青少年委員会

青少年委員会 議事概要

第140回

第140回 – 2013年1月

東海テレビ『幸せの時間』の審議で、局の制作・編成責任者と意見交換

第140回青少年委員会は1月18日に開催され、審議対象となった東海テレビ『幸せの時間』の制作・編成責任者を招いて意見交換を行った。また、意見交換に先立って、民放連番組部の田嶋炎部長を招き、民放連の定める放送基準と民放の各放送局が定める番組基準(放送基準)の運用等についてレクチャーを受けた。

議事の詳細

日時
2013年1月18日(金)午後2時30分~5時
場所
放送倫理・番組向上機構(BPO)第1会議室
議題
出席者
汐見委員長、加藤副委員長、小田桐委員、川端委員、最相委員、萩原委員(欠席:渡邊委員)

東海テレビ『幸せの時間』について意見交換および審議

東海テレビ制作の昼の連続ドラマ『幸せの時間』(11月5日~12月28日、FNS系列全国放送)については、放送直後から「性的描写が過激」「子どもが見る可能性もある」との視聴者意見が多数寄せられ、第138回、第139回委員会で討論・審議した結果、1月18日臨時の委員会を開き、東海テレビの制作責任者や担当プロデューサー、編成責任者たち5人を招き番組の企画意図・制作方法・審査基準等について意見交換を行った。

◆東海テレビの説明

【番組の企画意図】 『幸せの時間』は現代社会における家族間、世代間のコミュニケーションで抱える問題を視聴者とともに考えていきたいという意図からスタートしました。原作は国友やすゆきさんの男性コミックですが、制作するにあたっては、このドラマの視聴者層である主婦に合わせまして、主人公を男性から女性に変更し、女性目線でストーリーを動かすことにいたしました。ストーリー展開上、登場する女性たちの心情や葛藤、そしてさまざまな愛の形を表現するにあたって性的な描写は伴っておりますが、それらは人間の欲望、嫉妬、孤独感といった心の揺れを表現するために必要と判断いたしました。またこのドラマでは、番組全体を通じて家族とは何か、絆とは何か、幸せとは何かを視聴者に問いかけることを最大のテーマにしております。そのため、ごく普通の家族がもしかすると抱えている秘密、あるいはごく身近で起こり得るかもしれない問題をリアルに表現することが不可欠であり、その一要素として性の描写も必要と考えました。ことさら好奇心を煽ったり、それ自体を強調して売り物にする意図では決してございません。そうならないよう登場人物のキャラクター設定から脚本作りに至るまで、3人のプロデューサーが脚本家と幾度も打ち合わせを行い、綿密な協議を重ねてきました。また、その上で演出家・出演者に番組、そして演出の意図を理解していただき、撮影に臨むなど細心の注意を払ってまいりました。私どもといたしましては、ドラマ全体のテーマをお伝えするため必要な表現であると考え、放送基準に準拠して制作してきたと考えております。
社内におけるチェック体制に関して申し上げますと、まず考査において台本上放送に適さないセリフ及び表現のチェックをし、性的描写、暴力シーンに関して演出上の注意喚起を行っております。そして実際の制作現場においては、全ての工程に局のプロデューサーが立ち会い、最終判断を下しております。完成後、放送素材とともに、仕上げ用DVDは、制作局、制作局長と東京制作部長、および編成局に納品、チェックされ、放送に至ります。今回の『幸せの時間』も同様な過程を経ております。以上が、番組の企画意図と放送に至るまでの経緯です。
【性的描写について】 『幸せの時間』は、ある家族の崩壊と再生を描くことによって、現代社会における家族の本質、夫婦の絆、親子関係などを浮き彫りにする作品です。したがって、家族構成も父、母、長男、長女といういわばモデルケースのような4人家族を設定し、念願のマイホーム購入と引っ越しという幸せの絶頂からのスタートを考えました。そして、家族崩壊のプロセスを描いていく上で、家族4人それぞれがやがて抱えていく問題として、浮気、不倫、援助交際、同棲、親子の断絶、金銭問題、嫁姑問題などを物語の中に織り込みました。これらの事象の一つ一つは各家庭単位では相違があるかとは思いますが、今の日本社会における家族の持つ問題となっているのではないかと考えます。固い絆で結ばれていると信じていた家族が、さまざまな事象によって崩壊していく様子や、抱える秘密や嘘に苦しむ心情など、描きたい問題にリアリティーを持たせてその本質を描くために、また視聴者には、映像という手段を用いて、より身近な問題としてとらえていただき、現実社会で起きていることであるという実感を持っていただきたく、登場人物それぞれにその設定上の性表現を行いました。またその表現方法と映像は、作品全体を総合的に見て、弊社の放送基準に則ったものであるとの認識の上で制作いたしました。
【視聴者意見を受けて改編】 ドラマの意図である家族の本質を描くため、またリアリティーを表現するために、制作・演出したものであっても、制作側の思いとは別の印象、感想を持たれた視聴者の方々の声や、厳しいご意見が放送直後から多く寄せられました。物語の展開がこのあとどうなっていくのかという興味や、視聴動機と同様に、その場面ごとに何を伝え、何を感じていただきたいのかが分かるように演出し、お伝えしていかなくては、ドラマを見続けていただけることができなくなります。制作意図やそのドラマで描きたいことが伝わらない状況になってしまうということは、プロデューサーとしては避けなければいけないと思い、制作局・編成局で協議をし、第8回の放送から改編を決めた次第です。

