放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第75回

第75回–2013年10月

「他局の取材音声を、無断受信して使用」鹿児島テレビ2つのローカル番組審議入り決定

参院選関連の2番組、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本『百識王』、局のヒアリングを基に審議

「弁護士紹介の被害者は"関係者"」日本テレビ『スッキリ!!』、局のヒアリングを基に審議

第75回放送倫理検証委員会は10月11日に開催された。
今夏の参議院選挙をめぐって、選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議入りした、関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(ネット選挙解禁に関する特集企画で、特定の比例代表立候補予定者だけを紹介)とテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(投票日当日の放送に、比例代表候補者がVTR出演)の2つの番組について、担当委員からヒアリングの概要が報告された。
弁護士から紹介されたネット詐欺の被害者が別人だったのは裏付け取材が不備だったためとして、前回の委員会で審議入りした日本テレビの情報番組『スッキリ!!』についても、当該局に対するヒアリングの概要が報告された。
高校の男子新体操部を紹介した鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』で、他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し使用していたことが判明した。無線通信を傍受して使用することを禁じた電波法に違反する疑いもあり、なぜこうした不正な取材が行われたのか、審議入りして関係者へのヒアリングを行うことになった。

議事の詳細

日時
2013年10月11日(金)午後5時~8時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員、森委員

1.選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議入りした参院選関連の2番組、関西テレビの『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本の『百識王』

インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党から比例代表選挙の立候補予定者になっていた太田房江元大阪府知事だけを紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、参議院選挙投票当日の午前中に放送した番組の「大企業のトップが持つ手帳」というコーナーで、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補がVTR出演していた、テレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2つの番組を、前回の委員会で一括して審議の対象とすることとした。
10月初旬、2つの放送局の関係者あわせて10人を対象にヒアリングが行われ、その概要が、担当委員から報告された。
関西テレビの『スーパーニュースアンカー』については、「選挙に関連する特集企画の中で特定の立候補予定者だけを取り上げることについて、担当していた記者やデスクたちは、その放送が選挙の公平・公正性に影響を与える可能性について、どう認識していたのか」「民放連の放送基準をどう理解していたのか」などについて、ヒアリングの結果を踏まえて議論が交わされた。またテレビ熊本の『百識王』については、「なぜ、放送前のチェックの際に、候補者の出演に気づかなかったのか」について、社内でのチェック体制や立候補者情報の共有状況なども含めて審議された。
今回の議論をふまえて、次回委員会では、担当委員が意見書の原案を提出し、さらに議論を深めることになった。

2.弁護士が紹介した詐欺事件の被害者が別人だったのは、裏付け取材が不備のためとして審議入りした日本テレビの『スッキリ!!』

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして、前回の委員会で審議入りした事案。
10月初旬、当該番組の取材ディレクターやプロデューサー、それに情報カルチャー局の幹部やコンプライアンスの担当者など、あわせて11人を対象にヒアリングが実施され、その概要が、担当委員から報告された。
「なぜ被害者の人物を特定する質問を十分に行わず、免許証などによる本人確認をしなかったのか?」「なぜ被害事実の存在についての裏付け取材をしなかったのか?」「被害者を本物と信じたのはなぜか?」「弁護士を信用した背後にどんな事情があったのか?」「弁護士の紹介であることは、その内容が信じられる合理的な理由となるのか?」などを中心に、詳細で具体的な報告に基づく活発な議論が行われた。また、担当部局が異なるとはいえ、当該局で続発した類似事案の反省と教訓から講じられた再発防止策などについての説明もあった。
その結果、事実関係はほぼ明らかになり論点も整理できたとして、次回委員会に担当委員が意見書の原案を提出することになった。

3.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用した鹿児島テレビの2つのローカル番組

鹿児島テレビは、高校総体をめざして練習に励み、見事に出場を果たした鹿児島市内の高校の男子新体操部を、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』(6月29日放送)で紹介した。その際、練習する選手を激励する監督の声もたびたび放送されたが、あわせて10か所で約2分間紹介された監督の声は、他局の取材音声を無断で受信・録音したものだった。
取材したのは関連会社から派遣されたディレクターで、他局が監督に着けてもらったワイヤレスピンマイクの音声を、共同取材のような感覚で、カメラマンと音声マンに傍受するよう指示していた。監督との人間関係が築けていなかったため、自局のワイヤレスピンマイクも着けてもらうよう依頼できなかったという。電波法59条は、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受して窃用することを禁じている。放送局が取材で使うワイヤレスピンマイクの周波数は一定の範囲内に限定されており、チャンネルを切り替えると容易に傍受できる構造になっている。
委員会は、不正な方法で取材したうえ、それを放送で使用したことは悪質で、放送倫理上も許されない行為であるとして審議の対象とすることとし、まず、ディレクターら関係者へのヒアリングを行うことになった。

【委員の主な意見】

  • 監督との人間関係が築けていなかったということだが、監督からは正式に許可を得て取材しているのだから、どうしてその時にピンマイクを着けてほしいと頼まなかったのか、理解に苦しむ。
  • このディレクターの手法は、明確な違法行為と言わざるを得ない。取材者としての職業倫理にも関わる問題だけに、どのような社内教育が行われているのかを確認する必要があるのではないか。
  • カメラマンや音声マンは、ディレクターの指示に疑問を感じながらも結局は反論することなく指示に従っている。現場の力関係の中では、それは間違いだということは難しいのだろうか。
  • その気になれば誰でも簡単にできそうなことだけに、なぜ不正な行為が行われたのかをきちんと検証するべきだ。そのためには、関係者へのヒアリングも実施する必要がある。
  • 当該局は総務省へ報告し総務省の調査も行われているようだが、委員会は、それとは関係なく、あくまでも放送倫理の問題として議論を進めていくべきだろう。

以上