青少年委員会

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2013年3月4日

東海テレビ『幸せの時間』に関する【委員長談話】

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2013年3月4日
放送倫理・番組向上機構【BPO】
放送と青少年に関する委員会
委員長 汐見 稔幸

昨年の11月に始まった東海テレビ制作の連続ドラマ『幸せの時間』については、放送開始直後から、昼間の番組であるにもかかわらずその性的描写が過激であるとの批判が視聴者意見として多数寄せられました。
BPO青少年委員会では、子どもが視聴する可能性のある時間帯の放送であったこともあり、本番組を委員全員で視聴し、討論した結果、審議すべきであるとの判断にいたりました。そして、2013年1月の臨時委員会で東海テレビの制作責任者等関係者と意見交換を行いました。しかし、この意見交換会当日の局側の意見では、十分に納得のいく説明がされていないと判断せざるをえませんでした。そこで、その内容を「青少年委員会の受けとめ」という文書でBPO報告等に掲載し、東海テレビに対しては改めて「今後に向けて」とする要請を行いました。
この文書で私たちは3つのことについて改めて回答を要請しました。それは(1)青少年委員会で提示した委員会の意見を受けて、社内でどのような議論と検討が行われたかを示してほしい、(2)今後このような問題を繰り返さないために、どのような体制やシステムを構築するか、再発防止策を示してほしい、(3)地上波の公共性に対する局側の認識を示してほしい――この3点でした。それに対して、2月の委員会の直前に東海テレビから「ご報告」という文書が届きました。この文書を委員会で精査しましたが、報告では上記3点について誠実に回答されていますし、1月の意見交換の時よりも、問題の本質を把握しようとする姿勢と問題点の自覚、今後の再発防止策の提示、公共性の責務への自覚などの点で明らかな深化を示していると判断できるものでした。その点で、東海テレビ側の今回の対応を評価したいと考えます。
私たちが今回の事例で最も重視した論点は、テレビというメディアの持つ公共的責任ということでした。東海テレビの「報告」にも「制作現場に地上波の公共性についての認識が十分に共有されていなかったことは否めません」と書かれていますが、このことは今後、各局とも強く自覚していただきたいと思っています。
テレビ・ラジオの公共性ということばには、誰もが見、聴く可能性があることへの配慮が大事という意味あいがあることはもちろんですが、それ以上に大事なのは、テレビ・ラジオの番組内容が国民の教養形成に与える影響の大きさです。公共というのは、すべての人々に関わるということで、公共の責任とは"公共善"の実現への責任ということを意味します。誰にとってもそれが善であるというあり方を求める責任が公共責任で、その自覚が公共意識です。
テレビやラジオは、いまやネットの世界とともに、国民の教養形成の最重要のメディアです。教養とはcommon senseつまり人間に共通の感覚のことで、何にこそ感動し何にこそ怒るべきかという国民共通のセンスのことです。今回の『幸せの時間』のようなシーンが昼間堂々と流されることで、視聴率競争の激しい文脈の中では、これが標準パターンとして是認されていくということを、私たちは懸念しました。外国人は、これが日本人の教養だと認知していく可能性があることも含めて、こうした教養形成の問題に制作側がどれだけ自覚的であったのかということを問題にしたのです。番組の制作者側はそうした"公共善"の実現の仕事をしているという自覚をこれからも是非持っていただきたいというのが、今回の事例に対する委員会の基本的要望です。
その点について、東海テレビ側はきちんと対応すると明言しています。その姿勢を多としたのですが、これを現場の制作スタッフだけの問題ではなく、局全体の問題として取り組んでくださることを強く願っています。
また、今回の番組に対しては東海テレビに視聴者から多くの苦情が届いていること、番組審議会、そして局の第三者機関である「オンブズ東海」でも厳しい意見が出たと聞いています。今後、これらの機関を積極的・有機的に活用して、きちんと自律的な番組つくりを心がけてほしいと願っています。

以上