第96回–2015年9月
"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』ほかを審議…など
第96回放送倫理検証委員会は9月11日に開催された。
新たに岸本委員が就任し、今回から出席した。
"出家詐欺"の報道について審議している、NHK総合の『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』について、担当委員から意見書原案が提出された。内容や表現についてさまざまな意見が出され、次回委員会に修正案を提出して、意見の集約を目指すことになった。
韓国での街頭インタビューの翻訳テロップと吹き替え音声が一部違っていたフジテレビの『池上彰 緊急スペシャル!』について、討議を継続した。誤って編集された映像を正しい映像に差し替えた番組が8月末に再放送され、誤りの起こった経緯が的確に分析された報告書も提出されたことから、実質的な訂正放送も行われ、放送の自主的自律的な是正がほぼ完全になされているので審議入りの必要はないと判断した。この報告書は他の放送局の参考にもなることから、当該局の了承を得てホームページなどで公表することになった。
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』で使用された大阪都構想のニュース映像とそれに付されたテロップ等が、政治的公平性を欠くとして自民党から抗議を受けた事案は、当該局から最終報告書が提出された。局はお詫びをホームページに掲載し、謝罪した政党側から新たな動きもなく、再発防止策もまとまっていることから、討議を終えることになった。
議事の詳細
- 日時
- 2015年9月11日(金)午後5時~8時45分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1. "出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』他の審議
2. 韓国人へのインタビューの翻訳が間違っていたフジテレビの日韓問題番組『池上彰 緊急スペシャル!』の討議
3. 既得権益問題をめぐる映像使用について政党から抗議を受けたテレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』の討議 - 出席者
-
川端委員長、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員
1."出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議
NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受け法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介した。
この番組で、多額債務者に"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張しているのに対して、当該局は「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」とする報告書を公表している。
委員会では、番組関係者へのヒアリングやこれまでの議論を踏まえた意見書原案が、担当委員から提出され、出家による改名の相談場面の取材・制作の手法にどんな問題があったのかなどについて、2時間近い意見交換や議論が行われた。その内容を盛り込んだ修正案を担当委員が作成し、次回委員会で意見の集約を目指すことになった。
2.韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの日韓問題番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議
フジテレビは、6月5日の情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』で、韓国での街頭インタビューのうち、男女2人分あわせて約10秒間にわたって映像の韓国語音声と異なる日本語翻訳テロップと吹き替え音声を放送していたことが分かり、ホームページなどでお詫びした。
委員会は前回の議論で、当該局の報告は、編集上のミスが重なった経緯などが詳細に検証されていると評価する一方で、局が存在すると主張している、日本語翻訳と一致する映像が実際に存在するのかという視聴者の疑問は解消していないなどとして、討議を継続していた。
当該局は8月29日、この番組を首都圏ローカルで再放送し、問題となったインタビューについて、字幕は本放送のまま編集の際誤って選択された映像を正しい映像に差し替え、韓国語が聞き取れる形で紹介した。この音声と字幕が合致することは、委員会が独自に依頼した通訳によって確認された。
委員会は、ミスが起きた経緯の的確な検証や再発防止策が他の放送局の参考になるとして、当該局に報告書の公表への協力を依頼したところ了解が得られ、固有名詞などを修正した公表用の報告書が提出された。
当該局が自主的自律的に行った事実上の訂正放送ともなる再放送により「放送の誤りを放送で正した」ことや、報告書のホームページなどでの公表に同意が得られたことを総合的に判断して、委員会は審議入りしないことを決めた。
【フジテレビ「『池上彰 緊急スペシャル!』の報告書】
フジテレビから公表の了解が得られた「『池上彰 緊急スペシャル!』インタビュー映像誤使用問題に関する検証および再発防止策」は、放送倫理検証委員会の川端委員長の前文を付して、2015年10月6日、ホームページ上に公表した。
公表にあたって – 委員長前文
フジテレビ – 「『池上彰 緊急スペシャル!』インタビュー映像誤使用問題に関する検証および再発防止策」
3.既得権益問題をめぐる映像使用について政党から抗議を受けたテレビ大阪の情報番組『たかじんNOマネーBLACK』を討議
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』(5月30日放送)で、在日外国人のゲストのひとりが「日本人は怠け者で既得権益を守りすぎる」と指摘した際に、大阪都構想のニュース映像が流れた。「たとえ社会の発展や活性化につながるものでも」とのナレーション部分に橋下大阪市長の映像が約4秒間、「既得権益のために政治が利用されてしまっているのが今の日本の姿」とのナレーション部分には自民党大阪市会議員団幹事長の映像が約6秒間、テロップとともに使われていた。
自民党側の抗議を受けて、当該局は自社ホームページにお詫び文を掲載し、自民党側に謝罪した。一方、自民党側からは議員団幹事長名で、委員会あてに「政治的公平性を欠く映像使用」だとする文書が届いた。
当該局の最終報告書によると、社内に調査部会を設けて検証した結果、担当ディレクターの思いつきで映像を使ったこと、放送前のチェック段階で疑問を指摘する声が複数あったにもかかわらず修正には至らなかったことなどが判明したという。そして、再発を防ぐため、社内あげての研修会を今秋実施すること、注意が必要な社内情報の共有化を徹底すること、視聴者にお詫びする際のガイドラインを作成することなどを決めた。
委員会は、報告書にはまだ十分とは言えない部分が残るものの、再発防止策がまとまり、お詫びも既になされていて、自民党側から更なる抗議などの動きもないことから、討議を終えることにした。
[委員の主な意見]
- ゲストの在日外国人が大阪都構想については何も言及していないのに、そのニュース映像を使用し、自民党側を「既得権益にしがみつく怠け者」であるかのように放送したのは、名誉毀損的な表現として問題があった。十分に反省して今後の教訓にしてほしい。
- 放送前の社内チェックで問題を指摘する声がありながら、なぜそれを反映させることができなかったのか。今後、注意を喚起すべき声が出た時に、それを具体的にどのように共有化するのか。報告書には、まだ十分とは言えない部分もあるので、きちんと議論して詰めてもらいたい。
- ホームページに掲載されたお詫び文は説明不足で、視聴者や関係者に何を謝っているのかよく分からなかった。なぜそうなったのかをさらに検証してほしいし、このようなお詫び文にすべきだったという実例を、委員会に報告してほしかった。
- 当該番組は、この問題が発生する前から、6月で終了することが決まっていたということだが、政党から抗議があったから打ち切ったと誤解されるおそれもあるのではないか。その経緯について、報告書にきちんと記載してほしかった。
以上