委員長談話

インターネット上の情報にたよった番組制作について

2017年9月8日 放送局:フジテレビ

放送倫理検証委員会
委員長 川端和治

 最近フジテレビの2番組で、インターネット上の情報・画像に依拠して番組を制作した結果、事実ではない発言を事実として辛口のコメントを加えたり、実在しない商品を紹介するという事案が発生した。いずれも事実ではない放送であるから放送倫理違反があることは明らかであるが、インターネット上のもっともらしい情報を真実と信じてしまったという不注意からの過誤であり、誤った内容は、過去に何度か引退表明と撤回を繰り返したことが広く知られているアニメ映画監督についての事実ではない引退宣言集と、珍しい味が売り物のアイスの実在しない味のパッケージ画像であるから、それ自体はそれほど重大とは言えない。その上、虚偽の発言集を放送された本人のプロダクションや実在しない商品を発売したと報じられた会社は、この過ちを問題としておらず、また番組を制作したフジテレビは、直ちに訂正と謝罪の放送を行い、過ちが発生した経過と原因を検証した上で、再発防止策を講じている。委員会はこれらの点を考慮して、審議の対象とはしなかった。しかし、この2つの事案は、番組制作にあたり、まずインターネット上の情報を利用することが広く行われている現状で、十分な裏付け取材なしにそれを利用することがあれば、同じ問題が他の局でも発生する可能性があることを示したものと言える。かつて委員会が公表した「情報バラエティー2番組3事案に関する意見」(委員会決定第12号)は、インターネットで探し出した出演者の話の裏付け取材をしないまま、それを事実と思い込んで制作された番組についての事案である。今回の事案は、専らインターネット上の情報だけにたよって番組を制作したという点でそれと異なっているが、それだけに一層、インターネット上の情報を利用するときのリスクを明確に示していると言える。そこで、番組制作にあたってインターネット上の情報を利用するときに起こりがちな問題点について注意喚起するために、委員長として談話を発表することにした。
 まずはじめに、この2つの事案を他局での研修の際に事例として参照できるようやや詳しく内容を紹介した上で、どのような対策を講じるべきなのかについて考えることとしたい。

1. 宮崎駿氏の事実でない引退発言集の放送

 2017年5月28日、フジテレビは情報バラエティー番組『ワイドナショー』で、宮崎駿氏の引退宣言撤回をとりあげた。宮崎氏がこれまでに何度も引退宣言しては撤回しているとして、1986年公開の「天空の城ラピュタ」から2013年公開の「風立ちぬ」まで、7本の作品制作後の引退宣言を一覧できるフリップを使い、引退表明と撤回を繰り返したことについてコメンテーターが辛口のコメントを加えた。ところが放送直後に、これはネットで流布している「嘘ネタ」であり、本人の発言ではないとの指摘があり、フジテレビも「宮崎氏本人の発言ではなかった」として訂正・謝罪した。
 放送に至った経緯は、フジテレビの委員会に対する報告書によれば次のとおりである。

 この引退発言集のフリップは、インターネット上の記事から担当アシスタントディレクター(以下「担当AD」)が作成したものであった。その後、このフリップの内容を、担当ディレクター、総合演出、チーフプロデューサー、コンプライアンスプロデューサー(以下「コンプラP」)、出演者担当プロデューサー(以下「出演者担当P」)が確認し、インターネット上の情報のみで構成されていることを認識した。その上で、宮崎氏が引退発言を何度か繰り返したことは本人も認めていること、フリップに記載された発言内容はネット上に多数出ていること、宮崎氏が引退宣言を撤回して新作長編アニメの制作を始めたというニュースの一部であることから、発言内容の真偽に些少の違いがあってもニュースそのものの正当性に大きく関わる問題ではないと判断した。ただ情報が誤っていた場合の対策として、当初「宮崎駿 引退宣言集」となっていたフリップのタイトルを「宮崎駿 引退宣言!?」に改め、「放送上の表現として真実とは断定していない、ということを提示するという」対応をした。また総合演出、出演者担当Pは、最終的な放送の可否の判断をコンプラPに委ねた。コンプラPは、時間的な制約があってより確度の高い情報源を見つけ出すことが困難であり、インターネット上の情報であることだけを理由にこのニュースをカットして再作業することにより納品期限に遅れ、生送出することになるのは避けたいと考えて、そのまま放送することを決定した。

 以上のフジテレビの報告書を読んで真っ先に疑問になるのは、意識されていた問題点が、情報源がインターネット上のみにあり、それでは信用性に問題があるという事だけであったことである。そのために、より信用できる紙媒体と紐付いているものをインターネットで探そうとしたが時間切れになったというのである。しかし、これだけ多数の人間が関わっていながら、「人生で最高に引退したい気分」「100年に一度の決意」「ここ数年で最高の辞めどき」「出来は上々で申し分の無い引退のチャンス」という発言が並べられているのを見て、これは引退発言としてはどれもおかしいと思わなかったのだろうか。まして、発言者は、職人肌の生真面目な仕事ぶりで知られるあの宮崎氏なのである。
 実は、ネットで流布している宮崎氏の引退宣言集は、2013年9月1日にA氏がツイッターで
 86年ラピュタ「人生で最高に引退したい気分」
 92年紅の豚「86年を上回る引退の意思」
 97年もののけ姫「100年に1度の引退の決意」
 04年ハウル「ここ数年で最高の辞めどき」
 13年風立ちぬ「出来は上々で申し分の無い引退のチャンス」
と、つぶやいたのが拡散したものである。
 これは、当時、毎年それまでにない出来であるかのようなキャッチコピーをつけて売り出すことで評判になっていたボジョレー・ヌーヴォーの宣伝文句をもじってA氏が創作したもので、宮崎氏の実際の発言とは全く関係がないものであった。そのことがはっきり判るのは2013年の引退宣言が「出来は上々で申し分の無い引退のチャンス」とされていることである。宮崎氏は、2013年の「風立ちぬ」の公開後、引退声明を公表し同時に長時間の記者会見を行っており、そのいずれもがインターネットで容易に確認できるが、そのなかのどこにもこのような発言はない。あるのは加齢による衰えから長編アニメの制作はやめざるをえないという意思表示であり、この発言集にあるような祝祭的な気分はうかがえない。そもそもフジテレビのこのニュースは、宮崎氏の引退撤回と新作長編アニメ始動を報じるもので、番組の中で2013年の引退記者会見での発言も紹介しているのだから、まず、そのときの引退声明と記者会見の内容をきちんと確認していなければならなかったはずである。そうしていれば、フリップにある2013年の引退声明が明らかに事実に反していることに気づいたと思われる。
 また、フジテレビのフリップは、1992年「紅の豚」公開時の引退表明を「アニメはもうおしまい」としており、A氏のツイッター発言とは異なる。フジテレビの報告書によれば、これはニュース情報サイトであるビジネスジャーナル上の記事に依拠するもので、事実この記事では「紅の豚」のあと「やりたいことはやった、アニメはもうおしまい」という発言があったと記載されている。しかしこの記事は、「2ちゃんねるやツイッター上では『引退詐欺』の常習犯だとして、次のような"コピペ"が出回っている」として、つまりそれ自体として信用性が保証されていないという前提で、一連の引退発言を紹介しているのであり、しかも、その発言のどれひとつとしてA氏の発言集に一致するものはない。フリップを作成した担当ADは、二組の異なる事実がネットに出回っていることを認識したはずで、こういう場合、そのどちらが信用できるのか、あるいはどちらも信用できないのかが判明するまでは放送できないと判断するのが常識的だろう。ところがフジテレビのフリップは、「紅の豚」の際の発言はビジネスジャーナルの記事を採用し、また「もののけ姫」の際の発言については、A氏の「100年に1度の引退の決意」とビジネスジャーナルの「これを最後に引退」という記事を足して2で割って「100年に1度の決意。これを最後に引退」という発言があったとし、その他の発言は、A氏の発言集を使っている。これでは、情報の信憑性についていったいどんな根拠で判断をしたのかと問われても仕方がないだろう。なお2008年の「崖の上のポニョ」の後の「引退宣言」はA氏の発言集にはなく、フジテレビの報告書は、出所をNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』としているので、密着ドキュメントの撮影中の発言と思われる。
 さらに問題なのは、フジテレビの報告書を読む限り、放送前に誤りが判明する契機になったと思われる上記のような疑問に、放送後に検証を行った際にもまったく気づいていないと思われることである。フジテレビの報告書によれば、この番組の制作を行った第二制作センター内では、委員会が2011年に発表した 「若きテレビ制作者への手紙」を参考にしてネット上の情報のみに基づいて放送することを禁止するルールを作り、周知徹底してきたということであり、そのためこのルールがあることを知りながら、番組の放送を優先したというコンプライアンス違反を専ら問題にすることになったようである。
 しかし、そもそも「若きテレビ制作者への手紙」は、ネット情報のみに基づいて放送することを禁止するものではない。ここで委員会が述べたのは、インターネット上に出ている情報には不確かなものが多いから、たとえバラエティー番組でも情報を見せるときにはウラ取りをしなくてはいけない、インターネットにあふれかえる情報の中から正しい情報を選り分けるのは大変だが、そこを「いいかげん」にやってしまうとテレビ番組が誤った情報を「拡散」してしまいかねないので、慎重にいかなければならない、というアドバイスなのである。
 たしかに禁止してしまえば、インターネット上の情報のみに基づく放送であることから起こりうる間違いは根絶されるだろう。しかし、インターネット情報の検索が欠かせない手段になっている今日の社会で、このような禁止をしても、今回の番組制作のように、それは必ず侵犯され、誤りを引き起こすだろう。必要なのは禁止ではなく、正しい情報を選り分けるための能力の涵養であり、おかしいのではないかと疑問を持つ感性を身につけることなのではないか。そして疑問が残るときには放送しないという判断が許される番組制作の体制を構築することだろう。それをどうやって実現するのかを問わない限り、同様の問題が繰り返されることになるだけであろう。

2. 実在しないアイスのパッケージ画像の放送

 2017年6月6日、フジテレビは情報番組『ノンストップ!』で、B乳業の「ガリガリ君」を紹介した際、季節限定商品として「火星ヤシ」味のアイスの商品画像を使用したが、これは実在しない商品のパッケージ画像を何者かが作ってネットに掲載したものであった。
 放送に至った経緯は、フジテレビが当委員会に提出した報告書によれば次のとおりである。

 『ノンストップ!』は「人気アイス特集」の放送をすることを決め、そのなかでB乳業の「ガリガリ君」も紹介することにして、工場の内部映像、CM動画の提供を受けたが、ディレクターが、「ガリガリ君」の期間限定商品のパッケージ画像はネット上から取るよう指示されたものと誤認し、また編集オペレーターから画像が足りないと指摘されたため、アイス関連のまとめサイトから「火星ヤシ」味を含むパッケージ画像をダウンロードし画像オペレーターに渡した。放送時間が迫っていたため、画像の真贋の確認までには気が回らなかった。火曜日担当のプロデューサー、映像加工が適切かどうかのチェックを担当するプロデューサーがVTRをチェックしたが、映像処理が適切に行われているのかについてのチェックに意識が集中し、権利者からの許諾の確認や、画像の真贋については確認しなかった。

 この事案の最大の問題は、誰も「火星ヤシ」味のアイスという商品の実在性に疑問を持たなかったことだろう。確かに「ガリガリ君」は、ナポリタン味など、アイスとしては普通考えられない味の商品を発売してきたことで知られているが、いずれも実在する食品の味であって、実在しないことが明らかな食品の味のアイスではない。もし仮にB乳業が実在しない食品の味のするアイスを本当に発売することにしたのであれば、それ自体がニュースであり、どんな味のするアイスなのかを番組で特別に紹介するくらいの価値のある出来事であろう。当然B乳業に取材することになったはずである。ところが制作に関与した人々の念頭にあったのは、放送日までに商品パッケージ映像の数をそろえるという事だけであり、その商品自体には関心が無かったために「火星ヤシ」味という、誰が聞いてもあり得ない商品を実在するかのように紹介してしまったものと思われる。
 フジテレビの報告書によれば、この番組を制作した情報制作局は「確認もせずにネットの画像を使うのは、落ちているものを拾って食べるのと同じこと」という強烈な言葉でネット情報を鵜呑みにする危険性を研修しているということだが、この番組を制作したディレクターは、インターネットにアップされた画像を使う場合本人の許諾を取る必要があることや事実関係を確認する必要があることなどの、インターネット取材のリテラシーを一応身につけていたが実践できなかったという。
 フジテレビは、再発防止策として、インターネットから動画や画像をダウンロードしたり、情報を引用したりする場合は、当該画像・映像の真実性は確認できているのか、当該画像・映像は引用・報道利用にあたるのか、あるいは著作権者からの許諾があるのかについてプロデューサーなどのチェックを受けることを徹底するというルールを作ったということだが、放送までに厳しい時間の制約のある現場で、このルールが実効性を持ちうるのかは疑問が残る。まさにこの事案が示しているように、真実性に疑いをもってない人々にとっては、チェックを受けることは、単なる形式であり余計な負担としてしか意識されないであろうからである。

3. 番組制作時のインターネット情報利用について考えるべきこと

 番組の制作にあたりインターネット上の情報を検索して利用すること自体は、現在の社会では避けることが出来ない。それなしでは仕事が非効率的になって進まないからである。問題は、虚偽の情報が、悪意でそれを広めようとしている人だけでなく、罪のないジョークやネタとして掲載され、面白いと思われれば直ちに拡散されるというインターネット上の情報の特質にある。誰も情報の拡散やそれを利用して加工した情報の発信にあたって真実性のチェックをしていないので、インターネットは、貴重な情報に容易にアクセスできるきわめて有用な場であると同時に、一見もっともらしくても真実性の保証のない情報があふれる場でもあるのである。
 従ってインターネット上の情報の利用にあたっては、その真贋を見極めて使うというリテラシーが必要となる。
 まずなすべきは、そのサイトあるいは発信者が信用できるかどうかというチェックであり、そのためには相当な知識と経験が必要となる。しかし信用できそうに見えるサイトや発信者であっても、真実性についてどれだけ吟味しているかは不明なのであり、この点で、全国紙の記事が校閲の専門家によってチェックされているなど、活字メディアの記事が程度の差はあれ、校閲担当者によるチェックを受けているのとは全く異なる。
 そうなると裏付け取材が必要となるが、インターネット上の情報は容易に拡散されるという特質があるから、いくら同じような情報が他のサイトにあっても、その数は真実性の保証とはならない。従って裏付けはインターネット以外の場で行わなければ確実ではないということになる。しかしそれには時間と手間がかかるので、テレビ番組の制作のように時間の制約がある場合には、なかなか実行できないであろう。現に、このフジテレビの事案でも「納品期限」が優先されてしまっている。
 この事案が示したように、いくら包括的な禁止条項を並べても、それが制作現場の実情に合わなければ実行されないのだから、まず必要なのは、制作現場の担当者が、その情報自体について、疑わしいのではないかというレベルの判断ができる能力ではないだろうか。その疑問が持てれば、追加取材をしたり、社内の専門家に問い合わせをするだろうし、その余裕のないときには、このままでは放送できないという判断ができるようになるだろう。しかし、このレベルの能力といえども一朝一夕で身につくものではない。第一歩として始めるべきなのは、制作する番組について、どんなに時間に追われていても、真実でないことが紛れ込まないよう手抜きをせずに注意し考えるという習慣を身につけることであり、疑問が生じたときは疑いが解消するまで放送するべきではないという声をあげる強さを一人ひとりが持つことだろう。放送局が行うべきなのは、それを身につけさせるための実践的な研修と、疑問を提起できる制作体制と職場環境の構築であろう。
 放送倫理検証委員会は、その発足直後に公表した最初の見解で「番組は、もっとちゃんと作るべきだ」という委員の発言を、委員会の総意として記載している。この見解が出された10年後に、また同じ事をコメントしなければならないというのはまことに残念である。もっと制作現場の一人ひとりが、番組制作者としての誇りと矜恃をもって仕事をして欲しいと思う。
 委員会は、「若きテレビ制作者への手紙」で「必要なのは、やはり『強さ』ではないだろうか。時間に追われていても情報を慎重に扱う強さ、出演者に対する礼儀正しい強さ、自分の仕事に最後まで責任を持つ強さ……。それを支えるのは、きみの番組を楽しみに待っている全国の視聴者なのだ」と書いた。6年前の手紙だが、現在のテレビ制作の現場にもまだ必要な手紙であろう。この談話の末尾に再掲することにしたので、ぜひ各局の研修で役立てて欲しい。

以上

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第117回 放送倫理検証委員会

第117回–2017年7月

ネット情報を誤引用したフジテレビ『ワイドナショー』『ノンストップ!』を討議など

沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りしている東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、特集を取材・制作した制作会社に追加の質問項目を送り、再度ヒアリングへの協力を求めたところ、その回答が文書で寄せられた。担当委員から今回の回答のポイントについて説明があり、委員会が行うべき検証や調査の具体案など、今後の審議の進め方について引き続き議論が交わされた。
多摩川の河川敷で生活している男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして審議入りしているTBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』について、担当委員から意見書原案が提出された。意見交換の結果、担当委員が修正案を作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。
真偽を確認せずに誤ったネット情報を放送した、フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』および同局の情報番組『ノンストップ!』について討議が行われた。その結果、ふたつの番組を審議の対象とはしないが、テレビの番組制作におけるネットの安易な利用という根の深い問題が背景にあるとして、「委員長コメント」を出し注意喚起を行うことになった。

議事の詳細

日時
2017年7月14日(金)午後5時00分~7時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、神田委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、2017年1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の米軍基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集し、「反対派が救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。委員会は2月、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この番組は、TOKYO MXは制作に関与していない「持ち込み番組」であるため、TOKYO MXを通じて、特集を取材・制作した制作会社に質問事項を添えた文書でヒアリングへの協力を求めている。最初の質問事項に対しては文書で回答があったので、これについていくつかの追加の質問項目を送り、再度ヒアリングへの協力を求めたが、その回答が文書で寄せられた。担当委員からは今回の回答のポイントについて説明があり、あわせて今後どのような検証や調査を行うかについても具体案に沿って意見交換が行われた。そして、それらの検証や調査も踏まえ、担当委員が次回委員会までに意見書の原案を作成することになった。

2. ホームレス男性の特集で不適切な表現や取材手法があったTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』を審議

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』で1月31日に放送された「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に、取材対象者に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして、委員会は4月、審議入りを決めた。
TBSテレビには、5月に関係者ヒアリングを実施した後、取材ディレクターがホームレス男性に依頼した具体的な内容や状況、別の男性への取材内容や流れを確認する追加質問を行っていたが、その回答について報告があった。その上で、担当委員から、同番組の制作体制や放送にいたった経緯、問題の原因・背景を踏まえた意見書の原案が提出された。委員会では、意見書の構成やどのような点にポイントを置くかなどについて意見交換が行われ、それらの議論をもとに担当委員が意見書の修正案を作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。

3. ネット情報を誤引用したフジテレビ『ワイドナショー』『ノンストップ!』を討議

フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』は、5月28日、ジブリの宮崎駿監督が過去に何度も引退を表明しては撤回したとして、同監督の引退表明歴をフリップで紹介し、それをもとにスタジオで出演者がコメントしたが、このフリップはネット上に掲載されている誤った情報を転用したもので、「実際には宮崎氏の発言ではなかった」として6月4日の番組内と番組ホームページで謝罪した。
また、同局の情報番組『ノンストップ!』は、6月6日、人気アイス特集のコーナーで「ガリガリ君」を紹介した。この中で季節限定商品の1つとして、「火星ヤシ」味のアイスのパッケージ画像を放送したが、これは実在しない商品であり、ネットに掲載されていた画像を真偽を確かめないまま使用したものだった。フジテレビは、翌日の番組内で謝罪を行った。
ふたつの事案に対し、委員会では「ほかの局の番組制作現場でも同じ状況があるのではないか」、「根が深い問題で今後も同様の事案が頻発するおそれがある」などの意見があがった。また、「番組制作のためのリサーチがネットからスタートする現状では、リサーチする人がどういうネットリテラシーを持つべきかを改めて考える必要がある」、「2011年に公表した『若きテレビ制作者への手紙』の中の『便利の落とし穴にはまらないで』で、番組制作のためのネット利用についての注意喚起をしたにもかかわらず、指摘したことがそのまま起きている」という指摘もあった。
討議の結果、ふたつの番組は、放送倫理違反があると認められるものの、間違った内容それ自体は大きな問題とはいえず、当該放送局によって適切なお詫びや再発防止策の策定が自主的・自律的になされているので審議の対象とはしないが、テレビの番組制作におけるネットの安易な利用という根の深い問題が背景にあるとして、「委員長コメント」を出し注意喚起を行うことになった。

以上

2017年5月30日

在京局と意見交換会

放送倫理検証委員会が2月に公表した決定第25号「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」に関連して、委員会と在京局との意見交換会が、5月30日に東京・千代田放送会館で開催された。民放6局とNHKの計7局とオブザーバー参加の民放連から合わせて20人、委員会側からは川端和治委員長、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員、藤田真文委員が出席した。
概要は以下のとおり。

冒頭、川端委員長が、「選挙に関する報道と評論を放送するのは、有権者に投票する際の判断材料を提供するためだ。正しい情報に基づいた選択が行われなければ、民主主義は正しく機能しない。量的な公平性を守っているだけでは、有権者は必要な情報を得られず、投票率も下がってしまう。法律では、虚偽でない限り、そして選挙運動にならない限り、選挙に関する報道と評論の自由が保障されているのだから、候補者や政党の主張を単に横並びに伝えるのではなく、ファクトチェックをして、有権者に有用な情報を伝えるのはメディアの重要な役割であり、そこで働くジャーナリストの使命だ」と、意見書を公表した目的について総括的に解説した。続いて斎藤委員が、「去年の参議院選挙の放送では、何が争点なのかを提示する放送局の機能が弱くなっているように思った。政党が言っていることをそのまま流すならば、放送局側に能力は必要ない。選挙のあと、『改憲勢力が3分の2になった』と各局が報じたのに、選挙前・中は『争点は改憲勢力の議席数だ』という放送はほとんど見られなかったように思う」と述べたうえで、「こういう時こそ原点に戻って、表現の自由は何のためにあるのか自問自答しながら仕事を進めていくべきだと、自戒を込めて考えている」と、同じジャーナリストとして参加者へのメッセージを伝えた。渋谷委員は「放送局は政治に関する多様な情報を市民に伝えるべきなのに、萎縮と忖度によって先細りになっているのではないか」と、視聴者としての感想を述べたうえで、専門の憲法学の立場から、去年の参議員選挙と東京都知事選挙の放送の具体例に触れながら「政見・経歴放送に量的公平性は求められているが、それ以外の選挙に関する報道と評論は自由なのだから、その自由を最大限にいかして、国民に必要だと放送局が考える情報を自律的かつ重点的に放送すべきだ」と話した。藤田委員は「公職選挙法は151条の5で選挙運動放送を禁止しているが、それ以外の放送は禁止していない。それなのに放送局は公職選挙法を『べからず集』だと誤解しているのではないか」と指摘した。そして、「候補者が実現できない政策を掲げて立候補した場合、『それは不可能だ』と放送局が指摘することは許される。都知事選挙の際に各放送局に方針を尋ねたところ、自主的にそれぞれの考え方に基づいて放送していることがわかったので、その方向で豊富な情報を提供することが重要だ」と、政治学の研究に触れながら述べた。

続いて意見交換に移り、放送局側から「議席数に応じて紹介する時間に差をつけると、苦情に対処しやすいという面はあるが、工夫して伝えないと視聴者に見てもらえないと感じている」「この意見書の趣旨を踏まえて、勇気をもって作るマインドが社内に出てきた」といった意見が出された。さらに『質的公平性』とは具体的に何なのかという点に関して、質問や議論が続いた。この中で川端委員長は「質的公平性とは定義できるものではなく、いろいろな事例が出てくるたびに放送局が考えなくてはいけない。これは伝えるべきだと放送局が判断したときは、それを積極的に伝えてもらっていい。それが質的公平性を害することにはならない」と、また藤田委員は「同じ基準で各政党や候補者に聞くことが質的公平性であり、その規準はそれぞれの放送局が考えるべきことだ」と答えた。また複数の候補者がスタジオで討論する形式の番組は公職選挙法に抵触しないかという質問に対して、川端委員長は「司会者が論点を設定して議論をしっかりコントロールするのであれば、抵触しない」と述べた。かつて政権交代選挙で子ども手当が話題になった際に、その実現可能性を十分に伝えられなかったという放送局側の自戒に対しては、川端委員長は「夢のような政策が実現できないと確信を持って言えるのであれば伝えるべきだった」と、また渋谷委員は「政策の実現可能性については、事実に基づいてぜひ問題点を指摘してほしい。国民にとって何が大切な情報か、各局が判断して伝えることが大切だ」と答えた。斎藤委員は「この意見書で励まされたという放送局の感想があったが、それだけで意見書を出した意味はあったと思う」と述べ、藤田委員は目前に迫った都議会議員選挙について「意見書でも指摘したが、公平性に配慮するあまり、放送量が減ることが一番いけない」と指摘した。このあと、今起きている築地市場の移転や加計学園の問題、さらにかつての郵政選挙の報道のあり方などについても質疑が交わされ、最後に川端委員長が「放送局はその都度、自主的・自律的に考えて、メディアの持つ表現の自由の権利を国民のために使うという決意で臨んでほしい」と述べて、意見交換会を締めくくった。

終了後、参加者からは、「放送局の能力とスタンスが問われると感じた」「選挙報道は日々の報道の延長であるとの思いを新たにした」「BPOの委員がどのような温度感で発言しているのか、直接確認しながら会話をする機会があったことは貴重だった」などの感想とともに、「質的公平性の定義、基準が示されなかったのは残念で、多くの事例を挙げてほしかった」「『候補者討論会』についてBPOの委員の方々の意見はよくわかったが、放送局としては、公職選挙法違反と言われかねないことはリスクが高いと感じている」といった意見も寄せられた。

