放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第46回

第46回 – 2011年2月

やらせ取材の疑惑が指摘されたフジテレビの『Mr.サンデー』

政治的公平性が問題になった在京テレビ局の討論番組…など

第46回放送倫理検証委員会は2月18日に開催された。
当該局から提出された報告書を公表することで討議を終了したフジテレビの『Mr.サンデー』については、川端委員長の前文を付して、BPOのホームページと「BPO報告」に掲載されたことが報告された。
在京のテレビ局が1月に放送した討論番組は、政治的公平性に疑念があると、視聴者から意見が寄せられた。討議の結果、より詳細な資料を検討する必要があるという結論に至った。当該局に資料の提出を依頼し、継続して討議することにした。
取材方法に問題があり、視聴者に誤解を与えるような内容であったことから審議入りが決定した毎日放送のバラエティー番組『イチハチ』(10年11月17日放送)テレビ東京の情報バラエティー番組『月曜プレミア!主治医が見つかる診療所』(11月8日放送)については、担当委員が行ったヒアリングの中間報告が行われた。
同じ毎日放送の『イチハチ』(1月12日放送)でニューヨークに不動産を23件持っている女性を紹介したが、視聴者から虚偽ではないかとの指摘があった。当該局は調査不足による誤った放送であったことを認めている。上記2番組と共通する問題なので、この番組を加えて3番組をいっしょに審議することにした。
日本テレビの報道番組『news every.サタデー』(1月8日放送)が最近流行のペットビジネスとして、ペットサロンとペット保険を紹介した。ところが客として登場した2人の女性は、これらの店舗を展開する運営会社の社員であったことが、当該局への視聴者意見から判明した。このような取材が行われた背景や原因を検証するために、審議入りすることにした。

やらせ取材の疑惑が指摘されたフジテレビの『Mr.サンデー』

当該局から提出された社員研修用の詳細な報告書「『Mr.サンデー』の特集企画における不適切表現に関する問題点の検証と再発防止に向けて」は、他の放送局でも、調査の方法やあるべき解決策の指針、問題点の事前チェックの参考資料として役立つと思われたので、当該局に公表することを依頼したところ、了解が得られた。
BPOでは、川端委員長の前文を付してBPOのホームページにアップするとともに、2月15日発行の「BPO報告」(NO.93)の3ページ以降にこの報告書を掲載した。(全文はこちら[PDF])
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政治的公平性が問題になった在京テレビ局の討論番組

司会者もゲストも、全ての出演者がひとつの政党所属の議員だけで構成されている政治討論番組が放送された。政治的公平性から見ておかしいのではないか、との視聴者意見が寄せられた。
当該局によると、番組編成上同様のレギュラー番組が複数あり、その中で政治的公平性を保つようバランスを取っているとの説明であった。委員会はそれを検証するために関係する番組と説明書を提出してもらい、討議を継続することにした。

事実確認に問題があったテレビ東京の情報バラエティー番組『月曜プレミア!主治医が見つかる診療所』および毎日放送のバラエティー番組『イチハチ』(1)

テレビ東京は、酵素飲料を飲むことにより、ダイエットに成功したと紹介された女性は、その飲料を販売する会社の社長であったことが判明した事案。毎日放送は、15億円でホテルを買収しようとする富豪女性が紹介されたが、そのホテルを宣伝するための作り話ではないかと視聴者から指摘があった事案である。
前回の委員会では、この2事案については事実の確認と演出方法に共通する問題点があるので、一括して審議入りすることにした。
主に両番組の制作スタッフを対象にして、2人の担当委員によってヒアリングを実施し、その経緯を委員会に報告した。その報告によると、出演者の選定プロセスが安易であることや情報・事実に対する認識に甘さがあること、また、制作スタッフ間でのコミュニケーション不足などが指摘され、制作体制上、共通する問題点が明らかになってきた。

所有者の確認が不十分だった毎日放送『イチハチ』(2)

