青少年委員会

青少年委員会 意見交換会

2015年9月29日

意見交換会(福岡)概要

◆概要◆

青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。その活動の一環として、在福岡放送局の皆様との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、9月29日にRKB毎日放送6階特設会議室で「意見交換会」を開催しました。福岡地区では初めての開催、14時半から18時まで意見交換が行われました。
BPOからは、汐見稔幸・委員長はじめ7人の委員全員と濱田純一・理事長が参加しました。放送局からは、NHK、RKB毎日放送、九州朝日放送、テレビ西日本、福岡放送、TVQ九州放送、エフエム福岡、CROSS FM、ラブエフエムの9局から、BPO連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など41人が参加しました。
意見交換会は2部構成で行い、緑川由香・委員の進行により、第1部では(1)BPOや青少年委員会に対する質問・要望、(2)地元制作番組を視聴した感想と課題、などについて意見交換しました。
第2部では(3)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮、(4)ネット情報の取り扱いについて、(5)ネットリテラシーを含むメディアリテラシーへの取り組み、などについて意見交換しました。

【第1部】

●=委員、○=放送局出席者

(1)BPOや青少年委員会に対する質問・要望

  • ○BPOの意義は理解しているが、最近すぐ視聴者がBPOへ訴えるということが多く、放送局側は萎縮してしまう。
  • ●たくさんの視聴者がいる中で、たったひとりの意見にでも現場はびびる傾向にある。しかし、満足している人は意見をよこさないものだ。あまり意識しすぎる必要はなく、テレビ・ラジオには王道を歩んでほしいと思っている。
  • ○ネットの盛り上がりと視聴率がリンクするかどうかは分からない。福岡ではネットで騒がれるような番組は無く、意識したことは無い。
  • ●BPOと言えば、権力からの直接的な規制を防ぐために自主規制を各局に求めているとの印象があるようだが、青少年委員会は少し違った形の活動もしている。個人情報やプライバシーの保護など世の中の価値観が変わってきているケースについては局側にあらためて考えてもらうことを求めているが、一方で、スポンサーの確保は難しいかもしれないが、青少年のためにいい番組が広がることを応援していきたいとも思っている。「見解」などを丁寧に読んでもらえれば分かるが、過剰な規制を求めているわけではない。また、明確な解決策はないが、批判が局に届くことで放送局が萎縮してしまうことについて模索する場を設けることも大切なことだと思っている。
  • 〇他の委員会に比べて青少年委員会は印象が薄い。視聴者が人生を変えることができるような良い番組をプッシュして存在感を出してほしい。
  • ●調査研究も青少年委員会の使命の一つなので、具体的に影響を受けた内容を局側に伝えられるように子どもたちの声を引き出していきたい。
  • ●中高生モニターが毎月のモニター報告の中でドキュメンタリー番組に感銘を受け千字以上も感想を寄せてきた。全力で作った番組は必ず伝わる。自信を持って制作してほしい。

(2)地元制作番組を視聴した感想と課題

各局から地元制作の青少年におすすめするテレビ・ラジオ番組が合計11番組寄せられ、委員が全ての番組を前もって視聴し、感想や意見などを述べた。

<提出された番組一覧>

  • NHK福岡放送局『きん☆すた』 ~祭りへGO!第二弾!~
  • RKB毎日放送『みんなの青春のぞき見TV TEEN!TEEN!』
    ~ピースさんぽ&早良高校水球部~
  • RKBラジオ『スマスマE-KIDS』 ~室見小学校の着衣水泳~
  • 九州朝日放送『アサデス。』
  • KBCラジオ『KBCラジオ特別番組「憲法で巡る日本の旅」』
  • テレビ西日本『華丸・大吉のなんしようと?』 ~中川家と直方市をぶらり!~
  • 福岡放送『ナンデモ特命係発見らくちゃく!』 ~天国からのラブソング~
  • TVQ九州放送『土曜の夜は!おとななTV』
  • エフエム福岡『小澤俊夫 昔話へのご招待 特別編~子どもの成長を見つめて』
  • CROSS FM『Challengeラヂヲ』
  • ラブエフエム『月下虫音』(げっかちゅうね)

