放送倫理検証委員会

放送倫理検証委員会 議事概要

第190回

第190回–2023年12月

NHK『ニュースウオッチ9』委員会決定の通知・公表について報告

第190回放送倫理検証委員会は、12月8日に千代田放送会館で開催された。
委員会が12月5日に公表した、委員会決定第44号NHK『ニュースウオッチ9』新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族を巡る放送についての意見に関して、担当委員から当日の様子などが報告された。
TBSテレビが11月5日に放送した『サンデーモーニング』の生成AIの特集コーナーについて、当該放送局から提出された報告書を基に討議したが、審議入りはせず議事概要に意見を掲載することで終了した。
11月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見等が報告された。
関西地区ラジオ局との意見交換会開催の進捗状況が報告された。

議事の詳細

日時
2023年12月8日(金)午後5時~午後7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族を巡る放送についての意見の通知・公表について報告

NHKは2023年5月、『ニュースウオッチ9』の中で「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常 それぞれの思い」という1分5秒のVTRを放送した。3人の遺族のインタビューが含まれており、そこには「父を亡くした〇〇さん」などのテロップが付けられていた。前後の脈絡などから3人は、家族が新型コロナウイルスに感染して亡くなった遺族であると受け取るのが自然な映像だったが、実際には、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族であった。委員会は、ワクチン接種による被害を訴える遺族を、新型コロナウイルス感染によって亡くなった人の遺族と誤認させるような放送が、なぜ、どのようにしてなされたのか検証する必要があるとして、同年6月の委員会で審議入りを決めた。審議を経て、次のような事実を認めた。①VTR制作担当者は、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族であると認識しながら、その旨を明示せずに放送に臨んだことについて、コロナウイルスに感染して亡くなった人と、ワクチン接種後に亡くなった人を、広い意味でのコロナ禍で亡くなった人に変わりないと考えたと述べ、直属の上司も同様の認識を示した。②制作担当者はインタビュー取材の相手である遺族に対し、ワクチンの問題を放送で扱わないという自分の意図を明確に説明せず、取材者としての基本を実践していなかった。③この担当者が取材経験などの面で十分ではないにもかかわらず、組織内で十分なサポートを受けることがなかった。④放送前に行われた試写においても適切なチェックがなされなかった。以上のことから委員会は、放送が放送倫理基本綱領やNHKの放送ガイドラインに反しているとし、放送倫理違反があったと判断した。
委員会は12月5日、当該放送局に委員会決定を通知し、引き続き記者会見を開いて意見書を公表した。この日の委員会では、委員会決定を伝えたNHKの『ニュースウオッチ9』の録画を視聴し、委員長と担当委員が通知・公表時の様子について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. TBSテレビ『サンデーモーニング』について討議

TBSテレビは2023年11月5日に、報道番組『サンデーモーニング』内で「生成AI」をテーマにしたコーナーを放送した。その中でイスラエル・ハマス戦争に関係する画像計5枚について、「生成AIでつくられたフェイク画像」と断定できる根拠がないにもかかわらず、断定して放送した。その後、番組ホームページや翌週の当該番組でおわびと訂正をした。
委員会は当該放送局に報告書と番組DVDの提出を求め、討議を行った。報告書によれば、ハマス幹部に関する4枚の画像については、インターネット上に画像が出回った時期からして、実際にあったシーンを撮影した本物の画像である可能性が高いことが分かったという。そもそもこのコーナーは、まん延する生成AIによる創作物やフェイク画像の扱いについて警鐘を鳴らす目的で制作されており、まさにその中で、生成AIに関する誤った情報を放送し、視聴者の信頼を損ねてしまったことを重く受け止めているという。
ミスを起こした大きな原因は、放送内容をチェックする立場にあるプロデューサー陣の管理態勢に問題があり、また担当ディレクターも放送内容の事実確認に関する基本認識に欠けた部分があったほか、プロデューサー陣、担当ディレクターともに、生成AIやフェイク画像に関する認識が不十分だったからだという。当該番組の再発防止策として、事前プレビュー・チェックの強化や画像ファクトチェックの強化等をする。また報道局全体の再発防止策として、フェイク情報共有システムを新設し、ニュースに関連するフェイク情報や画像を発見した場合、系列各局で即座に情報を共有できるようにする等が打ち出されている。さらに当該放送局の放送倫理委員会で議論をして、全社的にも問題点の周知・徹底を図ることが報告書に記載されている。
委員会は、誤った情報を放送するにあたって事実確認が不十分であった点で放送倫理違反の疑いはあるものの、当該放送局の調査が詳細になされており、さらに踏み込んだ調査の必要性に乏しいこと、生成AIやフェイク画像を含むファクトチェックに関する再発防止策が速やかに取られており、経過を見守ることが望ましいと考え、討議を終了し、審議入りはしないこととした。もっとも、生成AI画像の問題は、他局にも同様の課題を突き付けていると考えられ、警鐘を鳴らすという意味において、委員からの意見を議事概要に掲載することとした。

