放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第185回

第185回–2023年7月

NHK『ニュースウオッチ9』について審議

第185回放送倫理検証委員会は、7月14日に千代田放送会館で開催された。
ワクチンを接種後に亡くなった人の遺族の訴えを、新型コロナウイルスに感染して亡くなったと受け取られるように伝え、適切ではなかったと謝罪し、6月の委員会で審議入りしたNHKの『ニュースウオッチ9』について、今回の委員会では、担当委員が作成した資料をもとに議論した。今後は当該番組の関係者に対してヒアリングを行っていく。
統一地方選挙を前に公認立候補予定者が出演したラジオ大阪の番組『大阪を前へ!』等について、当該放送局から提出された報告書と番組CDを踏まえて議論した。その結果、政治的な公平性の観点から問題はないか等を判断するため、討議事案としてさらに議論を継続することとした。
タマネギの糖度を紹介する特集で数値をねつ造した鹿児島読売テレビの情報番組『かごピタ』について、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて討議したが、一連の訂正とお詫びの放送や再発防止策等を受け、今回で討議は終了し審議の対象としないこととした。
6月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告され議論した。

議事の詳細

日時
2023年7月14日(金)午後6時~午後9時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』について審議

NHKの『ニュースウオッチ9』は、ワクチン接種後に亡くなった遺族を、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の遺族と受け取られるような伝え方をし、放送倫理違反の疑いがあるとして6月の委員会で審議入りとなった。
同番組は5月15日に「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題する1分5秒のVTRを放送した。VTRには、ワクチン被害者の遺族の会から遺族3人が出演したが、3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族であるとの説明はなく、テロップで「夫を亡くした」「母を亡くした」と紹介するにとどまった。
今回の委員会では、担当委員から企画の提案、取材、編集、試写などの各段階において、詳細な疑問点と問題のある可能性が提示され、議論した。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2.ラジオ大阪『大阪を前へ!』等について討議

大阪放送(ラジオ大阪)の番組『大阪を前へ!』、『兵庫を前へ!』は、統一地方選挙前半(3月31日告示、4月9日投票)の約2カ月前の2023年1月12日から1月29日までの間に計15回(15分番組×13回、30分番組×2回)放送された。ゲストは各回とも同じ政党の公認立候補予定者だった。
番組最終回の放送翌日、聴取者からBPOに「特定政党のキャッチフレーズをそのままタイトルにした番組で、ゲストはこの党の政治家と決まっており、内容は党の活動や今後の取り組みを紹介し宣伝することに尽きる。特定政党のPR番組を一般の番組と同じ扱いで放送することは問題だ」という趣旨の意見が寄せられた。
これを受けて委員会では報告書と番組CDの提出を当該放送局に求めた。報告書によれば、2022年11月末に広告代理店から番組企画の打診があり、社内で検討。同年12月に統一地方選まで2カ月を逆算し、空いている放送枠を確認して収録した。放送期間は2023年1月12日から1月29日に決定したという。また、すべての回でゲストが特定政党から公認を受けた立候補予定者であり、番組CDで放送内容を聴取すると、立候補予定者の議会や地元選挙区などでの活動実績や抱負、経歴などが紹介されていた。委員会は、政治的な公平性に抵触しているのではないか等の観点から、番組を討議事案としてさらに議論を継続することとした。

3.鹿児島読売テレビ『かごピタ』について討議

鹿児島読売テレビは2023年2月24日に、情報番組『かごピタ』内でタマネギの糖度について約13分半にわたる特集を放送した。その後6月14日に地元地方紙が数値のねつ造等を報じ、同日当該放送局からも自主申告があったため委員会は報告書と番組DVDの提出を求め、討議を行った。
報告書によれば、新タマネギと普通のタマネギの糖度の違いを糖度計で比較した映像を流したが、普通のタマネギについては、タマネギを使わずに砂糖水を計測した数値を紹介。新タマネギについては加熱した場合の糖度を表示していたものの、計測時の現場では値が高く出過ぎたと判断し、水を加えて数値を低くして放送したという。
当該特集について3月に、業務委託をしている制作会社のスタッフから「納得がいかない」旨の相談を当該放送局の社員が受け、調査したところ数値のねつ造・改ざんが明らかになった。番組担当者は「インターネットで調べた一般的な数値に近づけるために行った」などと説明している。番組では3月31日に、不正確なところがあったとして内容の訂正とお詫びをしたが、糖度を偽ったことについては全く説明がなかった。
6月14日の地元紙報道を受けて、6月16日の同番組で「砂糖水を使って数値を『ねつ造』したこと」、「水を加えて数値の『改ざん』をしたこと」、「3月31日の訂正とお詫びの放送で『誤った計測方法について伝えていなかったこと』」の3点を認めて放送し、改めて謝罪した。
当該放送局は、タマネギの糖度の数値についてねつ造・改ざんを把握したにもかかわらず、3月のお詫び放送ではその旨の説明を全くしておらず、地元紙報道を受けてようやくねつ造・改ざんを認め謝罪したのであって、放送倫理が内発的に遵守されるべき点からは問題があると言わざるを得ない。もっとも、再発防止の対応策として、番組プロデューサーに報道経験者を加えることや取材における留意事項を記載したチェックシートを新たに導入したこと、また、研修会の実施、番組審議会で審議されたこと等が示されていることを踏まえ、委員会での意見を議事概要に掲載した上で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

・数値を変えたという、事実と異なる内容を放送したことは放送倫理違反と言えよう。類似事例では『発掘!あるある大事典Ⅱ』があるが、その番組はかなりの構造的な問題点や、繰り返し改ざんがされていたというような案件であり、それと比較して提出された報告書以上の事実が出てくるとは思われず、恒常的なものとは認められないだろう。
・初回(3月31日)のお詫び放送では、数値改ざん等には触れておらず新聞報道後に、初めてねつ造・改ざんの事実を2回目のお詫び放送の中で伝えた。この報道がなければそのままになっていたのではないか、という点では猛省してほしい。
・事後的な是正も一定程度なされていると考えられ、再発防止策も報告されている。

4.6月に寄せられた視聴者・聴取者意見を議論

6月に寄せられた視聴者・聴取者の意見のうち、芸能人の不倫の問題をめぐって、本人たちの自筆の手紙や交換日記を映したり、内容を報道したりすることはプライバシーの侵害ではないかといった批判的な意見が多数あったことや、歌舞伎俳優の自殺ほう助事件に関して、睡眠薬の種類、量、その方法などについて詳しく報じるのはあきらかに過剰であり、WHOの自殺報道ガイドラインに抵触し、視聴者の自殺を助長するのではないかといった疑問を呈する意見などが事務局から報告され、議論した。

以上