青少年委員会

青少年委員会 意見交換会

2016年6月8日

意見交換会(新潟)

◆概要◆

青少年委員会は、言論と表現の自由を確保しつつ視聴者の基本的人権を擁護し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与するというBPOの目的の為、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たすという役割を担っています。今回その活動の一環として、新潟県の放送局の皆様との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、6月8日の15時から18時まで、新潟放送の会議室で「意見交換会」を開催しました。新潟地区では初めての開催です。
BPOからは、汐見稔幸・青少年委員会委員長(白梅学園大学学長)、大平健・同委員(精神科医)、緑川由香・同委員(弁護士)と三好晴海・専務理事が参加しました。放送局側の参加者は、NHK、新潟放送、新潟総合テレビ、テレビ新潟、新潟テレビ21、エフエムラジオ新潟、新潟県民エフエムの各連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など29人です。
会合ではまず、委員から、事前に視聴・聴取した地元制作番組についての感想が寄せられました。続いて、緑川委員から、表現の自由と放送法の解釈について解説がありました。また、三好専務理事からは、放送業界を巡る法規制の歴史や現状、BPOの役割などについて説明がありました。
その後、(1)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮について、(2)18歳選挙に向けて、(3)地域におけるラジオの重要性、などについて、活発に意見交換しました。

【地元制作番組を視聴した委員の感想】

  • 『~にいがたすむひと 人生の転機~』(NHK新潟)は、地元で活躍している一般の方が、人生の次のステップをどのように開いていったかを紹介する内容で、興味を持って視聴した。新潟在住の人が見れば、とても身近にも感じられるし、地元だけではない、誰もが共感できる部分を見つけられる良い番組だと思った。
  • 『にいがた偉人伝』(新潟放送)を視聴したが、新潟だけではもったいない番組だと感じた。新潟県に関わる何かを成し遂げた人を分かりやすいだけではなく、面白く紹介している。感受性のある子どもたちは興味を持って見ると思う。
  • 『ネギStyle』(FMラジオ新潟)は、新潟県を地盤に活動するアイドルグループのNegiccoがパーソナリティーを務める、懐かしい感じのラジオ番組だった。取り上げる話題も身近なことが多く、青少年も無理なく入っていける内容だろう。『Rafvery学園』(FMラジオ新潟)も学生向けの番組だが、「不得意なことをどう克服していくか」をリスナーと同じ目線で伝えている。懐かしくもあるが新鮮な内容だった。
  •  長岡市とホノルル市の中学生同士の交流を描いた、『長岡・ホノルル平和交流の軌跡』(新潟総合テレビ)を視聴したが、このような交流が行われていることも、長岡の花火に戦死者に対する鎮魂の思いが込められていたことも今まで知らなかったので、感銘を受けた。ぜひ全国放送してほしい内容だ。
  •  新潟出身のタレントであるヤンさんがMCを務める、『ヤンごとなき』(新潟テレビ21)を視聴した。地元にある面白いことを再発見していくことは、地域作りのためにとても大事なテーマだ。県外の人が見たらどう感じるのかも見てみたいと思った。
  • 『Bon Repos! Soleil』(新潟県民エフエム)を聴取した。私はもともと"ながら族"で、ラジオを聞かないと勉強できなかったというタイプだ。久しぶりに放送を聞きながら仕事をしたり、運転したりしたのだが、気持ちよくしてくれる番組だという印象を受けた。パーソナリティーの表現がとても良く、運転している人に対する配慮を感じた。相当考えて、丁寧に作りこまれていることがよく分かった。
  • 『夕方ワイド新潟一番』(テレビ新潟)は、一日の終わりにゆったりとくつろげる、ご飯と味噌汁のような番組だと感じた。東京ではくつろぎたい時間帯の放送が少しやかましく、興奮をかきたてるような番組が多いが、この番組は穏やかなニュースを主体に構成してあり、地元で暮らすことの良さがでている。
  • 『大追跡~心を震わせた新潟 あの瞬間~』(テレビ新潟)は、新潟で起こった出来事を通じて、日本史から世界史まですべて見えてしまうような、非常に程度の高い歴史番組だと感じた。本来、歴史は自分の等身大のところから学んでいかなくてはならない。学校の授業で見せたら、無味乾燥な歴史の授業から子どもたちが解き放たれると思う。

【表現の自由と放送法の解釈】(緑川委員)

