『放送人権委員会10周年フォーラム』(開催地:東京)
放送人権委員会は、1997年5月の委員会発足から丸10年を記念して「放送と人権~放送倫理の確立を目指して」をテーマに、『放送人権委員会10周年フォーラム』を12月5日、東京・千代田区の全国都市会館で開催した。全国の民放・NHKの放送関係者を中心に約250人が集まった。
第1部は竹田稔委員長による基調講演「放送による人格権侵害と放送倫理」。
竹田委員長は、特に表現の自由と名誉権やプライバシー侵害との調整について、「その報道が公共の利害に係り、公益を図る目的でなされ、報道された事実が真実であると証明されるか、もしくは真実と信ずるについて相当の理由がある場合は故意・過失はなく、不法行為は成立しない」とした昭和41年の最高裁判決が、表現の自由と人格権侵害の調整の法理として指導的に機能してきており、その意義は大きいと述べた。そのうえで、「放送はいまや国民にとって最も身近なメディアであり、その社会的影響力は極めて大きい。放送事業者は民主主義社会の基盤である表現の自由の担い手として、自ら社会的責任を全うするため、放送のあり方を問われている」と述べ、関係者の自覚を強く促した。
第2部は、「放送は市民を傷つけていないか」「取材・編集・OAに当たっての放送倫理」というテーマでのパネルディスカッション。読売新聞編集委員で長らく放送を担当している鈴木嘉一さん、ジャーナリスト江川紹子さん、NHK及び在京民放テレビの関係者らがパネリストとして出席し、放送人権委員会の三宅弘委員をコーディネーターに活発な意見交換を行った。
討議では、隠しカメラ・隠しマイクによる隠し撮りと、モザイクや顔なしインタビューの多用が大きな話題となった。この内、隠しカメラ・隠しマイクについては、原則的には使用すべきでないとしながらも、毎日新聞の「旧石器発掘捏造報道」や、大阪MBSによる「大阪市役所のカラ残業報道」のように、隠し撮りの効用を評価する声も多かった。そして、隠し撮りが不可欠なケースもあるのだから、「一切ダメ」というのではなく、取材をした上で、それをどう出すかをしっかり考えるなどフォローが重要だとする意見もあった。
また、最近は、事件や事故現場でのインタビューでも、モザイクや顔のない映像が多用されていることが問題となった。放送人権委員会は過去の事案で、対象者が被害を受ける可能性のある場合などは必要な手法の一つだが、安易な使用は報道の真実性を疑われることになり、原則としては避けるべきであるとする判断を示してきた。これについて、パネリストの間から「取材する側もされる側も安易にこの手法を受け入れており、いわば覚えてしまった状況にある」と現状を指摘する声があった。そして、NHKの「ワーキングプア」のように、顔出しの放送に結びつける取材者の努力が改めて求められるとの結論となった。