放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会

2013年11月20日

松江で島根・鳥取県内の各局との意見交換会を開催

島根・鳥取県内の各局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、11月20日に松江市内のホテルで開かれた。5回目の開催となる今回は、山陰中央テレビ、山陰放送、日本海テレビ、NHK松江放送局の4局を中心に、ラジオ1局を含む7局から57人が参加した。また委員会側からは川端委員長、渋谷委員、升味委員の3名が出席した。

意見交換会の前半は、まず直近の事案である関西テレビの「『スーパーニュースアンカー』インタビュー偽装」について、意見書のポイントを担当委員の升味委員が説明、「モザイクの向こうでは本人が話している、という視聴者の信頼を裏切ることになった。映像の偽装が分かった段階で、視聴者に伝え訂正すべきだった。報道の自由、取材の自由を支えているのは、カメラやマイクの後ろにいる市民(視聴者)であることを忘れないでほしい」と問題点を指摘した。また、川端委員長からも「この事案は、不適切な映像にとどまらない、視聴者を欺く許されない映像だと判断した」との補足があった。
これに対し、参加者からは「一本筋の通ったものを放送したいと考えていれば、後味の悪い取材のときは違和感が残る。その違和感を感じなかったことが問題だと思う」「ネットにすぐ上がってしまうということもあり、取材源の秘匿が必要なケースもある」「放送局側が自己防衛のため過剰にモザイクを多用している面もあるのでは」といった意見が出された。
モザイクや顔なし映像の多用に対し、川端委員長からは「顔なしの場合は、すでに実例も出ているように偽物が紛れ込んでもわからない。メディアとして、そのような風潮に抵抗してほしい」との発言があり、升味委員は「普通の人が取材されるときも、ボカシや顔が映らないことを条件にする傾向が一般化していることを危惧している」と指摘した。渋谷委員も「放送が匿名化しているネットに引きつけられているのではないか。匿名はできるだけやめたほうが報道の価値が高まる」と述べた。
続いて、今年も2番組が審議入りした参院選関連の事案として、2010年の「参議院議員選挙にかかわる4番組」が取り上げられ、渋谷委員から事案の概要の説明と「参院選の比例代表選挙の仕組みが理解されていなかったため、選挙の公平・公正が害されることになった」との問題点の指摘があった。また、参加者からの「参院選で同じような事例が続くことをどう考えるか」との質問に、川端委員長は「新聞などと違い放送は電波という公共財を使っている以上、一定の公共性が要求される。参院選の前の今年4月にも、民放のバラエティー番組について委員長コメントを出し注意を喚起したが、選挙制度をきちんと理解しない限り、同じような問題を起こすことになるのではないか」と指摘した。
さらに、各局からリクエストの多かったローカル局の問題事例が、事務局から紹介された。ニュース情報番組で、コメンテーターがある金融機関が破たんしかねないと誤報のコメントをして騒ぎになった事例、午前の情報番組で、フリーマガジンの読者として編集部の関係者を登場させた仕込みの事例などで、「ローカル局のミスは、生番組のコメントと、インタビュー取材の2点に集約される」(事務局)との説明があった。
参加者から「このような事例を聞くと、放送業界の人材育成に何か問題があるのではとも思えるが」との質問に対し、川端委員長は「制作現場を支えている制作会社社員に対する十分な研修などがなされていないこと、また、以前は制作会社にも社員を育てていく余裕があり、社員もキャリア・アップの希望が持てたが、現在はそのようなモチベーションが持ちにくいというのが非常に大きな問題と思う。また、放送局側の社員間でもベテランと新人の間に壁があり、本来は毎日現場でできるはずの教育も、実は上手くいっていないケースもあるようだ」と指摘した。
BPOや放送倫理検証委員会に対する質問のコーナーでは、「BPOが怖いという思いから、バラエティーの表現の幅が狭まっている風潮があるのでは」という質問に対し、川端委員長から「『最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見』にもバラエティーは何でもありと書いたが、これで面白い番組が作れると確信するなら自信をもってやってほしい。世間の人がいろいろ言っても、こんな面白い番組を放送するなというほうがおかしい、という意見書を書いてもいいと思っている」というエールが送られた。
最後に、川端委員長から「サリンジャーに『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』という小説があるが、だだっぴろいライ麦畑で夢中になって遊んでいる子供たちが、よく前を見ないで走って崖から落ちそうになるのを捕まえて、けがをしないように適切なアドバイスをするのが我々の役割と考えている。皆さんの側でも自主的・自律的に放送内容を改善して、視聴者にテレビって素晴らしいねと思われるような放送を是非、実現していただきたい」とのメッセージがあり、意見交換会は終了した。

今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 交換会では、審議入りした内容について、現場のヒアリングなど、その経緯の報告に細やかな配慮も感じました。問題は問題だが、その背景を探り、問題点を明らかにしていく姿勢の中に、現場を委縮させたくないという思いも垣間見え、非常に暖かくヒューマンなものを感じた次第です。弊社の現場の若い社員たちにもっと参加してほしかったと残念な思いもありますが、まずは、コツコツとBPOの報告書などを現場の皆さんに共有してもらい、「気づき」のレベルを上げていく努力をしていかなければ…と気持ちを新たにさせていただきました。

  • 問題の発生を恐れてモザイク、ボイスチェンジを安易に使う傾向があることについて「危惧している。匿名、顔を隠さなければインタビューを放送できないのであれば、放送しないくらいの気持ちでやってほしい。現場で了解を取る最大限の努力をしてほしい」との委員の発言は、改めて取材の姿勢について考えさせられるもので印象的だった。

  • 実際に何か起きてしまったときのことをよく振り返ってみると、どこかに、「そういえば何か変だな~とちょっと思ってた」等、誰かに何らかの気づきがあったかも、いやあったと思います。これを、遠慮せず口に出すことが、不体裁や事故を防ぎ、倫理や人権に配慮した番組につながると思いました。

  • 質問タイムでは、放送局側の質問に対しBPO側が答えて終わるという、一方通行なやり取りが多かったことが気になりました。松江市での開催は今回が初めてというとても貴重な意見交換の場でしたので、ひとつの質問から議論が広まるような雰囲気づくりができていればと感じました。

  • 委員の皆さんが、想像以上に我々報道側の立場もきちんと理解しようと努力され、その中で視聴者側との折り合いをつけていこうという真摯な気持ちを持たれているという印象を受けました。今回の意見交換会では、いつも厳しい目を向けられがちな我々マスコミに対し意見や考えも聞いて下さり、うれしさと驚きを感じました。

  • 個人的には「何と言われようとBPOが守ってやる、と思えるような面白い番組を作ってほしい」という川端委員長の言葉に意を強くしたところです。

以上