放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第83回

第83回–2014年6月

出演者の家族と偽って別人を出演させていたバラエティー番組について討議。審議入りせず。…など

第83回放送倫理検証委員会は6月13日に開催された。
委員会が3月に通知・公表した、日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、討議を継続した。委員会が討議の対象とした5局の7番組について、企画から取材・放送に至る経緯を詳細に把握するため、各局にヒアリングへの任意協力を要請したところ、2局2番組について承諾が得られ、ヒアリングが実施された。委員会はヒアリングの結果を踏まえて、次回も討議を継続する。
一般社会にうまく溶け込めない人たちが更生していく様子を紹介する関西テレビのバラエティー番組『千原ジュニアの更生労働省 元ヤン芸能人がダメ人間に喝!』(関西ローカルで2014年3月16日放送)で、出演者の家族と偽って別人を出演させていたことが判明した。討議の結果、委員会は、問題の程度が大きいとは言えず、自主的・自律的な是正措置も適切に行われているとして、審議の対象とはしないことを決めた。

議事の詳細

日時
2014年6月13日(金)午後5時~8時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員(新任)、藤田委員、升味委員、森委員

1.日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見への対応報告書を了承

3月5日に委員会が通知・公表した、日本テレビ『スッキリ!!』「弁護士の"ニセ被害者"紹介」に関する意見(委員会決定第19号)への対応報告書が、5月下旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、問題発覚後に策定された「取材ルールの改定」「チェックシートや出演承諾書の活用」「コンプライアンス研修の充実」などの再発防止策に加え、委員会決定後も「担当ディレクターら当事者が講師になっての研修の実施」や「専門性の高い分野の取材での放送ガイドラインの一部改訂」などに取り組んできたことが具体的に報告されている。
委員会は、この対応報告書を了承し、公表することとした。

2.「全聾の作曲家」と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について討議

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、討議を継続した。
まず、各番組の企画から取材・放送に至る経緯を詳細に把握するため、討議の対象として報告書の提出を受けた5局の7番組に対して、ヒアリングへの任意の協力を求めたところ、承諾が得られた2局2番組については既に実施したことが、担当委員から報告された。審議や審理入りをしていない事案について、委員会がヒアリングを実施した前例はなく、委員会の運営規則にも定められていないが、この事案について委員会の意見をまとめるためには不可欠であると判断し、各局にあくまでも任意の協力を要請したものである。残る3局の5番組に対しても順次協力を求める予定である。
また、佐村河内氏の自伝の内容が、7番組のなかでどのように表現されているかについて比較・検討を行った別の委員から、その結果が報告された。
意見交換の中では、取材の過程で佐村河内氏の「実像」に迫ろうという努力がどの程度なされていたのか、一部の取材者が断片的に感じたという「小さな違和感」はなぜ取材に活かされなかったのか、各局は問題発覚後に「騙されてしまった」とお詫びや訂正をしているが、各局がそろって誤った番組を制作して社会に大きな影響を与えたこと、特に、それに善意で協力した人々の心を傷つける結果になったことについて、真摯な反省を踏まえた原因や背景の検証をどこまで真剣に行っているのか、それは今後このような過ちを防ぐだけの内容になっているのかなどについて、さまざまな意見が出された。
そのうえで、「各局から報告書の提出を受け、各局にヒアリングをお願いした委員会こそ、横断的な視点でものが言える状況にある」「佐村河内氏を信じて放送に協力した人々、特に多くの子供たちのためにも、こうした失敗を繰り返さないためにはどうすればいいかを提言すべきだ」などの指摘も相次いだ。
委員会は、次回も討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 佐村河内氏の過去を知る人物にアプローチしようと努力した局も、佐村河内氏本人から強く拒否されて踏み込めないまま終わってしまっている。これまでのヒアリング結果を聞く限り、全体的に、佐村河内氏の主導で取材が進行した印象は否めない。

  • 取材者の中には、小さな違和感や疑問を断片的に感じたことはあったようだが、「障がい者だから」「病気がつらそうだから」「天才だから」などの理由によって、自分で自分を納得させてしまっている。取材スタッフの間でそれが共有され、お互いに議論していたら、どこかで踏みとどまることができたかもしれない。

