放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2017年11月28日

四国地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会

放送倫理検証委員会と四国地区テレビ・ラジオ各局との意見交換会が、2017年11月28日、愛媛県松山市で開催された。放送局側からは14社51人が参加し、委員会からは川端和治委員長、神田安積委員、斎藤貴男委員、渋谷秀樹委員の4人が出席した。放送倫理検証委員会は、毎年各地で意見交換会を開催しているが、四国地区での開催は初めてである。
今回は、第1部で、9月に委員長談話が公表された「インターネット上の情報にたよった番組制作」について、第2部では、2月に公表された「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見(決定第25号)」と10月の衆議院議員選挙の各局の報道を主な議題として意見交換を行った。

第1部では、川端委員長が、「インターネット上の情報にたよった番組制作についての委員長談話」を公表するきっかけとなった、フジテレビの『ワイドナショー』『ノンストップ!』の二つの番組事例を取り上げ、問題点などについて説明した。
その上で、「インターネットの情報はさまざまな人が発信している。信頼できる人が参考になる情報を書いている一方で、悪意を持った人が故意にニセの情報を流すこともある。また、悪意はないが、間違った情報を前提に意見を書いてネット上で話題になっているものもある」と指摘。「番組制作にあたっては、ディレクターなどより現場に近い人が確信を持てない情報を扱うときや、プロデューサーなどチェックを行う人が情報が正しいかどうかわからないときには、放送しないという決意とそれを貫く強さを持つことが重要だ」と発言した。また、「番組制作者は番組をきちんと作っていることに対して矜持を持たなければならない。矜持を持てる番組を作ることのできる制作体制や現場環境が、放送局の中に用意されることが必要だ」と述べた。
参加者からは、「若い人を中心にインターネット上の情報によって情報を確認する傾向が強まっている。インターネットは情報の端緒をつかむものであって、そこから先は対面や電話で当事者に情報を確認するよう指導しているが、時間の制約などがあり、常にリスクを感じている」「効果的なのはインターネット上の情報には間違いがあることを実体験させることだ。それを経験したことで慎重になった事例がある」などの感想や意見が出された。
これに対して、斎藤委員は「ネットと同じものをテレビがやるならば、かつて速報性で新聞がテレビに負けていったように、ある意味での面白さではテレビもネットに負ける日が来る。今のうちからテレビならではの放送のあり方を模索していく必要がある」と述べた。また、神田委員は「SNSなどからの写真の引用は、使い方次第でメディアの選択基準が重く問われる。取り扱いを間違えると、本来使える写真や実名が使えなくなることにもつながるので、自問自答を繰り返していく必要がある」と指摘した。
続いて、意見交換会の直前に松山市内で発生した車両暴走事件のニュース映像を視聴し、視聴者提供の映像使用について意見交換が行われた。
参加者からは「車が広範囲に走ったため、当初、事件の実態がつかめなかったが、ネットには個人のスマホで撮影した映像や情報が瞬時にアップされた。そうした映像を探し許諾を得て使用した」「一般のニュースでも投稿映像を使用することは数多くあるが、その映像がどういう状況で撮られたかなど、背景を確認しなければ確実な放送はできない」などの報告が行われた。また「悪意や金銭目的、マスコミをだましてやろう、などと思う人もいることを常に意識して映像を使用することを考える時代に来ている」という意見も聞かれた。
これに対し渋谷委員は、「ネットは情報の海で玉石混交だ。見極めるのがメディアの仕事であり、真贋が確かめられないときどういう態度をとるかが重要だ。いったん信頼が失われると、積み上げてきたものが一気に崩れてしまう」と指摘した。なお、参加者からは「昨今は事件が発生した際、そこにいる一般の人の多くが現場にカメラを向けている状況にある。メディアが一般の人からの投稿をあおるような社会が行きつく先に懸念を感じている。一枚の写真を使う重さを、どのように次の世代に伝えていくかを考えている」との意見が聞かれた。
一方、ラジオ局の参加者からは「ネットの情報をうまく使い、人手不足やコストの問題に対応することはテレビ以上に切実だ」という意見が出された。

