放送人権委員会

放送人権委員会 委員会決定

2021年度 第77号

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2022年1月18日 放送局:NHK

見解:問題なし(少数意見付記)
NHK宮崎放送局は2020年11月20日の『イブニング宮崎』で、男性2人が死亡した宮崎市内の住宅火災の続報として、放火殺人の可能性があり、2人の間に「何らかの金銭的なトラブル」があったかのように伝えた。これに対し、被害者の弟が、兄にも原因の一端があったとの印象を抱かせるものであり、兄の尊厳を傷つけたとしてNHKに対し謝罪を求める申立てを行った。NHKは取材を基に客観的な事実を伝えていると反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 委員会は、以下のとおり、本件放送には人権侵害も、放送倫理上の問題もない、と判断する。
 まず、申立人は本件放送について、事件の被害者である兄にも非があるかのような「何らかの金銭的なトラブル」という表現を使ったことなどで兄の名誉を毀損し、ひいては申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)をも侵害した、と主張している。
 しかし、「何らかの金銭的なトラブル」は、それ自体を単体でとらえれば申立人のような受けとめもできようが、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、それ以外の部分を含め一般的な視聴者の普通の見方をすれば、本件放送が全体として社会的評価を明らかに低下させるわけではない。
 「何らかの金銭的なトラブル」に言及したこと自体も、当事者である兄と容疑者がすでに死亡しており背景がつかみにくい状況で、複数の捜査関係者への取材で一定の裏づけをとったうえで警察の見方として伝えており、また兄と容疑者の関係性や放火の動機につながる情報を警察がどう認識しているかは報道の一要素であるため、不適切とはいえない。
 そして、2人が死亡した火災が事故ではなく、放火殺人事件である可能性が強まったことを報じる本件放送には、高い公共性があり、その目的にも十分な公益性がある。
 以上の事情を総合すると、きわめて不可解、残酷な形で突然、肉親を失った申立人の大きなショックを考慮しても、本件放送は許容限度(受忍限度)を超えて申立人の敬愛追慕の情を侵害してはいない。
 申立人はまた、「何らかの金銭的なトラブル」という表現をめぐる放送倫理上の問題として、①兄にも非があると示唆すること、②遺族である申立人はまったく聞いたことがないのに、警察への取材に依拠し、申立人に確認をせず放送で使用したこと、を主張している。
 しかし、①については、すでに指摘したように本件放送を全体として見れば、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、②についても、兄と容疑者がともにすでに死亡していること、複数の捜査関係者への取材で確かめたうえで、両者間に「何らかの金銭的なトラブル」があったという警察の認識として伝えていることなどから、放送倫理上の問題があるとはいえない。
 ただし、一般論として、「トラブル」のように、立場や文脈や視聴の仕方により多様に受け取られる可能性のある言葉は、事件報道の常とう句、決まり文句のようなものとして安易に用いることのないよう、留意する必要があろう。

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2022年1月18日 第77号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第77号

申立人
宮崎県在住の男性(事件被害者の弟)
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『イブニング宮崎』(宮崎放送局ローカルニュース)
放送日
2020年11月20日
放送時間
午後6時10分~7時のうち番組冒頭約2分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)の侵害
  • 2.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2022年1月18日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2022年1月18日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2021年度