青少年委員会

青少年委員会 意見交換会

2015年11月24日

在京局担当者との「意見交換会・勉強会」概要

◆概要◆

青少年委員会は11月24日、「インターネット情報の取り扱いについて」をテーマに、在京テレビ各社(NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビ、東京MXテレビ)との「意見交換会・勉強会」を千代田放送会館で開催しました。本テーマについての会合は前回(7月28日)に続き2回目です。
今回は、砂川浩慶・立教大学社会学部メディア社会学科准教授をお招きし、同テーマに関するご講演をいただいた後、各局との意見交換を行いました。
各放送局からは、BPO連絡責任者、編成、報道、情報番組担当者など25人、青少年委員会からは汐見稔幸委員長ら7人の委員全員、BPOからは濱田純一理事長と三好晴海専務理事が参加しました。
司会役は川端裕人委員が務め、砂川准教授から、放送法や著作権法など、放送とインターネットに関する法律について解説いただいたうえで、(1)インターネット時代の放送倫理のあり方、(2)インターネット情報にどこまで配慮すべきか、(3)危険情報等への誘引懸念などを論点に、13時から16時まで活発な意見交換を行いました。
砂川准教授からは「日本の著作権法は世界的に見て権利者の保護という観点がとても強い。放送に際してはさまざまな権利処理が必要だ」「報道引用で許容される範囲は限定的である。引用部分とそれ以外の部分の"主従関係"が明確であること、"公正な慣行"に合致することなどの条件がある」など、インターネット上で入手した情報等を放送するにあたっての留意点について解説がありました。
また、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の知的財産分野では著作権侵害の非親告罪化についての交渉も進められている。仮に合意に至れば、権利者以外の提起が可能になり、テレビ局での利用も含めた、違法利用に対する監視が強まることになろう」「2010年の放送法改正により、放送の定義が『公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信(従前は無線通信)』の送信に変わった。インターネット業界側がある種の"お墨付き"を得るために、従来の放送型の規制を自ら求め、一般放送として認定されることも考えられる。そうなると、今、議論している『インターネット情報』が放送というカテゴリーの中で扱われることになるかもしれない」「インターネット業界では"忘れられる権利"についての議論が進みつつあり、判例も出始めている。放送業界でも考えていかなくてはいけないテーマのひとつになろう」など、現状のみならず、今後の見通しや課題も示されました。
そのうえで、「放送におけるインターネット情報の取り扱いは過渡期である。放送業界全体で事例や情報を共有することで、ある種のスタンダードを確立していくことを考えてはどうか」との提案がありました。

