第109回–2016年11月
TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議など
出演者の姿を本人の了解を得ずに映像処理で消したのは問題で、制作体制などについて検証の必要があるとして審議入りしたTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』について、前回委員会の議論を盛り込んだ意見書の修正案が担当委員から提出された。内容や表現をめぐって意見交換が行われた結果、大筋で了解が得られたため、一部手直ししたうえで、12月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。
参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、前回委員会で、二つの選挙に見られた選挙報道全般の問題点を対象として審議入りしたが、今回の委員会では、担当委員から意見書の骨子案が出され、選挙報道のあり方についてさまざまな観点から議論が続けられた。
「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」を扱った二つの情報番組について討議した。一つはフジテレビ・関西テレビの共同制作番組『Mr.サンデー』で、中心人物とされる男子学生の実名が露出してネットに拡散した事案。もう一つは、テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』で、被害女性への配慮を欠いた内容の放送がなされたという事案である。委員会は、当該局の報告を基に討議した結果、『Mr.サンデー』については、単純なミスであり事後の処理も適切であるので、当該局に一層の注意喚起を促す意見が出たことを議事録に掲載するが審議の対象とはしないことを決めた。一方、『羽鳥慎一モーニングショー』については、さらなる確認や検討が必要だとして、次回委員会で討議を継続することになった。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から構成の一部見直しが提案され、承認された。
議事の詳細
- 日時
- 2016年11月11日(金)午後5時00分~7時45分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』の審議
2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道全般について審議
3. 慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件の報道で、中心人物とされる男子学生の実名が露出したフジテレビ・関西テレビ共同制作の情報番組『Mr.サンデー』の討議
4. 同じ慶應大学女性集団暴行事件の報道で、被害女性に配慮を欠いた内容を放送したテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』の討議
5. 委員会発足10周年の記念シンポジウムについて - 出席者
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川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員
1. 出演者の映像を本人の了解なしに消去したTBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』を審議
TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(6月19日放送)の珍種目の一つ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで解答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した事案について、前回の委員会で意見書原案に示された意見や議論を踏まえた修正案が担当委員から提出された。
「出演者の姿を無断で消すことに一部スタッフが感じた疑問が伝わらなかったのは、番組の制作環境に問題があったのではないか」「バラエティー番組において、さまざまな属性の出演者との信頼関係を、制作者はどのように考えるべきか」などの論点について詰めの議論が交わされた。また、より明確に委員会の考えを伝えることができるよう、意見書の表現についても意見交換が行われた。
その結果、大筋で了解が得られたため、表現の細部等について手直しをしたうえで、12月上旬にも当該局への通知と公表の記者会見をすることになった。
2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議
7月に行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられる中で、委員会は前回、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考慮すると、具体的な事例を参照しつつ選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、参院選と都知事選に見られた選挙報道全般の問題点を対象として審議入りすることを決めた。
今回の委員会では、担当委員から意見書の骨子案が出され、「放送法で求められているのは、選挙の争点についての豊富な情報の提供である」といった意見や、「公職選挙法は、政見放送と経歴放送を除けば、選挙に関する報道の自由を制約してはいない」といった意見が出されるなど、選挙報道のあり方についてさまざまな観点から議論が続けられた。
その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の原案を作成し、次回委員会に提出することになった。
3. 慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件の報道で、中心人物とされる男子学生の実名が露出したフジテレビ・関西テレビ共同制作の情報番組『Mr.サンデー』を討議
