意見交換会(沖縄)概要
◆概要◆
青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。その活動の一環として、沖縄地区の放送局関係者との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、6月6日にRBC4階ホールで「意見交換会」を開催しました。沖縄地区では初めての開催であり、14時から17時30分まで、活発な意見交換が行われました。
BPOからは、汐見稔幸・青少年委員会委員長(白梅学園大学学長)、小田桐誠・同委員(ジャーナリスト)、川端裕人・同委員(作家)と三好晴海・専務理事が参加しました。放送局側の参加者は、NHK、琉球放送、沖縄テレビ、ラジオ沖縄、FM沖縄、琉球朝日放送の各連絡責任者、制作・報道・情報番組制作者など36人です。
意見交換会は2部構成で行い、第1部では、三好専務理事から「BPO発足の経緯と役割」、事務局からは「青少年委員会が公表した『見解』など」について説明しました。
第2部では、(1)沖縄の抱える諸問題、(2)取材における子どもへの影響や人権への配慮、(3)報道番組や情報番組・バラエティー番組の制作上の悩みなどについて、委員と参加者が意見交換しました。
◆意見交換の概要◆
(1).キー局との"温度差"について
- 【委員】"基地問題"など、沖縄特有の問題に関する報道について、地元の放送局とキー局との"温度差"を感じることはあるか?
- 【放送局側】
- 基地問題について、キー局側から「偏っているのではないか」と言われることがあるが、決して偏っているのではなく、沖縄県民の目線で感じていることを発信しているに過ぎない。全国目線での報道に加え、現地目線での報道をすることで、全国的な報道の中立が保たれているとも感じる。
- 沖縄の基地問題はイデオロギーの問題である一方、身近な生活の問題でもある。"誰が悪い"というスタンスではなく、今後とも丁寧に取材していきたい。
- 基地問題については「賛成派」「反対派」と単純に分けることはできない。地域住民、親戚等との軋轢などから、長い時間を経て「賛成」の立場に転じることになった人など、様々な背景がある。地元放送局として、そういった人々の心情や歴史を踏まえた、丁寧な報道をしていきたい。
- 視聴率が取れないとの理由で、沖縄のニュースを全国ネットで取り上げてもらえない気がする。沖縄の放送局が全国に伝えなくてはいけないことはたくさんあるので、どう伝えるかを模索している。
- 【委員】キー局などとの"温度差"を気にしすぎて、沖縄の放送局が自主規制に走ってしまうことが怖いと感じた。沖縄の人々が生活感覚として、基地がなくなることを望んでいるという情報はキー局もほしがっていると思う。情報を発信し続けてほしい。
- 【放送局側】
- まるで風物詩の映像を求めるように、一部の若者による"荒れる成人式"の映像をキー局から要求されることがある。他県の厳粛な成人式の映像を放送した後、「一方で沖縄は」との論調で使われており、沖縄の若者に対する悪いイメージが作り上げられてしまう。
- 沖縄については、高い離婚率や低い所得など、極端な悪いデータが示されることが多い。沖縄には誇るべきこともたくさんあり、これらを放送で示していくことも大事だと考えている。
(2).沖縄のラジオについて
- 【委員】沖縄のラジオ局は独特の存在感を出していると聞いている。実状を教えてほしい。
- 【放送局側】
- ラジオを時報代わりに聴いている中小の事業所が多いなど、沖縄には働きながらラジオを聴く慣習がある。また、鉄道がないことから車文化が発達しており、カーラジオが普及している。さらに、台風などの災害も多く、幼少時から停電対策などでラジオを聴く環境にある。
- 当社の番組では、30~40代のパーソナリティーが中心となり、沖縄方言「うちなーぐち」で放送をしているが、年配の聴取者からイントネーションが違っているなどの苦情がくることがある。「うちなーぐち」は、地域によっても異なる。ラジオは正しい方言やアクセントを伝える一つのツールでもあり、青少年にどのように伝えていくか悩ましい。