◆東海テレビと委員との意見交換概要

<論点1 地上波放送の公共性>
Q.しかるべき料金を支払って観る「映画」、「有料課金チャンネル」と、自宅にいて誰もが自由に無料で視聴できる「地上波放送」では、同じ放送とはいっても求められる公共性は異なりますが、東海テレビは地上波の公共性についてはどのように認識されていますか。
A.いつでも誰でも視聴ができる環境にある地上波の放送を制作するうえで、それに伴う責任を認識して番組制作に当たるのは当然の責務と考えています。

<論点2 性的表現と東海テレビの放送基準について>
Q.東海テレビが自主的に改編を行うまでの第1回から第7回放送分の本編と予告に採用された性的シーンについて、当該シーンはなぜ必要とされたのですか。当該シーンを採用するにあたりどのような議論が行われましたか。当該シーンを放送可能と判断した理由は何ですか。その際、民放連放送基準と自社の放送基準とを照らし合わせ、これらを放送可能と解釈した根拠は何ですか。
A.東海テレビは約50年間帯ドラマを制作してきましたが、その間描こうとしているのは一貫して人間の本質を突くドラマです。きれいごとばかりでなく、光と影を含めた人間の本質を描こうという姿勢は変わりません。その中で描かれるシーンは当然放送基準に沿ったものと認識していますし、トータルとして当然きちんとした作品を作ってきたつもりです。

Q.ドラマは「テーマ・全体像」「文脈・構成」「表現・演出」――の3要素で成立すると考えますが、たとえテーマや文脈が理解されたとしても表現に問題がある場合があります。民放連放送基準及び貴局の放送基準の第8章「表現上の配慮」(43,48項)や第11章「性表現」(73,75,76,78,79項)が規定するのはそのことで、今回は全体像ではなく個々の表現が問われているのではありませんか。
A. 一つ一つのシーンは、ドラマを作っていくうえでの必然性と必要性があり、ドラマ全体の流れの中で持つ意味合いが視聴者にどのように受け止められるかを判断して制作しました。従いまして、全体をご覧になっていただければ、個別のシーンも視聴者にご理解いただけるものと考えました。

Q.視聴者意見を受けて第8回以降に改編を行ったことについて、どのような理由から改編を判断されたのですか。具体的に、どのような改編が行われましたか。
A.基本的にはドラマ全体を見ていただきたい、リアルに描きたいという演出意図が私どもの本質ではありますが、それが届かないということであれば、性的表現も含めて全体の演出を考え直して修正をしました。具体的には、物語の展開上必要なセリフを残し、性表現も登場人物のアップ、上半身の映像を中心に編集をいたしました。

Q.制作に女性スタッフは関与しましたか。制作過程で女性スタッフとはどのような意見が交わされましたか。
A.総勢70名ほどのうち、15名程度が女性スタッフです。脚本が完成した段階で、出演者、制作プロデューサー、女性の演出家、衣装・メークなどの女性スタッフを交えて意見交換し、何度も協議を重ねて撮影に臨みました。

