放送人権委員会

放送人権委員会  決定の通知と公表の記者会見

2016年2月15日

「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の通知・公表

[通知]
前事案に引き続き午後2時から、本件の通知を行い、申立人と、フジテレビ側からは編成担当者ら4人が出席した。
まず、坂井委員長が「決定の概要」と「委員会判断」をポイントに沿って読み上げる形で「本件放送には名誉を毀損する等の人権侵害があるとは言えないが、放送倫理上の問題があると判断した」との結論を伝えた。決定について申立人は「自分の主張がこれだけ認められたというのは、一つ大きな区切りがついたのかなと思っている」と述べた。
また、フジテレビ側は「作り手はギリギリのところを狙ってしまう。今までがやり過ぎだというご判断ですが、程度の問題はありつつも、今のテレビの作り方、在り方みたいなことに関わってくるかなと感じた」と述べた。
市川委員長代行は、「普通の報道番組なら、当然、裏を取って、本当にそうなのか、本当に共謀しているのか、というところを丁寧にやるが、今回は、いかにバラエティー番組とはいえ、許される範囲をはみ出し過ぎてしまっている」と述べた。
紙谷委員は「たとえば警察にもう少し情報の確認をすると、少しは事件の見方が変わったかもしれない。情報提供者の一方的なストーリーに乗せられることはなかったかもしれない」と述べた。

[公表]
午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

まず坂井委員長が「本件放送には申立人の名誉を毀損する等の人権侵害があるとは言えないが、放送倫理上の問題があると判断した」との結論を述べたうえで、委員会決定の申立人の同定可能性とフジテレビの反論を中心に解説を行った。そして放送倫理上の問題について「取材対象者の名誉、プライバシーも大事だが、放送される人の名誉、プライバシーも考えなければいけないのに、そこが足りてなかった」と述べた。
市川委員長代行は「本件は情報バラエティーということもあって、事実から離れてもいいと考えてしまったがゆえに、取材、事実に迫る努力が疎かになってしまったのではないか。この点が、本件での留意点になると思う」と述べた。
紙谷委員は「関係者の名誉とプライバシーをもっと慎重に考えていただきたい。暴いていいということではないが、両者、あるいは関係者全体に対する配慮は必要であるということを強調しておきたい」と述べた。

続いて質疑応答が行われた。

(質問)
第58号と第59号両件に関わるが、フジテレビ自身はそもそもこの件は、いわゆる架空のケースとして紹介しようとしたのか。それとも、特定の事件だが分からないように伝えようとしたのか。
(坂井委員長)
架空のケースということではないと思う。実際の映像や音声を放送しているわけだから。もちろん、ぼかし等をかけてはいるし、音声も変えてある。まったく架空ではないが、現実そのものとして放送したわけではない、という考えだったと思う。

(質問)
ストーカーはしていて、書類送検もされているが、それでも本人と同定されることについて、委員会で批判、指摘されているということは、要するに、本人が特定されて、この人がやったということが一般に、公に報道されることで行き過ぎとの批判なのか、それとも匿名性を持たせようとしていたのに、ちゃんとやれてないじゃないかということか。
(坂井委員長)
同定されたこと自体を批判していない。同定されたケースで名誉棄損になる事実を摘示した場合、それでも公共性、公益目的が認められて、真実、ないしは真実であると信じるに相当であると認められれば問題とはならない。本件では、摘示した名誉棄損にあたる事実の主要な部分、基本的な部分は真実であると認められたから、名誉棄損にはあたらない。
第58号、第59号に共通するが、事実として報道する以上、再現と言えども真実に迫らなければいけないし、両当事者に取材しなければいけない。そこは放送倫理上の問題があると言っている。同定されるように放送するなら、ちゃんと取材をして、真実性立証ができなくてはいけないし、できたとしても、取材のやり方として問題があったところはありますよ、そういう放送倫理上の問題点だ。

(質問)
乱暴な言い方になるかもしれないが、たとえばバラエティーを作る体制では、ちょっと手に余る事案だったということか。
(坂井委員長)
そこは、こうだと断言するわけにはいかない。もし、手に余るのであれば、現実から離れるという選択肢はある。現実につながったことを放送してしまうことから、視聴者が、ああこれは現実なんだと受け取る。多少の改編があってもそれがどこか分からないからだ。そこで、こういう問題が生まれる。もし、しっかり取材できないのであれば、これは現実だと受け取られるような形を避けなくてはいけないということだと思う。
誇張や架空の部分も含めて現実なのだと受け止められる放送をしてしまったら、これは現実ではないですよとテロップが入っても、視聴者は全体として現実だと思ってしまう、そういう作り方の問題だ。それは、現実の映像や音声が入ったうえで、再現ですと言ってしまうことからくるのだが、そうなってしまったら、局は責任を取らなくてはいけないのであって、そういう名誉毀損になるような作り方はやってはいけない。このような作り方をするのだったら、そこまで配慮しなければいけないということだろうと思う。なぜかと言うと、関係者の名誉やプライバシー、もっとストレートに言うと、放送されてしまう人の名誉やプライバシーを考えなくてはいけないからだ。

(質問)
AさんとBさんにこの結果を伝えた時の感想について。
(坂井委員長)
二人とも、結論は違うが、Aさんの方は名誉棄損を認めて頂いたことはありがたいと。どうしてこんなふうに放送されたのか、未だに納得がいかないということだと思う。Bさんの方も、名誉棄損ということは認めないけれども、放送倫理上の問題は、はっきり言っている。それについてはありがたいという感想だった。
(市川委員長代行)
Aさんに関しては、名誉棄損のところで触れているように、社内いじめの中心人物、あるいは首謀者という扱いをされたこと、そのこと自体に対して、それは違うと。私はそうではなかった。そこが主張の骨子であり、まさにそこに答えて頂いたというふうに思って頂いた、理解して頂いたと思っている。
Bさんにも、納得を頂いた部分はあるようだ。事件の背景等について、もう少し自分にもちゃんと取材をして、自分なりの弁明をさせてほしかったという気持ちはあったようで、その点をBPOが指摘したことは、ありがたいという印象を持っていたようだ。

以上