フジテレビと関西テレビが共同制作する情報番組『Mr.サンデー』は、「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」を扱った特集を10月16日に放送した。その中で、中心人物とされる男子学生のメールアドレスを入手して、取材依頼の電子メールを送信するとともに、そのメール本文と、パソコンに向かってメールを作成する模様を撮影し、イメージ映像として放送した。このメール本文にはこの男子学生の姓が記載されていたため、放送直後からインターネット上にメール文の静止画像が出回り、名前が拡散された。当該局の報告書によると、担当ディレクターがメールに男子学生の実名を書き込んだことを忘れていたため、モザイク処理などを施さずに放送し、その結果、実名が1.5秒間露出したという。
BPOには、「まだ立件されていない男子学生の実名がさらされている。問題ではないか」という視聴者意見が寄せられた。
当該局は、当該映像の使用を直ちに禁止すると共に、個人情報の扱いについて一層の注意喚起をし、個人情報やプライバシー情報についてはディレクターのみならずカメラマンやアシスタントディレクターまでクロスチェックすることを義務づけるなどの再発防止策をとり、また個人情報の拡散防止のためSNSサイトの管理者に情報の削除要請を行っているが、まだ完全に削除しきれていない。
委員会の議論では「初めて放送を見た視聴者は時間が短くて気付かないかもしれないが、誰かが録画して静止画像がネットに出ることは容易に想像でき、不注意では済まされない問題だ」などとの厳しい意見もあった。ただ、原因は単純なミスであり、委員会の意見を議事録に紹介することで当該局に一層の注意喚起を促すことにしたいとして議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。
【委員の主な意見】
- ネットに個人情報をアップロードしたくて待ち構えている者が数多くいる中、メディア側が不用意に個人情報をさらしてはならない。
- メールに実名を書きこんだことを、翌日になったら書いた本人が忘れたと報告書にあるが、にわかに信じがたい。あまりにもずさんだ。
- メールアドレスをつかんだからといって、取材申し込みのメールをわざわざ映す必要は、そもそもない。ケアレスミスだろうが、必要のないイメージ映像まで作って尺を稼ごうとする安易な演出手法にも問題があるのではないか。
- 事後の対応は迅速で、またSNSサイトの管理者に情報の削除要請をするなど被害の拡大防止に手を尽くしていることは評価できる。
4. 同じ慶應大学女性集団暴行事件の報道で、被害女性に配慮を欠いた内容を放送したテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』を討議
テレビ朝日の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』は、「独自 慶應生女性暴行疑惑 現役メンバー直撃 当事者の証言」と題した特集を10月20日に放送した。独自取材として放送されたVTRは、慶應大学広告学研究会のメンバーや男性OBの「被害女性側にも非があるのではないか…」というインタビューや、女性が知人とやりとりしていたLINEの画面の内容(イメージ再現)など、男子学生側の言い分を中心に構成されていた。また、サークルメンバーの話にあった「大学側も動画を確認し、事件性なしと判断したと聞いている」というコメントをスタジオで取り上げ、コメンテーターから大学側の対応を非難する発言があった。
当該局から委員会宛てに提出された報告書によると、放送後、当該局には被害女性の弁護士から抗議文が届き、視聴者からも批判的な意見が寄せられた。また慶應大学からは「大学側は動画を確認していない。事件性がないとは言っておらず、報道されているような事件性を確認するには至らなかったとコメントを出した」との指摘があったという。
BPOに対しても、視聴者から「被害女性の人権を侵害している」などとの放送内容に批判的な意見が多数寄せられた。
その後、当該局が被害女性の弁護士と面会して、放送内容が配慮を欠いていたことを謝罪するとともに、10月27日の当該番組内でお詫び放送を行った。
委員会の議論では、「男子学生側の主張で構成されているうえ、裏取り取材がほとんど行われていない」「女性への配慮が決定的に欠けた放送内容になっている」などとの厳しい意見が相次いだ。しかしながらこの事案は、現在捜査が進められており、さらに確認や検討が必要な点も出てくる可能性があるとして、次回の委員会で討議を継続することになった。
【委員の主な意見】
- サークル側の学生の主張に沿った内容で、大学側が動画を見た上で事件性がないと判断したのかどうかなど、少し取材すればすぐに事実でないことが判明したことについても、男子学生側の言い分をそのまま放送している。ただ、当該局の報告書によると、番組担当の幹部が放送直後に問題点を指摘し、お詫び放送もしていて、事後処理は適切だと思う。
- 男子学生側の主張を一方的に伝えた当該番組の発想自体が、ジャーナリストとしての倫理観を欠いているのではないか。男子学生側は、女性が他の男性と交際していたということが、女性にも非がある証拠だと考えているようだが、全くナンセンスな発想であり、この間違った判断を何の批判も加えずそのまま放送したことは、放送局側の見識を疑わせる。ただ、この事案で意見を言うたびに、被害女性にも焦点が当たってしまうのは本意ではない。
- 一般論だが、捜査中の動いている事件については、より一層の細かい配慮が必要だ。当該番組にはこの配慮が欠けていたと思う。
- VTRを見ていて大変不快に感じた。当該局が、常識的にはありえないサークル側の学生の主張を中心にして番組を構成していることと、大学側などに対して裏取り取材をしていないことが一番の問題ではないかと思う。ただ、捜査中の事案でもあり、事実関係に争いがあるようであるから、ひとまず推移を見守ったらどうか。
5. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて
10周年記念のシンポジウムについて、担当委員から構成の一部見直しが提案され、承認された。
以上