<論点3 放送時間帯について>
Q.午後1時半から2時という昼の時間帯において視聴者が過激と感じた性表現を含む番組を放送するにあたり、社内でどのような議論・検討が行われましたか。その際、青少年への配慮はありましたか。また、視聴者意見にあるように、「風邪などで学校を休む子ども」や「就学前の子ども」、また「試験期間中の中高生」が視聴する、あるいは「病院などの公共の場に設置されたテレビを通して子どもたちが目にする」可能性がありますが、こうした状況が起こりうることへの配慮はありましたか。
A.学生や子どもたちが長期の休みに入る夏休み、春休み等の時期については、番組のテーマに性的な描写や暴力的なシーンのないドラマを放送するよう年間のラインアップを決めております。確かに病気で休まれたりするお子さんがいることがあるかもしれませんが、この時間帯のキッズ・ティーン(4~19歳)までの構成比が5%という時間帯です。ただ、だからと言って配慮が必要ないとは考えていません。この時間帯だけでなく、24時間すべてで放送基準に照らし合わせ、青少年に対する配慮を念頭に番組作りを行うことが基本スタンスです。

<論点4 女子中学生の性的シーンについて>
Q.「女子中学生が成人男性に恋をして衣服を脱ぐようなシーン」をどのような認識をもって制作されましたか。改編後の第8話以降では修正等は行われたのですか。
A.原作者の意図をリアルに届けたいと思い演出をいたしましたが、そこに至る当人の心情を前後で綿密に描いて、制作放送しているつもりです。家族のさまざまな状況の中で、人を助けたいという当人の思いはきちんと描かれていると思います。しかし、視聴者からのご意見をいただく中で演出上行き過ぎない形で変更をさせていただきました。

Q.修正を行ったためにドラマのリアリティーが損なわれ、制作者の意図するドラマが視聴者に届けられなかったと考えますか。
A.私どもの演出表現の最初の部分でドラマの本質が視聴者に届けられなかったとすれば、未熟な演出であったときちんと受け止めたいと思います。視聴者の皆様にどのようにご覧いただけるかという点と、私どものクリエイティビティをどのように合致させていくかについては、視聴者の方の反応をきちんと受け止め、今後しっかり制作してまいりたいと思います。

意見交換終了後、各委員から感想が述べられ、今後の審議の進め方について協議し、次回141回委員会で改めて審議することとした。

◆当該番組に寄せられた主な視聴者意見

  • 昼間の時間帯に、このような性的シ-ンのあるドラマを放送する必要性があるのだろうか。大いに疑問に感じる。放送局の倫理観を疑う。
  • 日中に放送する必要性、相当性、合理性を欠いており、社会通念上著しく不適切である。したがって、今後の放送内容を社会通念上相当なものに是正すると同時に、放送局として放送内容のチェック体制を見直すべきである。
  • 昼間のテレビで、あそこまで性描写をしても問題がないのか。学校行事の関係で、子どもが早く帰宅する日もある。制作者サイドは、このドラマが子ども達の目に触れることをどのように考えているのか。
  • 大人のみが試聴できるチャンネルで放送するならともかく、地上波だ。もっと放送内容を自粛していただかないと困る。

◆民放連 田嶋番組部長による放送基準等に関する説明概要

田嶋部長からはまず、民放連の放送基準が定められた歴史的な経緯が説明され、民放連放送基準と各放送事業者の定める番組基準とは、誰からも強制されたものではなく、また公権力からの規則なども排して、放送表現の自由を保持するための自主的なルールであり、放送事業者と社員一人一人が自社の番組基準の位置づけと思想を理解し、社会の信頼を確保して番組制作に当たることが大前提であると述べられた。つぎに、児童・青少年に対する配慮については、放送基準の前文に「児童および青少年に与える影響に留意して番組相互の調和と放送時間に留意すること」が明記されていること、また1999年に加筆された第18条では「放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分配慮する。」と定められ、その解説文では特に暴力・性については放送時間帯に細心の注意が求められていることを強調していることが、説明された。

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