以上

第116回 放送倫理検証委員会

第116回–2017年6月

沖縄基地反対運動の特集を放送したTOKYO MXの『ニュース女子』について審議など

沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りしている東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、特集を取材・制作した制作会社にTOKYO MX経由で質問項目を送りヒアリングへの協力を求めたが、その回答が文書で寄せられた。担当委員からは制作会社の回答のポイントについて報告があり、委員会がどのような検証や調査を行うべきかなど、今後の審議の進め方について議論が交わされた。
多摩川の河川敷で生活している男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして4月に審議入りしたTBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』について、担当委員から、5月に行われた制作担当者などへのヒアリングの報告と意見書の骨子案の説明があり、意見交換が行われた。次回の委員会で意見書の原案が提出される。
フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』は、宮崎駿監督の引退発言についてネット上の誤った記述を引用したとして謝罪した。当該放送局からの報告書をもとに委員会で議論した結果、「ネット情報のみでテレビ番組を作る危険性をきちんと指摘することが必要ではないか」などの意見が出され、次回委員会で討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2017年6月9日(金)午後5時00分~8時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、神田委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、2017年1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の米軍基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集して、「反対派が救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。委員会は2月、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この番組は、TOKYO MXは制作に関与していない「持ち込み番組」であるため、番組を取材・制作した制作会社からも話を聞く必要があるとして、委員会からの質問事項を文書にとりまとめヒアリングへの協力を求めていたが、5月末、制作会社から文書で回答が寄せられた。委員会では、担当委員から回答のポイントについて報告があり、さらに今後の審議の進め方について、「もう少し具体的な説明を求めるべき項目もある」「過去にも独自に調査した例があり、委員会でどんな検証ができるか検討すべきだ」などの議論が交わされた。その結果、制作会社に対して当該放送局経由でいくつかの追加質問を行うことになった。

2. ホームレス男性の特集で不適切な表現や取材手法があったTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』を審議

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』は、1月31日に放送した「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に不適切な表現と取材手法があったとして、3月3日の番組内で謝罪すると同時に、番組ホームページに経緯を掲載した。委員会は4月、取材対象者に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして審議入りを決めた。
委員会では、担当委員から、5月に3日間にわたり行われた制作担当者などへのヒアリングの概要が報告され、取材の経緯や放送前の内容チェックが十分行われなかった原因などについての説明があった。その上で、取材ディレクターが男性に依頼した具体的な内容や状況、別の男性への取材の内容や流れをさらに確認する必要があるとして、当該放送局に追加質問を行うことになった。また、ヒアリングに基づいた意見書の骨子案も提出され、そのポイントについても意見交換が行われた。その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の原案を作成し、次回委員会に提出することになった。

3. 宮崎駿監督の引退宣言をネットから誤引用したフジテレビ『ワイドナショー』を討議

フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』は、5月28日、ジブリの宮崎駿監督の引退に関する発言を紹介したが、これはネット上に掲載されている誤った情報を転用したもので、「実際には宮崎氏の発言ではなかった」として6月4日の番組内と番組ホームページで謝罪した。
委員会では、当該放送局からの報告書をもとに議論が交わされたが、「今後も起こりうる事案で、ネット情報のみでテレビ番組を作る危険性の指摘が必要ではないか」「あまりにネットに頼り信じすぎている。単純だが根が深い問題だ」などの厳しい意見が相次いだ。また、当該放送局ではその後、別の情報番組でもネット情報をもとに実在しない商品の画像を紹介したことが明らかになったため、この件についても報告書の提出を求め、『ワイドナショー』については、次回委員会で討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 流布する情報に対する警戒感がまったくない。ネットに載っていればすべて正しいと思っているのではないか。
  • 情報バラエティー番組といっても裏付けが必要なことなど、かつて委員会が公表した「若き制作者への手紙」で指摘していることがすべてあてはまる。ネット情報を安易に信じ込み、それを前提に番組を収録している。
  • ネットの情報のみで番組を作るという傾向に対し、安直でよくないと注意喚起する必要がある。

以上

第115回 放送倫理検証委員会

第115回–2017年5月

沖縄基地反対運動の特集を放送したTOKYO MXの『ニュース女子』について審議など

沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りしている東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、制作会社にヒアリングの要請をしていたが、制作会社としては対応を放送局に任せている旨の回答だったため、5月初旬、委員会からの質問事項を文書にとりまとめ、改めて当該局経由で制作会社にヒアリングへの協力を求めた。委員会では、担当委員から質問項目について詳しい説明があり、今後の審議の進め方についても議論が交わされた。
多摩川の河川敷で生活している男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして先月審議入りしたTBSテレビの情報番組「白熱ライブ ビビット」について、同じ男性を取り上げた先行番組が当該局に2つ、他局に2つあったため、それらの番組を視聴したうえで意見交換を行った。また、5月中に予定されている当該局に対するヒアリングのポイントなどが担当委員から報告された。
カラオケ店の撮影の際に、従業員に客に扮してもらいインタビューした北海道文化放送の情報バラエティー番組『北海道からはじ〇TV』について、追加の報告書とお詫び放送のDVDをもとに意見交換した結果、必要な是正策は取られたものと評価できるとして、討議を終了することになった。

議事の詳細

日時
2017年5月12日(金)午後5時00分~7時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、神田委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、2017年1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の米軍基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集し、反対派が「救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。委員会は2月、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この番組は、TOKYO MXは制作に関与していない”持ち込み番組”であるため、委員会は、番組を制作したスタッフにも話を聞いてさらに検証をする必要があるとして、ヒアリングへの協力を制作会社に直接求めていたが、制作会社から放送局に対応を任せている旨の返答があったため、5月初旬、委員会からの質問事項を文書にとりまとめ、改めて当該局経由で制作会社にヒアリングへの協力を求めた。
委員会では、担当委員から質問項目について詳しい説明があり、さらに、「前例にとらわれずに番組の内容とその裏付けを検証する必要がある」「当該番組のスタッフだけでなく関係者や専門家に協力を求めたことがある。その事例も参考にすべきではないか」など、今後の審議の進め方についても議論が交わされた。

2. ホームレス男性の特集で不適切な表現や取材手法があったTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』を審議

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』は、1月31日に放送した「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に不適切な表現と取材手法があったとして、3月3日の番組内で謝罪すると同時に、番組ホームページに経緯を掲載した。番組が中心に扱った男性について「犬男爵」と呼んだうえ、別の男性の発言を引用して「人間の皮を被った化け物」と化け物を連想させるどぎついイラストと合わせて表現したこと、また取材ディレクターが男性に「お前ら、ここで何やっているんだ」と言いながら歩いてきてほしいと依頼し、男性を「粗暴な人」と印象付ける結果になった点を謝罪している。
4月の委員会で、取材対象者に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして審議入りした。
委員会では、同じ男性を取り上げた先行番組が当該局に2つ、他局に2つあったため、それらの番組を視聴したうえで意見交換を行った。一部の番組では暗視カメラやドローンによる撮影が行われており、「一つ違法行為があれば、その人たちは犯罪者のようなものだからプライバシーの侵害をやっても構わないという意識があるのではないか」といった問題点も指摘されたが、議論の結果、審議は当該番組に絞って行われることになった。
また、「ジャーナリズムとは、強い者の側から"迷惑者"を見る視点ではないはず」「これを機にジャーナリズムは社会的弱者にどう向き合ったらよいか考えるべきではないか」などの論点も提示された。
さらに、担当委員からは5月中に予定されている当該局に対するヒアリングのポイントなどが報告された。

3. カラオケ店従業員に客に扮してもらい出演させた北海道文化放送の『北海道からはじ○TV』を討議

北海道文化放送は3月12日に放送した『北海道からはじ〇TV』で、歌わなくても映像が楽しめるというカラオケ店の使い方を紹介した際、客としてインタビューに応じた人が実は番組制作担当者があらかじめ依頼して客に紛してもらった店の従業員だったとして、3月27日に「不適切な演出があった」と、放送とホームページでお詫びした。
4月の委員会では、このお詫び放送やホームページの記載では何が問題だったのか視聴者に全く伝わらないなどと、事後対応に対して厳しい意見が相次ぎ、その後の対応を見たいとして討議を継続した。
委員会は、当該局がその後2回にわたって放送したお詫び放送とホームページの内容から、情報バラエティー番組であり問題も大きなものとは言えず、十分な是正策が自主的・自律的に取られたと評価できるとして、討議を終了することになった。

[委員の主な意見]

  • その後のお詫び放送やホームページ記載の内容で、何をしてしまったのかが、ようやく視聴者に伝わった。
  • どうしてこういうお詫び放送を、最初からできなかったのだろうか。
  • 情報バラエティー番組であっても、従業員に客に扮するよう依頼することはやってはいけないのは当然で、そのことは明確にしておきたい。
  • お詫び放送を見ると、番組審議会で委員たちが問題点を厳しく指摘していた。番組審議会が機能して自律機能が発揮されたいい例だといえる。

以上

第114回 放送倫理検証委員会

第114回–2017年4月

不適切な表現や取材手法があったと謝罪したTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』審議入りなど

今年度、新たに神田委員が就任し、今回から出席した。
沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りした東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、制作会社にヒアリングへの協力を要請していたが、制作会社としては対応を放送局に任せている旨の回答だったため、委員会として改めてTOKYO MXに対して制作会社のヒアリング実現への協力を求めていくことになった。
IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』で、乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング」が行われたのではないか、という疑惑が報じられた事案の討議を継続した。委員会は、この問題に対する民放連の対応を中心に意見交換をした結果、当該局の当初の対応には大きな問題があったが、その後、当該局、民放連とも自主自律という意味では実効のある対応策が取られたのではないかとして、今回で討議を終え、審議の対象とはしないことを決めた。
NHK総合テレビ『ガッテン!』「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」で、糖尿病治療や予防に睡眠薬が有効であるかのような表現があり、また睡眠の長さの重要性を示す実験を睡眠の深さを示すデルタパワーに関連させる不適切な表現があったとしてお詫びした事案。委員会は追加報告書をもとに意見交換をした結果、当該局による迅速且つ的確なお詫び放送により、懸念された問題について、自主的・自律的な是正策が取られたことから、審議の対象とはしないが、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載することとして討議を終えることにした。
多摩川の河川敷で生活している男性の放送に際し、不適切な表現や取材手法があったとTBSテレビが謝罪した情報番組『白熱ライブ ビビット』に関して、当該局からこれまでの6回のシリーズについても報告書が提出され、意見交換を行った。その結果、取材対象者に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして、審議入りすることを決めた。
カラオケ店の撮影の際に、従業員に客に扮してもらいインタビューした北海道文化放送の情報バラエティー番組『北海道からはじ〇TV』について、報告書をもとに意見交換をした結果、当該局のその後の是正策を見た上で決定したいとして、次回の委員会で討議を継続することになった。

1. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集し、「反対派が救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。これに対し、放送直後から「沖縄に対する誤解や偏見をあおる」「番組が報じた事実関係が間違っている」などの多数の意見がBPOに寄せられた。
委員会は、情報バラエティー番組であっても前提となるべき情報や事実についての裏付けは必要であり、「持ち込み番組」についての放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして、第112回委員会で審議入りすることを決め、先月、担当委員が当該局の編成や考査、営業の担当者5人にヒアリングを実施し、番組を編成した経緯や放送前の考査の実態などを調査した。
委員会では、この番組は放送局が制作に関与しない 「持ち込み番組」であるため、番組を制作したスタッフにも話を聞いてさらに検証をする必要があるとして、制作会社に対してもヒアリングの協力を求めていたが、制作会社からその対応についてはTOKYO MXに任せている旨の返答があったため、当該局に対して、制作会社のヒアリングが実施できるよう引き続き協力を求めていくことになった。
また、今後の審議の進め方について担当委員から説明があり、論点等についても意見交換した。

2. 番組内での乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』を討議

IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』(2015年9月21日放送)で、ある乳酸菌を摂取していると免疫力を高める効果があるという内容の放送をしたが、これが「広告」であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」ではないかと報じられた事案の討議を継続した。
この番組については、2015年11月の当該局の番組審議会で議論され、出席した局の幹部から「乳酸菌の扱いについては有料のタイアップである」という説明があったが、2016年12月、当該局はこの番組がタイアップで制作されたものでないと訂正していた。
また、当該局からは先月、この問題を受け作成した「番組制作の指針」に関する追加報告書が提出され、制作過程の適正化と視聴者に疑念、不信感を抱かれないための制作上の留意点、番組と広告の識別のための留意点などが記されていた。
委員会では、今回新たに提出された、「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した民放連の対応策をもとに、意見交換をした。
委員会の議論では、「この放送がステルスマーケティングということはできないにしても、ステマ的な広告の横行に警鐘を鳴らす必要はあるのではないか」といった意見や、「今回の問題に対し、民放連も相当スピード感のある対応をとった。ステルスマーケティングの問題は、それほど重大なことである」など意見が出た。
その結果、当該局、民放連とも自主自律という意味では実効のある対応策が取られたのではないかとして、今回で討議を終え、審議の対象とはしないことを決めた。

3. 糖尿病治療に睡眠薬を直接使えるかのような表現があったとお詫びしたNHK総合テレビ『ガッテン!』を討議

NHK総合テレビの生活情報番組『ガッテン!』(2月22日放送)で「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」と題して、”睡眠を改善することで血糖値が下がる”という最新研究を紹介し、「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」と伝えた。また、紹介した睡眠薬の説明に「副作用の心配がなくなっている」という表現があった。また、睡眠の長さが血糖値の改善に関係があるという実験について、睡眠の深さを示すデルタパワーも関連しているような不適切な表現もあった。
これに対し、放送後、視聴者、医療関係者などから「睡眠薬の不適切な使用を助長しかねない」「副作用を軽視している」「健康保険では認められていない適応外処方の推奨に他ならない」などの批判が寄せられた。NHKは番組ホームページと3月1日の放送で、睡眠薬の説明が不十分だったり行き過ぎた表現があったりしたため、誤解を与え混乱を招いたことをお詫びし、誤った情報や不適切な表現を訂正した。
当該局から提出された報告書は、問題の原因として、「医学分野にある程度の専門知識があるメンバーだけで番組の制作が進められたため、睡眠薬のリスクを十分にチェックする姿勢が欠けていたこと」や「謎かけやキーワードが視聴者に届きやすいことを重視するあまり、無理な構成になったこと」などを挙げている。
委員会には、当該局からこの番組の過去の放送についての追加報告書が提出された。それによれば、これまでの同番組の放送で、不適切だという指摘を受けた例はなかったということであった。
委員会は、追加報告書などをもとにさらに意見交換をした結果、当該局による迅速且つ的確なお詫び放送により、懸念された問題について、自主的・自律的な是正策が取られたことから、審議の対象とはしないが、一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事概要に掲載することとして討議を終えることにした。

[委員の主な意見]

  • まずい方向に進んだら『あるある大事典』のようになりかねない案件だったと思う。今回、いいお灸をすえられたと思って、今後はしっかりやって欲しい。
  • この種の番組ではキャッチーにしようとするとき危険が大きい。『ガッテン!』は特に影響力が大きい番組なので、細心の注意が必要だろう。
  • やはり、自分たちは医療情報に詳しいというスタッフのおごりが一番の要因だったのではないか。
  • この番組に対する日本睡眠学会の批判は極めて適切なものだったが、その批判に的確に応えるお詫びの放送がなされたことによって、問題は解消しているのではないか。
  • 報告書に書かれた再発防止策を実効のあるものにすべく、その継続的な実施を期待したい。

4. 不適切な表現や取材手法があったと謝罪したTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』を討議(審議入り)

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』は、1月31日に放送した「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に不適切な表現と取材手法があったとして、3月3日の番組内で謝罪すると同時に、番組ホームページに経緯を掲載した。番組が中心に扱った男性について「犬男爵」と呼んだうえ、別の男性の発言を引用して「人間の皮を被った化け物」と化け物を連想させるどぎついイラストと合わせて表現したこと、また男性に「お前ら、ここで何やっているんだ」と言いながら歩いてきてほしいと依頼し、男性を「粗暴な人」と印象付ける結果になった点を謝罪している。
問題の放送は「多摩川リバーサイドヒルズ族」と名づけられたシリーズの7回目で、第1回の2015年9月から第6回の2016年5月まで、名物企画として継続的に放送されてきた。
委員会には、当該局から過去の6回分の放送に関する追加報告書が提出されたが、「シリーズ当初から多摩川の河川敷で暮らす人たちを『迷惑モノ』として扱っていて、社会的弱者に対する姿勢は問題だ」「これまで6回の放送で取り立てて批判がなかったから問題ないと思っていたというのは、かなり深刻だ」といった意見などが出されるなど、問題点を指摘する意見が相次いだ。
その結果、当該局の事後の対応と問題点の把握は的確だったが、男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして、審議入りすることを決めた。

[委員の主な意見]

  • ホームレスの人たちを「迷惑モノ」としてとらえて、冷笑している。
  • 取材した対象者を、別の人の発言を引用して「人間の皮を被った化け物」と表現しているが、なぜ「人間の皮を被った化け物」なのか、番組内容からも報告書からもまったくわからない。
  • シリーズの中にはホームレスに寄り添っている回もあるのに、どうして7回目で、当該局も不適切だと認める放送になってしまったのか。
  • 自分たちは安全なところにいながら、社会的弱者に厳しいテレビ局の姿勢は問題だ。
  • これまでの6回の放送に対して取り立てて批判がなく、番組としてはホームレスの人間性が描けているという認識を持っていた、という趣旨が報告書に書かれているが、外からの批判がなく視聴率が良かったとしても、社内から異論があってしかるべき番組だろう。

5. カラオケ店従業員に客に扮してもらい出演させた北海道文化放送『北海道からはじ○TV』を討議

北海道文化放送は3月12日に放送した『北海道からはじ〇TV』で、歌わなくても映像が楽しめるというカラオケ店の使い方を紹介した際、客としてインタビューに応じた人が実は店の従業員だったとして、3月27日に「不適切な演出があった」と、放送とホームページでお詫びした。
委員会では当該局から提出された報告書をもとに意見交換し、お詫び放送やホームページの記載では、何が問題だったのか視聴者にまったく伝わらないと、事後の対応に対して厳しい意見が相次いだ。
その結果、当該局の是正策など今後の対応を見たいとして、次回委員会で討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • お詫び放送やホームページ記載の内容では、なにについてお詫びしているのか、視聴者にはまったく分からない。
  • いまだにこんな「お詫び」の内容でいいと思っている放送局があるのか。放送局からカラオケ店に依頼して、従業員に客に扮してもらったと、きちんというべきだ。
  • 放送後、インタビューした社員が「おかしい」と言ったために、事実経過が明らかになったことは評価できる。

以上

2017年4月14日

TBSテレビの『白熱ライブ ビビット』審議入り

放送倫理検証委員会は4月14日の第114回委員会で、TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』について当該放送局に追加の報告書の提出を求めた上で討議し、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、TBSテレビが2017年1月31日に『白熱ライブ ビビット』で放送したホームレスに関する企画で、多摩川の河川敷で生活している男性について「犬17匹飼うホームレス直撃」として紹介した。これに対し放送後、河川敷で暮らす人たちへの偏見や差別を助長するという指摘があり、TBSテレビは3月3日、「不適切な表現ならびに不適切な取材方法が用いられていたことが判明した」として、番組内で謝罪放送を行うと同時に、番組ホームページ上にその経緯を掲載した。
審議入りの理由について川端和治委員長は、「TBSテレビの放送後の対応は評価できるが、放送倫理違反という問題について言えば、ホームレスの男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があって、看過できない」と述べた。
委員会は今後、TBSテレビの関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2017年1月26日

TBS系列の九州・沖縄地区各局と意見交換会

TBS系列の九州・沖縄地区7局と放送倫理検証委員会との意見交換会が、1月26日福岡市内で開催された。意見交換会には放送局側から21人が参加し、委員会からは升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、鈴木嘉一委員が出席した。放送倫理検証委員会が設立されて今年で10年になるが、TBS系列局との意見交換会の開催は初めてで、参加した7局すべてがラジオ・テレビ兼営局であった。九州地区では、昨年4月に「熊本・大分地震」が発生して、現在も地元局を中心に取材が行われていることから、議論のテーマを「災害報道」に絞り込んで意見交換を行った。
冒頭、地元局の熊本放送と大分放送から現場報告が行われた。
熊本放送からは「阪神大震災や東日本大震災など過去の大災害と比べてSNSがかなり普及したことから、デマや誤報のリスクが高まったのではないかと感じた」と問題提起があった。具体的には「『熊本市の動植物園からライオンが逃げ出した』『井戸に毒が投げ込まれた』『大型ショッピングモールで火災』『熊本市民病院が傾く』など、発災直後に不確かな情報が飛び交い、放送してしまった他局もあった」という。熊本放送では、「裏取りができていない情報は放送しないことを決めて災害報道に当たった。テレビでは誤報はなかったが、ラジオで『熊本城の櫓が見えない。崩壊したかも』と発生直後に放送してしまった」との報告があった。また、取材スタッフの二次災害を防ぐため、家屋の危険度判定で「赤判定(倒壊の危険)」の家屋には立ち入らないことをルール化して徹底したという。
大分放送のケースでは「熊本と比べると被害の程度は大きくなかったが、県内には海外からの留学生が多数住んでいて、アパートの外で一晩過ごした学生がかなりいた。外国人の避難誘導に課題が残った。素材伝送の地理的条件から、温泉で有名な由布市湯布院町にSNG中継車が集中した。その結果、由布院温泉の放送頻度が高まり、別府市民や別府市から被災地を公平に報道すべきと苦情が寄せられた」との報告が印象的だった。

地元局からの報告を受けて岸本委員は、「現場の葛藤はよくわかった。災害報道には(1)全国各地に被災地の実情を伝える(2)被災者に情報を伝えるという二つの役割があると思う。被災地への情報の伝え方は改善しやすいが、被災地以外の視聴者への情報の伝え方は難しく、方法にかなり工夫が必要だと思う。行きやすい避難所に取材が集中していないか、番組がバッシングされる背景には何があるのかなど、常に考えていなければならない。視聴者の支持が最終的には災害報道を支え、放送を支える。視聴者との信頼関係の構築に取り組んでほしい」と指摘した。
そして鈴木委員から「TBS系列各局報道の共同制作番組『3・11大震災 記者たちの眼差し』シリーズは、今後の災害報道のあり方を考える上で参考になる。この内『シリーズI』(2011年6月5日TBSテレビ放送)と『シリーズII』(2011年9月10日TBSテレビ放送)の中のIBC岩手放送と青森テレビが制作したミニドキュメントが示唆に富んでいる」と紹介があり、参加者全員で視聴した。
視聴した参加者からは「災害報道にスクープはないと思っている。系列間合戦の様相を呈してきていることに懸念を抱いている。また、インターネットとも競争するようになって、本当かデマかの裏取りがおろそかになりはしないかと心配だ」「被災地のマスコミに心のケアをしていますと冊子が送られてきた。よく調べたら新興宗教団体で、宣伝活動に利用されるところだった。裏を取ることは重要だ」「いま何が起きているかを伝えるためライブ映像は有効だ。被災地の地元局は葛藤もあるだろうが取材・記録することが大切だ」などと活発に意見交換が行われた。
会場の意見を受けて鈴木委員は「被災者にも、伝えてほしいという思いがあるのではないか。取材に大人数で行くと拒否されたりするが、来てくれることを待っている被災者もいるはず。番組も放送時間のワイド化が進み5~8分程度のミニドキュメンタリーは放送が可能だろう。被災者と一個人として向き合い一人称の視点で伝える努力をすることが、今後の災害報道にとって有効ではないかと考えている。その積み重ねが30分や1時間のドキュメンタリー制作につながるのではないか」と問いかけた。
 
また、升味委員長代行は「報道とは事実を伝えること。プライドを持って取材に当たってほしい。あらかじめ想定したストーリーに合わせたような安易な番組作りは報道の仕事ではないと常々思っている」と現場を激励した。

このほか、昨年12月6日に出されたTBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見について、「意見書を読んで、あまりにも多くのスタッフがかかわっていることに驚いた。ローカル局の制作番組でも、インタビューなど編集段階でカットすることはあるが、放送前に事前に連絡するなど丁寧に対応している。番組に協力してくれた人との向き合い方が信じられない」との意見があった。これに対して担当委員からは「人物を消すことそのものは演出の範囲内だろうが、委員会は、出演者に対する敬意や配慮を欠いたと判断した」「人と人の関係が大切。こんなことをすれば制作者の財産にもならない」などと意見書の背景について説明があった。

最後に升味委員長代行から、「放送倫理検証委員会は、今年、設立10周年を迎える。常に放送局の応援団でいたいと思っている。みなさんが、自由に番組制作ができるお手伝いをしたいと考えている。自律的規範を守り自由に番組作りができるフィールドを一緒に守っていきましょう」との発言があり、意見交換会は閉会した。