- ポッドキャストを利用した聴取環境が整ってきている。また、観光などで沖縄に来た際に、レンタカーでラジオを聴いて、沖縄のラジオ局のファンになったとの声が寄せられることもある。そこで、当社では、全国の聴取者を意識した放送を心掛け、「うちなーぐち」での発言については、必ず解説するようにしている。
(3).青少年への配慮についての実例(子ども情報の取り扱い)
まず、2013年3月に暴風雪に巻き込まれ、父親(凍死)に抱きかかえられて、命を取り留めた北海道の小学生に関する報道について、事務局から報告した後、意見交換を行いました。
この報道については、2013年10月に開催した「意見交換会(札幌)」で、委員から、被害者である少女への直接インタビューの必要性について質問があり、参加した各放送局からは、記者と被害者の信頼関係の重要性や、報道により防災体制が整備されたことなどが報告されています。また、一部の委員からは、子どもがインタビューの対象となった場合、事件直後のハイテンションな状態でインタビューに応えたとしても、その後に極端なパニック状態に陥ることがあるので、子どもへのインタビューには賛成できない旨の意見がありました。(詳細は『意見交換会(札幌)概要』参照)
- 【委員】
- ショッキングな事件などを近くで見た子どもがいれば、当然、取材する側は事実を直接聞きたいと考えるだろう。一方、取材された子どもは一生懸命答えるが、成長したときに、「なんで話してしまったのだろうか」「本当の気持ちだったのだろうか」と悩むことがある。思春期手前の子どもは特にそうで、話した自分を責めてしまうこともある。難しい問題でケースバイケースの判断が必要だが、このようなこともあり得るとの見識を持って取材に臨むことは必要だろう。
- 年齢などにより、取材方法も変えていく必要があろう。映像の使い方も色々と考えるべきことがあると思う。原則としてきっちりと取材した後に、伝え方を慎重に考えることが大切ではないか。インターネットも発達しており、想定外の事態もおこりやすい社会環境にあることにも留意すべきだ。
- 刺殺された少女の遺体が衣服を身に着けない状態で発見された事件があった。最近、容疑者が逮捕されたが、その際の報道で、「当時、少女が衣服を身に着けない状態で発見された」旨の情報が本当に必要だったのか、表現も含め、今一度考えるべきだろう。私は"死者の尊厳"もあると考える。特に青少年関連の報道については、そのときそのときに悩みながら配慮し、解決していくしかない。
- 【放送局側】
- 沖縄では青少年が集団飲酒を行って補導されることがあるが、報道した場合、模倣のおそれもあることから、慎重な判断をしている。
- のどかな田舎で暮らしている家族を紹介するドキュメンタリー番組を制作した際、その家の男児(当時3歳ほど)の性器が一瞬映り込んだカットがあった。おおらかな暮らしぶりを描いたつもりだったが、結局、放送直前で再編集することとした。
- 【委員】青少年委員会では、視聴者意見や、社会的な「児童ポルノ」に対する考え方も勘案して、2008年に「児童の裸、特に男児の性器を写すことについて」という注意喚起を出し、テレビ番組制作にあたっては、ほかの表現方法がないかなどを慎重に検討するよう求めている。
- 【放送局側】沖縄では、ネグレクトなどの児童虐待やドメスティックバイオレンスの問題が深刻な課題だと感じている。しかし、当事者への配慮や周囲への影響を考えると取材が非常に難しく、課題を認識しながらもなかなか取材に踏み切れない。
◆まとめ◆
最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「人々が本当に平和で幸せに暮すために、どういう番組作りや報道をすればいいのか、時代の流れを鋭く感じ取る嗅覚を持ちながら、自信を持って仕事していただきたい。また、沖縄が抱える子どもの学力や貧困の問題についても、大いに取材・議論し、沖縄が進むべき道を提案していく責務があると考えている。"沖縄は新しい道を歩み始めた"と感じさせるような番組を作っていってほしい。青少年委員会は、未来を担う子どもたちや若者たちを励ますために、どのような番組が必要なのかを考え続けたいと思っているので、今後ともこういった機会を通じて意見交換したい」との感想があり、意見交換会を終えました。
以上