放送倫理検証委員会

2007年度声明

ダイエット法を紹介したテレビ番組等に関わる声明

2007年1月下旬以降、納豆ダイエット法を紹介したテレビ番組の放送内容に関し、BPOに対しても視聴者からの苦情が多く寄せられた。これら放送番組の一連の問題の重大性とBPOの役割に鑑み、1月29日、清水英夫理事長の「声明」として、BPO加盟全局に対し「放送界全体としても強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信頼回復等に一層努めるよう」要請した。
続いて、2月7日、放送番組委員会の有識者委員による声明を発表した。この声明では、「番組制作システムの問題」「放送従事者の教育システムの問題」「公権力が放送に介入することへの懸念」の3点を指摘し、放送事業者の自主・自律による今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みを求めている。

BPO理事長声明
(ダイエット法を紹介したテレビ番組等に関わる声明)

平成19年1月29日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
理事長 清水 英夫

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は、自主的かつ独立した立場から、正確な放送と放送倫理の高揚に資する ことを目的に第三者機関として設立された。
このBPOの使命と役割に鑑みて、放送番組に関する一連の不祥事に対しては、深刻な憂慮の念を禁じえない。特に最近、関西テレビが制作しネット放送された番組『発掘!あるある大事典』の実験データなどが捏造とされる問題については、当該局のみならずBPOに対しても、視聴者からの抗議が相次いでいる。
従前にも同様の事例があったが、いずれも放送局の姿勢や倫理が問われる内容であり、緊張感や責任感を著しく欠いたとの謗りを免れ難い。
近時、放送特にテレビの社会的影響力はますます増大している折から、関係者にはそれにふさわしい認識と対応が求められている。このような事態が繰り返されれば、放送に対する視聴者の信頼を失墜させ、ひいては放送の自由を危うくすることとなる。
今後放送界全体として、強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信頼回復等に一層努めるよう切望する。

以上

BPOからの提言・声明・見解

2007年2月7日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
放送番組委員会(有識者委員)

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕の放送番組委員会(有識者委員)は、放送活動全般の質的向上を願って、放送の理念や倫理に関わる問題から取材・制作のあり方まで、第三者の立場から広く審議し、ときには具体的な事例に即して議論を重ねている。

そのような私たちにとって、関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典Ⅱ』が起こしたデータ等の捏造問題は、ジャーナリズム産業の基本の放棄であり、視聴者の期待を裏切り、放送界全体の信頼性を損ない、ひいては言論・表現・報道の自由を危うくする出来事と言わざるを得ない。

これまでも放送界はしばしば深刻な不祥事を繰り返してきた。そのたびに放送局は陳謝し、再生や再発防止を誓ってきたが、不祥事はいっこうに収まらない。ひとつひとつの態様は異なるとはいえ、こうしたことが繰り返される背景には、放送界が全体として抱える構造的な問題がありはしないだろうか。

私たちは今回の問題についても、単に1テレビ局の、あるいは1制作会社や制作担当者の問題としてだけでなく、放送界全体が抱える構造的な問題としてとらえる視点が重要だと考えている。その観点に立って、さしあたって以下の3点を指摘し、放送事業者の自主・自律による、今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みに期待したい。

番組制作システムの問題

現在の番組制作においては、分業化が進んでいる。ひとつの番組が制作会社をはじめとする外部協力によって制作されることが当たり前になり、何重もの下請け化によって、実際の番組制作へのコスト面のしわ寄せなども常態化している。

こうした分業構造は、広範囲にわたって、番組制作環境の悪化を招いている。外部の制作者は時間に追われて余裕もなく、時には他の仕事とかけ持ちし、十分な取材や調査が出来ないまま、番組作りが進んでいく。

また、この分業構造は、発注側のテレビ局の番組制作力を削ぐだけでなく、製造業でいう「品質管理」能力の低下をもたらしている。制作経験の少ないテレビ局のプロデューサーやディレクターが、外部制作番組の管理を行ない、納品される番組の完成度や正確性を判断することには無理な面がある。

このような番組制作システムのもとでは、一貫した、きめの細かい品質管理を行なうことが難しくなっているのではないかと私たちは危惧している。今回の事件についても、その原因を一部の関係者の不心得に帰すのではなく、すでに放送界に定着した番組制作システムの構造それ自体の問題としてとらえる視点が必要である。

放送従事者の教育システムの問題

言うまでもなく放送は、民主主義の根幹をなす言論・表現・報道の自由に立脚する事業のひとつであり、これに従事する者は、その自由を享受すると同時に、それにふさわしい見識と責任意識を持たなければならない。

しかし、事業が大規模になり、技術が複雑化し、番組が多様化し、視聴率競争が激化する慌ただしさのなかでは、見識や責任意識はしばしば等閑視されがちである。また見識や責任意識といっても、組織統治や法令遵守から、番組の企画・取材・編集、さらに取材対象との接し方や距離の取り方まで、それぞれの仕事に応じた具体性と専門性を有しなければ、たんなるお題目に終わってしまう。

各局も社員研修等はしているが、番組制作が外部協力によって行われている現状では、外部制作者の末端までにも、真に実効性のある教育システムが必要である。

また、将来的には、一定の経験を積んだ放送従事者が更に見識を深めるため、放送界が、豊かで専門性の高い教育制度作りに取り組むことを、私たちは期待したい。

公権力が放送に介入することへの懸念

私たちは、ここ1、2年、政府・総務省による放送界への関与・介入が強まっているという印象を持っている。NHKの国際放送に対する「命令放送」、民放の報道番組やスポーツ中継の不手際に関する「厳重注意」等々、頻繁に関与・介入が行なわれている。

今回の関西テレビの不祥事に関しても、総務省は「報告」を求めている。

これらは、いずれも放送法や電波法に基づくとされるが、本来、民主主義社会の根幹をなす言論・表現・報道の自由の重要性に鑑みれば、慎重の上にも慎重を期すべき事柄であり、行政の役割は、直接に指示したり、懲罰的な行政指導を行なうことではないと考える。

私たちは、健全で、魅力にあふれた放送が、民主主義社会をいきいきと成熟させるために欠かせないと考えている。今回の問題にせよ、これまでも相次いだ不祥事にせよ、その底流には、構造的な問題が横たわっていることを示しているが、その深部への切開が行なわれ、そこから再発防止のための具体的な手だてが講じられなければ、この国の民主主義の将来も危ういと、私たちは深く憂慮している。

放送倫理・番組向上機構 放送番組委員会(有識者委員)
委員長 天野 祐吉 委  員 上滝 徹也
副委員長 田中 早苗 委  員 里中満智子
委  員 石田佐恵子 委  員 清水 哲男
委  員 市川 森一 委  員 吉岡  忍