第63回 – 2012年9月
日本テレビ「食と放射能 飲み水の安全性」報道に関する意見
告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』 …..など
第63回放送倫理検証委員会は9月14日に開催された。
7月31日に通知・公表した日本テレビの「食と放射能 飲み水の安全性」報道事案については、当日のテレビニュースや報道された新聞記事などを見たうえで意見交換を行った。
前回の委員会で審議入りした日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』については、担当委員から意見書原案が提出され、審議の結果大筋で合意を見た。若干の修正を加え、10月の初めに当該局に「意見」を通知し、公表することになった。
「無料サービスの落とし穴」という企画コーナーで、電話セールスのトラブルは局側の演出よるものだった等の不適切な取材・表現があったフジテレビ『めざましテレビ』については討議の結果、この事案に関する委員長談話を公表することになった。
また、事務局から9月10日付けで5周年記念冊子を刊行したことと在札幌局との意見交換会を実施したことが報告された。
議事の詳細
- 日時
- 2012年9月14日(金) 午後5時~8時20分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議案
- 日本テレビ『news every.』について
日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』について
フジテレビ『めざましテレビ』について
その他 - 出席者
- 川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、立花委員、服部委員、水島委員
日本テレビ「食と放射能 飲み水の安全性」報道に関する意見
日本テレビの報道番組『news every.』の中で詳しく紹介され、利用者として重要なコメントをした「宅配の水」の女性利用者が、実は一般の利用者ではなく、宅配の水を製造・販売する会社の経営者の親族(会長の三女で社長の妹)で、執行役員の妻であり、大株主でもあったという事案。
7月31日、当該局に対して委員会決定を通知し、続いて記者発表を行った。事務局からそれに関する報告があり、続いて当日のテレビニュースや報道された新聞記事などを見たうえで意見交換が行われた。
告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』
日本テレビが5月4日のゴールデンタイムに2時間放送した『芸能★BANG ザ・ゴールデン』の中で、週刊誌などで話題になっている女性タレントと占い師の同居騒動を取り上げ、新聞の番組欄での告知や番組内のスーパー、ナレーションで女性タレントと同居していた占い師が出演するかのように表示した。しかし、実際に出演したのはこの占い師と一緒に住んでいたことのある別の占い師だったという事案。
担当委員から意見書の原案が示され、この原案をもとに審議を行なった。
審議の結果、委員会は意見書原案を基本的に了解し、10月の初めに当該局へ通知し、記者会見をおこなうことを決めた。
委員長談話公表へ 不適切な取材・表現があったフジテレビの『めざましテレビ』
6月6日放送の『めざましテレビ』は、「ココ調」のコーナー企画で、無料サンプルに応募したところ化粧品会社からのセールス電話が36分間にも及んだと報じた。しかし、電話はディレクターが意図的に引き伸ばし、会話は無断録音だったこと、さらに無料カットサービスのロケでも美容師の声を隠し録音していたこと、実況放送風にみせかけた過剰な演出があったことが判明し、前回の委員会から討議に入っていた。
今回は、フジテレビが事前に提出していた「不適切表現の問題点から学ぶ」という社内向けテキストの内容も参考にしつつ、この事案の扱いについて意見を交わした。