世間の常識と隔絶したセレブたちの豪勢な生活ぶりを紹介するスペシャル番組の中で、ニューヨークに23件の不動産を持つという女性を紹介した。ニューヨークの豪華なコンドミニアムをその女性の案内で取材・放送したが、視聴者から「紹介されたコンドミニアムは彼女の所有物件ではない」との情報が当該局に寄せられた。当該局が独自に調査した結果、「女性の所有であることが証明できず、事実と異なる放送をした可能性が高い」と公表した。
委員会では、当該局からの報告書を元に討議した結果、制作過程において前回審議入りを決めた同じ番組の「ホテル購入話」と通底する問題があるのではないかとの判断から、テレビ東京と毎日放送の前記2番組とあわせて3つの番組をまとめて審議することにした。

【委員の主な意見】

  • これらの問題の中核は、セレブな出演者の話を鵜呑みにすることにある。事実確認とか取材がおろそかになり、出演者をどう扱うかということが制作の中心になってしまっている。
  • 出演者に嫌われたくないという制作者の気持ちの根底には、この人のお蔭で番組を成立させてもらっている、ネタを貰っているという意識が厳然とあるのではないか。
  • このような企画に登場するセレブな出演者について、制作サイドは芸能人であるという認識を持っているようだ。しかし、視聴者にとっては、一般人の中にこのような人がいると理解するのだから、当然、裏取りはしなければならない。
  • スタジオトークに留まらず、実際にあるリアルな世界に取材に出るという選択をした段階で、テレビと関係ない世界との関わりが出てくる。そこに対してどういう責任を果たすかという認識がない。
  • バラエティー番組であるし、トーク全体が駄法螺話だから、厳密に取材しなくてもよいのではないかという議論が現場にあるのだろうか。
  • この問題は明確に倫理違反とまで言えるかどうか。事実誤認になる可能性はあるけれども、本当に事実誤認であるかどうかは、委員会は立証できない。
  • 放送界が、情報という人参を結局うまく利用されているのではないだろうか。商品として利用されているものもあれば、芸能人になるステップに利用されているものもある。

ペットショップの取材対象者が不適切であった日本テレビの報道番組『news every.サタデー』

『news every.サタデー』(1月8日放送)のコーナー企画で、新しいペットビジネスとしてペットサロンとペット保険を取り上げた。犬を連れてそれぞれの店を訪れた2人の女性客を取材したが、この女性はペットビジネスを展開する運営会社の社員だったことが、放送後に局に寄せられた視聴者意見で判明した。当該局は2週間後(1月22日)にお詫び放送をして視聴者に謝罪した。
当該局から委員会に提出された報告書によると、取材したディレクターは、2人の女性客が運営会社の社員だと知りながら、時間の制約もあって取材・放送したという。
委員からは、ニュース現場の報道モラルはどうなっているのか、誰もこのミスに気づかなかったのはなぜか、一昨年の「バンキシャ!」問題のあと示された再発防止策は機能しているのだろうか、などの指摘があった。
委員会は、同様の問題が繰り返された背景や原因などを検証するために審議入りすることにした。

【委員の主な意見】

  • 情報バラエティー番組について、事実を正確に伝えることの重要性を議論しているが、正確さが命のニュース番組でも同じような問題が起きてしまった。ニュース現場の劣化、報道モラルの低下を指摘せざるを得ない。
  • ニュースを伝える者としての主体性が全く感じられない。どんな手段や方法であっても、とにかく映像さえ撮れればいいという安易さには憮然たる思いがする。
  • この担当ディレクターは社員ではないということだが、なぜ先輩やデスクに相談をしなかったのだろうか。職場内のコミュニケーションそのものが、日常的に機能していないということなのか。
  • ひとりの判断ミスにだれも気づかず、問題のある放送がそのまま放送されてしまった。軽い話題やトピックスでも、許されることではない。
  • 「バンキシャ!」問題は、情報の裏付けが不十分で、結果的には誤報になったが、取材者にはチャレンジする姿勢が感じられた。その意味では、今回の事案のほうが問題の根は深いともいえる。
  • 「バンキシャ!」の誤報問題のあと、さまざまな再発防止策が打ち出され、社内の研修なども充実させたということだったが、どこまで機能しているのか。大きな代償を払って得たはずの教訓は、本当に生かされているのだろうか。

以上