今回の系列の地域単位の意見交換会について、参加者から以下のような感想が寄せられた。

  • 「『懲らしめられても仕方ないよね』と視聴者から思われないように…視聴者が味方についてくれるかどうかが重要」。岸本委員のこの言葉が、今回の意見交換会の中で特に印象に残った言葉です。これは、いま私たちが直面しているSNSや投稿動画サイトなどメディアを取り巻く環境において一番大切なことではないかと改めて感じさせられました。私たちは、時として伝えることに傲慢になりがちです。それは権力のチェック機関としての役割を果たさなければならない時でも俗に言う「第三の権力」を振りかざしてしまうこともあります。謙虚な心で取材現場と向き合い、功名心に走らないことが"視聴者からの信頼"を積み重ねていくことに繋がると思っています。
  • 系列局間の研修会は、顔が分かる関係者同士の集まりということもあり、非常に有益な意見交換ができたと思います。
    今回の議論の柱の1つだった「災害報道」は、同じ現場に足を運んだ系列同士ということもあり、前提条件として「上手くいったこと」「失敗したこと」が皆、分かっているので、手探りではなく、最初から突っ込んだ議論ができたのではないかと思います。
    そのことで、"机上の議論的"な、かしこまったやり取りではなく、各局の実情も良く分かる会合になったのではないでしょうか。
    今後も、同種の勉強会等を開く機会があるのなら、今回のスキームで開催していただきたいとも思います。
  • 『記者たちの眼差し』の視聴を通しても、私自身反省すべき点があった。日頃、ニュースデスクとしての立場で「こんな感じで、こういう内容のインタビューを取ってきてほしい…」と、取材に出かける記者にイメージを伝えてしまい、取材現場の真実とかけ離れたニュースを出してしまったことはないか?その場その場で、真実を追求すること。また、現場をもっともよく知る取材記者やカメラマンとの地道な意思疎通をしていくよう肝に銘じたい。

以上

第113回 放送倫理検証委員会

第113回–2017年3月

沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』を審議など

委員会が昨年12月に出したTBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承して公表することとした。
沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りした東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、TOKYO MXに対するヒアリングの結果が担当委員から報告され、意見交換を行った。その結果、この番組が"持ち込み番組"であるため、実際に番組を制作したスタッフからも話を聞いてさらに検証する必要があるとして、制作会社に協力を求めていくことになった。
IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』で、乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング」が行われたのではないか、という疑惑が報じられた事案の討議を継続した。委員会は、この問題を受け当該局が作成した「番組制作の指針」に関する追加報告書をもとに意見交換をした結果、さらなる確認や検討が必要だとして、再度討議を継続することを決めた。
NHK総合テレビの『ガッテン!』「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」で、糖尿病治療や予防に睡眠薬が直接有効であるかのような表現があり、また睡眠の長さの重要性を示す実験を睡眠の深さを示すデルタパワーに関連させる不適切な表現があったとしてお詫びした事案について、委員会は当該局からの報告書をもとに意見交換をした結果、これまでの放送で不適切な事例がなかったのかなどを確認したいとして、次回の委員会で討議を継続することになった。
TBSテレビは、情報番組『白熱ライブ ビビット』の多摩川の河川敷で生活している男性の放送に関して、不適切な表現や取材手法があったと謝罪した。委員会は、当該局の報告をもとに討議した結果、このシリーズのこれまでの6回の放送についても視聴する必要があるとして、次回の委員会で討議を継続することになった。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、第1部、第2部のテーマや構成の詳細が報告された。

1. TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見への対応報告書を了承

昨年12月6日に委員会が通知公表した、TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見(委員会決定第24号)への対応報告書が、3月上旬、当該局から委員会に提出された。
報告書では、意見書の社内周知と再発防止のため検証委員会の担当委員を招いた勉強会を開催したことや、問題発覚後に策定してすでに実施している再発防止策について、今後ともその効果を不断に点検し改善を図っていくことなどが記されている。
委員会では、勉強会に出席した委員からの報告などをもとに意見交換を行い、この対応報告書を了承して公表することとした。

2. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題して沖縄での基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集したが、放送直後から「沖縄に対する誤解や偏見をあおる」「番組が報じた事実関係が間違っている」などの多数の意見がBPOに寄せられた。なお、この番組は、TOKYO MXは制作に関与せずに、CS放送などに番組を供給している会社が制作したものを、"持ち込み番組"として放送枠を提供する形態をとっている。
2月の委員会で、情報バラエティー番組であっても前提となるべき情報や事実についての裏付けは必要で、それが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして、審議入りすることを決めた。3月初旬には、担当委員によるTOKYO MXの編成や考査、営業の担当者5人に対するヒアリングが実施された。委員会では、当該番組が"持ち込み番組"として編成された経緯や、当該番組の考査判断の基準は適切だったかなどのポイントを中心にヒアリングの概要が報告され、意見交換が行われた。
その結果、実際に番組を制作したスタッフにも話を聞いて、さらに検証をする必要があるとして、制作会社に対してもヒアリングへの協力を求めていくことになった。

3. 番組内での乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』を討議

IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』(2015年9月21日放送)で、ある乳酸菌を摂取していると免疫力を高める効果があるという内容の放送をしたが、これが「広告」であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」ではないかと報じられた事案の討議を継続した。
この番組については、2015年11月の岩手放送の番組審議会で議論され、出席した局の幹部から「乳酸菌の扱いについては有料のタイアップである」という説明があったが、2016年12月、岩手放送は、番組審議会での説明は誤解にもとづくもので、この番組はタイアップで制作されたものではない、と訂正していた。
当該局からは、この問題を受け作成した「番組制作の指針」に関する追加報告書が提出された。報告書によると、指針の目的は、制作過程の適正化と視聴者に疑念、不信感を抱かれないことであり、外部プロダクションへの制作委託番組および社内制作番組での制作上の留意点、番組と広告の識別のための留意点などが記されている。
委員会の議論では、「週刊誌の取材がなければ、番組審議会での局幹部の発言をそのままにするつもりだったことは、番組審議会軽視であり、安易で無責任だ」「釈然としないところはあるが、当該局も重大な危機感を持って対応しているのではないか」などの意見が出た。一方、この問題に対する民放連の対応も見守る必要があるとして、次回の委員会でさらに討議を継続することになった。

4. 糖尿病治療に睡眠薬を直接使えるかのような表現があったとお詫びしたNHK総合テレビ『ガッテン!』を討議

NHK総合テレビの生活情報番組『ガッテン!』(2月22日放送)で「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」と題して、"睡眠を改善することで血糖値が下がる"という最新研究を紹介し、「睡眠薬で糖尿病の治療や予防ができる」と伝えた。また、紹介した新しい種類の睡眠薬の説明に「副作用の心配がなくなっている」という表現があった。また、睡眠の長さが血糖値の改善に関係があるという実験について、睡眠の深さを示すデルタパワーも関連しているような不適切な表現もあった。これに対し、放送後、視聴者、医療関係者などから「睡眠薬の不適切な使用を助長しかねない」「副作用を軽視している」「認められていない適応外処方の推奨に他ならない」「睡眠不足の解消によりデルタパワーが増加するというのは番組が引用する論文の内容と全く異なっている」などの批判が寄せられた。NHKは番組ホームページと3月1日の放送で、睡眠薬の説明が不十分だったり行き過ぎた表現があったりしたため、誤解を与え混乱を招いたことをお詫びした。
当該局から提出された報告書によると、問題の原因として、「医学分野にある程度の専門知識があるメンバーだけで番組の制作が進められたため、睡眠薬のリスクを十分にチェックする姿勢が欠けていたこと」や「謎かけやキーワードが視聴者に届きやすいことを重視するあまり、無理な構成になったこと」などを挙げている。
委員会の議論では、「睡眠薬は、向精神薬であり、健康食品やサプリメントとは違って、扱いは特に慎重でなければならない」「睡眠障害の薬として承認されている薬だからそれ以外の目的では処方できないのに、睡眠障害の診断を受けていない人にも血糖値改善の目的で投与されうるかのような表現は問題」「一人の医師の研究に寄りすぎていたのでないか。いろいろな説を相対化したうえで番組を作るべきである」「番組をキャッチーにするため無理をしているのではないか。相当長く続いてきた番組でテーマに苦労している印象がある」「番組の作りが雑な印象がある。出演した医師が睡眠薬を手に持って見せる映像にも違和感をもった」などの意見が出た。一方「今回の件に対するNHKの対応は真摯であり、お詫びの放送も適切であった」という意見も出され、これまでの同番組の放送で不適切な事例がなかったのか確認したいとして追加の報告を求め、次回の委員会で討議を継続することになった。

5. 不適切な表現や取材手法があったと謝罪したTBSテレビ『白熱ライブ ビビット』を討議

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』は、1月31日に放送した「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に不適切な表現と取材手法があったとして、3月3日の番組内で謝罪すると同時に、番組ホームページに経緯を掲載した。番組が中心に扱った男性について「犬男爵」と呼んだうえ、撮影OKの確約なしに取材した別の男性の発言を首から下の映像と共に引用して「人間の皮を被った化け物」と化け物を連想させるどぎついイラストと合わせて表現したこと、また男性に「お前ら、ここで何やっているんだ」と言いながら歩いてきてほしいと依頼し、男性を「粗暴な人」と印象付ける結果になった点を謝罪している。
当該局から委員会宛てに提出された報告書によると、放送後、「表現やイラストがホームレスの人権を侵害し、差別を助長する」という指摘や、「悪意ある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてほしい」といった訴えがあったという。
委員会の議論では、「ホームレスの人たちを揶揄しているとしか思えず、取材対象に対する愛のかけらもない放送だ」「違法なことをしている人たちは笑いの対象にしていい、無断撮影して放送してもいいと思っているのではないか」「河川敷で暮らす人たちなりの生きにくさを伝えなくてはいけないのに、あまりにも取材対象者をバカにしすぎている」などの厳しい意見が相次いだ。しかし「報告書を見ると当該局は問題点がどこにあるかを的確に理解しているのでは」という意見もあり、同じテーマの過去6回の放送などについて追加報告を求めたうえで、次回の委員会で討議を継続することになった。

6. 委員会発足10周年の記念シンポジウムについて

3月22日(水)に開催される記念シンポジウムについて、担当委員から第1部、第2部のテーマ設定や構成案の詳細など、最終的な内容についての報告が行われた。

以上

第112回 放送倫理検証委員会

第112回–2017年2月

東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』審議入り
乳酸菌の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』の討議など

2月7日に通知と公表の記者会見を行った、2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見に関して、出席した委員長や担当委員から当日の様子が報告され、意見交換が行われた。
IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』で、乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング」が行われたのではないか、という疑惑が報じられた事案の討議を継続した。委員会は、当該局から提出の追加報告書をもとに意見交換をした結果、さらなる確認や検討が必要だとして、再度討議を継続することを決めた。
東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』で、「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の基地反対運動についての特集が現地リポートとスタジオトークで放送されたが、放送直後から「沖縄に対する誤解や偏見をあおる」「番組が報じた事実関係が間違っている」などの多数の意見がBPOに寄せられた。委員会は、当該局から提出された報告書をもとに討議した結果、持ち込み番組であるので、まず当該局の考査が報じられた事実についての裏付けの有無に留意して行われたのか、そもそも制作時に事実の裏付けを十分に行ったのかなどを検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から「放送の自由と自律、そしてBPOの役割」を正式タイトルとすることが提案され、承認された。

議事の詳細

日時
2017年2月10日(金)午後5時00分~7時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見を通知・公表

2016年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられたことから、選挙報道全般のあり方についての継続的な審議を経てまとめられた、2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見(委員会決定第25号)の通知と公表の記者会見が、2月7日に実施された。
委員会では、当日のテレビニュースをいくつか視聴したあと、委員長や担当委員から、通知の際のやり取りや記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。

2. 番組内での乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』を討議

IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』(2015年9月21日放送)で、ある乳酸菌を摂取していると免疫力を高める効果がある、という内容の放送をしたが、これが「広告」であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」ではないかと報じられた事案の討議を継続した。
この番組については、2015年11月の岩手放送の番組審議会で議論され、出席した局の幹部から「乳酸菌の扱いについては有料のタイアップである」という説明があったが、2016年12月、岩手放送は、この番組がタイアップで制作されたものでないと訂正していた。
当該局からは、この問題について議論された1月の番組審議会に関する追加報告書が提出された。
それによると、「調査の結果、乳酸菌の商品を製造販売する企業から金銭は支払われていなかった。番組審議会に不十分な準備のまま臨み、誤った発言をしてしまった」という局からの説明に対し、委員からは「なぜここまで番組審議会での局幹部の発言を精査する機会がなかったのか」「その場で答えて終わりであれば、番組審議会への局の対応が形骸化していると言わざるを得ない」「自社制作の番組にも指針が必要だ」という意見が出された。
委員会の議論では、「番組審議会でなぜ局の幹部が誤った発言をしたのか、釈然としない感じは残る」「番組作りの不自然さについての疑念は晴れない」などの厳しい意見が出た。一方「当該局が作成に着手している『番組制作の指針』についても見届けたい」との意見も出され、当該局の今後の対応や民放連の動きも見守る必要があるとして、次回の委員会でさらに討議を継続することになった。

3. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について討議(審議入り)

TOKYO MXの『ニュース女子』は、1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、高江ヘリパッド建設反対などの沖縄での米軍基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集し、「過激派が救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。これに対し、放送直後から「沖縄に対する誤解や偏見をあおる」「番組が報じた事実関係が間違っている」などの多数の意見がBPOに寄せられた。なお、この番組は、TOKYO MXは制作に関与せずに、CS放送などに番組を供給している会社が制作したものを、“持ち込み番組”として放送枠を提供する形態をとっている。
委員会は、放送までの経緯について当該局に報告を求めて討議し、「持ち込み番組でも放送した責任は放送局にある」「番組内で取り上げられている事実についての裏付けがきちんとなされていないのではないか」「放送局の放送前の考査の段階で、報じられた事実についての裏付けの有無に留意するなど番組内容についてのチェックがきちんとなされていたのか」などの意見が出された。最終的に、情報バラエティー番組であっても前提となるべき情報や事実については合理的な裏付けが必要であり、裏付けが十分であったのか、持ち込み番組についての放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。

4. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、担当委員から「放送の自由と自律、そしてBPOの役割」を正式タイトルにとすることや、各コーナーのタイトルが提案され、承認された。

以上

2017年2月7日

2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、2月7日午後2時45分から、千代田放送会館7階のBPOの第1会議室で行われた。委員会からは川端和治委員長、升味佐江子委員長代行、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員、藤田真文委員が出席、一方、放送局を代表して日本民間放送連盟とNHKから合わせて4人が出席した。
まず川端委員長が「通例とは異なり、今回は個々の番組を対象に審議をしたわけではない。昨年は参議院議員選挙と東京都知事選挙という二つの大きな選挙があり、この二つの選挙のテレビ放送に関して視聴者や活字メディアからさまざまな意見や批評があった。このためいくつかの放送を視聴して、委員会として意見を述べる必要があると考えた」と決定を出すに至った経緯を説明したあと、意見書の要点を解説した。続いて升味委員長代行が「最近の選挙で投票率が下がっていることに危機感を持っている。政治的選択が少数の人で行われるのは良くないので、わかりやすく視聴者が興味を持てるような多様な放送に努力してほしい」と要望し、斎藤委員は「ジャーナリストだからわかる争点を、この決定に書かれている自由を生かして、放送局は有権者にもっと提示していい」と述べた。さらに渋谷委員は「選挙は国民が主役になる唯一の機会だ。選挙は難しいと現場が考えて萎縮しているのではないかと感じることがあるが、最高裁判決などを踏まえたうえで、自ら考えて自由に放送してほしい」と述べ、また藤田委員は「放送局には選挙に関する報道と評論の自由があるにもかかわらず、放送局が自縄自縛に陥っていると思うことがある」と指摘した。これに対して民放連は「決定の内容を全加盟社に周知する。決定は、我々に対するお叱りと同時に励ましでもあると受け止め、国民が主役になるために必要な情報をバランスよく伝えていきたい」と述べた。またNHKは「選挙放送に対する委員会の期待を、現場の記者やディレクターにしっかり浸透させることで、公平・公正で視聴者に役立つ報道を続ける」と述べた。

このあと、午後3時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には26社60人が出席した。
初めに川端委員長が意見書について「前半は、制作現場が公平・公正について窮屈に考えているのではないかと思い、公職選挙法と放送法をわかりやすく解説した。また後半は、昨年の選挙の放送に則して意見を述べた」と説明し、「必要なことは質的な公平性で、選挙の争点の指摘や事実関係のチェックなど、国民に必要な情報を提供することは放送局の責務だ」と指摘した。続いて升味委員長代行が「何が公平かを各放送局が自主・自律で決めることは現場にとり大変だと思うが、選挙に行きたいと思うような放送をもっとしてほしい」と述べ、斎藤委員は「最近のジャーナリズムに議題設定機能が欠けているのではないか。プロのジャーナリストとしての取材と見識に基づいて、何が重要な争点かを放送局が提示してほしい」と要望した。渋谷委員は「横並び意識で無難に番組を作るのではなく、自ら汗を流し、何ができて何ができないのかをよく理解したうえで、広大な自由の領域を生かした放送をしてほしい」と、また藤田委員は「政党や候補者が実現できないような公約を述べたり、虚偽の事実で対立候補を批判したりした時に、それが言いっぱなしになって事実関係を検証しないと、選挙の公正が害される」と、それぞれ意見書に込めた考えを述べた。

記者との主な質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:選挙の放送量についての議論はしなかったのか?
    A:放送量の検証はしなかったが、安全な放送だけをしようと考えて放送量が減ると、困るのは視聴者だ。視聴者に必要な情報を提供するのはメディアの責務だ。(川端委員長)

  • Q:2014年に自民党が放送局に出した「選挙時期の報道についての要望」や、停波の可能性に言及した総務大臣の発言は、考慮したのか?
    A:我々の役割は具体的な番組に即して意見を述べることだ。そのために必要な事項は考慮するが、番組から離れた抽象的な議論はしない。今回は、あくまでも昨年の二つの選挙をめぐるテレビ放送を踏まえて、この意見書を作った。(川端委員長)

  • Q:放送法の趣旨に照らして、今は放送局のあり方も問われていると思うが?
    A:放送の影響力が大きいから放送法があるのだが、放送法が作られた際には、放送の自由がなかった戦前の結果を繰り返してはならないという痛切な思いがあった。そのため権力が放送内容に介入するのではなく、放送局が自らを律することが一番いいと考え、放送法では、放送局の自主・自律の規範として番組編集準則を置き、各放送局が自律的に番組編集基準を定め、番組審議会がそれを審議するという仕組みを作っている。総務省と我々の見解が異なっているが、番組内容に法的な規制が必要だという動きがある中で、自主・自律がもともとの精神だということを思い起こしてほしい。(川端委員長)

  • Q:メディアが選んだ情報を視聴者が受け取るのではなく、自分から興味のある情報を取りに行くネットとの関係については?
    A:ネットの世界は「ポスト・トゥルース」の領域と言われている。何が真実かを見極める能力があるのはメディアで、その役割はますます重要になる。(川端委員長)

  • Q:意見書にある「挑戦的な番組」とは、どういうものか?
    A:候補者が言っていることを客観的に伝えるだけでは面白くない。一歩批判的に踏み込む姿勢があってもいい。紙に書いた選挙公報と同じものが画面に流れるだけでは、チャレンジ不足だと思う。(升味委員長代行)
    A:例えば、選挙期間中に立候補者をスタジオに呼んで意見を戦わせることを公職選挙法は禁じていない。(藤田委員)

  • Q:具体的にどう改善したらいいのか?
    A:なにか基準を出した方が現場は楽だという考え方はあるが、基準は私たちが決めるのではなく、放送人の職責として自主・自律に基づいて番組を作ってほしいと期待している。(升味委員長代行)
    A:マニフェストを精査して質問することをやっていないのではないか。本当の争点が隠されているのではないかという個人的な印象を持っている。(渋谷委員)

以上

2017年2月10日

東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』審議入り

放送倫理検証委員会は2月10日の第112回委員会で、TOKYO MXの『ニュース女子』について当該放送局に報告書の提出を求めた上で討議し、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、TOKYO MXが2017年1月2日、『ニュース女子』で放送した沖縄の基地建設反対運動についての特集。この中で、「マスコミが報道しない真実」と題して沖縄の高江ヘリパッドの建設反対運動などを取り上げ、現地リポートとスタジオトークで放送した。
放送直後から「沖縄に対する誤解や偏見をあおる」「番組が報じた事実関係が間違っている」など多数の意見がBPOに寄せられた。
審議入りの理由について川端和治委員長は、「どれだけきちんとした裏付け取材が行われたかが問題になる。ただ、持ち込み番組ということなので、放送局の考査の段階で、考査がきちんとできたのか、できなかったのかを、まずチェックしないといけない」と述べた。
委員会は今後、TOKYO MXの関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第25号

「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」

2017年2月7日 放送局:民放連・NHK

2016年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられたことなどから、委員会は、具体的な放送を踏まえながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般のあり方について審議してきた。
委員会は、「政治的に公平であること」などを定めている放送法第4条第1項各号の番組編集準則は「倫理規範」だとした上で、放送局には「選挙に関する報道と評論の自由」があり、テレビ放送の選挙に関する報道と評論に求められているのは「量的公平」ではなく、政策の内容や問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるために、取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をするという「質的公平」だと指摘した。
この観点からすると、真の争点に焦点を合わせて、各政党・立候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念と言わざるをえないとして、「放送局の創意工夫によって、量においても質においても豊かな選挙に関する報道と評論がなされる」ことを期待した。

2017年2月7日 第25号委員会決定

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目 次

2017年2月7日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2月7日午後2時45分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。また、午後3時30分から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には26社60人が出席した。
詳細はこちら。



第111回 放送倫理検証委員会

第111回–2017年1月

参院選と都知事選の選挙報道全般について審議 2月上旬にも意見書の通知と公表の記者会見
ASKA氏逮捕報道でのタクシー車載映像使用などについて討議など

昨年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられたことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、委員会は、二つの選挙に関する放送の具体例を踏まえながら、選挙報道全般のあり方について審議を継続している。委員会に担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた結果、大筋で合意が得られたため、一部手直しをしたうえで2月上旬にも放送局の代表への通知と公表の記者会見をすることになった。
昨年11月末のASKA氏逮捕報道の際に、在京民放局がタクシー車載映像を使用したことなどについて視聴者意見が多数寄せられたことなどから、当該各局から報告を求めて意見交換を行った。最終的には、各局の報道内容について公益性も認められないわけではないし、既にASKA氏が釈放されていて「法的手段を進めている」と公表していることなどから、委員からの厳しい意見も議事概要に公開して注意喚起することで、審議の対象とはしないことを決めた。
IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』で、乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング」が行われたのではないか、という疑惑が報じられた。委員会は当該局の報告書をもとに意見交換をした結果、さらなる確認や検討が必要だとして、討議を継続することを決めた。
委員会発足10周年記念のシンポジウムが、3月22日(水)に開催されることが担当委員から報告され了承された。

議事の詳細

日時
2017年1月13日(金) 午後5時00分~8時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議

委員会は、昨年行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられる中で、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考えると、具体的な放送を踏まえながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般のあり方について審議を継続している。
今回の委員会では、前回出された意見書の原案に対する各委員からの意見をもとに、担当委員から意見書の修正案が出され、これに対して委員から「公選法や放送法が選挙報道に何を求めているのかをわかりやすく解説して、実際に取材し番組を制作する人たちに理解してもらう必要がある」「意見書で述べている内容が、法律のどの条項に根拠があるのか、すぐに判るようにすることは意味がある」など、委員会の考えをより的確に伝えるための表現についても意見が交わされた。
その結果、大筋で了解が得られたため、表現の細部等について手直しをしたうえで、2月上旬にも、放送局の代表に通知するととともに、公表の記者会見をすることになった。

2. ASKA氏逮捕報道でのタクシー車載映像使用などについて討議

昨年11月末のASKA氏逮捕報道に関連して、在京民放局が逮捕直前にASKA氏が乗車したタクシーの車載映像を使用したことなどについて、BPOにも「過剰報道ではないか」「プライバシー侵害だ」などの視聴者意見が多数寄せられた。これを受けて、当該各局から、映像使用の実績、取材の経緯、放送の際の判断理由などについて、報告書が提出された。タクシー車載映像を使用したのは、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、フジテレビの4局で、各局とも放送にあたっての判断理由としては、「相当程度公的な存在といえるASKA氏の逮捕直前の様子や言動を伝えることは重要で、公益性・公共性が高いと判断した」などとしている。この他、逮捕前のASKA氏に情報番組のキャスターらが直接電話をかけて、逮捕報道への反応などをインタビューした音声が読売テレビと日本テレビで放送された件については、当該2局は、「本人が容疑を否定する重要な証言と判断して放送した」としている。また、読売テレビの11月28日放送の『ミヤネ屋』では、「ASKA氏逮捕へ」のニュースを伝える中で、芸能レポーターがASKA氏から提供されていた未公開曲の音声を約1分間放送したが、これについて当該局は、「著作権の問題はあるものの、ASKA氏の音楽活動の紹介として報道的にも意味があると判断した」としている。
委員会では、さまざまな観点からの意見交換がおこなわれ、テレビ局に対して厳しい意見も出された。しかし最終的には、問題点はあるものの、各局の報道内容について公益性も否定できない以上、一概に放送倫理違反を問うことは難しいし、ASKA氏が既に釈放されていて、本人のブログ上で「法的手段を進めている」と公表していることなどを勘案して、主な意見を記載して注意喚起をすることで、この事案の討議は終了することになった。

【委員の主な意見】

  • 単純に考えれば、プライバシー侵害や通信の秘密への配慮不足などが問題になると思うが、個人の権利の問題はこの委員会の本来の対象ではないと思うので難しい。
  • いくら公益性・公共性といわれても、実際の番組を見てみると、面白いものが手に入ったから放送している印象がぬぐえなかった。
  • タクシー車内の映像だが、あの程度の内容で公益性・公共性があるという主張には違和感を持った。ただ、今回はこの問題で大きな議論が起きたことを放送局に理解してもらうことでいいと思う。
  • たまたま手に入った車載映像を各局がそろって使用し、タクシー会社からやめてくれと言われるとすぐやめるということに、一言で言えば「安易だ」と感じた。
  • タクシー車内というプライベートな空間の映像の使用について若干疑問は残るが、報道の公共性との兼ね合いからいうと放送倫理違反とまではいえないのではないか。
  • 集中豪雨的な報道はどうかとも思ったが、タクシー車載映像や電話インタビューの使用の是非を論じると、警察発表以外の独自取材を制限してしまうことにもつながりかねない。ASKA氏が法的手段を取ると表明しているのなら、それを見守るほうが良いのではないか。

