放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第60回

第60回 – 2012年5月

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

取材対象を十分確認せず誤映像を放送した熊本放送の『夕方いちばん』

第60回放送倫理検証委員会は5月11日に開催された。
日本テレビの報道番組『news every.』(4月25日放送)の特集企画の中で、最近利用者が急増している「宅配の水」(ボトルドウォーター)について取り上げたが、利用客として登場した女性は、宅配水メーカーの経営者の親族(会長の娘、社長の妹)だったことが判明、当該局はお詫び放送をして謝罪した。
同じ番組で、1年余り前に「ペットビジネス」の運営会社の社員を一般利用者として紹介した事案では、委員会は放送倫理違反として意見書を公表したが(委員会決定第10号)、類似の問題が同一番組で繰り返された原因を検証するため、この事案も審議入りすることになった。
熊本放送の県域情報番組『夕方いちばん』のニュース枠で、洋服加工工場で起きた作業員の死亡事故を伝えた際、別の工場の映像が誤って放送された。誤報の原因は、警察の正式な発表前にインターネット検索で見つけた誤った情報が、取材者の一方的な思い込みや不十分な確認作業で最後まで訂正されなかったためで、当該局は5回の訂正・謝罪放送をして、誤報の被害者の納得を得た。被害は回復され、放送後に十分な原因調査を行い改善策も示しているとして、討議を終えた。
番宣や番組内で、芸能ニュースで話題となっている占い師が出演するかのように表示したが、実際には別の占い師が出演したバラエティー番組に対し、騙されたと批判する視聴者意見が多数寄せられた事案が事務局から報告された。当該局から報告書を求め、次回の委員会で討議を行うことになった。
また、「東海テレビ放送『ぴーかんテレビ』問題に関する提言」について、新たに名古屋地区の放送局から対応報告があった旨、事務局から報告された。

議事の詳細

日時
2012年5月11日(金) 午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、吉岡委員長代行、石井委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

『news every.』は4月25日放送の特集企画で、原発事故の影響で懸念されている水道水の安全性の問題を検証した。その中で、最近「宅配の水」として利用者が急増している専用サーバーを使用するボトルドウォーターについても取り上げ、子どものためにも宅配の水のほうを選ぶという女性を、一般利用者として詳しく紹介した。ところがこの女性は、宅配水メーカーの親族(会長の三女で社長の妹)だったことが、当該局やBPOに寄せられた視聴者意見から判明し、当該局は1週間後に「お詫び放送」をして視聴者に謝罪した。
2011年1月8日に放送された『news every.サタデー』で、新しいペットビジネスとしてペットのマッサージサロンやペット保険を取り上げた際にも、一般利用客として紹介した2人の女性が、運営会社の従業員だったことが発覚した。委員会は、報道番組で従業員を一般利用者として紹介することは、事実を正確に伝えておらずまた公正性をそこなうという意見書を公表(委員会決定第10号2011年5月31日)していた。
当該局は、この事案のあと、「企業・ユーザー取材ガイドライン」を新たに作成して、取材対象企業の関係者をユーザーとして扱わないことや対象企業に安易にユーザーの紹介を依頼しないことなどを定めていた。しかし、当該局の説明によると、今回の特集企画の取材・制作担当者の中で、出演者の女性が対象企業の関係者かどうかに気を配ったり確認したりした者は、誰もいなかったという。
委員会は、「ペットビジネス」事案を教訓に作られた「企業・ユーザー取材ガイドライン」がどこまで浸透・機能していたのか、再発を防止するための社内研修はどのように行われていたのかなど、類似の問題が繰り返された原因や背景をきちんと検証する必要があるとして、審議入りすることを決めた。

【委員の主な意見】

  • のど元過ぎればではないけれど、たった1年でみんな忘れ去られてしまうのだろうか。1年前、いろいろ議論を重ねて作った意見書が何の役にも立たなかったのだとすれば、それは問題ではないか。
  • 前の事案と比較して最大の相違点は、ペットビジネスのディレクターは承知の上で故意にやったのだが、今回の取材者は親族だと知らなかったと言っていること。制作過程の問題を軽重で言えば、今回はやや軽い。
  • 結果的に企業に近い人が広告的な活動をするのを防げなかったという点では同じではないか。今回のほうが、より経営者に近い人物だし、商品の大写し映像も多く、より広告的だったとも言える。
  • 再発防止の切り札だったはずの「ガイドライン」が、なぜ全く役に立たなかったのか。実際に使われていたのか。今回の取材・制作関係者から徹底してヒアリングをすることが必要だろう。
  • 今回の取材・制作担当者は、報道番組の経験や実績が豊富な中堅以上の人たちだったということだが、中堅やベテランになるほど、ガイドラインはあっても気にとめず、自分の経験ややり方で仕事を進めるのではないか。
  • 社内の研修はどうしても若手社員や若手の社外スタッフ中心になりがちで、中堅クラスや管理職は漏れていたのではないか。実効性の高い研修がきちんと行われていたかどうかだ。

取材対象を十分確認せず誤映像を放送した熊本放送の『夕方いちばん』

熊本放送の県域情報番組『夕方いちばん』のニュース枠で、今年2月24日、熊本市内の洋服加工工場で起きた作業員の死亡事故を伝えた際に、誤って別の工場の映像を放送した。この2つの工場は、業務内容が同じ、会社名まで酷似しており、工場の所在地も町名・字名まで同一で番地だけが異なっていた。
事故の一報連絡を受けたニュースデスクが、断片的な情報をもとにインターネットで検索した結果、別の工場のほうを事故が起きた工場と思い込んで、カメラマンに撮影を指示した。カメラマンはなんら変わった様子が見られない工場に不審を抱き、デスクに問い合わせたが、デスクは思い込みから間違いないと答え、カメラマンは工場側にコンタクトを取らずに撮影をした。その後、警察から正式な発表があったが、確認取材が不十分で、誰も誤映像であることに気づかなかった。
当該局は、間違えられた工場の苦情を受けて、5回の訂正・謝罪放送をして被害者の納得を得たほか、総務省に放送法に基づく訂正放送の報告を行った。委員会は、報道の根幹にかかわるミスではあるが、間違って映像を放送された工場の名誉回復は訂正・謝罪放送で果たされており、また放送局は放送後に十分な原因調査を行い具体的な改善策も示しているとして、審議入りしなかった。

以上