「ストーカー事件映像に対する申立て」審理入り決定
放送人権委員会は6月16日の第221回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イ
ジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供
された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。
登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加
害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が5月1日、
番組による人権侵害を訴える申立書を委員会に提出。この中で、「放送上は全て仮名で特定でき
ないようになっていたが、会社の駐車場であることが会社の人間が見れば分かると思われ、また
車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易にわかる内容」だったとするとと
もに「会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう。特定されて
しまった上に内容が事実と大きく異なる」として訂正を求めている。
また申立書は、「番組の放送前にこの事件の関係者と思われる人が具体的にわが社がテレビに取
り上げられ、従業員にストーキングしている人物が自分であるということを広められ、また犯罪
行為をしたということが関係会社にもばれてしまったので、会社には置いておけないということ
で退職せざるを得なくなった」と主張している。
これを受けてフジテレビは5月27日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の
中で、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という
問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所
や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声
を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、
放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送に
より特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張している。
またフジテレビは、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、本件
番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人自身も
自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
尚、本番組については、この会社の契約社員という女性から、再現ドラマ部分では自分が社内イジメの”首謀者”にされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容だったとして、名誉毀損を訴える申立書が委員会に提出され、5月の第220回委員会で審理入りすることが決まっている。
放送人権委員会の審理入りとは?
「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。
* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。