書を改めて求め、次回の委員会で討議を継続することになった。一方、移植を行ったと日本人研究者らが国際会議で公表したという事実のみを短いニュースで伝えたテレビ朝日については、国際会議でそのような公表があったこと自体は事実であるから、あくまでその紹介のみのニュースであれば、誤報とは言えないとして、議論を終えることにした。
新聞の記事の紹介を中心に放送した民放各局の情報番組についても、コメンテーターの解説などに問題点が認められるものの、基本的には新聞で報じられたことを当該の新聞記事を使用して紹介するという枠を出ていないことから、誤報とは言えないとして、議論を終了した。

【委員のおもな意見】

  • この問題は2つに分けなければいけない。ニュースで流したところと、情報番組で新聞の紙面を見せたところと。それは違う性格のものだと思う。
  • 新聞がどんなに大きく報道しようと、自社で内容も確認しないで報道してよいはずがない。
  • 自分が自ら取材に行ったものではなくて、受身から始まる取材に対してどう裏づけを取るかという問題だと思う。自分から攻めて行っていない時のスタンスや対応に弱いところがあると思う。
  • テレビが独自にスクープしてこれは大きな間違いでしたということなら少し違うが、どう見てもこれは新聞の後追いだろう。テレビにもっと裏付けの取材しなさいということは言えるが、それ以上のことは言えない。
  • 間違ってはいけないけれど、間違うことはある。その時に単に反省しましたとか、以後気をつけますということになると、物事がどんどん痩せ細っていくという感じがする。BPOはそうした役割をしているのではないのだからいろいろな対応があって良いと思う。
  • 情報番組は、新聞の記事を紹介しただけでなく、ある種のコメントを重ねている。その部分に関しては番組として見なすべきであろう。情報番組でお詫びしていないのは、自主的自律的な是正が図られていないということではないだろうか。
  • 結局、真実と信じて放送したことにどれだけ合理性のある根拠があったのかということになる。

■尼崎事件の顔写真取り違え問題について

尼崎の連続不審死事件では、活字メディアだけでなく、NHKとすべての民放キー局も、事件とは無関係の人の顔写真を容疑者として放送した。後日、「あの写真は私だ」という女性の訴えが弁護士経由で寄せられ、各局とも間違いを認め、お詫び放送をした。すべての局が全く同じ写真を容疑者の写真だとして間違って使用したという今回のようなケースは前代未聞といえる。
この事件は、その特異性から社会の関心も高く、管轄の在阪局だけでなく、在京局からの応援を含めた共同取材体制が組まれたことから、委員会はキー局と在阪の系列局に対して、写真入手の経緯や放送すると判断した経緯などの報告を求め、それを基に議論が展開された。
各局が入手したのは、同じ集合写真の中から接写したもので、報告書によると、提供者の証言だけでなく、複数の関係者にあたり、「似ている。間違いない」との声が多かったことから、放送に踏み切った局がほとんどである。
しかし、この写真は19年前のものだった。委員会では、いくら複数の関係者から確認をとったと言っても、19年前であれば、当時を知っている人に確認をとっても記憶の薄れがあろうし、最近の容疑者の知人であれば、19年前の容疑者については想像に任せるしかない状況になる。しかも集合写真の小さな画像だったことを考えれば、いっそう同一性の確認は困難であったはずである。複数の関係者への確認作業を行うというマニュアルを守っていても、このケースでは当人かどうかの根拠にはならないのではないか、集合写真から一人を抜き出して拡大した写真を見せて、この人ですかと聞いた局もあったが、その方法では、判断する人を強く誘導する結果になるからそれ自体適切でないなどの意見が出された。
討議の結果、委員会では、ミスが確認された後、各社とも速やかなお詫び放送をし、今回の問題点について自主的に検証していること、また間違えられた当事者が、各放送局の謝罪を受け入れ、これ以上の騒ぎにならないことを望んでいるとのことなどから、審議入りしないこととした。
ただし、容疑者写真の間違いは人権上大きな問題であることを肝に銘じ、今後間違いを繰り返さないために、従来の型通りの手続きや手法だけではなく、何が真の確認になるかの社内議論を深めて、実効性のある再発防止策を確立して欲しいとの要望を、BPO報告やホームページを通じて、各局に伝えることになった。
さらに、委員会では、警察が異例の措置としてメディアに提供した写真を各局とも繰り返し使っているが、裁判員制度に関連して、使い方によっては犯人視報道につながる恐れがある、という意見もあったことを付記して、これを契機に、事件報道における容疑者の顔写真の扱いについて、各局が改めて検討や確認をするよう要望することにした。

■ANN(テレビ朝日系列)中・四国ブロックと検証委員会との意見交換会開催

テレビ朝日系列の中・四国ブロック4局との意見交換会が、10月30日、松山市の愛媛朝日テレビの会議室で行われた。これまで大阪・福岡・札幌で行われた意見交換会は、いずれもエリアの全局が対象だったが、今回のように、ある系列局だけで行うのは初めて試みであった。
放送局側からはブロックの4局から部長クラスを中心に12名、また委員会からは吉岡委員長代行、香山委員が参加した。
意見交換会では、まず両委員から、委員会での論議を通じ、日頃感じている点が紹介された。吉岡委員長代行が、「スタッフが何故今、放送局で働いているのか、何を伝えたいのか。放送倫理はスローガンではなく、その使命から生まれるのではないか」と直近の事例を交えて語り、香山委員からは「ミスは起きることを前提として、些細なミスでも報告しあい、皆で共有することが大切だ」と、自身が属する医療現場で今や常識になっている例を挙げ、グループワークでシミュレーションしていく研修方法が提案された。
これを受けて、各局からは、若いスタッフとのコミュニケーションをめぐる悩みや取材のありかたなどについて様々な意見が出され、予定時間まで活発な議論が交わされた。
各局からは、「意見を交わすうちに熱くなった」「これまで持っていた“高みからの監視機関”という見方が変わった」「エラーを少なくしていくヒントをもらった」などの感想が懇親会などで語られた。
さらに「他系列の局の人が一緒だとなかなか本音は出ないものだが、ここまでさらけ出せたのは気心が知れていたからだろう。こうした形式をどんどん採って欲しい」との声も多かった。

以上