放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第76回

第76回–2013年11月

「対決内容を編集で偽造」フジテレビ『ほこ×たて2時間スペシャル』について討議

参院選関連の2番組、関西テレビ『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本『百識王』、「意見書原案」を基に審議

「弁護士紹介の被害者は"関係者"」日本テレビ『スッキリ!!』、「意見書原案」を基に審議

「他局の取材音声を、無断受信して使用」鹿児島テレビ2つのローカル番組、局のヒアリングを基に審議

第76回放送倫理検証委員会は11月8日に開催された。
委員会が今年8月に出した関西テレビ『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
今夏の参議院選挙をめぐって、選挙に関する放送の公平・公正性の観点から一括して審議対象となっている、関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(ネット選挙解禁に関する特集企画で、特定の比例代表立候補者だけを紹介)とテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(投票日当日の放送に、比例代表候補者がVTR出演)の2つの番組について、担当委員から意見書の原案が提出された。意見交換の結果、次回委員会までに担当委員が修正案を作成して、意見の集約をめざすこととなった。
ネット詐欺の被害者として放送したが、実は被害者ではなく弁護士から紹介されたその事務所の事務員であったことが問題となった日本テレビの情報番組『スッキリ!!』についても、意見書の原案が提出された。当該局へのヒアリングとこれまでの委員会での議論を踏まえて問題点を整理したもので、弁護士から、担当した事件の被害者と紹介されたことは、本人確認や被害事実の存在についての裏付けとなるのかという点などについて長時間にわたる意見交換が行われた。次回委員会までに、担当委員が修正案を作成する。
他局がワイヤレスマイクで取材した音声を無断で受信し放送に使用していた鹿児島テレビの2つのローカル番組『ゆうテレ』と『チャンネル8』について、担当委員からヒアリングの概要が報告され、意見交換がなされた。
フジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて2時間スペシャル』の出演者が、「対決内容が編集によって偽造された」と告発し、当該局側もこの指摘をほぼ認めて番組の打ち切りを決めた事案について、討議を行った。その結果、ロケや編集の過程についてさらに確認したい点や疑問点が出てきたこと、当該局の報告によるとこのスペシャル番組以外にも類似のケースが見つかっていることなどから、委員会は、次回委員会までにより詳しい報告書の提出を求めることにして、討議の継続を決めた。

1.関西テレビ『スーパーニュースアンカー』「インタビュー映像偽装」に関する意見の対応報告書についての審議(了承)

関西テレビは、『スーパーニュースアンカー』の「インタビュー映像偽装」に関する意見(委員会決定第16号)を受けて、社としての再発防止策を報告書にまとめ、10月28日、委員会に提出した。
それによると関西テレビは、▽報道に携わる記者やカメラマンなど個々人のノウハウや経験を高めるため、勉強会や事例研究会を随時開催するほか、報道局の指針や見解をまとめた「報道通信」を作成すること▽世代間のコミュニケーションを活性化させるため、記者やデスクの相談窓口になる報道局専任部長を新たに配置して、取材から放送に至る諸問題の解決にあたることなど、多様な改善策にすでに着手している。
委員会は、当該局が「不適切な映像」と考えていたものが、委員会に「許されない映像」の放送であったと指摘されたことについて十分に反省したうえで、信頼回復のための取り組みが幅広く進められているとして、この報告書を了承することにした。

2.参院選関連の2番組、関西テレビの『スーパーニュースアンカー』とテレビ熊本の『百識王』についての審議

一括して審議の対象となっているのは、インターネットでの選挙運動解禁についての特集企画で、自民党の比例代表選挙立候補予定者だった太田房江元大阪府知事の選挙準備活動を紹介した関西テレビのニュース番組『スーパーニュースアンカー』(6月10日放送)と、自民党の比例代表選挙の渡邉美樹候補が著名経済人としてVTR出演している番組を、参議院選挙投票当日の午前中に放送したテレビ熊本の情報バラエティー番組『百識王』(7月21日放送)の2番組である。
担当委員から、2つの放送局の関係者に実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を踏まえた「意見書原案」が提出された。
委員会が、3年前から選挙をめぐる放送の公平・公正性について、意見書や委員長コメントを出して警鐘を鳴らしてきたにもかかわらず、同様な問題が再び起きたことを重視して、原案では、2つの番組の問題点などを指摘するとともに、今後こうしたことがさらに繰り返されないための提言などが盛り込まれた。委員による質疑や活発な意見交換の結果、担当委員が意見書の修正案を作成し、次回委員会でさらに議論を重ねて、意見の集約をめざすことになった。