【第2部】

(3)子どもが関わる事件・事故における放送上の配慮について

  • ●子どもが性的被害にあった場合や顔写真の扱いなど表現に関してと、子どもの取材において保護者の同意をどこまでとるかといったような取材時の配慮の2つに分類できる。
  • ○子どもへのインタビューにおける保護者への同意については、過去にトラブルがあった。それ以降、シビアな事件・事故についてはその場で保護者の同意を取り、いない場合には電話で確認を取るようにしている。トラブルを起こした時には、いくつものチェックポイントで見逃されてしまった。ただ、取材の現場がシビアに問題意識を持っていないとうまくいかない。
  • ○当社では原則として保護者に許可を取るようにしている。しかし現場ではなかなかうまくいかないことがある。取材後に「やはり出さないでほしい」と言われればもちろん出すことはしない。
  • ●課外活動の紹介でも、名札にモザイクをかけてほしいとの要望があったとアンケートにあったが。
  • ○悩むことが多い。ケースによって出す必要があるかどうか考えている。性的被害などについては、被害者の顔と名前を出した場合は被害内容に踏み込めない時もある。悩ましいのは、他局がどういう対応をしているかだ。柔道の授業中に大外刈で生徒が死亡した事故では学校名は出さなかった。この場合、各社で対応が分かれた。マニュアルはあるが、線で引いたように判断はできない。自殺した生徒の場合、その時は名前を出さなかったが、のちに卒業証書が渡される時に保護者から写真を出してほしいと言われたこともあった。
  • ○佐世保の事件の時には初動から取材したが、学校から保護者に取材を受けなくてもいいとの連絡があり、ますます周辺取材が過熱し長引いた。また、ネットでは既に被害者の名前などの情報が出ていた。当社は顔写真などを放送するのは控える判断をしたが、ネット上で容疑者関連の写真、情報が大量に流布しており、既存メディアの「配慮」が実質的にはあまり意味をなさなくなっていることをあらためて認識した。もちろんネットと放送で判断が違うのは当然だが、違和感もあった。ただ、性的被害についてはよほどの必要性がある場合以外は出さない。
  • ○性的被害について警察からは報道しないよう強い要請があったが、事件の再発防止には必要な情報だと判断し、遺族に対しても手紙でこちらの意図を伝えた上で報道した。遺族との信頼関係を作った上で報道に臨む姿勢が重要ではないか。
  • ○特に決まったルールがあるわけではないが、事案ごとに判断している。実名・匿名を判断するためにも取材が必要だ。公務員が性犯罪で逮捕された際に、その施設の外観映像を使うかどうかについて、被害者がいつまでいたのか、何人くらいいたのかなどの情報が無いと判断が難しい。三重県朝日町の事件では、容疑者が捕まっていない段階で警察がチラシを配ったが、被害者が匿名になっていた。
  • ●警察が情報を出さなくなっている印象があるが、どうなのだろう。
  • ○十数年前から警察は被害者の名前を出さない傾向がある。被害者から名前を出さないでほしいと要望があったからのようだが、ある社が「警察が発表したから」と答えたケースが引き金になったようだ。
  • ○福岡県警はまだ情報を出している方だ。交通事故の場所でさえ出さない警察もある。
  • ●海外では情報を出さないとそれがニュースになるのだが。
  • ●2013年、暴風雪の中、娘をかばいお父さんが亡くなった北海道暴風雪事件では、生き残った少女にインタビューが殺到した。視聴者からも報道の在り方に関して多くの意見が寄せられた。青少年委員会で各局に確認したところ、ある局は放送終了後も関係を継続していた。叔母が取材を許可していたが、少女も応援してくれた全国の人にお礼が言いたいという考えを持っていた。報道する意義があるかないか、ということと、本人や家族に対する取材側の配慮が大変重要だと考える。
  • ○深夜の学生向けの番組宛てに自殺予告のファックスが届いた。個人名は特定できなかったが、番組ナビゲーターが放送で思いとどまるように呼びかけ、翌朝、教育委員会を通して個人を特定し自殺を思いとどまらせることができた。ラジオはナビゲーターとリスナーの距離が近いので、おそらくナビゲーターに助けを求めたのだと思うが、どう対応すれば良いのか悩んだ。同じようなことが多発したらどうしようかと考え「命のダイヤル」の紹介をした。逆に犯罪予告などが来ることも考えられる。
  • ●やはり、番組のパーソナリティーと視聴者の距離の近さ、信頼関係が重要ではないか。今の青少年は本音を家族や友達にも明かせず一人悩んでいることも多い。放送がその中高生の心を開かせることに役立ち、相談窓口になるとすれば、素晴らしいと考える。ただ、メディアが信頼されていない現状もあり、それが取材の難しさに繋がっている。

