第74回–2013年9月>
参院選関連2番組を一括して審議入り
(1)関西テレビ『スーパーニュースアンカー』
(2)テレビ熊本『百識王』
「弁護士紹介の被害者は"関係者"」審議入り
日本テレビ『スッキリ!!』
8月2日に意見書を通知・公表した関西テレビの「インタビュー映像偽装」事案について、当日の報道等の反応を確認し、若干の意見交換を行った。
7月に実施された参議院選挙に関連する2つの番組について、放送の公平・公正性の観点から議論が交わされた。関西テレビのニュース番組は、ネット選挙解禁に関する特集企画で特定の比例代表立候補予定者だけを紹介し、しかも参院選の公示予定日の1か月前を切った時点で放送した。テレビ熊本が投票日当日に放送したバラエティー番組には、比例代表候補者がVTR出演していた。委員会では、選挙の公平・公正性を守るよう要請した3年前の意見書や今年4月の委員長コメントの趣旨が活かされなかったことが指摘され、一括して審議の対象とすることになった。
日本テレビの情報番組で詐欺事件の被害者として放送された人物が、被害者ではなく、番組に出演した弁護士が所属していた法律事務所の事務員だった。委員会は、番組のスタッフが弁護士の紹介というだけで必要な裏付け取材を怠ったことについて、審議することとした。
議事の詳細
- 日時
- 2013年9月13日(金)午後5時~8時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.映像の偽装が発覚した関西テレビの『スーパーニュースアンカー』、意見書を通知・公表
2.参院選の関連企画で特定候補者だけを紹介した関西テレビの『スーパーニュースアンカー』
3.参院選投票日の番組に特定候補者が出演していたテレビ熊本の『百識王』
4.弁護士から紹介された詐欺事件の被害者が別人だった日本テレビの『スッキリ!!』 - 出席者
- 川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員
1.関西テレビの『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見を、通知・公表
関西テレビのローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』の特集企画で、大阪市職員の兼業について証言した情報提供者の映像を取材スタッフを使って偽装し、新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していなかったとして、審議入りした事案。
8月2日、当該局に対して意見(委員会決定第16号)を通知し、続いて公表の記者会見を行った。事務局からの報告のあと、当該局の対応、当日のテレビニュースや新聞記事等の反応を確認しながら意見交換を行った。また、担当委員を講師として当該局で開かれた研修会について、委員からの報告があった。
2.関西テレビのニュース番組のネット選挙特集企画で、特定の比例代表立候補予定者だけを紹介
関西テレビが6月10日の夕方に放送したローカルニュース番組『スーパーニュースアンカー』で、7月の参議院選挙から解禁されるインターネットでの選挙運動を特集企画として取り上げた。この中で、候補者サイドの取り組みの例として、自民党から比例代表選挙の立候補予定者になっていた太田房江元大阪府知事を、インタビューを交えて約2分間紹介した。
民放連の放送基準第12項は、「選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」と規定し、その解説文のなかで、公示(告示)の1か月前を目安とするよう指摘している。参議院選挙の公示予定日の7月4日まで、すでに1か月足らずとなっていた。放送後、当該局の報道局内部から疑問の声があがり、1週間後の同番組内でお詫び放送を行った。
委員会では、民主主義の根幹である選挙について、放送の公平・公正性の確保に努めるよう、3年前に出した「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)や、今年4月に公表した委員長コメントなどで繰り返し指摘してきた。しかし、それが放送現場に十分浸透していないことが明らかになったことから、審議の対象とすることを決めた。
【委員の主な意見】
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ネット選挙の解禁をわかりやすく、面白く伝えようとするあまり、選挙に関する報道は公平公正にやるべきだという基本中の基本が、いつの間にか忘れられていたのではないか。
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3年前の意見書では、当該局だけでなく、各局でも参考にして役立ててほしいとの思いから、選挙の意義まで丁寧に記載している。それにもかかわらず同様なミスが繰り返されるということは、第三者機関として当委員会が活動してきたことが、役立っていないということになるのではないか。
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選挙の取材をするなら、まずは選挙の仕組みをきちんと勉強してほしい。記者のレベルが低下しているということなのだろうか。
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企画の提案から取材・編集の過程で、放送の公平・公正性に問題があることを誰ひとり指摘せず、放送されてしまったことは何を示しているのか。報道の現場で何の議論もなかったとしたら、問題は深刻だ。
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問題は、放送が公示日の1か月前を越えるかどうかではなく、放送基準でいう「選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」に抵触するかどうかという原則が、きちんと理解されていないことにある。マニュアル的に、公示日まで1か月程度ならいいだろうという思考方法では困る。
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同じような過ちが繰り返されることを心配して、参議院選挙を前にした今年4月に「委員長コメント」を出して注意喚起をおこなったのに、全く活かされていないことが残念でならない。
