放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第41回

第41回 – 2010年9月

参議院選挙をめぐって放送の公平・公正性に疑念が持たれた4つの番組

貧困ビジネスに対する岡崎市の関与を批判したテレビ東京の『週刊ニュース新書』…など

第41回放送倫理検証委員会は9月10日に開催された。
まず、7月に行われた参議院選挙をめぐって、放送の公平・公正性に疑念が持たれた2つの報道番組と2つのバラエティー系情報番組について討議した。その結果、4番組をまとめて審議入りすることとし、当該局に対してヒアリングを実施することになった。
昨年11月にテレビ東京の報道番組『週刊ニュース新書』で、岡崎市がいわゆる貧困ビジネスに不正に関与していると報道した。岡崎市はそのような事実はないと反発し、両者間で話し合いが続けられていたが決着がつかず、岡崎市側から、議論を再開してほしいと要望があった。討議の結果、事実関係に争いがあるが、この事件についてどちらの言い分が正しいかを認定することは当委員会の役割ではないという結論となった。
TBSの『がっちりアカデミー!!』は、この4月にスタートした番組であるが、5カ月の間にお詫び、訂正放送が3回も繰り返されたのは、番組の制作・チェック体制に問題があるのではないかという意見が相次いだ。今後どのような再発防止策を実施するのかについて当該局に報告を求め、推移を見守ることにした。
TBSの情報生番組『ひるおび!』で、ある政治家がツイッターを始めたと放送したが、政治家本人に確認しておらず、結局”なりすましツイッター”であることがわかった。同番組内で訂正されたが、取材の基本である事実確認を怠らないようBPO報告に記載して、注意を喚起することにした。
初めて開催する在阪局と検証委員会との意見交換会について、テーマや進行方法を検討した。
事務局からは、8月25日に行われた総務省のフォーラムについて報告があった。

議事の詳細

日時
2010 年 9月10 日(金) 午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷代行、吉岡代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員

参議院選挙をめぐって放送の公平・公正性に疑念が持たれた4つの番組

7月11日に行われた参議院選挙に関連して、視聴者から、以下の4つの番組は放送の公平・公正性に問題があるのではないかという意見が寄せられた。

  • 長野朝日放送『abnステーション』(6月22日放送)
  • 信越放送『SBCニュースワイド』(7月8日放送)
  • TBS『関口宏の東京フレンドパークII』(6月28日放送)
  • BSジャパン『絶景に感動! 思わず一句 初夏ぶらり旅』(7月11日放送)

上記4番組のうち、(1)と(2)はローカルニュース番組、(3)と(4)は情報バラエティー番組である。
このたびの参議院選挙比例代表には12の政党・政治団体から186人が立候補したが、長野県内で放送された(1)と(2)は、長野県に関係がある3つの政党の4人の候補者だけを取り上げ、その他の政党や候補者には言及しなかった点に問題がある。参議院比例代表選挙には制度上長野県という区切りを入れる余地がないので、ことさらに長野県関係者だけを取り出して放送することは、長野県内の有権者を、長野県関係の候補者に誘導する効果を否定できない以上、それだけで選挙の公正・公平性の問題が生じる。
一方、(3)は、選挙の公示期間中であるにもかかわらず、特定の改選議員の名をあげて所属政党を当てさせるクイズを出題した。
また、(4)は、あるタレント候補がリポーターを務めた3年前の旅番組を、投票日当日の夕方に再放送したという問題である。
選挙は、民主主義の根幹に関わる重大事であるが、その選挙をめぐって、公平・公正性に疑念が持たれる放送があったことは、仮にその原因が制度の理解不足や不注意であったとしても問題である。各局の放送基準でも、公平性について厳しく規定されている。委員会としては、以上の4番組を一括して審議入りし、当該局へのヒアリングを実施したうえで、「意見」を述べることにした。

【委員の主な意見】

  • 参院選の比例代表の非拘束名簿について、番組で選挙民に知らせたいというのは問題ない。でも、そのサンプルとして県連所属という区切りで県内の候補だけを取り上げると、ほかの候補者との関係でどうしたって公平性を害することになる。
  • 参議院の比例代表区には、県という区切りは何の意味も持たない。しかし、この2つのニュースでは、それが何か意味のある区切りであるかのように報道されていることが問題だ。
  • 選挙制度を当該局が正しく理解しているのかを議論する以前に、当該局側がいずれも放送の時点では、ルール違反をしたと思っていないことが問題ではないか。民放連やNHKの放送基準、いろいろな法的な規定について無頓着であるということは、放送の自由の上にあぐらをかいているんじゃないかと思われても仕方ない。
  • 信越放送のほうは投票日3日前の放送という問題があるが、中身を比べてみたら、4人の候補者間の公平という点では長野朝日放送のほうがはるかに問題が大きい。参議院の非拘束名簿のもとではありえない区切り方を放送局が勝手にやったことによって、ああいう放送が可能になったのだから。
  • これは氷山の一角で、ほかのローカル局でもあるかもしれないということを前提にすべきだ。とりあえず、俎上にあがっているニュースの2番組は選挙制度を理解しない結果として公平・公正性を害している。ほかにもあるかもしれないので、注意喚起のために取り上げざるをえない。
  • 2つのニュース番組については、選挙制度上認められない内容であったために、公正性を害したという倫理違反が考えられる。バラエティー系の2番組は、本来チェックされるべきものがチェックされないで素通りしているという、そういう不注意が問題だ。
  • 視聴者の、ある種リテラシーみたいなものを喚起するためにも、こういう放送はいけないのだと公表することには意味があるように思う。
  • 選挙の公平・公正性というのは民主主義の基本だから、それを最大限、尊重するような放送をしなければいけないのに、こういう放送がなされているのは、どこかが緩んでいるのではないか。メディアにはそういう責任がある。

貧困ビジネスに対する岡崎市の関与を批判したテレビ東京の『週刊ニュース新書』

昨年12月と今年の1月に、委員会で討議した事案。 昨年11月28日に放送された「”貧困”を食い物に……行政の闇」は、岡崎市と無料低額宿泊所の業者とが癒着して、生活保護を受けている入居者を苦しめていると伝えた。それに対して岡崎市が反論し、岡崎市とテレビ東京との間で解決に向けて話し合いが継続されていたので、委員会としては推移を見守ることにしたが、8月に話し合いが決裂。岡崎市から、検証委員会で議論を再開してほしいと要請が出された。
この事案では、果たして意図的な「誇張」や「ゆがめられた表現」があるのかについて、両者の主張に食い違いがある。そのどちらが正しいかという事実認定や裁定を行うことは、当委員会の任務ではない。両者の主張が平行線をたどる中で、この先委員会が議論を行っても意味がないとして、討議を終えることにした。

5カ月間で3回のお詫び放送をしたTBSの『がっちりアカデミー!!』

8月13日の放送の『がっちりアカデミー!!』のテーマは自己破産で、自己破産者は給料の4分の1が、1カ月間差し押さえられると誤った情報を流した。
翌週お詫び放送をしたが、その訂正自体が不正確で誤解を生むものだった。討議の結果、訂正放送もされているし、法律の専門家を監修者に加えるという対策もとられているので、この放送だけを審議案件とはしないことにした。
しかし、この番組は開始以来5カ月で事実関係においてミスが3回あり、3回お詫び放送をしている。過去の2回は、4月16日放送の「薬の説明書」と「お薬手帳」との取り違い、6月18日放送のテスト答案に関する編集ミスである。番組のチェック体制に問題があると判断せざるを得ず、対策の実施状況報告の提出を求めるとともに、委員の意見を詳しく載せて推移を見守ることにした。

【委員の主な意見】

  • 今回の放送の訂正放送自体にも事実誤認がある。自己破産が認められても、免責決定がなされなかったら、責任を免れることはできない。
  • 「裁判所が破産と言うと借金が棒引きになります」というコメントは誤りだ。破産の手続と免責の手続は全然違う手続だ。もっと慎重に制作すべきではないか。
  • 普通、お詫び訂正放送のこういう文章を作る時には、一応、法律の専門家のアドバイスを受けるべきではないのか。
  • お詫びと訂正で「出演者の発言にこうありましたけども、こう訂正します」とはっきり言わないと、どこがどう訂正なのか、これでは次の回しか見てない人には分からない。
  • これだけ続くと、ちょっと酷い。どこかが壊れたんじゃないかなと思ってしまう。金属疲労というレベルではなくて。
  • 多分、番組の作りの構造として、リサーチャーがいて法律事務所などの調査は全部その人たちがやり、まとめたペーパーはディレクターに渡す。出演者のコメントは構成作家が別に書く。こういった、寄せ集めて作っていく悪い面がこの番組には出ていて、リサーチャーがコメント原稿をチェックできる状況になく、最初の情報が人を経るごとに変わっていった。その結果が、今回の間違ったコメントになったと思われる。
  • 現場の感覚として、番組スタート以来何カ月間も監修者を付けずにやってきてしまったことが、一番の問題だと思う。この手の番組をやるのであれば、普通は最初に監修者を付けると思うが。
  • 不注意が原因、派生する問題が小さい、すぐに訂正した、という事案の場合、過去の例からすると、取り上げないという方に行くけれど、わずか5カ月で3回目だとそうもいかないか…
  • 日本の場合、法的な知識のレベルが、少数の専門家以外はガクッと低いということがある。いい加減な専門家に聞いて、そのいい加減な専門家の回答を理解できないまま勝手に誤解して放送するという問題だ。これはある意味で、根は深いのかもしれない。

“なりすましツイッター”を本物と誤報したTBSの『ひるおび!』

TBSの生の情報番組『ひるおび!』(9月6日放送)で、ある政治家がツイッターを始めたと放送したが、そのコーナー終了直後に社内からの指摘を受け、当該政治家の事務所に電話で聞いたところ誤報であることが判明した。番組では25分後にお詫びをした。有名人に成りすましたツイッターが横行している中、報道の原則である確認をせずに放送したことについて、注意喚起を求めることとした。

【委員の主な意見】

  • 元農水大臣の時の事案が生かされてない。局内で何の情報も伝わってないということは、この局には、BPOが何をやっても伝わらないのだと思ってしまう。
  • お詫びをする対象というのは、本来、視聴者であるはずなのに、そうではなくてその政治家に謝ったのではないかと受け取れる。
  • ブラックノートの時の回答書に、何か問題が起きた時には、かなりいろいろな人を集めて、仰々しい会議を開きますと書いてあった。それが実行されていれば、本当はセクションを超えて連絡が行われていなければいけないはずだ。
  • ツイッターには有名人のなりすましが多いので必ず確認が必要という基本常識がないことが問題。
    ケアレスミスが多すぎる。バラエティーでやったように、いつもトラッシュボックスがあって、その中からまたいろんなものをやるというシステムが必要かもしれない。
  • こういう情報番組でも、自分が直接取材で得た情報ではない、新聞記事とかを読んで番組を作ることがある。その手法が一般化してしまったので、取材源に当たるとか確認を取るという基本原則がなくなったのだと思う。

在阪局と検証委員会との意見交換会の開催

意見交換会は10月22日(金)に大阪の讀賣テレビの大会議室で行うことに決まった。放送局、検証委員会がそれぞれ常日頃思っている疑問や要望などについての質疑応答を行う予定。また、そのための材料として放送局側から事前にアンケートを提出してもらい、それに基づいていくつかのテーマを設定することにした。

以上