テレビ朝日『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見の通知・公表
上記の委員会決定の通知は、2月9日午後1時15分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、鈴木嘉一委員、藤田真文委員の3人が出席し、当該局のテレビ朝日からは常務取締役ら3人が出席した。
まず川端委員長が「『報道ステーション』のこのニュースの問題意識はジャーナリズムとして正当なものだったが、残念なことに2点について、放送倫理違反があると判断した」と指摘したうえで、問題発覚後の訂正・お詫び放送については、高く評価していることを伝えた。鈴木委員は、今回のテレビ朝日の再発防止策が具体的かつ実践的で、評価していると述べるとともに、委員会決定の末尾に書かれている「視聴者の信頼を回復する道は、前に進むことによって開かれる」を、委員会からのメッセージとして受け止めてほしいと要望した。また、藤田委員は「残念だったのは、ミスに関する情報共有のコミュニケーションが、当日の報道局内でうまくいかなかったことだ。ミスがあったら、その情報を共有して、適切・迅速に対処するという環境作りに配慮してほしい」と述べた。
これに対してテレビ朝日側は「意見書の指摘を真摯に受け止め、今後の再発防止に役立てたい」と述べたうえで、今後は、報道局内のすべての番組で、正確で、公平・公正な報道を徹底するように努めていきたいと述べた。
このあと、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には29社61人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が意見書の概要を紹介したうえで、「この放送自体は、国民の最大の関心事のひとつである、原発の安全基準が適切なものかどうかを追究しようという、報道機関としての役割をきちんと果たしたニュースだったと評価している。それだけに、このような会見内容の取り違えや、不用意な編集のような過ちはしてほしくなかったというのが、正直な思いだ」と述べた。
続いて鈴木委員は「テレビ朝日は『報道ステーション』での再発防止策を、報道局内の他の番組に一律に適用するのではなく、番組ごとに検証して対応を検討している。真摯な取り組みとして評価している。」と述べた。
また、藤田委員は「映像の取り違えについて、放送中に気付いたにもかかわらず、情報が共有されずに対応が遅れたことは残念だ。迅速かつ適切な対応をとることが報道番組の信頼性を担保するうえで必要だということを教訓にしてほしい」と述べた。またメディア間の相互批判や、社会からの批判は、メディアの社会的責任を果たすうえで重要だが、批判の言葉が非常に軽く取り扱われている感じがする。今回の事案でも、ネット上で「捏造」という言葉で語られたりしたが、「捏造」と「誤報」「単純ミス」が混同されて、批判の文脈にのせられることがある。この事案は、誤報や単純ミスはあったが、なかったことをあったかのように報道する「捏造」にはあたらないと認識している。メディア相互で検証する場合には、誤りの程度や根拠を明確にしながら、批判すべきだと感じたなどと述べた。
記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。
-
Q:「空白の3時間」によって、放送まで残り3時間の時点で着手したとなっているが、作業時間として3時間は短かすぎて、原因のひとつになったと考えているのか?
A:その後、多くの人が作業を分担し、ビデオも前半と後半に分けて編集しないと間に合わなかったことなどから考えると、意図した放送をするためには、相当切羽詰まった状況だったと言えるだろう。ただし、この状況でミスしたことが、どうしてもやむを得なかったとは言えないので、放送倫理違反と判断せざるを得なかった。(川端委員長) -
Q:放送での間違いについて、田中委員長が火山の基準についても似たような発言をしているので、一般論として成り立つのではないかというやり取りがあったと記載されているが、似たような発言は本当にあったのか、また一般論として成り立つという点について、委員会はどう考えたのか?
A:会見の中で、それに近い発言もなくはないので、活字の場合なら要約したということで成り立つかもしれないが、田中委員長の音生かしで使用した発言は、明らかに違うところなので、どうみても間違いである。一般論として成り立つのではないかということも「苦しい言い訳」だと、委員会は判断した。(鈴木委員)
A:田中委員長はその後の質疑で、火山の審査基準の見直しの可能性についても回答している。先ほど、ありもしないことを報じた「捏造」ではないと述べたのはその点で、全体的な認識としては誤りではないといえる。しかしVTRで切り取って使用した部分は、火山の基準に関する部分ではなく、間違いなので、放送倫理違反と考えた。(藤田委員) -
Q:意見書では複合的な要因のように書かれているが、これをやっておけば、今回の問題は避けられたのではないかというような、分岐点やポイントがあったのか?
A:B記者は放送を見た瞬間に問題に気付いているので、彼にもっときちんとビデオ部分も見てもらっていれば、間違いは避けられたのではないかと思う。(川端委員長)
A:プロデューサーやニュースデスクが、記者会見ではあまり新しい話は出ないだろうと思って、注意を払っていなかったことが問題だったと思う。B記者や、文字起こしをしたディレクターたちに確認するなどして、会見の内容に注意を払っていれば、火山の問題に質疑が集中したことは把握できただろう。もっと早くチームを立ち上げられれば、VTR編集がこのような追い込みになることはなかったので、分岐点はそこだったかもしれないと思う。(鈴木委員)
A:文字起こしや編集を別々の人間がおこなうなど、役割分担が複雑なので、意見書では図で説明している。報道番組の現場では、時間に間に合わせるために、必然的に起こることなのかもしれないが、このような過度な分業体制は、チームワークの良さでもあるのだろうが、かえってあだになってしまったといえる。ミスはいつでもおこりうると考えると、いくつかのチェック体制をとりながら、例えば文字起こしを担当し、編集に立ち会うディレクターが一貫して同じパートを受け持つことが必要だったのではないか。そのような現場判断の部分が、ミスのひとつの要因ではなかったかと思う。(藤田委員)
以上