ドイツのテレビ自主規制機関FSFと交流
放送人権委員会は12月19日に開催された第322回委員会のなかでドイツの放送番組自主規制機関であるFSFとのオンライン交流を行った。
交流は、曽我部委員長とFSFミカット所長の間であいさつを交わして始まった。そしてまずミカット所長がFSFについて、ドイツの法律が定めるテレビ番組の青少年保護のための自主規制機関で番組内容によって放送時間を定めたランク付けを行っている。ドイツの民間放送37社が会員となって出資して運営されていることなどを説明した。FSFでは、全国から放送と利害関係のない教師や科学者、ジャーナリストら100人を委員として選び、一年間のうち4週間ほどベルリンに招いて1番組3から5人で審査を行っている。最近の課題として「リポーティング・プリビレッジ」(報道の権利)を挙げ、ニュース番組において“報道の自由”に基づいて放送されるコンテンツと青少年保護の在り方について議論が活発化していることを紹介した。これは世界各地の戦争や紛争における衝撃的なシーンが報道される機会が急増していることが背景にあるという。このほかFSFがランク付けの補助的作業にAI技術の導入を試みていることを紹介した。
これを受けて曽我部委員長が委員会を代表する形で、まずドイツがとる時間帯ごとの年齢別規制について録画機やインターネットの普及による変化はないかということや、日本でも議論のある性的表現の有害性に関するドイツの議論や、過激な政治的発言の扱いをどうしているかなどについて質問した。
これに対してミカット所長は「録画やネットへの対応はできない。しかし放送は、法律によって時間的規制を守る義務がある。録画等については親の責任ということになるだろう」と応じた。また性表現については「性的な表現だけで判断するわけではなく、暴力や賞賛といった要素が加わることで有害になることに注意している。ただ詳細な性描写は、理解できない幼い子供達には害になる」とドイツ国内の議論を紹介した。そして過激な政治的言動については「分類項目ではなく禁止事項としてリストアップされている」として、旧ナチスドイツのハーケンクロイツ(鉤十字)の例を紹介した。それによると鉤十字を放送で扱うことは基本的に禁じられているが、当時の歴史を振り返るといった文脈での使用は認められる。しかしそのプロパガンダを流布することは禁じられていると説明した。そして「過激な政治的発言について系統的に分類するならば“人権”ということになるのだろう」と応じた。
委員からは、FSFが試みる番組判定に関するAI補助の導入について具体的な内容を質問したのに対してミカット所長は「まずはシーンごとにタグ付けし、それぞれのリスクを判定、委員の意見を加味することを想定しているが、AIには問題シーンが出てくる文脈まで判断することはできないので、そこは人間が判断することになる」と述べ、AI導入はまだ試みの段階であることを強調した。
一方、人権委側からも活動内容を説明し、例として「リアリティー番組出演者遺族からの申立て」に対する委員会決定の概略を紹介した。これに対してFSF側からは「この番組を知っていた。委員会決定にも注目した」としたうえで、委員会決定について「表現の自由と出演者保護、どのようにバランスをはかったのか」と質問した。これに対して曽我部委員長は視聴者からは批判があるが「人権侵害は認定しない一方で放送倫理上の問題ありという決定にバランスの考慮が表れている」と応じた。
BPOとFSFとの交流は2021年には大日向理事長、2022年には青少年委員会と行い、今回の人権委との交流で3回目となった。青少年保護のための番組のランク付けを行うFSFとBPO人権委員会とでは目的も制度も違うため議論がかみ合うか心配もあったが、委員からは「直接話を聞けたことはよかった。放送事情も違い工夫がいるが、具体的な事案を通じて理解を深められると思う」という声が聞かれた。またFSF側からも「事案をめぐる議論は具体性があり、双方の考え方の違いも理解できて大変興味深かった」とのメールが届いた。
今回の交流、放送番組をめぐる問題意識や委員の姿勢など同じように取り組んでいることや、各国でも問題が起きているリアリティー番組について、BPOの委員会決定にも世界の目が注がれていることを知る機会となるなど、実りのある交流となったといえる。