(4)ネット情報の取り扱いについて

  • ●ネット情報の裏付けをどうしているか、ネット上のサイトを番組内で紹介することの影響について、の二つの論点が考えられる。
  • ●大人たちは知らない人が多いだろうが、今、学生たちの間では「はじめしゃちょー」がYouTubeでとても人気がある。「はじめしゃちょー」は見ている人たちの手の届く範囲の話題、日常的な話題を毎日アップしている。ネットとマスメディアの情報流通の質の違いを感じる。若者たちは、テレビよりYouTubeの方が面白いと感じているのだろう。時代の変わり目なのだろうか。マスコミもネットに依存しすぎている。現象を紹介しても「自分たちが作ったものでは無い」とのエクスキューズをしている。
  • ●ネット上の刺激的なサイトを紹介した番組について視聴者意見が多く寄せられたので議論した。紹介された映像がかなり過激だった。やったら危険だと思う映像もあった。こういった映像を現場でどう判断して放送したのか疑問が生じた。また、IS(いわゆるイスラム国)関連では、子ども番組を差し替えて報道特番にした時にも多くの意見が寄せられた。ISが発信する情報を使わざるを得なかった状況はあったし、速報性ももちろん大切だが、映像の与える衝撃性や信憑性の確認など、どの程度検討が加えられたか疑問だった。ネットは無法地帯であるので、放送する側が考えないといけない。
  • ●総務省の行なった"テレビとネット"に関する調査によれば、10代のテレビの情報への信頼度はネットに比べて相対的に高い。ネットの情報がテレビで取り上げられた瞬間に「格上げ」される。あそこまでやればテレビで取り上げられるんだと考える人もいるだろう。そういった状況であることを意識して扱ってほしい。
  • ○真実性の判断は各現場で行っている。ラジオではネットは重要な情報源だ。ラジオでは信頼関係が強すぎて、青少年の悩み相談になってしまっている面もある。近い人に吐露できない青少年から連絡がある。青少年の一生を変えてしまいかねない状況でもあり、スタッフの悩みも大きい。しかし、解決はできないまでも一端を担っているとの自負はある。
  • ○子どもはネット耐性があると思う。良い悪いは別として、ネットとテレビでは世界観が違う。幸い、担当番組では情報を検証する時間もある。

「インターネット上の情報や映像を番組で利用する際に配慮している点」について、事前アンケートに以下のような回答が寄せられている。

  • YouTubeなどの映像を使う場合には、担当者の部長の許可が必要。
  • インターネットには多くの嘘が書き込まれている。そのことを前提に制作にあたっている。基本的には裏付けのない情報は使用しない。また必要に迫られネットの発言を紹介する場合は、コメントで断定的な表現を避けるなど、配慮している。
  • サイトの情報はあくまでも参考か、情報をとる取っ掛かりとして認識している。その上でその情報を基に、最低でも3つ以上は別の情報ソースを探し確認する。またその情報ソースもできるだけ公の機関が出しているものを選択する。ネットや電話を介して、できるだけ人にも直接取材をし、情報の整合性を確認する。
  • ネット上の情報や映像をそのまま利用することはない。必ず権利者や情報発信者に確認と承諾を得た上で放送に使用している。ただし突発的な事件事故などで事後承諾をお願いしたケースは過去にあった。
  • 権利処理や情報の真贋確認はもちろんだが、あくまで"○○のサイトによる"というエクスキューズのテロップやナレーションを入れるようにしている。