3. 番組内での乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』を討議

IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』(2015年9月21日放送)で、専門家の説明を交えて、ある乳酸菌を摂取していると免疫力を高める効果がある、という内容の放送をしたが、一部週刊誌で、これが「広告」であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」ではないかと指摘された。
この番組については、2015年11月の岩手放送の番組審議会で議論され、議事録によると、出席した局の幹部から「乳酸菌の扱いについては有料のタイアップである」という説明があった。しかし、2016年12月、岩手放送は、ホームページで番組審議会での説明に一部事実誤認があり、この番組がタイアップで制作されたものでないと訂正した。
当該局から提出された報告書によると、「この放送に関して、乳酸菌の商品を製造販売する企業から金銭が支払われことはなく、乳酸菌は健康情報の一つとして取り上げた。番組審議会では、委員からの厳しい質問に対して、局の出席者は思い込みによる誤った説明をしてしまった」ということであった。
委員会の議論では、「当該局はステルスマーケティングを否定しているが、乳酸菌の説明のくだりは唐突で番組の一部のように見えなかった」「番組審議会を軽視しているのではないか」などの厳しい意見が相次いだ。しかし、「この番組に対する番組審議会委員の対応は、素晴らしかった。今後、番組審議会の動きを見届けてみたい」との意見もあり、放送局の自主・自律の観点から、当該局の番組審議会や民放連の動きも見守りたいとして、次回の委員会で討議を継続することになった。

4. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

検討を続けてきた委員会発足10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から、出席者や内容が固まり、開催日が3月22日(水)に決定したことが報告され、了承された。

以上

第110回 放送倫理検証委員会

第110回–2016年12月

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』に関する意見の通知・公表について意見交換など

12月6日に当該局への通知と公表の記者会見を行った、TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見について、出席した委員長や担当委員から当日の様子が報告され、意見交換が行われた。
参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられたことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、委員会は、二つの選挙に関する放送の具体例を踏まえながら、選挙報道全般の問題点について審議を継続している。今回の委員会では、担当委員から出された意見書の原案について、さまざまな考え方が示され、次回、これらの議論を踏まえた意見書の修正案が提出されることになった。
テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』の「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」の特集で、被害女性への配慮を欠いた内容の放送がなされたという事案について、前回に引き続き討議した。しかし、当該局の謝罪放送以降は事案に進展はなく、被害女性の心情などへの配慮も含め、委員会として総合的に判断して今回で議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から最新のパネリストと構成の案が報告された。

議事の詳細

日時
2016年12月9日(金) 午後5時00分~7時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見を通知・公表

実際は最後まで解答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した、TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見(委員会決定第24号)の通知と公表の記者会見が、12月6日に実施された。
委員会では、当該局の当日のテレビニュースを視聴したあと、委員長や担当委員から、通知の際のやり取りや記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。

2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議

委員会は、7月に行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられる中で、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考えると、具体的な事例を参照しながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般の問題点について審議を継続している。
今回の委員会では、前回までの議論にもとづいて担当委員から意見書の原案が示され、これに対して委員から「選挙でも、事実に基づく公正な評論は自由だということを忘れてはいけない」「公平・公正の基準は、放送局が自律的に設定するものだという趣旨は大事である」「選挙報道に求められているのは量的な公平ではなく質的な公平ではないか」「論文のようにせずに、放送の制作現場で働く人たちがわかりやすいものにしたい」といった意見が出されるなど、選挙報道のあり方についてさまざまな議論が交わされた。
その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の修正案を作成し、次回委員会に提出することになった。

3. 慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件の報道で、被害女性に配慮を欠いた内容を放送したテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』を討議

テレビ朝日の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』は、「独自 慶應生女性暴行疑惑 現役メンバー直撃 当事者の証言」と題した特集を10月20日に放送した。独自取材として放送されたVTRは、慶應大学広告学研究会のメンバーや男性OBの「被害女性側にも非があるのではないか…」というインタビューなど、男子学生側の言い分を中心に構成されていた。また、サークルメンバーの話にあった「大学側も動画を確認し、事件性なしと判断したと聞いている」というコメントを裏取り取材をせずにスタジオで取り上げ、コメンテーターから大学側の対応を非難する発言があった。
その後、当該局は被害女性の弁護士と面会して、放送内容が配慮を欠いていたことを謝罪するとともに、10月27日の当該番組内でお詫び放送を行った。
前回の委員会の議論では、「男子学生側の主張で構成されている上、裏取り取材がほとんど行われていない」「女性への配慮が決定的に欠けた放送内容になっている」などとの厳しい意見が相次ぎ、さらに、確認や検討が必要な点もでてくる可能性があるとして、討議を継続していた。
しかし、当該局の謝罪放送以降は事案に進展はなく、当該局の一連の対応から、問題点について理解したのではないかとみられることや、被害女性の心情などへの配慮も含め、委員会として総合的に判断して今回で議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。

【委員の主な意見】

  • この事案は、このような番組が放送されるに至ったプロセスが問題だった。当該局は、問題点については理解して反省・謝罪している。被害女性の心情について配慮する必要もある。
  • これ以上の議論の継続は、この状況では、あまり意味が無いのではないか。

4. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、担当委員から最新のパネリストと構成の案が報告された。

以上

2016年12月6日

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、12月6日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、岸本葉子委員、鈴木嘉一委員、中野剛委員の4人が出席し、当該局のTBSテレビからは取締役(制作担当)ら3人が出席した。
まず川端委員長が「視聴して大変面白い番組だと思っただけに、今回の件は委員会としても非常に残念であった。その原因は、顔相鑑定の専門家として出演してもらったにもかかわらず、最終的には一つの素材のようにしか扱わなかったために、出演者に対する配慮や敬意が欠ける編集をしてしまったことである。その背景には、TBSテレビの局制作の番組でありながら、2つの制作会社が関与するなど非常に複雑で、責任があいまいになりそうな制作体制の中、制作過程全体のつながりがきちんと見られていないことに問題があったのではないか」と述べた。その上で「現在、このような制作体制は非常に広くとられているが、放送局側がどのように制作会社との関係を適切に構築していくのかが、これからの課題であることを十分留意してほしい」と指摘した。
また、中野委員は、「今回の件は、放送前に問題点に気づけるチャンスが何回かあった。その時に、スタッフが自分の意見をしっかり言えばストップがかかったのではないか。スタッフが自分の意見を率直に言えるような環境作りに、放送局側もしっかり取り組んでほしい」と述べた。また、岸本委員は、「とくに若い制作者には、意見書の結論部分だけでなく、それに至る過程についても是非読んでもらい、私たちの問題意識を共有して、番組制作にあたってほしい」と述べた。さらに、鈴木委員は、「委員会では、これまでも、番組で失敗したら、番組で取り返せというメッセージを送ってきた。今後、番組をよくする形で失点を取り戻してほしい」と述べた。
これに対してTBSテレビ側は「委員会の考えを、全社で、特に制作現場の皆に共有させ、ご意見を実のあるものにしていきたい。制作会社の力を借りて番組を制作する形態が多くなったが、局としてのガバナンスが効いていなかった。この制作形態を前提に、TBSとしてどうような体制が組めるのかが、今後の課題だと認識している」と述べた。

このあと、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には20社37人が出席した。
初めに、川端委員長が意見書の概要を紹介し、「委員会は、出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反と判断した」と説明した。さらに「番組制作を担当した人たち相互の間でも、重要なことの伝達がなされていなかった。制作現場内の風通しの悪さが問題の背景にあったのではないか」と述べた。その上で「局制作をうたいながら、実際は制作会社が作っているという番組は現在たくさんあるが、局がしっかりその制作過程を管理できる体制を作っていかなければ、これからも同じような問題が起こるのではないか」と指摘した。
中野委員は「疑問を持つスタッフが複数いたにもかかわらず、最後の出演者の姿を消す段階まで、結局声を上げられなかったことが、担当者へのヒアリングで浮かび上がってきた。その道のプロとして番組を放送する以上は、率直に自分の意見を発言し、議論した上できちんと対応策を考えてほしかった」と述べた。岸本委員は「バラエティー番組ということで、長時間の慎重な議論を重ね、この意見書をまとめた。現場の制作者には、この意見書を隅々まで読んで、私たちの問題意識を共有していただきたい」と述べた。また、鈴木委員は、「言うまでもなく、出演者は一個の人格であり、それぞれ社会的な立場を持っている。出演者を単なる素材と見てしまうとそういう人間的な要素が抜け落ちてしまう。今回は、スタッフが出演者を素材視していたところに一番の問題があったのではないか。スタッフの意識が問われたケースだと思う」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:事実関係の確認だが、TBS側のスタッフは、編集作業で時系列を入れ替えたことや、出演者の姿が消されたことを、問題が発覚するまで知らなかったということなのか?
    A:その通りです。(川端委員長)

  • Q:この番組のスタッフには、以前審議対象となった「ほこ×たて」のスタッフもいたと思うが、意見書で同じ制作スタッフがいたことに言及していないのはなぜか?
    A:同じスタッフがこの事案にも関与していることは当初からわかっていたので、そのことが今回の過ちが起こったことに関連しているかは注意してヒアリングをした。しかし、そういうことではないことがわかったので、制作会社と放送局との関係一般の問題にとどめて言及している。(川端委員長)

  • Q:個人の問題ではなくて、構造の問題ということか?
    A:そうです。(川端委員長)

  • Q:「ほこ×たて」と総合演出が同一人物で、スタッフたちが意見を言いにくい環境があったということだとすると、「ほこ×たて」の事案と共通項があることになるのではないのか?
    A:「ほこ☓たて」の事案の際に、総合演出に意見が言いにくいということが問題になっていたなら関係があることになるが、「ほこ×たて」の時はそうではなかったと理解している。あの事案では、ディレクターが単独で「ない対決を作り上げてしまった」ことなので、問題は違うと思う。(川端委員長)

以上

第24号

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見

2016年12月6日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(2016年6月19日放送)の珍種目の一つ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで解答した出演者を途中でレースから脱落したことにし、映像を加工してその姿を消して放送した事案。
委員会は、背景となる番組の制作体制や制作環境、そして、スタッフの意識の問題点などを指摘した上で、「出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反」と判断した。
また、局制作の番組といいながらも、制作過程のほとんどが制作会社によって担われているという実態は、番組に対する責任の所在をあいまいにする危うさをはらむこともあわせて指摘した。

2016年12月6日 第24号委員会決定

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目 次

2016年12月6日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、12月6日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。また、午後2時30分から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には20社37人が出席した。
詳細はこちら。

2017年3月10日【委員会決定を受けてのTBSテレビの対応】

標記事案の委員会決定(2016年12月6日)を受けて、当該のTBSテレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
3月10日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

TBSテレビの対応

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目 次

  • 1 委員会決定に伴う放送対応
  • 2 委員会決定の社内周知
  • 3 意見について勉強会の開催
  • 4 総括

第109回 放送倫理検証委員会

第109回–2016年11月

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議など

出演者の姿を本人の了解を得ずに映像処理で消したのは問題で、制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りしたTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、前回委員会の議論を盛り込んだ意見書の修正案が担当委員から提出された。内容や表現をめぐって意見交換が行われた結果、大筋で了解が得られたため、一部手直ししたうえで、12月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。
参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、前回委員会で、二つの選挙に見られた選挙報道全般の問題点を対象として審議入りしたが、今回の委員会では、担当委員から意見書の骨子案が出され、選挙報道のあり方についてさまざまな観点から議論が続けられた。
「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」を扱った二つの情報番組について討議した。一つはフジテレビ・関西テレビの共同制作番組『Mr.サンデー』で、中心人物とされる男子学生の実名が露出してネットに拡散した事案。もう一つは、テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』で、被害女性への配慮を欠いた内容の放送がなされたという事案である。委員会は、当該局の報告を基に討議した結果、『Mr.サンデー』については、単純なミスであり事後の処理も適切であるので、当該局に一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事録に掲載するが審議の対象とはしないことを決めた。一方、『羽鳥慎一モーニングショー』については、さらなる確認や検討が必要だとして、次回委員会で討議を継続することになった。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から構成の一部見直しが提案され、承認された。

1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(6月19日放送)の珍種目の一つ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで解答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した事案について、前回の委員会で意見書原案に示された意見や議論を踏まえた修正案が担当委員から提出された。
「出演者の姿を無断で消すことに一部スタッフが感じた疑問が伝わらなかったのは、番組の制作環境に問題があったのではないか」「バラエティー番組において、さまざまな属性の出演者との信頼関係を、制作者はどのように考えるべきか」などの論点について詰めの議論が交わされた。また、より明確に委員会の考えを伝えることができるよう、意見書の表現についても意見交換が行われた。
その結果、大筋で了解が得られたため、表現の細部等について手直しをしたうえで、12月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。

2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議

7月に行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられる中で、委員会は前回、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考慮すると、具体的な事例を参照しつつ選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、参院選と都知事選に見られた選挙報道全般の問題点を対象として審議入りすることを決めた。
今回の委員会では、担当委員から意見書の骨子案が出され、「放送法で求められているのは、選挙の争点についての豊富な情報の提供である」といった意見や、「公職選挙法は、政見放送と経歴放送を除けば、選挙に関する報道の自由を制約してはいない」といった意見が出されるなど、選挙報道のあり方についてさまざまな観点から議論が続けられた。
その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の原案を作成し、次回委員会に提出することになった。

3. 慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件の報道で、中心人物とされる男子学生の実名が露出したフジテレビ・関西テレビ共同制作の情報番組『Mr.サンデー』を討議

フジテレビと関西テレビが共同制作する情報番組『Mr.サンデー』は、「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」を扱った特集を10月16日に放送した。その中で、中心人物とされる男子学生のメールアドレスを入手して、取材依頼の電子メールを送信するとともに、そのメール本文と、パソコンに向かってメールを作成する模様を撮影し、イメージ映像として放送した。このメール本文にはこの男子学生の姓が記載されていたため、放送直後からインターネット上にメール文の静止画像が出回り、名前が拡散された。当該局の報告書によると、担当ディレクターがメールに男子学生の実名を書き込んだことを忘れていたため、モザイク処理などを施さずに放送し、その結果、実名が1.5秒間露出したという。
BPOには、「まだ立件されていない男子学生の実名がさらされている。問題ではないか」という視聴者意見が寄せられた。
当該局は、当該映像の使用を直ちに禁止すると共に、個人情報の扱いについて一層の注意喚起をし、個人情報やプライバシー情報についてはディレクターのみならずカメラマンやアシスタントディレクターまでクロスチェックすることを義務づけるなどの再発防止策をとり、また個人情報の拡散防止のためSNSサイトの管理者に情報の削除要請を行っているが、まだ完全に削除しきれていない。
委員会の議論では「初めて放送を見た視聴者は時間が短くて気付かないかもしれないが、誰かが録画して静止画像がネットに出ることは容易に想像でき、不注意では済まされない問題だ」などとの厳しい意見もあった。ただ、原因は単純なミスであり、委員会の意見を議事録に紹介することで当該局に一層の注意喚起を促すことにしたいとして議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。

【委員の主な意見】

  • ネットに個人情報をアップロードしたくて待ち構えている者が数多くいる中、メディア側が不用意に個人情報をさらしてはならない。
  • メールに実名を書きこんだことを、翌日になったら書いた本人が忘れたと報告書にあるが、にわかに信じがたい。あまりにもずさんだ。
  • メールアドレスをつかんだからといって、取材申し込みのメールをわざわざ映す必要は、そもそもない。ケアレスミスだろうが、必要のないイメージ映像まで作って尺を稼ごうとする安易な演出手法にも問題があるのではないか。
  • 事後の対応は迅速で、またSNSサイトの管理者に情報の削除要請をするなど被害の拡大防止に手を尽くしていることは評価できる。

4. 同じ慶應大学女性集団暴行事件の報道で、被害女性に配慮を欠いた内容を放送したテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』を討議

テレビ朝日の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』は、「独自 慶應生女性暴行疑惑 現役メンバー直撃 当事者の証言」と題した特集を10月20日に放送した。独自取材として放送されたVTRは、慶應大学広告学研究会のメンバーや男性OBの「被害女性側にも非があるのではないか…」というインタビューや、女性が知人とやりとりしていたLINEの画面の内容(イメージ再現)など、男子学生側の言い分を中心に構成されていた。また、サークルメンバーの話にあった「大学側も動画を確認し、事件性なしと判断したと聞いている」というコメントをスタジオで取り上げ、コメンテーターから大学側の対応を非難する発言があった。
当該局から委員会宛てに提出された報告書によると、放送後、当該局には被害女性の弁護士から抗議文が届き、視聴者からも批判的な意見が寄せられた。また慶應大学からは「大学側は動画を確認していない。事件性がないとは言っておらず、報道されているような事件性を確認するには至らなかったとコメントを出した」との指摘があったという。
BPOに対しても、視聴者から「被害女性の人権を侵害している」などとの放送内容に批判的な意見が多数寄せられた。
その後、当該局が被害女性の弁護士と面会して、放送内容が配慮を欠いていたことを謝罪するとともに、10月27日の当該番組内でお詫び放送を行った。
委員会の議論では、「男子学生側の主張で構成されているうえ、裏取り取材がほとんど行われていない」「女性への配慮が決定的に欠けた放送内容になっている」などとの厳しい意見が相次いだ。しかしながらこの事案は、現在捜査が進められており、さらに確認や検討が必要な点も出てくる可能性があるとして、次回の委員会で討議を継続することになった。

【委員の主な意見】

  • サークル側の学生の主張に沿った内容で、大学側が動画を見た上で事件性がないと判断したのかどうかなど、少し取材すればすぐに事実でないことが判明したことについても、男子学生側の言い分をそのまま放送している。ただ、当該局の報告書によると、番組担当の幹部が放送直後に問題点を指摘し、お詫び放送もしていて、事後処理は適切だと思う。
  • 男子学生側の主張を一方的に伝えた当該番組の発想自体が、ジャーナリストとしての倫理観を欠いているのではないか。男子学生側は、女性が他の男性と交際していたということが、女性にも非がある証拠だと考えているようだが、全くナンセンスな発想であり、この間違った判断を何の批判も加えずそのまま放送したことは、放送局側の見識を疑わせる。ただ、この事案で意見を言うたびに、被害女性にも焦点が当たってしまうのは本意ではない。
  • 一般論だが、捜査中の動いている事件については、より一層の細かい配慮が必要だ。当該番組にはこの配慮が欠けていたと思う。
  • VTRを見ていて大変不快に感じた。当該局が、常識的にはありえないサークル側の学生の主張を中心にして番組を構成していることと、大学側などに対して裏取り取材をしていないことが一番の問題ではないかと思う。ただ、捜査中の事案でもあり、事実関係に争いがあるようであるから、ひとまず推移を見守ったらどうか。

5. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、担当委員から構成の一部見直しが提案され、承認された。

以上

2016年10月20日

中京地区の放送局との意見交換会

放送倫理検証委員会と中京地区の放送局13局との意見交換会が、10月20日に名古屋市内で行われた。放送局側から61人が参加し、委員会側からは川端和治委員長、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員、藤田真文委員の4人が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、愛知県、三重県、岐阜県内のすべての放送局を対象としたのは初めて。
冒頭、BPOの濱田純一理事長が、「"自由"は、民主主義と表現にとって最も基本的なものである。しかし、その"自由"も緊張感がないと、いいものになっていかない。放送局の皆さんは、それを鍛える材料として、BPOをうまく利用してほしい。意見交換会は、皆さんの実感を委員に伝える貴重な機会である。委員も、その実感をベースに委員会の考えをまとめたいと努力している。その意味でも、今日は深い質疑応答ができるよう、日頃考えていることをストレートに話していただきたい」と挨拶した。
意見交換会の第1部のテーマは、「選挙報道について」だった。今年は、参議院議員選挙の年であり、その報道を中心に意見交換を行った。まず渋谷委員が、2013年の参院選の際、委員会が公表した決定17号「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」について説明し、「民主主義にとって最も重要なものが選挙であることをしっかり理解したうえで放送にあたってほしい。また、視聴者の立場に立って公正公平の意味を考えてほしい」と要望した。
次に参加者から、「選挙期間中、候補者を紹介する際は、尺を計って、平等に放送している。また、立候補表明をした人は、必要な時以外は出演させない。期間中、ある候補者を応援するタレントの出演も控えている。選挙ポスターの映り込みにも注意を払っている」「候補者を紹介する際、与党、野党をまとめるなど見やすくするための編集をしているが、公平性に悩むことがある。また、争点を取り扱う時、それが視聴者にとって本当の争点であるのか疑問に思うこともある」「選挙が近づいてくると、政策についての報道は、公平性を意識するあまり放送を控えてしまうことがある。18歳選挙が始まったが、特に若い人は、直前になって投票を決める傾向があるので、選挙が近づいた時の選挙報道はより重要になると思う」など選挙報道の現状が報告された。
これに対し、藤田委員からは、「選挙報道でも、基本的に、放送局の編集権、報道の自由は守られている。選挙期間中にトータルに公平性が担保されていればよい。時間の平等に神経質になりすぎているのではないだろうか」との指摘があり、斎藤委員からは「選挙報道でも自分たちで取材を重ねたうえで、自分たちの考えるニュースバリューにしたがって報道することが重要である。むしろ、自分たちで争点を作るくらいでよいのではないだろうか。要するに自信を持ってください、と言いたい」との発言があった。
これらの発言に対し、参加者からは、「自分たちで争点を捉えて、視聴者にとって選挙の本質は何かを伝えていくことが重要だとあらためて思った。しかし、私たちが視聴者にとって公正公平だと思って放送しても、視聴者の側から厳しい意見が来ることもある。最近、放送の自由に対して視聴者の目も厳しくなっている」という放送にあたっての悩みも報告された。
第1部の締めくくりとして、川端委員長から、「視聴者が正しい判断ができるだけの情報を伝えることが放送する側の任務である。それを果たしていないと、選挙という民主主義の基盤が損なわれてしまうのではないか。例えば、ある政党がどのような政策を掲げているか伝えるだけでなく、その政策を実行することにより、どんな利点があるか、さらには、どんなデメリットがあるかも指摘するべきではないか。選挙報道では、一定の公平性は担保しなければならないが、それだけをつきつめると、本来担うべき最も重要な任務が怠られてしまいかねない、ということを重く考えてほしい」との発言があった。
続く第2部のテーマは、「ローカル制作の情報番組について」だった。情報番組の制作において、いかにしてミスを防いでいくか、オリジナリティを出していくか、などについて意見交換が行われた。まず、参加者からは、「若いスタッフの中には、きわどい表現、きわどい取材がチャレンジングな番組作りと思っている人がいる。きわどくなくても攻めた番組が作れることを伝えるのに苦労している」「朝の情報番組では、オリジナリティを出すためライブ感を放送に生かすことを常に心がけている。正確性、誠実性を念頭に置いて放送しているが、面白くても裏が取れないもの、つまりグレーなものはいったん放送を取りやめることにしている。しかし、その判断には、日々悩んでいる」など番組制作にあたっての苦労、悩みが報告された。
これに対し、斎藤委員はジャーナリストの立場から、「取材を積み重ねることにより、どうしてもグレーであれば放送をやめるというのもひとつの判断だと思う。一番いけないのは、よくわからないまま適当にやってしまうことである。また、政治・経済などの難しい問題をわかりやすく伝えたいために、一側面からの情報だけを伝え、結果的にうその放送になってしまうこともある。情報番組には、報道以上に多方面からの徹底した取材が必要である」と発言があった。
さらに、参加者からは、「街の風景として撮ったものに、個人の家、車のナンバー、通行人が映り込んでいる。これに配慮すると、すべてのものにモザイクをかけなければならなくなる。意図したものでない映像にどこまで責任を負わなければならないのか悩んでいる」という映像の映り込みの問題が提起された。これに対し、藤田委員からは、「かつては公道上で、周囲が取材を認識していれば肖像権は侵害しないということが常識だったが、今は、モザイク映像が増えている。しかし、モザイクが当たり前だという考え方は表現の寛容性を狭めてしまうことになる。どこまでモザイクをかけるかの判断は、慎重に考えてほしい」という意見が出された。また、渋谷委員からは、憲法学者の対場から「本来、肖像権よりも報道の自由は優先されるが、それは、一般の人がどのように考えるかが重要になってくる。今は、ネットに記録がいつまでも残される時代。時代の変化に伴って、肖像権の考え方も変わってくる。放送局の判断でモザイクが必要になることも事実である」という指摘があった。
最後に、放送倫理検証委員会が10年を迎えるにあたり、発足時から委員長を務めている川端委員長から次のような発言があった。「この10年間、我々は、放送に間違いが起こった時、その原因とその背後にある構造的な問題をさぐってアドバイスをすることを基本的な立場としてやってきた。その結果、少しは放送倫理検証委員会がどんなものかわかっていただけたとは思っているが、まだ、制作現場、特に制作会社の人たちには、BPOは表現の範囲を狭めている、という意識があるのではないか。しかし、我々が意見を書くのは、重要な問題のみであり、自律的に是正が行われている時は慎重に扱っている。さらに意見の根拠としているのは、放送局が自主的に定めた放送倫理の基準だけである。今後も放送局の皆さんが、こういう放送をしたいという確信があれば、大いに取り組んでいただきたい」
以上のような活発な議論が行われ、3時間以上に及んだ意見交換会は終了した。

