放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第156回

第156回 – 2009年12月

「拉致被害者家族からの訴え」事案のヒアリングと審理

「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の審理 ……など

「拉致被害者家族からの訴え」事案のヒアリングと審理が行われ、「委員会決定」案の起草に入ることになった。「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の審理の結果、1月の委員会で当事者へのヒアリングを行うことが決まった。審理要請案件について審議し、審理入りが決まった。

議事の詳細

日時
2009年 12月15日(火) 午後3時~7時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、大石委員、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員

「拉致被害者家族からの訴え」事案のヒアリングと審理

本事案は、2009年4月24日のテレビ朝日『朝まで生テレビ!』で司会者のジャーナリスト田原総一朗氏が横田めぐみさんと有本恵子さんの名前を挙げ、「生きていないことは外務省も分っている」と発言したことについて「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」から最も重大な人権侵害と申立てがあったもの。
この日は双方の当事者に対するヒアリングとその後の審理が行われた。ヒアリングは午後3時過ぎからBPO内会議室で行われた。申立人である家族会側から4名、被申立人のテレビ朝日側からは3名がそれぞれ出席し、申立人側、被申立人側の順で約1時間ずつ行われた。
申立人は質問に対し「大事な命が連れ去られ、何も分らない日々が20年続いた。親としてはどこかで必ず生きていると信じて命がけで頑張ってきた。そういう中で田原さんの発言があった」、「田原氏の発言は公共の電波を使って被害者が生きていないと印象付けるもので救出運動への妨害であり、被害者の帰国を妨げることによって彼らの人権をも傷つけるものだ」などと述べた。
これに対し、被申立人は「生放送中の事前に想定していない発言であり直ちには判断がつきかねた。発言内容の事実関係や経緯を確認するため、放送後、田原氏から複数回にわたり聞き取りを行うなどした。そのうえでテレビ朝日として確認できていないことが放送されたとの認識の下、5月29日の当該番組でお詫びした」と述べた。
ヒアリング後も審理を行った結果、「委員会決定」の方向が大筋で固まった。起草委員が決定案をまとめ、次回委員会でその内容を検討することになった。

「旅館再生リポート・女将の訴え」事案の審理

この事案は本年7月17日のフジテレビ『FNNスーパーニュース』の放送内容をめぐって、宮城県の温泉旅館の女将が申し立てたもの。放送は不況下での旅館の女将さんたちの奮闘ぶりを紹介したが、申立人は売り上げが伸びない旅館という負のイメージを視聴者に与え、温泉街も暗いシーンばかりが編集されるなど事実に反する内容だったとして、謝罪などを求めている。これに対してフジテレビは「当番組はニュース・報道番組であり、取材に基く事実を伝えたものです」と主張している。
前回11月の委員会で審理入りして今月も審理を続行し、申立人の旅館の温泉街ともう一方の温泉地の旅館の取り上げ方などをめぐって意見を交わした。そして、1月の委員会でヒアリングを実施することになった。

審理要請案件

テレビ朝日が2008年12月23日の『報道ステーション』で、「特集 身近に潜む境界トラブルの悲劇・住宅地の惨劇はなぜ起きた」を放送したのに対し、被害者遺族から申立てがあった。
申立人は「両親の長年にわたる嫌がらせが、殺害の動機との放送内容は事実ではない。また、本件放送は、両親を”嫌がらせを行った人物””常識のない人物”としてその社会的評価を著しく低下させるものであり、両親への敬愛追慕の情を著しく侵害された。さらにそのような両親の子供として、申立人本人の名誉も侵害された」と主張している。
委員会は申立人から提出された「申立書」及び「関連資料」、被申立人から出された「交渉経緯と見解」「同録DVD」等をもとに審理入りするかどうかについて協議した結果、次回委員会から実質審理に入ることとした。
放送は、2008年11月に長野県上田市で老夫婦が隣人に殺害された事件を取り上げたもの。被害者と加害者は狭い私道を挟んで住んでおり、車による通行をめぐるトラブルが原因となったが、そもそもは明治時代に行われた精度の低い測量公図によって曖昧で複雑な境界線を生じさせたことも一因ではないかと伝えた。
テレビ朝日は上記申立て内容に対し、「番組は決して被害者を貶めるつもりで放送したものではなく、また、謝罪、訂正放送が必要な事実誤認もなかった」と反論している。

仲介・斡旋解決事案

事務局より下記の仲介・斡旋解決事案について報告し、了承された。

「夫の死亡ニュースに際し、息子の名前をスーパーされた」との訴え

四国のテレビ局が2009年7月、ニュース番組で元参議院議員の死亡ニュースを報じた際、画面に息子(現職衆議院議員)の名前を40秒間スーパーで入れるというミスを犯し、4分後に同じ番組内で訂正・お詫びを放送した。
この放送について、死亡した議員の家族から、「訂正放送をすればそれで放送局の責任は免れるのか、葬式を前に悲嘆にくれている家族に多大な精神的ショックと混乱を与えておきながら何の説明もお詫びもない」との苦情が放送人権委員会に寄せられた。
委員会では、当事者に対する謝罪のあり方が問題とされているケースであることから、当該局に対して、まず家族に誠意を持って説明するなど当事者間での話し合いを勧めた。
その後、当該局が家族へ話し合いを申し入れたところ、対応の遅れなどの経過説明を求められたため、ミスの発生から訂正にいたるまでの経緯と「関係者への連絡が遅かったという批判を謙虚に受け止めたい」とのお詫びを記した文書を役員名で送付した。
これに対し、家族は丁寧な説明を受けたとして、この「説明・お詫び」を受けいれることにし、その旨当該局に伝えた。また、放送人権委員会堀野委員長宛てに手紙を寄せ、問題が解決したことを連絡するとともに、被害者の立場から「誤報の影響が予想される場合は少しでも早く当事者に連絡していただくことを放送局側に要望したい」と述べている。

(放送2009年7月 解決12月)

11月の苦情概要

11月中に BPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。

  • 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・・15件
    (個人又は直接の関係人からの要請)
  • 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・・・ 92件
    (人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)

その他

  • 12月2日福岡で開かれた「放送人権委員会委員との意見交換会」について事務局より報告した。
    当日は9人の委員全員と事務局からも9名が出席、九州・沖縄地区の各局からは31社・86名が参加し、意見交換会では過去最高の参加者数となった。また、取材も8社8名の記者とテレビカメラ4台が入り、当日夕方から夜にかけてのテレビ各局の地元ニュースや翌朝の新聞で会の模様が報道された。
    参加者への事後アンケートでは、多くが委員との直接の意見交換を有意義だったとしているが、ディスカッションにもう少し時間が欲しかったとの声もあった。個別のテーマでは、モザイクや顔なしなど最近の「匿名映像」の多用について、報道の信頼性の観点からあくまでも実名報道・モザイクなしを原則とすべきだとする委員の意見に励まされた、議論が有益だったとする声が相次いだ。
    また、この種の会合をもっと頻繁に、各地で開いてほしいとの要望もあった。
    なお、予想を越える参加者数となったため、会場が狭かったとの声も多く聞かれた。
  • 事務局より以下の件について報告した。
    12月11日にTBSで「委員会決定」についての研修会が行われ、堀野委員長が「保育園イモ畑」事案と「割り箸」事案の決定内容について説明し、制作・報道の現場スタッフなどと意見を交換した。局側から200名近くが参加した。
  • 11月26日に東京で開かれた「BPO第1回事例研究会」について事務局より報告した。
  • 次回委員会は2010年1月19日(火)に開かれることになった。

以上