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テレビは影響力が強いのだから、選挙の公平性を保つためには、もっと細心の注意を払わなければいけないという感覚をもってほしい。
3.テレビ熊本が参院選投票日に放送したバラエティー番組に、比例代表選挙の特定候補者がVTR出演
テレビ熊本は、参議院選挙投票日(7月21日)の午前9時30分から10時まで放送したバラエティー番組『百識王』で、各界の著名人たちのユニークな手帳活用法を紹介したが、この中に、自民党の比例代表選挙候補者の渡邉美樹氏が約2分間VTR出演していた。
この番組はフジテレビが制作したもので、関東エリアでは、渡邉氏が立候補表明をする前の4月16日に放送された。この番組を購入したテレビ熊本は、放送前に担当者がチェックしたが、渡邉氏が候補者であることに気がつかなかった。候補者の情報は報道セクションでは把握されていたが、全社的な情報共有はされていなかったという。
委員会は、この事案についても、放送の公平・公正性が確保されていなかったとして、関西テレビの事案と一括して審議の対象とすることを決めた。
【委員の主な意見】
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民主主義の根幹をなす選挙、とりわけ国政選挙について、放送局の人間である以上は、報道セクションに直接関係していなくても、どの政党からどんな候補者が立候補しているかの情報は知っておく必要があるのではないだろうか。
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話題になった候補者のひとりだから、きちんとテレビや新聞に目を通していれば、報道以外の人であってもチェックできたと思うのだが。
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この番組は、何年間も東京より3か月遅れで放送しているとのことだが、今の時代に3か月も時期がずれると、番組のテーマや、出演者の服装・季節感などに違和感はないのだろうか。
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キー局の放送から3か月後の放送となったのは当該局の事情であり、番組を制作して販売したキー局には責任はないと考えるべきだろう。
4.日本テレビの情報番組が特集した詐欺事件の被害者は、同じ番組に出演した弁護士の法律事務所の事務員
日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』が、昨年(2012年)2回にわたりインターネット詐欺を特集した際、その被害者として出演し、詐欺の手口や被害の実態などを語った男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だった。
昨年の2月29日放送の「悪質出会い系サイトの実態」には女性の被害者が、6月1日放送の「サクラサイト商法に注意」には男性の被害者が、顔を出さずに声も変えて登場した。この2つの特集は、別のディレクターが担当したが、いずれもこの番組に出演した同じ弁護士からの紹介だったため信用して、裏づけ取材や、人物の身元確認をきちんとしないまま出演させていた。
被害者として取材を受けた2人の話す内容が、具体的で詳細だったため、番組のほかのスタッフも被害者ではないことに気付かないまま放送してしまったという。
今年の7月になって、出版社からの取材があり、日本テレビ側が弁護士に面談して確認したところ、弁護士は虚偽の紹介をした事実を認めて謝罪した。日本テレビは7月19日、放送の誤りを認め、詳細なお詫び放送を行った。
委員会は、真の被害者ではない別人を、ただ弁護士の紹介だけで信用し、必要な裏づけ取材を怠り、しかも2回にわたって放送したことは放送倫理上問題があるとして、審議の対象とすることにした。
【委員の主な意見】
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取材が容易ではないテーマの専門家を探すとき、安易にネットでの検索や知人からの紹介に頼っており、取材者としての基本を知らなすぎる。
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専門家を探すように指示した現場の上司は、具体的にどのような指導をしたのか。指導の役割をきちんと果たせる人はいるのだろうか。
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専門的な分野について、専門知識に基づいて、一般の人にうまく説明できる適切な人物を探す能力、そのために人脈を形成しておく能力が欠けていると言えそうだが、現場の人にそれを求めるのは難しいのだろうか。
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ある弁護士が信頼できるかどうかは、弁護士事務所のホームページがどのようなつくりになっているかが参考になる。過去の実績を誇示するなどして顧客を誘っている場合には、無条件に信用しないほうがいいかもしれない。まっとうな弁護士なら売り込みばかりのホームページは作らない。
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情報番組が扱える範囲というものを、もう少し考えてもいいのではないか。専門性が高い問題を扱うのは、制作現場の厳しい現実を考えると、ハードルが高すぎるのでは。
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弁護士は業務上、クライアントの本人確認をやらざるを得ないから、取材者は、被害者の身元について弁護士から十分確認できたはずである。しかし、そのチェックを怠っていたため、こうしたことになってしまった。
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過去にも類似した例があった。こうした問題が繰り返されるのは、特定の局に固有の問題なのか、それとも放送局全体に共通する問題なのか。
以上