第228回 – 2015年12月
出家詐欺報道事案の通知・公表の報告、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、
ストーカー事件映像事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、
自転車事故企画事案の審理、専決処分事案の審理対象外決定…など
出家詐欺報道事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。ストーカー事件再現ドラマ事案とストーカー事件映像事案の「委員会決定」案を検討し、STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理した。「専決処分報道に対する申立て」を審理要請案件として検討し、審理対象外と判断した。
議事の詳細
- 日時
- 2015年12月15日(火)午後4時~9時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.出家詐欺報道事案の通知・公表の報告
2.ストーカー事件再現ドラマ事案の審理
3.ストーカー事件映像事案の審理
4.STAP細胞報道事案の審理
5.自転車事故企画事案の審理
6.審理要請案件:専決処分報道に対する申立て
7.その他 - 出席者
-
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員
1.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告
「出家詐欺報道に対する申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表が12月11日に行われ、事務局がその概要を報告した。そのうえで、当該局であるNHKが決定の内容を伝える番組の同録DVDを視聴した。
2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第3回起草委員会を経て提出された「委員会決定」案が審理された。前回委員会からの変更点などについて起草担当委員が説明し、各委員から意見が述べられた。この結果、1月に第4回起草委員会を開催し、さらに決定案の検討が行われることとなった。
3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、前の事案と同じフジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案が検討された。各委員から出されたさまざまな意見を踏まえ、1月に第2回起草委員会を開催して、さらに検討を続けることとなった。
4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では起草担当委員が提出した「論点メモ」に沿って各委員が意見を述べた。次回委員会ではさらに議論を続け、論点の絞り込みと「委員会決定」の方向性に向けて審理を進める予定。
5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理
審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
前回の委員会後、申立人の反論書に対するフジテレビの再答弁書が提出され、今月の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を提出し説明した。次回委員会では論点の整理に向けて審理をすることになった。
6.審理要請案件:「専決処分報道に対する申立て」
茨城県潮来市の市長が繰り返し行った専決処分と随意契約をめぐる報道に対し、前市長から提出された申立書について、審理要請案件として審理入りの可否を検討した結果、審理対象外と判断した。
本件申立ての対象とされたのは、A局が本年3月に報道番組で放送した特集。
申立人は、この報道は、申立人が茨城県潮来市長だった当時、あたかも鹿児島県阿久根市の元市長のように違法に専決処分を繰り返し、かつ特定のコンサルタント会社と随意契約することで施工業者に損害を与えたかのような「事実と異なる内容が放送され、私の名誉は著しく傷つけられ、多くの市民の信頼を失いました」として、A局による謝罪と訂正を求めて申し立てた。
しかしながら、委員会において放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第3条(目的)及び放送と人権等権利に関する委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして検討した結果、BPOの目的や当委員会の任務に鑑み、市長による専決処分、随意契約という公職者による職務執行そのものを対象とした放送部分についての苦情は、当委員会の審理対象として取り扱うべき苦情に含まれないということで委員全員の意見が一致した。
したがって、本件申立てについては、当委員会の審理対象外と判断した。
7.その他
- 佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー番組」2事案の「委員会決定」の通知・公表が11月17日に行われたが、事務局がその概要と放送対応、新聞報道をまとめた資料を提出した。また、当該局であるTBSテレビとフジテレビから提出された決定を伝える放送の同録DVDを視聴した。
- 委員会が11月24日に金沢で開催した系列別意見交換会について、事務局から概要を報告した。同意見交換会には、TBS系列の北信越4局から報道・制作担当を中心に20人が、委員会からは坂井眞委員長、林香里委員、二関辰郎委員が出席、約2時間にわたって最近の委員会決定や地元局が直面した事例などについて活発な意見交換が行われた。
- 12月に委員会が実施した講師派遣について、事務局が報告した。長崎放送には坂井眞委員長、NHK大分放送局には委員会調査役を派遣、局職員らと委員会活動や放送と人権、放送倫理等について意見交換した。
- 次回委員会は2016年1月19日に開かれる。
以上