放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第164回

第164回 – 2010年8月

「機能訓練士からの訴え」事案の審理

「大学病院教授からの訴え」事案の審理 ……など

「機能訓練士からの訴え」事案の「委員会決定」案について審理し、大筋で了承した。先月の委員会で審理入りが決まった「大学病院教授からの訴え」事案の実質審理が始まった。「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の「委員会決定」の通知・公表について、事務局より報告した。

議事の詳細

日時
2010年 8 月17 日(火) 午後3時 ~6時40分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、大石委員、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員

「機能訓練士からの訴え」事案の審理

本事案は、2009年4月11日にTBSテレビが『報道特集NEXT』で放送した「車イスの少女が入学できない訳」に対し、少女に幼い頃から機能訓練を行っている機能訓練士が肖像権の侵害等を申立てたもの。
今月の委員会では、8月4日の起草委員会を経て提出された「委員会決定」案について審理した。
時間をかけて詳細に検討した結果、決定案は大筋で了承され、起草委員による一部修正作業を経て、持ち回り委員会で検討のうえ最終了承される見通しとなった。

「大学病院教授からの訴え」事案の審理

この事案は、テレビ朝日・朝日放送が2010年2月28日に放送した『サンデープロジェクト』の特集コーナー「隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」について、大学病院教授から、不当なインタビュー取材をされたことや放送の内容が偏向していたとして申立てがあったもの。
委員会は今月から実質審理に入り、教授へのインタビューや番組のコメント等の適切さ、公平・公正性等について議論が交わされた。本事案は番組内容が医療や裁判の専門的な分野に関わっていることから、担当の委員を決めてポイントを整理し、来月さらに本格的な審理を進めていくことになった。
申立人は、「自宅前でのいきなりインタビューは著しい人権侵害であり、内容も一方的な偏向報道である。放送後に自分に対する誹謗中傷の電話やFAXが寄せられ人権を侵害された」として、局側に謝罪と再発防止策の提示を求めている。
これに対してテレビ朝日・朝日放送は、「番組は医療過誤裁判の背景にある医療界の問題を浮かび上がらそうとして企画されたものである」とし、番組内で取り上げられた教授について、「批判への受忍限度を超えるものではない」と謝罪や防止策の提示を否定している。

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案の通知・公表の報告

8月5日に行われた本事案の「委員会決定」の通知・公表の概要、および通知・公表を受けての各局の放送対応や新聞等での反響をまとめた資料を事務局より配付し、報告した。あわせて、テレビ朝日の当該番組『報道ステーション』が決定内容を報じた当日夜の番組同録DVDを視聴した。
(決定内容の詳細は「委員会決定」の項、決定第44号をご参照ください。)
通知・公表の概要は以下のとおりである。
通知は、堀野委員長と起草委員を務めた三宅委員長代行、山田委員が出席して、午後1時30分からBPO会議室で、申立人と被申立人が同席する形で行われた。
堀野委員長は先ず、「放送内容に名誉毀損や敬愛追慕の情の侵害という法的な権利侵害があったとは認められない、しかし、取材、放送のあり方に放送倫理上の問題があった」と述べ、「委員会決定」に沿ってポイントを説明した。決定には山田委員ら2人による「意見」が付けられており、山田委員はその趣旨を説明した。
通知の後、申立人とテレビ朝日から個別に意見や感想を聞いた。
申立人は「事件が起きてから警察への対応などで忙しく、悲しんでいる暇もなかったが、放送を見て、これが倫理的に人間的に正しいのかと感じて怒りがおさまらなかった。倫理面で問題があったという判断をいただけて本当に良かったと思っている」と述べた。
テレビ朝日の報道担当者は「決定は真摯に受け止めたい。この場を借りて、申立人と関係者に対し改めてお詫びしたい。ただ、遺族へのアプローチ、取材は非常に難しい側面があることもご理解いただきたい。これから改めて、犯罪被害者、その遺族の取材にもっと真摯に向き合わなければいけないと思っている」などと述べた。
公表の記者会見は、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで行い、21社48人の出席があった。
まず堀野委員長が決定の概要を伝えた。
続いて、三宅委員長代行は「決定文の『放送倫理上の問題』において、『犯罪被害者報道に関する報道指針等』という1項目を立てた。『事件・事故・災害の被害者、家族、関係者に節度をもった姿勢で接する』という民放連の報道指針と、犯罪被害者等基本法が求めている『事件の被害者等の名誉または生活の平穏を害することのないよう、十分配慮すること』という努力義務、この視点が放送倫理上問題ありという判断の根拠になっていることを補足しておきたい」と述べた。
山田委員は「意見」について説明し、「1つは被害者遺族の思いと実際の報道にズレがある。放送内容におおよそ間違いはないが、細かい部分で違いがある。もう少し丁寧な取材や報道ができたのではないか。2つ目は、取材段階では張り紙等を見て被害者遺族に対する配慮の姿勢を示しながら、放送では悪者イメージを一方的に作っている。この取材と報道とのギャップを認めざるを得ない。今回の事例をもとに被害者の取材、報道のあり方をさらに検討していただきたい」と述べた。
このあと記者から質問を受けた。
「遺族は、近所の噂、悪口に対する弁明の機会を奪われたと思ったのではないか」という質問が出た。
堀野委員長は「取材で得た内容は、被害者側の積み重ねてきた行動をいくつも具体的に述べている。それに対する被害者遺族側からの弁明は一切聞かれていない。明らかに不公平だったと言わざるを得ない。必ず遺族を取材せよ、と言っているのではない。この事件で、こういう取材の内容を、こういう番組に使うという念頭であれば、当然被害者遺族に対する接触は試みるべきだったろうと、私どもはそう判断した」と答えた。
本件申立ての期間制限に関する質問が出た。
委員長は「『広島県知事選裏金疑惑報道』事案の審理において、放送内容が動画と音声を伴ってネット上で継続して流れている場合には、放送された日から3か月以内に局に申し立てられた苦情を取り扱うとした運営規則は少々きつすぎるのではないか、柔軟に対処しようということで、動画・音声による配信が終わってから3か月以内というような形に初めて解釈し直した。本件の場合も、局に申立てがあった7月時点まで動画・音声を伴って流れていたので、3か月要件は満たしていると判断して審理入りした」と説明した。
「そもそも境界問題の企画の頭に、なぜこの事件を持ってこなければならなかったのか、テレビ朝日には尋ねたのか」という質問があった。
委員長は「広い意味での境界に関するトラブルだから、別に不自然には感じなかったということだった。私どもは、境界線そのものに関する争いでないのに、なぜこの事件を持ってくる必要があったのかと、しかも、その持ってき方が不公平だと。ただ、この点に正面から踏み込むことは番組の作り方に介入することになり、編集の自由の範囲内ということで倫理上の問題は問わなかった」と答えた。

7月の苦情概要

7月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・・・・0件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・・45件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判

その他

次回委員会は9 月21 日(火)に開かれることになった。

以上