今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 情報番組の各局担当者の苦労が共有できた。ここ最近の人権意識や放送倫理意識の高まりから各局制作現場で必要以上に自主規制をしている感じを受けた。選挙報道と同じように自信を持って放送していくことが大切なのではと感じた。
  • 面白い番組や冒険的な番組を作りたいというのは、制作者なら誰しも思うところである。そのために普段やっていることから一歩踏み出したいという思いに駆られる。そういう思いにブレーキをかけるものとしてBPOがあると誤解している人も多いのではないか。BPOは決してそのような機関ではない。きちんとした理論武装ができている制作者であるなら、むしろ、どんどん意欲的な番組に挑戦することを望んでいるだろう。この「理論武装」というのが難しいと思う。コンプライアンスさえ守っていれば、それが達成されるというほど単純なものではないだろう。グレーゾーンのようで、そうでは無いというものを見つけ出していかなければならない。そのためには制作者(報道も含めて)に粘り強さが必要とされる。マニュアルで番組を作っていたのでは、人を感動させるようなものは作れないと肝に銘じるべきだろう。
  • 選挙報道については、候補者の取り扱いを同一尺、同レベル表現をルール化している各放送局のジレンマに対し、委員の方々から(若干の個人差は感じましたが)報道としては画一でなく、踏み込んだ取材と放送をすることが重要との意見をいただき、実りある意見交換になったのではと思います。
  • (選挙報道について)BPOの委員は、「全体として公平性が保たれていれば、個々の番組の表現は各局の判断に任される」と述べていましたが、総論は誰もそれに異論はなくても、実際はそのような考え方で放送はされていないと思う。本来の報道にあるべき姿とはどういうものか、消極的なチェックばかりではなく、日頃から踏み込んだ考え方を示し、萎縮しがちな放送現場(実際は管理する側の姿勢)にもっと勇気ある放送の姿勢を促すような積極的な発信をお願いしたいと思います。それが、放送やメディアとはどういうものかということを一般の人々にも考えてもらう契機にもなりうると思う。

以上

第108回 放送倫理検証委員会

第108回–2016年10月

参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議入り

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議。意見書原案を意見交換など

第108回放送倫理検証委員会は、10月14日に開催された。
出演者の姿を本人の了解を得ずに映像処理で消したのは問題で、制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りしたTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、意見書原案が担当委員から提出され、意見交換を行った。その結果、担当委員が修正案を作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。
参議院議員選挙について放送局から事案の報告がいくつかあり、また東京都知事選挙で不公平な放送がされたという視聴者意見が数多く寄せられたことなどから、選挙報道のありかたについて討議が行われ、参院選と都知事選の選挙報道全般を対象として審議入りし、意見をまとめることになった。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、パネリストの人選やテーマについて検討を行った。

議事の詳細

日時
2016年10月14日(金)午後5時20分~7時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(6月19日放送)の珍種目のひとつ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで解答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した事案について、担当委員から前回までの議論を踏まえた意見書の原案が提出された。
原案では、問題となった放送にいたる経緯や原因を検証するとともに、その背景となっている問題点なども指摘された。委員会では、このような放送がなされた原因や背景について、制作体制やスタッフの意識の問題など、さまざまな観点から意見交換が行われた。
その結果、これらの議論をもとに、担当委員が修正案を作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。

2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について討議(審議入り)

7月に行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局から何件かの事案の報告が寄せられたことや、都知事選で特定の3候補に報道が集中したのは不公平ではないか、との視聴者意見が数多く寄せられたことなどから、二つの選挙の具体的な事例を踏まえながら、選挙報道のありかた全般について委員会で議論を重ねてきた。「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考慮すると、具体的な事例を参照しつつ選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があることなので、個別の番組についてではなく、参院選と都知事選に見られた選挙報道全般の問題点を対象として審議入りすることを決めた。
委員会では「候補者を紹介する時間を機械的に同じにするのではなく、幅広い観点からのバランスが大事では」といった意見や、「選挙報道が萎縮しているとの指摘もあるが、多様な選挙報道こそが放送の使命といえるのではないか」といった意見などが出され、幅広い議論が交わされた。
委員会は、今後、二つの選挙で見られた事例を踏まえつつ、テレビの選挙報道のあり方全般について審議し、選挙の公平・公正な実施に実質的な貢献をするとともに、視聴者の投票行動の選択に役立つ豊富で多様な情報を伝えられる放送とするために放送局に考えてほしいことを、「意見」としてまとめるとしている。

3. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、新たに確定したパネリストの報告やテーマの詰めが行われた。

以上

2016年10月14日

参院選・都知事選の選挙報道のあり方全般について審議入り

放送倫理検証委員会は10月14日の第108回委員会で、2016年7月10日に行われた参議院議員選挙と同7月31日に行われた東京都知事選挙の二つの選挙報道について討議し、個別の番組を審議の対象とするのではなく、選挙報道のあり方全般について審議入りすることを決めた。

参院選と都知事選について放送局から何件かの事案の報告が寄せられたことや、都知事選で特定の3候補に報道が集中したのは不公平ではないか、との視聴者意見が数多く寄せられたことなどから、選挙報道全般のあり方について議論。「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状をふまえ、委員会として選挙報道における公平・公正の意味について考え方を示すべきではないか、などとの意見も出され、委員会で議論を重ねてきた。

審議入りの理由について、川端和治委員長は「選挙報道のあり方についていろいろな議論があり、視聴者からもいろいろな意見が寄せられている状況で、委員会の考え方を示すのは意味があるだろう」と述べた。

委員会は今後、テレビの選挙報道のあり方全般について審議し、二つの選挙で見られた例をふまえつつ、選挙報道が実質的な公平・公正に資するような、あるいは視聴者の投票行動の選択に役立つものになるように放送局に考えてほしいことを「意見」としてまとめることにしている。

第107回 放送倫理検証委員会

第107回–2016年9月

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議 次回委員会までに意見書の原案を作成
選挙報道について議論など

第107回放送倫理検証委員会は、9月9日に開催された。
出演者の姿を本人の了解を得ずに映像処理で消したのは問題で、制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りしたTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、8月に実施した制作担当者へのヒアリングの結果が担当委員から報告され、意見交換を行った。
参議院選挙に関連して放送局からいくつかの事案の報告があり、また東京都知事選挙で不公平な放送がされたという視聴者意見が数多く寄せられたことなどから、選挙報道のあり方に関する議論が行われたが、次回委員会で引き続き対応を検討していくことになった。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについては、パネリスト候補への出演交渉の現状報告があり、人選や開催日時についてさらに詰めていくことを確認した。

議事の詳細

日時
2016年9月9日(金)午後5時25分~8時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(6月19日放送)の珍種目のひとつ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで回答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した事案。7月の委員会で、バラエティー番組であっても、出演者の姿を本人の了解を得ずに映像処理で消したのは問題であり、そのような編集が行われた番組の制作体制などについて検証の必要があるとして、この番組を審議の対象とすることを決め、8月には、担当委員による当該番組のプロデューサー、ディレクターら制作スタッフ9人に対するヒアリングが実施された。
委員会では、担当委員からヒアリングの概要が報告され、経緯の確認が行われた。その上で、なぜこのような出演者への配慮に欠けた編集がなされ、放送に至ったのかについて、「スタッフ間での情報共有の不足や認識の落差がなぜ生じたか」「分業化が進む番組制作でチェック体制は十分だったか」「現場で疑問の声が出なかったのは何故か」などの点についても意見が交換された。そして、今回の議論をふまえ、担当委員が次回委員会までに意見書の原案を作成することになった。

2. 選挙報道について議論

参議院選挙、東京都知事選挙について放送局から何件かの事案の報告が寄せられたことや、東京都知事選挙で特定の3候補に報道が集中したのは不公平ではないか、との視聴者意見が数多く寄せられたことなどから、選挙報道全般のあり方について議論が行われた。「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状を踏まえ、委員会として選挙報道における公正・公平の意味について考え方を示すべきではないか、などとの意見も出され、次回委員会で引き続き議論を継続することになった。

3. 委員会発足10周年の記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、司会やパネリスト候補への出演交渉の現状が報告された。その結果、来年3月頃の年度内開催に時期を遅らせ、会場の選定、日時やパネリストの確定をさらに進めていくことが確認された。

以上

第106回 放送倫理検証委員会

第106回–2016年7月

"出演者の映像を本人の了解なしに消去" TBSテレビ『ピラミッド・ダービー』審議入り

第106回放送倫理検証委員会は、7月8日に開催された。
出演者の映像を本人の了解なしに一部消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、当該局から報告書が提出され意見交換を行った。その結果、バラエティー番組で、より娯楽性を高める目的でしたことであっても、出演者本人の了解を得ずに、出演しているシーンの一部で本人だけを映像処理で消したのは問題であり、そのような編集が疑問なく行われた番組の制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りすることを決めた。
2007年5月に発足した委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて意見交換が行われ、テーマの設定や司会、パネリストの人選などについておおむねの合意が得られた。

議事の詳細

日時
2016年7月8日(金)午後5時45分~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員

1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について討議し、審議入りを決定

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』は、さまざまなジャンルの達人たちが番組独自に設定した珍種目で競い合い、スタジオのゲストが勝敗を予想するバラエティー番組だが、6月19日に放送された珍種目のひとつ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで回答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した。放送後、出演者がブログで「順番やルールが変更され、無断で姿を消された」と告発したことから問題が発覚、当該局は「行き過ぎた編集があった」ことを認め、番組ホームページ等でお詫びした。
委員会では当該局が提出した報告書をもとに討議を行い、「委員会の過去の意見書は、バラエティー番組は自由であるべきだという原則を打ち立てたが、例外として、視聴者の信頼を著しく裏切る演出は放送倫理に反するとも述べている。その基準に照らして判断しなければならない」「果たしてバラエティー番組での演出の許容範囲を超えたといえるのか」「実際には出演しているシーンで出演者の姿を消すことに、スタッフの誰も疑問を感じなかったのはなぜか」「行き過ぎた分業化など、制作体制に問題はなかったか」など、さまざまな視点から意見交換が行われた。
その結果、バラエティー番組で、より娯楽性を高める目的でしたことであっても、出演者本人の姿を、本人の了解を得ずに、現に出演しているシーンから映像処理で消したのは問題であり、そのような編集が疑問なく行われた番組の制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りすることを決めた。

[委員の主な意見]

  • 一番強い印象を受けたのは、映像を加工して出演していた人をいないことにしたということで、簡単に消すと判断を下した人がいたことに非常に驚かされた。
  • バラエティー番組なので、面白くするための演出は原則として許容されている。委員会がその例外を認めた事例は極めて限られている。今回の事案が、その例外的な事例と同等の問題であるとまでいえるだろうか。
  • 分業化が進んだ制作体制だとしても、かかわった制作スタッフの誰もが出演者の姿を途中から消すことに疑問を感じず、出演者への礼儀を欠いたまま放送に至ったのは理解に苦しむ。
  • 外部発注ではなく局制作の番組でありながら、番組の制作過程で、局の責任者であるプロデューサーのかかわり方があまりにも希薄な気がする。
  • 当該局の報告は「行き過ぎた編集」と説明しているが、単に「編集」の問題に矮小化しているのではないか。行き過ぎた分業化など、制作体制全体にも問題があるのではないだろうか。

2. 委員会発足10周年の記念シンポジウムについて

年内を目標に開催されることになった、委員会発足10周年の記念シンポジウムについてさらなる意見交換が行われ、具体的なテーマの設定、司会者やパネリスト候補の人選についておおむねの合意が得られた。今後、出演交渉や会場の選定など、実施に向けての作業に入る。

以上

2016年7月8日

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』審議入り

放送倫理検証委員会は7月8日の第106回委員会で、TBSテレビのバラエティー番組『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、審議入りを決めた。

対象となったのは、TBSテレビが6月19日に放送した同番組。さまざまなジャンルの達人たちが番組独自に設定した珍種目で競い合い、スタジオのゲストが勝敗を予想するバラエティー番組で、この日は、4つの珍種目の一つ「双子見極めダービー」の回答者として実際は最後まで競技に参加した出演者を、途中で脱落したことにして映像を加工して放送した。TBSテレビは、7月5日、「行き過ぎた編集があった」などとして、番組ホームページに「お詫び」を掲載した。
審議入りの理由について、川端和治委員長は「出演者の了解を得ずに勝手に映像を加工したのは問題だ。その背景には分業化など制作体制の問題があるだろう」と述べた。
委員会は今後、TBSテレビや制作会社などの関係者からヒアリングを行い、審議を進める。

第105回 放送倫理検証委員会

第105回–2016年6月

委員会発足10周年 記念シンポジウム開催へ

第105回放送倫理検証委員会は6月10日に開催された。
2007年5月に発足した委員会の10周年にちなんだ事業やイベントについて意見交換が行われ、記念のシンポジウムの年内開催に向けて、テーマの設定やパネリストの人選などが議論された。

議事の詳細

日時
2016年6月10日(金)午後5時~8時25分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会発足10周年 記念シンポジウム開催へ

2007年5月に発足した委員会がことし5月から10年目に入ったことから、10周年にちなむ事業やイベントなどができないか検討してきたが、年内の開催を目標に記念のシンポジウムを実施することになった。
委員会では、発足10周年にふさわしいシンポジウムのテーマは何か、パネリストの人選をどう進めていくか、入場者の対象をどのように想定するか、会場としてふさわしい場所はどこかなどの点について幅広く意見交換が行われ、次回の委員会でさらに内容の詰めを行うことになった。

■ 委員会運営規則の一部改正 6月1日付で施行

4月の委員会で議決された「放送倫理検証委員会運営規則」の一部改正案が、5月31日に開催されたBPO理事会で承認され、6月1日付で施行されたことが、事務局から報告された。
また、この改正に伴い、BPOと加盟各社との間で取り交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」も、委員会運営規則改正との整合性を図るために一部改訂されたこともあわせて報告され、了承された。

以上

2016年6月1日

「放送倫理検証委員会 運営規則」の一部改正を6月1日付で施行

放送倫理検証委員会で、昨年から検討を重ねていた「放送倫理検証委員会 運営規則」の一部改正が、5月31日に開催されたBPO理事会で承認され、翌6月1日付で施行された。
改正の内容は、委員会運営の現状に適合させるために、審議や審理に入る前にその適否を議論する「討論」という手続きと、審議の際にも行っている「ヒアリング」を運営規則に明文化したもので、今年4月の放送倫理検証委員会で改正案が議決されていた。(改正後の運営規則はこちら)
なお、この改正に伴い、BPOと加盟各社の間で取り交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」も、一部改訂された。

2016年1月28日

石川県内の放送局と意見交換会

石川県内各局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月28日に金沢市内のホテルで開催された。6局から46人が参加し、委員会側からは升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員の4人が出席した。放送倫理検証委員会の意見交換会を石川県で開催したのは初めてである。今回は直近の事案である「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』“出家詐欺”報道に関する意見」を中心に意見が交換された。
概要は以下のとおりである。

まず第1部の冒頭で、この事案を担当した升味委員長代行が、「問題となったブローカーと多重債務者の相談場面は、視聴者に大きな誤解を与えたとして重大な放送倫理違反を指摘したが、記者は取材対象者に寄りかかってこの場面を作り上げ、裏付け取材も全くなかったなど、NHKが定めるガイドラインに大きく反していた。隠し撮り風の撮影方法や、多重債務者を追いかけてのインタビューも、この相談場面が真実であるかのように見せるために使われており、放送倫理上の問題があった」と、意見書のポイントについて説明した。
参加者からは、「どこまでがやらせなのか、取材者としてその境目を考えさせられる事案だった。そもそも許容される演出とはどのようなものなのか、しっかりと問い直す必要を感じた」などの発言があった。これに対し、渋谷委員から「視聴者がだまされたと思うかどうかがポイントではないか。視聴者の信頼が大事だということを念頭において判断すれば間違いないのでは」という意見が出され、岸本委員からも「今回の委員会の検討の一番の特徴は視聴者がどう見たのかであり、意見書も視聴者の視点から番組がどう見えたかで一貫して書かれている。これは、やらせの定義から入っては、欠け落ちてしまう視点ではなかったか」との発言があった。
また、参加者からは、「このような問題が起こるのは、記者の職責の幅広さと影響力の大きさがある。我々のような小さな局でも、記者が企画、取材、構成、編集、放送と、最初から最後までやるという重い責任を負っているので、どこかで歯止めが必要となる。それは、記者個人の資質ともいえるが、嘘は書かない嘘はつかないという倫理観ではないか」との意見も出された。
続いて、憲法学者の立場から、渋谷委員が放送法をどう考えるかについて、「放送法第一条には、放送法の目的は、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること、とある。条文の読み方として大事なのは、放送法の究極目的は放送による表現の自由を確保することであり、政府の介入はこれに真っ向から反することになる。また、放送法の目的規定に適合するように条文を読んでいくと、放送法第四条は放送局が自らを律する倫理規定ということになる。他方、放送法は、政府機関、所轄官庁には放送内容に干渉してはいけないという義務を課している」と解説した。
最後に、升味委員長代行からの「意見書の『おわりに』に『放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持できなければ、放送の自由も自律も侵食され、やがては失われる』とあるように、放送に携わる人がきちんと発言を続けるという姿勢を持っていただきたい」というメッセージで、第1部は終了した。
続いて第2部では、「インターネットと報道のあり方を考える」のテーマで、インターネットの情報にどう向き合っていくべきかについて意見が交換された。スマートフォンに代表されるスマートデバイスの発達で、個人がいつでもネット上に情報を発信できる時代となり、テレビのニュースでは、視聴者提供の事故現場の生々しい映像や、フェイスブックからの容疑者や被害者の顔写真が日常的に使われている。
しかし、その一方で、便利さの裏に潜む危険性として、SNSからの顔写真や映像の取り違えが発生している。その具体的な事例や各局のネット情報使用の判断基準などが報告されたあと、ジャ
ーナリストの斎藤委員からネット情報とどう向き合っていくべきかについて次のような問題提起があった。「軽井沢スキーバス転落事故で新聞やテレビが被害者のフェイスブックの写真を使っていたが、ネット上で被害者のカタログを作っていた一般人がいた。その時に感じた違和感は、いつの間にかマスコミが素人と一緒のレベルになっているのではないか、というものだった。テレビも新聞もネットと共存しているというより、単にネットに飲み込まれているのではないか。メディア全体の信頼性が著しく低下していると思っている。何年か前にも高速バスの大事故があったが、その時も規制緩和の問題などその背景への取材が明らかに薄かった。限られた人手とお金でマスコミは何を取材するべきか、という問題を考える契機としてほしい」
これに対し、参加者から「斎藤委員が指摘されたように、事件事故を伝えるためにその写真が本当に必要かを判断し、遺族や関係者の理解と信頼関係を得たうえで、しっかりとした基準と意味をもって使うことが必要だと再確認した」との発言があった。
最後の第3部として、BPOに対する質問と意見のコーナーとなり、昨年9月に放送倫理検証委員会に加わった岸本委員から、ヒアリング、意見書の起草は委員がすべて行うこと、委員会は時間で打ち切ることはなく、決定は全会一致で行うこと、などの説明があった。さらに、「放送に携わる者を守る確かで唯一の基準は、視聴者がどう受け止めるかとの観点を常に持つことではないかと申し上げたが、もうひとつ皆さんを守るものは、放送事業に関する法律への理解と歴史的な経緯への理解だと思う」との意見が出された。
「アメリカではFCC、英国ではOfcomという独立行政機関があるが、BPOという形の方が優れている面があれば教えてほしい」との質問に対して、升味委員長代行は「BPOという存在は確かに独自のもので、世界では独立行政機関が監督するケースも多いが、独立行政機関といっても政治との軋轢はあり、自律を守るためには課題もある。BPOは日本モデルと呼ばれるが、それなりの評価は得ているのではないか。ただし大事なのは、今後も放送局とBPOが自律的な対話ができるかで、お互いに意見を交換することで、もっと自律の意味は出てくると思う」との見解を述べた。
以上のような活発な議論が行われ、3時間30分に及んだ意見交換会は終了した。

今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 「クロ現問題」についての具体的なやり取りをする中で、改めて放送人としての自律、私の場合は入社して日が浅いので自立することが大切だなと感じた。やらせの定義や、自主自律、大きくはジャーナリズムのあり方…考え及んだこともない観点、分かっているつもりになっていた事を考えるいい機会になった。具体的には、写真取り違えから派生してSNS上の写真を使うことの是非についての斎藤委員の発言が特に印象に残っている。論点として安易にSNS上の写真を使うことでプロが素人と同じ事をしてどうなのか?というものだった。この観点はネット社会との競合でテレビが淘汰されないためにも、今後重要な視点になってくるように思う。結果としてSNS上の写真を使用する場合があっても、そこに至る信頼関係を築く過程の大事さを知った。これは普段制作現場にいる私にとっても、取材対象者と関係を築いて信頼を得るという点では通ずるというふうに感じた。

  • 今私はドキュメンタリー番組を制作しています。その取材にあたり、今回の勉強会で2つの指針を得ました。1つは、やらせと演出を区別する物差しは「視聴者がだまされたと思うかどうか」だということ。視聴者の受けるイメージと取材過程がかけ離れるのを防ぐためには、取材制作のプロセスを客観的な視点で検証することが必要不可欠だと思いました。そしてもう1点は、取材当初に立てた見立てに縛られないこと。クローズアップ現代では「京都の事件が広がったら面白い」という番組の方向性が生まれ、出家詐欺のブローカーがいるという前提のもと、趣旨に合う人を探し始めたところから取材がおかしくなったように見えました。最初の見立てにとらわれず、現場で起きたことに疑問を持ちその感覚を信じる姿勢でありたいと感じました。

  • いわゆる演出とやらせの境界線とはとの疑問に「線を設けることで免罪符を与えることにもつながる」との答えをいただき、納得することができました。取材対象者がそれはやらせでは?という疑問を持った時点でそれはやらせであり、演出ではない。やはり取材現場の判断、意識、あらゆるものが常識という尺度の元、研ぎ澄まされなければならないと肝に銘じることができました。

  • 普段、BPO報告での委員の皆さんの発言や意見を文字として見て感じていた印象が、随分変わりました。「BPOの存在が制作現場を委縮させている」といった指摘は間違いであり、あくまでも視聴者の視点に立ち意見を述べられていることが、委員の皆さんの真摯な態度、発言から伝わってきました。改めて、放送の「公共的使命」を自覚して、放送内容の向上を目指していかなければと強く感じさせられました。

以上

第104回 放送倫理検証委員会

第104回–2016年5月

熊本地震の取材・報道について意見交換

議事の詳細

日時
2016年5月13日(金)午後6時~8時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.熊本地震の取材・報道について

第104回放送倫理検証委員会は5月13日に開催された。
討議の対象となる事案がなかったため、200件を超える視聴者からの意見がBPOに寄せられた熊本地震(4月14日発生)の取材・報道について、意見交換が行われた。
視聴者意見には、
▽ ヘリコプター取材の騒音などが被災者の救助の妨げになっている。
▽ 避難所に駐車している報道関係者の車両のために避難者が駐車できなかったり、夜間の中継や照明のために睡眠を妨害されたりしている。
▽ 行方不明者の搬出作業をテレビカメラが撮影するため、捜索隊はシートで目隠しをしなければならず、作業の遅れにつながる。
など、震災報道に関する具体的な批判が多かった。
また、取材者としてのモラルを問う意見として、
▽ テレビ中継車がガソリンスタンドで給油待ちをしている車の列に割り込んだ。
▽ 食料が不足する中、アナウンサーが弁当の写真をツイッターへ上げていた。
などの批判も寄せられた。

委員会では、個々のニュースや番組について、放送倫理上問題ありと指摘する意見はなかったが、取材や報道の在り方をめぐっては、さまざまな視点や論点から、議論が交わされた。

[委員の主な意見]

  • ヘリコプター取材に関する批判が多く寄せられているが、震災の初期などには報道のヘリで災害の場所が特定でき、被害の大きさが分かる場合もある。ヘリ取材をすべて否定してしまうと、被災地の状況が把握できなくなってしまうという一面もあるのではないか。

  • 打ち続く自然災害に対して、受け手の視聴者の方も相当に過敏になっている部分があるのではないか。そうした視聴者の不安も踏まえ、報道の内容や取材の仕組みを放送局が自ら精査していくことがとても大切だと思う。

  • 視聴者の知りたい情報、例えば九州・四国の原発の場所を地図上に加えて、異常がなければ異常なしと明記するなどの対応をしてもらえば、視聴者の不安解消につながるのではないか。

  • 視聴者意見やネットでの反応を見ると、被災地の当事者ではない人々がテレビの報道を見てそれをバッシングするという傾向もうかがわれる。周囲には厳しい目があることを自覚しながら、放送局として、必要な取材を適切な態勢でやっていることを視聴者にきちんと伝えることも重要だと思う。

  • バッシングにセンシティヴになりすぎるのも問題ではないか。取材者には、嫌われるのを覚悟で伝えるべきことは伝えるという姿勢がほしい。ニュースで、現地からの中継中に、被災者らしき人からクレームをつけられ中継をやめたケースがあったが、あわてて中継をやめるのではなく、逆にその人に話を聞いてほしかった。びくびくしている感じが残念だった。また、ボランティアが焼き芋を配っているのを中継したニュースでは、リポーターが雨に濡れながら待つ少女2人を押しのけてボランティアにインタビューしたという批判があったが、そうは見えなかったし、少女の話まで聞いていれば、そうした意見にはならなかったのではないか。

  • 東日本大震災や中越地震の際にも、取材しやすい場所にメディアが殺到し支援物資もそこに集中するという問題があった。それぞれの局が判断すべきことだが、過剰に詰めかけるところがある一方で、まったく行かない場所もあるということにならないでほしい。

  • 災害報道は、視聴者の放送に対する日ごろの不満が凝縮して出るという面もあるので、放送局は、一定の時間がたって自己検証する時に、こういう基準で震災を取材し報道したということが視聴者にきちんと伝わる総括的な検証番組を制作することも必要ではないか。