3.弁護士から詐欺事件の被害者として紹介されたが、実は被害者ではなかったことが問題になった日本テレビの『スッキリ!!』についての審議

日本テレビの朝の情報番組『スッキリ!!』で、インターネット詐欺の被害者として出演した男女2人が実は被害者ではなく、同じ番組に出演した弁護士の当時の所属法律事務所の事務員だったことが判明し、裏付け取材が不十分だったとして審議入りした事案(2012年の2月29日と6月1日放送)。
当該番組の取材ディレクターやプロデューサー、情報カルチャー局の幹部などあわせて11人を対象に実施したヒアリングと、前回までの委員会の議論を踏まえて、担当委員から「意見書原案」が提出された。
委員会では、原案をもとに、「専門家の取材はどうあるべきか」「弁護士の紹介であることは、その内容を信じる理由となりうるか」などを主な論点にして、踏み込んだ意見交換が行われた。
その結果、委員会で示されたさまざまな意見を盛り込んだ修正案を担当委員が作成し、次回委員会で議論を続けることになった。

4.他局の取材音声を無断で受信して番組に使用したことが問題になった鹿児島テレビの2つのローカル番組についての審議

鹿児島テレビは、夕方の情報番組『ゆうテレ』(6月19日、8月7日放送)と週末のミニ番組『チャンネル8』(6月29日放送)で、高校総体に出場した鹿児島市内の高校の男子新体操部を紹介した。その際、選手を激励する監督の声をあわせて10か所で約2分間放送したが、これは、他局の取材音声を無断で受信・録音したものだったことが判明した。前回の委員会から審議を継続した事案。
関連会社から派遣されたディレクターは、他局が監督に着けてもらったワイヤレスピンマイクの音声を、カメラマンと音声マンに傍受するよう指示し、その音声を自局取材の音声のように使用して放送していた。電波法59条は、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受して窃用することを禁じている。
11月初旬、当該番組の取材ディレクターやカメラマン、音声マンのほか、鹿児島テレビのコンプライアンス責任者など、あわせて6人を対象にヒアリングが実施され、その概要が、担当委員から報告された。
「ディレクターはなぜ他局の音声を窃用したのか」「取材した3人に違法だという認識はあったのか」「放送前のチェック機能が働かなかったのはなぜか」「放送局や関連会社ではどのような社員教育や研修が実施されていたのか」などについて詳しい説明があり、委員の間で意見交換が行われた。
その結果、事実関係はほぼ明らかになり論点も整理できたとして、次回委員会に担当委員が意見書の原案を提出することになった。

5.「対決内容が編集で偽造された」ことが明らかになったフジテレビの『ほこ×たて2時間スペシャル』についての討議

「矛盾する両者の真剣勝負」を売り物にするフジテレビのバラエティー番組『ほこ×たて』は、2012年の民放連賞でテレビエンターテインメント番組の最優秀賞を受賞していた。
10月20日に放送された2時間スペシャル番組の中の「スナイパー軍団対ラジコン軍団」について、ラジコンカーを操作した出演者が、放送3日後に所属する会社のウェブサイトに「対決内容を偽造して編集したものが放送された」と告発し、問題が発覚した。
この出演者は「ラジコンカーの対決で、実際の対戦相手が異なっていた」「実際には、最初に対決したラジコンボートが3連勝して勝負は決していた」「過去の放送でも対決相手のタカやサルについて、番組スタッフから演出に協力させられた」などと指摘した。
これを受けて当該局は、ロケ担当ディレクターや番組のチーフプロデューサー、それに制作会社の幹部などを対象に内部調査を実施した結果、出演者の指摘をほぼ認め、「視聴者の皆様の期待と信頼を裏切る行為が確認された以上、真剣勝負を標榜している番組の継続は不可能」として、番組の打ち切りを決めた。
委員会は、当該局から提出された報告書をもとに討議を行い、「バラエティー番組なので一定の演出はあるにせよ、それが限界を超えているかどうか」「視聴者は真剣勝負をどの程度前提にして、この番組を視ていたのか」など、さまざまな意見が出された。また、当該局がこのスペシャル番組以外にも類似のケースがあったことを認めているため、詳細を確認するべきだとの指摘もあった。
委員会では、当該局宛ての質問書を作成し、ロケや編集過程での疑問点を中心に再度報告を求めて、討議を継続することになった。

【委員の主な意見】

  • 素材となる映像を自分たちが作ったストーリーに沿って編集でまとめたもので、これを演出といえるのだろうか。まるでドラマを作っているように感じられる。
  • ここまで編集で対決の内容を変更してしまうことは、この番組のコンセプトからしても、企画として成立しないと思う。
  • バラエティー番組では、勝負といってもかなり演出がほどこされていることは昔からあると思うが、少なくとも出演者に納得してもらうことが前提だろう。今回の事案は相当にひどいのではないか。
  • 実際にはなかった対決を編集で作ってしまうことは、やはり問題だ。
  • バラエティー番組に演出はつきものなのだから、いまさら委員会があれこれ言うのは難しいという気もする。
  • 視聴者はこの番組の対決をどこまで真剣勝負として見ていたのだろうか。それによって、視聴者の信頼を裏切ったかどうかの見方が変わるだろう。
  • 報告書が短時間に作成されたこともあってか、もっと確認したい点や疑問点もある。さらに詳細な報告書の提出を求めて議論したほうがいい。

以上