第2部では、まず、台風の直撃と開票が重なった10月22日の衆院選について、開票速報と災害報道の扱い方について各局の状況が報告された。これに続き川端委員長から、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」を公表した背景について説明があった。この中で川端委員長は、「選挙は社会に大きな影響をもたらすにもかかわらず、本当に大事なことが視聴者にきちんと伝わっていないのではないかという危機感を持った。背景にはテレビ局側が選挙報道を非常に窮屈に考えている傾向がある」と述べた。一方、10月に行われた衆院選については、「昨年の参院選に比べ萎縮は少なかったと感じるが、投票率が示すように、非常に重要な政治的選択についての国民の反応が低調である状況は変わっていない」と指摘した。
その上で、「テレビは選挙における役割を果たすため、さらに工夫をし、視聴者が関心を持つような企画をやってほしい。事実をゆがめない限り放送は自由であり、勇気をもってやってほしいというのが願いだ」と述べた。
これに対し参加者からは、「質の平等というが、選挙陣営から候補者を取り上げる時間についてクレームが寄せられ、対応に苦慮することもある。インタビューなど各候補を取り扱う時間が同じというのが一番わかりやすい説明になる」「何が争点で、ここをもっと見てほしいという部分を打ち出したいと思いながら、扱いの尺やサイズ合わせといった守りに入りがちだ」などといった現場の悩みが聞かれた。
これに対し渋谷委員は「各局がどういう判断で放送内容を絞ったかをきちんと説明できることが重要だ。できるだけ真実を確かめて有権者に知らせ、判断材料を提供することが放送局の使命だ」と指摘した。また斎藤委員は「各政党はそれぞれ都合のよい争点を打ち出してくるが、何を重視して投票したらよいのか、日頃取材しているメディアだからこそわかることを、きちんと伝えてほしい」と要望した。神田委員は「今回の選挙を振り返り、意見書の内容に基づいた実践ができたのか、反論がありうるのかを検証し、その視点から憲法改正の際にあるべき報道、放送を今から考えてもらいたい」と述べた。
最後に川端委員長が「民主主義のために皆さんが背負っている責務は極めて大きい。憲法改正のための国民投票が行われる際には、どういう報道がなされるかによって日本の将来が決まる。つまり報道する皆さんが日本の将来を決めることになる。その役割を担っていることを肝に銘じ頑張ってほしい」と、放送に対する強い期待を表明し、3時間にわたる意見交換会の幕を閉じた。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

(インターネット情報について)

  • 他社の事例等を聞き、使おうとしている情報が正しいものかどうか、きちんと裏取りすることの重要性を改めて認識した。疑問が残る場合はその情報の使用を「あきらめる」勇気を持つことが、ネット社会で番組を作る私たちに今後いっそう求められると感じた。理想論、建前論ではなく、マスコミとしての責任であると同時に自分たちの価値を守ることにもつながるものと考える。

  • ネット上の画像を確認なく使うことはないが、データや文言などを参考にするときは真贋がグレーであるケースも少なくなく、大きな影響がないときは突っ走ってしまうときもある。「はっきりしない時には放送しないという決意とそれを貫く強さを持つことが必要」との言葉は重く受け止めた。また、他局の現場での苦労や取り組みを聞けたのも参考になった。

(選挙報道について)

  • 反省を込めて言えば、眼や耳で客観的に量ることができる量的公平性だけが、一種のエクスキューズとして情報発信者の拠り所となってしまいがちだ。しかしマスコミ側がこうした安易な報道をする限り、視聴者(有権者)が得るべき情報の質は向上しない。その結果、選挙そのものが「軽い」ものになってしまい、量的公平性でしか判断されない報道の土壌を作ってしまうのだと思う。自分たちの報道の自由のためにも、質的公平性を一義とした報道のあり方を模索したい。

  • 選挙報道についてのBPO意見書は、最近萎縮しがちな報道現場への激励メッセージと受け止めた。意識を根本的に改め、「質的公平性」を追求していきたい。

(BPOについて)

  • BPOという機関を一放送局としては「俎上に載せられる、載せられない」といった視点でとらえてしまいがちだが、意見交換会に出席し、改めて自分たち自身の利益、つまり放送の価値向上や報道の自由のために存在しているのだとの思いを強くした。今回は各局の管理職の方の参加が目立ったように感じたが、若い記者やディレクターにも参加してもらいたいと思う。

  • BPOという組織が、顔が見える組織になった。その意味で地方での開催は意義深い。若い現場世代が参加できるものであれば、本当にBPOの意義が高まるのでは、と思った。

  • もっとざっくばらんに具体的な話(悩み、葛藤)ができる雰囲気がほしかった。

  • 日々の番組制作に忙殺されて、普段は意識が薄くなる恐れがある放送の本質的なことを改めて指摘され、大変参考になった。今後とも“責任ある放送”を心がけていきたい。

以上