以上

第103回 放送倫理検証委員会

第103回–2016年4月

委員会運営規則の一部見直し 改正案を議決

第103回放送倫理検証委員会は4月8日に開催された。
3月31日、2期6年の任期を終えて香山リカ委員が退任したため、2016年度の委員会は、9人の委員によるスタートとなった。
委員会運営規則の一部改正について、加盟社からの追加意見はなかったため、2月の委員会で修正を加えた改正案を正式に議決した。5月のBPO理事会で承認されれば、6月から施行される予定である。

議事の詳細

日時
2016年4月8日(金)午後6時30分~7時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会運営規則の一部見直し 改正案を議決

委員会の運営規則を現状に合わせる形で一部見直す件について、2月の説明会で出された加盟社側の要望に沿って、あらためてすべての加盟社に追加の意見を募ったが、「異論はない」との意見が2社からあっただけで、新たな意見は寄せられなかった。
委員会で対応を協議した結果、説明会で出された意見や要望についての委員会の考えは委員長が説明会の場で示しており、今回異論も寄せられなかったことから、2月の第101回委員会で修正を加えた「放送倫理検証委員会運営規則」の一部改正案にさらなる修正を加える必要はない、との認識で一致した。このため委員会は、この改正案を正式に議決した。
議決された改正案の主な内容は、審理や審議の前段階での議論を「討議」という手続きとして位置付け、また、これまでも慣例的に実施してきた審議の際のヒアリングを、あらためて明文化するものである(改正案の一部を以下に示す)。

改正案第4条
委員会は、放送番組の取材・制作のあり方や番組内容などに関する問題について討議する。討議の結果、放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるため、さらに検証が必要と判断した場合は、審議を行うことを決定する。
改正案第4条 4
委員会は、審議において、放送事業者および関係者から事情聴取(ヒアリング)を行うことができる。

この改正案は、5月下旬のBPO理事会で承認が得られれば、6月1日付で施行される予定である。

以上

第102回 放送倫理検証委員会

第102回–2016年3月

「放送倫理検証委員会」運営規則の一部見直し
 説明会での意見や要望を了承…など

第102回放送倫理検証委員会は3月11日に開催された。
委員会運営規則の一部改正については、加盟社への説明会の内容が報告され、今後の対応について協議した。その結果、すべての加盟社に対して説明会で出された意見の周知を図ったうえで、追加の意見提出も求めることになった。
2007年5月に発足した委員会の10周年にちなんだ事業やイベントを実施するため、4月から作業を本格化することになった。

議事の詳細

日時
2016年3月11日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会運営規則の一部見直し 説明会での意見や要望を了承

委員会の運営規則を現状に合わせる形で一部見直す問題についての説明会が、加盟社からの要望を受けて、2月24日の事例研究会終了後に開催された。
説明会には約50社から70人が参加し、川端委員長と升味委員長代行も出席して、1時間余り意見交換が行われた。この中で、説明会でのやりとりをすべての加盟社に改めて周知したうえで、追加の意見のあるところからはその提出を求めてほしいとの要望が、加盟社側から出された。
委員会では、説明会の内容が報告され、今後の対応について協議した結果、加盟各社に運営規則改正への理解をさらに深めてもらうため、要望に沿って対応することを了承した。
委員会は、加盟社からの意見や要望を次回に改めて議論し、改正案の議決をめざすこととなった。

2.委員会発足10周年 事業・イベントを実施へ

2007年5月に発足した委員会がことし5月から10年目に入ることから、10周年にちなむ事業やイベントなどができないかについて検討を続けた。
その結果、メディアを取り巻く環境が激しく変化する中で、放送の自主・自律をサポートするため、2016年度内の実施を目標に、シンポジウムや講演会の開催、記念誌の刊行などを企画することとし、4月以降、作業を本格化することにした。

以上

第101回 放送倫理検証委員会

第101回–2016年2月

NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見への対応報告書を了承
委員会運営規則の一部見直し説明会開催と改正案の修正を了承…など

第101回放送倫理検証委員会は2月12日に開催された。
委員会が昨年11月に出したNHK総合の『クローズアップ現代』「"出家詐欺”報道に関する意見」について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することとした。
委員会運営規則の一部改正案について、加盟社から寄せられた意見を検討し、今後の対応について協議した。その結果、要望の多かった加盟社への説明会を開催すること、意見を参考にして改正案を修正することを了承した。

議事の詳細

日時
2016年2月12日(金)午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺”報道に関する意見への対応報告書を了承

昨年11月6日に委員会が通知公表した、NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺”報道に関する意見(委員会決定第23号)への対応報告書が、2月上旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、再発防止に向けて、各地の放送局で17回の勉強会を実施したこと、検証委員会の担当委員を招いて研修会を開催したこと、委員会決定を踏まえた「放送ガイドライン」の増補版を作成したことなどが記されている。そして、「事実に基づき正確に報道するという原点を再確認しながら信頼される番組づくりにあたっていきます。」と結ばれている。
委員会では、匿名取材に関して導入した「チェックシート」が形骸化したり、「チェックシート」の記入が自己目的化したりすることのないよう検証し続けてほしいなどの意見が交わされ、この対応報告書を了承して公表することとした。

2.委員会運営規則の一部見直し  説明会開催と改正案の修正を了承

加盟社に呼びかけていた、運営規則の一部改正案についての意見募集は1月下旬に締め切られ、加盟208社のうち、異論なしも含めて、31社から意見が寄せられた。改正案の内容は、審議や審理に入る前にその適否を議論している「討議」という手続きと、審議の際にも原則的に行っているヒアリングを、運営規則に明文化するというもので、委員会運営の現状に合わせる必要最小限の改正提案になっている。
委員会では、今後の対応について協議した結果、「説明会などの場で、もっと詳しく説明してほしい」との要望が約20社からあったのを受けて、全加盟社を対象に開催する2月24日の事例研究会の終了後、説明会を実施することになった。説明会には、事務局の担当者のほか、川端委員長と升味委員長代行も出席する。
また、意見の中には、「討議の位置づけを明確にしてほしい」とか、「討議段階でもヒアリングが可能と解釈できるのではないか」などの指摘もあった。委員会の現状に適合させるための必要最小限の見直しという、改正の趣旨をより明確にし、加盟社の誤解を払拭するために、そうした意見を参考にして、改正案を一部修正することになった。説明会では、この修正した改正案についても説明する。
こうした状況を踏まえて、今回の委員会で予定されていた改正案の議決は、次回に見送ることになった。

以上

第100回 放送倫理検証委員会

第100回–2016年1月

委員会発足10周年 事業・イベントなど検討開始…など

第100回放送倫理検証委員会は1月8日に開催された。
委員会運営規則の一部改正案が、2015年の年末、加盟各局に送付され、意見募集が始まったことが報告された。
2007年5月に発足した委員会が100回の節目を迎え、5月からは10年目に入ることから、10周年にちなんで何らかの事業やイベントができないか、検討を開始した。

議事の詳細

日時
2016年1月8日(金)午後5時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会運営規則の一部見直し、意見募集始まる

委員会の運営規則の一部見直しについて、前回委員会で了承された改正案を、2015年12月、加盟各局に送付したことが事務局から報告された。
改正案の内容は、審議や審理に入る前にその適否を議論している「討議」という手続きと、審議の際にも原則的に行っているヒアリングを、運営規則に明文化するというもので、委員会運営の現状に合わせる最小限の改正となっている。
委員会運営への理解と認識を深めてもらうため、加盟各局に呼びかけてこの改正案に対する意見募集を1月下旬まで実施し、寄せられた意見を参考に、次回委員会で改正案を議決する予定である。4月からの施行をめざしている。

2.委員会発足10周年 事業・イベント等を検討

2007年5月に発足した委員会が100回の節目を迎えた。この間に公表した委員会決定は、審理による「勧告」が1件、審理による「見解」が2件、審議による「意見」が20件の、合わせて23件にのぼる。また、委員会決定に準じるものとして、提言1件、委員長談話2件、委員長コメント2件を公表してきた。
委員会は、ことし5月から10年目に入ることから、10周年にちなんで何らかの事業やイベントなどができないかの検討を開始した。メディアを取り巻く環境が激しく変化している中で、いま放送が果たすべき使命や役割とは何なのか。委員会では、2016年度内の実施を目標に、シンポジウムや講演会の開催や記念誌刊行などの企画について、引き続き検討することにしている。

以上

第99回 放送倫理検証委員会

第99回–2015年12月

委員会運営規則の一部見直しについて検討…など

第99回放送倫理検証委員会は12月11日に開催された。
委員会運営規則の一部見直しについて、これまでの議論を踏まえて作成された改正案が提出され、意見交換の結果、了承された。今後、加盟各局から意見募集を行い、それを参考に来年(2016年)2月の委員会で正式に議決し、理事会の承認を経て、4月からの施行をめざすことになった。

議事の詳細

日時
2015年12月11日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会運営規則の一部見直し、改正案を了承

委員会の運営規則を現状に即した形に一部見直す問題について、これまでの議論を踏まえて作成された改正案などが、事務局から提出された。
改正案の内容は、審議や審理に入る前にその適否を議論している「討議」と、審議の際にも原則的に行っているヒアリングを、運営規則に明文化するというもので、委員会運営の現状に適合させるための必要最小限の改正にとどめている。
また、この改正との整合性を図るために、BPOと加盟各局が交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」についても最小限の改訂を行うことが、事務局からあわせて説明された。
意見交換の結果、運営規則の改正案は了承された。委員会運営への理解と認識を深めてもらうため、約1か月間、加盟各局に対してこの改正案についての意見募集を行い、寄せられた意見を参考に、来年2月の委員会で改正案を議決することとなった。その後理事会の承認を受けて、4月からの施行をめざすことにしている。

以上

2015年11月19日

広島の放送局と意見交換会

放送倫理検証委員会と広島の放送局6局との意見交換会が、2015年11月19日に広島市内のホテルで行われた。放送局側から40人が参加し、委員会側からは川端和治委員長、是枝裕和委員長代行、中野剛委員、藤田真文委員の4人が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、広島県内の放送局を対象としたのは初めてである。

今年は戦後70年、被爆70年でもある。そこでそれにふさわしい企画として、被爆70年の8月6日に広島の各局が放送した特別番組についての意見交換を第2部で行うこととした。第1部では、例年通り最近の委員会決定第22号(佐村河内守氏事案。広島は佐村河内氏の出身地でもある)と、第23号(クローズアップ現代事案)をベースに意見交換を行った。また第2部では、各局の特別番組を出席委員が事前に視聴したうえで、制作者を応援する視点から、議論を深めた。
冒頭、BPOの濱田純一理事長が、「広島の皆さんの番組を拝見した。共通していたのは、被爆の事実を伝え、それを伝え続けることの重要性であり、番組スタッフの方々はそのことの大変さを実感されていると思う。また、手法的にもご苦労されていると思う。事実を伝え続けるという大切な役割を担う"自由"を、私たちはしっかりと支えていこうと思う」と挨拶した。
2つの委員会決定をテーマにした第1部では、まず、11月6日に通知公表を行ったばかりの「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見」について、担当した藤田委員と中野委員が報告した。
藤田委員は「今回の事案で印象に残ったのは、ふたりの関係者、"ブローカー"のAさんと"多重債務者"のBさんに対するヒアリングだった」と口火を切り、中野委員が「Aさん、Bさん、記者の3人の関係を、丁寧に説明することを心掛けた」と続けた。中野委員はさらに「問題の相談場面の状況を詳しく記すことが大事だと考えた。3人が揃って撮影現場に着いた時、他のスタッフがおかしいと感じながらそのまま撮影を進めたことに、委員として大きな違和感を覚えた」と指摘した。また、藤田委員は「意見書の20頁に書いた『問題の背後にある要因』をぜひすべての放送局で共有して欲しい、というのが委員会の願いだ」と述べた。
参加者からは、総務省の行政指導や自民党の事情聴取を厳しく批判した意見書の「おわりに」について、「放送の自由と自律に対してこれだけはっきりと書いてもらい、ぐっと来るものがあった。放送事業者側も身を律して行動しなければならない」「制作者の世代交代が進む中で、BPOの存在価値そのものが、今回の意見書で若い制作者に再認識させられたのではないか」などの意見や感想が述べられた。
これに対して、藤田委員は「『おわりに』がこんなに注目されるとは考えていなかったが、委員会は、具体的な番組事例に即して必要な意見を述べるところだということをあらためて確認したい」と述べた。また、川端委員長は「委員会が議論している番組に対する動きだったので、言うべきことはきちんと言わなければならないと判断した。そうでないと、委員会もそれらを是認していると誤解されかねない」と説明した。
続いて、広島出身で、自らも被爆2世だと語っている佐村河内氏の番組を審理した委員会決定第22号「"全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解」について、意見交換が行われた。
川端委員長は、「この事案はおよそ1年間検討を続け、私自身も佐村河内氏と新垣隆氏にヒアリングしたので印象深い。この見解(委員会決定)では、放送倫理違反とまでは言えないというのが結論だった。しかし、委員会が最も言いたかったことは、番組で間違うことはこれからもあるだろうが、間違いが明らかになった時に、なぜ間違ったのか、何が足りなかったのか、どうすれば防げたのか、をもっと真剣に再検証して欲しい。それを徹底的に詰めて欲しい、ということだ」と指摘した。
参加者からは、「どうしたら防げるかを考えたのだが、私なら、障害者手帳を見せて欲しいとは言えなかったのではないか。たとえば広島での取材で、被爆者の方に被爆者手帳を見せて欲しいとは聞けない。他人事のようには思えない事案だった」「最近のテレビ取材は情報を取ってくることよりも、それを加工することに重きが置かれているのではないか。情報の正確性を裏付けるためにどうすればいいのか、深く考えさせられた」などの意見が出された。
第2部は、今年の8月6日に各局が放送した原爆関連の特別番組を各委員が事前に視聴したうえで、「戦後70年 BPOは放送局を応援したい」をテーマに意見交換を行った。まず、5本の番組(NHK『きのこ雲の下で何が起きていたのか』、中国放送『あの日を遺す~高校生が作るヒロシマCG』、広島テレビ『池上彰リポート 原爆投下70年目の真実』、広島ホームテレビ『宿命―トルーマンの孫として―』、テレビ新広島『母に抱かれて~胎内被爆者の70年~』)のオープニング部分を会場で視聴し、是枝委員長代行が、テレビ制作者の経験を踏まえて、番組ごとに感想を述べた。 
参加者からは、「戦後70年の節目の年。被爆者の生の声を伝えられる最後の機会になるのではないかということを重く考えた」「先輩の制作者たちは、被爆者の方から『原爆の実態を伝えきれていない』と言われ続けてきた。どのように表現したら当時の皮膚感覚を含めて視聴者に伝えられるのかを、試行錯誤しながら制作にあたった」などの意見が出された。
質疑の中で、参加者から「証言者がいなくなった時にどのようにドキュメンタリーを撮ればいいのか?是枝監督が否定的な"再現"も、ひとつの有力な手法ではないのか」と問いかけがあった。
これに対して是枝委員長代行は「"再現"を完全に否定するつもりはないが、私がテレビでドキュメンタリーを作っていた時には、『ドキュメンタリーはタイムマシーンを持たない』ということと『ドキュメンタリーはこころの内視鏡を持たない』ということを自分の中の倫理規範として考えていた。つまり、『撮り損なうことを肯定的に捉える』ようにして、現在進行形のものとして表現するのか、あるいは、撮れないものは"再現"するのかで、大きく道は分かれると思う。かけ出しの頃、他局は撮影した決定的なシーンを撮れずに呆然となったが、他局が引き上げたあとのさまざまな人間的営みを撮影して別の作品に結実させることができた。『撮り損なったら後で考える』ことがドキュメンタリーとしてのアイデンティティーの核ではないかと考えている」と答えた。
ぜひ来年も広島で開催してほしいという要望の声を最後に、3時間半にわたる意見交換会の幕を閉じた。

参加者から終了後寄せられた感想の一部を、要約して以下に紹介する。

  • 政治が報道に介入する事態への違和感や危機感をBPOと放送局との間で共有できたことが最も大きな収穫だった。被爆70年の今年、広島では、原爆だけでなく、戦争責任や加害の歴史などについて取材の範囲が広がることも多くある。それらを放送で取り上げるのはバランスが難しいが、安易にそこに触れないというのではなく、工夫して放送することで、今起きていることを伝えるという報道の役割はもちろん、権力を監視する役割を担うことにもつながるとあらためて感じた。
  • BPOの活動が放送をよりよいものにするために行われていることを知り、BPOが制作者にとって心強い支えになると思うようになった。第2部では、自分が制作した番組を含め、広島の各局の番組を見て、被爆地広島の放送局が、原爆について強い思いを持って制作していることを目の当たりにし、刺激を受けた。これからも各局と切磋琢磨しながら、広島からの発信を続けて行きたい。
  • BPOのスタンスを改めて確認できたことは、若い人間には収穫だったと思う。原爆報道への取り組みについて、是枝さんに様々な角度から評価いただいたことは、各局の現場になにより励みになったと思う。(第三者から評価される機会がなかなかないので。)
  • 「BPOは放送局の応援団」という言葉がある。問題が起きたとき、何を考えながら聴き取り調査をして意見書にまとめるかという話を聞いて、委員の皆さんの「放送局が自律し信頼されるために」という思いを感じることができた。今回の意見交換会は人の温かさを感じた。
  • 佐村河内さんの事案に関連して、「被爆者の方に、あなたは被爆者ですか?と聞かない」という意見が出たが、まさにその通りで、取材対象との信頼関係の中でどう事実を担保していくか、大変難しい問題だと改めて感じた。是枝さんの再現に対する疑念を聞いて、もやもやしていたものが晴れた気がした。被爆者がご存命のいま、在広の放送局として被爆者のお話を聞き続けなければならないと痛感した。
  • BPOの皆さんが放送局を守ろうとしている印象を受けた。それはとても心強かったが、同じようなミスを食い止めるという意味では、非公開の会合でもあるし、委員の方が感じられた放送局側の問題点を、意見書以上に具体的に聞きたかった。

以上

第98回 放送倫理検証委員会

第98回–2015年11月

NHK総合の『クローズアップ現代』”出家詐欺”報道に関する意見の通知・公表について意見交換…など

第98回放送倫理検証委員会は11月13日に開催された。
11月6日に当該局への通知と公表の記者会見を行った、NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見について、出席した委員長や担当委員から当日の様子が報告され、意見交換が行われた。

議事の詳細

日時
2015年11月13日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見を通知・公表

寺院で「得度」の儀式を受け法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると伝えた、NHK総合テレビの『クローズアップ現代』に関する意見(委員会決定第23号)の通知と公表の記者会見が、11月6日に実施された。
委員会では、当該局の当日のテレビニュースを視聴したあと、委員長と担当委員から、記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。
多くの全国紙が一面で報道するなど、大きな反響があったことについて、「総務省や自民党への批判は、事案に則して当たり前のことを指摘しただけなのに、予想外の反響に率直に驚いている」という声が、多く聞かれた。「番組の取材・制作に関する事実認定や検証についても、きちんと読んでほしい」などの意見も出された。
さらに、事務局からは、意見書に対してこの時点で80件を超える視聴者意見が寄せられ、60件以上は「政府や自民党を批判するのはけしからん」という内容だったが、その一方で、意見書の指摘を応援・激励する意見も十数件あったことが報告された。視聴者意見のほとんどは、通常、番組や放送局、BPOなどに対する苦情・反論・批判で占められており、異例のことである。

2.委員会運営規則の一部見直しについて検討

委員会の運営規則を、現状に即した形に見直す問題について、手続きに関するメモや改正案のたたき台などが、事務局から提出された。
審議や審理に入る前にその適否を議論する「討議」や、審議の際にも原則的に行っているヒアリングについて、運営規則に明文化する必要があるのではないかという議論が行われた。また、BPOと各放送局が交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」が、運営規則と密接に関連しているため、その調整をどう図るべきかについても、意見が交わされた。
意見交換の結果、運営規則の見直しは、委員会の現状に適合する必要最小限のものにとどめることで一致した。担当委員と事務局とで細部の表現などを修正し、次回委員会で改正案が了承される見通しとなった。
今回の検討は、これまで慣例的に行われてきたものを運営規則に明示し、一段と分かりやすい委員会運営に努めるという意向がまとまったのを受けて、第95回委員会(2015年7月)から議論が続いているものである。

以上

2015年10月22日

BSテレビ各局と意見交換会

放送倫理検証委員会とBSテレビ局との意見交換会が、10月22日に東京・千代田放送会館で開催された。民放BSテレビ局とNHKの計9局から26人が参加し、委員会側からは香山リカ委員と鈴木嘉一委員が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、BS放送局を対象としたのは初めての試み。
概要は以下のとおり。

冒頭、BPOの濱田純一理事長が、BPOの目的や役割について、「放送における『言論と表現の自由』を本当の意味で社会に根付かせていくところに、BPOの役割があると思う。そのために各放送局が、放送の自由の質を高めようと努力する活動を支援することも、大きな役割だと思っている。BPOの各委員会から出されるさまざまな報告などを、皆さんが放送の使命は何なのか、放送の質をどう高めるか、を考える時の手がかりにしてほしい」と挨拶した。
続いて、香山委員が、テレビ放送について感じていることを次のように述べた。
「放送局の現場では、BPOが表現の自由を守るためにあるのなら、もっと自由に番組制作を、という声があるかもしれないが、外部からの規制がかかったり、視聴者からの信頼を失わないようにするためには、自浄作用も必要だ。検証委員会では、放送倫理違反があれば指摘するけれども、それによって放送や表現の自由を担保していきたいと考えている。委員会で審議や審理に入る場合でも、それは取り締まるためではなく、委員会の役割として、放送や表現の自由をぎりぎりのところで守るためにはどうすべきかを、放送局と一緒に考えていきたいということだ。テレビの力はまだまだ大きく、多くの人に影響を与えているメディアなので、それに携わっている誇りや幸せを、忙しい中でも時々はかみしめてほしい」。
また、鈴木委員は、長年にわたる取材者としての観点から、現在のBSテレビの編成などについて次のように指摘した。
「BSデジタル放送の開始から15年たつが、"モアチャンネル"として十分定着し、全体的には"ゆったり感"もあって、人気番組がいろいろ生まれてきている。その一方で、民放BSテレビ局にも、地上波のような横並び的な傾向が現れてきているように感じるが、BS局には地上波の轍を踏んでほしくないと思っている。私がBSテレビ局に期待しているのは、いま地上波で受けている番組を真似した、"のようなもの"的な番組ではなく、地上波にはない番組や、かつてはあったが現在は放送されていないジャンルの番組などだ。スタッフの人数や予算などに制約があるのは承知しているが、是非、アイデアと工夫で勝負していってほしい」。
意見交換では、放送局側から「BSの放送でも報道系の番組が増えてきているが、どのように見ているか」との質問が出された。
これに対して鈴木委員は、「やるべきことは、網羅主義ではなく、一点突破ではないだろうか。ひとつのテーマを深掘りした特集や、地上波よりさらに長いスパンでの報道も期待したい。時の人からじっくりと話を聞く報道番組もひとつの鉱脈だが、その人の言いたいことをしゃべらせるだけでなく、もっとガチンコでのトークが聞きたいと思うこともある。BS局の報道番組は方向性としてはいいので、見せ方や切り口なども含めて、中身をもっと良くする段階にきていると期待している」と述べた。
また香山委員は、「報道番組での放送の公平・公正性や不偏不党などについて、それぞれが考えてほしい。何も言わないのが不偏不党とか中立性ではないので、時には踏み込んだ意見も取り上げるなど、さまざまな人の意見を伝えてほしいと思う」と述べた。
今後のBSの放送が目指すべき方向性についての質問に対して、鈴木委員は、「中高年層だけでなく、より若い人たちにも見てもらうために、かつてのユニークな民放局の深夜番組のような"少しとんがった番組"を期待したい。社員が少なければ、外部の新しい才能のあるスタッフを発掘し、共同作業で賛否両論を巻き起こすような新しい番組を制作していってほしい」と述べた。また香山委員は、「今の地上波の番組では物足りない、飽き足りないと感じている人たちはかなりいると思う。知的好奇心を持ち、知的な刺激を求めている人たちに訴求力があるような番組を期待したい」と述べた。
このほか、放送局側からは、外部からの持込番組が多い状況の中で、考査上の悩みなどについての発言もあり、委員側からのアドバイスも披露された。
最後に濱田理事長が、「放送倫理というと窮屈に考えがちだが、一番大事なことは、放送に携わる人たちが、どこまで誇りをもってその仕事ができるかであり、それを支えるのが倫理だと思う。きょうは、番組論や編成論まで広く議論が及んだが、放送倫理の積極的なあり方として意味があったと思う」と述べて、意見交換会を締めくくった。

終了後、参加者からは、「BPOについて考える機会を持てたのは有意義だった」「両委員からの期待やアドバイスは心強く、励みになった」などの感想とともに、「具体的なテーマを設定して実施すれば、もっと議論が活性化するのではないか」などの意見も寄せられた。

以上

2015年11月6日

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、11月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会からは、川端和治委員長、升味佐江子委員長代行、中野剛委員、藤田真文委員の4人が出席した。当該局のNHKからは、局内の調査委員会委員長を務めた副会長をはじめ5人が出席した。
まず川端委員長は、「NHKは日本で唯一の公共放送でしかも最も信頼されている。NHKなら正確な報道をしてくれるという視聴者の信頼があるのに、それを裏切ることはメディア全体の信頼度を引き下げることにつながりかねない。番組のねらいは非常に良かったが、肝心の相談場面は事実と相当にかけ離れていた。真実を追求しようとして努力を尽くすことが全くないまま、ブローカーとされる人物の言うことをそのまま垂れ流すというのは、最も問題のある態度ではなかったか」と述べた。そのうえで、「日本を代表する報道番組として、視聴者の信頼を得られる素晴らしい放送を今後も作っていただきたい」と要望した。
続いて藤田委員が、「NHKの調査報告書は『NHKガイドライン』の枠の中にとどまることで、視野を狭くしてしまったのではないか。現場でこの意見書をかみしめて欲しい」と述べた。中野委員は「放送された内容と事実の間に大きな乖離があった。視聴者側に向いた調査報告書にして欲しかった」と述べた。升味委員長代行は、「特に『クローズアップ現代』という番組だけに残念だった。時代の先端に切り込む姿勢を失わないで欲しい」と述べた。
これに対してNHK側出席者は、「今回の決定を真摯に受け止める。取材、制作、放送のあらゆる点で多くの問題があったことを率直に認めざるを得ない。"視聴者のために公共放送がある"という原点に戻り、信頼される放送、番組制作に取り組みたい」と述べた。

