2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見の通知・公表
上記の委員会決定の通知は、2月7日午後2時45分から、千代田放送会館7階のBPOの第1会議室で行われた。委員会からは川端和治委員長、升味佐江子委員長代行、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員、藤田真文委員が出席、一方、放送局を代表して日本民間放送連盟とNHKから合わせて4人が出席した。
まず川端委員長が「通例とは異なり、今回は個々の番組を対象に審議をしたわけではない。昨年は参議院議員選挙と東京都知事選挙という二つの大きな選挙があり、この二つの選挙のテレビ放送に関して視聴者や活字メディアからさまざまな意見や批評があった。このためいくつかの放送を視聴して、委員会として意見を述べる必要があると考えた」と決定を出すに至った経緯を説明したあと、意見書の要点を解説した。続いて升味委員長代行が「最近の選挙で投票率が下がっていることに危機感を持っている。政治的選択が少数の人で行われるのは良くないので、わかりやすく視聴者が興味を持てるような多様な放送に努力してほしい」と要望し、斎藤委員は「ジャーナリストだからわかる争点を、この決定に書かれている自由を生かして、放送局は有権者にもっと提示していい」と述べた。さらに渋谷委員は「選挙は国民が主役になる唯一の機会だ。選挙は難しいと現場が考えて萎縮しているのではないかと感じることがあるが、最高裁判決などを踏まえたうえで、自ら考えて自由に放送してほしい」と述べ、また藤田委員は「放送局には選挙に関する報道と評論の自由があるにもかかわらず、放送局が自縄自縛に陥っていると思うことがある」と指摘した。これに対して民放連は「決定の内容を全加盟社に周知する。決定は、我々に対するお叱りと同時に励ましでもあると受け止め、国民が主役になるために必要な情報をバランスよく伝えていきたい」と述べた。またNHKは「選挙放送に対する委員会の期待を、現場の記者やディレクターにしっかり浸透させることで、公平・公正で視聴者に役立つ報道を続ける」と述べた。
このあと、午後3時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には26社60人が出席した。
初めに川端委員長が意見書について「前半は、制作現場が公平・公正について窮屈に考えているのではないかと思い、公職選挙法と放送法をわかりやすく解説した。また後半は、昨年の選挙の放送に則して意見を述べた」と説明し、「必要なことは質的な公平性で、選挙の争点の指摘や事実関係のチェックなど、国民に必要な情報を提供することは放送局の責務だ」と指摘した。続いて升味委員長代行が「何が公平かを各放送局が自主・自律で決めることは現場にとり大変だと思うが、選挙に行きたいと思うような放送をもっとしてほしい」と述べ、斎藤委員は「最近のジャーナリズムに議題設定機能が欠けているのではないか。プロのジャーナリストとしての取材と見識に基づいて、何が重要な争点かを放送局が提示してほしい」と要望した。渋谷委員は「横並び意識で無難に番組を作るのではなく、自ら汗を流し、何ができて何ができないのかをよく理解したうえで、広大な自由の領域を生かした放送をしてほしい」と、また藤田委員は「政党や候補者が実現できないような公約を述べたり、虚偽の事実で対立候補を批判したりした時に、それが言いっぱなしになって事実関係を検証しないと、選挙の公正が害される」と、それぞれ意見書に込めた考えを述べた。
記者との主な質疑応答は以下のとおりである。
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Q:選挙の放送量についての議論はしなかったのか?
A:放送量の検証はしなかったが、安全な放送だけをしようと考えて放送量が減ると、困るのは視聴者だ。視聴者に必要な情報を提供するのはメディアの責務だ。(川端委員長) -
Q:2014年に自民党が放送局に出した「選挙時期の報道についての要望」や、停波の可能性に言及した総務大臣の発言は、考慮したのか?
A:我々の役割は具体的な番組に即して意見を述べることだ。そのために必要な事項は考慮するが、番組から離れた抽象的な議論はしない。今回は、あくまでも昨年の二つの選挙をめぐるテレビ放送を踏まえて、この意見書を作った。(川端委員長) -
Q:放送法の趣旨に照らして、今は放送局のあり方も問われていると思うが?
A:放送の影響力が大きいから放送法があるのだが、放送法が作られた際には、放送の自由がなかった戦前の結果を繰り返してはならないという痛切な思いがあった。そのため権力が放送内容に介入するのではなく、放送局が自らを律することが一番いいと考え、放送法では、放送局の自主・自律の規範として番組編集準則を置き、各放送局が自律的に番組編集基準を定め、番組審議会がそれを審議するという仕組みを作っている。総務省と我々の見解が異なっているが、番組内容に法的な規制が必要だという動きがある中で、自主・自律がもともとの精神だということを思い起こしてほしい。(川端委員長) -
Q:メディアが選んだ情報を視聴者が受け取るのではなく、自分から興味のある情報を取りに行くネットとの関係については?
A:ネットの世界は「ポスト・トゥルース」の領域と言われている。何が真実かを見極める能力があるのはメディアで、その役割はますます重要になる。(川端委員長) -
Q:意見書にある「挑戦的な番組」とは、どういうものか?
A:候補者が言っていることを客観的に伝えるだけでは面白くない。一歩批判的に踏み込む姿勢があってもいい。紙に書いた選挙公報と同じものが画面に流れるだけでは、チャレンジ不足だと思う。(升味委員長代行)
A:例えば、選挙期間中に立候補者をスタジオに呼んで意見を戦わせることを公職選挙法は禁じていない。(藤田委員) -
Q:具体的にどう改善したらいいのか?
A:なにか基準を出した方が現場は楽だという考え方はあるが、基準は私たちが決めるのではなく、放送人の職責として自主・自律に基づいて番組を作ってほしいと期待している。(升味委員長代行)
A:マニフェストを精査して質問することをやっていないのではないか。本当の争点が隠されているのではないかという個人的な印象を持っている。(渋谷委員)
以上