自民党に所属する国会議員らの会合で、「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番」などという趣旨の発言があったことや、『クローズアップ現代』(NHK総合)に対する総務大臣の文書による厳重注意などがあったこと、また、高市総務大臣が、衆議院予算委員会において放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて電波を停止する可能性に触れる旨の答弁がなされたことなどの経緯から、メディア関係者の中で、表現の自由と放送法への意識が高まっている。こうした一連の動きについては、今回の意見交換会での事前アンケートでも、各社が危機感を持っていることが見受けられた。
通説的見解や判例を踏まえて放送法4条を見ると、倫理規範であると考えるのが一般的だ。仮に法規範と考えるとすれば、憲法違反と考えざるを得ない。民主主義社会では、私たちが民主政治において適切な判断ができるために、情報を知ることが大切であり、そのためにも表現の自由の制約は限定的でなければならない。
放送法4条の1号(公安及び善良な風俗を害しないこと)や2号(政治的に公平であること)を理由として権力側が表現を規制できるのかという点については、どちらも抽象的な内容であり、表現を制限する根拠としては広範すぎる。こうした内容の条文で規制をかけることができるとなると、表現の自由に広範な規制をかけることができるので、憲法21条に違反すると言わざるをえない。ある表現が、一見して政治的に公平なのか、公序良俗に反しているのかなどは分からない。このような条文では番組制作者は萎縮してしまう。だからこそ4条は自ら適正な放送をするための倫理規定と解釈しないと憲法違反になってしまうと言われている。
放送法は権力者が放送を制限する構造とはなってない。あくまでも報道、表現の自由を守るためにメディアが自律的に対応する構造となっており、この流れの中で、BPOも設立されたと考えている。
以上のように、法律の構成について考えることも大事だが、法律論争に終始してしまってもいけないと思う。放送事業者が報道の自由を守るための自律性を考え、実現する必要がある。そのために、市民から信頼される番組を作ることが重要だ。BPOは自律性を確保・維持するためにある。これからもBPOが上手く機能して、放送の自律を守っていく必要があろう。

【意見交換の概要】
●=委員、○=放送局出席者

(1)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮について

  • ○ 2011年に長岡高専の敷地内で男女2名が倒れており、女生徒がまもなく亡くなった事件があったが、五月雨式に情報が出てきたため、どのように報道すべきか悩ましかった。その時点では自殺なのか心中なのか殺人なのかも不明であり、学校名を伝えるべきなのかなど、報道にあたり留意すべき要素がたくさんあったため、その都度情報を整理し、慎重に判断した。
  • ● 子どもの取材についての明確な基準はないし、拙速に作るべきではないと私は思っている。原則として、視聴者は事件の背景などを詳しく知りたいと思うので、裏をとったうえで、子どもの意見なども伝えていくことは原則だ。しかし、取材相手が子どもだった場合、その場では報道陣の期待に応えようとして何かしらを話したとしても、数年後に「どうしてあのようなことを話したんだろう」と苦しむことがある。視聴者が知らなくても問題がない部分については、"未来の子どもの人権"まで考えつつ判断してほしい。何歳からインタビューしていいとは決められない。ケースに応じてその都度慎重に判断すべきとしか、今のところ言いようがない。
  • ● 子どもに取材する際の、保護者への許諾に関する各社の基準を教えてほしい。
  • ○ 社としての基準があるというわけではない。必要に応じて会社に確認しながら判断するが、通常、未成年が対象の場合には保護者の許諾をとる。
  • ○ ガイドラインがあり、事件・事故に関わる取材の場合、学校や保護者の許諾をとっている。一般の取材については高校生ぐらいから、保護者の許可がなくても取材している。
  • ○ 事件・事故に関する取材については義務教育の範囲内かどうかをひとつのラインとしているので、高校生に聞くこともある。放送にあたっては名札を写さないよう留意している。
  • ○ ガイドラインはない。事件の凶悪性や事件後の期間、葬式なのかなど、様々な要素で判断しているが、基本的には保護者に許諾を得てから取材している。祖父の許諾を得て取材したが、親から後で放送するなと連絡があったこともある。生きている事件を扱うので、報道人としての判断力を高める必要がある。
  • ○ マニュアルはなく、必要に応じて保護者の許諾を得ている。最近は事件・事故などではない普通の取材でも、子どもの顔を写さないようにしてほしいとの要望が多く、番組制作に苦慮している。
  • ● 深夜のラジオ番組に青少年のリスナーが電話出演する企画がよくあるが、電話出演に関して何かしらの基準はあるのか。
  • ○ 高校生くらいだと、わざわざ保護者の許諾を得るということはない。また、小学生・中学生から電話がかかってくるということはほとんどない。
  • ○ 事件・事故について子どもにインタビューした際の、子どもへの心理的影響とはどのようなものか。
  • ● 大人であれ子どもであれ、インタビューとは一種のコミュニケーションであり、それが快適なのか暴力的なのかということだ。覗き見気分でインタビューされると非常に傷つく。これがマスコミ不信の根底になっているのではないか。
  • ● 親が子どもをテレビにさらさない理由は2つある。漠然とした社会に対する不信感と、放送局に対する不信感だ。こうした気分が広範に醸成されており、取材拒否も増えている。キー局から大挙して取材に来ると、みなさんも側で見ていて気分が悪いと思う。取材は立場の強い人と弱い人との間のコミュニケーションである。その自覚がない取材者は、相手や周囲から嫌悪されるということだ。マスコミに崇高な理念があるとしても、人間性を大事に考えれば無理な取材はできないはずだ。取材は圧倒的に強い人と弱い人との間でのコミュニケーションだということを心の中に置きとめておいてほしい。
  • ● 大きな事件や事故があったときに、その映像を見せていいのかという視点から、青少年委員会は「『衝撃的な事件・事故報道の子どもへの配慮』についての提言」「子どもへの影響を配慮した震災報道についての要望」など、何度か意見を出しているが、放送局側としてはどのように受け止めているのか。
  • ○ 当社では新潟で起きた重大ニュースをまとめた番組を作ったが、新潟で起きた少女監禁事件を取り上げるかどうかについて、社内で非常に議論した。結局、新潟の人にとっては忘れることのできない重大な事件だが、少女は社会復帰しており、本人や周辺の人たちへの影響などを考えて取り扱わないこととした。
  • ● 報道される側のプライバシーと報道の自由の権利調整の問題だ。プライバシー権も重要な人権であり、相当な衡量が必要だ。
  • ● 若いときに微罪で逮捕された情報などでもインターネット上の検索結果に履歴が残ってしまうことがある。起訴猶予だった場合でも、逮捕された事実が情報として残ってしまい、その後の社会生活に影響を与えてしまうことがある。報道においても慎重な対応が求められる。近時、EUの裁判所では"忘れられる権利"が認められたと聞いているが、日本の裁判事例で、"忘れられる権利"という新たな権利として判断されたことはなく、従前のプライバシー権の枠組みの中で判断されている。