このあと、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社77人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が「相談場面は事実とかけ離れた情報を視聴者に伝えている。報道番組として許容される範囲を著しく逸脱していた点で非常に問題があり、重大な放送倫理違反があると判断した」と述べた。さらに、「政府側のメディア規制の動きが目立っている状況のなかで、総務省の文書による厳重注意の行政指導と政権与党の事情聴取は、問題があると指摘せざるを得ない」と強調した。そして、「『クローズアップ現代』は、これからも良心的な番組を作り続けて欲しい」と要望した。
続いて藤田委員が、「委員会の調査はNHKの調査報告書への疑問から始まった。この意見書を読んで、自分たちの番組作りはどうだったのかを検証して欲しい」と述べた。中野委員は、「慎重に進めた事実認定の結果、放送された内容と事実の間にある落差が大きすぎると感じた。意見書を基に良い番組作りを進めて欲しい」と述べた。升味委員長代行は、「視聴者に報道が真実かどうかを確かめる術はない。制作現場の皆さんは、視聴者が番組を見て、その内容を信じて社会を見る目をはぐくんでいくことを考えながら、制作にあたって欲しい」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:「重大な放送倫理違反」と判断したが、「重大な」が付いた理由は?
    A:視聴者が報道番組に寄せる信頼を裏切るレベルの倫理違反、という意味で「重大な」という形容を付けた。(川端委員長)

  • Q:この事案が「やらせ」でなければ何が「やらせ」なのだろうかという疑問がある。委員会では議論にならなかったのか?
    A:この問題を「やらせ」のあるなしということのみで判断するべきではないと考えた。また、「やらせ」の定義の問題にしたくないとも考えた。番組は、事実が全くないのにゼロから作り上げたわけではないので、ねつ造とまでは言えない。多重債務者は信用情報機関のリストに載っている状態であり、ブローカーとされた人物は専門用語を使って手口を詳しく語ることができた。さらに、多重債務者は全く出家のことを考えていない、という状態ではなかった。従って、NHKガイドラインにあるような「事実のねつ造につながる『やらせ』」ではない。ただ、視聴者の一般的な感覚からすると、NHKガイドラインの「やらせ」の概念は狭いと感じるだろう。(川端委員長)

  • Q:自民党内には「BPOはお手盛りではないか」という意見がある。BPOに対する疑念があるのではないか?
    A:BPOの意見に対して放送局が改善策を取る、という「循環」があるようになったが、こうした「循環」が完全な状態ではないのも事実で、放送倫理が問われるケースが少なくなっているわけではいない。ただ、少なくとも放送局はBPOの意見に従って自主的自律的に改善策を講じていて、前には進んでいるのではないか。(川端委員長)

  • Q:野党からのNHKへの事情聴取も今回あったが、与党とどう違うのか?
    A:政権与党であるがゆえに、呼ばれた放送局側は事実上の強制力を感じざるを得ない点が問題である、と意見書で指摘した。(川端委員長)

  • Q:A氏がブローカーであるかどうかについて、委員会はどのように判断したのか?
    A:ブローカーの定義そのものが難しいが、少なくとも「経営が行き詰った寺などを多重債務者に仲介することによって、多額の報酬を得ているといいます」という番組でのナレーションとは違うと判断した。(升味委員長代行)
    A氏は活動拠点を持って、B氏以外の人の出家詐欺を仲介した、という事実は確認できなかった。(藤田委員)

  • Q:出家詐欺が広がっているかどうかの、委員会としての判断は?
    A:広がっていることを確定的に言える材料はなかったが、一方、全然広がっていない、とも言いきれないと判断した。(川端委員長)
    番組に登場する出家の仲介をうたうサイトの存在は確認した。(中野委員)

  • Q:ブローカーではない人物をブローカーとして放送したことについて、委員会での議論はどのようなものだったのか?
    A:いわば、相談場面の丸投げという形で取材がなされたこと自体に大きな問題がある。事後の取材もない。安直な取材だったことに問題を感じた。(升味委員長代行)

以上

第23号

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見

2015年11月6日 放送局:NHK

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受けると戸籍の名を変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介。番組で「ブローカー」とされた人物が、演技指導によるやらせ取材だったと告発したのに対して、NHKは「過剰な演出」などはあったが「事実のねつ造につながるいわゆるやらせは行っていない」との報告書を公表していた。
委員会は、NHK関係者のみならず、番組で紹介された「ブローカー」「多重債務者」に対しても聴き取り調査を行った。その結果、2つの番組は「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
その一方で、総務省が、放送法を根拠に2009年以来となる番組内容を理由とした行政指導(文書での厳重注意)を行ったことに対しては、放送法が保障する「自律」を侵害する行為で「極めて遺憾である」と指摘した。

2015年11月6日 第23号委員会決定

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目 次

2015年11月6日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。また、午後3時から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社77人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
詳細はこちら。

2016年2月12日【委員会決定を受けてのNHKの対応】

標記事案の委員会決定(2015年11月6日)を受けて、当該のNHKは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
2月12日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

NHKの対応

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目 次

  • 1)委員会決定の放送対応
  • 2)放送現場への周知
  • 3)経営委員会・放送番組審議会への報告
  • 4)放送倫理委員会の開催
  • 5)全国勉強会の実施
  • 6)BPO放送倫理検証委員会との研修会
  • 7)「放送ガイドライン」追補版を作成
  • 8)再発防止に向けて

第97回 放送倫理検証委員会

第97回–2015年10月

"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』ほかを審議…など

第97回放送倫理検証委員会は10月9日に開催された。
NHK総合の『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』の"出家詐欺"報道について、前回委員会の議論を盛り込んだ意見書の修正案が担当委員から提出された。内容や表現をめぐって意見交換が行われた結果、大筋で了解が得られたため、表現を一部手直ししたうえで、11月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。

議事の詳細

日時
2015年10月9日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1."出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議

NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受け法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介した。
この番組で、多額債務者に"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張しているのに対して、当該局は「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」とする報告書を公表している。
前回の委員会で意見書原案に対して示された意見や議論を盛り込んだ「修正案」が、担当委員から提出された。"出家詐欺"の相談場面の実態はどのようなものだったのか、取材・制作の手法としてどのような問題点があったのか、2つの番組でいずれも局内のチェックが機能しなかったのはなぜか、などの論点について、詰めの議論が交わされた。また、放送の自主的自律的な是正のあり方についての委員会の考えが的確に織り込まれているかをめぐって意見交換も行われた。その結果、大筋で了解が得られたため、細部の表現などを手直ししたうえで、11月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。

2.委員会運営規則の一部見直しについて検討

審議や審理に入る前にその適否を議論する「討議」についての規程を設けるなど、委員会の運営規則を現状に即した形に一部見直すべきではないかという委員会の意向を受けて、準備作業を始めた事務局から途中経過が報告された。
意見交換の結果、今年度じゅうに作業を終えることをめざして今後本格的な検討に入ること、委員会のなかに相談窓口となる委員を置くことなどが了承された。

以上

第96回 放送倫理検証委員会

第96回–2015年9月

"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』ほかを審議…など

第96回放送倫理検証委員会は9月11日に開催された。
新たに岸本委員が就任し、今回から出席した。
"出家詐欺"の報道について審議している、NHK総合の『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』について、担当委員から意見書原案が提出された。内容や表現についてさまざまな意見が出され、次回委員会に修正案を提出して、意見の集約を目指すことになった。
韓国での街頭インタビューの翻訳テロップと吹き替え音声が一部違っていたフジテレビの『池上彰 緊急スペシャル!』について、討議を継続した。誤って編集された映像を正しい映像に差し替えた番組が8月末に再放送され、誤りの起こった経緯が的確に分析された報告書も提出されたことから、実質的な訂正放送も行われ、放送の自主的自律的な是正がほぼ完全になされているので審議入りの必要はないと判断した。この報告書は他の放送局の参考にもなることから、当該局の了承を得てホームページなどで公表することになった。
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』で使用された大阪都構想のニュース映像とそれに付されたテロップ等が、政治的公平性を欠くとして自民党から抗議を受けた事案は、当該局から最終報告書が提出された。局はお詫びをホームページに掲載し、謝罪した政党側から新たな動きもなく、再発防止策もまとまっていることから、討議を終えることになった。

議事の詳細

日時
2015年9月11日(金)午後5時~8時45分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1."出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議

NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受け法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介した。
この番組で、多額債務者に"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張しているのに対して、当該局は「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」とする報告書を公表している。
委員会では、番組関係者へのヒアリングやこれまでの議論を踏まえた意見書原案が、担当委員から提出され、出家による改名の相談場面の取材・制作の手法にどんな問題があったのかなどについて、2時間近い意見交換や議論が行われた。その内容を盛り込んだ修正案を担当委員が作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。

2.韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの日韓問題番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議

フジテレビは、6月5日の情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』で、韓国での街頭インタビューのうち、男女2人分あわせて約10秒間にわたって映像の韓国語音声と異なる日本語翻訳テロップと吹き替え音声を放送していたことが分かり、ホームページなどでお詫びした。
委員会は前回の議論で、当該局の報告は、編集上のミスが重なった経緯などが詳細に検証されていると評価する一方で、局が存在すると主張している、日本語翻訳と一致する映像が実際に存在するのかという視聴者の疑問は解消していないなどとして、討議を継続していた。
当該局は8月29日、この番組を首都圏ローカルで再放送し、問題となったインタビューについて、字幕は本放送のまま編集の際誤って選択された映像を正しい映像に差し替え、韓国語が聞き取れる形で紹介した。この音声と字幕が合致することは、委員会が独自に依頼した通訳によって確認された。
委員会は、ミスが起きた経緯の的確な検証や再発防止策が他の放送局の参考になるとして、当該局に報告書の公表への協力を依頼したところ了解が得られ、固有名詞などを修正した公表用の報告書が提出された。
当該局が自主的自律的に行った事実上の訂正放送ともなる再放送により「放送の誤りを放送で正した」ことや、報告書のホームページなどでの公表に同意が得られたことを総合的に判断して、委員会は審議入りしないことを決めた。

【フジテレビ「『池上彰 緊急スペシャル!』の報告書】

フジテレビから公表の了解が得られた「『池上彰 緊急スペシャル!』インタビュー映像誤使用問題に関する検証および再発防止策」は、放送倫理検証委員会の川端委員長の前文を付して、2015年10月6日、ホームページ上に公表した。

pdf 公表にあたって – 委員長前文
pdf フジテレビ – 「『池上彰 緊急スペシャル!』インタビュー映像誤使用問題に関する検証および再発防止策」

3.既得権益問題をめぐる映像使用について政党から抗議を受けたテレビ大阪の情報番組『たかじんNOマネーBLACK』を討議

テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』(5月30日放送)で、在日外国人のゲストのひとりが「日本人は怠け者で既得権益を守りすぎる」と指摘した際に、大阪都構想のニュース映像が流れた。「たとえ社会の発展や活性化につながるものでも」とのナレーション部分に橋下大阪市長の映像が約4秒間、「既得権益のために政治が利用されてしまっているのが今の日本の姿」とのナレーション部分には自民党大阪市会議員団幹事長の映像が約6秒間、テロップとともに使われていた。
自民党側の抗議を受けて、当該局は自社ホームページにお詫び文を掲載し、自民党側に謝罪した。一方、自民党側からは議員団幹事長名で、委員会あてに「政治的公平性を欠く映像使用」だとする文書が届いた。
当該局の最終報告書によると、社内に調査部会を設けて検証した結果、担当ディレクターの思いつきで映像を使ったこと、放送前のチェック段階で疑問を指摘する声が複数あったにもかかわらず修正には至らなかったことなどが判明したという。そして、再発を防ぐため、社内あげての研修会を今秋実施すること、注意が必要な社内情報の共有化を徹底すること、視聴者にお詫びする際のガイドラインを作成することなどを決めた。
委員会は、報告書にはまだ十分とは言えない部分が残るものの、再発防止策がまとまり、お詫びも既になされていて、自民党側から更なる抗議などの動きもないことから、討議を終えることにした。

[委員の主な意見]

  • ゲストの在日外国人が大阪都構想については何も言及していないのに、そのニュース映像を使用し、自民党側を「既得権益にしがみつく怠け者」であるかのように放送したのは、名誉毀損的な表現として問題があった。十分に反省して今後の教訓にしてほしい。
  • 放送前の社内チェックで問題を指摘する声がありながら、なぜそれを反映させることができなかったのか。今後、注意を喚起すべき声が出た時に、それを具体的にどのように共有化するのか。報告書には、まだ十分とは言えない部分もあるので、きちんと議論して詰めてもらいたい。
  • ホームページに掲載されたお詫び文は説明不足で、視聴者や関係者に何を謝っているのかよく分からなかった。なぜそうなったのかをさらに検証してほしいし、このようなお詫び文にすべきだったという実例を、委員会に報告してほしかった。
  • 当該番組は、この問題が発生する前から、6月で終了することが決まっていたということだが、政党から抗議があったから打ち切ったと誤解されるおそれもあるのではないか。その経緯について、報告書にきちんと記載してほしかった。

以上

第95回 放送倫理検証委員会

第95回–2015年7月

"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議。

韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議。次回も継続…など

第95回放送倫理検証委員会は7月10日に開催された。
放送倫理違反の疑いが濃いとして、審議入りしたNHK総合の『クローズアップ現代』の出家詐欺報道とその基になった『かんさい熱視線』について、追加ヒアリングの結果が報告され、論点整理を行った。
日韓問題を扱ったフジテレビの情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』で、韓国での街頭インタビューの翻訳テロップと吹き替え音声が一部間違っていたことが分かり、後日ホームページなどでお詫びした。委員会は、当該局の報告をもとに討議した結果、さらなる確認や検討が必要だとして、討議を継続することを決めた。
フジテレビの情報番組『とくダネ!』が放送したNPO法人の特集企画をめぐって、放送局とNPO法人の主張が対立している問題を討議した結果、委員会が放送倫理上の観点から取り上げるのは適切ではなく、当事者間で解決を図るべきであるとして、審議の対象とはしないことにした。
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』で使われた大阪都構想のニュース映像が政治的公平性を欠くと自民党から抗議があり、当該局はホームページでお詫びした。委員会は、当該局の報告書が途中経過の報告であったことから、最終的な報告の提出を求めることとし、討議を継続することになった。

1."出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議

NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)では、出家して僧侶となり法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
この中の"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」と客の「多重債務者」が相談している場面について、「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張。これに対して当該局は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はなかったが、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」とする報告書を公表した。
この2番組の取材・制作にあたった記者やディレクターなどのヒアリングは既に実施されていたが、担当委員による追加のヒアリングが継続して行われ、今委員会でその内容が報告された。
そして、相談場面の取材・制作の手法に問題はなかったのか、「過剰な演出」などと結論付けた当該局の判断は妥当なものと言えるのか、などの問題点について意見交換が行われた。その結果、論点はほぼ整理され、意見書の骨格もおおむね固まったとして、次回委員会までに担当委員が意見書の原案を作成することになった。

2.韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの日韓問題番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議

フジテレビは、日韓問題を扱った約2時間の情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』を6月5日に放送した。その中で、韓国人男女2人の約10秒間の街頭インタビューについて、映像から聞き取れる原語とは異なる内容の翻訳テロップと吹き替え音声で紹介されていたことが視聴者からの指摘で判明し、当該局はホームページなどでお詫びした。
委員会への報告書によると、インタビュー映像は通訳によって翻訳され、タイムコードと日本語が書かれた翻訳シートが作られて、担当ディレクターが、そのシートをもとに編集作業を進めた。その際、女性インタビューについては、タイムコードの入力を誤って、別の部分の映像が抜き出されたため、使用予定の翻訳テロップが映像の内容と異なるものとなり、男性インタビューについては、長めに抜き出した映像を短縮する再編集時にミスが重なり、映像と翻訳テロップがずれて合わなくなってしまった、としている。
そのうえ、スタジオ収録や事前の試写などのチェックの際に、翻訳の適切さについての確認をしていなかったため、字幕テロップと吹き替え音声が、映像の発言と異なっていることに誰も気付かず放送に至ったという。報告書には、今後は制作の最終段階の翻訳チェックを基本とするなどの対応策も記載されている。
委員会の討議では、「詳細な分かりやすい報告書で、間違った経緯はよく理解できたが、視聴者への説明責任が十分に果たされているとは言えない」「放送された翻訳部分が、実際の取材テープに本当にあったのかという視聴者の疑問を解消する必要がある」など、さまざまな意見が交わされた。そして、この事案は、さらに確認や検討が必要な点もあるとして、次回の委員会で討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 編集上の単純なミスが積み重なった経緯は報告書でよくわかったが、日韓問題のような重いテーマなのに、実際の編集が始まって放送前のチェックまでの間、通訳が全く立ち会っていないというのが信じられない。最終段階でチェックしていれば、起こりえないことではないのか。
  • 経費や時間の制約もあり、こうした事前収録の番組で、通訳が最終チェックに立ち会うことは、ほとんどないのではないか。
  • 番組の制作委託を受けた制作会社の編集やチェック作業の杜撰さは否めないが、当該局のチェック機能の甘さも指摘しなければならないだろう。
  • 当該局は迅速な社内調査をして、詳細な原因分析や的確な対応策をまとめた報告書になっていると思う。この報告書どおりの経緯であれば、改めて審議してヒアリングする必要はないのではないか。
  • 委員会への報告書は確かに分かりやすく、ミスをした原因や背景もきちんと分析されているが、ホームページや広報番組では、十分な説明がされていない。視聴者への説明責任が果たされているとはいえないだろう。
  • 視聴者から寄せられた意見では、放送された翻訳の内容が、取材テープの中に本当にあったのかという疑問が非常に多い。これを解消するためには、何らかの情報開示がもっと必要なのではないか。

3.エコキャップ問題の特集で、取材先のNPO法人から放送倫理上の問題を指摘されたフジテレビの情報番組『とくダネ!』を討議

フジテレビの情報番組『とくダネ!』は、ワクチン代を寄付するために使うとうたってペットボトルのふたの回収活動をしているNPO法人エコキャップ推進協会が実はワクチン代を寄付していないと、新聞報道で指摘された問題について、「直撃御免 消えたワクチン代の行方」と題した特集企画を4月23日に放送した。
6月中旬になって法人側は、この企画は恣意的な編集をした「虚偽放送」で、放送倫理上の問題があるとして、記者会見で指摘・公表した。法人側は、番組側から「一部のリサイクル業者によるペットボトルのふたの横流し疑惑の追及」という趣旨で取材依頼があったので取材に協力したが、放送ではその問題には一切触れずに、取材した映像を使って法人の「経費問題」だけを伝えており、恣意的な編集による「虚偽放送」だと主張している。
これに対して当該局は、当初から法人側に対して、「経費問題」も含めた取材意図をきちんと伝えていて、「ひっかけ取材」や「恣意的な編集」はないと反論している。
委員会では、両者の資料をもとに討議した結果、この事案は「ひっかけ取材」と言えるかどうかが最大の争点となっているが、どちらの言い分が正しいかを委員会が判断するのは容易ではないうえ、取材意図を事前にどこまで取材先に伝えるかについて、委員会がこの事案で放送倫理上の基準を打ち出すのは、適切とは言えないとの結論になった。そして、問題の解決に向けては、当事者間の話し合いにゆだねるべきだとして議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。

[委員の主な意見]

  • 法人側は、放送直後に局側に抗議したものの、その後は局側とまったく接触もないまま、今回の公表に至っているようだ。双方が、どうしてもっと率直な話し合いをしなかったのだろうか?
  • 放送では、「疑惑の渦中の協会理事長を直撃」と文字スーパーなどで再三強調しているが、法人側の経費が多額なことを指摘するだけで、具体的にどういう疑惑があるのかの説明は十分とは言えないのではないか。「消えたワクチン代の行方」が不明確な放送内容には、不満が残る。
  • 法人側の経費が多すぎる理由を理事長に確認するインタビューは放送されているので、「虚偽放送」とまでは言えないだろう。
  • 取材の拙さは気になるが、この事案で、委員会が放送倫理上の問題として議論すべきなのは、取材意図を事前にどこまで取材先に伝えるべきかという点に絞られそうな気がする。丁寧に説明するに越したことはないが、テーマによっては、取材意図をつまびらかにできない取材もあるだろう。委員会として、そうした点にまで踏み込んだ基準を打ち出すのは難しいし、特にこの事案でそれを行うのは適切とは言えないのではないか。

4.既得権益問題をめぐる映像使用について政党から抗議を受けたテレビ大阪の情報番組『たかじんNOマネーBLACK』を討議

テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』(5月30日放送)で、「FOOL JAPAN 世界から見たダメダメ日本」と題し、4人の在日外国人ゲストが日本に対して疑問に感じていることを指摘した。
その中の「日本人は怠け者で既得権益を守りすぎる」というパートで、「たとえ社会の発展や活性化につながるものでも」とのナレーション部分にTシャツ姿で街頭演説をする橋下大阪市長の映像を約4秒間、「既得権益のために政治が利用されてしまっているのが今の日本の姿」とのナレーション部分にスーツ姿で街頭演説をする自民党大阪市会議員団幹事長の映像を約6秒間、使用した。
自民党側の抗議を受けて、当該局は「一部誤解を招きかねない、配慮を欠いた表現がありました」と自社ホームページにお詫び文を掲載するとともに、自民党側に謝罪した。一方、自民党側からは議員団幹事長名で、委員会あてに「政治的公平性を欠く映像使用」だとする文書が届いた。
当該局の報告書によると、放送前のチェック段階で、大阪都構想の演説映像の使用に問題はないかという指摘はあったとのことだが、修正までには至らなかったという。また、再発防止策の策定などに向けて、社内の議論は継続中ということだった。委員会は、当該局に対して、最終的な報告書の提出を次回委員会までに求めることにして、討議を継続した。

[委員の主な意見]

  • ゲストの在日外国人が大阪都構想については何も言及していないのに、そのニュース映像を使用したのは制作者の配慮が足りず、編集上問題があるのではないか。
  • ホームページに掲載されたお詫び文は説明不足で、視聴者や関係者に何を謝っているのかよく分からない。
  • この問題について、社内では今も議論を継続しているとのことなので、完成した報告書を見たうえで、改めて検討したい。

5.委員会運営規則の改定について検討

現在委員会は、審議や審理に入る前に、その適否を討議している。しかし討議の手続きは慣例で運用されているため、その手続き規程を設けるなど、現在の委員会運営規則を改定するべきではないか、との意見があり、委員会で検討したところ、その方向で事務局側が検討を進めることとなった。

以上

第94回 放送倫理検証委員会

第94回–2015年6月

"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』などを審議…など

第94回放送倫理検証委員会は6月12日に開催された。
委員会が今年3月に出した「"全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解」について、当該5局から提出された対応報告書を了承し、公表することとした。
"出家詐欺"の報道に放送倫理違反の疑いが濃いとして、前回審議入りしたNHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)とその基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)について、取材・制作担当者へのヒアリングの結果が報告され、意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2015年6月12日(金)午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1."全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解への対応報告書を了承

3月6日に委員会が通知公表した、「"全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解」(委員会決定第22号)への対応報告書が、TBSテレビ、テレビ新広島、テレビ朝日、NHK、日本テレビの当該5局から委員会に提出された。
報告書には、委員会決定を受けた後の局内の対応や、放送番組審議会でのやり取り、再発防止に向けた取り組みなどが記載されている。委員会が求めた自己検証などの要望に対しては、自己検証の内容を広報番組で放送したりホームページで公表したりした局、委員会の担当委員を招いて研修会を実施しそれを広報番組で紹介した局など、各局の対応が具体的に報告されていた。
委員会は、5局からの対応報告書をすべて了承して公表することとした。

2."出家詐欺"の追跡報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議

NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)では、出家して僧侶となり法名を授けられる「得度」の儀式を受けると家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
この中で、"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」と客の「多重債務者」が相談している場面について、「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張。これに対して当該局は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」と結論付けた報告書を公表した。
委員会は、放送倫理に違反する疑いが濃いうえ、委員会として意見を言うことに意味がある事案だとして、前回この2番組を審議の対象とすることを決め、担当委員によるヒアリングが実施された。
当該局のチーフプロデューサー・ディレクター・記者ら11人に対するヒアリングを踏まえて、企画立案から取材・編集・放送に至るまでの経緯が詳細に報告され、現時点での問題点や疑問点などが指摘された。意見交換の結果、ヒアリングの対象者を増やして調査を継続するとともに、論点の整理などを進めることになった。

以上

第93回 放送倫理検証委員会

第93回–2015年5月

"出家詐欺"報道で「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』審議入り…など

第93回放送倫理検証委員会は5月8日に開催された。
委員会が今年2月に出したテレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することとした。
"出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)について、当該局から最終報告書が提出され意見交換を行った。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃く、委員会として意見を言うことに意味がある事案であることで一致し、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。

議事の詳細

日時
2015年5月8日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見への対応報告書を了承

2月9日に委員会が通知公表した、テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見(委員会決定第21号)への対応報告書が、4月末に、当該局から委員会に提出された。
報告書では、再発防止とより良い報道を目指して、検証委員会の担当委員を招いた勉強会を社内で開催したことや、問題発覚後に策定してすでに実施している再発防止策について、委員会決定後にその実施状況を検証し、必要に応じて見直しをしていることなどが記されている。
委員会では、勉強会の一部が紹介された広報番組も視聴した上で意見交換を行い、この対応報告書を了承して公表することとした。

