放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第111回

第111回–2017年1月

参院選と都知事選の選挙報道全般について審議 2月上旬にも意見書の通知と公表の記者会見
ASKA氏逮捕報道でのタクシー車載映像使用などについて討議など

昨年の参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられたことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、委員会は、二つの選挙に関する放送の具体例を踏まえながら、選挙報道全般のあり方について審議を継続している。委員会に担当委員から意見書の修正案が提出され、意見交換が行われた結果、大筋で合意が得られたため、一部手直しをしたうえで2月上旬にも放送局の代表への通知と公表の記者会見をすることになった。
昨年11月末のASKA氏逮捕報道の際に、在京民放局がタクシー車載映像を使用したことなどについて視聴者意見が多数寄せられたことなどから、当該各局から報告を求めて意見交換を行った。最終的には、各局の報道内容について公益性も認められないわけではないし、既にASKA氏が釈放されていて「法的手段を進めている」と公表していることなどから、委員からの厳しい意見も議事概要に公開して注意喚起することで、審議の対象とはしないことを決めた。
IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』で、乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング」が行われたのではないか、という疑惑が報じられた。委員会は当該局の報告書をもとに意見交換をした結果、さらなる確認や検討が必要だとして、討議を継続することを決めた。
委員会発足10周年記念のシンポジウムが、3月22日(水)に開催されることが担当委員から報告され了承された。

議事の詳細

日時
2017年1月13日(金) 午後5時00分~8時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議

委員会は、昨年行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられる中で、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考えると、具体的な放送を踏まえながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般のあり方について審議を継続している。
今回の委員会では、前回出された意見書の原案に対する各委員からの意見をもとに、担当委員から意見書の修正案が出され、これに対して委員から「公選法や放送法が選挙報道に何を求めているのかをわかりやすく解説して、実際に取材し番組を制作する人たちに理解してもらう必要がある」「意見書で述べている内容が、法律のどの条項に根拠があるのか、すぐに判るようにすることは意味がある」など、委員会の考えをより的確に伝えるための表現についても意見が交わされた。
その結果、大筋で了解が得られたため、表現の細部等について手直しをしたうえで、2月上旬にも、放送局の代表に通知するととともに、公表の記者会見をすることになった。

2. ASKA氏逮捕報道でのタクシー車載映像使用などについて討議

昨年11月末のASKA氏逮捕報道に関連して、在京民放局が逮捕直前にASKA氏が乗車したタクシーの車載映像を使用したことなどについて、BPOにも「過剰報道ではないか」「プライバシー侵害だ」などの視聴者意見が多数寄せられた。これを受けて、当該各局から、映像使用の実績、取材の経緯、放送の際の判断理由などについて、報告書が提出された。タクシー車載映像を使用したのは、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、フジテレビの4局で、各局とも放送にあたっての判断理由としては、「相当程度公的な存在といえるASKA氏の逮捕直前の様子や言動を伝えることは重要で、公益性・公共性が高いと判断した」などとしている。この他、逮捕前のASKA氏に情報番組のキャスターらが直接電話をかけて、逮捕報道への反応などをインタビューした音声が読売テレビと日本テレビで放送された件については、当該2局は、「本人が容疑を否定する重要な証言と判断して放送した」としている。また、読売テレビの11月28日放送の『ミヤネ屋』では、「ASKA氏逮捕へ」のニュースを伝える中で、芸能レポーターがASKA氏から提供されていた未公開曲の音声を約1分間放送したが、これについて当該局は、「著作権の問題はあるものの、ASKA氏の音楽活動の紹介として報道的にも意味があると判断した」としている。
委員会では、さまざまな観点からの意見交換がおこなわれ、テレビ局に対して厳しい意見も出された。しかし最終的には、問題点はあるものの、各局の報道内容について公益性も否定できない以上、一概に放送倫理違反を問うことは難しいし、ASKA氏が既に釈放されていて、本人のブログ上で「法的手段を進めている」と公表していることなどを勘案して、主な意見を記載して注意喚起をすることで、この事案の討議は終了することになった。

【委員の主な意見】

  • 単純に考えれば、プライバシー侵害や通信の秘密への配慮不足などが問題になると思うが、個人の権利の問題はこの委員会の本来の対象ではないと思うので難しい。
  • いくら公益性・公共性といわれても、実際の番組を見てみると、面白いものが手に入ったから放送している印象がぬぐえなかった。
  • タクシー車内の映像だが、あの程度の内容で公益性・公共性があるという主張には違和感を持った。ただ、今回はこの問題で大きな議論が起きたことを放送局に理解してもらうことでいいと思う。
  • たまたま手に入った車載映像を各局がそろって使用し、タクシー会社からやめてくれと言われるとすぐやめるということに、一言で言えば「安易だ」と感じた。
  • タクシー車内というプライベートな空間の映像の使用について若干疑問は残るが、報道の公共性との兼ね合いからいうと放送倫理違反とまではいえないのではないか。
  • 集中豪雨的な報道はどうかとも思ったが、タクシー車載映像や電話インタビューの使用の是非を論じると、警察発表以外の独自取材を制限してしまうことにもつながりかねない。ASKA氏が法的手段を取ると表明しているのなら、それを見守るほうが良いのではないか。

3. 番組内での乳酸菌(ヨーグルト)の「ステルスマーケティング疑惑」が報じられたIBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅』を討議

IBC岩手放送の『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』(2015年9月21日放送)で、専門家の説明を交えて、ある乳酸菌を摂取していると免疫力を高める効果がある、という内容の放送をしたが、一部週刊誌で、これが「広告」であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」ではないかと指摘された。
この番組については、2015年11月の岩手放送の番組審議会で議論され、議事録によると、出席した局の幹部から「乳酸菌の扱いについては有料のタイアップである」という説明があった。しかし、2016年12月、岩手放送は、ホームページで番組審議会での説明に一部事実誤認があり、この番組がタイアップで制作されたものでないと訂正した。
当該局から提出された報告書によると、「この放送に関して、乳酸菌の商品を製造販売する企業から金銭が支払われことはなく、乳酸菌は健康情報の一つとして取り上げた。番組審議会では、委員からの厳しい質問に対して、局の出席者は思い込みによる誤った説明をしてしまった」ということであった。
委員会の議論では、「当該局はステルスマーケティングを否定しているが、乳酸菌の説明のくだりは唐突で番組の一部のように見えなかった」「番組審議会を軽視しているのではないか」などの厳しい意見が相次いだ。しかし、「この番組に対する番組審議会委員の対応は、素晴らしかった。今後、番組審議会の動きを見届けてみたい」との意見もあり、放送局の自主・自律の観点から、当該局の番組審議会や民放連の動きも見守りたいとして、次回の委員会で討議を継続することになった。

4. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

検討を続けてきた委員会発足10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から、出席者や内容が固まり、開催日が3月22日(水)に決定したことが報告され、了承された。

以上