  • 番組の多くは自伝の記述や、あらかじめ佐村河内氏本人が提示したストーリーに映像を当てはめているだけだ。そこに新しい発見や驚きがないものは、ドキュメンタリーと言えないのではないか。

  • ドキュメンタリーの体裁を採りながら、ドラマが入り込んだり、撮れないものを無理に映像化したりしている。これはドキュメンタリーを撮る者としての倫理観の欠如ではないのだろうか。

  • 取材中に佐村河内氏の嘘に気づくのは無理だったかもしれないが、真相が判明した今なら自分たちがどこでどのように騙されたのか踏み込んだ検証ができるはずだ。各局は、きちんとそれをしたと言えるのか。委員会の議論とは別に、各局が真っ先にやるべきなのは、その検証であり解明だろう。それをやらないままでは、同じ過ちを繰り返してしまうのではないか。

3.出演者の家族と偽って別人を出演させていた関西テレビのバラエティー番組について討議

関西テレビのバラエティー番組『千原ジュニアの更生労働省 元ヤン芸能人がダメ人間に喝!』(関西ローカルで2014年3月16日放送)で、出演者の家族と偽って別人を出演させていたことが判明した。
この番組は、一般社会にうまく溶け込めない人たちが、更生した芸能人のアドバイスを受けながら、番組内の企画に参加する中で更生していく様子を紹介するものである。ダメ人間だった5人の若者がカーリングの練習に取り組むなかで、お互いを認め合いチームワークを育んで、小学生の"実力チーム"にあと一歩まで迫った奮闘ぶりを、ひとつのコーナーとして約40分間放送した。出演者の家族や恋人などが更生前と後の様子を語る場面で、ひとりの若者の家族として登場した人物が実は別人であることが放送後に発覚した。
この番組は、関西テレビから制作委託を受けた制作会社が、さらにフリーのディレクターらに業務委託して制作されていたが、関西テレビの報告によると、番組収録の直前になって、出演者の家族の予定があわなくなり、フリーのディレクターの判断で、知人に代役を依頼して出演させたという。放送後、口止めされていた制作会社のスタッフからの連絡で事態が発覚し、このディレクターは関西テレビの社内調査に対して、やってはいけないことの区別がマヒしていたなどと答えたという。
関西テレビは、5月4日に視聴者へのお詫び放送を行い、さらに5月18日の自社検証番組『カンテレ通信』でも、問題点を整理して詳しく伝えた。
委員会は、別人を家族と紹介するのは真実性を損なううえ、制作段階でチェック機能が働かなかった点などは問題であるが、芸能人も出演するバラエティー番組であり、真実の過程の忠実な記録であることを強調する性格のものではないうえ、わずかの比重しか持たない一家族の出演場面での問題であり、視聴者の信頼を揺るがすほど問題の程度が大きいとは言えないと判断した。そのうえで、事後の自主的・自律的な是正措置も適切に行われていることから、討議の経過を委員会の議事概要には掲載するが、審議の対象とはしないことを決めた。

[委員の主な意見]

  • これまでも繰り返し指摘してきたことだが、局と制作会社やスタッフの間で日常的に円滑な情報交換やコミュニケーションが行われていたとは思えない。問題の本質はそこにあるのではないか。

  • 別人を家族として出演させたのは明らかに「虚偽」の事実であり、放送倫理に違反しているが、第三者に指摘される前にきちんとした事後対応はなされていた。

  • 同じバラエティーの『ほこ×たて』の場合は、番組の中核となる対決について「ない対決をある」ことにねつ造したものだったが、今回はそこまでの悪質性は感じられない。視聴者の信頼を裏切ったとまでは言うほどのものでもないだろう。

  • 関西テレビは、去年、報道番組で審議入りが2件続いたが、今回はバラエティー番組で問題が起きた。その都度、再発防止に努めるとしてきたが、その背景にはいったい何があるのかないのか、局としてきちんと総括してもらいたい。

  • 今回の再発防止策のなかで、今後一般市民に出演を求める場合、すべての出演者の本人確認を行い、出演承諾書を取るなどの是正措置を決めている。ここまでやる必要があるかどうかは別にして、局側の決意と姿勢は感じられるのではないか。

以上