2."出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』を審議入り

NHK総合の『クローズアップ現代』で2014年5月14日に放送された「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」は、出家して僧侶となり法名を授けられる「得度」の儀式を受けると、家庭裁判所の許可を得て戸籍の氏名のうち名のほうを法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が、不活動宗教法人の対策に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その相談シーンは「やらせ取材」だったと週刊誌が告発した。
NHKは、放送で「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではない」などと主張しているため、外部委員を交えた調査委員会を作って関係者の聞き取りを行い、4月28日に最終報告を公表した。当委員会にもその報告書が提出された。
報告書は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」と結論付けている。
委員会では、報告書に記載されている「やらせ」と「過剰演出」の区別の適否や、主要な関係者の言い分が異なることをどうとらえるか、などを議論・検討した。また、番組で紹介された"出家詐欺"とされる事件の事実関係をはじめ、番組全体についても意見を交換した。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃いことと、委員会として意見を言うことに意味がある内容の事案であることで一致したため、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。

【委員の主な意見】

  • NHKの報告書には違和感を禁じえない。「やらせ」ではないということに終始しているのではないか。「やらせ」の有無の問題だけにとどまらず、どこに番組表現上の問題があったのか、なぜ視聴者に誤解を与えてしまったのかを、きちんと説明していない。
  • NHKが自主的に第三者を交えた調査委員会を立ち上げ、迅速に報告書を作成したこと自体は、評価してもよいのではないか。
  • なぜこうした問題が起きたのか、という基本的な問題意識や説得力ある指摘・言及を、報告書から読み取ることができない。組織・企業風土・職場環境など幅広い観点からの分析が必要ではないだろうか。
  • 報告書を読むと、問題のシーンが「やらせ」かどうかしか調査・検証していないことに疑問を感じる。審議入りして、委員会として言うべき意見を言うことにも意味があるように思われる。
  • 視聴者的な視点から見た時、この番組が伝えようとしていることに対して疑問を感じたところがあった。例えば"出家詐欺"は、水面下で本当に広がっているのだろうか。
  • 当該局の最終報告書が公表された同じ日に、総務省の行政指導が出されたことは、BPOの効果的な活動に期待するという国会の付帯決議の趣旨からしても、いかがなものかと感ずる。

以上

2015年1月22日

九州・沖縄FNS(フジテレビ系)各局と「意見交換会」を開催

フジテレビ系の九州・沖縄ブロック8局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月22日に福岡市内のホテルで開催された。同じ系列の地域放送局を対象とした意見交換会は3回目となる。
放送局側からは報道、編成、制作の部長など30人、委員会側からは是枝委員長代行と斎藤貴男委員が出席した。主な内容は以下のとおりである。

意見交換会ではまず、是枝代行と斎藤委員が、委員会の議論などを通じて日頃考えていることを述べた。
是枝代行は、「出演者のインタビューや自伝本などを鵜呑みにして裏取りもせず、ドキュメンタリーという枠の中で報道したり、再現ドラマにしたりすることが非常に増えている。その結果、虚偽の放送をしてしまったというケースがBPOの事案でも目立っている。本来なら疑ってかかることが結果的に取材対象者を守ることにつながるはずで、放送にかかわる人間は、いくら疑り深くても悪いことはないと思う。ドキュメンタリー、バラエティーを問わず、再現であることを前提にドラマを作ることの倫理性の欠如は、もう少し厳しく問われるべきではないか」と、映画やドキュメンタリーの制作者としての視点から、昨今の再現映像の氾濫について問題を提起した。
また斎藤委員は、この2年間の委員としての経験を踏まえ「テレビの制作者が、感動的な物語を作りたがりすぎるのではないか。世の中はそれほど単純なものではない。公に出すものである以上、個々の裏取りはもちろん、その背景にある構造など、すべて番組に出さないまでも、きちんと調べてほしかったと感じることは多い。しかし、委員会の議論で表現の自由に常に気を使っていることと、意見書を出すことで現場の人々を萎縮させてはいけないと絶えず意識していることは、ぜひ皆さんにもわかっていただきたいと思う」と語った。
その後、具体的な事例をもとにした意見交換に移り、審議事案となった鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」、テレビ熊本が対象局のひとつとなった「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組」、そして討議事案となったテレビ西日本の「待機児童問題報道」の各事案について、当該各局から反省点や再発防止策について具体的な報告がなされた。
その中で出席者からは「実感として、情報と意識の全社的共有につきるなと思った。当該のセクションは契約の方が多く、選挙に関する情報と意識の共有が不十分で、放送人としての公共性の意識や選挙の公平性など会社としての教育も足らなかった」「スタッフとプロデューサーの距離感は密接でいわゆる丸投げといった問題はなかったが、取材が甘く裏取りもきちんとしていなかった。また、日頃の人間関係作りも含め、取材対象者や放送することによって影響を受ける関係者との距離感のあり方を、スタッフ間でもっと詰めておくべきだった」といった反省や、「再発防止策でチェック体制などというと現場が萎縮するのではという心配があったが、スタッフが積極的に日頃の勉強会やチェックを重ね、それがルーティンになることで、記者活動や取材活動にもむしろプラスになっていると感じる」といった発言がなされた。
これに対し、是枝代行からは「審議入りしたのかしなかったのか結果だけが取り上げられがちだが、審議入りした番組について意見書を書くのは、皆さんに読んでいただきその経験を共有財として持ってもらい、現場にフィードバックしてもらうためである」という説明があり、また、斎藤委員からは正社員と契約者が協業する放送の制作現場を念頭に「下積みから頭角を現す人間がいたら、表舞台に出してあげるような雰囲気や、表現者ならではのインセンティブを設けるような仕組みをぜひ検討してほしい」という発言があった。
最後に是枝代行より、「BPOは権力の介入に対する防波堤である、という自負が正しいのであれば、直接圧力が放送局に向かわないために何らかの役割が果たせるのではないかと思っているし、その覚悟をもって参加している。今回、意見交換会に出席して、その気持ちを新たにした」と締めくくった。

 今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 「BPO」という言葉のイメージが先行していたため、かなり気構えて参加したのですが、思いを新たにすることができ、非常に有意義な会になりました。様々なメディアが世の中にあふれ、ともすれば「放送」の役割や信頼性が、ひところより下がっている今の時代に、第三者的な視点を持って、時には厳しい意見、叱咤激励をしてくださるのが「BPO」だと感じました。もちろん、それは放送局自らが律しなければいけないことであり、そうした日々の努力によって、放送の質をより高めていく必要が、今後さらに高まってくると感じました。

  • 是枝委員長代行の「現場に悪い人間が減り、いい人間が増えた」との話は胸を突き刺さりました。最近の事例は「まさかそんなこととは思わなかった」「だまされた」という話が多いとのこと。「疑ってかかるのが取材対象者を守ることにつながる」…まさにその通りだと思います。プロダクションの派遣社員が多い現場。ちゃんと情報を共有しているか?責任までも押し付けていないか?現場の管理職として、考えさせられる時間でした。

  • 具体的な事例を挙げたことによって人員の不足・情報の共有、チェック体制といった点で各局の皆様が同じような悩み及び課題をお持ちだということが良く分かりました。またコミュニケーションを取ることの大切さを改めて感じさせられた会でもありました。最後に是枝さんが「権力の介入に対する防波堤となるのがBPOの役割」とお話になったところは印象的でした。

以上

2015年5月8日

NHK総合の『クローズアップ現代』審議入り

放送倫理検証委員会は5月8日の第93回委員会で、NHK総合の『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』と、この番組の基になった関西ローカルの『かんさい熱視線 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』の2番組について、審議入りを決めた。
審議入りの理由について、川端和治委員長は「放送倫理違反があるのは間違いないと思われる。委員会として言うべきことがあり、意見を言うことに意味がある」と述べた。
委員会は今後、担当記者やディレクターなど関係者のヒアリングを行ったうえで、「意見」を公表することにしている。
2014年5月14日に放送された『クローズアップ現代』は、寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が対応に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その「ブローカー」と「多重債務者」の相談シーンは「やらせ取材」だったと、今年3月、週刊誌が告発した。
NHKの調査委員会は4月28日、報告書を公表し「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」として、担当記者ら15人の懲戒処分を決定した。

第92回 放送倫理検証委員会

第92回–2015年4月

"出家詐欺"報道で「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』を討議…など

第92回放送倫理検証委員会は4月10日に開催された。
冒頭、BPO規約25条に従い、川端委員長が、退任した小町谷委員長代行の後任に升味委員を指名した。また、新たに中野委員が就任した。
"出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』について、当該局から報告書が提出され意見交換を行った。しかし、この報告書は「中間報告」であり、さらに調査を進めたうえで、まとまり次第最終報告をするということなので、それを待って本格的な議論をすることになった。

議事の詳細

日時
2015年4月10日(金)午後5時~7時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1."出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』を討議

NHK総合の『クローズアップ現代』で2014年5月14日に放送された「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」は、寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が対応に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その「ブローカー」と「多重債務者」の相談シーンは「やらせ取材」だったと、ことし3月、週刊誌が告発した。
NHKは、放送で「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではない」などと主張しているため、調査チームが記者や「ブローカー」「多重債務者」への聴き取りを行い、委員会に報告書を提出した。しかし、この報告書の内容は、これまでの聴き取り等の状況や検証のポイントをまとめた「中間報告」的なものであり、NHKは、副会長を委員長とし、3人の外部委員も加えた調査委員会を設置して、「やらせ」の有無、取材制作の進め方、表現の適切さなどについて調査したうえで、最終的な「調査報告書」をとりまとめて公表するという。
委員会では、NHKの最終報告書の提出を待って本格的な議論をすることになった。

【委員の主な意見】

  • 当該番組を視聴し、提出された報告書を読んだだけでも、放送倫理違反ではないかと感じられるところがあった。

  • 問題の場面は、映像も音声も処理されているが、調査報道は、モザイクの後ろに真実があると視聴者に信じてもらえるものでなければならないのではないのか。

  • もともと記者と「多重債務者」が知り合いだとすれば、記者が「多重債務者」を追いかけてインタビューするというのは、過剰演出や虚偽ではないのか。

  • 記者が2人にだまされた可能性もないとは言えないので、慎重できちんとした事実認定が不可欠だろう。

  • この放送の1か月前に、関西ローカルで放送された同じテーマの番組についても、その内容を見たいので、DVD映像と報告書を要請してほしい。

  • 当該局としては、これまでにないほどの態勢で迅速に調査をして、その結果を公表すると言っているのだから、まずはその結果を見て、委員会としてどのように臨むかを決めればいいのではないか。

  • 本当に「ブローカー」だったのかが問題になっているようだが、取材のディテールそのものに放送倫理上の問題が潜んでいるようにも思われるし、制作段階でどのようなチェックが行われていたかも、明確にしてほしい。

以上

第91回 放送倫理検証委員会

第91回–2015年3月

再現映像による不適切な演出が行われていたTBSテレビのバラエティー、審議入りせず…など

第91回放送倫理検証委員会は3月13日に開催された。
3月6日に「見解」を通知・公表した"全聾の天才作曲家" 佐村河内守氏をめぐる5局7番組について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
大家族に密着するTBSテレビのバラエティー番組で、再現映像による不適切な演出が行われていた問題を討議した。事実や人物にきちんと向き合おうとしない姿勢は気になるが、虚偽ねつ造とまでは言えないとして、審議の対象とはせずに議論を終えた。

議事の詳細

日時
2015年3月13日(金)午後5時~7時15分
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員

1."全聾の天才作曲家"佐村河内守氏を取り上げた5局7番組に関する見解を通知・公表

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していた事案について、5局7番組に関する見解(委員会決定第22号)の通知と公表の記者会見が、3月6日に実施された。
委員会では、TBSテレビ、テレビ新広島、テレビ朝日、NHK、日本テレビの当該5局の当日のテレビニュースなどを視聴したあと、委員長と担当委員から、記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。
テレビや新聞での報道は、「放送倫理違反とまでは言えない」という結論のみを伝えた短いものから、委員会の要望内容を詳しく伝えたものまで幅があり、「委員会の思いが十分に汲み取られていない。今後はプレゼンテーションの仕方も考えていかなければ」「委員会の要望をこれほど具体的に述べた決定はない。当該局がどのように受け止めたか、3か月報告がひとつのポイントになるだろう」などの意見が出された。

2.再現映像による不適切な演出が行われていた、TBSテレビのバラエティー『水トク!激闘大家族スペシャル』を討議

TBSテレビのバラエティー番組『水トク!激闘大家族スペシャル』(2015年1月28日放送)は、福岡市に住む3男3女、一家8人が主人公で、17歳の母親から生まれた長女が、自らも17歳で出産を体験する様子が物語の柱になっている。
不適切な演出として問題になったのは、(1)妊娠中の17歳の娘とその母親のやりとりが、実際には出産後に撮影されていたこと(2)大家族の祖父がスポンサーとなった食料品の買い出しシーンが、実際には番組側の依頼によるもので、経費も番組持ちだったこと、の2点である。放送後、ネット掲示板に母親自身が告白したことにより、発覚した。
TBSテレビは、制作会社や母親への聴き取りの結果、本人たちの再現による不適切な演出であったことが確認できたとして、同じ時間帯でお詫び放送をし、番組のホームページにも詳細なお詫びを掲載している。また、委員会に報告書を提出し、慣れによる制作会社側の安易な姿勢や、放送局側のチェック体制の不備などを、原因としてあげている。そのうえで、テロップ表記などにより「再現」であることを明らかにすべきだったとしている。
委員会では、バラエティーであっても、事実や人物にきちんと向き合わないと制作者の思いは視聴者に伝わらず、テレビはこんなものだと受け取られてしまうだろうという意見も出された。番組の中に確かに誇張はあるが、本人が記憶に基づいて再現したものであり、視聴者はシリアスなドキュメンタリーというよりもバラエティーとして楽しんでいるのだから、虚偽やねつ造として問題にするまでのことはないだろうとして、審議の対象とはしないで議論を終えることになった。

【委員の主な意見】

  • 当該局が言う「実録型バラエティー」とは何なのか。この説明自体は後付けであり、バラエティーに分類することによって、放送倫理上の許容範囲を広げようとしているのではないか。

  • 舞台設定などを番組が用意してのドキュメンタリータッチの番組であれ、このような密着型を目指すのであれ、事実や人物にはきちんと向き合ってほしい。

  • 再現の場面に、再現のテロップを入れれば良かったという当該局の説明は、いかにも表面的過ぎないだろうか。再現の手法そのものが良くないということではないので、別の演出や作り方も考えてほしかった。

  • 番組の作り方自体が稚拙すぎないか。放送倫理の問題として取り上げても、議論が深まるとは思えない。

  • 番組で取材期間○○日と強調しても、実質的にはいったい何日ロケに出ていたのか。結局、シーンが足りなくなって、再現の場面が必要になったのではないだろうか。

  • 妊娠していなかったわけではなく、なかったことを作ったわけではないから、虚偽やねつ造とまでは言えないだろうが、誇張にあたるのではないか。

  • この番組を見て、シリアスなドキュメンタリーだと思う視聴者はいないだろう。バラエティーとして、楽しめればいいのではないか。

  • あまりに、誇張や事後の再現などが増えていくと、視聴者に「テレビって所詮こんなものだよ」という、シニカルな見方がますます蔓延するのではないか。それは放送局にとっても好ましいことではないだろう。

以上

2015年3月6日

"全聾の天才作曲家" 5局7番組に関する見解の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、3月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会からは、川端和治委員長、小町谷育子委員長代行、香山リカ委員、斎藤貴男委員の4人が出席した。当該局からは、TBSテレビ、テレビ新広島、テレビ朝日、NHK、日本テレビのBPO登録代表者など計10人が出席して通知を受けた。
まず川端委員長は、「各局がそろって誤った番組を放送し、メディアに対する視聴者の信頼を損ねた事案だった。制作当時に虚偽を見抜くことは難しかったとして、放送倫理違反があるとまでは言えないと判断したが、メディアがこの程度のことでだまされているようでは、隠された社会悪を暴くことなどできないのではないか、と多くの国民は不安に思っただろう。そういう意味で重大な事案だった」と述べた。そのうえで、「重要なのは、だまされたことがわかった後の対応である。過ちを繰り返さないために、どこにどのような問題があったのか、どうすれば防ぐことができたのか、問題発覚後の自己検証をきちんとやることを考えてほしい」と要望した。
続いて小町谷委員長代行が、「取材期間が長期に及ぶほど、ディレクターが取材相手に共感を持つことは避けられないと感じた。その時に、距離をとってチェックするのがデスクやプロデューサーの役目だ。デスクやプロデューサーは何をするべきだったのか、具体的に検証してほしい」と述べた。香山委員は、「広島の被爆者や東日本大震災の被災者、そして障害を抱える人たちを傷つける結果となってしまった。社会的に弱い立場にある人々に希望や励ましを与えるような番組を今後も作ってほしい」と述べた。また、斎藤委員は、「この程度の話にだまされているようでは、もっと大きな問題に対処できないのではないかと懸念される。安易な物語づくりに走りすぎているのではないか。深く考えて番組を制作してほしい」と述べた。 
これに対して各局の出席者は、「今回の決定を重くそして真摯に受け止め、再発防止に取り組んでいきたい」などと述べた。テレビ新広島は、さらに「広島の平和への願いを全国に伝えたいという思いがこのような結果になって残念だが、萎縮することなく、今後もこのテーマを放送していきたい」と付け加えた。

このあと、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社62人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が「メディアが互いに補強し合う形で虚偽の物語を伝え、新垣隆氏が告白するまでそれに全く気がつかなかった。メディアの真実を伝える能力に国民が疑問を持ってしまう、そういう事案ではなかったか」と述べた。そして、委員会が、佐村河内守氏の物語がどこまでが真実でどこからが虚偽なのかを、番組の関係者のほか、佐村河内氏や新垣氏、耳鼻咽喉科の専門医の協力も得ながら調査・検証し、放送の時点で虚偽を見破れなかったのは止むを得なかったという結論に達して、放送倫理違反があるとまでは言えないと判断したことを説明した。しかし、「だまされたのは仕方なかった、で終わっては、これからも同じことが繰り返されるのではないかと危惧される」として、「なぜ気が付かなかったのか、きちんと検証して、その結果を視聴者に公表してほしい」と要望した。
続いて小町谷委員長代行が、「取材相手が虚偽を述べた事案はこれまでにもあったが(「委員会決定」第6号、第12号、第19号)、これほど大がかりな規模でだまされた例はない。佐村河内氏が悪い、だけでは説明がつかない事案だ。これまでと何が違うのか、よく検証してほしい。番組が審理対象にならなかった局も、この決定を参考にしてほしい」と述べた。香山委員は、「社会的に弱い立場の人たちを励ます感動の物語には、それが虚偽だとわかったときに、大きな怒り、失望を与えるというリスクがある。それを教訓として、今後も弱い立場にある人たちに希望を与えるような番組を作り続けてほしい」と述べた。斎藤委員は、「今の時代、巧妙にメディアを利用しようという人たちがいる。そうした人たちにだまされないように、今回のことをぜひ教訓としてもらいたい。安易に感動の物語を求めてしまうと、ものごとを単純化したい誘惑に駆られてしまう。また、個人的には、新垣さん、佐村河内さんの今後のテレビでの扱われ方にも注目していきたい」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:今回、佐村河内氏や新垣氏に聴き取りをして、2人が開いた記者会見と異なる点や新たにわかった点などはあるか?
    A:2人が曲作りにどうかかわったかについては記者会見にはなく、委員会が初めて明らかにしたと考える。聴覚障害についても、信頼できる専門家の見解を伺って、決定に反映させている。(川端委員長)

  • Q:芸術家の中には、苦難を乗り越えて芸術の域に達した人が多いが、どのように取り上げるべきなのか?
    A:制作者は、そうした人物に迫るには懐に飛び込めと言われているようだが、今回は飛び込んで取り込まれた。そのような場合には、デスクやプロデューサーが醒めた目で冷静に判断するべきだという教訓が、改めて確認された事案だ。今回は、芸術家を取り上げたと言っても、「被爆二世」「全聾」「障害者との交流」といったいわば外側の部分の話が中心になっていた。作曲家としての佐村河内氏を取り上げるなら、作曲という面で徹底的に迫るべきではなかったかと私は思う。そうすれば、おかしな点にも気づくことができたのではないか。(川端委員長)

  • Q:裏取りが十分ではないのに、これで放送倫理違反を認定しないようでは、視聴者からの信頼は回復できないのではないか?
    A:取材時期の早いTBSテレビの『NEWS23』とテレビ新広島は、一定の裏付け取材をしている。母親には断られてできなかったが、小学校時代の同級生には取材した。 
    委員会は、裏は完璧に取らなければならないとまで言うのは間違いだと思っている。そのような要求をすると、メディアの挑戦意欲を削いでしまうおそれがある。裏付けは合理的な範囲で取らなければならないが、それで間違った場合には、視聴者にていねいに説明して、過ちを繰り返さないためにどうすればいいかを考えていくことで、メディアの質は向上するのではないかと思う。(川端委員長)

  • Q:民放4局に比べてNHKへの検証部分が多いように感じるが、NHKに重きを置いた理由は何か?
    A:検証番組を放送したのはNHKだけであり、その点では優れていたが、この検証番組が、「なぜだまされてしまったのか」の説明に終わり、不十分だった。佐村河内氏が作曲したと信じた証拠として挙げた全体構成図について、佐村河内氏はなぜこれを書くことができたのかという疑問が解明されていない点や、佐村河内氏を社会的評価の定まった作曲家と信じた根拠としてあげた米TIME誌が「現代のベートーベン」と評したという事実はない点などを指摘したため、他よりも長くなった。(川端委員長)

  • Q:(斎藤委員に)佐村河内氏と新垣氏のメディアでの扱われ方に注目していきたいとの話だったが、具体的にはどのようなことなのか?
    A:これはあくまでも個人的な関心事項であるが、佐村河内氏が「悪」で、新垣氏が「善」というような簡単な話ではないと思う。今、新垣氏がテレビでバラエティー・タレントのように登場し、活字メディアがそれに疑問を投げかけるような状況があるが、ここにテレビの態度が表れているように思うので、注目していきたい。(斎藤委員)

  • Q:この見解の前と後では、テレビに求められるものの重さが変わってくるように感じたのだが。
    A:前と変わらなければ、同じことでまただまされてしまうだろう。われわれが民主的な判断をするためには、正しい情報が与えられる必要がある。メディアからの情報は正しいものであってほしいと思っている。メディアが簡単にだまされるようでは、われわれは判断を誤ってしまうおそれがある。この問題を突き詰めて、どうすればだまされないのかを考えてほしいというのが委員会の要望だ。(川端委員長)

以上

第22号

“全聾の天才作曲家” 5局7番組に関する見解

2015年3月6日 放送局:TBSテレビ、テレビ新広島、テレビ朝日、NHK、日本テレビ

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、上記5局の7番組をはじめ数多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案。
約1年間にわたる討議と審理の結果、委員会は、佐村河内氏の作曲活動や聴覚障害に対する各局の裏付け取材は不十分なところもあったが、放送時点において、その放送内容が真実であると信じるに足る相応の理由や根拠が存在していたとして、各対象番組に放送倫理違反があるとまでは言えないと判断した。
ただし、問題発覚後の対応については不足している点があるとして、視聴者への説明責任を果たすため、民放4局に対しては自己検証の結果の公表を、NHKに対しても再度の自己検証とその結果の公表を要望した。

 

2015年3月6日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、3月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。また、午後3時から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社62人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
詳細はこちら。

2015年6月12日【委員会決定を受けての当該5局の対応】

標記事案の委員会決定(2015年3月6日)を受けて、当該の5局(TBSテレビ、テレビ新広島、
テレビ朝日、NHK、日本テレビ)は、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
6月12日に開催された委員会において、各局からの報告書の内容が検討され、5局ともに了承された。

TBSテレビの対応

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テレビ新広島の対応

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テレビ朝日の対応

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NHKの対応

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日本テレビの対応

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第90回 放送倫理検証委員会

第90回–2015年2月

佐村河内守氏が"別人に作曲依頼"を審理
「委員会決定」を3月上旬にも通知・公表へ…など

第90回放送倫理検証委員会は2月13日に開催された。
2月9日に意見を通知・公表したテレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」事案について、記者会見での質疑や当日の報道などが報告され、若干の意見交換を行った。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案については、委員会決定の修正案が担当委員から提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、表現の一部手直しをして、3月上旬にも当該5局に通知・公表をすることになった。

議事の詳細

日時
2015年2月13日(金)午後5時~7時30分
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、藤田委員、升味委員

1.テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見を通知・公表

テレビ朝日の『報道ステーション』(2014年9月10日放送)で、原子力規制委員会が九州電力川内原発の新規制基準適合を認める審査書を正式決定したニュースを放送した際、田中委員長の記者会見の報道に事実誤認と不適切な編集があった事案。
2月9日、当該局に対して、委員会決定第21号の意見を通知し、続いて公表の記者会見を行った。当日のテレビニュースや当該番組での報道を視聴したあと、委員長や担当委員から、通知の際のやり取りや記者会見での質疑応答の内容が報告され、意見交換が行われた。

2.「全聾の作曲家」と称していた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案を審理

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼していたことが発覚した事案について、委員会決定(見解)の修正案が、担当委員から提出された。
△各局が佐村河内氏の虚偽を信じて放送したことに問題はなかったか
△問題発覚後の各局の対応は十分であったか
という2つの大きな論点のうち、2点目を中心に幅広く意見が交わされ、大筋で了解が得られた。このため、担当委員がこれらの意見を踏まえた手直しと表現の修正を行ったうえで委員会決定とすることになった。3月上旬にも当該5局への通知と公表の記者会見が行われる見通しである。

以上