各委員からは、この事案の問題点は、意図的な電話の引き伸ばしをしたのにセールストークが長引いたかのように事実をゆがめて伝えていること、隠し録音、隠し撮りは、例外的にしか認められない手法なのに、重大性も緊急性もないにもかかわらず、隠し撮りが許されると安易に判断しているうえ、必要も無いのに後付け実況をしている点で放送倫理違反があるとの指摘があった。さらに2010年8月に起きた同局の『Mr.サンデー』事案との比較や、昨今のプライバシー意識の向上と表現の自由の関係など多岐にわたる意見が交わされたが、最終的には、迅速な訂正放送と謝罪により隠し録音の放送に抗議した化粧品会社の納得は得られていること、美容師も隠し録音放送を事後承諾していること、後付け実況は過剰な演出だが討議の対象とするほどの重みはないこと、迅速な内部調査と再発防止策の策定と実行により当該局の自主的・自律的な取り組みが十分に行われていることなどを総合的に考慮して審議入りはせず、委員長談話を出して、隠し撮り、隠し録音の基準についての問題点を指摘しつつ、審議の対象としなかった理由を説明することとした。またフジテレビが作成した総括テキストは、他局の人が読めば再発防止の共有財産になるとの評価もあったので、フジテレビの同意を得て、上記テキスト全文をBPOのホームページに掲載することにした。
その他
1.「放送倫理検証委員会2007~2012」発刊
BPOの放送倫理検証委員会は2007年の発足から5周年を迎え、これまでの委員会の決定、提言、委員長談話、それに委員会で議論になった事案をまとめた冊子、『放送倫理検証委員会2007~2012』を発刊した。
この冊子は、5年間に60回開かれた、放送倫理検証委員会が公表した勧告、見解を含む13の委員会決定、1つの提言、それに1つの委員長談話をすべて網羅するとともに、委員会で議論となったおもな事案59件を掲載した。
また、発足以来委員長を務めてきた川端和治委員長に、重松清委員が、放送倫理検証委員会がこの5年間何を考え、どんな思いで活動してきたかについてインタビューを行い、冒頭に掲載した。
『放送倫理検証委員会2007~2012』が放送倫理と番組の向上に役立つことを願い、BPO加盟の全国の放送事業者や関係先に配布した。
2.在札幌のテレビ・ラジオ各局とBPO検証委員会の意見交換会開催
在札幌局との意見交換会が9月10日、札幌市内のホテルで開かれた。一昨年の大阪、昨年の福岡に次いで3回目の開催であるが、ラジオ2局を含む8局から55人が、また委員会側からは、川端委員長、重松委員、服部委員の3名が出席した。
意見交換会は、2つのテーマを設け、第1部を「最近の事例から」また第2部を「委員会は発足以来、何を考え続けてきたか」とした。
第1部では、直近の事例である日本テレビの「宅配の水」の意見書のポイントを川端委員長が説明、1年前の「ペットビジネス」事案を踏まえて対応策を作ったはずなのに、なぜ同じようなミスを繰り返してしまったのか、その要因として、血肉化されなかったガイドライン、そして制作担当がベテランであったが故に「お任せ」になってしまうスタッフの意識があることが指摘された。
続いて、重松委員から、ミスは全国で起きていて、その原因や背景を見ると他局にとっても決して他人事ではないという事例を、ここ数年の討議・報告案件から紹介した。
さらに、服部委員が、こうしたミスが続くと行政や政治が介入する口実を与えることになり、放送局として危機感を持つ必要性を訴えた。
第2部では、委員会が発足5周年を機に刊行した冊子に掲載した「川端委員長へのインタビュー」を基に、会場からの質問を交えながら委員会がこの5年間何を考え続けてきたかを鼎談ふうに語り合った。
意見交換会では、会場からそのつどの質問のほかに、あらかじめ参加者に質問カードを配り、休憩中に回収、その質問をそれぞれのパートで適時取り込んだことから、放送局側と委員会側の意見交換が活発に展開される効果が生まれた。
特に、「ミスが起きるのは東京など大きな組織であるがゆえの意思疎通不足ではないかと思っていたが、実際に全国で起きている事例を聞くと、われわれも身につまされる」といった感想が出された。最後に川端委員長が、「番組制作側にぜひともこれを伝えたいという強い意思があるときにすばらしい番組が生まれる。そうした真摯な挑戦を続けている場合に、委員会が頭から「これは放送倫理違反だ」というような形式的な議論をすることは一切ない」と委員会のスタンスを述べた。
意見交換会終了後に開かれた懇親会では、「会場に来るまでは、きっと眠くなると思っていたが、双方のやり取りに聞き入ってしまい、寝る暇もなかった」と冗談めかした感想や、「自分なりに知っていると思ったことが、表面的にしか理解していなかったことがよく分かった」という声があちこちで聞かれた。
また、開催時間が午後2時から5時という時間帯であったため、制作現場からの参加者は限られていたが、「意見のやり取りを現場の若いスタッフにも聞かせてやりたかった」と残念がる局幹部も多かった。
以上