(5)ネットリテラシーを含むメディアリテラシーへの取り組みについて

このテーマについては、メディアと法の関係を長く研究してきた立場から、濱田純一・理事長が話をした。
日本にメディアリテラシーという概念が入ってきた時には"メディアを批判的に読み取る"という文言から"文句をつけること"と理解され、放送局側からも目の敵にされた。それから比べると現在は放送局側も社会もこの概念をよく理解するようになった。法律的な観点から言えば、放送が与える影響が大きいから規制すべきだということになるが、メディアリテラシーが身に着けば少々変な情報を流しても大丈夫とのロジックも出てくる。
どういう形でメディアリテラシーが養われるかは広い目で考える必要があると思っている。各局の協力でテクニカルな面は理解が進んでいるが、それだけではないと思う。自分の周りにいる人たちが、メディアというものをどういう風に見ているのか、メディアが自分の身近なところにどういう風に関わっているのか、そういったところを見聞きすることから育ってくると思う。皆さんがお作りになった番組を視聴させていただいたが、身近なところを取り上げている。実はそのことが、子どもたちのメディアリテラシーを養っていくことに繋がっていくのではないかと思う。身近なところに視聴者がいると思って番組を作ることがメディアリテラシーに役立つことになる。それはメディアに対する「信頼」ということに繋がってくる。メディアを知ることにより「信頼」するようになる、そういう構造をどうやって作っていくかがとても大事なことだ。
ネット情報をメディアが伝える時に"どういう判断で伝えようとしているのか"が視聴者に分かるかどうかが、とても大切だと思う。自分たちの判断の基準、マニュアルを作るのは大切なことだと思うが、視聴者はどう受け止めてくれるのか、どう理解してくれるのかという視点を持つことが必要で、それもメディアリテラシーの一環として議論していく必要があると思う。

  • ●ネット上の議論では、メディアリテラシーという言葉が悲しいくらいに感じられない。「マスゴミ」という言葉を使う人は、きっとメディアリテラシーが低いのだろう。同時にマスコミの言っていることは100%正しいと思っている人もメディアリテラシーが高いとは思えない。その間で、どうしたら健全な疑問を問い続けられる心持ちを維持できるのか、考えさせられる。インターネットのメディアリテラシーとテレビのメディアリテラシーは根っこのところでは繋がっているのではと感じる。
  • ●青少年委員会の議論のスタートは視聴者意見だ。最近の視聴者意見の傾向として、ネットで煽られた人からの意見が一斉に寄せられることがあるが、当委員会では視聴者意見の量だけで判断しているのではない。ネット上で騒がれていることに惑わされることは無いので、局側は、過度に萎縮する必要はない。

【まとめ】

最後に、汐見稔幸・委員長からまとめの言葉があった。
局を超えて同じテーマで議論する機会は少ないと思う。これが良いきっかけになってくれればと思う。子どもを取材する時にどういう原則が必要なのかについて、こういう基準であらねばならないということではなく、ケースバイケースで対応しながら、これで良かったかどうかを吟味していくことが大切だ。
子どもの顔は出さないということが当たり前のようになっているが、あまり強くこだわらないでいただきたい。報道の自由は大切だし、事実はできるだけ正確に詳しく伝える必要がある。もちろん犯人が捕まっていないのに被害にあった人の友達を顔出しで取材することは慎んでいただきたいが、特に、ポジティブな場面で顔を映すことに対してあまり神経質にならないでほしい。3.11の際にはリアルな現場を報道しなかったが、過去の映像が恐怖を呼び起こすこともあるので、事前に注意文言を出すなどの配慮を求めたことがあるが、各局が積極的に協力してくれた。子どもが人間として育つことを支えている報道ということを考えると、子どもが関わる事件・事故を扱う時の難しさもあることを認識しておいてほしい。
ネットとの関係をどう作っていくかについては、まだ宿題だなと思った。今は、テレビがネットに押されている印象がある。私はネットで情報を見てもテレビでもう一度見たいとか、ドラマはテレビとか、バラエティーはやはりテレビと思っている。テレビはテレビでしかできない、ラジオはラジオでしかできないということがたくさんある。それぞれの強みを議論してほしい。
今日のキーワードは「信頼」だったと思う。「話す」は放すに通じる。「語る」は人と人が結びつくこと。今の時代「語る」文化が少なくなってきている。「語る」ことをしないと人と人が結びつかず、「信頼」も生まれない。ネットではできない「語る」ことのメリットをテレビやラジオは大切にして深めていってほしい。
青少年委員会は、どうあれば良いか模索のさなかである。問題がある時に指摘するだけでは他の委員会とあまり変わらなくなってしまう。視聴者との回路になること、視聴者が何を願っているかを掴んでいくこと、若い人が期待している番組を一緒に模索していくことをミッションとしている。例えば、一年間で一番感動したという番組を青少年たちに選んでもらって、ディスカッションしてみたい。また、今年は、高校生と直接議論する場も設けた。
これからも、青少年委員会に要望があればどんどん言ってほしい。叱咤激励してほしい。今日はありがとうございました。

以上