放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2017年度 第65号

「都知事関連報道に対する申立て」に関する委員会決定

2017年7月4日 放送局:フジテレビ

見解:要望あり(少数意見付記)
フジテレビは2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑を取り上げ、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を伝えた。放送2日前の早朝に取材クルーを舛添氏の自宅・事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
この放送について、雅美氏と未成年の長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。2人の子どもは家を出て登校する際に1メートルくらいの至近距離からの執拗に撮影されたと肖像権侵害を訴え、雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。
委員会は、審理の結果、子どもに対する肖像権侵害は認められないと判断した。また、雅美氏による抗議の放送場面は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当であるとし、その検討結果として、映像の順序を入れ替えたり途中の一部をカットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまではいえないと判断した。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられるとした。
また、取材方法については、公共性・公益性の高い問題である以上まずは取材依頼をするべきであったし、取材の際に被取材者の言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかったとした。
委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を真摯に受け止め、指摘された点に留意し、今後の番組制作に活かすよう要望した。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見が付記された。

【決定の概要】

フジテレビは、2016年5月22日放送の『Mr.サンデー』において、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金の私的流用疑惑を取り上げ、この中で舛添氏の政治団体が、夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃を支払っていた問題を伝えた。放送2日前の早朝にカメラクルーが舛添氏の自宅・事務所前で雅美氏を取材し、番組では雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様などを放送した。
この放送について、雅美氏と長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。二人の子どもは取材の際に1メートルくらいの至近距離から執拗な撮影をされ衝撃を受けたとして肖像権侵害を訴え、また、雅美氏はこうした子どもの撮影に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、事務所家賃に関する質問を拒否したかのように都合よく編集して放送されたために名誉を毀損されたと主張している。また、取材依頼なしでの取材、子どもの登校時にあわせた早朝の取材、子どもの撮影をやめるよう求めたのにフジテレビが答えなかったこと等につき放送倫理上の問題があったと主張している。
委員会はこの申立てを審理し、大要、次のとおり判断した。
二人の子どもの撮影は、フジテレビによる雅美氏の取材の際に、いわゆる映り込みとして生じたと考えられる。政治資金流用疑惑のある家賃支払先の会社代表者である雅美氏を取材することには高い公共性・公益性が認められ、子どもの撮影は、そのような取材に伴う付随的撮影として相当な範囲を超えるものではないから、二人の子どもに対する肖像権侵害は認められない。
雅美氏による抗議を放送した部分は、政治資金流用疑惑のある家賃関係の質問に対して雅美氏がキレて怒った印象を視聴者に与え、雅美氏にマイナスイメージを与える。しかしながら、社会的評価の低下をもたらす具体的事実は摘示していないし、実際の映像を放送したにすぎないといった事情から、この点は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当である。
そのうえで、この部分につき放送倫理上の問題を検討すると、同放送部分は、雅美氏が実際には子どもの撮影に対して抗議をしたのに、家賃問題に関する質問に対してキレたという誤解を視聴者に与えるものである。ただし、映像の順序を入れ替えたり映像の途中を一部カットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまでは言えない。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられ、フジテレビは、本決定の指摘を真摯に受け止めて今後の番組制作に活かすよう要望する。
取材方法に関しては、早朝に取材を行ったことに特に問題はないが、取材依頼を試みることは通常の取材手続きとして重要かつ基本的なことであるうえ、本件は政治資金流用疑惑という公共性のある事項についての取材であったから、仮に事前に取材を申し込んでも十分な対応は期待できないと判断したとしても、事前に取材依頼を試みるべきだったと考えられる。また、取材の際に被取材者からの言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかった。これらはいずれも放送倫理上の問題まで生じさせるものではないが、フジテレビがこれらの点に改善の余地がなかったか検討し今後の番組制作に活かすよう要望する。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見がある。

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2017年7月4日 第65号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第65号

申立人
舛添雅美および同人の長男、長女
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『 Mr.サンデー 』
放送日時
2016年5月22日(日)午後11時~午前0時15分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.人権侵害に関する判断
  • 2.放送倫理上の問題に関する判断

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年7月4日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年7月4日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後2時25分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの