放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第38回

第38回 – 2010年5月

選挙の事前運動とも受け取れる放送があった日本テレビの『行列のできる法律相談所』

「バラエティー番組」のブックレットを刊行…など

第38回放送倫理検証委員会は5月14日に開催された。ダメな夫をテーマにした日本テレビの『行列のできる法律相談所』で、出演した前衆議院議員への投票依頼とも受け取れる放送があった事案について、当該局からの回答書を基に討議した。制作担当者に、政治的な公平公正に対する問題意識や、公職選挙法に抵触するのではないかという認識が欠落していたことが明らかになり、それは放送倫理以前の問題だと指摘があった。当該局は非を認めて、バラエティーなどの番組制作者に繰り返し勉強会を実施しているので審議入りはしないが、局の回答の要約とそれに対する委員の意見をBPO報告に掲載し、当該局の今後の放送に事後措置の実効性が表れているかどうかを見守ることにした。
「バラエティー番組」に関するブックレットが完成したので、出席した委員に配付し、簡単な意見交換を行った。
事務局からは、番組制作会社でつくるATP(全日本テレビ番組製作社連盟)に対して、今後委員会決定を読んでもらうよう依頼したことを報告した。

議事の詳細

日時
2010 年 5月14日(金) 午後5時~6時半
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷代行、吉岡代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

選挙の事前運動とも受け取れる放送があった日本テレビの『行列のできる法律相談所』

ダメな夫をテーマにした『行列のできる法律相談所』(3月21日放送)に、前衆議院議員である夫と現職の参議院議員であるその妻が出演し、前議員である夫および所属する政党に対して、次回の選挙で投票を依頼するかのような放送が行われた。選挙の事前運動を禁止した公職選挙法や放送法、民放連の放送基準に示されている政治的な公平公正に抵触する疑いがあるので、委員会から質問書を出したところ、当該局からは、概略、次のような回答が寄せられた。

  • 上記2人に出演依頼をしたのは、当該局の別番組に出演してもらった際、立場の落差があるトークが展開されて、面白いと判断したためである。
  • 選挙区や政党の名前を字幕スーパーしたのは、トークの内容を理解しやすくするためで、日常的にやりとりの大部分は字幕スーパーでフォローしている。放送内容が、公職選挙法・放送法や民放連の放送基準に抵触するとは考えず、同じ選挙区の他陣営やほかの政党から批判が出るとも思わなかった。
  • 放送当日まで、チーフプロデューサーやプロデューサーなど19人のスタッフが、繰り返し内容のチェックをしたが、問題を指摘する声は出なかった。
  • 放送終了後、視聴者から「事前運動ではないか」との指摘を受けて、部外の専門家などからも意見を聞いたが、公職選挙法上の事前運動には該当しないとの見解を得た。
  • しかし、誤解を生む可能性に思いが至らなかったことは、勉強不足・認識不足であり、反省している。社内の各職場で今回の問題点が提示され、改めて認識を深めるように指示がなされた。バラエティー局や情報エンターテインメント局の勉強会では、「演出する上での慎重さが足りなかった」「バラエティー番組でもテレビ局の責任は免れないのが分かった」などの反省の言葉が相次いだ。今後さらに指導を徹底し、再発防止に努める。

この回答について、委員の間で議論が交わされ、政治的な公平公正が理解されていない、放送法や放送基準についての認識はどうなっているのか、放送倫理を議論する以前の問題ではないか、などの指摘がなされた。

【委員の主な意見】

  • 面白い夫婦なので出演させたが、選挙のことは全然考えなかった。放送後に指摘されて反省したという説明だが、制作スタッフに誰ひとりとして問題意識がなかったというのは、とても信じ難い。
  • 制作スタッフに全然認識がなかったというが、本当にそうなのだろうか。テロップの扱い方などの問題について、チーフプロデューサーもチェックして、何にも気がつかなかったとは、ただ驚くしかない。
  • 認識がなかったというのにも2段階あるのではないか。つまり完全に頭から抜けていたというレベルなのか、選挙ネタ自体を、このような方法ならば扱えると思ってやったのかが問題なのだが、「おねがいします」というテロップを入れる際に、発言者ではなく前議員の画像を選択しているなど、後者の可能性がうかがえるのではないか。
  • 夫の前議員の選挙区をあれだけ細かくテロップ表示したことは許容できない。なんとも思わずにこのようなテロップを流したとすれば、それが一番問題だと思う。
  • 民放連の放送基準(12)は「事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」となっている。そもそも制作者は、選挙事前運動の疑いすらも持たなかったというのだから、それ以前の話であり、論外だろう。
  • 当該局は、番組内で謝罪すると再度出演者の印象を強めるので触れられないという意味のことを言っているが、出演者の固有名詞などを出さずに反省点を伝えることはそんなにむずかしくはない。
  • 今回の問題の反省を、ぜひ今後に生かしてほしいし、反省点が改善されているかどうかを見守る必要があると思う。

議論の結果、委員会としては、当該局が今回の問題の原因が単に番組担当者の勉強不足・認識不足であることを認め、既にバラエティーなどの制作担当者に対して繰り返し勉強会を実施するなどの事後処置をとっていることなどから審議入りはしないが、今後の放送にその事後処置の実効性があらわれているかどうかを見守ることとした。

「バラエティー番組」のブックレットを刊行

ブックレット第5号「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見と各局の対応」を5月14日刊行した。これは、昨年11月17日の委員会意見に、意見発表後の新聞記事および各局が行った勉強会、研修会やアンケート結果、あるいは番組審議会の扱いなどさまざまな反響を資料編として添付したものである。バラエティー番組に関する資料は少ないので、放送関係者がこのジャンルについて議論する際に参考になることを期待している。

連絡事項

放送倫理検証委員会が出す決定文を、放送局だけではなく、実際に番組を制作している制作会社のスタッフにも読んでもらうべきだとの委員からの提案を受けて、事務局がATPの事務局を訪問し、その旨を依頼した。ATPも同意見であったので、今後連絡を密にすることとした。

以上