【意見交換の概要】
△=砂川准教授、●=委員、○=放送局出席者

  • ○ 権利処理に関してのノウハウを放送局は持っており、その面においてはインターネット企業よりアドバンテージがあると考えている。仮にインターネット企業が一般放送事業者化することがあった場合、インターネット上に溢れているさまざまな情報をどれだけ合法的に伝えることできるのかについては疑念がある。
  • ○ 当社では出所や権利関係がはっきりしない映像は利用しない。インターネット上の情報が面白いからといって簡単に使うということはない。これからもきちんとした情報発信をしていきたい。
  • ○ 情報の裏付けを取ることは当然だが、これだけたくさんの情報が溢れている中で、すべての情報について100%信頼できる裏付けを取ることは不可能に近い。当該情報を放送するリスクと情報の信頼性を考慮して、放送するか否かを判断することも考えられる。
  • △ そういった場合の各局の判断の参考にするために、とてもデリケートな問題ではあるが、放送業界全体で事例を集めることを考えてはどうか。現場での判断を積み重ね、業界全体で共有化を進めていけば参考になると思う。
  • ○ インターネットユーザーは、インターネット上でうわさになっていることが事実かどうかをテレビで確認していることがある。テレビでの情報は信頼されているようだ。
  • ○ 若い人たちはインターネット情報を信じきっているのではないかと思うことがある。砂川先生の"ネットリテラシーに放送局としても取り組むべき"との考えに同意する。
  • ○ ネットリテラシーについてはテレビがその役割を果たすべきとの考えか。
  • △ そういった点も含めて自社や放送業界内で議論してほしい。私はインターネットを通じて放送局のコンテンツを見る人が多くなっているからこそ必要な取り組みではないかと考えている。今までは放送局のコンテンツはテレビのみで見られていたが、PCやスマートフォンで放送局のコンテンツを視聴するなど、環境が変わってきている。インターネットについて"よその家の話"と言える状況ではなくなってきている。
  • △ 若い人たちがインターネットサイトを見て、インターネット情報だと思い込んでいるものの中には、実は、放送局が制作したコンテンツも含まれている。発信元のクレジットをもっと明確にするなど、ポータルサイトで埋没しないような仕組みが必要だろう。
  • ○ テレビで蓄積したノウハウや判断基準を基に、ネット情報も判断していくべきだ。私はネット配信のニュースを担当しているが、時系列で情報を積み重ねて、ニュースを深掘りできるような特設サイトを作るなどの取り組みも進めている。
  • △ アドバンテージを活かすことは視聴者にとっても良いことだ。大災害時の報道などはインターネットがすぐに代替できるようなものではない。今現在起こっている事実を切り取って構成する力はインターネットにはない。
  • ○ 茨城で起きた水害の報道の際は現地が停電しており、現地の住民はスマートフォンでニュースを見ていた。人命を守るうえで現状を伝えることが重要だとの判断から、地上派とは異なる判断でニュース配信を行ない、大きな反響があった。地上波で危険なシーンを放送すると判断するには、それなりの時間を要すると思う。
  • ● 放送局のコンテンツのインターネットへの配信はビジネスとして確立されているのか。
  • ○ 利益があるような状況ではないが、さまざまなデバイスを通じてさまざまな人に情報を伝えていく展開を考えていきたい。
  • ○ 情報を無料だと思っている人が多いことが悩ましい。洗練されたしっかりした情報を出すにはマンパワーがかかることも理解してほしい。
  • ● 放送局の番組が動画サイトなどに無断でアップロードされていることが多々あると思うが、裁判を起こしたことはあるのか。また、放送番組の無断アップロードは違法行為である旨を視聴者にもっとアピールすべきではないか。
  • △ 海外の海賊版に関して、放送局が訴訟を起こしたケースもある。違法アップロードに費やす放送局の労力はとても大きなものになっている。
  • ○ 違法アップロードについては、民放連が「放送番組の違法配信撲滅キャンペーン」を行っており、有名俳優を使ったCMを各局で放送するなどの対応をしている。
  • ○ 若者がテレビ受像機を購入しない現状がある。テレビを見る手段を持たない人に放送局がどうアピールするかが課題だ。ハードが変わっていくことについて危機感を持っている。
  • △ 今の学生の中には動画投稿サイトに掲載される10分程度の動画に慣れてしまっていて、60分の長さの番組を見ることができない人もいる。10分で描ける世界もあれば、1時間、2時間ないと伝えられない世界もあることを若者に分かってもらう必要があろう。
  • ● 投稿動画など、インターネット上の映像を使って番組を作ることが多いことについて、BPOの中高生モニターから批判が多くあるが、どう考えるか。
  • ○ インターネット上の映像を使用している番組は確かに増えている。上手くショーアップできている番組は生き残れるだろうが、あくまでもインターネット上の情報や動画は番組作りの素材に過ぎない。志のない番組は淘汰されていくだろう。
  • ○ 海外の面白投稿映像などは供給元と独占契約を結べないケースが多く、複数の放送局や番組で使用することもあるので、既視感が生じているのかもしれない。
  • ○ 投稿動画などの真贋判断については確たる判断基準がない。ケース・バイ・ケースの判断を丁寧に積み重ねていくしかないだろう。
  • ● テレビは子どもたちにとって接触時間も長く、信頼度が高いメディアである。テレビがリーディングメディアとして、倫理性を示すチャンスでもあると考えてほしい。
  • ● 2000年ごろはメディアリテラシーに関する番組の放送が多くあったが、最近は見かけないので、ぜひ制作してほしい。

【汐見委員長まとめ】

最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「私たち委員も大変勉強になった。放送や新聞などの近代社会を作ってきたメディアが、新たなメディアに存在の根本を問われている状況だと思う。インターネットの発達により、個人でも簡単に情報を流せる時代だからこそ、放送局はこれからも強い使命感や倫理観、志を持ち続け、視聴者の信頼を確保してほしい。BPOとしてもそうした動きを応援していきたい」との感想があり、意見交換会を終えました。

以上