第133回 – 2008年3月
「産廃不法投棄業者の隠し撮り報道」事案
「高裁判決報道の公平・公正問題」事案…など
「産廃不法投棄業者の隠し撮り報道」事案
福島県いわき市の木材加工会社の社長が、隠し撮りの放送(2007年12月5日)により人権を侵害されたという申立てについて、133回委員会で、その社長と当該局・福島テレビの関係者から個別にヒアリングを行った。
この中で社長は、「産業廃棄物を自社の敷地に不法投棄していたことは事実で反省もしている。しかし隠しカメラで、雑談と思わせインタビューされ、これを逮捕当日のニュースに使われたのは納得できない」と申立てに至った理由を語った。その上で社長は、「地元の同業者は産業廃棄物の扱いに疎いところがあったが、今回の逮捕によって皆で研究していこうという機運も出ている」と語ると共に、放送人権委員会に申し立てし、このヒアリングに出て話が出来たことで、福島テレビに対する怒りの気持ちも、ずいぶん落ち着いてきたと率直に語った。
一方福島テレビ側は、「悪質な産廃不法投棄事件であるが、社長はインタビューに応じてくれなかった。しかも逮捕も間近であり、なぜ不法投棄を続けていたかを報道するためには隠し撮りもやむを得なかった。従って申立人への人権侵害などに当たるものではない」と主張した。しかし「隠し撮りの放送により社長が不愉快になった気持ちは十分理解できる。その気持ちも重く受け止め、こうした取材については今後も十分慎重に対応したい」という考えを明らかにした。
この考えの表明を受け、委員会で改めて申立人に聞いたところ、「相手の気持ちも分かったので、これ以上争う積もりはない」として苦情申立てを取り下げることとなった。 (解決 2008年3月18日)
委員会審理及びヒアリングを行った上での仲介・斡旋の成立は今回が初めてのケースとなる。
「高裁判決報道の公平・公正問題」事案
本事案は、今年1月に「戦争と女性への暴力」日本ネットワークの代表が、NHKを相手取って申し立てたもので、「昨年1月放送の『ニュースウオッチ9』で、2001年放送されたETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』について東京高裁が判決を言い渡したニュースの中で『当事者としてのNHKの言い分』と『報道機関としての報道』を峻別せずに報道したことは,公平原則に照らして到底許されるものではない。また、公平原則を逸脱した部分は、正確な報道を行うという放送倫理にも違反していた」と申し立てている。
これに対しNHKは、「判決について報じる場合は、裁判所による客観的な判断であるから原告や被告の言い分を付さずとも基本的に公平の観点で問題はない。また、申立人の見解を紹介しなかったとしても、必ずしも公平・公正を欠くというものではないし、放送倫理に違反するようなものではない」と反論している。
3月の委員会では、申立人から提出された「申立書」「反論書」、及びNHKからの「答弁書」「再答弁書」等の資料を基に審理を行った結果、申立人、被申立人それぞれの言い分を確認する意味でも、次の委員会では双方を招いてヒアリングを行うこととした。
審理要請事案「群馬・行政書士会幹部不起訴報道」
群馬県在住の行政書士会幹部から申立てがあった上記事案について、4月の委員会から審理入りすることを決定した。
行政書士会幹部は、昨年12月に放送されたエフエム群馬のニュース番組で、「速報性にとらわれ、十分な取材を行っていない為に『真実』が伝えられず、名誉を毀損された」として、謝罪と訂正放送を求めている。
これに対しエフエム群馬は「報道は県議会の、質疑応答の過程において明らかになった内容を伝えたものである。本件報道は重要事項についての事実確認を行ったうえで報道したものであり、真実でない事項の放送はしていない。従って訂正放送などに応じることは出来ない」と反論している。
委員会では、申立書および当該局の見解、当該ニュース原稿などに基づき検討した結果、審理対象とすることを決定した。
仲介・斡旋解決事案
「無理やりインタビュー・放送に抗議」
事務局から、仲介・斡旋解決事案として下記内容を委員会に報告し、了承を得た。
「取材を拒否したのに無理やりインタビューされた上放送された。テレビ局に抗議し謝罪を求めたが誠意ある対応を示さない」と、宮城県在住の商店従業員が委員会に苦情を訴えてきた。
抗議の内容は、「2月にテレビ局から、深夜番組の恋愛応援企画コーナー(バレンタインデーに女性がチョコレートを渡すのを応援するもの)での取材要請があったが、はっきり断った。にもかかわらずテレビ局は女性と共に待ち伏せし、仕事を終えて店を出たところで無理やりインタビューされ、取材を断っている場面を放送(2008年2月21日)された」というもの。
放送後の抗議に対し、テレビ局は「匿名、モザイクにしたので名誉毀損には当たらない」と釈明し、「迷惑をかけたとしたらすまない」との意向を示したが、商店従業員は「まったく誠意が感じられない対応だ」として、放送人権委員会へ訴えた。
放送人権委員会事務局では、「商店従業員は放送された人の気持ちを考慮した誠意ある謝罪を求めている」とテレビ局に伝え、話し合うよう要請していた。その結果商店従業員から、「2度の話し合いの末、このような取材の再発防止などをテレビ局が約束してくれたので了解した」との連絡を受けた。またテレビ局からも、同日「円満解決した」との報告があった。(解決 2月29日)
苦情概要
2月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情の内訳は次のとおり。
◆人権関連の苦情[10件]
- 審理・斡旋に関する苦情(特定個人または直接の関係人からの人権関連の苦情)・・・9件
- 人権一般の苦情(人権関連だが、関係人ではない一般視聴者からの苦情)・・・1件
『放送人権委員会判断基準2008』 第2稿
右崎正博委員の監修を受けた第2稿について、委員会で出された意見・チェック等を加味した上で、今後最終的な第3稿が整理されることとなった。
4月中旬までに発行の予定だが、これまでの10年余りの間に扱った26事案35件の決定の中で打ち出した100項目にも上る判断基準が、企画、取材、編集、放送などのカテゴリーに分類されている。あらたに「政治論評の自由」、「バラエティー番組と人権侵害」などの範疇も加わった。
編集完了後は、4000部を印刷し、BPO加盟各社や放送関係者に一定部数を配布するほか、社員教育などで多めの入手を希望する社には、実費(一冊600円)で購入していただく予定。また、放送研究者や一般視聴者からの購入希望にも応じることにしている。
次回委員会を4月8日に開くことを決め、閉会した。
以上