放送倫理検証委員会

2023年度

芸能事務所における性加害問題について

2023年12月4日
BPO [放送倫理・番組向上機構]
理事長 大日向雅美

芸能事務所における性加害の問題につきましては、今年3月にBBCの報道を一つの契機として日本社会において重大問題とする認識が高まり、その後、9月以降、当該事務所の会見および具体的対策への動き等が認められております。未だ解決の道筋は見えず、むしろ緒についたところとも言える本問題ですが、社会的関心は言うまでもなく非常に高く、BPOにも視聴者からの意見が数多く寄せられています。

これまでいただいている視聴者意見は、概ね本問題に対する驚愕と許しがたい思いをベースとしていることで一貫していますが、当初の加害者や当該事務所の責任をもっぱら追及するもの、所属タレントの人権を擁護するものから、やがてそれを放置してきた放送界やマスメディア、さらには企業や社会全体のあり方を問うものへと、時間と共に様相を変えつつあります。

そうした中、本問題に対しBPOの各委員会が速やかに審議入りをして、放送局を諫めるべく動きをとることを期待する声も多数いただいております。

BPOは、放送界が市民社会に果たす公共的使命を自覚し、自ら第三者の意見を聴く仕組みを設けて放送内容の向上を図ることを目指して設立された機関です。具体的には「放送倫理検証委員会」「放送と人権等権利に関する委員会」「放送と青少年に関する委員会」の3つの委員会が、放送された番組について、その制作過程や取材方法、内容等に関して、倫理上、人権上、さらには青少年に及ぼす影響上の問題の有無の判断を行い、解決に向けて「勧告」「見解」「意見」等の決定の形で放送界に要請を行うものです。

BPOの設立趣旨から、これまで視聴者意見に真摯に向き合ってきたことは言うまでもなく、本問題に関しても3つの委員会の委員は、それぞれに当初から関心を寄せ、各委員会の中でも放送番組とのかかわりをめぐり議論を重ねております。

他方、各放送局は本問題について検証番組を放送し、あるいは番組審議会において議論を行っています。
放送局の自主・自律に寄与することがBPО設立の本来の目的であり、各放送局の動向に非常に注目しているところです。

放送局の自主・自律は、放送内容の向上はもちろんのこと、この社会に生き、暮らしているすべての人の人権と自由を尊重することに貢献し、ひいては日本社会の文化の質の向上につながるものです。
本問題は、特定の芸能事務所のことにとどまらず、それを取り巻くさまざまな媒体、さらには社会を構成する私たちが、一人ひとりの自由と人権をいかに守り、尊重することができるのか、換言すれば成熟した市民社会のあり方につながる問題でもあります。

こうした観点から放送局は、本問題の精査と反省を通して、自らの果たす使命をさらに認識し、今後も起こりうる諸問題に対しても真摯に検証し、改善を行うことが求められます。
視聴者と放送局を繋ぐ第三者機関の役割をもつBPОは、各放送局の今後の取り組みをたゆまず注視してまいります。そして放送がこれからも視聴者の信頼の上に公共的な役割を果たしていくため、適時、さまざまな形で放送局と議論する場を設けて、意見をたたかわせていきたいと考えております。