(2)18歳選挙に向けて

  • ● 7月の参議院議員選挙から、選挙権が18歳に拡大される。何かしらの啓発をしたり、番組や報道において留意したりしている点などがあれば教えてほしい。
  • ○ 日常のニュースを通じて伝えている。また、直接的ではないが、青少年からの質問を受け付ける企画で取り上げたこともある。
  • ● 選挙活動もできるようになるが、民法上は未成年のままである。未成年が公職選挙法に違反した場合であっても、少年法61条の対象であることに変わりはないので、意識しておく必要があろう。また、同じ高校3年生でも選挙権がある人とない人がいる。分かりにくい中での難しい対応となるだろう。
  • ○ ニュースや番組で取り組んでいるが、高校が取材に応じてくれない。私立高校は自校での取り組みなどを教えてくれることもあるが、公立高校への取材は特に難しい。先生たちが"政治的公平"を保つために事なかれ主義に陥っているように感じる。本音を引き出せていない状況だ。
  • ● 教育基本法には「良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない」とある。しかし、政党教育になってしまうことを避けるために、政治教育自体を避けているのが現状だ。取材が難しいのであれば、教育委員会に正式に申し込むべきではないか。

(3)地域におけるラジオの重要性

  • ○ ラジオの媒体力が年々低下していると言われているが、2004年の新潟県中越地震と2007年の新潟県中越沖地震以降、リスナーが増えていると感じている。ラジオにおける災害報道では、聴取者は今、情報が必要なのか、安心が必要なのかを考えることが大切ではないかと思っている。不安をかきたてるだけでなく、安心な気持ちを届けることも大切だ。何かがあったときに頼りにされる媒体でありたい。そのためには、いつも聞いてもらえる信頼できる媒体であることが必要である。ラジオは生放送が多く、災害などにも即時に対応できるし、そのための訓練も日々、行っている。
  • ○ 最近の中高生はラジオの聴き方自体を知らない。どうしたら青少年にラジオを聴いてもらえるのか、日々、悩んでいるところだ。市町村と組んでイベントを行う際や番組に、頑張って人気アーティストに出演してもらうなど、青少年に注目してもらうための努力を続けている。
  • ○  この冬、雪で長岡のバイパスが通れなくなった際に、その地域に住むおじいちゃんおばあちゃんから当社に電話があり、抜け道を教えてくれた。そういう情報をいただけるのは、放送やイベントなどを通じて、信頼感を得ているからだとあらためて感じた。

【まとめ】

最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「3つのお願いをしたい。一つ目は、子どもへの取材は"インタビュー"だと考えてほしいということだ。"インタビュー"は本来、相互に見解を述べあうという意味である。子どもへの聞き方、姿勢などにこちらの意見がにじみ出る。それによって子どもの意見は変わってくる。子どもの権利条約では、子どもを人間としてみることを前提としており、子どもを子ども扱いする時代は終わっている。子ども達と接するに際しては"インタビュー"が大切ではないかと考えている。
二つ目は、『日本では自由闊達に議論できる場が少ない』という課題があることを念頭に仕事をしてほしいということだ。活発な議論をしない民主主義は衆愚政治となる。常に議論してないと民主主義にはならない。そのための一翼をメディアが担っていることを忘れないでほしい。
三つ目は現在の子どもについて、研究・勉強する場を持ってほしいということだ。「なぜラジオを聴かないのか」は若者たち自身に聞かないと分からないだろう。また、最近の日本では、子どもたちに『レジリエンス』(精神的な回復力)が上手く育っていないために"引きこもり"が多いとの考えを示す研究者もいる。そういう若者たちに対してどういう番組を作っていくべきなのかは大きな研究テーマである。私のような、若者をどう育てようかと考えている人間と、マスコミの皆さんとが共通の問題意識を持つことが大事だと考えている」との感想があり、意見交換会を終えました。

以上