【委員の主な意見】

  • 基本的なチェックが行われずに事実と違うことを放送した点で、放送倫理違反があったと言える。
  • 放送では、プロパガンダと生成AIの話が交錯しているが、おわび放送で生成AIのフェイク画像が誤りであることについては触れているものの、写真自体がフェイクであったのかについては説明がない。プロパガンダという面からみると、視聴者に対しては写真自体がフェイクかどうかについても説明すべきだったのではないか。
  • VTRが非常に分かりにくい。生成AIのフェイク画像であることを専門家が説明しているが、この画像がどのような状況で使われたか、なぜ取り上げているのかについての説明がない。
  • 単に事実確認の基本を怠っているだけであり、生成AIのような新しいものが出てきたから事実確認のハードルが上がった、というような事案ではないのではないか。
  • ローマ法王がトランプ(前米大統領)を支持しているというフェイクニュースを例に取れば分かるとおり、フェイクニュースは、それを作った人の意図と流通させている人の意図がまったく違う可能性が多い。当該放送局がどこまでこれを認識していたかは分からないが、フェイクニュースの問題は単純に捉えない方が良い。
  • 現実のニュース報道においても、生成AIによるフェイク画像が潜んでいる可能性がないとは言えない。これを全て検証する術があるのだろうか。SNSをリソースとしてはならない、という厳しい規制になりかねない。
  • 生成AI画像問題を取り上げるコーナーにおいて、フェイク画像にだまされたのではなく、本物である可能性が高い画像をフェイク画像と断定したのは、事実確認が甘すぎる。
  • 放送前に、画像分析ツールや複数の分析会社を利用すれば防げたのではないか。
  • 生成AIの技術はどんどん進化していくので、放送局に対してしっかりと確認するように伝えたとしても、現在の技術状況では確認に限界があり、一罰百戒にならないか。今後放送局が「これはフェイク画像だ」と言えなくなってしまう恐れがあると思う。
  • フェイク情報共有システムの構築などは、他の放送局にとっても参考になると思う。

3. 11月に寄せられた視聴者・聴取者意見を報告

11月に寄せられた視聴者・聴取者の意見の総数は約2500件で10月から半減した。主な要因は芸能事務所関連の意見が大幅に減少したこと。一方で、BPOに対する意見が90件と急増。「検証番組が不十分」「第三者に調査させよ」といった内容で、事務局からは「NHK、民放キー局の検証番組が出そろったことで検証内容についての意見がBPOに寄せられている」などの報告があった。

4. 関西地区ラジオ局との意見交換会の開催について報告

2024年1月26日に開催予定の「関西地区ラジオ局意見交換会」に関して、日程、会場および議題となるテーマ「政治的公平性」「パーソナリティー発言への対応」などの報告が事務局からあった。

以上