第255回 – 2018年2月
沖縄基地反対運動特集事案の審理、審理要請案件…など
沖縄基地反対運動特集事案の「委員会決定」案を検討し、了承した。命のビザ出生地特集事案を審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。
議事の詳細
- 日時
- 2018年2月20日(火)午後4時~10時55分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.沖縄の基地反対運動特集事案の審理
2.審理要請案件:命のビザ出生地特集に対する申立て
3.その他 - 出席者
-
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員、水野委員
1.「沖縄の基地反対運動特集に対する申立て」事案の審理
対象となった番組は、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)が2017年1月2日と9日に放送した情報バラエティ―番組『ニュ―ス女子』。2日の番組では、沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対運動を特集し、軍事ジャ―ナリストが現地で取材したVTRを放送するとともに、スタジオで出演者によるト―クを展開、翌週9日の同番組の冒頭、この特集に対するネット上の反響等について出演者が議論した。
この放送に対し、番組内で取り上げられた人権団体「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉氏が申立書を委員会に提出、「本番組はヘリパッド建設に反対する人たちを誹謗中傷するものであり、その前提となる事実が、虚偽のものであることが明らか」としたうえで、申立人についてあたかも「テロリストの黒幕」等として基地反対運動に資金を供与しているかのような情報を摘示し、また、申立人が、外国人であることがことさらに強調されるなど人種差別を扇動するものであり、申立人の名誉を毀損する内容であると訴えた。
これに対しTOKYO MXは、「申立人の主張は本番組の内容を独自に解釈し、自己の名誉を毀損するものであると主張するものであり、理由がないことは明らか」との立場を示し、また、虚偽・不公正であるとの申立人の主張については、「制作会社において必要な取材を尽くしたうえでの事実ないし合理的な根拠に基づく放送であって、何ら偽造ではない。申立人が主張するその他の事項についても同様であり、本番組の放送は虚偽ではなく不公正な報道にも該当しない」と述べている。
今月の委員会では、2月に入って2回開かれた起草委員会を経て修正された「委員会決定」案を審理、読み合わせをしながら表現、字句等を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。その結果、3月上旬に通知・公表を行うことになった。
2.審理要請案件:「命のビザ出生地特集に対する申立て」
上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害から逃れた多くのユダヤ人を救った外交官・杉原千畝の出生地について、CBCテレビが2016年7月12日から2017年6月16日までに報道番組『イッポウ』で10回にわたり放送した特集等。番組では、岐阜県八百津町が千畝の手記などいわゆる「杉原リスト」をユネスコの「世界記憶遺産」に登録申請したのを受けて、千畝が「八百津町で出生」という通説に一部で疑念が生じているとして、千畝の子供で唯一存命の四男・伸生氏(ベルギー在住)が取り寄せた戸籍謄本には、千畝が八百津町ではなく、「武儀郡上有知町」(現在の美濃市)で出生したと表記されていたことや、千畝の手記(下書き原稿)を入手して調べたところ、出生地が「武儀郡上有知町」が二重線で消され、「加茂郡八百津町」に書き直され、伸生さんは書き直した文字は「父の筆跡ではない」と話し、筆跡鑑定士も「千畝のものと違う」と鑑定した等と放送した。
この放送に対し、手記を管理しているNPO法人「杉原千畝命のビザ」およびその理事である杉原千弘氏と杉原まどか氏、平岡洋氏の3氏が委員会に名誉毀損を訴える申立書を提出。この中で、番組ではユネスコに提出された本件各手記を「杉原千畝命のビザ」が保管していることを杉原まどか氏と平岡洋氏に確認させ、直後に「鑑定士」2人が本件各手記は偽造文書であると決めつける発言をそのまま放送したことから、「一般の視聴者は、本件各手記は偽造されたものとの印象を受けた」と主張した。
さらに、杉原まどか氏及び平岡洋氏が本件各手記の真正を述べるインタビューを放送した直後に、「違うよ、こんなの」だとか、「裁判所からの鑑定だったら、完全に違う、と言う。」と、「鑑定士」が両氏のインタビュー内容を徹底的に否定してみせたことにより、「かかる構成からすると、杉原まどか及び平岡洋が偽造者であるとの事実を摘示している」と述べた。
申立書は、「私文書偽造は犯罪であり、しかもそれをユネスコに提出して偽造私文書を行使したというのだから、本件放送が杉原まどか及び平岡洋の社会的評価を低下させることは明らか」で、また本件各手記の保管者である「杉原千畝命のビザ」の社会的評価も低下させ、「本件各手記の真実の保管者は杉原千弘であること、同人は杉原千畝命のビザの理事であることから、杉原千弘の社会的評価も低下させる」と主張した。
申立書は放送による具体的被害として、それまで半年間に十数件あった申立人らへの講演依頼が、放送後はほとんどなくなった点等を挙げ、CBCテレビに対し、「本件各手記はいずれも杉原千畝が書いた真正なものである」との趣旨の訂正を番組内で放送するよう求めている。
申立人とCBCテレビは、委員会事務局の要請に応じて面会し、話し合いによる解決を模索したが、双方の主張は折り合わず、不調に終わった。
これを受けてCBCテレビは2018年1月30日付で「経緯と見解」書面を提出、「申立人が主張する『杉原千畝の手記とされる文書を、偽造文書と決め付けるような放送』は、行っていない。従って、申立人が求めている訂正を、放送する考えはない」と述べた。
同局は、八百津町が町内に設置した「杉原千畝生家跡」との看板を後に「実家跡」に書き換えたことをきっかけに取材を始め、番組は世界記憶遺産登録申請の「活動の根幹(根拠)となる『八百津町で出生』という通説が揺らいでいることを報じたもので、この"霧"を晴らすことが地元メディアの役割であり、真っ当な世界遺産登録への道と考えた。正確性、真正性が厳格に問われるユネスコの審査に、疑義を残したままで大丈夫なのか。登録申請者である八百津町の姿勢に警鐘を鳴らすとともに、世界に胸を張って杉原千畝の業績の顕彰を進めるため、この機会に、地元や研究者の間にくすぶる千畝の出生地の疑問、及びその根拠を再検証する必要があると考え、一連の報道を行った」と説明した。
また「一連の取材でキーになったのが、千畝の子どもで唯一存命の四男・伸生氏へのインタビューと、彼が入手した千畝の戸籍謄本などの一次資料」とし、出生地に関する手記の書き直しが、伸生氏が指摘するように別人によるものかその可能性を探るため「利害関係のない専門家」に筆跡鑑定を依頼したところ、「下書き原稿の出生地書き直しは、千畝とは別人の筆跡である可能性が高い。」という結果が出たと指摘。ただ、「筆跡鑑定は絶対ではなく、あくまで判断材料の一つ」として、「放送は、手記が真正か、偽造されたものかという判断には踏み込んではいない。但し、下書き原稿の出生地の書き直しに限っては、筆跡鑑定の結果を含めた総合的な判断として、不自然さが残ることを指摘した。申立人が指摘する『手記は偽造文書だ』という旨の放送は、行っていない。また、申立人が指摘する『杉原まどか氏および平岡洋氏が手記を偽造したという印象』を、この放送を視聴された一般の方が抱くとは思えない」と主張した。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
3.その他
- 3月13日に開催される2017年度BPO年次報告会について事務局長が説明した。
以上